弁護士 岸上大起

取得財産の廃棄処分

「廃業したなら返還」「廃棄したなら返納」――そう単純な話ではありません

このページの結論

補助目的どおり使ってきた財産を、やむを得ず廃棄する。それだけで補助金を返す義務が生じるとは、法律には書かれていません。

そもそも「廃業=財産の廃棄」でもありません。ただし、この論点には反対の解釈の余地も残るため、これから処分を考えている方には、リスクを残さない選択肢(事業譲渡)も併せてご案内します。

こんな状況ではありませんか

  • 「処分制限期間内の廃棄は目的外使用」として、財産処分の承認申請と残存簿価相当額の返納を求められている
  • 廃業した(廃業を考えている)ところ、「廃業なら補助金を返してもらう」と言われた
  • 補助事業を続けられず設備を処分したいが、返還が怖くて動けずにいる
  • 処分制限期間(耐用年数相当の長い期間)と事業の実態が、もう合わなくなっている

ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。必要以上におそれて、許される選択肢まで自分から手放していませんか。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「廃業されたのですね。それでは補助金を返還していただくことになります。財産処分の申請をすれば、残存簿価の返納で済みますよ。」

しかし、法律のルールは

法律が承認制にしているのは「交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供」の5つだけ。「廃棄」はそこに書かれておらず、まして「廃業」は財産の処分ですらありません。

補助金適正化法22条/東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁

補助金をもらって、目的どおり事業をやって、それでも続けられなくなった――その結末に対して「では返してください」というのは、素朴な感覚としてもおかしいはずです。法律の条文も、その感覚を裏切っていません。

なぜ「応じなくてよい」といえるのか

1

廃業と廃棄は、別のことです

廃業しても、設備や内装がそのまま残っているなら、財産は何も「処分」されていません。「廃業したから返還」という話が来たら、まず「財産はどうなっているか」を切り分けてください。それだけで話の前提が崩れることがあります。
2

法律の条文に「廃棄」は書かれていません

22条が承認を必要とするのは「使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供」の5つの行為だけです。裁判所も、目的どおり使われてきた施設を耐用年数の残る段階で解体した行為について、「同条の規制する行為の対象には含まれない」と判断しています。

補助金適正化法22条/東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁(控訴審・東京高判平成2年7月19日も同旨)

3

ただし、反対の解釈もあり得ます――だからこそ慎重に

正直に申し上げると、最高裁判例の調査官解説の整理からは、廃棄も「補助目的に沿った使用ができなくなる」行為として承認が必要と解する余地が残ります。「絶対に大丈夫」とは言えない論点です。だからこそ、これから処分する方は、次の選択肢を知っておいてください。

最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説/小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』304頁注21

4

リスクを残さない出口――事業譲渡があります

補助事業ごと第三者に譲渡し、譲受人が補助目的に沿った使用を続けるなら、どちらの解釈を前提にしても22条違反の問題は生じません。廃棄か保管かの二択で悩む前に、検討する価値があります(詳しくは 事業譲渡による解決のページへ)。
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

適正化法22条の趣旨と規制対象

適正化法22条は、補助事業により取得した財産を、承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない」と規定し(財産処分制限)、違反すれば17条1項の第3類型(法令違反)の取消事由に該当し得ます。その趣旨は、補助金により形成された財産が交付目的に反して処分されることを防止し、交付目的の完全な達成を図る点にあります。文言上、規制対象は上記5類型に限られています。

東京地判平成2年1月30日の判示

同判決は、22条の趣旨を、実質的に補助金の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為を規制したものと整理した上で、次のとおり判示しています。

やむを得ない事情(補助事業の継続が経済的に困難となった、財産の故障により事業継続が事実上不可能になった等)による廃棄は、補助目的に沿わない積極的な財産処分とは性質が異なり、この判示に照らしても22条違反には当たらないと考えられます。

反対解釈の余地(正確な現状)

最三令和3年3月2日判決の調査官解説は、22条に基づく承認について「補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は、承認を要する」とし、担保権実行による所有権喪失についても「補助目的に沿って使用することができなくなる」点に着目して承認を要すると整理しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)681-682頁)。廃棄も同様の状態をもたらす点では、承認を要する行為に含まれると解する余地があります。

また、小滝・前掲304頁注21は、前記東京地判について「余りにも文理解釈にすぎるとの疑問が残る」とし、当該事案の特殊事情(地震対策上の危険)に留意すべきと指摘しており、判決の射程には慎重な評価もあります。廃棄処分の22条該当性は、「当たらないと解する余地が十分にある一方、当たり得るとする解釈も否定し切れない」というのが正確な現状です。

この論点の全文解説(条文構造・判例・文献に即した完全版)は、コラム 事業再構築補助金で導入した設備を廃棄したら「残存簿価を返納せよ」――本当に応じる必要があるのか でお読みいただけます。

あなたが今できること

これから処分を考えているなら――実行する前に

廃棄か、保管か、事業譲渡か。処分の前なら、リスクのない道を選べます。実行してからでは選択肢が減ります。動く前の30分の相談が、いちばん価値のあるタイミングです。

返納を求められているなら――「何を処分したことになっているのか」を確認

廃業しただけで財産が残っているなら、処分はまだ起きていません。廃棄済みだとしても、それが法律の制限する5類型に当たるのかは争えます。承認申請を促されても、その場で出す必要はありません。

返納してしまったなら――取り戻せる場合があります

財産処分の承認とその条件(返納命令)は、取消訴訟で争える場合があります。承認通知や返納の記録を残して、ご相談ください。

廃棄処分に関するご相談

廃棄・廃業を検討中の方は、実行の前にご相談ください。

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