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弁護士 岸上大起

補助金の支払期限と交付遅延への対応

「支払を待つしかない」わけではありません

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

このページの結論

補助金の支払期限はいつか――何年も振り込まれないとき、待つしかないのか

国の補助金は、交付決定の翌年度4月30日までに支払うことが法令で決まっており、中小機構の補助金にも同じ規律が及ぶと解すべき手がかりがあります(中小機構法16条)。交付決定が出た時点で、あなたには補助金を受け取る権利があります。何年も待たされる状態を、受け入れる必要はありません。

督促(内容証明)で動く事案は実際にあります。動かなければ、支払を求める訴訟や国家賠償請求という手段もあります。資金繰りに関わる問題だからこそ、「待つ」以外の選択肢を知ってください。

本ページの記載は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

こんな状況ではありませんか

  • 交付決定から1年以上経つのに、補助金が振り込まれない(2年、3年待たされている事案も実際にあります)
  • 実績報告への差し戻しや追加書類の要求が繰り返され、「確定」の連絡がいつまでも来ない
  • 補助金の入金を前提にしたつなぎ融資(手形貸付等)の返済期限が迫っている
  • 問い合わせても「審査中です」の一点張りで、見通しを教えてもらえない

補助金は、後から入金される前提で銀行からつなぎ融資を受けている方がほとんどです。入金が遅れれば融資の更新(ジャンプ)を重ねるしかなく、最後には「補助金が入っていないのに返済だけ迫られる」事態になりかねません。これは「気長に待つ」で済む問題ではありません。

何がおかしいのか

あなたが言われていること

「現在審査中です。確定までお待ちください。」(――そのまま2年、3年)

しかし、法律のルールは

国の補助金は、交付決定の翌年度4月30日までに支払うことが法令で決まっています。中小機構の補助金にも、同じ規律が及ぶと解釈すべき法律の手がかりがあります。

財政法12条・予算決算及び会計令4条/中小機構法16条(適正化法の準用。同法14条について「国の会計年度」を「機構の事業年度」と読替え)

「独立行政法人だから期限はない」かのような運用がなされていますが、期限のない支払義務などというものは、本来考えられません。いつまでも払わなくてよいお金なら、交付決定は何のためにあったのか――ここが、この問題の出発点です。

これは「気長に待つ」で済む問題ではありません。

ご相談はこちら

なぜ「動かせる」といえるのか

1

交付決定で、受け取る権利はもう発生しています

交付決定は、あなたと中小機構の間に権利義務関係を作り出す行政行為です。この時点で、あなたは補助金の交付請求権(債権)を持っています。「もらえるかどうか審査中のお金」ではなく、「支払われるべきお金」なのです。
2

支払期限が「ない」わけではありません

国の補助金なら翌年度4月30日が精算払の期限です(財政法12条・予算決算及び会計令4条)。中小機構法16条は、中小機構が交付する助成金に補助金適正化法を準用したうえで、同法14条(実績報告)について「国の会計年度」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業年度」と読み替えています。財政法12条・予算決算及び会計令4条そのものが準用されているわけではありませんが、実績報告から確定・精算払までが一連の手続であることからすれば、中小機構の補助金についても交付決定の翌事業年度4月30日が期限と解する余地がある、というのが当職の考えです。この点を正面から判断した裁判例は見当たりません。期限を過ぎれば、遅延損害金の請求も視野に入ります。

中小機構法16条(適正化法14条の読替え)/財政法12条・予算決算及び会計令4条

3

督促の宛先を変えるだけで、動きが変わります

実務を担う「事務局」は民間企業への委託先にすぎません。内容証明による督促は、法的責任を負う中小機構本体(理事長宛)に送ります。経験上、対応の主体が事務局から中小機構本体に切り替わることで、明確に動きが変わる傾向があります。
4

裁判で支払いを求める正面ルートもあります

督促でも動かなければ、補助金の支払と遅延損害金を求める訴訟(実質的当事者訴訟)や、交付を不当に遅らせたこと自体の違法を問う国家賠償請求という手段があります。「待つしかない」ではなく、「請求できる」問題です。

