事業再構築補助金により取得した財産(以下「取得財産等」といいます。)について、中小機構や事務局から、「処分制限期間内に廃棄処分をする行為は目的外使用に当たる」「交付決定の取消事由に当たる」などとの指摘を受け、廃棄処分につき補助金適正化法22条による承認を求められたうえで、残存簿価相当額の返納を求められるという事案があると聞き及んでおります(私が交渉のご依頼を受けているものもあります)。
しかしながら、私見としては、取得財産等を用いて補助事業を実施した後、やむを得ない事情によりこれを廃棄処分する行為は、補助金適正化法22条が規制する財産処分には該当しないと考えております。同旨を判示した裁判例(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)もあります。
もっとも、最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説における同条の規制対象に関する整理を踏まえると、廃棄処分が同条の規制対象に当たると解する余地もあり、これを完全に否定し切れる状況にはないという問題もあります。そこで、本稿の後半では、廃棄処分が同条違反となるリスクを回避しつつ、補助事業者自身が補助事業を継続せずに済む方法として、補助事業の事業譲渡という選択肢があることを述べます。
1 取得財産等の廃棄処分を理由に返納を求められるという問題について
補助金により取得した財産は、その処分制限期間内(事業再構築補助金においては、各取得財産等につき定められた処分制限期間内)は、補助金適正化法22条による財産処分制限の対象となるとされております。
そして、処分制限期間内に取得財産等を廃棄処分する行為につき、中小機構や事務局から、「廃棄処分は目的外使用に当たる」「補助金適正化法22条による承認を要する」「承認に伴って残存簿価相当額の返納を要する」などとして、補助金の一部の返納を求められる事案があります。
もっとも、私見としては、取得財産等を補助目的どおり使用してきた後、やむを得ず廃棄処分する行為は、そもそも補助金適正化法22条が規制する財産処分には当たらず、同条の承認は不要であって、これに伴う残存簿価相当額の返納も求められるものではないと考えております。
2 補助金適正化法22条の趣旨と規制対象
補助金適正化法22条は、補助事業者等が、補助事業等により取得した財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない旨を規定しています(財産処分制限)。同条に違反した場合には、補助金適正化法17条1項の第3類型(法令違反)の取消事由に該当することになります。
同条の趣旨は、補助金等により形成された財産が補助金等の交付の目的に反して処分されることを防止し、補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものとされています。すなわち、補助金等が補助目的どおり消費されたという事実のみではなく、それによって取得された財産が事後引き続き当初の目的どおり使用されることまでが確保されなければ、補助金等の交付の本来目的は完全には達成され得ないとの考え方に基づき、補助金行政関係終結後の財産ストックについて処分規制を加えたものとされています。
そして、同条が、その文言上、規制対象とする行為としているのは、補助金等の交付の目的に反する「使用」「譲渡」「交換」「貸し付け」「担保に供する」の5類型に限られています。
3 私見――取得財産等の廃棄処分は補助金適正化法22条違反には当たらないこと(東京地判平成2年1月30日)
補助金適正化法22条の規制対象となる行為が前記2の5類型に限られていることからすると、取得財産等の「廃棄処分」は、いずれの類型にも当たらないと解されます。すなわち、廃棄処分は、補助目的に反する「使用」でも、「譲渡」「交換」「貸し付け」「担保に供する」行為のいずれでもないため、同条の規制対象には含まれないと解する余地があります。
実際にも、東京地判平成2年1月30日(判タ736号151頁)は、補助金の交付を受けて建設した施設を処分制限期間内に解体撤去した行為について、補助金適正化法22条違反には当たらない旨を判示しています。同判決は、補助金適正化法22条の趣旨について、施設整備のための事業費補助金等にあっては、単に資金が目的どおり消費されるだけではなく、補助事業等の終了後も当初の目的どおりに使用されるのでなければ補助目的が達成されたとはいえないことから、実質的に補助金等の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為を規制したものであると整理したうえで、次のとおり判示しています。
私としても、上記東京地判平成2年1月30日の見解に賛同します。補助金の交付を受けて取得した財産につき、補助目的どおりに使用してきた後、やむを得ない事情により(例えば、補助事業の継続が経済的に困難となったり、取得財産等の一部が故障して事業継続が事実上不可能になったりした場合等)廃棄処分をする行為は、補助目的に沿わない積極的な財産処分とは性質が異なります。また、補助金適正化法22条が、その文言上、廃棄処分を規制対象に明示していないことも、これを補助金適正化法22条違反としない解釈を裏付けるものといえます。
