補助金の交付決定の取消し・返還請求
取消通知・返還請求書が届いても、そのまま応じる必要はないかもしれません
執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
交付決定の取消通知・返還請求が届いたら、そのまま応じるしかないのか
補助金の交付決定を取り消せる理由は、法律上(補助金適正化法17条1項)、他の用途への使用・補助条件違反・法令違反の3つしかありません。どれにも当てはまらなければ、取消しはできません。
実際に届く取消通知には、この3つに当てはまらない理由で取り消しているもの、理由や根拠条文の書き方に不備があるものが少なくないと考えています。裁判(取消訴訟)で争えます。ただし原則6か月の期限があります。返還に応じる前に、お早めにご相談ください。
本ページの記載は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
こんな状況ではありませんか
- 中小機構から、交付決定の取消通知や補助金の返還請求書が届いた
- まだ正式な通知は来ていないが、やり取りの中で「交付決定の取消しになる」「返還してもらうことになる」と言われている(→ 交付決定取消しの事前通知が届いたら)
- 取消しの理由が「その他不適当な行為」など抽象的で、自分の何が問題だったのか分からない
- 「取消しはしないが、一部を返納するように」と求められている
- 交付決定の内容どおりに事業をやり、お金も支出したのに、「不正」であるかのように扱われている
ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。その取消しは、法律のルールからずれている可能性があります。
※ 対象:事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金(中小機構が直接交付するもの)。IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)・ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金の方は こちらのページへ。
※ 中小機構ではなく、都道府県・市町村・公社が交付する補助金は、根拠となる規則・要綱が異なります。どれに当たるかは このサイトが扱う補助金の範囲をご覧ください。
何がおかしいのか
「交付規程22条1項3号の『不正、怠慢、その他不適当な行為』に該当するため、交付決定を取り消します。補助金を返還してください。」
取消しができるのは、法律(補助金適正化法17条1項)が定める3つの場合だけ。交付規程という内部ルールで、取消しの理由を増やすことはできません。
補助金適正化法17条1項/小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』243-245頁
交付決定によって、あなたには補助金を受け取る権利が既に発生しています。その権利を消すのが「取消し」であり、だからこそ法律は、取り消せる場合を厳しく絞っているのです。「不適当な行為」という曖昧な言葉で権利を消されるいわれは、本来ありません。
※本ページで「交付規程」とは、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)をいいます。補助金・公募回によって条番号が異なりますので、お手元の交付規程でご確認ください。
その取消しは、法律のルールからずれている可能性があります。
なぜ「争える」といえるのか
取り消せる理由は、法律上3つだけです
補助金適正化法17条1項/小滝・前掲243-245頁
通知の「理由の書き方」自体が、違法になり得ます
補助金適正化法21条の2(中小機構法16条で準用)/行政事件訴訟法46条1項
仮に理由があっても、「全部取消し・全額返還」はやりすぎかもしれません
比例原則/補助金適正化法16条・17条1項
検査報告に挙げられた事態の内訳は、返還が必要と判断された事案の内訳ではありません
会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 不当事項 補助金(2)(252)―(271)
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)
この類型の補助金が「行政処分型」であること
事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金は、中小機構が補助事業者に直接交付する補助金です。中小機構法15条1項6号に基づく業務として実施され、同法16条により補助金適正化法が全面的に準用されるため、交付決定やその取消しには法律上の根拠があり、行政処分としての性質(処分性)が認められます。したがって、取消訴訟(行政事件訴訟)で争うことができます。
参考文献西川知一郎編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 行政関係訴訟〔改訂版〕』(青林書院、2021)25頁、27-28頁
取消事由3類型の内容
補助金適正化法17条1項所定の取消事由は、①補助金等の他の用途への使用(第1類型)、②補助事業に関する交付決定の内容又はこれに附した条件への違反(第2類型・補助条件違反)、③その他、法令又はこれに基づく各省各庁の長の処分への違反(第3類型・法令違反)の3類型に限定されています。
