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弁護士 岸上大起

補助金で取得した設備を廃棄することは「処分」か――裁判例紹介:東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金で導入した設備を、処分制限期間(補助金で取得した財産を自由に処分できないとされる期間)の途中で廃棄することになった。そのようなとき、中小機構や事務局からは、財産処分の承認を申請するよう求められ、承認と引き換えに、残存簿価相当額(取得価額から減価償却費の累計を差し引いた額をもとに算出される額)の納付を求められます。この流れは、いまでは当然のことのように扱われています。

しかし、この運用には出発点があります。「廃棄は、補助金適正化法22条が承認の対象としている『処分』に当たる」という前提です。そして、同条の条文に並んでいるのは「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」の五つだけで、「廃棄」も「取壊し」も書かれていません。

この点を正面から判断した裁判例が、一件だけあります。東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁です。国庫補助を受けて建てられた中学校のクラブハウスを処分制限期間内に解体撤去することが22条に違反するか、という事件で、裁判所は違反しないと判断しました。判例タイムズの匿名コメント(判決の末尾に編集部が付する無署名の解説)は、「補助金等適正化法二二条の適用が問題となった事例は本件のほかに見当たらないようであり、本判決の判旨一は先例として参考価値がある」と述べています。

本稿は、裁判例を紹介するシリーズの一本です。はじめにこの事件の中身と判示、匿名コメントを紹介し(1)、次に、この判断といまの通達・交付規程・自治体の定めとの食い違いを示します(2)。そのうえで、まず法律の条文に戻るべきだという視点――補助金適正化法4条の優先適用――を述べ(3)、この裁判例に向けられている批判と、これと異なる整理にも正直に触れます(4)。最後に、行政の運用がこの点で動いていないこと(5)と、制度の目的から見てこの運用をどう考えるか(6)を述べます。

以下には当職の私見が含まれます。また、同種の論点について、現在、訴訟を追行しており、判断が出れば公開いたします。本稿では、その事件の内容には立ち入りません。

1 どのような事件で、何が判断されたのか

(1)事案

東京都杉並区の区民が、同区長を相手に、区立中学校の校舎改築等工事と、その工事に伴う工事請負代金の支出の差止めを求めた住民訴訟です。住民訴訟とは、住民が、自治体の違法な財務会計上の行為について、自治体の機関を相手に是正を求める訴訟をいいます(本件は地方自治法242条の2第1項1号の差止請求です)。

区民が改築を違法だとした理由は二つありました。第一が、解体撤去が予定されていた校庭南西隅のクラブハウス(昭和54年建築)の建築に際して国庫補助が交付されており、補助金適正化法22条、同法施行令14条1項2号、昭和60年文部省告示28号により、まだ処分が禁止されている期間内であるということ。第二が、クラブハウスを解体撤去して新校舎内に新しいクラブハウスを設置することは予算の無駄遣いであり、地方財政法8条に違反するということです。

処分制限期間について、区民は鉄筋コンクリート造建物として65年間であると主張し、判決は、学校用の建物に該当するものと考えられ、その処分制限期間は60年とされていると認定しました。いずれにしても期間内です。処分制限期間が数十年に及ぶことがあるという点は、この事件でも前提になっています(処分制限期間の長さについては、補助金で取得した財産の処分制限期間は何年か――「10年ルール」はあるのかをご覧ください)。

(2)判示

判決は、請求をいずれも棄却しました。そのうち22条についての判断は、次のとおりです。まず、同条の趣旨を次のように述べています。

引用(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)

「ところで、補助金等適正化法は、補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目的として制定されたものであるところ、同法二二条は、補助事業等による取得財産を補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供することを規制するものであるが、これは、事務費等のサービス給付に係る補助金等にあっては資金が目的どおり消費されることによって補助目的が達成されたものとみることが可能であるのに対し、施設整備のための事業費補助金等にあっては、単に資金が目的どおり消費されるだけではなく、補助事業等の終了後も当初の目的どおりに使用されるのでなければ補助目的が達成されたとはいえないことから、実質的に補助金等の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為を規制したものであると解される。」

そのうえで、結論を次のように述べています。

引用(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)

