弁護士 岸上大起
01 — Cancellation

交付決定の取消し・返還請求

事業再構築補助金、新事業進出補助金等の交付決定取消し・返還請求への対応

1-1 補助金の法的性質による2分類

補助金は、その法的性質により大きく2つに分類することができます。第一が、中小機構が補助事業者に対して直接に交付主体となる「行政処分型」の補助金、第二が、事務局を介して交付される「負担附贈与契約型」の補助金です。両者は交付決定の処分性の有無において決定的に異なり、これにより取消し・返還請求への対応方針も大きく変わります。

(1) 行政処分型の補助金

事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化補助金等は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」といいます。)が補助事業者に対して直接に交付決定を行う補助金です。中小機構法15条1項6号に基づく業務として実施され、同法16条により補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」または「適正化法」といいます。)が全面的に準用されます。

そのため、交付決定及びその取消しは、いずれも法律上の根拠を有する公権力の行使に該当し、行政処分としての性質(処分性)を有します。これらの補助金の交付決定の取消しを争う場合は、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟(行政訴訟)を提起することになります。

(2) 負担附贈与契約型の補助金

これに対し、IT導入補助金(現:AI導入補助金)、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金等は、中小機構が事業を所管しつつ、実際の交付主体は「事務局」と呼ばれる民間団体・民間企業となっています。具体的には、全国中小企業団体中央会やTOPPAN株式会社等が事務局として補助事業者と対峙する構造になっています。

この場合、補助金の交付は、事務局と補助事業者との間で締結される交付規程に基づく契約関係として理解され、その性質は負担附贈与契約と解されます。交付規程は法律ではなく、事務局の定める業務処理上のルールにすぎないため、ここでの交付決定には行政処分としての処分性が認められません。

そのため、事務局から交付決定の取消通知や返還請求を受けた場合は、取消訴訟ではなく、契約上そのような債務(負担)を負っているかという民事上の観点から争うことになります。

行政処分型負担附贈与契約型
交付主体中小機構が直接事務局(民間団体・民間企業)
根拠中小機構法15条1項6号・16条
(補助金適正化法を全面準用)
事務局が定める交付規程(法律ではない)
処分性ありなし
不服の争い方取消訴訟(行政事件訴訟)民事上の争い(契約上の債務の存否)
主な例事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化補助金IT導入補助金(現:AI導入補助金)、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金

1-2 処分性の有無の見分け方

ある補助金が行政処分型と負担附贈与契約型のいずれに該当するかを判別するには、当該補助金の交付規程における交付決定通知に関する規定を確認する方法が有効です。

具体的には、交付規程に「交付決定をする旨を通知する」等の規定があるとして、その主語が「中小機構は」となっていれば、中小機構法に基づく業務として補助金が交付されており、処分性が認められます。これに対し、主語が「事務局は」となっていれば、事務局が交付主体であり、交付規程に基づく負担附贈与契約として処分性が認められない、と整理することができます。

1-3 取消事由は補助金適正化法17条1項所定の3類型に限られる

行政処分型の補助金については、交付決定の取消事由は、補助金適正化法17条1項所定の以下の3類型に限定されています。3類型のいずれにも該当しなければ、適正化法17条1項に基づいて交付決定を取り消すことはできないものと解されます。

  1. 補助金等の他の用途への使用(第1類型)
    交付された補助金を、補助事業以外の用途に使用した場合をいいます。
  2. 補助事業に関する補助金等の交付決定の内容又はこれに附した条件への違反(第2類型・補助条件違反)
    交付決定の内容そのものや、交付決定書(交付決定通知書)に附された条件(補助条件)に違反した場合をいいます。
  3. その他、法令又はこれに基づく各省各庁の長の処分に違反した場合(第3類型・法令違反)
    法令や所管行政庁の処分に違反した場合をいいます。

このように、適正化法17条1項所定の取消事由は法定されており、それ以外の事由を持ち出して交付決定を取り消すことは法律上予定されていないと解されます。したがって、中小機構等から取消通知を受けた場合、まず当該取消事由が3類型のいずれに該当するか、該当するとしてその事実関係に争いはないかを慎重に検討する必要があります。

