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弁護士 岸上大起

補助金で取得した財産の廃棄処分・廃業

「廃業したなら返還」「廃棄したなら返納」――そう単純な話ではありません

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

このページの結論

処分制限期間中に廃業・廃棄したら、補助金を返さなければならないのか

補助目的どおり使ってきた財産を、やむを得ず廃棄する。それだけで補助金を返す義務が生じるとは、法律には書かれていません。補助金適正化法22条が承認を必要としているのは、交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供の5つで、「廃棄」は含まれていないからです。

そもそも「廃業=財産の廃棄」でもありません。ただし、この論点には反対の解釈の余地も残るため、これから処分を考えている方には、リスクを残さない選択肢(事業譲渡)も併せてご案内します。

本ページの記載は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

「処分制限期間は何年か」をお調べの方へ
このページは、廃業・廃棄を理由に返還・返納を求められた場合の反論を扱っています。処分制限期間が何年になるのか(いわゆる「10年ルール」と法定耐用年数の関係、期間が経過した後の取扱い)は、補助金で取得した財産の処分制限期間は何年か――「10年ルール」はあるのかで詳しく説明しています。

事務局の運用・法令上の根拠・当職の見解

事務局が公式に説明している運用、その運用が拠って立つ法令、そして当職の見解を、順に分けて示します。

1 事務局の運用(公式の説明)
よくあるご質問「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q3(事業を継続できなくなった場合)
「補助事業終了後の事業計画期間内に事業を継続できなくなった場合、補助金の返還が求められるのか」という問いに対し、「残存簿価相当額等により、補助金交付額を上限として返還を求めます。」とされています。
同「財産処分について」Q19(補助事業の廃止)
補助事業を廃止する場合には、事業廃止の届出や財産処分の承認申請が必要になるとされています。

出典:事業再構築補助金「よくあるご質問」(ページを開いてから中身が読み込まれます)/同「財産処分」

2 法令上の根拠
補助金適正化法22条が各省各庁の長の承認を要するとしている行為は、交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保供与の5つで、条文に「廃棄」は挙げられていません。
また、同法施行令14条1項2号により、交付の目的と財産の耐用年数を勘案して各省各庁の長等が定める期間(処分制限期間)を経過した財産には、この制限は適用されません。期間が具体的に何年になるかは、処分制限期間は何年かのコラムで説明しています。
3 当職の見解
公式の説明は、廃業・廃止の場面を一括して「財産処分」として扱い、納付・返還につなげる運用を示すものです。もっとも、廃業と財産の廃棄は別のことですし、目的どおり使用した後の解体を22条の規制対象に含まれないと判断した裁判例もあります(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)。
当職は、廃棄は22条の承認の対象ではないと考えております(私見です)。仮に承認の対象だとしても、やむを得ない廃棄の承認に残存簿価相当額の納付という条件を付けることには、許される限界の問題があると考えております。ただし、廃棄も規制対象に含まれると解する余地は否定し切れませんので、実行される前の個別の検討が必要です。

こんな状況ではありませんか

  • 「処分制限期間内の廃棄は目的外使用」として、財産処分の承認申請と残存簿価相当額の返納を求められている
  • 廃業した(廃業を考えている)ところ、「廃業なら補助金を返してもらう」と言われた
  • 補助事業を続けられず設備を処分したいが、返還が怖くて動けずにいる
  • 借りている店舗・土地から退去することになり、内装や設備をどうするか決めかねている
  • 処分制限期間(耐用年数相当の長い期間)と事業の実態が、もう合わなくなっている

ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。必要以上におそれて、許される選択肢まで自分から手放していませんか。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「廃業されたのですね。それでは補助金を返還していただくことになります。財産処分の申請をすれば、残存簿価の返納で済みますよ。」

しかし、法律のルールは

法律が承認制にしているのは「交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供」の5つだけ。「廃棄」はそこに書かれておらず、まして「廃業」は財産の処分ですらありません。