参考文献小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕——補助金行政の法理と実務——』(株式会社全国会計職員協会、2016)243-245頁
実際の取消通知に見られる法的問題
(1) 取消事由の不当な拡大
交付規程22条1項3号の「不正、怠慢、その他不適当な行為」を根拠に、3類型に当たらない事由まで取消事由として扱う事案が散見されます。法律で限定された取消事由を下位規範で実質的に拡大する運用には、法的問題があると考えられます。
(2) 理由提示の不備
根拠法条として適正化法17条1項ではなく交付規程22条1項各号を記載する誤りや、3類型のいずれに該当する事実かを明示しない事案が見られます。交付決定の取消しの際の理由提示義務(補助金適正化法21条の2。中小機構法16条で準用)違反として違法と評価される余地があります。なお、補助金の交付に関する処分には行政手続法2章・3章は適用されません(補助金適正化法24条の2)。
(3) 取消訴訟の教示義務の懈怠
行政事件訴訟法46条1項所定の教示(取消訴訟を提起できる旨等の案内)が適切になされていない事案が見受けられます。
(4) 取消処分をせずに一部返納のみを求める運用
補助事業の廃止が取消事由に当たるとしながら取消処分は行わず、交付規程24条6項(財産処分に伴う納付)に基づく一部返納のみを求める運用が見られます。取消事由に該当するなら適正化法17条1項に基づく取消処分によるべきであり、法的整合性を欠く面があります(自主返納の求めのページ参照)。
取消しに裁量はあるのか――比例原則による統制
適正化法16条は是正措置を定めており、是正措置により補助事業が交付決定どおり遂行される見込みがあった場合や、補助目的の達成に支障がない軽微な取消事由しかない場合に、全部を取り消して全額の返還を求める処分は、比例原則に違反する裁量逸脱・濫用の違法な処分と判断される可能性があります。取消処分が取消訴訟で取り消されれば、交付決定が存在する状態に戻り、再度の取消処分がない限り返還の必要はなくなります。
主張の組み立て(実際の準備書面から)
(1) 指示違反(交付規程22条1項1号)への反論例
交付決定に附された「本事業の実施に当たっては、中小機構の指示に従うこと」との条件は、補助事業の実施期間中の指示について妥当するものです。補助事業の完了後に通知された指示は「実施に当たって」なされた指示ではなく、これに従わないことが補助条件違反(第2類型)を構成することはない、と主張することが考えられます。
(2) 不適当な実績報告(同3号)への反論例
第2類型の補助条件違反は「交付決定の内容に不適合な事業を遂行し、あるいは補助対象事業そのもの若しくは補助条件を遂行ないし履行しない不作為が認められる場合をいう」と解されています(小滝・前掲244頁)。実績報告の内容の誤りは、補助事業の遂行・補助条件の履行とは別の場面の事象であり、第2類型に当然に該当するものではなく、第1・第3類型にも該当しない、と主張することが考えられます。
会計検査院が不当事項として掲げた事態(公開資料)
参考リンク会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項 補助金(2)「中小企業等事業再構築促進補助金が過大に交付されていたなどのもの」(252)―(271)
https://report.jbaudit.go.jp/org/r06/2024-r06-0466-0.htm
同報告の概要(特徴的な事案)のPDFhttps://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary06/pdf/fy06_tokutyou_09_02.pdf
掲げられている類型の内訳と、意見表示の内容は「補助金の返還を求められるのは、どのような場合か」で整理しています。
あなたが今できること
通知が届いたばかりなら――6か月の時計が動いています
取消しを裁判で争うには、原則として処分を知った日から6か月以内という期限があります(行政事件訴訟法14条)。通知が届いた日を控えて、交付決定通知書・取消通知・やり取りの記録を手元にまとめてください。それだけで、相談時に具体的な検討ができます。
返還を求められているなら――すぐに払わない
通知の「理由」が法律上の3類型のどれに当たるのか、通知書の文面から確認できます。当たらないなら、そもそも取消し自体が違法である可能性があります。納付書が届いても、まず一度立ち止まってください。返還の額に加算金・延滞金が加わるのかも、併せて確認します(返還額の計算と加算金)。
よくある質問
- 交付決定の取消通知が届きました。すぐに補助金を返還しなければなりませんか。
すぐに払う前に、通知に書かれた取消しの理由が、補助金適正化法17条1項の3類型(他の用途への使用・補助条件違反・法令違反)のどれに当たるのかを確認してください。どれにも当たらなければ、取消し自体が違法である可能性があります。取消しは、裁判(取消訴訟)で争うことができます。
- 取消しを裁判で争うのに、期限はありますか。
あります。取消訴訟は、原則として処分を知った日から6か月以内に提起する必要があります(行政事件訴訟法14条)。通知が届いた日を控え、交付決定通知書・取消通知・やり取りの記録を手元にまとめておいてください。
- 取消通知の理由が「交付規程22条1項」「その他不適当な行為」となっています。問題はありますか。