行政事件訴訟法4条後段/国家賠償法1条1項

詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)

「交付決定」と「支払」の間にある手続

問題は、実績報告から確定・支払までの過程が、中小機構の交付する補助金について著しく長期化している実態があることです。

支払期限の法的根拠

国の補助金は「予算」として扱われ、会計年度独立の原則(財政法12条)と予算決算及び会計令4条(歳出金の支出期限)により、交付決定の翌年度4月30日が精算払の期限とされます。適正化法14条(実績報告)・15条(額の確定)・精算払は、一連の密接不可分の手続です。

中小機構法16条は、中小機構が交付する助成金について適正化法を準用したうえで、同法14条について「国の会計年度」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業年度」と読み替えています。読替えの対象は14条に限られており、財政法12条・予算決算及び会計令4条そのものが準用されているわけではありません。もっとも、実績報告から確定・精算払までが一連の手続であることからすれば、同様の規律を中小機構の補助金にも及ぼすのが立法の趣旨に沿った解釈であり、交付決定の翌事業年度4月30日が精算払の期限と解する余地がある、というのが当職の考えです。なお、この点を正面から判断した裁判例は見当たりません。

また、適正化法24条は、補助金等の交付に関する事務に従事する職員について、「当該事務を不当に遅延させ」てはならないと定めています。同条は中小機構法16条により中小機構が交付する助成金にも準用され、「国」は「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と読み替えられます。交付の遅延そのものを問題とする場面で、正面から援用できる規定です。

額の確定はいつまでにされるべきか――法令に明示の期限はないが、目安はある

ここまでは支払(精算払)の期限と24条の整理です。その手前にある額の確定の通知については、交付の決定とその通知を「すみやかに」行うべきものとする定めがある(適正化法6条1項・8条)のに対し、法に期限の明示がないと説明されています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』233〜234頁(株式会社全国会計職員協会、2016))。

同書は、これに続けて、国が精算払により支出できる期限が翌年度の4月30日限りとされていること(予算決算及び会計令4条本文)との関係上、国の精算手続行為も最終的にはこの期限に制約されると考えるべきであるとし、実績報告の期限と照応して、補助金等適正化中央連絡協議会が、額の確定を「実績報告書受理後原則として二〇日以内」に行うべき旨取り決めていることを紹介しています(小滝・前掲234頁)。この「20日」は法令の定めた期限ではなく、関係省庁の局長クラスを構成員として設けられた同協議会(同書84頁注(34))による、国の補助金についての事務処理上の目安です。中小機構法16条が準用するのは適正化法であってこの取決めではありませんから、中小機構が交付する助成金に当然に当てはまるものではありません。

先に触れた24条の「不当に」について、同書は、不確定な概念であるとしつつ、申請期限内に交付申請が提出されたにかかわらず補助事業等の適期を逸して交付するような事務処理は明らかに不当なものというべきであろうとしています(小滝・前掲320頁)。これは交付申請から交付までの場面について述べられたものですが、同書は、同条が規律する事務の範囲について、交付申請書の受理・審査に始まり、交付決定、概算払等の支払事務から額の確定、精算払等に至るおよそ補助金等の交付手続に関するすべての事務を意味するとしています(小滝・前掲319頁)。例示が交付までの場面であることは、同条の射程がそこに限られることを意味するものではありません。

同書は、同じ320頁で、同条はいわゆる訓示的規定であるとも述べています。もっとも、訓示的規定とは、事務に従事する職員が守るべき筋道を示した規定という意味で用いられる言葉ですので、交付の遅延そのものを問題とする場面で同条を援用することを妨げるものではないと考えております。この点は、コラム行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのかで述べています。

督促をする前に確かめておきたいのは、額の確定に必要な資料の提出が済んでいるかという点です。また、行政機関からの回答には相応の日数を要しますので、督促の時期はそれを見込んでお決めください。

補助金交付請求権の法的性質

交付決定は講学上の形成的行政行為であり、これにより補助事業者は補助金交付請求権を取得します。もっとも、この権利は純然たる私法上の金銭債権ではなく、適正化法・中小機構法に基づく「公の関係」上の権利であるため、民法412条3項(期限の定めのない債務)の規律が当然に適用されるわけではないという難しさがあります(公私二元論)。だからこそ、上記の適正化法上の期限の規律が重要な意味を持ちます。