補助金適正化法22条/東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁

補助金をもらって、目的どおり事業をやって、それでも続けられなくなった――その結末に対して「では返してください」というのは、素朴な感覚としてもおかしいはずです。法律の条文も、その感覚を裏切っていません。

必要以上におそれて、許される選択肢まで自分から手放していませんか。

ご相談はこちら

なぜ「応じなくてよい」といえるのか

1

廃業と廃棄は、別のことです

廃業しても、設備や内装がそのまま残っているなら、財産は何も「処分」されていません。「廃業したから返還」という話が来たら、まず「財産はどうなっているか」を切り分けてください。それだけで話の前提が崩れることがあります。
2

法律の条文に「廃棄」は書かれていません

22条が承認を必要とするのは「使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供」の5つの行為だけです。裁判所も、目的どおり使われてきた施設を耐用年数の残る段階で解体した行為について、「同条の規制する行為の対象には含まれない」と判断しています。

補助金適正化法22条/東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁(控訴審も支持したと文献は注記。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』298〜299頁注2、308頁注21。控訴審判決は公刊物に見当たりません)

3

ただし、反対の解釈もあり得ます――だからこそ慎重に

正直に申し上げると、最高裁判例の調査官解説の整理からは、廃棄も「補助目的に沿った使用ができなくなる」行為として承認が必要と解する余地が残ります。「絶対に大丈夫」とは言えない論点です。だからこそ、これから処分する方は、次の選択肢を知っておいてください。

最三令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説/小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』308頁注21

4

リスクを残さない出口――事業譲渡があります

補助事業ごと第三者に譲渡し、譲受人が補助目的に沿った使用を続けるなら、どちらの解釈を前提にしても22条違反の問題は生じません。廃棄か保管かの二択で悩む前に、検討する価値があります(詳しくは 事業譲渡による解決のページへ)。
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

適正化法22条の趣旨と規制対象

適正化法22条は、補助事業により取得した財産を、承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない」と規定し(財産処分制限)、違反すれば17条1項の第3類型(法令違反)の取消事由に該当し得ます。その趣旨は、補助金により形成された財産が交付目的に反して処分されることを防止し、交付目的の完全な達成を図る点にあります。文言上、規制対象は上記5類型に限られています。

参考文献小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』(株式会社全国会計職員協会、2016)245頁、295〜296頁

東京地判平成2年1月30日の判示

同判決は、22条の趣旨を、実質的に補助金の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為を規制したものと整理した上で、次のとおり判示しています。

引用(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)「補助金等の目的どおりに建設され、その後も目的どおり使用されていた施設を未だ耐用年数が十分残っている段階で解体するような行為は、それ自体経済的合理性の観点からその当否が検討される余地のあるものであるとしても、同条の規制する行為の対象には含まれないというべきである。」

やむを得ない事情(補助事業の継続が経済的に困難となった、財産の故障により事業継続が事実上不可能になった等)による廃棄は、補助目的に沿わない積極的な財産処分とは性質が異なり、この判示に照らしても22条違反には当たらないと考えられます。

反対解釈の余地(正確な現状)

最三令和3年3月2日判決の調査官解説は、22条に基づく承認について「補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は、承認を要する」とし、担保権実行による所有権喪失についても「補助目的に沿って使用することができなくなる」点に着目して承認を要すると整理しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。廃棄も同様の状態をもたらす点では、承認を要する行為に含まれると解する余地があります。

また、小滝・前掲308頁注21は、前記東京地判について「余りにも文理解釈にすぎるとの疑問が残る」とし、当該事案の特殊事情(地震対策上の危険)に留意すべきと指摘しており、判決の射程には慎重な評価もあります。廃棄処分の22条該当性は、「当たらないと解する余地が十分にある一方、当たり得るとする解釈も否定し切れない」というのが正確な現状です。