「したがって、補助金等の目的どおりに建設され、その後も目的どおり使用されていた施設を未だ耐用年数が十分残っている段階で解体するような行為は、それ自体経済的合理性の観点からその当否が検討される余地のあるものであるとしても、同条の規制する行為の対象には含まれないというべきであるから、本件クラブハウスの解体撤去が同条に違反するとの原告の主張は失当である。」

読み方の順序が大事です。判決は、まず22条が何を防ごうとしている条文なのかを定め(=実質的に補助金等の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為の規制)、そのうえで、目的どおりに造られ、目的どおりに使われてきた施設を壊す行為は、そこに入らないとしています。つまり、「条文に書いていないから」とだけ言っているのではなく、条文が何のために置かれているかを押さえたうえで、壊す行為はその射程の外だと述べているのです。

なお、同じ判決は、地方財政法8条違反の主張についての判断のなかで、クラブハウスについて「まだ相当の残存耐用年数を残すもの」と述べています。この点は後記4で改めて触れます。

(3)判例タイムズの匿名コメント

判例タイムズ736号151頁は、この判決を、次の判示事項を掲げて収録しています。

引用(判例タイムズ736号151頁)

「一、国庫補助を受けて建築されたクラブハウスの解体撤去が補助金等適正化法二二条に違反しないとされた事例」

そして、匿名コメントは、この判決の先例としての価値を、次のように評価しています。

引用(判例タイムズ736号151頁《解説》)

「補助金等適正化法二二条の適用が問題となった事例は本件のほかに見当たらないようであり、本判決の判旨一は先例として参考価値がある。」

同コメントは、関連する裁判例として、旧校舎の取壊しの必要性に疑問をもって建築差止めの仮処分申請を認容した浦和地判昭和52年1月28日判時843号29頁と、その控訴審である東京高判昭和52年12月16日判タ365号267頁・判時876号79頁を挙げ、控訴審が、取壊しは政策の当否の問題であって違法性の問題ではないとして原判決を取り消したことが参考になるとしています。壊すかどうかの当否と、それが違法かどうかとを分けて考えるという姿勢は、本件の判示が「経済的合理性の観点からその当否が検討される余地のあるものであるとしても」と述べている部分と重なります。

(4)控訴審について

匿名コメントのヘッダには「請求棄却・控訴」と記されており、判例タイムズの編集の時点で既に控訴されていたことが分かります。

控訴審の扱いについては、文献の注記しか手がかりがありません。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』298〜299頁(全国会計職員協会、2016)注(2))

「本事件は補助金適正化法二二条の適用が問題とされた初めてのケースであるが、右判旨は本書の見解と同一であり、控訴審(東京高裁、平成二年(行ウ)第一〇号、平成二年七月一九日判決)においても支持されている。」

同書308頁注(21)も「控訴審判決もこれを支持している(前注2参照)。」としています。もっとも、控訴審判決そのものは公刊物に見当たりません。事件番号の符号も、原本には「(行ウ)」と印刷されています(高等裁判所の行政事件の控訴審は通常「(行コ)」です)。本稿では、文献がそのように注記している、という形で引くにとどめます。

2 この判断と、いまの行政の定めとの食い違い

この裁判例の判断は、いまの行政の定めと、正面から食い違っています。順に見ていきます。

(1)法律

引用(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条)

「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」

挙げられている行為は五つです。「取壊し」「廃棄」「その他の処分」「処分」という語は、条文には出てきません。

(2)政令

22条は、「政令で定める財産」と「政令で定める場合」という二か所で政令に委ねています。それを受けた施行令13条は、不動産、船舶、航空機、その従物、機械及び重要な器具などを掲げ、財産の範囲を定めています。同14条は、補助金等の全部に相当する金額を納付した場合と、定められた期間を経過した場合を掲げ、適用除外を定めています。

つまり、政令は、制限される「行為」を一つも足していません。 22条が政令に委ねたのは財産の範囲と適用除外であって、行為を追加することは委ねられていない、という構造になっています。

(3)通達

ところが、経済産業省の通達「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・6・10会課第5号)は、次のように書きます。

引用(平成16・6・10会課第5号 1.(2))

「しかしながら、社会経済情勢の変化や補助事業者等自身における事情の変更により、処分制限財産の補助金等の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付け、担保に供する処分その他の処分(以下「財産処分」という。)をすることについて、補助金適正化法第22条の承認をした方が補助金等の交付目的に資する、又は処分制限財産の有効活用に寄与すると認められる場合がある。」

