弁護士 岸上大起
02 — Delay

補助金の交付遅延

交付決定後、補助金の交付(支払)が遅延しているケースへの対応

2-1 補助金交付の流れと「交付決定」と「支払」の区別

補助金は、申請が受理されれば直ちに支払われるものではなく、補助金適正化法に定められた一連の段階を経て、最終的に補助事業者の口座に入金される流れを取ります。具体的には、補助事業者からの申請を受けて、まず行政庁が交付決定を行い(補助金適正化法6条)、補助事業者がこれに基づいて補助事業を遂行します。

補助事業の完了後、補助事業者は実績報告を行い(同法14条)、これを受けて行政庁が額の確定処分を行います(同法15条)。そして、確定処分を経て、ようやく補助金の支払(精算払)がなされます。

このように、「交付決定」と実際の「支払」は明確に区別される別個の行為です。交付決定が出ても、実際の支払までには相当の期間を要するのが通常ですが、特に中小機構が交付する補助金については、実際の支払が交付決定から2年〜3年にわたって遅延している事案も存在します。補助事業者の資金繰りに深刻な影響が生じる場面が少なくありません。

2-2 国の補助金の交付期限

国が交付主体となる補助金については、財政法12条が定める会計年度独立の原則、及びこれを受けた予算決算及び会計令4条により、交付決定の翌年度の4月30日が精算払の期限とされています。すなわち、当該会計年度に属する補助金の支払事務は、翌年度4月30日までに完了することが予定されているということです。

この期限を徒過してもなお補助金が支払われない場合、補助事業者は、当該支払債務について履行遅滞が生じているとして、遅延損害金請求の根拠とすることが考えられます。

2-3 中小機構が交付する補助金の交付期限

事業再構築補助金等、中小機構が交付主体となる補助金についても、上記の国の補助金と同様の規律が及ぼされるべきものと考えられます。

中小機構法16条は、中小機構が行う補助金交付業務について補助金適正化法を全面的に準用するとともに、適正化法中の「国の会計年度」を「中小機構の事業年度」と読み替える旨を明示的に規定しています。すなわち、適正化法を中小機構の補助金にもそのまま適用する立法者意思が示されているということです。

そして、適正化法14条(実績報告)と15条(額の確定)と精算払とは一連の手続として密接不可分の関係に立ち、国の補助金については、4月30日を精算払の期限とする運用との関係で、実績報告書の提出期限が翌年度4月10日とされています。同様の規律を、読替後の「中小機構の事業年度」に基づいて中小機構の補助金にも及ぼすのが、中小機構法16条の立法趣旨に沿った解釈であると考えられます。

したがって、中小機構が交付する補助金についても、交付決定の翌事業年度4月30日が精算払の期限であると解する余地があり、これを徒過してもなお支払がなされない場合は、履行遅滞の問題として扱う余地があります。

2-4 補助金交付請求権の法的性質

交付決定は、補助事業者と行政庁との間に補助金の交付に関する権利義務関係を発生させる形成的行政行為であり、これにより補助事業者は、行政庁に対する補助金交付請求権(補助金支払請求権)を取得するものと考えられます。

もっとも、この補助金交付請求権は、純然たる私法上の金銭債権ではなく、補助金適正化法及び関係法令に基づく「公の関係」上の権利として位置づけられます。そのため、私法上の金銭債務に係る民法412条3項(期限の定めのない債務の履行遅滞)の規律が当然にそのまま適用されるか否かについては、公私二元論との関係を踏まえ、慎重な検討を要します。

この点については、上述した適正化法上の精算払期限の規律を踏まえれば、少なくとも翌年度(中小機構の補助金については翌事業年度)4月30日の経過をもって、客観的に履行遅滞の状態に陥ったと評価し得るものと考えられます。

2-5 補助金交付遅延への法的請求方法

中小機構が補助金の交付を遅延している場合、補助事業者がとり得る法的請求方法は、主として以下の2つです。

(1) 実質的当事者訴訟による給付請求

第一に、行政事件訴訟法4条後段に基づく公法上の当事者訴訟(実質的当事者訴訟)として、補助金支払請求と遅延損害金請求を行う方法が考えられます。

補助金交付請求権は、上述のとおり「公の関係」上の権利と整理されることから、その履行を求める訴訟形式としては、民事訴訟ではなく、公法上の法律関係に関する訴訟である実質的当事者訴訟が適切であると考えられます。請求の趣旨としては、補助金本体の支払と、適正化法上の期限を徒過した日からの遅延損害金の支払を併せて求めることになります。

(2) 国家賠償請求

第二に、補助金の交付を不当に遅滞させたこと自体を違法な公権力の行使として捉え、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を行う方法が考えられます。

この場合、補助事業者は、補助金交付遅延により被った損害(資金繰り悪化に伴う金融費用、事業上の損害等)の賠償を、中小機構に対して請求することになります。実質的当事者訴訟と国家賠償請求は、両立し得る別個の法的根拠であり、事案によっては併せて検討すべき場合もあります。

2-6 督促段階での実務的留意点

訴訟提起前の段階で行う督促について、実務上重要な留意点が一つあります。それは、内容証明郵便等による督促の送付先を、事務局(民間企業に業務委託されている場合があります)ではなく、中小機構本体(理事長宛)とすることです。

事務局はあくまで中小機構からの業務委託先にすぎず、法的責任を負う主体は中小機構本体です。形式的にも、督促文書は責任主体に対して発する必要があります。また、実務上も、事務局に督促文書を送付した場合と比較して、中小機構本体(理事長宛)に直接送付した場合の方が、社内での対応が動きやすい傾向があると感じられます。法的責任を直接負う立場の機関に対して書面が届くことで、内部的にも上席まで情報が共有され、対応の優先度が上がるためと考えられます。

2-7 弁護士岸上大起としての対応

補助金の交付遅延が発生している場合、弁護士岸上大起としては、概ね以下の段階的アプローチで対応を行います。

  • 交付決定からの経過期間、実績報告・額の確定処分の有無を踏まえた、遅延状況の整理
  • 適正化法上の精算払期限(中小機構の補助金については読替後の翌事業年度4月30日)を踏まえた遅延の評価
  • 交付決定から相当期間(おおむね1年〜)が経過しても支払がない場合の、中小機構本体(理事長宛)への内容証明郵便による督促
  • 督促後も支払がなされない場合の、行政事件訴訟法4条後段に基づく実質的当事者訴訟(補助金支払請求・遅延損害金請求)の検討
  • 並行して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求の検討
  • 補助事業者の資金繰りへの影響度を踏まえた、交渉・訴訟の優先度判断

補助金の交付遅延は、補助事業者の資金繰りに直接的な影響を及ぼし、事業継続そのものに支障を生じさせる事案も少なくありません。「支払を待つしかない」と諦めず、お早めにご相談ください。

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