事業再構築補助金について、中小機構や事務局から、補助金により取得した財産を「既存事業と併用している」「既存事業との併用は目的外使用に当たる」「交付決定の取消しの対象となる」などとの指摘を受け、実際に交付決定を取り消されたり、残存簿価相当額の返納(いわゆる自主返納)を求められたりする事案があると聞き及んでおります。
しかしながら、結論からいえば、事業再構築補助金により取得した財産を既存事業に併用したことが、補助金適正化法17条1項所定の取消事由に該当することは、原則としてありません。したがって、既存事業との併用を理由に、補助金の全額返還を求められたり、残存簿価相当額の返納を求められたりしたとしても、これに応じる必要はありません。また、すでに返納してしまった方についても、取消訴訟等の提起により、これを取り戻すことができる場合があります。
本稿では、その理由を、補助金適正化法の条文構造と裁判例・文献に即して詳しく検討します。
1 既存事業との併用を理由に取消し・返納を求められるという問題
事業再構築補助金により取得した財産について、中小機構や事務局から、「既存事業と併用しているのは目的外使用に当たる」「交付決定の取消事由に当たる」などとして、交付決定を取り消されたり、残存簿価相当額の返納(いわゆる自主返納)を求められたりすることがあります。
そして、これらを求められた事業者の中には、本来は応じる必要のないものであるにもかかわらず、慌てて補助金の全部又は一部を返納してしまうという方も少なくありません。
2 交付決定の取消事由となる3類型
事業再構築補助金の交付決定の取消しの根拠法条は、補助金適正化法17条1項です。同項が規定する取消事由は、以下の3類型に限られています。
これら3類型のいずれにも該当しなければ、補助金適正化法17条1項に基づき交付決定を取り消すことはできません。既存事業との併用との関係では、補助金そのものを他の用途に使ったわけではないため、第1類型の問題にはなりません(後記3)。実際に問題となるのは、第3類型のうち適正化法22条違反(財産処分制限違反)に当たるか(後記4)と、第2類型の補助条件違反に当たるか(後記5)の2点に絞られます。
3 既存事業との併用は「他の用途への使用」(第1類型)に当たらないこと
第1類型の「補助金等の他の用途への使用」とは、典型的には、交付決定の内容として予定されていないもの(例えば、事業計画書等で予定されていない別の物品や運転資金)に補助金そのものを充ててしまったような場合をいいます。
これに対し、既存事業との併用というのは、補助金そのものは交付決定の内容どおりに使用して財産を取得した上で、当該財産を補助事業にも使用しつつ、併せて既存事業にも用いているにすぎないものです。すなわち、補助金そのものを「他の用途」に充てたわけではなく、第1類型の取消事由には当たりません。
4 既存事業との併用は適正化法22条違反(第3類型・法令違反)に当たらないこと
(1)補助金適正化法22条の趣旨
補助金適正化法22条は、補助事業者等が、補助事業等により取得した財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない旨を規定しています(財産処分制限)。同条に違反した場合には、補助金適正化法17条1項の第3類型(法令違反)の取消事由に該当することになります。
同条の趣旨は、補助金等により形成された財産が補助金等の交付の目的に反して処分されることを防止し、補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものとされています。
(2)適正化法22条の規制対象
適正化法22条の規制対象、すなわち、どのような場合が「目的外使用」に当たるのかについては、最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説において、以下のとおり述べられています。
上記記載からすると、適正化法22条が規制する「目的外使用」とは、補助事業者等において、当該財産を補助目的に沿って管理・使用しなくなった状態(補助目的に沿った管理・使用ができなくなった状態)のことをいうと解されます。
(3)既存事業との併用は22条違反に当たらないこと
補助金により取得した財産を既存事業に併用していたとしても、補助事業にも使用している以上、当該財産は、補助事業者において、補助目的に沿って管理・使用されている状態にあるといえます。すなわち、補助事業にも、既存事業にも用いている状態は、補助目的に沿って管理・使用しなくなった状態(適正化法22条が規制する「目的外使用」の状態)には当たりません。
したがって、既存事業との併用は、補助金適正化法22条違反には当たらず、補助金適正化法17条1項の第3類型(法令違反)の取消事由にも該当しません。
なお、補助事業には全く使用しておらず、専ら既存事業のみに用いていて、補助事業に使用するつもりもないというようなケースであれば、補助目的に沿った管理・使用がされていないものとして、適正化法22条違反とされる余地があるように思われます。
5 既存事業との併用は補助条件違反(第2類型)に当たらないこと
(1)補助条件の意義と具体例
第2類型における「補助条件」とは、交付決定をするに際して附した条件等のことをいいます。この「条件」は、講学上の「附款」(行政行為の効果について、法律の規定によらず、行政庁が独自に付加するもの)に分類されるもので、補助条件として附される条件は、その種類のうち、特に「負担」(行政行為に際して、法令により課される義務とは別に、作為又は不作為の義務を課すもの)に分類されるものが多いと整理されています。