法律の五つの列挙に、「その他の処分」という受け皿の言葉が付け加えられています。そして、その受け皿の中身として、通達は次の二つを新たに定義します。

引用(平成16・6・10会課第5号 2.(1))

「取壊し:処分制限財産(施設(土地を含む。以下同じ。)に限る。)の使用を止め、取り壊すこと。 廃棄:処分制限財産(設備に限る。)の使用を止め、廃棄処分すること。」

そのうえで、国庫に納める額を次のように定めています。

引用(平成16・6・10会課第5号 4.(2))

「転用、無償譲渡、無償貸付け、交換、取壊し又は廃棄の場合の国庫納付額は、残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額とする。ただし、鑑定評価を行う場合には、鑑定評価額に補助率を乗じた金額と前記の金額で高い方とする。」

ここに、いまの運用の骨組みがあります。「壊す・捨てる」を財産処分に取り込み、それに残存簿価相当額の納付を結び付ける、という組み立てです。

(4)交付規程

中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程24条1項は、次のように定めています。

引用(交付規程24条1項)

「取得財産等のうち、処分(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等をいう。)を制限する財産(以下「処分制限財産」という。)は、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産とする。」

五つに「廃棄」が加わり、さらに「等」が付いています。もっとも、この定義には「取壊し」が入っていません。にもかかわらず、同条5項には「取壊し又は廃棄」という言葉が出てきます。

引用(交付規程24条5項)

「補助事業者は、処分制限財産が災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合は、第3項の規定にかかわらず、様式第12-4による財産処分報告書を中小機構に提出することにより、財産処分の承認を受けたものとみなすことができるものとする。」

同じ条の中で、定義規定と個別規定の言葉がそろっていません。法律の五つの列挙が、通達では受け皿の言葉を介して七つになり、交付規程では「廃棄等」になる。下に降りるほど、言葉が揺れています。

なお、納付の根拠となる24条6項と、通達がそこで参照されていることについては、処分制限期間中に補助金で取得した設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければならないのかの1で条文を引いて述べています。

(5)省庁横断の決定

通達の上流には、国全体の決定があります。小滝307頁注(20)は、平成20年4月10日の補助金等適正化中央連絡会議決定事項を、次のとおり引用しています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』307頁(全国会計職員協会、2016)注(20))

「地方公共団体が、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産(以下「補助対象財産」という。)を、財産処分(補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、担保に供し、又は取壊すこと等をいう。以下同じ。)する場合の補助金等適正化法第二十二条の規定に基づく各省各庁の長の承認は、下記により行うこととする。なお、地方公共団体以外の者の補助対象財産についても、下記の趣旨を踏まえて、適切に対処すること。」

ここでも、法律にない「又は取壊すこと等」が、行政内部の申合せによって「財産処分」に取り込まれています。

(6)自治体の定め――同じ役所の中で説明が変わっている例

自治体にも、同じずれが現れます。

東京都補助金等交付規則(昭和37年東京都規則第141号)24条は、22条と同じ五つの行為だけを掲げています。

引用(東京都補助金等交付規則24条)

「補助事業者等が補助事業等により取得し、または効用を増加した次に掲げる財産を、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、または担保に供しようとするときは、あらかじめ知事の承認を受けさせなければならない。」

ところが、この規則24条に基づく承認の取扱いを定めた都の「補助金等交付財産の財産処分承認基準」(23財主財第38号。平成23年6月1日。最終改正 令和元年10月18日)は、規則24条の五つの行為をそのまま引いた段落の直後で、「取壊し及び廃棄」を財産処分として扱います。

引用(東京都「補助金等交付財産の財産処分承認基準」第2の1⑴ただし書・⑵)

「ただし、有償譲渡、有償貸付、交換(交換差益が生じる場合)、担保に供する処分、取壊し及び廃棄を除く。 ⑵ 次のア又はイのいずれかに該当する場合の施設等の取壊し又は廃棄」

さらに、納付額の算定式にも「取壊し」が入っています。

引用(同基準 第3の2⑴)

「⑴ 使用、譲渡、取壊し又は交換の場合 納付額 = 処分財産の補助金額-(処分財産の補助金額/処分財産の制限年数)×経過年数」

これに対して、神奈川県の補助金の交付等に関する規則(昭和45年3月31日規則第41号)17条は、行為そのものを条文に書き込んでいます。

引用(神奈川県 補助金の交付等に関する規則17条)

