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弁護士 岸上大起

処分制限期間中に補助金で取得した設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければならないのか――承認の附款としての納付命令とその限界について

本稿は、note(2026年9月24日公開)に掲載した記事を転載したものです。note版はこちら →

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

事業再構築補助金で導入した設備を、処分制限期間の途中で廃棄することになった。そのようなとき、中小機構や事務局からは、財産処分の承認申請をするよう求められ、承認と引き換えに、残存簿価相当額の納付を命じられる、という運用が行われています。

この「承認→残存簿価相当額の納付」という流れは、あまりにも当然のことのように扱われています。しかし、これは法律上どこまで根拠のあるものなのでしょうか。

結論からいえば、私は二段構えで考えております。まず、廃棄処分はそもそも補助金適正化法22条の承認の対象ではないと考えております(この点は過去の記事で述べました)。そのうえで、仮に承認の対象であるとしても、事業の継続が困難となり、やむを得ず廃棄する場合に、残存簿価相当額の納付を命じることは、承認に付された附款として許容される限界を超えており、違法・無効ではないかと考えております。

本記事では、後者の点、すなわち「納付命令は承認の附款であり、附款には限界がある」という視点から、この問題を整理します。手がかりは、行政法の教科書(塩野宏『行政法Ⅰ』)が述べる附款の許容性・限界の一般論と、補助金適正化法22条の承認と納付条件について正面から論じた最高裁判所調査官解説(最三小判令和3年3月2日)、そして事業再構築補助金の根拠法条である中小企業基盤整備機構法の規定です。

手がかりとする最三小判令和3年3月2日(民集75巻3号317頁)については、先にその結論を確認しておきます。同判決は、補助金適正化法22条に基づくものとしてされた財産処分の承認について、同法7条3項による交付決定の条件に基づくものとして適法であるとし、補助金相当額を納付させたことも適法として、不当利得返還請求を退けた事案です(破棄自判)。もっとも、同事案は、担保権実行により所有権を失う場面であり、交付決定に7条3項の条件が現に付されていたものです。また、納付をしたうえで不当利得の返還を求めたのは、補助事業者等である栃木県であって、事業者本人ではありません。事業の継続が困難となってやむを得ず廃棄する場面や、中小企業基盤整備機構法に基づく助成金の場面にそのまま及ぶものではないと考えております。

なお、この論点について正面から判断した裁判例は、現在のところ見当たりません。私見として述べるほかない部分が多いことは、率直に申し上げておきます。

理由は長くなりますが、以下のとおりです。

1 何が起きているのか――承認申請、承認、そして残存簿価相当額の納付

まず、実務で起きていることを、交付規程の条文で確認します。

中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程24条は、取得価格50万円(税抜)以上の財産を「処分制限財産」とし、その処分制限期間(法定耐用年数を準用)内に処分しようとするときは、あらかじめ承認申請書を提出して中小機構の承認を受けなければならないと定めています(同条3項)。そして、同条6項は、次のように定めています。

引用(交付規程)「中小機構は、補助事業者が処分制限財産を処分するときは、様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができるものとし、補助事業者は当該納付命令にしたがって納付しなければならない。なお、当該処分については、補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱うものとする。」

ここで参照されている経済産業省の通達(平成16年6月10日)が、納付額の算定基準を定めており、廃棄処分の場合には、いわゆる残存簿価相当額(補助金額に、処分時点での未償却の割合を乗じた額)の納付が求められる、というのが現在の運用です。

つまり、事業者から見ると、廃棄しようとすれば「承認申請をしなさい」と言われ、承認を受けると「では残存簿価相当額を納付しなさい」と言われる。承認と納付が一体のものとして提示されるため、多くの事業者はこれを「廃棄すれば返還が必要」というルールとして受け止めています。

しかし、この「納付」は、法律上どのような性質のものなのでしょうか。ここを解きほぐすことが、本記事の出発点です。

2 前提――廃棄処分は、そもそも承認の対象なのか

本論に入る前に、前提となる論点に触れておきます。

補助金適正化法22条は、次のように定めています。

引用(条文)「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」

条文が承認の対象として掲げているのは、「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」の五つであり、「廃棄」という言葉は出てきません。この点について、東京地判平成2年1月30日(判タ736号151頁)は、補助金で取得した施設の解体撤去は22条の規制対象に当たらない旨を判示しており、私見としても、廃棄処分は22条の承認の対象ではないと考えております。詳しくは、過去の記事(「事業再構築補助金で導入した設備を廃棄したら「残存簿価を返納せよ」――本当に応じる必要があるのか」)で述べたとおりです。

