弁護士 岸上大起

交付決定の取消し・返還請求

取消通知・返還請求書が届いても、そのまま応じる必要はないかもしれません

このページの結論

補助金の交付決定を取り消せる理由は、法律上、3つしかありません。どれにも当てはまらなければ、取消しはできません。

実際に届く取消通知には、この3つに当てはまらない理由で取り消しているもの、理由や根拠条文の書き方に不備があるものが少なくないと考えています。裁判(取消訴訟)で争えます。ただし原則6か月の期限があります。返還に応じる前に、お早めにご相談ください。

こんな状況ではありませんか

  • 中小機構から、交付決定の取消通知や補助金の返還請求書が届いた
  • まだ正式な通知は来ていないが、やり取りの中で「交付決定の取消しになる」「返還してもらうことになる」と言われている
  • 取消しの理由が「その他不適当な行為」など抽象的で、自分の何が問題だったのか分からない
  • 「取消しはしないが、一部を返納するように」と求められている
  • 交付決定の内容どおりに事業をやり、お金も支出したのに、「不正」であるかのように扱われている

ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。その取消しは、法律のルールからずれている可能性があります。

※ 対象:事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金(中小機構が直接交付するもの)。IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)・ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金の方は こちらのページへ。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「交付規程22条1項の『その他機構が不適当と認める行為』に該当するため、交付決定を取り消します。補助金を返還してください。」

しかし、法律のルールは

取消しができるのは、法律(補助金適正化法17条1項)が定める3つの場合だけ。交付規程という内部ルールで、取消しの理由を増やすことはできません。

補助金適正化法17条1項/小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』243-245頁

交付決定によって、あなたには補助金を受け取る権利が既に発生しています。その権利を消すのが「取消し」であり、だからこそ法律は、取り消せる場合を厳しく絞っているのです。「不適当な行為」という曖昧な言葉で権利を消されるいわれは、本来ありません。

なぜ「争える」といえるのか

1

取り消せる理由は、法律上3つだけです

①補助金そのものを別の用途に使った、②交付決定の内容や条件に違反した、③法令等に違反した――この3つのどれにも当てはまらなければ、交付決定は取り消せません。あなたに届いた通知の「理由」が、この3つのどれに当たるのか。まずそこを確認するだけで、争えるかどうかの見通しが立ちます。

補助金適正化法17条1項/小滝・前掲243-245頁

2

通知の「理由の書き方」自体が、違法になり得ます

取消しのような不利益処分には、根拠条文と、それに当てはまる事実をきちんと示す義務があります。実際の通知には、根拠条文を書き誤っているもの(法律ではなく交付規程を引用する等)、どの事実がどう違反なのか書いていないものが見られます。それ自体が、取消しを違法とする理由になり得ます。

行政手続法14条1項/行政事件訴訟法46条1項

3

仮に理由があっても、「全部取消し・全額返還」はやりすぎかもしれません

法律は「取り消すことができる」としか言っておらず、どこまで取り消すかには限度があります。是正すれば済む話や、補助金の目的に支障のない軽微な話で、いきなり全額返還を求めるのは、比例原則に反する違法な処分と判断される可能性があります。

比例原則/補助金適正化法16条・17条1項

4

本当に返さないといけないのは、架空発注のような不正のケースです

会計検査院が公表している「返還が必要な不当事例」の中心は、架空発注などの明確な不正受給です。逆に言えば、そうでない取消通知は、争う余地が大きい事案が少なくないと考えられます。
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

この類型の補助金が「行政処分型」であること

事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金は、中小機構が補助事業者に直接交付する補助金です。中小機構法15条1項6号に基づく業務として実施され、同法16条により補助金適正化法が全面的に準用されるため、交付決定やその取消しには法律上の根拠があり、行政処分としての性質(処分性)が認められます。したがって、取消訴訟(行政事件訴訟)で争うことができます。

