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弁護士 岸上大起

事業再構築補助金により取得した財産を含む補助事業を事業譲渡するという解決方法について

本稿は、note(2026年7月10日公開)に掲載した記事を転載したものです。2の末尾及び5は、サイトへの掲載に当たって加筆しました。note版はこちら →

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

本記事の概要

事業再構築補助金により取得した財産(以下「取得財産等」といいます。)には、処分制限期間が課せられます。処分制限期間は、減価償却資産の耐用年数に相当する期間とされており、財産の種類によっては数十年という長期に及びます。そして、処分制限期間内は、補助金適正化法22条に基づき、中小機構の承認を受けないで、取得財産等を補助金の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供することができないとされています。

取得財産等を既存事業と併用すること自体は原則として問題がないことについては、事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて|弁護士岸上大起事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて|弁護士岸上大起で述べたとおりです。

また、取得財産等の廃棄処分については、私見としては補助金適正化法22条が規制する財産処分には該当しないと考えているものの、最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決民集75巻3号317頁の調査官解説の整理を踏まえると、同条の規制対象に含まれるとする解釈の余地も否定し切れないことについても、過去の記事(事業再構築補助金で導入した設備を廃棄したら「残存簿価を返納せよ」――本当に応じる必要があるのか|弁護士岸上大起)で述べたとおりです。

それでは、補助事業が赤字であっても、処分制限期間が満了するまで、補助事業者は補助事業を続けるほかないのでしょうか。そうではありません。補助事業者自身が補助事業の継続義務から解放されつつ、補助金適正化法22条違反のリスクも回避できる方法として、補助事業の事業譲渡という選択肢があります。当職は、実際に、この方法により複数件の事業譲渡を成立させております。

本記事では、①補助事業の継続を担保した事業譲渡が補助金適正化法22条の規制対象に当たらないこと、②交付規程も補助事業の承継を届出制として予定していること、③そもそも何をもって事業譲渡といえるのか(譲受人が事業を行う場所を変える場合の扱いを含みます)、④実務上の留意点(事業譲渡契約書の設計)について述べます。

1 取得財産等の処分制限という問題――赤字でも補助事業を続けなければならないのか

事業再構築補助金の交付規程24条は、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産を処分制限財産とし、処分制限期間内における処分(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等)を制限しています。処分制限期間は、減価償却資産の耐用年数に相当する期間とされており、例えば建物であれば数十年に及ぶこともあります。

処分制限期間内は、補助金適正化法22条により、中小機構の承認を受けないで、取得財産等を売却することはできず、担保に入れることも、貸し付けることもできないとされています。

他方で、取得財産等を既存事業と併用すること自体は原則として問題ありませんし(前記過去記事参照)、廃棄処分についても、私見としては補助金適正化法22条違反には当たらないと考えております。もっとも、廃棄処分については、後記2の調査官解説の整理を踏まえると、同条の規制対象に含まれるとする解釈の余地も否定し切れず、リスクが残ることも否めません。

そうすると、補助事業が赤字となり、事業の継続が経営上困難となった補助事業者は、処分制限期間が満了するまで、赤字の補助事業を続けるほかないのかが問題となります。この問題に対する解決方法の1つが、補助事業の事業譲渡です。すなわち、取得財産等と、当該財産を用いて営む補助事業とを一体として第三者に譲渡し、補助事業の主体を譲受人に交代させることによって、補助事業者自身は補助事業の継続義務から解放されるという方法です。

2 補助金適正化法22条の趣旨と規制対象――調査官解説の整理

補助金適正化法22条は、補助事業者等が、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない旨を規定しています(財産処分制限)。同条ただし書は「政令で定める場合は、この限りでない。」としており、処分の制限が及ぶのは政令で定める財産に限られ、また、処分制限期間が経過すれば制限は外れます(この点は、処分制限期間は何年かで述べたとおりです)。同条の趣旨は、補助金等により形成された財産が補助金等の交付の目的に反して処分されることを防止し、補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものとされています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』245頁、295~296頁参照(株式会社全国会計職員協会、2016))。