とり得る法的手段の整理

(1) 実質的当事者訴訟による給付請求

補助金交付請求権は公法上の権利と整理されるため、その履行を求める訴訟形式としては、行政事件訴訟法4条後段の公法上の当事者訴訟(実質的当事者訴訟)が適切と考えられます。補助金本体の支払と、期限徒過後の遅延損害金の支払を併せて求めます。

(2) 国家賠償請求

交付の不当な遅滞自体を違法な公権力の行使と捉え、国家賠償法1条1項に基づき、遅延により被った損害(本来交付されるべき時期からの遅延損害金相当額、資金繰り悪化に伴う金融費用等)の賠償を求める構成です。(1)と両立し得る別個の構成であり、事案に応じて併用を検討します。

あなたが今できること

1年以上待たされているなら――督促という選択肢を

交付決定日・実績報告日・現在までのやり取りを時系列で整理してください。それをもとに、中小機構本体(理事長宛)への内容証明による督促を検討できます。

差し戻しが続いているなら――回答は慎重に

差し戻し対応のやり取りの中で「これは目的外では」等の指摘に発展し、減額や自主返納へ誘導されていく事案が見られます。違和感のある要求への回答は、送る前に一度ご相談ください。

資金繰りが限界に近いなら――その事情ごと相談を

融資の返済期限や資金ショートの見込みがあるなら、それ自体が対応の優先度と手段(交渉か訴訟か)を決める重要な事情です。事業の継続に関わる前に、早めにお知らせください。

よくある質問

補助金の支払期限はいつですか。

国の補助金は、財政法12条と予算決算及び会計令4条により、交付決定の翌年度4月30日が精算払の期限とされています。事業再構築補助金など中小機構の補助金については、中小機構法16条が補助金適正化法を準用し、同法14条について「国の会計年度」を「中小機構の事業年度」と読み替えていることから、交付決定の翌事業年度4月30日が期限と解する余地があると考えております。

交付期限(支払遅滞)ほか(対談・コラム) →

出典:中小機構法16条(e-Gov法令検索)

何年も待たされています。遅延損害金を請求できますか。

期限を過ぎても支払われなければ、遅延損害金の請求も視野に入ります。方法としては、補助金本体と遅延損害金の支払を求める実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)と、交付を不当に遅らせたことの違法を問う国家賠償請求(国家賠償法1条1項)が考えられ、事案に応じて併用を検討します。

出典:行政事件訴訟法4条(e-Gov法令検索)

督促の内容証明は、どこに送ればよいですか。

実務を担う事務局は、民間企業への委託先にすぎません。内容証明による督促は、法的責任を負う中小機構本体(理事長宛)に送ります。経験上、対応の主体が事務局から中小機構本体に切り替わることで、動きが変わる傾向があります。

交付申請の段階で差し戻しが何度も来ます。応じ続けるしかないのですか。

交付申請の段階の差し戻しは、まだ交付決定が出ていない段階のものですので、実績報告の段階の差し戻しとは意味が違います。この段階では、補助金を受け取る権利はまだ発生していませんので、求められた補正に応じて交付決定を得ることが基本になります。もっとも、同じ論点で差し戻しが繰り返される場合や、公募要領にも交付規程にも根拠の見当たらない資料を求められている場合は、どの定めに基づく求めなのかを書面で確認するところから始められます。交付決定が出た後の遅延とは、対応も争い方も別ですので、段階を分けてお考えください。

実績報告の差し戻しや追加書類の要求が何度も続いています。どう対応すればよいですか。

差し戻しへの対応のやり取りの中で「これは目的外では」等の指摘に発展し、減額や自主返納へ誘導されていく事案が見られます。必要以上のやり取りは避け、違和感のある要求への回答は、送る前に一度ご相談ください。

補助金交付遅延のご相談

交付決定通知書と、これまでのやり取りの記録があれば、その場で見通しをお伝えできます。

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