「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した次に掲げる財産を知事の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、担保に供し、取り壊し、又は廃棄してはならない。」

ここで、はっきりさせておくべきことがあります。自治体が自己の財源で交付する補助金は、補助金適正化法2条1項の「補助金等」(国が国以外の者に対して交付するもの)に当たりませんので、22条が直接適用されるわけではありません。したがって、自治体ごとに書き方が違うこと自体は、当然のことです。

それでも、この二つの例には意味があります。一つは、東京都のように、法律と同じ五つの行為を掲げた規則を持ちながら、規則を改正せずに運用文書の側で行為を増やしている例があるということ。もう一つは、神奈川県のように、取壊し・廃棄を規制したいと考えた自治体は、それを条文に書いているということです。五つの文言が解釈によって取壊し・廃棄を含むのであれば、神奈川県のように書き足す必要はないはずです。 行為を増やしたいのであれば法規を直す、というのが筋であることを、この対比は示しています。

3 まず法律の条文に戻る――補助金適正化法4条の優先適用

ここまで見てきたずれを、どう考えるべきでしょうか。当職が着目しているのは、補助金適正化法4条です。

引用(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律4条)

「補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。」

この条文は、補助金に関する一般法・基本法としての適正化法の位置を定めたものです。そして、何が「特別の定」になるのかについて、文献は、形式の面からはっきりと線を引いています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』57頁(全国会計職員協会、2016))

「単なる行政規則にすぎない告示(国家行政組織法第一四条第一項)や訓令又は通達(同条第二項)の法形式はこれには含まれない。したがって、補助金等交付規程あるいは補助金等交付要綱等の行政規則に特別の規定をしても、それによって「特別の定」となることはありえない。」

ここでいう行政規則とは、行政の内部を規律するために作られる定めをいい、国民を直接拘束する法規とは区別されます。通達も交付規程も、これに当たります。

そうすると、順序はこうなります。まず、補助金適正化法22条があります。 通達や交付規程は、その下に置かれた行政内部の定めであって、22条に優先するものではありません。通達自身も、その1.(1)で「補助金適正化法第22条の趣旨を勘案すれば」と述べて、自らを22条の下に置いています。それなのに、下にある定めの側が、法律にない行為を書き足し、その書き足した行為について法律上の承認と納付を導く、という形になっているのが現状です。

さらに、前記2(2)で述べたとおり、22条が政令に委ねたのは「財産」と「適用除外」であって、制限される「行為」の追加ではありません。法律が政令にすら委ねていない事柄を、政令より下の行政規則が決めている、という構造になっています。

ただし、ここは正直に射程を限っておきます。4条が直接答えているのは、「それは適正化法に優先する特別の定か」という問いであって、「22条の『使用し、譲渡し……』という文言をどう解釈するか」という問いそのものではありません。相手方からは、「これは22条の解釈の問題であって、4条の特別の定の問題ではない」と切り返される余地があります。したがって、4条から出てくるのは、「22条の文言と趣旨に戻って考えよ」という一歩であって、それだけで結論まで届くものではありません。その一歩の先を埋めるのが、前記1の東京地判平成2年1月30日の示した趣旨論であると考えております。

なお、法律が列挙した事由を行政内部の文書が広げてよいのか、という問題意識自体は、学説にもあります。碓井光明『公的資金助成法精義』213頁(信山社、2007)は、取消事由についてですが、次のように述べています。

引用(碓井光明『公的資金助成法精義』213頁(信山社、2007))

「第二に、各省庁の定めている補助金交付要綱のなかには、適正化法の交付決定取消事由を拡大しているとみられるものがある。」

「前者に関しては、要綱に定めることはすべて補助の条件であると解し、補助条件違反についてのみ指示も可能であると解するならば一応問題をクリアーすることができるが、どのような補助条件であってもよいというものではあるまい。」

これは17条1項(交付決定の取消し)についての指摘であって、22条の処分の範囲についての指摘ではありません。そのことは、はっきりさせておきます。ただ、法律が列挙した事柄を行政内部の文書が広げることへの慎重な姿勢という点では、問題意識は共通しています。