事業再構築補助金の交付決定通知書を見ると、例えば、補助事業の完了期限を定めるものや、補助事業の完了後5年間にわたって事業化等の状況を報告すべき義務を定めるもの(交付規程25条参照)など、複数の補助条件が附されていることが分かります。既存事業との併用という問題を検討するについては、取得財産は補助事業にのみ用いることができ、既存事業等に用いてはならないという旨の補助条件が附されているか否かが重要になります。
(2)「交付規程の定めるところによる」との記載について
事業再構築補助金の交付決定通知書には、「補助事業者は、交付規程で定めるところに従う」といった記載がされていることが通常です。当該記載を捉えて、中小機構は、交付規程に定められていることはすべて補助条件となる旨の主張をしてくることがあります。
交付規程に定められていることがすべて当然に補助条件として取り込まれると解すべきかについては疑義がありますが、仮に、中小機構の上記主張を前提として、交付規程の定めの全部が補助条件として取り込まれているとしたとしても、そもそも、交付規程には、補助金により取得した財産を「専ら補助事業のみに用いなければならない」とか、「既存事業との併用を禁止する」といった定めは存在しません。したがって、交付規程の定めの全部を補助条件として取り込んだとしても、既存事業との併用が、補助条件違反となるものではありません。
(3)公募要領の記載は補助条件にはならないこと
交付規程には既存事業との併用を禁止する内容の定めがない一方で、事業再構築補助金の公募要領には、補助金により取得した財産を既存事業に併用することを禁止する旨の記載があり、中小機構が、これをもって補助条件であると主張してくることもあり得ます。
しかしながら、公募要領にそのような記載があるからといって、そのことが補助条件になるとはいえません。仮に、交付決定通知書において、「公募要領の定めに従うこと」といった記載がされているのであれば、これをもって公募要領の定めが補助条件として取り込まれていると解し得るかもしれませんが、私がこれまでみてきた交付決定通知書には、そのような記載がなされているものはありませんでした。
(4)小括
以上のとおり、事業再構築補助金においては、「専ら補助事業のみに用いなければならない」「既存事業との併用を禁止する」といった補助条件は、交付決定の際に附されていないものと考えます。したがって、既存事業との併用は、補助条件違反にも当たらず、第2類型の取消事由にも該当しません。
6 取消事由に該当しない以上、全額返還にも残存簿価相当額の返納にも応じる必要はないこと
前記3ないし5で述べたとおり、補助金により取得した財産を既存事業に併用したことは、補助金適正化法17条1項所定の3類型の取消事由のいずれにも該当しません。したがって、中小機構や事務局から、既存事業との併用を理由として、補助金の全額返還を求められたとしても、また、いわゆる自主返納として残存簿価相当額の返納を求められたとしても、これに応じる必要はありません。
中小機構や事務局からは、「目的外使用に当たるから、本来であれば交付決定を取り消して全額の返還を求めるべきだが、今回に限って残存簿価相当額の返納で済ませる」といった話を持ちかけられることがあり、これに応じて慌てて自主返納をしてしまう事業者の方が少なくありません。しかしながら、そもそも取消事由に該当しない以上、このような提案に応じる必要はありません。
7 既に補助金を返納してしまった場合
(1)交付決定の取消処分がなされた場合
交付決定の取消処分がされ、補助金を全額返還したという場合には、当該取消処分の取消訴訟(行政訴訟)を提起することになります。取消訴訟に勝訴し、取消判決が確定すれば、交付決定の取消処分は、処分時に遡って効力を失います。そうすると、補助金の返還義務もそもそも存在しなかったこととなるため、既に返還した補助金は法律上の原因を欠く不当利得となり、中小機構に対し、その返還を請求することができます。
(2)自主返納に応じてしまった場合
中小機構が、補助金適正化法22条に基づくものとして財産処分の「承認」をした上で、その附款として補助金の一部の返納を命じ、補助事業者がこれに応じて返納したという形をとる場合(いわゆる自主返納)には、上記承認及びその附款の取消訴訟を提起することになります。すなわち、既存事業との併用は、そもそも適正化法22条による財産処分制限の対象となる行為ではないにもかかわらず、対象となることを前提としてされた承認及びその附款としての返納命令は違法であると主張し、その取消しを求めることになります。取消訴訟に勝訴して取消判決が確定した後の取扱いは、前記(1)と同様です。
8 まとめ
事業再構築補助金により取得した財産を既存事業に併用したことは、原則として、補助金適正化法17条1項所定の取消事由のいずれにも該当しません。したがって、中小機構や事務局から、既存事業との併用を理由として、補助金の全額返還や、残存簿価相当額の返納(いわゆる自主返納)を求められたとしても、これに応じる必要はありません。また、すでに返納してしまったという方についても、取消訴訟等を提起することによって、これを取り戻すことができる場合があります。
既存事業との併用を理由として、交付決定の取消しや残存簿価相当額の返納を求められて困っている方、既に返納してしまったがこれを取り戻したいとお考えの方は、ぜひご相談ください。