この点、最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説は、同条に基づく承認の対象について、「補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなること」であると整理し、同条が列挙する「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」とは、補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなる具体例として挙げられているものと述べています。そして、同条に基づく承認は、補助事業者等が取得財産の管理等の義務を免れるという効果を持つものであることから、補助事業者等において補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は、承認を要するものと解されるとしています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁参照)。

すなわち、調査官解説の整理によれば、補助金適正化法22条が問題としているのは、取得財産等が「補助目的に沿って管理・使用されなくなる状態」が生じることです。裏を返せば、取得財産等が引き続き補助目的に沿って管理・使用されることが確保されているのであれば、同条の規制対象となる財産処分には当たらないということになります。

なお、この整理は、補助金で導入した設備を使って作った製品・商品を売る場面にも関わります。承認の対象となるのは、前記のとおり政令で定める財産であり、事業再構築補助金では、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産が処分制限財産とされ(交付規程24条1項)、処分制限期間内にこれを処分しようとするときは、あらかじめ中小機構の承認を受けることとされています(同条3項)。

他方、その設備を使って作った製品・商品(会計上の棚卸資産)は、補助対象経費により取得し、又は効用の増加した財産(同交付規程23条1項にいう「取得財産等」)には当たりません。同交付規程が定める補助対象経費の区分に、原材料や商品の仕入れが含まれていないからです(同交付規程別紙2)。かえって、同交付規程は、補助事業の成果に基づく製品、商品、サービスの販売又は譲渡を、事業化状況として報告すべき事柄に挙げています(同交付規程25条1項、様式第13の別紙「事業化状況等の実態把握調査票」3(1))。製品・商品を売ることは補助事業の遂行そのものであって、財産処分の承認の対象ではないと考えております。

処分制限期間内に設備そのものを売るのであれば、処分制限財産の処分として承認の要否が問題となります。もっとも、事業化による収益が生じたときの収益納付(同交付規程27条1項)は、財産処分に伴う納付とは別の仕組みとして定められています(収益納付との違いで述べています)。

本記事で引用している交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なりますので、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でお確かめください。

以下で述べる事業譲渡は、設備と、その設備を用いて営む事業とを一体として引き継がせる場面の話です。

3 補助事業の継続を担保した事業譲渡は、補助金適正化法22条の規制対象には当たらないこと

事業譲渡により取得財産等の所有権を第三者に移転させる行為は、一見すると、補助金適正化法22条が規制する「譲渡」に該当するように思われます。しかしながら、同条が規制するのは、あくまで補助金等の「交付の目的に反して」譲渡する行為です。補助金等の交付の目的に反しない譲渡であれば、同条の規制は及びません。

補助事業の事業譲渡は、譲受人が取得財産等を用いて補助事業をそのまま継続することを前提とするものです。譲渡の前後を通じて、取得財産等は補助事業のために使用され続けるのですから、補助金の交付の目的に反する譲渡には当たりません。前記2の調査官解説の整理を前提としても、譲受人による補助事業の継続と、譲渡人による管理・監督の仕組み(後記6)が契約上担保されているのであれば、取得財産等が「補助目的に沿って管理・使用されなくなる状態」は生じないのですから、同条の規制対象となる財産処分には当たらないと解されます。

さらに、事業再構築補助金の交付目的の観点からも、このことは裏付けられます。交付規程3条は、本補助金の目的について、「思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すこと」としています。構造転換を促すという目的からすれば、補助事業が継続されることこそが重要です。このまま補助事業を続ければ廃業に至るという補助事業者が、廃業して取得財産等を遊休化・廃棄させるのではなく、事業譲渡によって補助事業を継続させることは、まさに交付目的に適う行為であって、これを目的外処分として扱うことは、交付目的に照らして本末転倒であると考えております。仮に、補助事業の継続を担保した事業譲渡について、中小機構が交付決定の取消しや返還請求をしてくるのであれば、当職としては、行政訴訟によって争うべき事案であると考えます。