4 反対の材料――この裁判例への批判と、これと異なる整理

ここまでが当職の立場です。もっとも、この裁判例が無条件に通用するわけではありません。反対の材料を三つ、正直に挙げます。

(1)文献による批判

まず、この判決には、文献からの批判があります。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』308頁(全国会計職員協会、2016)注(21))

「解体撤去が本法二二条の規制する他目的使用、譲渡、交換、貸付け又は担保供用のいずれにもあたらないから違法でないとするのは余りにも文理解釈にすぎるとの疑問が残るが、地震対策上存続使用が危険視されていたという事情が斟酌された点に留意しなければならないであろう。」

行政との交渉の場で、この判決について「学説から批判されている」と指摘されることがあります。その指摘の出どころは、この一文です。

ただし、この批判を引くときは、同じ本の他の箇所も併せて読む必要があります。第一に、同書は、同じ注の末尾で「控訴審判決もこれを支持している」と述べています。第二に、同書は、前記1(4)で引いたとおり、「右判旨は本書の見解と同一であり」と述べています。批判しているのと同じ著者が、本文では判決と同じ立場に立っているのです。 第三に、同書は本文で次のように述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』306頁(全国会計職員協会、2016))

「なお、処分制限期間内であっても本条(適正化法第二二条)違反の処分ではないと判例上認定された行為もあることに注意すべきである。」

つまり、注(21)の批判は、「余りにも文理解釈にすぎるとの疑問が残る」という留保であって、結論を覆すものとしては書かれていません。「学説の批判がある」とだけ引くのは、一面的な引き方であると考えております。

なお、注(21)が留意点として挙げる「地震対策上存続使用が危険視されていたという事情」については、判決の認定と照らすと、そのまま受け取りにくいところがあります。判決が耐震上の問題を認定したのは校舎についてであり、解体撤去されるクラブハウス自体については、「まだ相当の残存耐用年数を残すもの」としたうえで、改築後の運動場の面積を確保するという別の理由から撤去に合理性があるとしています。判例タイムズの匿名コメントも、判旨二について、校舎に耐震上の問題があり、改築した場合の運動場の面積確保のためにクラブハウスを解体撤去することとしたことに合理性があると要約しています。クラブハウス自体が危険だったから結論が変わった、という読み方には、当職としては疑問があります(この点は当職の読み方です)。

(2)承認の対象を広く捉える整理

次に、最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁の最高裁判所判例解説民事篇(令和3年度)の整理があります。中小機構は、この整理を根拠として、東京地判平成2年1月30日を退けています。

同解説は、まず、二二条の文言の意味について次のように述べます。

引用(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)85頁)

「法22条の承認の対象とされる「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」のそれぞれの意義について一般的に述べた文献は見当たらない。」

そのうえで、承認の対象を次のように整理しています。

引用(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)

「このような法22条における各省各庁の長の承認の効果からすると、その対象は、補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなることであると解され、「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」とは、補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなる具体例として挙げられているもののように思われる。」

この整理に立てば、条文の五つの列挙は例示にすぎないことになり、廃棄も「補助目的に沿って管理しなくなること」に当たるから承認を要する、という立論が成り立ちます。交付規程24条1項が処分の定義に「廃棄等」を明記しているのも、この立場によるものと思われます。この点は、事業再構築補助金で導入した設備を廃棄したら「残存簿価を返納せよ」――本当に応じる必要があるのかの4でも述べました。

もっとも、この整理には、次の三点を申し上げておきます。第一に、この整理は、担保権の実行によって所有権を失う場合に承認が必要かという問題について述べられたものです。第二に、解説自身が「のように思われる」という留保を付しています。第三に、同解説は、22条の対象とされる行為の意義について「一般的に述べた文献は見当たらない」と述べており、また、この点を正面から判断した唯一の裁判例である東京地判平成2年1月30日には言及していません(当職が同解説の全頁を検索して確かめました)。確立した解釈がある、という状態ではないのです。

(3)控訴審が読めないこと

前記1(4)のとおり、控訴審が第一審を支持したという注記はありますが、控訴審判決そのものは公刊物に見当たりません。判決文を読んで理由を確かめることができない、という弱さは残ります。

(4)当職の受け止め

以上を踏まえても、当職は、目的どおりに使い切った後にやむを得ず廃棄する行為は、補助金適正化法22条の承認の対象ではないと考えております。理由は、同条の文言に廃棄が挙げられていないことに加え、東京地判平成2年1月30日が示したとおり、そのような行為は「実質的に補助金等の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為」には当たらないからです。

