本文へ移動
弁護士 岸上大起

補助事業をやめるときの廃業と事業譲渡

補助事業を続けられなくなったとき、廃業だけが道ではありません

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

このページの結論

補助事業を続けられなくなったら、廃業して補助金を返すしかないのか

補助事業を設備ごと第三者に譲り、譲り受けた相手が補助事業を続けるなら、補助金を返さずに、事業を続ける義務から解放される道があります。補助事業ごと引き継ぐ譲渡は、補助金適正化法22条が禁じる「交付の目的に反する」譲渡に当たらないと考えられるからです。

取消し・返還・自主返納・廃棄――このサイトで扱う悩みの多くに共通する「出口」が、この事業譲渡です。成り立つかどうかは、譲受人による補助事業の継続を担保する契約と、届出(交付規程26条1項)の設計にかかっています。

本ページの記載は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

こんな状況ではありませんか

  • 補助金で始めた事業の採算が合わず、処分制限期間の終わりまで続けられそうにない
  • 廃業や設備の廃棄を考えているが、返還を求められるのが怖くて動けない
  • 「処分制限期間中は処分できない」と説明され、赤字の事業を抱え続けるしかないと思っている
  • 事業を引き継いでもいいという相手はいるが、補助金の扱いが分からず進められない

ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。「続けるか、返すか」の二択ではありません。三つ目の道があります。

「処分できない」は本当か

あなたが言われていること

「補助金で取得した財産は、処分制限期間中は原則として処分できません。譲渡すれば返還の対象になります。」

しかし、法律のルールは

法律が禁じているのは「補助金等の交付の目的に反して」譲渡すること。補助事業ごと引き継ぎ、財産が引き続き補助事業のために使われる譲渡は、目的に反していません。

補助金適正化法22条/最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説

譲渡を認めなければ、事業は廃業し、補助金で作った財産は遊休化して無駄になります。事業ごと譲って続けてもらうほうが、補助金の目的にかなうことは明らかです。「一律に処分できない」という説明のほうが、法律の建て付けからずれています。

「続けるか、返すか」の二択ではありません。三つ目の道があります。

ご相談はこちら

なぜ「できる」といえるのか

1

補助事業ごと譲れば、補助金の目的はむしろ守られます

事業再構築補助金の目的は「思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援し、日本経済の構造転換を促すこと」。譲受人のもとで補助事業が続き、財産が使われ続けるなら、この目的は達成され続けます。目的に反しない譲渡に、22条の規制は及びません。

事業再構築補助金交付規程3条(交付目的)

2

制度自体が、事業の引き継ぎを想定しています

交付規程は、事業計画期間中の事業承継について「届出制」を設けています。譲渡が一律に禁止されているなら、届出の制度など要らないはずです。制度の側が、引き継ぎの道を用意しているのです。

事業再構築補助金交付規程26条1項

3

鍵は「継続を担保する契約」の設計です

この解決策が成り立つ条件は、譲受人が補助事業を本当に続けること。だから、譲渡契約書に補助事業の継続義務や報告への協力義務を盛り込み、届出・承諾の手続まで一体で設計する必要があります。ここが弁護士の腕の見せどころであり、逆に、契約設計を欠いた安易な譲渡はお勧めできません。
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

22条該当性の判断枠組み

適正化法22条が規制するのは、取得財産等を「補助金等の交付の目的に反して」処分する行為です。最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説は、22条に基づく承認の対象を「補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなること」と整理しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。裏を返せば、譲渡の前後を通じて取得財産等が補助事業のために使用され続けることが契約上担保されているのであれば、22条の規制対象となる財産処分には当たらないと考えられます。

譲受人が別の場所で補助事業を続ける場合に「事業譲渡」といえるのかという点は、コラム「事業再構築補助金により取得した財産を含む補助事業を事業譲渡するという解決方法について」の5で述べています。

参考裁判例・文献最三令和3年3月2日判決民集75巻3号317頁の調査官解説(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)/東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁

実務上の留意点

(1) 補助事業の継続性の確保

①取得財産を引き続き補助事業のために使用すること、②事業化状況報告(交付規程25条)が実質的に継続できること、③補助事業の内容と実態が大きく乖離しないこと、を確保する必要があります。

(2) 事業化状況報告の取扱い

交付規程の様式14-2別紙の誓約書は、承継者が「一切の権利義務を……承継し、当該事業を、責任を持って続行し」と誓約する内容であり、中小機構は報告義務も承継されるとの理解と思われます。他方、交付規程2条の「補助事業者」の定義からは、原始的な補助事業者が報告義務を負い続けると解する余地もあります。実務上は、リスク最小化の観点から、譲渡人と譲受人の双方から事業化状況報告を行うことが望ましいと考えられます。

(3) 債務の承継と中小機構の承諾

補助事業者が中小機構に対して負い得る債務(返還義務が生じた場合の返還債務等)の承継には、債権者である中小機構の承諾が必要です(民法470条3項、472条3項参照)。実務上は、中小機構の承諾を停止条件とする条項を契約書に設けることや、承諾を求める交渉を行うことが、法的安定性の観点から望ましいと考えられます。