なお、裁判例として、名古屋地判平成4年4月23日(訟月39巻11号2262頁、判タ799号243頁)は、補助金の交付を受けて取得した建物を担保に供した行為について、「補助金等によって取得された建物が教育施設として引き続き利用されている限りは……仮にこれを担保に供したとしても、他用途使用に当たるといえない場合がありうる」と説示していました。もっとも、これは、当該補助金の交付目的が騒音被害の軽減にあることを前提とした説示です。しかも、同事件の控訴審である名古屋高判平成5年2月23日(訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁)は、承認を受けないでした担保提供は補助金適正化法22条の規定に反する行為であると同時に交付決定に附された条件にも反する行為であり、同法17条1項所定の取消事由が生じたと判断しており、第一審のこの説示は維持されていません。そのため、以上に述べた理解は、この第一審の説示に依拠するものではありません。

なお、この控訴審判決については、以下でも触れますので、二つの留保をここで述べておきます。一つは、同判決については上告がされていますが、上告審の裁判は公刊物に見当たらないことです。もう一つは、この事件で審理されたのは、取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではないことです。

4 交付規程も補助事業の承継(事業譲渡)を届出制として予定していること

以上の解釈は、中小機構自身が定めた交付規程の構造からも裏付けられます。

まず、財産処分制限について定める交付規程24条は、処分制限の対象となる「処分」として、補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等を挙げていますが、補助事業の継続を前提とする事業譲渡(承継)については、何らの記載もありません。

そして、交付規程26条1項は、補助事業完了後の事業計画期間において、「事業計画の全部又は一部を他に承継させようとするとき」は、様式第14-2による届出書を中小機構に提出しなければならないと定めています。ここで注目すべきは、これが承認(許可)制ではなく、届出制とされている点です。補助金適正化法22条の規制対象となる財産処分については、承認(講学上の許可)を受けて初めて禁止が解除されるという建付けであるのに対し、補助事業の承継については、届出書を提出すれば足りるとされているのです。

また、様式第14-2の別紙として定められている誓約書は、承継者が、「被承継者が独立行政法人中小企業基盤整備機構に対して有する一切の権利義務を……承継し、当該事業を、責任を持って続行し、その成果の事業化又は事業化の継続に努めること」を誓約する内容となっています。すなわち、交付規程は、承継者による補助事業の継続を担保させたうえで、補助事業の承継を届出のみで認めるという制度設計を採用しているのです。

もとより、交付規程が補助金適正化法に優先するわけではありません。しかしながら、制度を運用する中小機構自身が定めた交付規程ですら、補助事業の継続を前提とする承継を、承認を要する財産処分とは明確に区別し、届出制としているのです。このことは、補助事業の継続を担保した事業譲渡が、補助金適正化法22条の規制対象となる目的外処分には当たらないという前記3の解釈を、制度の運用面からも裏付けるものといえます。

5 そもそも何をもって「事業譲渡」といえるのか――場所を変えると「事業譲渡」ではなくなるのか

前記3及び4は、譲受人が取得財産等を用いて補助事業をそのまま継続する形の譲渡を前提としてきました。もっとも、引き継ぐ側は、自社の既存の拠点で事業を続けたいと考えることもあります。そうすると、事業を行う場所が変わりますので、それでは「事業譲渡」とはいえないのではないか、という問題が生じます。この点について、当職は、場所を変更しての事業譲渡も可能であり、補助金適正化法22条に反しない場合も十分にあり得ると考えております。

出発点として、事業譲渡とは何かを確認します。最高裁判所大法廷昭和40年9月22日判決(民集19巻6号1600頁)は、商法245条1項1号によって特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法二五条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」と判示しています。

