弁護士 岸上大起

補助金の交付遅延

「支払を待つしかない」わけではありません

このページの結論

交付決定が出た時点で、あなたには補助金を受け取る権利があります。何年も待たされる状態を、受け入れる必要はありません。

督促(内容証明)で動く事案は実際にあります。動かなければ、支払を求める訴訟や国家賠償請求という手段もあります。資金繰りに関わる問題だからこそ、「待つ」以外の選択肢を知ってください。

こんな状況ではありませんか

  • 交付決定から1年以上経つのに、補助金が振り込まれない(2年、3年待たされている事案も実際にあります)
  • 実績報告への差し戻しや追加書類の要求が繰り返され、「確定」の連絡がいつまでも来ない
  • 補助金の入金を前提にしたつなぎ融資(手形貸付等)の返済期限が迫っている
  • 問い合わせても「審査中です」の一点張りで、見通しを教えてもらえない

補助金は、後から入金される前提で銀行からつなぎ融資を受けている方がほとんどです。入金が遅れれば融資の更新(ジャンプ)を重ねるしかなく、最後には「補助金が入っていないのに返済だけ迫られる」事態になりかねません。これは「気長に待つ」で済む問題ではありません。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「現在審査中です。確定までお待ちください。」(――そのまま2年、3年)

しかし、法律のルールは

国の補助金は、交付決定の翌年度4月30日までに支払うことが法令で決まっています。中小機構の補助金にも、同じ規律が及ぶと解釈すべき法律の手がかりがあります。

財政法12条・予算決算及び会計令4条/中小機構法16条(適正化法の全面準用と「事業年度」への読替え)

「独立行政法人だから期限はない」かのような運用がなされていますが、期限のない支払義務などというものは、本来考えられません。いつまでも払わなくてよいお金なら、交付決定は何のためにあったのか――ここが、この問題の出発点です。

なぜ「動かせる」といえるのか

1

交付決定で、受け取る権利はもう発生しています

交付決定は、あなたと中小機構の間に権利義務関係を作り出す行政行為です。この時点で、あなたは補助金の交付請求権(債権)を持っています。「もらえるかどうか審査中のお金」ではなく、「支払われるべきお金」なのです。
2

支払期限が「ない」わけではありません

国の補助金なら翌年度4月30日が精算払の期限。中小機構法16条は、中小機構の補助金に補助金適正化法を全面的に準用し、「国の会計年度」を「中小機構の事業年度」と読み替えると明記しています。この読替えの趣旨からすれば、中小機構の補助金も交付決定の翌事業年度4月30日が期限と解するのが、法の予定する姿だと考えています。期限を過ぎれば、遅延損害金の請求も視野に入ります。

中小機構法16条/財政法12条・予算決算及び会計令4条

3

督促の宛先を変えるだけで、動きが変わります

実務を担う「事務局」は民間企業への委託先にすぎません。内容証明による督促は、法的責任を負う中小機構本体(理事長宛)に送ります。経験上、対応の主体が事務局から中小機構本体に切り替わることで、明確に動きが変わる傾向があります。
4

裁判で支払いを求める正面ルートもあります

督促でも動かなければ、補助金の支払と遅延損害金を求める訴訟(実質的当事者訴訟)や、交付を不当に遅らせたこと自体の違法を問う国家賠償請求という手段があります。「待つしかない」ではなく、「請求できる」問題です。

行政事件訴訟法4条後段/国家賠償法1条1項

詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

「交付決定」と「支払」の間にある手続

問題は、実績報告から確定・支払までの過程が、中小機構の交付する補助金について著しく長期化している実態があることです。

支払期限の法的根拠

国の補助金は「予算」として扱われ、会計年度独立の原則(財政法12条)と予算決算及び会計令4条により、交付決定の翌年度4月30日が精算払の期限とされます。適正化法14条(実績報告)・15条(確定)・精算払は一連の密接不可分の手続であり、国の補助金では翌年度4月30日の期限を前提に実績報告の期限(翌年度4月10日)が定められています。

中小機構法16条が適正化法を全面準用しつつ「国の会計年度」を「中小機構の事業年度」と読み替えている趣旨に照らせば、同様の規律を中小機構の補助金にも及ぼすのが立法趣旨に沿った解釈であり、交付決定の翌事業年度4月30日が精算払の期限と解する余地があります。

補助金交付請求権の法的性質

交付決定は講学上の形成的行政行為であり、これにより補助事業者は補助金交付請求権を取得します。もっとも、この権利は純然たる私法上の金銭債権ではなく、適正化法・中小機構法に基づく「公の関係」上の権利であるため、民法412条3項(期限の定めのない債務)の規律が当然に適用されるわけではないという難しさがあります(公私二元論)。だからこそ、上記の適正化法上の期限の規律が重要な意味を持ちます。

とり得る法的手段の整理

(1) 実質的当事者訴訟による給付請求

補助金交付請求権は公法上の権利と整理されるため、その履行を求める訴訟形式としては、行政事件訴訟法4条後段の公法上の当事者訴訟(実質的当事者訴訟)が適切と考えられます。補助金本体の支払と、期限徒過後の遅延損害金の支払を併せて求めます。

(2) 国家賠償請求

交付の不当な遅滞自体を違法な公権力の行使と捉え、国家賠償法1条1項に基づき、遅延により被った損害(本来交付されるべき時期からの遅延損害金相当額、資金繰り悪化に伴う金融費用等)の賠償を求める構成です。(1)と両立し得る別個の構成であり、事案に応じて併用を検討します。

あなたが今できること

1年以上待たされているなら――督促という選択肢を

交付決定日・実績報告日・現在までのやり取りを時系列で整理してください。それをもとに、中小機構本体(理事長宛)への内容証明による督促を検討できます。

差し戻しが続いているなら――回答は慎重に

差し戻し対応のやり取りの中で「これは目的外では」等の指摘に発展し、減額自主返納へ誘導されていく事案が見られます。違和感のある要求への回答は、送る前に一度ご相談ください。

資金繰りが限界に近いなら――その事情ごと相談を

融資の返済期限や資金ショートの見込みがあるなら、それ自体が対応の優先度と手段(交渉か訴訟か)を決める重要な事情です。事業の継続に関わる前に、早めにお知らせください。

補助金交付遅延のご相談

交付決定通知書と、これまでのやり取りの記録があれば、その場で見通しをお伝えできます。

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