補助金の減額確定への対応
確定検査での減額、受け入れる前に
執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
確定検査で経費を「補助対象外」とされ、補助金を減額されたら
交付決定のときに認められた経費を、確定検査の段階で「対象外」に変えることは、許されないと解されます。確定は、交付決定の内容どおりに実施・支出されたかを照合する手続にすぎないからです(大津地判平成9年12月8日)。
その減額には、応じなくてよい可能性があります。減額した内容で実績報告を出し直す前に――そして、既に減額されてしまった後でも――できることがあります。
本ページの記載は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
「額の確定」とは何か
「額の確定」とは、補助金適正化法15条に基づき、実績報告と交付決定を照合して、交付する額を最終的に決める手続のことです。同条は、補助事業等の成果の報告を受けた各省各庁の長が、報告書等の審査や必要に応じた現地調査により、その成果が交付決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき額を確定して通知しなければならない、と定めています。
このうち、実際の支出額が交付決定時の事業費を下回ったために、実支出額で確定することを「減額確定」といいます。交付決定のときに認めた経費が補助対象かどうかを、確定の段階で審査し直す手続ではありません。
こんな状況ではありませんか
- 実績報告を出したら、「この経費は補助対象外」「汎用性があるから対象外」と言われた
- 指摘された経費を除いた内容で実績報告を出し直すよう促されている・「このままでは減額して確定することになる」と言われている
- 確定検査の結果、交付決定よりずっと少ない金額で確定された。差額は「出せません」と言われた
- 納得できないまま、減額された金額での確定や差額の返還に応じてしまいそうになっている
ひとつでも当てはまるなら、このページはあなたのために書いています。その指摘は、法律のルールからずれている可能性があります。
何がおかしいのか
「この経費は補助対象外と判断されました。該当部分を除外して実績報告を出し直してください。」
確定検査は、交付決定の内容どおりに実施・支出されたかを照合する「答え合わせ」の手続。交付決定で認めた経費を、あとから採点し直す場ではありません。
大津地判平成9年12月8日判タ981号73頁/補助金適正化法15条
つまり、交付決定の時点で「補助対象」と認めたものを、お金を払う直前になって「やっぱり対象外」と言うこと自体が、確定という手続の役割を超えているのです。あなたが交付決定の内容どおりに事業を行い、支出したのであれば、減額される理由はないはずです。
その指摘は、法律のルールからずれている可能性があります。
なぜ「争える」といえるのか
確定検査は「答え合わせ」にすぎません
大津地判平成9年12月8日判タ981号73頁
「汎用性がある」は、後出しできません
減額確定は、裁判で取り消すことができます
小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』230頁、232頁注(10)(「これに不服があれば抗告訴訟を提起しうることはいうまでもない」)
実績報告によらない減額であれば、理由を示す義務が生じると考えられます
補助金適正化法17条1項、21条の2/小滝・前掲334〜335頁
詳しい法的整理を読む(判例・文献の引用)
本来の「減額確定」とは
補助金適正化法15条の額の確定には、三つの態様があるとされています。実績が交付決定の内容と完全に一致する場合の単純確定、実支出額が交付決定ベースの事業費を下回る場合の減額確定、これを上回る場合の増額確定です。もっとも、文献は、実績事業費が増えた場合でも、補助金の種別によっては、当初の交付決定金額と同額となる旨を再確認するにとどまるとしています。このうち「減額確定」とは、本来、補助事業の実支出額が交付決定ベースの事業費を下回る場合をいいます。交付決定で内装工事費1,000万円とされていたところ実際は900万円で済んだ場合に、実支出額の900万円で確定する――事業者自身の支出額に基づく精算にすぎず、経費の適格性を事後審査する手続ではありません。
もっとも、減額確定は単なる確認行為ではありません。文献は、これを「原交付決定により相手方の取得した補助金等交付請求権の内容を変更する処分」として行われるものであり、形成的行為たる変権行為――すでに生じている権利の内容を行政庁の行為で変える行為――に属すると整理しています。だからこそ、不服があれば抗告訴訟(取消訴訟など、行政の処分そのものを争う訴訟です)を提起できることになります。
参考文献小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』229〜231頁、232頁注(10)(株式会社全国会計職員協会、2016)