(4) 事業譲渡契約書に定めるべき事項

  • 譲受人が補助事業を継続する義務
  • 事業化状況報告に関する協力義務
  • 適正化法22条に違反した場合の責任分担
  • 中小機構への届出(交付規程26条1項)に関する手続
  • 中小機構の承諾を停止条件とする旨(債務の承継がある場合)

仮に22条違反とされても、取消しが直ちに許されるわけではないこと

名古屋高判平成5年2月23日(訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁)は、22条違反により取消事由が発生したとしても「直ちに取消権を行使し得る状態であったかはともかくとして」と判示し、取消事由の発生と取消権行使の可否を区別したうえで、取消権行使の相当性を、補助目的が達成される可能性が消滅するに至ったかどうかを基準に判断しています。事業譲渡により補助事業が継続されている限り、仮に22条違反が認められたとしても、取消権の行使は比例原則に反し、裁量の逸脱・濫用として違法になると考えられます。なお、同判決は、名古屋地判平成4年4月23日の控訴審です(掲載誌と上訴の状況は後掲のとおりです)。

参考裁判例名古屋高判平成5年2月23日訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁(第一審は名古屋地判平成4年4月23日訟月39巻11号2262頁、判タ799号243頁、判時1443号130頁)
※ 名古屋高判平成5年2月23日については上告がされていますが、上告審の裁判は公刊物に見当たりません。また、この事件で審理されたのは、取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではありません。
関連する公開情報note記事「事業再構築補助金で取得した財産を含む事業を譲渡できるか――補助金適正化法22条の射程と、中小機構の運用の問題点」

あなたが今できること

「もう続けられない」と感じたら――廃棄・廃業の前に

廃棄や廃業を実行する前が、選択肢の最も多いタイミングです。事業譲渡という道を検討してから決めても、遅くありません。

引き継ぎ先に心当たりがあるなら――契約設計から

同業者・取引先など、補助事業を続けられる相手がいるなら、あとは継続を担保する契約と届出手続の設計です。安易な売買契約書ではなく、補助金対応の条項を備えた契約書で進めましょう。

心当たりがなくても――検討する価値はあります

引き継ぎ先の心当たりがない段階でも、事業譲渡という選択肢を検討する価値は十分にあります。あらゆる事案が譲渡で解決できるわけではありませんが、事業譲渡に関するご相談は当職が直接お受けしています。

よくある質問

処分制限期間中に、補助金で取得した設備を含む事業を譲渡できますか。

補助事業ごと引き継ぎ、譲受人が財産を補助事業に使い続ける譲渡であれば、補助金適正化法22条が禁じる「交付の目的に反して」の譲渡には当たらないと考えられます。事業再構築補助金の交付規程も、事業計画期間中の事業の承継を、承認制ではなく届出制(交付規程26条1項)としており、引き継ぎを予定しています。

事業譲渡という解決方法(コラム) →

出典:補助金適正化法22条(e-Gov法令検索)

事業譲渡の契約書には、何を定めておく必要がありますか。

この解決策が成り立つ条件は、譲受人が補助事業を本当に続けることです。そのため、譲受人が補助事業を継続する義務、事業化状況報告への協力義務、22条に違反した場合の責任分担、中小機構への届出の手続、債務の承継がある場合は中小機構の承諾を停止条件とする旨などを定め、届出まで一体で設計します。

譲渡した後も、事業化状況報告はしなければなりませんか。

中小機構は、報告義務も譲受人に承継されるとの理解と思われますが、交付規程2条の「補助事業者」の定義からは、元の補助事業者が報告義務を負い続けると解する余地もあります。実務上は、リスクを小さくする観点から、譲渡人と譲受人の双方から事業化状況報告を行うことが望ましいと考えられます。

仮に事業譲渡が22条違反とされたら、直ちに交付決定が取り消されますか。

直ちに取り消せるわけではないと考えられます。裁判例(名古屋高判平成5年2月23日訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁。名古屋地判平成4年4月23日の控訴審で、上告審の裁判は公刊物に見当たりません)は、取消事由の発生と取消権を行使できるかどうかを区別し、補助目的が達成される可能性が消滅したかどうかを基準に判断しています。もっとも、この事件で審理されたのは、取消し後の返還請求権が財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではありません。事業譲渡で補助事業が続いている限り、取消しは比例原則に反し、違法になると考えられます。

事業譲渡による解決のご相談

廃棄・廃業を実行する前のご相談が、選択肢を最も広く残します。

Contact

補助事業の継続が難しい方へ――廃棄・廃業を実行する前にご相談ください

ご相談はお問い合わせフォーム、メール、お電話、または LINE よりお願いいたします。法律相談料は30分 5,000円(税別・税込5,500円)です。ご相談はオンラインでも承っています。

お電話の受付は平日10:00〜18:00です(出られないときは折り返します)。

士業・支援機関・お取引先企業の方からのご相談・ご紹介も受け付けています。連携のご案内 →