本文へ移動
弁護士 岸上大起

補助金で取得した財産の既存事業との併用

「既存事業にも使っているのは目的外だ」――その指摘、原則として成り立ちません

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

このページの結論

補助金で取得した設備を既存事業にも使うと、目的外使用として返還になるのか

補助金で買った設備を、補助事業に使いながら既存事業にも使う。それが取消しや返還の理由になることは、原則としてありません。

補助事業に使っている以上、財産は補助目的に沿って使われているからです。そして、「併用禁止」というルールは、あなたと中小機構の間の約束(交付決定・交付規程)のどこにも書かれていないのが通常です。ただし、補助事業には全く使わず、既存事業だけに使っている場合は別です。

本ページの記載は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

事務局の運用・法令上の根拠・当職の見解

事務局が公式に説明している運用、その運用が拠って立つ法令、そして当職の見解を、順に分けて示します。

1 事務局の運用(公式の説明)
よくあるご質問「財産処分について」Q24(既存事業への使用)
補助事業により取得した資産は原則として専ら補助事業に使用される必要があり、既存事業等、補助事業以外で用いた場合は目的外使用と判断し、残存簿価相当額等を国庫に納付する必要があるとされています。「専ら補助事業に使用」とは、新たに取り組む事業として事業計画書に記載されている事業にのみ使用することを指す、とも説明されています。

出典:事業再構築補助金「よくあるご質問」(ページを開いてから中身が読み込まれます)/同「財産処分」

2 法令上の根拠
補助金適正化法22条が承認を要するとしているのは、政令で定める財産を「補助金等の交付の目的に反して」使用・譲渡・交換・貸付け・担保供与する場合です。条文の文言は「専ら補助事業に使用すること」ではなく、「交付の目的に反して」使用しないことを求めるものです。
また、交付決定の取消事由は同法17条1項の3類型(他の用途への使用・補助条件違反・法令違反)に限られます。
3 当職の見解
当職は、補助事業にも使用している限り、財産は補助目的に沿って管理・使用されており、原則として22条の目的外使用には当たらないと考えております(私見です)。最高裁第三小法廷令和3年3月2日判決の調査官解説も、規制の対象を「補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる」場合と整理しています。
また、「既存事業との併用は不可」という定めが交付決定通知書や交付規程にない場合、公募要領やよくあるご質問の記載がそのまま補助条件になるとは考え難いところです。もっとも、補助事業には全く使用せず、既存事業だけに使用している場合は別で、22条違反とされる余地があります。

こんな状況ではありませんか

  • 補助金で導入した設備・システム・内装を既存事業にも使っていたら、「目的外使用に当たる」と指摘された
  • 「既存事業と併用しているから交付決定の取消しになる」「返還を求める」と言われている(正式な通知の前の段階を含む)
  • 「本来は全額返還だが、残存簿価の返納で済ませる」と持ちかけられている
  • 「公募要領に併用禁止と書いてある」と言われ、応じるしかないのかと悩んでいる

ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。「併用=目的外」という前提そのものが、揺らぎます。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「補助金で取得した財産を既存事業にも使用しているのは目的外使用です。補助金を返還していただきます。」

しかし、法律のルールは

法律が問題にする「目的外使用」とは、財産が補助目的に沿って管理・使用されなくなった状態のこと。補助事業にも使っている限り、その状態にはなっていません。

補助金適正化法22条/最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説

考えてみてください。設備をフル稼働させて既存事業にも活かすことは、経営として当然の工夫です。補助事業のためにきちんと使っている設備を、「他にも役立てているから返せ」というのは、法律の建て付けからも、常識からも、ずれています。

「併用=目的外」という前提そのものが、揺らぎます。

ご相談はこちら

なぜ「応じなくてよい」といえるのか

1

補助事業に使っている限り、「目的外」ではありません

最高裁判例の調査官解説は、規制対象を「補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる」場合と整理しています。補助事業にも既存事業にも使っている状態は、補助目的に沿った管理・使用が続いている状態であり、これに当たりません。

最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説

2

「併用禁止」という約束は、していません

取消しの理由になり得る「条件違反」は、交付決定に附された条件(補助条件)に違反した場合の話です。ところが、交付決定通知書にも、交付規程にも、「専ら補助事業のみに使うこと」「既存事業との併用を禁止する」という定めは存在しないのが通常です。していない約束を、破ることはできません。
3

公募要領に書いてあっても、それは「条件」ではありません

公募要領には併用を禁じる記載があります。しかし、交付決定通知書が「公募要領に従うこと」を条件として取り込んでいない限り、公募要領の記載は補助条件にはなりません。これまで確認してきた交付決定通知書に、そのような取り込みをしたものはありませんでした。
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

検討の枠組み(取消事由3類型)

交付決定の取消事由は、補助金適正化法17条1項所定の3類型――①補助金等の他用途使用、②補助条件違反、③法令違反――に限られています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』(株式会社全国会計職員協会、2016)243-245頁参照)。既存事業との併用は、補助金そのものを他の用途に使ったわけではないため①に当たらず、実際に問題となり得るのは、③のうち適正化法22条違反に当たるかと、②の補助条件違反に当たるかの2点に絞られます。

適正化法22条違反に当たらないこと

適正化法22条は、補助事業等により「取得し、又は効用の増加した政令で定める財産」を、承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない」と規定し、ただし書で「政令で定める場合は、この限りでない」としています。処分の制限が及ぶのは政令で定める財産に限られ、また、処分制限期間が経過すれば制限は外れます(施行令14条1項2号。詳しくは 処分制限期間は何年かのコラムをご覧ください)。その規制対象について、最三令和3年3月2日判決の調査官解説は次のとおり整理しています。