これは、会社法制定前の商法245条1項1号の「営業の譲渡」についての判決です。会社法の制定により営業の譲渡が事業の譲渡と呼ばれるようになったのは、もっぱら用語の統一・整理を図るためとされており、両者に違いはないと考えられていますので(井上能孝「事業の継続は事業譲渡の要件か」2頁)、営業譲渡と事業譲渡は同じものと解されております。もっとも、以上は会社法上の事業譲渡に当たるかどうかの議論であって、補助金適正化法22条の「交付の目的に反して」する処分に当たるかどうかの判断に当然に直結するものではありません。本節は、事業の実態をどのように見るかという観点からの整理としてお読みいただければと思います。

この定義からすると、事業譲渡に当たるためには、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部が譲渡されることが必要ですので、単に財産を譲り受けて同種の事業を行うだけでは、事業譲渡には当たりません。平成以降の裁判例についての文献の整理によれば、事業譲渡の形式をとっていても、組織化され有機的一体として機能する財産の譲渡とはいえないとして事業譲渡に当たらないとした例が多いとされています(井上能孝「事業の継続は事業譲渡の要件か」28頁及び同頁脚注20)。その判断においては、取引先を承継しているか、営業のノウハウ・方法を承継しているか、商号を承継しているか、従業員をどのように扱ったかといった実態が考慮されます。

そうすると、事業を行う場所を変更したからといって、それだけで事業譲渡に当たらないということにはなりません。場所の変更は、事業譲渡に該当しないことを基礎づける消極的な事情の一つにはなり得ますが、それのみをもって事業譲渡に該当しないとはいえないと考えております。結局は、その事業を営むのに必要な財産を一体として引き継いでいるか、取引先を引き継いでいるか、営業のノウハウ・方法の引継ぎの有無、従業員をどのように扱ったかといった事情を踏まえて、実態として同じ事業が続いているのか、それとも形式的に財産を引き継いだだけなのかが判断されることになります。そして、事業譲渡に当たるのであれば、前記3で述べた事業再構築補助金の交付の目的からして、補助金適正化法22条が規制する交付の目的に反する処分とはいえず、場所を変更して事業譲渡をすることもできると考えております。

また、取得財産等のうち大きな部分を譲受人に渡さずに置いていくのであれば、一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲ったとはいいにくくなると考えております。

もっとも、取得財産等の種別によって、見方が分かれます。補助金の交付を受けて取得した不動産・建物部分で営む事業は、その場所で営むことが事業の本質であると思われますので、その場所を変更するのであれば、外形上は事業譲渡の形をとっていても、実態としては事業譲渡とはいえないことになるかと思います。他方、機械装置・設備といった動産については、補助事業の内容によるほかありませんが、その場所で行うことが事業の本質であるといえないのであれば、場所が変わったとしても補助金の交付の目的に反するとはいえないのではないかと考えております。

また、特定の地域において事業を実施することが補助金の交付の目的となっている場合には、事業譲渡をすること自体が直ちに補助の目的に反するとはいえないとしても、その補助金が想定している地域の外で事業を行えば、補助の目的に反することになります。この場合には、想定されている地域が市町村の範囲なのか、都道府県の範囲なのかという解釈が問題となり、その補助金の関係規程等を踏まえて判断することになります。

以上は法的な整理です。実際にこの方法を採ることができるかどうかは、引き取り手が見つかるかどうかと、財産を持ち出せるかどうかによって決まってきます。機械・装置のように取り外して運び出せる財産であれば、譲受人の拠点へ物理的に移すことはできます。他方、賃借している建物に施した内装・造作は、取り外して持ち出すことができませんので、設備ごと引き継ぐという整理からは外れ、撤去して廃棄するのか、そのまま残して引き渡すのかという別の問題になります。借りている店舗・土地から退去する場面の整理は、Q&A「借りている土地・店舗に補助金で設備や内装を付けた。退去するときどうなるのか」で別に述べています。