そうすると、取得財産等の廃棄処分について、補助金適正化法22条の承認を受ける必要はなく、これに伴う残存簿価相当額の返納にも応じる必要はないと解されます。
4 もっとも、廃棄処分も補助金適正化法22条の規制対象になり得るとする解釈の余地もあること
前記3の私見及び東京地判平成2年1月30日の判示に対しては、最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説の整理を踏まえると、これと異なる見解もあり得るところであり、廃棄処分が補助金適正化法22条違反となる可能性を完全に否定し切れる状況にはありません。
すなわち、上記調査官解説は、補助金適正化法22条に基づく承認は、補助事業者等が当該財産について補助目的に沿って管理する義務を免れる効果を持つものであるところ、補助事業者等において補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は、承認を要するものと解されるとし、担保権実行による場合についても、これにより補助事業者等が対象物件の所有権を失い、これを補助目的に沿って使用することができなくなることから、承認を要するものと考えられると整理しています。
上記の調査官解説の整理は、直接には担保権実行による所有権喪失について承認を要する根拠を示すものですが、その理由づけは、補助事業者等が対象物件の所有権を失い、これを補助目的に沿って使用することができなくなる点に着目するものです。そして、取得財産等の廃棄処分も、これにより補助事業者等が当該財産を物理的にも法的にも失い、補助目的に沿って使用することができなくなるという点では、担保権実行による所有権喪失と同様の状態をもたらすものです。
そうすると、上記調査官解説の整理を前提とすれば、廃棄処分についても、補助目的に沿った管理・使用ができなくなる状態をもたらすものとして、補助金適正化法22条による承認を要する行為に含まれると解する余地があります。
また、小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』304頁注21は、前記3で引用した東京地判平成2年1月30日について、「解体撤去が本法二二条の規制する他目的使用、譲渡、交換、貸付け又は担保供用のいずれにもあたらないから違法でないとするのは余りにも文理解釈にすぎるとの疑問が残る」として、文理解釈にとどまる判示に対する疑問を示すとともに、当該事案では「地震対策上存続使用が危険視されていたという事情が斟酌された点に留意しなければならないであろう」と注釈しており、同判決の射程についても慎重な評価をしています。
したがって、廃棄処分が補助金適正化法22条違反に当たるか否かは、前記3のとおり、これに当たらないと解する余地が十分にある一方で、これに当たり得ると解する余地も否定し切れないところがあるという問題が残ります。
5 リスクを回避しつつ補助事業の継続義務から解放される方法――補助事業の事業譲渡という選択肢
前記4のとおり、廃棄処分が補助金適正化法22条違反に当たるとされるリスクが完全には否定し切れないとすると、廃棄処分以外に、補助事業者自身が補助事業を継続する義務から解放される方法があるかが問題となります。
この点、補助事業の事業譲渡という選択肢があります。すなわち、補助事業を、取得財産等とともに第三者に事業譲渡することによって、補助事業の主体を譲受人に交代させ、補助事業者自身は補助事業の継続義務から解放されることが可能です。
補助事業の事業譲渡は、譲受人が引き続き補助目的に沿って取得財産等を管理・使用することを前提とするものですから、補助金適正化法22条の規制対象である「補助目的に反する」処分には当たりません。また、譲受人が補助事業を引き継ぐことにより、補助金の交付の目的は引き続き達成されることになります。
そのため、補助事業の事業譲渡は、前記4の調査官解説の整理を踏まえても、廃棄処分とは異なり、補助金適正化法22条違反となるリスクを生じさせるものではありません。補助事業者自身が補助事業を継続することが困難である場合の有力な選択肢として、ぜひ検討すべき方法であると考えております。
6 まとめ
事業再構築補助金により取得した財産を、補助目的どおり使用してきた後、やむを得ない事情により廃棄処分する行為は、私見としては、補助金適正化法22条が規制する財産処分には該当しません。同旨を判示する東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁もあるところです。したがって、中小機構や事務局から、廃棄処分を理由として残存簿価相当額の返納や補助金の返還を求められたとしても、これに応じる必要はないと考えております。
もっとも、最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決の調査官解説の整理を踏まえると、廃棄処分が同条の規制対象に含まれるとする解釈の余地も否定し切れないところがあります。当該リスクを完全に回避しつつ、補助事業者自身が補助事業の継続義務から解放される方法としては、補助事業の事業譲渡という選択肢があり、これを検討することをおすすめいたします。
取得財産等の廃棄処分を理由として、中小機構や事務局から残存簿価相当額の返納や補助金の返還を求められて困っている方、補助事業の継続が困難になっているが廃棄処分を選択することにリスクを感じる方は、ぜひご相談ください。