取消事由3類型の内容

補助金適正化法17条1項所定の取消事由は、①補助金等の他の用途への使用(第1類型)、②補助事業に関する交付決定の内容又はこれに附した条件への違反(第2類型・補助条件違反)、③その他、法令又はこれに基づく各省各庁の長の処分への違反(第3類型・法令違反)の3類型に限定されています。

実際の取消通知に見られる法的問題

(1) 取消事由の不当な拡大

交付規程22条3号の「その他不適当な行為」を根拠に、3類型に当たらない事由まで取消事由として扱う事案が散見されます。法律で限定された取消事由を下位規範で実質的に拡大する運用には、法的問題があると考えられます。

(2) 理由提示の不備

根拠法条として適正化法17条1項ではなく交付規程22条1項を記載する誤りや、3類型のいずれに該当する事実かを明示しない事案が見られます。不利益処分の理由提示義務(行政手続法14条1項)違反として違法と評価される余地があります。

(3) 取消訴訟の教示義務の懈怠

行政事件訴訟法46条1項所定の教示(取消訴訟を提起できる旨等の案内)が適切になされていない事案が見受けられます。

(4) 取消処分をせずに一部返納のみを求める運用

補助事業の廃止が取消事由に当たるとしながら取消処分は行わず、交付規程22条6項に基づく一部返納のみを求める運用が見られます。取消事由に該当するなら適正化法17条1項に基づく取消処分によるべきであり、法的整合性を欠く面があります(自主返納の求めのページ参照)。

比例原則による統制

適正化法16条は是正措置を定めており、是正措置により補助事業が交付決定どおり遂行される見込みがあった場合や、補助目的の達成に支障がない軽微な取消事由しかない場合に、全部を取り消して全額の返還を求める処分は、比例原則に違反する裁量逸脱・濫用の違法な処分と判断される可能性があります。取消処分が取消訴訟で取り消されれば、交付決定が存在する状態に戻り、再度の取消処分がない限り返還の必要はなくなります。

主張の組み立て(実際の準備書面から)

(1) 指示違反(交付規程22条1項1号)への反論例

交付決定に附された「本事業の実施に当たっては、中小機構の指示に従うこと」との条件は、補助事業の実施期間中の指示について妥当するものです。補助事業の完了後に通知された指示は「実施に当たって」なされた指示ではなく、これに従わないことが補助条件違反(第2類型)を構成することはない、と主張することが考えられます。

(2) 不適当な実績報告(同3号)への反論例

第2類型の補助条件違反は「交付決定の内容に不適合な事業を遂行し、あるいは補助対象事業そのもの若しくは補助条件を遂行ないし履行しない不作為が認められる場合をいう」と解されています(小滝・前掲244頁)。実績報告の内容の誤りは、補助事業の遂行・補助条件の履行とは別の場面の事象であり、第2類型に当然に該当するものではなく、第1・第3類型にも該当しない、と主張することが考えられます。

返還が本当に必要な事案(公開資料)

あなたが今できること

通知が届いたばかりなら――6か月の時計が動いています

取消しを裁判で争うには、原則として処分を知った日から6か月以内という期限があります(行政事件訴訟法14条)。通知が届いた日を控えて、交付決定通知書・取消通知・やり取りの記録を手元にまとめてください。それだけで、相談時に具体的な検討ができます。

返還を求められているなら――すぐに払わない

通知の「理由」が法律上の3類型のどれに当たるのか、通知書の文面から確認できます。当たらないなら、そもそも取消し自体が違法である可能性があります。納付書が届いても、まず一度立ち止まってください。

返してしまったなら――取り戻せる場合があります

取消訴訟に勝訴して取消処分が取り消されれば、返還したお金は法律上の原因を欠く「不当利得」となり、返還を請求できる場合があります。

交付決定取消し・返還請求のご相談

出訴期間(原則6か月)があります。取消通知がお手元にある方は、お早めに。

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