関連する公開情報note記事:事業再構築補助金で導入した設備を廃棄したら「残存簿価を返納せよ」――本当に応じる必要があるのか

この論点の全文解説(条文構造・判例・文献に即した完全版)は、コラム 事業再構築補助金で導入した設備を廃棄したら「残存簿価を返納せよ」――本当に応じる必要があるのか でお読みいただけます。

あなたが今できること

これから処分を考えているなら――実行する前に

廃棄か、保管か、事業譲渡か。やめ方ごとに必要な手続と納付の見込みが違います(やめ方による違い)。処分の前なら、リスクのない道を選べます。実行してからでは選択肢が減ります。動く前の30分の相談が、いちばん価値のあるタイミングです。

処分の前に相談する →

返納を求められているなら――「何を処分したことになっているのか」を確認

廃業しただけで財産が残っているなら、処分はまだ起きていません。廃棄済みだとしても、それが法律の制限する5類型に当たるのかは争えます。承認申請を促されても、その場で出す必要はありません。返還に加算金・延滞金が付くのかも、併せてご確認ください(返還額の計算と加算金)。

返納を求められている件で相談する →

返納してしまったなら――取り戻せる場合があります

財産処分の承認とその条件(返納命令)は、取消訴訟で争える場合があります。承認通知や返納の記録を残して、ご相談ください。

取り戻せるか相談する →

よくある質問

処分制限期間は何年ですか。「10年」と聞きましたが。

「一律10年」というルールは、補助金適正化法にも施行令にもありません。処分制限期間は財産ごとの法定耐用年数によって決まり(同法施行令14条1項2号、事業再構築補助金の交付規程24条2項)、設備は10年前後のものが多い一方、鉄筋コンクリート造の事務所用建物では50年に及びます。「10年」は、経済産業省の通達で、期間内の財産処分について承認や納付の条件が緩和され得る経過年数の基準と考えられ、制限が消える年数ではありません。

処分制限期間は何年か(コラム) →

出典:令和5年経済産業省告示第64号「補助事業等により取得し、又は効用の増加した財産の処分を制限する期間」

処分制限期間が過ぎれば、自由に処分できますか。

処分制限期間を経過すれば、財産処分の制限は適用されなくなります(補助金適正化法施行令14条1項2号)。承認を受けずに譲渡・貸付け・担保提供ができ、それを理由に補助金の返還を求められることもありません。返還を求められている財産について、期間が既に経過していないかは、最初に確認すべき事項の一つです。

出典:補助金適正化法施行令14条1項2号(e-Gov法令検索)

廃業したら、補助金を返さなければなりませんか。

廃業と、財産の廃棄は別のことです。廃業しても、設備や内装がそのまま残っているなら、財産は何も「処分」されていません。「廃業したから返還」と言われたら、まず財産がどうなっているかを切り分けてください。

処分制限期間中に設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければなりませんか。

目的どおり使われてきた施設の解体は補助金適正化法22条の規制対象に含まれないとした裁判例があり(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)、私見としても、廃棄は同条の承認の対象ではないと考えております。また、仮に承認の対象だとしても、やむを得ない廃棄の承認に残存簿価相当額の納付という条件(附款)を付けることは、許される限界を超え、違法・無効ではないかと考えております。ただし、廃棄も承認の対象と解する余地(最三令和3年3月2日判決の調査官解説)があり、納付の限界を正面から判断した裁判例も見当たらないため、個別の検討が必要です。

残存簿価の納付を求められたら(コラム) →
補助事業を続けられず、設備を処分したいときはどうすればよいですか。

実行する前にご相談ください。補助事業ごと第三者に譲渡し、譲受人が補助目的に沿った使用を続けるなら、廃棄についてどちらの解釈を前提にしても、22条違反の問題は生じないと考えられます。廃棄か保管かの二択で悩む前に、事業譲渡を検討する価値があります。