もっとも、最三小判令和3年3月2日の調査官解説は、22条の承認の対象を「補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなること」と広く捉え、条文の五つの列挙はその具体例にすぎないとする理解を示しています(最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁参照)。この理解に立てば、廃棄も「管理しなくなること」に含まれ、承認の対象となり得る、という解釈の余地は否定し切れません。中小機構が交付規程24条1項において、処分の定義に「廃棄等」を明記しているのも、この立場によるものと思われます。

本記事では、この前提争いにはこれ以上立ち入らず、仮に廃棄処分が22条の承認の対象であるとしても、納付命令には別の問題がある、という点を論じます。前提を譲った上でなお成り立つ主張であるからこそ、実務上の価値があると考えるからです。

3 納付命令の法的性質――承認に付された「附款」である

ここが本記事の核心です。承認に伴う納付命令とは、法律上何なのでしょうか。

最三小判令和3年3月2日の調査官解説は、この点を明確に整理しています。同解説によれば、22条の各省各庁の長の承認は、「禁止の解除の効果を持つ独立の行政行為であり、講学上の許可に相当する」ものであり、その承認に「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」等の条件を付すことも可能であるとされています(前掲解説79頁)。そして、ここでいう「条件」は講学上の「附款」に当たり、その種類のうち、「許認可等を行うに際して、法令により課される義務とは別に作為又は不作為の義務を課す負担」に分類されると考えられる、と述べています(同79~80頁)。

すなわち、納付命令の正体は、承認という行政行為に付された附款(負担)です。

さらに同解説は、納付の求めそれ自体は行政処分ではなく、附款により発生した義務の履行を求めるにすぎないものである、とも述べています(同83~84頁)。第一審・原審が「納付命令」という略語を用いていたことについて、それは附款によって課された義務の履行請求である、と位置づけ直しているのです。

ここから、二つのことが導かれます。一つは、納付義務の根拠は、納付通知書ではなく、その前にされた承認の附款にあるということ。もう一つは、したがって、納付義務が法的に成り立つかどうかは、その附款が適法に付されたものかどうかにかかっているということです。

4 附款には限界がある――許容性は根拠法の解釈問題

附款は、行政庁が自由に付けられるものではありません。行政法の教科書は、この点を次のように述べています。

塩野宏『行政法Ⅰ〔第六版補訂版〕行政法総論』(有斐閣、2024)は、附款とは「法律既定事項外の付加」であるとした上で、附款の許容性は「もっぱら当該行政行為の根拠法において、法律で定めたこと以外の規律を行政行為に許しているかどうかの解釈問題となる」と述べ、「自由裁量行為の場合には附款を付すことができる場合が多いが、常に、当然に附款を付すことができることにはならない」としています(同203頁)。さらに、附款を付し得るとしても一定の限界があり、比例原則の趣旨から、相手方に不当な義務を課する附款は許されず、「当該法律の目的以外の目的で附款を付すことも許されない」としています(同204頁)。

調査官解説も、この塩野の見解を引いた上で、「負担を付すためには、法律の根拠が必要と解されている」と述べています(前掲解説80頁。宇賀克也『行政法概説Ⅰ〔第7版〕』107頁の引用)。

つまり、承認に納付という負担を付すためには、法律の根拠が必要であり、その許容性と限界は、当該補助金の根拠法の解釈によって決まる、というのが行政法の一般論です。

それでは、最高裁は、22条の承認に納付条件を付すことができる根拠を、どこに見出したのでしょうか。調査官解説は、その根拠を「法の仕組み」に求めています。すなわち、承認を得ずに交付の目的に反した処分がされれば、交付決定が取り消され、補助金全額について高率の加算金・延滞金が付され、強制徴収の対象にもなり得る。これと比べれば、交付した補助金の額の範囲内で、加算金・延滞金なしに、強制徴収の対象ともならない形で返還させる負担は、より効果が小さいのだから許容される、という論理です(同80~81頁)。

この論理は、一般論としては筋が通っています。しかし、ここで注意が必要なのは、この論理が、「承認を得なければ交付決定が取り消され得る場面」を前提としていることです。つまり、交付の目的に反する処分をしようとしている事業者に対し、「取消しという重い制裁の代わりに、軽い負担で承認してあげる」という構造だからこそ、負担が正当化されているのです。