実際に行われている処理の流れ
中小機構はこれを適正化法15条に基づく通常の精算手続と位置づけていますが、実質は、確定の枠を借りた交付決定の一部取消しであると考えております。交付決定の一部取消しであれば、本来、適正化法17条1項所定の取消事由(3類型)への該当と、理由の提示(補助金適正化法21条の2)等の手続が必要です。
15条の精算と、17条1項の一部取消しの分かれ目
まず、減額確定が想定している場面を確かめます。文献は、減額確定を、補助事業等に係る実支出額が交付決定ベースの事業費(補助基本額)を下回ることが「補助事業者等からの実績報告により明らかとなった場合に、精算手続として行われる行政庁の義務的行為」と説明しています(小滝・前掲335頁)。上の流れでは、事業者は交付決定の内容どおりに事業を行い、その全額を支出しています。実支出額が交付決定ベースの事業費を下回っているわけではありませんので、そもそも減額確定が想定する場面ではないと考えております。
次に、なぜ15条の確定には理由の提示が要らないのか、という問いから見ます。文献は、理由の提示の対象が四つの処分に限られた論拠について、立案当局ないし関係者による説明が見当たらないとして、その論拠を推測しつつ論じています。推測の中身は、減額確定が不利益処分の一つでありながら理由の提示を義務づけられていないのは、相手方が「その原因となる理由を承知しているものとみなしうる」ため(承知していればこそ実績報告がなされる、という趣旨です)と判断されたものとみられる、というものです。そのうえで、括弧書きで次のように付言しています。
参考文献「相手方からの実績報告なしに減額するためには、交付決定の一部取消しを行う必要があるが、この場合は理由提示の義務が課されている。」(小滝・前掲335頁)
※ 同334頁は、理由の提示の対象を四つの処分に限った論拠について、「立案当局ないし関係者による説明が(筆者の知る限り)まったく見当たらないため、その論拠を推測しつつ、当否を論ぜざるをえない」としています。
この整理に従えば、理由の提示なしに15条の確定として減額できるのは、事業者自身が実支出額の下回りを実績報告で明らかにした場面に限られることになります。交付行政庁の指摘に沿って経費を落とした実績報告を出させ、その額で確定するという処理は、事業者が自ら減額の原因を報告したものではありませんので、「相手方からの実績報告なしに減額する」場面に当たると考える余地があります。そうであれば、用いるべき権限は15条ではなく17条1項であり、同項は交付決定の「全部又は一部を取り消すことができる」と定めています(取消事由と手続については交付決定の取消し・返還請求のページで詳しく述べています)。
21条の2が理由の提示を義務づけている対象は、交付決定の取消し、補助事業等の遂行の命令、補助事業等の一時停止の命令、補助事業等の是正のための措置の命令の四つです。条文は、このうち二つを「補助事業等の遂行若しくは一時停止の命令」と一つの句にまとめて書いています。額の確定は、文言上ここに入っていません。もっとも、額の確定が対象から外れている理由が上のように推測されるのであれば、「確定」という形式を選んだことによって理由の提示を省けるわけではないと考えております。なお、文献は、補助金等の交付に関する処分は、額の確定を含め、明文の規定の有無にかかわらず書面で行うべきものと解されるとし、理由の提示も書面によるべきものとしています。理由の提示そのものについては交付決定取消しの事前通知が届いたらで述べています。
参考文献小滝・前掲289〜290頁
大津地判平成9年12月8日の判示
同判決は、確定を、交付決定の内容である事業費と実績事業費とが符合するかどうかを調査確認のうえ、国が最終的に交付すべき補助金等の金額に変更を加えるべきかどうかを判断し、この額を定める清算的手続行為であるとしています。そのうえで、「確定は、交付決定の存在を前提にしており、また、実績報告書に基づいて客観的に行なわれることを予定しているため、交付決定権者の裁量権を侵害するような確定を為し得ないことはもちろん、確定手続で右裁量権を行使することも許されない」と判示しています。この判決の事案と判示は、額の確定(適正化法15条)とは何かでも取り上げています。
同判決は、減額確定の位置づけについても述べています。まず、完了実績報告書に係る補助事業等の事業実績が交付決定の内容と「一致する場合には、国が最終的に交付すべき補助金等の金額を当初の交付決定金額と同一であることを単純に確認すれば足りるが、一致しない場合には減額確定、増額確定が可能である」としています。そして、確定は「単なる確認行為のほかに、交付決定により相手方の取得した補助金等交付請求権の内容を変更する処分という性格を有するものである」としています。文献も、この判示を自説と同じ見解を示すものとして引いています。
