弁護士 岸上大起

既存事業との併用

「既存事業にも使っているのは目的外だ」――その指摘、原則として成り立ちません

このページの結論

補助金で買った設備を、補助事業に使いながら既存事業にも使う。それが取消しや返還の理由になることは、原則としてありません。

補助事業に使っている以上、財産は補助目的に沿って使われているからです。そして、「併用禁止」というルールは、あなたと中小機構の間の約束(交付決定・交付規程)のどこにも書かれていないのが通常です。

こんな状況ではありませんか

  • 補助金で導入した設備・システム・内装を既存事業にも使っていたら、「目的外使用に当たる」と指摘された
  • 「既存事業と併用しているから交付決定の取消しになる」「返還を求める」と言われている(正式な通知の前の段階を含む)
  • 「本来は全額返還だが、残存簿価の返納で済ませる」と持ちかけられている
  • 「公募要領に併用禁止と書いてある」と言われ、応じるしかないのかと悩んでいる

ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。「併用=目的外」という前提そのものが、揺らぎます。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「補助金で取得した財産を既存事業にも使用しているのは目的外使用です。補助金を返還していただきます。」

しかし、法律のルールは

法律が問題にする「目的外使用」とは、財産が補助目的に沿って管理・使用されなくなった状態のこと。補助事業にも使っている限り、その状態にはなっていません。

補助金適正化法22条/最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説

考えてみてください。設備をフル稼働させて既存事業にも活かすことは、経営として当然の工夫です。補助事業のためにきちんと使っている設備を、「他にも役立てているから返せ」というのは、法律の建て付けからも、常識からも、ずれています。

なぜ「応じなくてよい」といえるのか

1

補助事業に使っている限り、「目的外」ではありません

最高裁判例の調査官解説は、規制対象を「補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる」場合と整理しています。補助事業にも既存事業にも使っている状態は、補助目的に沿った管理・使用が続いている状態であり、これに当たりません。

最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説

2

「併用禁止」という約束は、していません

取消しの理由になり得る「条件違反」は、交付決定に附された条件(補助条件)に違反した場合の話です。ところが、交付決定通知書にも、交付規程にも、「専ら補助事業のみに使うこと」「既存事業との併用を禁止する」という定めは存在しないのが通常です。していない約束を、破ることはできません。
3

公募要領に書いてあっても、それは「条件」ではありません

公募要領には併用を禁じる記載があります。しかし、交付決定通知書が「公募要領に従うこと」を条件として取り込んでいない限り、公募要領の記載は補助条件にはなりません。これまで確認してきた交付決定通知書に、そのような取り込みをしたものはありませんでした。
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

検討の枠組み(取消事由3類型)

交付決定の取消事由は、補助金適正化法17条1項所定の3類型――①補助金等の他用途使用、②補助条件違反、③法令違反――に限られています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』(株式会社全国会計職員協会、2016)243-245頁参照)。既存事業との併用は、補助金そのものを他の用途に使ったわけではないため①に当たらず、実際に問題となり得るのは、③のうち適正化法22条違反に当たるかと、②の補助条件違反に当たるかの2点に絞られます。

適正化法22条違反に当たらないこと

適正化法22条は、補助事業により取得した財産を、承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない」と規定しています。その規制対象について、最三令和3年3月2日判決の調査官解説は次のとおり整理しています。

この整理によれば、22条が規制する「目的外使用」とは、財産を補助目的に沿って管理・使用しなくなった状態をいい、補助事業にも使用している併用の状態はこれに当たりません。なお、補助事業には全く使用しておらず、専ら既存事業のみに用いていて補助事業に使用するつもりもないケースであれば、22条違反とされる余地があります。「原則として問題ない」のは、補助事業への使用実態があることが前提です。

補助条件違反に当たらないこと

「補助条件」とは交付決定に際して附された条件(講学上の附款、多くは「負担」)をいいます(宇賀克也『行政法概説〔第7版〕』106頁、青木孝徳編『補助金等適正化法講義』70頁・72頁、前掲調査官解説675-676頁等参照)。交付決定通知書には「交付規程で定めるところに従う」等の記載があり、中小機構は交付規程の定めがすべて補助条件になると主張してくることがありますが、この主張自体に疑義があるうえ、仮にこれを前提としても、交付規程には既存事業との併用を禁止する定めがそもそも存在しません。

公募要領の併用禁止の記載についても、交付決定通知書に「公募要領の定めに従うこと」との記載がない限り、補助条件として取り込まれているとはいえません。

返納済みの場合の取り戻し

①取消処分を受けて返還したケースでは取消処分の取消訴訟を、②財産処分の「承認」とその附款(返納命令)に応じたケースでは当該承認・附款の取消訴訟を提起し、勝訴すれば、返納した補助金は法律上の原因を欠く不当利得として返還を請求できる場合があります(詳細は 自主返納の求めのページ参照)。

この論点の全文解説(条文構造・判例・文献に即した完全版)は、コラム 事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて でお読みいただけます。

あなたが今できること

指摘を受けた段階なら――「約束」を確認する

お手元の交付決定通知書を見てください。「併用禁止」がどこに書かれているのか。書かれていないなら、指摘の根拠を相手に確認するところから始められます。補助事業に使っている実態(稼働記録・写真等)も残しておきましょう。

返還・返納を求められているなら――応じる前に相談を

全額返還にも、残存簿価相当額の返納にも、応じる法的義務がない可能性が高い類型です。回答・返納の期限を示されていても、その前にご相談ください。

返納してしまったなら――取り戻せる場合があります

取消処分や財産処分の承認・返納命令は、裁判で取り消しを求めることができます。勝訴すれば、返納したお金の返還を請求できる場合があります。

既存事業との併用問題のご相談

交付決定通知書をお手元に。「併用禁止」がどこにも無いこと、一緒に確認しましょう。

Contact

補助金トラブル・中小企業法務・一般民事ご相談を承ります

ご相談はメール、またはお問い合わせフォームよりお願いいたします。

士業・支援機関・お取引先企業の方からのご相談・ご紹介も受け付けています。連携のご案内 →

ご相談は全国からオンラインでも承っています