もっとも、廃棄も承認の対象に当たると解する余地は否定し切れません。「当たらないと解する余地が十分にある一方、当たり得るとする解釈も否定し切れない」というのが、この論点の正確な現状です。実際の交渉や訴訟では、まず廃棄は22条の対象外であると主張し、仮に対象であるとしても納付を命じる附款(行政行為に付される付加的な定め)には限界があると主張する、という二段構えをとることになります。二段目については、処分制限期間中に補助金で取得した設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければならないのかで詳しく述べました。

5 それでも、廃棄をめぐる行政の運用は動いていないこと

ここまでの議論にもかかわらず、実務の運用は動いていません。これも、公表されている資料から読み取ることができます。

事業再構築補助金事務局が公表している「補助事業により取得した資産について『財産処分』となる参考例」(令和8年5月)は、承認を得る必要がある処分の一つとして「廃棄 処分制限財産(設備に限る)の使用を止め、廃棄処分すること。」を掲げ、取得した機器が不要になったことから廃棄した場合を参考例として挙げています。

会計検査院の令和6年度決算検査報告も、行政側の立場を記録しています。同報告474頁は、中小企業庁及び機構が、処分制限財産は原則として事業計画書に記載された事業再構築にのみ使用される必要があるとしており、既存の事業等に使用する場合には原則として目的外使用に当たるとしている、と記しています。そして同報告481頁は、機構に対し、「目的外使用等が生じている場合に残存簿価分等納付を行わせるなどの適切な措置を講ずることができるよう、処分制限財産の使用状況を的確に把握するための方策を検討すること」という意見を表示しています。国の監査機関の側からも、納付をさせられる体制を整えるよう求められている、ということです。

当職の経験した限りでも、交渉の場でこの見解が改められることは、実際上ほとんどありません。中小機構や中小企業庁は、通達の定義に強く依拠しており、廃棄の扱いについては譲らない、というのが現状です。

したがって、この点を争うのであれば、行政との交渉だけでは終わらず、訴訟を見据えた準備が必要になります。当職は、同種の論点について、現在、訴訟を追行しております。判断が出れば、その内容を公開いたします。

処分制限期間内の廃棄を理由として残存簿価相当額の納付を求められている方、既に納付通知を受け取っている方は、応じるかどうかを決める前に、ご相談ください。承認の通知を受け取った時点から、争うことのできる期間が進み始める場合があります。

6 制度の目的から見て――挑戦を支える制度が、挑戦の失敗に納付を命じてよいのか

最後に、法律論を離れた話を書きます。といっても、根拠のない話ではありません。

事業再構築補助金等は、独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号に基づいて中小機構が交付する助成金であり、同法16条によって補助金適正化法が準用されます。その15条1項5号イが掲げる対象は「創業を行う者又は経営の革新を行う中小企業者」であり、同法4条は、機構の目的を、事業者の事業活動の活性化のための基盤を整備することと定めています。交付規程3条も、本補助金の目的を「思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援すること」としています。

挑戦を支援する制度である以上、挑戦が実らないことは、制度の想定の内にあります。このことは、国の側の文書にも書かれています。会計検査院の令和6年度決算検査報告472頁は、再構築支援事業の目的を「思い切った事業再構築の実施に意欲を有する中小企業者等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すこと」と要約し、同476頁は、「一方、経済社会情勢の変化等に伴いコロナ禍において作成された事業計画どおりの事業の継続が困難になることなども想定される」と述べています。

そうすると、補助金を目的どおりに使い、補助事業を遂行し、それでも赤字が進むなどのやむを得ない事情によって事業を続けられなくなったときに、補助金交付額のうち残存簿価相当額に相当する額を返せと命じることは、どうでしょうか。当職は、これは中小機構法4条が定める機構の目的と真っ向から反する扱いであると考えております。 挑戦を支えるために交付した資金について、挑戦が実らなかったという局面で、財産的な負担を課すことになるからです。法律論を横に置いても、常識的に考えて、通りのよい説明ではありません。