事業再構築補助金などの交付決定の取消しの根拠は、交付規程ではなく補助金適正化法17条1項であり、交付規程という内部ルールで取消しの理由を増やすことはできません。根拠条文を交付規程と記載していたり、どの事実が3類型のどれに当たるのかを示していなかったりする通知は、理由提示の不備(補助金適正化法21条の2。事業再構築補助金では中小機構法16条で準用)として違法となる余地があります。理由提示の不備が認められれば、取消事由の有無にかかわらず、それだけで取消処分が取り消される可能性があります。
取消しの処分性と理由付記の不備(コラム) →- 取消事由に当たる場合は、全部取消し・全額返還になるのですか。
そうとは限りません。法律は「取り消すことができる」と定めるにとどまり、どこまで取り消すかには限度があります。是正すれば済む場合や、補助金の目的に支障のない軽微な事由しかない場合に、全部を取り消して全額の返還を求める処分は、比例原則に反する違法な処分と判断される可能性があります。
- 事業再構築補助金とものづくり補助金の両方を受けたら、「重複受給」として取消しの事前通知が届きました。
重複受給とは、同一の経費に二つの補助金が重ねて充当されることをいうと考えております。事業の分野やテーマが共通しているというだけでは当たらず、取組の内容・経費・実施時期の三つの観点から、別個の事業であることを資料で示すことができます。もっとも、出典の公式「よくあるご質問」には、補助対象経費が重複していない場合でも、テーマや事業内容が国の支出する他の制度と同一又は類似内容の事業であれば対象外となる旨の記載があり、当職はこの読み方には疑問があると考えております。取消しがされる前の事前通知の段階で、書面で意見を述べることが最初の機会になります。
重複受給を理由とする取消し(コラム) →- 交付決定を取り消されて返還を命じられると、加算金や延滞金もかかるのですか。
交付決定の取消しに伴って返還を命ぜられたときは、原則として、補助金の受領の日から納付の日までの日数に応じ、年10.95%の加算金が課されます(補助金適正化法19条1項)。さらに、納期日までに納付しなかったときは、同率の延滞金が課されます(同条2項)。もっとも、交付規程は、補助事業の中止・廃止の申請を承認した場合などを、この加算金の対象から除いています(交付規程22条3項)。返還を求められている額だけでなく、加算金・延滞金まで含めた負担を確かめたうえで、応じるかどうかをお決めください。
返還額の計算と加算金(コラム) →- 中小機構ではなく、都道府県・市町村や公社から交付決定の取消し・返還を言われています。このページの説明は当てはまりますか。
そのまま当てはまるとは限りません。補助金適正化法が「補助金等」と呼んでいるのは国が国以外の者に対して交付するもので(同法2条1項)、中小機構が交付する補助金に同法が及ぶのは中小機構法16条の準用によるものです。都道府県・市町村が自らの財源で交付する補助金は地方自治法232条の2を根拠とし、取消しや返還を求められた場合に最初に読むのは、同法の条文ではなく、その自治体の補助金交付規則・交付要綱です。他方、申請の窓口も交付要綱も自治体のものでありながら、財源に国の補助金が入っている間接補助金等(同法2条4項1号)もあります。公社や基金が窓口になっている場合も含め、まず確かめるのは同じで、交付要綱の財源の定めと、交付決定通知書の主語です。
このサイトが扱う補助金――国・中小機構の補助金と自治体の補助金の違い →- 不正受給ではないのに、返還を求められています。本当に返還が必要になるのは、どのような場合ですか。
会計検査院は、事業再構築補助金について不当と認めた事態を決算検査報告で公表しています。令和6年度決算検査報告が掲げているのは、役務の提供等の実態を伴わない虚偽の実績報告書等に基づく過大な交付、補助対象事業費に補助の対象とならない経費を含めるなどしていた事態、処分制限財産が無断で処分されていた事態の3つであり、不正受給に当たるものに限られていません。もっとも、これは検査報告が不当と認めた事態の内訳であり、返還が必要であると裁判所が判断した事案の内訳ではありません。交付決定の内容どおりに事業を行い、お金も支出したうえで、実績報告の記載や事後のやり取りを理由に取消しが通知されている事案には、争う余地が大きいものが少なくないと考えております。実際の通知には、根拠法条として交付規程を記載しているもの、どの事実がどの取消事由に当たるのかを書いていないものが見られますので、「不正」という言葉に引きずられる前に、通知の記載そのものをご確認ください。
補助金の返還を求められるのは、どのような場合か(コラム) →出典:会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項 補助金(2)(252)―(271)
- 賃上げの計画を達成できませんでした。これも取消し・返還の理由になるのですか。
交付規程上は、賃上げ要件を満たさない場合に、中小機構が補助金の全部又は一部の「返還を命ずる」と定められています。もっとも、私見としては、賃上げ要件はそもそも補助事業者に義務を課す補助条件になっておらず、達成できなかったとしても補助金適正化法17条1項の取消事由には当たらないと考えております。取消事由に当たらなければ、交付決定の取消しも補助金の返還請求もできないことになります。ただし、この論点を正面から判断した裁判例は、現在のところ見当たりません。
賃上げ要件の未達(Q&A) →
出訴期間(原則6か月)があります。取消通知がお手元にある方は、お早めに。
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