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弁護士 岸上大起

補助事業を事業譲渡したら、補助金の返還や罰則の対象になるのか

このページの結論

事業再構築補助金で始めた事業を、設備ごと他の会社に譲りたいと考えています。事業譲渡をすると、補助金を返還しなければならなかったり、罰則を受けたりするのでしょうか。

譲り受けた会社が補助事業を続け、補助金で取得した財産が引き続き補助目的に沿って使われるのであれば、その事業譲渡は補助金適正化法22条が禁じる「交付の目的に反して」する譲渡には当たらず、返還の理由にはならないと考えております。

交付規程も、補助事業完了後の事業計画期間中の承継を、承認ではなく届出の対象としています。ただし、補助事業の実施期間中の承継には承認が必要とされているなど、時期によって手続が異なります。また、譲渡人には事業化状況報告の義務が残りますので、契約の作り方が重要になります。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 交付規程の手続――時期によって「承認」と「届出」

事業再構築補助金の交付規程は、事業の承継について、時期に応じて異なる手続を定めています。

  • 補助事業の実施期間中――補助事業の全部又は一部を他に承継させようとするときは、あらかじめ承認申請書を提出し、その承認を受けなければならないとされています(交付規程12条1項6号)。
  • 補助事業完了後の事業計画期間中――事業計画の全部又は一部を他に承継させようとするときは、届出書(様式第14-1又は様式第14-2)を速やかに提出することとされています(交付規程26条1項2号)。

完了後の承継が「届出」とされていることは、補助事業の継続を前提とする承継を、承認を要する財産処分とは区別していることを示していると考えております。

2 事業が続く譲渡は「交付の目的に反する」譲渡ではない

補助金適正化法22条が承認なしに禁じているのは、補助金で取得した財産を「交付の目的に反して」譲渡することなどです。最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁の調査官解説は、同条が問題としているのは、財産が補助目的に沿って管理されなくなることであると整理しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。

私見としては、裏を返せば、譲受人が補助事業を続け、財産が補助目的に沿って管理・使用される状態が契約上も確保されているのであれば、同条の規制対象となる譲渡には当たらないと考えております。補助金で取得した建物について、次のように説示した第一審の裁判例もあります。

引用(名古屋地判平成4年4月23日訟月39巻11号2262頁、判タ799号243頁)「……補助金等によって取得された建物が教育施設として引き続き利用されている限りは騒音被害を軽減する必要が存在するから、仮にこれを担保に供したとしても、他用途使用に当たるといえない場合がありうるのである。」

もっとも、これは、当該補助金の交付目的が騒音被害の軽減にあることを前提とした説示です。また、同事件の控訴審である名古屋高判平成5年2月23日(訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁)は、承認を受けないでした担保提供は補助金適正化法22条の規定に反する行為であると同時に交付決定に附された条件にも反する行為であり、同法17条1項所定の取消事由が生じたと判断しており、第一審のこの説示は維持されていません。前記の私見は、この第一審の説示に依拠するものではありません。なお、その控訴審判決についても上告がされていますが、上告審の裁判は公刊物に見当たりません。また、この事件で審理されたのは、取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではありません。

3 罰則との関係

補助金適正化法には罰則があり、補助金を他の用途に使用した者は処罰されるとされています(同法30条)。もっとも、この「他の用途への使用」については、補助金そのものを本来の使途以外の用途に現実に支出して、これを確定的に減少させる意思に出たことが明らかな場合に初めて構成要件に該当するものというべきであると解説されています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』410〜411頁)。

私見としては、補助事業を財産ごと引き継ぐ事業譲渡は、補助金そのものを別の用途に支出する行為とは性質が異なり、同条が予定する場面には当たらないと考える余地があります。もっとも、罰則の適用は事案ごとの判断であり、不正な手段による受給など事業譲渡とは別の問題がある場合には、話が変わります。

次のような場合は、譲渡の話を進める前にご相談ください

  • 補助事業を続けるのが難しく、事業譲渡を考えている
  • 補助事業を引き継ぐ側として、譲受けを検討している
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

事業譲渡を検討されている方は、こちらもご覧ください: 事業譲渡による解決(対応ページ)/事業譲渡の全文解説(コラム)

4 事業譲渡で気を付けること

事業譲渡によって補助事業者が一切の義務から解放されるわけではありません。私見としては、事業化状況報告の義務(交付規程25条1項)は、交付決定の名宛人である補助事業者に課された公法上の義務であり、事業譲渡によって当然に譲受人に移るものではないと考えております。

そのため、譲受人による事業の継続、財産の管理、報告への協力などを、事業譲渡契約書に盛り込んでおく必要があります。具体的にどのような条項を置くかは、「事業譲渡による解決」のページとコラムで詳しく述べています。なお、譲受人が別の場所で事業を続ける形でも「事業譲渡」といえるのかという点は、コラムの5で述べています。

補助事業の継続が難しくなり、事業譲渡を検討している事業者の方、引き継ぎを検討している事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、契約の前にご相談ください。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

  • 補助金適正化法22条、30条
  • 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程12条1項6号、25条1項、26条1項2号(様式第14-2)
  • 事業再構築補助金 よくあるご質問「財産処分について」Q20(事業承継)
  • 荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁
  • 名古屋地判平成4年4月23日訟月39巻11号2262頁、判タ799号243頁(控訴審=名古屋高判平成5年2月23日訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁。第一審の説示は維持されていない。控訴審判決については上告がされているが上告審の裁判は公刊物に見当たらず、審理されたのは取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではない)
  • 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』206頁、410〜411頁(株式会社全国会計職員協会、2016)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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