制度の内側を見ても、そのことは現れています。交付規程27条1項は、補助事業の実施結果の他への供与による収益が生じたときの納付を定めたうえで、そのただし書で「当該事業化状況・知的財産権報告書の決算が赤字の場合は、納付を免除するものとする。」としています。もうかったときの納付は、赤字なら免除されるのです。ところが、財産処分に伴う納付を定めた同24条6項には、赤字による免除の定めがありません。同条5項の特例も、災害・火災と、立地上又は構造上危険な状態にある場合に限られており、事業がうまくいかなかったことは書かれていません。

もっとも、逃げ道が全く用意されていないわけではありません。前記2(3)の通達は、次のように定めています。

引用(平成16・6・10会課第5号 5.(2)②b)

「社会経済情勢の変化等により処分制限財産を維持する意義が乏しくなった、又は補助事業者等の資金繰りの悪化等により処分制限財産を維持管理することが困難になったと認められる場合の取壊し等。」

この場合については、同5.(2)柱書が「本取扱いで定める国庫納付条件を付さないことができる。」としています。交付規程24条6項は、処分の取扱いについてこの通達の各規定を踏まえるとしていますから、この定めは中小機構の運用にも及ぶはずのものです。ただし、文言は「付さないことができる」であって、行政の裁量に委ねられています。ですから、「この定めがあるから納付は不要だ」と言い切ることはできません。問題にすべきなのは、資金繰りの悪化によって維持できなくなった場合の逃げ道を行政自身が用意しておきながら、それが検討された形跡のないまま納付が命じられている、という運用の方です。

この運用について、中小機構や中小企業庁が頑なな態度をとり続けていることは、制度の目的に照らして理解しかねるところです。当職は、この点は徹底的に争うべき論点であると考えております。納付命令そのものの法的な性質と、それに付される負担の限界については、処分制限期間中に補助金で取得した設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければならないのかの3から7で述べました。また、廃棄というリスクを避けながら補助事業の継続義務から離れる方法としての事業譲渡については、事業再構築補助金により取得した財産を含む補助事業を事業譲渡するという解決方法についてで述べております。

7 まとめ

補助金適正化法22条が承認の対象として掲げているのは、「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」の五つです。この点を正面から判断した裁判例は、東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁の一件だけで、同判決は、目的どおりに造られ、目的どおりに使われてきた施設を解体する行為は、同条の規制する行為の対象には含まれないと判示しました。判例タイムズの匿名コメントも、先例として参考価値があると評価しています。

ところが、通達は「その他の処分」という受け皿の言葉を置いて取壊し・廃棄を定義し、交付規程は「廃棄等」を処分に取り込み、省庁横断の決定は「又は取壊すこと等」と書き、自治体の運用文書も同じ方向に動いています。法律の五つの列挙が、下に降りるほど膨らんでいるのが現状です。

当職は、ここはまず補助金適正化法22条に戻るべきであり、通達や交付規程によってその解釈を広げることは控えるべきであると考えております。交付規程や交付要綱といった行政規則は、同法4条にいう「特別の定」には当たり得ないとされているからです。もっとも、最高裁判所判例解説民事篇(令和3年度)の整理によれば、廃棄も承認の対象に当たると解する余地は否定し切れません。この論点は、まだ決着していません。

そして、目的どおりに使い切った後、やむを得ない事情で事業を続けられなくなった事業者に対し、残存簿価相当額の納付を命じるという運用は、挑戦を支援するという中小機構法の目的と相いれないものであると考えております。この点について、当職は、同種の論点の訴訟を追行しており、判断が出れば公開いたします。

処分制限期間内の廃棄を理由として、中小機構や事務局から残存簿価相当額の納付や補助金の返還を求められている事業者の方、補助事業の継続が難しくなっており、設備をどう扱えばよいか判断がつかない方は、ご相談ください。承認申請をする前か、承認の通知を受け取った後か、納付通知を受け取った後かによって、取ることのできる手が変わります。

顧問先・支援先から「設備を捨てたら返せと言われた」というご相談を受けておられる中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方、認定支援機関の方も、ご相談ください。この論点は、文言と通達と交付規程が食い違っているところに成り立っている問題で、交渉の段階から組み立てを決めておく必要があります。士業・支援機関の方との連携の進め方は、士業・支援機関の方へにまとめております。

※ 本稿は、執筆時点の法令・文献・裁判例に基づく一般的な整理であり、私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿が引用した交付規程は中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程であり、条数と文言は補助金ごと・公募回ごとに異なります。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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