なお、実質は財産の売買であるのに、形だけ事業譲渡の外観を作るという取引は、本節の整理が及ぶものではありません。有機的一体として機能する財産の譲渡という実態がなく、取得財産等が補助目的に沿って管理・使用されなくなるのであれば、前記2の調査官解説の整理からしても、補助金適正化法22条が規制する財産処分に当たることになると考えております。

手続の面では、補助事業完了後の事業計画期間における承継は、前記4のとおり、交付規程が様式第14-2による届出を求めているもので、財産処分の承認とは別のものです。場所を変えること自体について交付規程上の手続が要るのかという点は、前記のQ&Aで述べています。また、事業の種類によっては、営業の許可・届出が施設や場所ごとに必要となることがありますので、補助金の手続とは別に確認しておく必要があります。

6 事業譲渡の留意点――補助事業者に残る義務と、事業譲渡契約書による管理の仕組み

もっとも、事業譲渡をすれば、譲渡人(補助事業者)は「譲渡して終わり」となるわけではない点に注意が必要です。

交付規程25条1項は、事業終了年度から5年間の事業化状況報告を補助事業者に義務づけています。この点、前記の様式第14-2別紙の誓約書は、承継者が「一切の権利義務を……承継」する建付けとなっており、中小機構としては、事業化状況報告義務も承継者に承継されるとの理解であると思われます。

しかしながら、この理解は誤りであると考えております。事業化状況報告義務は、事業譲渡によって譲受人に移転するものではなく、譲渡後も、原始的な補助事業者が負い続けるものです。すなわち、同義務は、交付決定という行政処分(行政行為)に基づいて、その名宛人である補助事業者に課される公法上の義務であり、その帰属は交付決定の時点で確定しています。このような公法上の義務が、私人間の事業譲渡契約によって当然に第三者へ移転するものではありません。

もっとも、中小機構が上記のような理解に立って運用している以上、承継者からの報告がないことを捉えて不要な軋轢が生じることも考えられます。そこで、実務上は、譲渡人と譲受人の双方から事業化状況報告を行うことを推奨しており、当職が関与した事案では、実際にそのように対応していただいております。

このように、譲渡人は、事業譲渡後も自ら事業化状況報告義務を負い続けるのですから、「譲渡して終わり」というわけにはいきません。譲渡人としては、譲受人から補助事業の遂行状況や報告に必要な情報の提供を受け、自らの報告義務を無理なく履行できる仕組みと、譲受人が補助事業を継続し、取得財産等を補助目的に沿って管理・使用していることを把握し、管理・監督できる仕組みとを、契約上確保しておく必要があります。前記2の調査官解説の整理に照らしていえば、補助事業者が「補助目的に沿って管理」できる状態を、契約によって維持するということです。

この観点から、当職が作成する事業譲渡契約書では、通常の事業譲渡の条項に加えて、例えば次のような条項を設けています。

・譲受人が処分制限期間中、補助事業を継続する義務

・譲受人が取得財産等を善良な管理者の注意をもって管理し、補助金の交付の目的に従ってその効率的運用を図る義務

・譲受人が中小機構及び譲渡人の承認を受けないで、取得財産等を補助金の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供することの禁止

・事業化状況報告に関する譲受人の報告・協力義務(譲渡人に対する事業化報告書の提出を含む)

・譲渡人が、譲受人に対して報告をさせ、又は譲受人の事務所・事業場等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、関係者に質問することができる権限(報告徴収・立入検査権限)

・譲受人が補助事業を再承継させる場合における、中小機構への届出義務及び再承継者との間で同内容の条項を含む合意をする義務(管理の連鎖)

・交付規程様式第14-2の別紙誓約書への署名及び中小機構への届出に関する手続

このほか、補助事業者が中小機構に対して負い得る債務(返還義務が生じた場合の返還債務等)の承継が問題となる場合には、債権者である中小機構の承諾(民法470条3項、472条3項参照)を停止条件とする条項を設けることなども、法的安定性の観点から検討に値します。