事業譲渡による解決 →
事業はやめますが、設備は使わずに手元に残します。手続や義務は残るのでしょうか。

補助事業が終わった後の事業計画期間中に事業計画の全部を廃止するのであれば、廃止の届出(様式第14-1)が必要とされ、取得した財産については、処分制限期間が終わるまで管理する義務が残ります(交付規程23条2項)。もっとも、設備が手元に残っているのであれば、財産の「処分」はまだ起きていません。財産の処分がされていない以上、財産処分に伴う納付は生じないと考えられます。保管を続けるのか処分するのかは、この義務を踏まえてお決めください。

やめ方による違い(コラム) →
借りている店舗・土地から退去することになりました。内装や設備は、どうすればよいのでしょうか。

退去することそれ自体が、直ちに補助金の返還につながるわけではありません。問題になるのは、補助金で取得した内装・設備を撤去して廃棄するのか、そのまま次の借主に使わせるのか、事業ごと引き継ぐのかです。撤去して廃棄するのであれば、廃棄は補助金適正化法22条が承認を必要とする行為に当たらないと解する余地があります。他方、内装や設備をそのまま次の借主に無償で使わせる場合には、「譲渡」と評価されるおそれがありますので、引渡しの前にご確認ください。

借りた店舗の設備はどうなるか(Q&A) →

出典:補助金適正化法22条(e-Gov法令検索)

補助事業を途中でやめたいのですが、まず何をすればよいのでしょうか。

やめる時期によって、手続が変わります。補助事業がまだ完了していない段階(補助事業の実施期間中)の中止・廃止は、あらかじめ承認申請をする対象とされています(交付規程12条1項4号)。補助事業が完了した後の事業計画期間中にやめる場合について公式に示されている順番は、事業廃止の届出(様式第14-1)、財産処分の承認申請(様式第12-1)、承認(様式第12-2)、処分の実行と財産処分報告(様式第12-3)、納付通知(様式第12-5)を受けての納付です。承認を受けずに先に処分をしてしまった場合について、事務局は交付決定が取り消される場合があると説明しています(公式「よくあるご質問」財産処分Q7)。交付決定の取消しに伴って返還を命ぜられると、原則として年10.95%の加算金が課されますが(補助金適正化法19条1項)、交付規程は、補助事業の中止・廃止の申請を承認した場合などをこの加算金の対象から除いています(交付規程22条3項)。もっとも、以上は財産処分の承認が必要な場合の順番です。設備が手元に残っているなど、そもそも同法22条の処分に当たらないのではないかという点は、申請の前に確かめる余地があります。

手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢(コラム) →

出典:補助金適正化法19条(e-Gov法令検索)

承認を受けずに、もう設備を廃棄してしまいました。どうなるのでしょうか。

事務局は、事前の承認を得ずに財産を処分した場合について、交付決定が取り消される場合があると説明しています。補助金適正化法22条に違反した場合には、同法17条1項の第3類型(法令違反)の取消事由に該当することになり、全額の返還に加えて年10.95%の加算金・延滞金(同法19条)まで及び得ます。もっとも、私見としては、目的どおり使用してきた財産をやむを得ない事情により廃棄する行為は、同法22条が規制する財産処分には当たらないと考えておりますので、廃棄済みであっても、それが制限される5類型に当たるのかは争えます。どう対応するかはこの振れ幅を踏まえて決める必要がありますので、承認申請を促されても、その場で出す必要はありません。

廃棄処分と残存簿価の返納(コラム) →

出典:補助金適正化法17条1項(e-Gov法令検索)

災害で設備が壊れた場合や、建物が危険な状態で取り壊す場合も、事前の承認が必要ですか。

事務局の運用では、処分制限期間内の廃棄には事前の財産処分の承認申請(様式第12-1)が必要とされています。もっとも、災害・火災による場合や、立地上・構造上危険な状態にある場合の取壊し・廃棄については、報告(様式第12-4)をもって承認を受けたものとみなすことができるとされています(交付規程24条5項)。どちらの手続によることになるかは事情次第ですので、取壊しの前に、該当する事情が分かる記録を残しておいてください。

廃棄処分に関するご相談

廃棄・廃業を検討中の方は、実行の前にご相談ください。

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