5 事業再構築補助金の根拠法条――中小機構法15条1項6号の趣旨

そこで、事業再構築補助金について、附款の許容性を画する「根拠法」を確認します。

事業再構築補助金、新事業進出補助金、中小企業省力化投資補助金は、独立行政法人中小企業基盤整備機構法(以下「中小機構法」といいます。)15条1項6号に基づき、中小機構が交付する助成金です。同号は、「前号イからハまでに掲げる者に対し、その事業を行うのに必要な助成を行うこと」を機構の業務として定めており、その「前号イ」、すなわち同項5号イは、対象者を次のように定めています。

引用(条文)「創業を行う者又は経営の革新を行う中小企業者」

そして、同法16条により、これらの助成金には補助金適正化法が準用され、22条の財産処分制限もこの準用によって及んでいます。また、同法4条は、機構の目的を、中小企業者等の事業活動に必要な助成等の事業を行い、「もって中小企業者その他の事業者の事業活動の活性化のための基盤を整備すること」と定めています。

つまり、事業再構築補助金の法律上の根拠は、「経営の革新を行う中小企業者」を「支援」し、その「事業活動の活性化」を図ることにあります。事業再構築補助金の交付規程3条が、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の「挑戦を支援する」ことを目的として掲げているのも、この法律の趣旨を受けたものです。

附款の許容性が根拠法の解釈問題であるならば、事業再構築補助金の承認に付し得る附款の範囲も、この「経営の革新を行う中小企業者の挑戦を支援する」という趣旨によって画されることになります。

6 やむを得ない廃棄処分に残存簿価相当額の納付を命じることは、許容される附款か

以上を前提に、本題を検討します。

経営の革新に挑戦した中小企業者が、補助事業を実施し、しかし事業が黒字化せず、継続が困難となり、やむを得ず設備を廃棄する。これは、「経営の革新を行う中小企業者を支援する」という制度において、当然に予定されている失敗の一形態です。革新への挑戦が常に成功するのであれば、そもそも補助金による支援は必要ありません。挑戦には失敗が伴うからこそ、国が中小機構を通じて支援するのです。

その失敗の局面で、廃棄の承認と引き換えに、補助金交付額のかなりの割合に相当する残存簿価相当額の納付を命じることは、どうでしょうか。事業が立ち行かなくなった事業者に、数百万円から数千万円の納付義務を課すことになります。これは、「支援」の趣旨と正面から矛盾するように思われます。

私見としては、次のように考えております。

まず、このような附款は、中小機構法15条1項6号・5号イ、4条の趣旨に照らし、「当該法律の目的以外の目的で附款を付す」ものに当たる疑いがあります。挑戦を支援するための補助金において、挑戦の失敗に対して財産的制裁を課すことは、法律が予定していない規律です。

次に、補助金適正化法7条4項は、交付決定に附する条件について、「補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない」と定めています。この規定は直接には交付決定の条件についてのものですが、補助金適正化法全体を貫く規律として、承認の附款についても同じ趣旨が及ぶと解すべきであり、比例原則からも同様の限界が導かれます(前掲塩野204頁参照)。やむを得ない廃棄に対して残存簿価相当額の納付を課すことが、交付の目的を達成するため「必要な限度」の内にあるとは考えにくいところです。

さらに、前記4で述べた最高裁(調査官解説)の「法の仕組み」の論理は、承認を得なければ取消しがされ得る場面、すなわち交付の目的に反する処分をしようとする場面を前提としていました。しかし、事業が継続困難となりやむを得ず廃棄する場合には、そもそも「交付の目的に反して」処分するという評価が成り立つのか疑問であり、また、仮に22条の対象であるとしても、17条1項の取消しは裁量に委ねられており、やむを得ない廃棄に対して取消しをすることは比例原則に反し裁量権の逸脱濫用となり得ます(この点は、過去の記事「賃上げ要件を達成できなければ、補助金を返還しなければならないのか」の9で触れました)。「取消しという重い制裁の代わりに軽い負担で承認する」という正当化は、重い制裁の側が成り立たない場面では、その基礎を失います。