このような契約設計により、譲渡の前後を通じて、取得財産等が補助目的に沿って管理・使用される状態が担保され、補助金適正化法22条違反のリスクは回避されることになります。

7 仮に22条違反とされたとしても、直ちに交付決定の取消しが許されるわけではないこと

念のため付言すると、仮に事業譲渡が補助金適正化法22条に形式的に違反すると判断されたとしても、そのことから直ちに交付決定の取消し(同法17条1項)が許されるわけではありません。

前記3で触れた名古屋地判平成4年4月23日の控訴審である名古屋高判平成5年2月23日(訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁)は、22条違反により取消事由が発生したとしても、「直ちに取消権を行使し得る状態であったかはともかくとして」と判示し、取消事由の発生と取消権行使の可否とを区別したうえで、取消権行使の相当性を、補助目的が達成される可能性が消滅するに至ったかどうかを基準として判断しています。

同判決については、前記3で述べた二つの留保が、ここでも当てはまります。すなわち、上告がされていますが上告審の裁判は公刊物に見当たらず、また、この事件で審理されたのは取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであって、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではありません。

事業譲渡によって補助事業が継続されている限り、補助目的が達成される可能性は消滅していないのですから、仮に22条違反が認められたとしても、交付決定の取消しは比例原則に反し、裁量の逸脱・濫用として違法になると考えられます。

8 事業譲渡は、譲渡人・譲受人・国(中小機構)のすべてにとって望ましい解決方法であること

補助事業の事業譲渡は、関係するすべての当事者にとって合理的な解決方法であると考えております。

まず、譲渡人(補助事業者)にとっては、廃棄処分に伴う補助金適正化法22条違反のリスク(前記の過去記事参照)を回避しつつ、赤字の補助事業の継続義務から解放されるという利益があります。廃棄処分と比較しても、事業譲渡のほうがリスクの小さい選択肢であるといえます。

次に、譲受人にとっては、相応の規模の設備・システム等を含む事業を、相当な価格で取得できる機会となります。補助事業の継続が困難となっている譲渡人は、早期の譲渡を望んでいることが通常であり、高額な対価を要求しないことが多いためです。同種の事業に既に取り組んでおり、「このやり方であれば自社ならうまく回せる」という見立てを持つ事業者にとっては、有力な事業拡大の手段となり得ます。

そして、国・中小機構にとっても、補助金を投じて取得された財産が廃棄・遊休化されることなく有効活用され、補助事業が継続されることによって、交付目的(日本経済の構造転換を促すこと)が引き続き達成されるという利益があります。せっかく補助金を投じて取得された財産と、立ち上げられた事業です。廃棄してしまうのはもったいない。継続できる者に引き継いで活用することこそが、補助金制度の趣旨に適うはずです。

9 まとめ

事業再構築補助金により取得した財産には長期の処分制限期間が課せられますが、補助事業が赤字となっても、処分制限期間が満了するまで補助事業を続けるほかないというわけではありません。補助事業の継続を担保した事業譲渡という選択肢があります。

補助事業の継続を担保した事業譲渡は、調査官解説の整理を前提としても、補助金適正化法22条の規制対象となる目的外処分には当たらないと解され、交付規程自体が承継を届出制として予定していることも、この解釈を裏付けています。廃棄処分に伴うリスクを回避しつつ、補助事業の継続義務から解放される方法として、有力な選択肢であると考えており、当職は、実際に複数件の事業譲渡を成立させております。

もっとも、事業譲渡が有効な解決方法となるためには、譲受人による補助事業の継続と、譲渡人による管理・監督の仕組みを担保する契約設計が不可欠です。処分制限期間中の補助事業の継続にお悩みの事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、ぜひご相談ください。

なお、士業・支援機関の先生方との連携の形については、特設ページ(士業・支援機関・お取引先企業の方へ)をご覧ください。なお、事業譲渡に関するご相談は、当職が直接お受けしています。

この論点で実際にお困りの方向けに、状況別の対応をまとめたページがあります:

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

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