1-4 中小機構による問題のある運用

事業再構築補助金等の行政処分型の補助金について、近時、中小機構が行う運用には以下のような法的疑義のある実態が散見されます。

(1) 取消事由の不当な拡大

中小機構の交付規程22条3号は「その他不適当な行為」を取消事由として規定していますが、この規定を根拠として、補助金適正化法17条1項所定の3類型に当たらない事由まで取消事由として取り扱い、交付決定を取り消す事案が散見されます。法律で限定されている取消事由を、下位規範である交付規程によって実質的に拡大する運用には、法的問題があると考えられます。

(2) 理由提示の不備

取消通知書において、根拠法条として補助金適正化法17条1項ではなく、交付規程22条1項を記載するという誤りを犯している事案があります。また、適正化法17条1項所定の3類型のいずれに該当する事実かを明示することなく、抽象的な事由のみを述べて取消理由とする事案も見られます。

不利益処分には、行政手続法14条1項により理由の提示が義務付けられており、その理由は、処分の根拠法条の摘示と、当該法条に該当する事実関係の摘示を含む程度に具体的でなければならないものと解されています。この観点から、上記のような取消通知については、理由提示義務違反として違法と評価される余地があります。

(3) 行政事件訴訟法46条1項の教示義務懈怠

行政事件訴訟法46条1項は、取消訴訟を提起することができる処分をする場合における教示義務を定めています。中小機構による交付決定取消処分について、この教示が適切になされていない事案が見受けられます。

(4) 補助事業廃止を捉えた一部返納要求

補助事業を廃止したことが取消事由に当たるとしながら、交付決定を取り消す処分を行うのではなく、交付規程22条6項に基づき補助金の一部返納のみを求めるという運用が見られます。取消事由に該当するのであれば適正化法17条1項に基づく取消処分をすべきであり、取消しを行わずに返納のみを求める運用には、法的整合性を欠く面があると考えられます。

1-5 比例原則違反による違法性

仮に補助金適正化法17条1項所定の取消事由に該当する事実があったとしても、同項は「補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる」と規定しており、取消しの範囲については中小機構等に裁量が認められています。この裁量は、行政法上の一般原則である比例原則によって統制されます。

特に、適正化法16条は是正措置を講じることができる旨を定めており、是正措置によって補助事業が交付決定のとおり遂行される見込みがあった場合や、補助目的の達成に支障がない軽微な取消事由しかない場合に、いきなり交付決定の全部を取り消して補助金全額の返還を求める処分は、目的達成のために必要な限度を超えており、比例原則に違反する裁量逸脱・濫用の違法な処分と判断される可能性があります。

1-6 返還が本当に必要な事案の具体例

本当に取消し・返還が必要な事案は、典型的には、架空発注によって補助金を不正に受給した場合等、明確に第1類型ないし第3類型の取消事由に該当する場合に限られると考えられます。会計検査院が公表する事業再構築補助金の不当事例においても、その中心となるのはこのような不正受給事案です。

逆に言えば、それ以外の取消通知については、上述した適正化法17条1項所定の取消事由への該当性、理由提示の適法性、比例原則違反等を理由として、取消訴訟により争う余地が大きい事案が少なくないと考えられます。

1-7 弁護士岸上大起としての対応

中小機構等から交付決定の取消通知や返還請求書を受領した場合、弁護士岸上大起としては、概ね以下の検討・対応を行います。

  • 当該補助金が行政処分型か負担附贈与契約型かの判別(交付規程上の交付決定の主語の確認)
  • 行政処分型の場合、補助金適正化法17条1項所定の3類型該当性の検討
  • 取消通知の理由提示の適法性(行政手続法14条1項違反の有無)の検討
  • 取消しの範囲・是正措置の余地等を踏まえた比例原則違反の有無の検討
  • 提訴前段階での中小機構との交渉対応
  • 必要に応じ、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟の提起

交付決定取消処分には、行政事件訴訟法14条所定の出訴期間(処分があったことを知った日から6か月以内、かつ処分の日から1年以内)の制限があります。取消通知を受け取られた方は、出訴期間の徒過を避けるためにも、お早めにご相談ください。

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