加えて、交付規程自身の構造も、これを裏付けています。交付規程24条5項は、処分制限財産が災害・火災(補助事業者の責めに帰すことができない事由による場合)により使用できなくなった場合等の取壊し・廃棄について、報告書の提出により承認を受けたものとみなす旨を定めています。また、同条6項は、納付を「させることができる」と定めており、必ず納付させると定めているわけではありません。中小機構自身が定めた交付規程ですら、事業者の責めに帰すことのできない廃棄を別に扱い、納付を裁量事項としているのです。もっとも、交付規程が法律に優先するわけではありませんから、この点は補助的な根拠にとどまります。

以上から、私見としては、経営の革新に挑戦した結果として事業の継続が困難となり、やむを得ず廃棄処分をする場合に、その承認に残存簿価相当額の納付という附款を付することは、中小機構法の趣旨に照らして許容される附款の限界を超え、違法・無効であると考えております。

7 附款が違法・無効である場合、どうなるのか

附款が違法・無効であるとすれば、どうなるのでしょうか。

塩野は、附款に瑕疵がある場合について、「附款も行政行為の一部であるから取消訴訟の排他的管轄が及ぶ。そこで、まず、附款だけの取消訴訟ないしは附款の無効確認訴訟を提起することとなる」と述べています(前掲塩野205頁)。他方で、「その附款なかりせば当該行政行為がなされなかったであろうことが客観的にいえるような場合には、当該附款だけでなく行政行為全体が瑕疵を帯びる」ともしています(同頁)。

これを本件に当てはめると、二つの筋道が考えられます。一つは、承認自体は有効なまま、納付の附款だけが無効となる筋道です。この場合、事業者は承認を得て廃棄したことになり、納付義務は生じません。もう一つは、附款が無効であれば承認全体が瑕疵を帯びるという筋道ですが、この場合であっても、前記2のとおり廃棄処分が22条の対象でないのであれば承認自体が不要であり、対象であるとしても、やむを得ない廃棄について取消しをすることは裁量権の逸脱濫用となり得ますから、いずれにせよ残存簿価相当額を返還すべき法的義務は導かれないと考えております。

また、調査官解説が述べるとおり、納付の求め(納付通知書)自体は行政処分ではなく、附款により発生した義務の履行請求にすぎません(前掲解説83~84頁)。附款が無効であれば、その履行請求に応じる義務もないことになります。

なお、承認に付された附款を争う場合には、承認という行政処分を知った日から6か月という取消訴訟の出訴期間(行政事件訴訟法14条1項)が問題となり得ます。附款が無効であるとして無効確認を求める途もありますが、無効と評価されるためのハードルは取消しより高いのが一般です。承認通知書を受け取った段階で、納付に応じるかどうかを含め、早い時期に検討を始めることが重要です。

8 実務上の意味――承認の対象かどうかを譲っても、納付義務は導かれない

処分制限期間中の廃棄処分に伴う残存簿価相当額の納付は、法律上は、承認という行政行為に付された附款(負担)です。附款は行政庁が自由に付けられるものではなく、その許容性と限界は当該補助金の根拠法の解釈によって決まります。事業再構築補助金の根拠法である中小機構法15条1項6号・5号イは、「経営の革新を行う中小企業者」を支援することを目的としており、挑戦の結果として事業が継続困難となりやむを得ず廃棄する場合に、補助金額のかなりの割合の納付を命じることは、この趣旨に反し、許容される附款の限界を超えるというのが私見です。

この見解は、廃棄処分がそもそも22条の承認の対象ではないという私見(過去記事)を前提としなくても成り立つ、二段目の主張です。承認の対象であるかどうかの争いを譲ったとしても、なお納付義務は導かれない。この点に、実務上の意味があると考えております。実際の交渉や訴訟では、まず廃棄処分は22条の対象外であると主張し、仮に対象であるとしても納付の附款は違法・無効であると主張する、という二段構えをとることになります。

冒頭にも述べたとおり、この点について正面から判断した裁判例は見当たらず、私見にとどまる部分が多いことは率直に申し上げておきます。しかし、「承認申請を求められたから申請し、承認されたから納付する」という流れを、当然のものとして受け入れなければならない理由はありません。

処分制限期間中の廃棄処分について残存簿価相当額の納付を求められている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、ぜひご相談ください。

この論点で実際にお困りの方向けに、状況別の対応をまとめたページがあります:

※ 本稿は私見を含む一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の論点について正面から判断した裁判例は、現在のところ見当たりません。

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