もっとも、この事件は、交付申請の添付書類に実際の決算と食い違いがあったことが後に判明した事案で、判決は、不正な申請が発覚した場合に確定を取り消して再確定することは許されるとして、請求自体は退けています。交付決定のときに補助対象と認めた経費を確定の段階で否認できるか、という本文の問題とは場面が異なりますので、引用するのは確定という手続の性質についての判示部分です。
参考裁判例大津地判平成9年12月8日判タ981号73頁(大津地方裁判所平成4年(行ウ)第6号・返還命令取消請求事件)
※ 同判決に対しては控訴がされており、控訴審の裁判は公刊物に見当たりません。
実際に寄せられたご質問から
事業再構築補助金で1,000万円台の採択を受けましたが、確定検査で「システム費用に汎用性があるから対象外」とされ、数百万円の返還を求められました。交付決定のときは対象経費として通っていたものです。既に返還してしまいましたが、今からできることはありますか。
できることはあります。減額確定の取消訴訟の検討です。出訴期間(行政事件訴訟法14条1項)のハードルはありますが、事案によっては期間徒過の「正当な理由」が認められ得ると考えています。システムに汎用性があることは交付決定の時点で分かっていたことですから、それを理由に確定段階で対象外とすることは当然にはできません。減額確定が取り消されれば、交付決定額と同額の補助金を受け取れる可能性があると考えられます。
※ 実際のやり取りを一般化・匿名化して掲載しています。結論は個別の事案の内容(交付決定・実績報告の内容等)によって異なります。
あなたが今できること
まだ確定前なら――出し直しに応じない
減額した内容での実績報告の出し直しは、急いで応じるべきではありません。まず、その指摘が法律上の取消事由(適正化法17条1項の3類型)のどれに当たるのかを、相手に確認しましょう。明確に答えられないなら、そもそも減額の根拠がない可能性が高いといえます。あわせて、その理由を書面で示すよう求めておかれるとよいと考えております。口頭のやり取りだけで出し直しに応じてしまうと、後から争うときに、相手がどの事由を理由としたのかを確かめる手がかりが残りません。
確定されてしまったなら――6か月以内に動く
減額確定は取消訴訟で争えます。ただし、原則として処分があったことを知った日から6か月という出訴期間があります(行政事件訴訟法14条1項)。確定通知が届いた日を確認して、早めにご相談ください。
返してしまったなら――取り戻せる場合があります
取消訴訟に勝訴すれば、返還したお金は法律上の原因を欠く「不当利得」となり、返還を請求できる場合があります。返した後でも、諦める必要はありません。
よくある質問
- 補助金の「額の確定」とは何ですか。
補助金適正化法15条に基づき、実績報告と交付決定を照合して、交付する額を最終的に決める手続のことです。同条は、補助事業等の成果の報告を受けた各省各庁の長が、報告書等の審査や必要に応じた現地調査により、その成果が交付決定の内容及び条件に適合するかどうかを調査し、適合すると認めたときは交付すべき額を確定して通知しなければならない、と定めています。
- 補助金の「減額確定」とは何ですか。
補助金適正化法15条の額の確定のうち、本来の「減額確定」とは、実際の支出額が交付決定時の事業費を下回った場合に、実支出額で確定することをいいます。たとえば、内装工事費1,000万円の交付決定に対し実際は900万円で済んだ場合に、900万円で確定するという精算です。経費が補助対象かどうかを、事後に審査し直す手続ではありません。
- 確定検査で「汎用性があるから補助対象外」と言われました。応じなければなりませんか。
裁判例は、確定は実績報告書に基づいて客観的に行われるもので、確定手続で裁量権を行使することは許されないとしています(大津地判平成9年12月8日)。そのシステムや設備に汎用性があることは、交付決定の時点で分かっていたことです。それを承知で交付決定した以上、確定の段階で持ち出して「対象外」とする理由にはなりません。
- まだ確定前ですが、指摘された経費を除いて実績報告を出し直すよう言われています。
急いで応じるべきではありません。確定の枠を借りて経費を否認することは、実質的には交付決定の一部取消しであり、本来は補助金適正化法17条1項の取消事由(3類型)への該当と理由の提示が必要です。まず、その指摘が3類型のどれに当たるのかを、相手に確認しましょう。
- 減額された金額で確定されてしまいました。争えますか。
減額確定は行政処分であり、取消訴訟で争うことができます。原則として処分を知った日から6か月の出訴期間があるため(行政事件訴訟法14条)、確定通知が届いた日を確認してください。取り消されれば、交付決定額どおりの補助金を受け取れる可能性があります。
交付決定通知書と実績報告の控えがあれば、その場で具体的な検討ができます。
減額確定を受けた方へ――交付決定通知書と実績報告の控えをお持ちください
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