調査官解説の整理「補助事業者等において補助事業等により取得した財産の管理等の義務を免れるという効果を持つものであることからすると,担保権設定者である補助事業者等の意思が介在するか否かは重要ではなく,補助事業者等において補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は,承認を要するものと解される。」

「担保権実行による場合においては,これにより補助事業者等が対象物件の所有権を失い,これを補助目的に沿って使用することができなくなるから,この点に着目して,承認を要するものと考えられる。」

この整理によれば、22条が規制する「目的外使用」とは、財産を補助目的に沿って管理・使用しなくなった状態をいい、補助事業にも使用している併用の状態はこれに当たりません。なお、補助事業には全く使用しておらず、専ら既存事業のみに用いていて補助事業に使用するつもりもないケースであれば、22条違反とされる余地があります。「原則として問題ない」のは、補助事業への使用実態があることが前提です。

補助条件違反に当たらないこと

「補助条件」とは交付決定に際して附された条件(講学上の附款、多くは「負担」)をいいます(前掲調査官解説(最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上))79〜80頁参照。宇賀克也『行政法概説Ⅰ〔第7版〕』106頁、『補助金等適正化法講義』70頁・72頁は、同解説79〜80頁が引用するものです)。交付決定通知書には「交付規程で定めるところに従う」等の記載があり、中小機構は交付規程の定めがすべて補助条件になると主張してくることがありますが、この主張自体に疑義があるうえ、仮にこれを前提としても、交付規程には既存事業との併用を禁止する定めがそもそも存在しません。

公募要領の併用禁止の記載についても、交付決定通知書に「公募要領の定めに従うこと」との記載がない限り、補助条件として取り込まれているとはいえません。

返納済みの場合の取り戻し

①取消処分を受けて返還したケースでは取消処分の取消訴訟を、②財産処分の「承認」とその附款(返納命令)に応じたケースでは当該承認・附款の取消訴訟を提起し、勝訴すれば、返納した補助金は法律上の原因を欠く不当利得として返還を請求できる場合があります(詳細は 自主返納の求めのページ参照)。

関連する公開情報note記事:事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて

この論点の全文解説(条文構造・判例・文献に即した完全版)は、コラム 事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて でお読みいただけます。

あなたが今できること

指摘を受けた段階なら――「約束」を確認する

お手元の交付決定通知書を見てください。「併用禁止」がどこに書かれているのか。書かれていないなら、指摘の根拠を相手に確認するところから始められます。補助事業に使っている実態(稼働記録・写真等)も残しておきましょう。

指摘の根拠について相談する →

返還・返納を求められているなら――応じる前に相談を

全額返還にも、残存簿価相当額の返納にも、応じる法的義務がない可能性が高い類型です。回答・返納の期限を示されていても、その前にご相談ください。

応じる前に相談する →

返納してしまったなら――取り戻せる場合があります

取消処分や財産処分の承認・返納命令は、裁判で取り消しを求めることができます。勝訴すれば、返納したお金の返還を請求できる場合があります。

取り戻せるか相談する →

よくある質問

補助金で買った設備を既存事業にも使うのは、目的外使用ですか。

補助事業にも使っている限り、原則として目的外使用には当たりません。最高裁判例(最三令和3年3月2日判決)の調査官解説は、規制対象を「補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる」場合と整理しており、補助事業と既存事業の併用はこれに当たらないからです。ただし、補助事業には全く使わず、既存事業だけに使っている場合は、補助金適正化法22条違反とされる余地があります。

既存事業との併用(コラム) →

出典:補助金適正化法22条(e-Gov法令検索)

公募要領に「既存事業との併用は不可」と書いてあると言われました。

交付決定通知書が「公募要領に従うこと」を条件として取り込んでいない限り、公募要領の記載は補助条件にはなりません。交付規程にも、既存事業との併用を禁止する定めはありません。お手元の交付決定通知書で、「併用禁止」がどこに書かれているかを確認してください。

併用を理由に取消しと言われた場合、法律上は何が問題になるのですか。

交付決定の取消事由は、補助金適正化法17条1項の3類型(他の用途への使用・補助条件違反・法令違反)に限られます。併用は補助金そのものを他の用途に使ったわけではないため、実際に問題となり得るのは、財産処分の制限(同法22条)に違反するかと、補助条件に違反するかの2点に絞られます。どちらも、補助事業に使っている実態がある限り、原則として当たらないと考えられます。

出典:補助金適正化法17条1項(e-Gov法令検索)

指摘を受けた段階で、何を準備すればよいですか。

まず交付決定通知書を確認し、「併用禁止」の根拠がどこにあるのかを相手に確認するところから始められます。あわせて、稼働記録や写真など、補助事業に使っている実態が分かる資料を残しておいてください。「原則として問題ない」のは、補助事業への使用実態があることが前提だからです。

既存事業との併用問題のご相談

交付決定通知書をお手元に。「併用禁止」がどこにも無いこと、一緒に確認しましょう。

Contact

既存事業との併用を指摘された方へ――応じる前にご相談ください

ご相談はお問い合わせフォーム、メール、お電話、または LINE よりお願いいたします。法律相談料は30分 5,000円(税別・税込5,500円)です。ご相談はオンラインでも承っています。

お電話の受付は平日10:00〜18:00です(出られないときは折り返します)。

士業・支援機関・お取引先企業の方からのご相談・ご紹介も受け付けています。連携のご案内 →