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弁護士 岸上大起

補助金を1円も受け取っていないのに、申請支援業者の成功報酬を払わなければならないのか――裁判例紹介:東京地判令和4年6月8日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金の申請を支援する事業者と契約し、採択の通知を受けた。ところが、その後の交付申請の段階で、事務局から「この内容では補助金の対象にならないので申請を取り下げたほうがよい」と言われ、交付申請を辞退した。補助金は1円も入っていない。それなのに、支援業者から「採択されたのだから成功報酬を払え」という請求が届く。申込書には、採択されれば報酬が発生する、受給に至らなくても返金しない、と書かれている。――この請求を、払わなければならないのでしょうか。

本稿で取り上げる東京地判令和4年6月8日(令和3年(ワ)第4116号、令和3年(ワ)第25895号、判例秘書L07732091)は、この請求を退けました。それも、契約条項の解釈や条件の不成就ではなく、契約締結そのものが詐欺によるものであるという理由です。判決は、申請支援を業として行い、着手金と成功報酬を合わせて200万円を超える金員を受け取るというのであれば、その事業が対象になり得ないことは容易に理解できたはずであるとして、業者の代表者が対象外であることを知りながら「補助金をもらうことができる」と述べたと推認し、詐欺があったといわざるを得ないとしました。そして、事業者が支払った着手金21万6000円と弁護士費用2万1600円を、不法行為による損害として業者に支払わせています。

もっとも、この結論を一般化することはできません。同じ東京地方裁判所は、その約4か月前の令和4年2月22日(令和2年(ワ)第30321号、令和3年(ワ)第769号、判例秘書L07711104)に、ほとんど同じ内容の契約――着手金を支払い、報酬は「採択額の20%+消費税」、支払期限は採択通知日から14日以内、着手金は返還しない――について、事業者側の請求を全部退け、業者の報酬請求を全部認めています。そちらの事件では、事業者は、報酬が暴利であること、弁護士法72条違反、中小企業等経営強化法26条違反、中小企業庁・金融庁の通知に反することなどを主張しましたが、いずれも採用されませんでした。交付決定を受けた後に事業を廃止し、補助金を受け取っていないという事実も、「専ら原告ら側の事情による」として結論を左右しないとされています。

二つの判決を並べると、分かれ目がどこにあるかが見えてきます。契約条項そのものを「不当だから無効だ」と攻めるルートは、事業者が株式会社である以上、消費者契約法の適用がなく、私的自治の原則が前面に出るため、通りにくい。通ったのは、契約を締結させた時点の説明が虚偽であったというルートです。つまり、争点は契約書の中にはなく、契約書を交わす前のやり取りの中にあります。

もう一つ、この事件には、補助金の実務を考えるうえで見落とせない事実が認定されています。事務局の担当者が、交付申請の段階になって対象外であることを指摘した際に、「当初の事業計画の申請書において商品の製造がベトナムであることが分かり得るとしても、その段階では詳細まで精査せず採択がされることがある」と説明したというのです。採択は、その事業が補助の対象であることを確認したものではない。この一文が判決に残っていることの意味を、本稿の第5章で述べます。

1 「採択されたのだから報酬を払え」と言われたときに、何を問うべきか

(1)契約書を読むところから始めると、行き止まりになります

この種の請求が届いたとき、多くの事業者は申込書や契約書を読み返します。そして、そこに「採択された場合、採択報酬の支払義務が発生します」「補助金受給まで至らなかった場合でも返金することはありません」と書かれているのを確認して、諦めます。

しかし、契約書に書かれていることは、その契約が有効に成立していることを前提とした話です。契約の成立そのものに問題があれば、条項の文言は出発点になりません。本稿で紹介する令和4年6月8日判決は、まさにそこを突いて請求を退けました。

(2)問うべきことは三つあります

第一に、契約を締結した時点で、その業者は、当該事業が補助金の対象になり得ないことを知っていた(または容易に知り得た)のではないか。

第二に、業者は、対象になるかどうかについて、どのような説明をしたか。事業者の側から「海外で製造するが大丈夫なのか」といった懸念を伝えていたか。その記録が残っているか。

第三に、報酬の発生条件として合意されたのは何か。採択なのか、交付決定なのか、入金なのか。そして、交付に至らなかった原因はどちらの事情によるのか。

後記4で見るとおり、第三の点だけで争うのは、思うほど容易ではありません。決め手になったのは第一と第二でした。

2 事案――対象外の事業が採択され、交付申請を辞退するに至った経過

(1)当事者と契約

原告は、民間資格の認定事業、各種講座の開催及び運営、コンサルティング業務等を行う一般社団法人で、国から交付される補助金に関して申請を支援するサービス提供を業として行っていると自ら主張していた法人です。被告は、観賞魚用飼育器具、養殖魚用飼育器具等の製造・販売及び輸出入を目的とする株式会社です。

被告は、水換えを不要とする水槽の浄化装置を開発し、試作品まで完成させていました。残された課題は、商品を量産するための金型(量産用の金型)の製造で、これに約1500万円の資金を必要としていました。そこで、全国中央会(判決は「全国中小事業団体中央会」と表記し、以下「全国中央会」と略しています)が募集していた、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金への申請を考えました。

平成31年1月22日、被告代表者は原告本社を訪れて原告代表者と面談し、量産用の金型を製造するための補助金が欲しいこと、生産拠点はベトナムに置くので当該金型はベトナムに持っていき商品を製造することなどを説明しました。判決の認定では、これに対して原告代表者は、補助金をもらうことができるので契約を締結するようにいった、とされています。被告は翌23日、着手金21万6000円を支払いました。

申込書の記載が、後に争点になります。

引用(東京地判令和4年6月8日・第2の1(3))

「本サービスにより、申込者の補助金申請が採択された場合、申込者に採択報酬の支払義務が発生します。なお、採択発表後に申込者の都合により補助金受給まで至らなかった場合でも、着手金及び採択報酬を返金することはありません。」

報酬は「採択額の20%+消費税-着手金」、支払期限は採択通知日から14日以内と定められていました。

(2)事業者が自ら懸念を伝えていた

この事件の鍵は、事業者が公募要領を自分で読み、懸念をメールで伝えていたことです。

平成31年4月15日、被告は原告代表者に対し、公募要領を見たところ「海外の支店、工場での当該事業の実施は認めておりません」と記載されているが、自社の事業計画は日本で設計・特許出願したものをベトナム工場で生産するもので、公募要領を満たしていないように感じたが大丈夫なのかと問い合わせました。

これに対する原告代表者の回答は、打合せ時のメモを確認したところ「開発・設計;日本・大学教授、製造販売:海外・現地」となっていること、その認識でよければ、補助金の対象範囲となる「事業」は開発であるから差し支えないと考えられる、というものでした。

さらに同月20日、原告の担当者から、今回の事業は開発であるということが重要であること、開発は日本で行うということを文書の随所に入れて審査者に認識してもらう必要があること、今のままではベトナムでの製造、アメリカ市場での販売の印象が強く対象外と判断されかねないこと、事業計画名も「水換え不要の観賞魚及び養殖稚魚の飼育装置量産化のための金型開発」に替えた方が良いかもしれないことなどを内容とするメールが送られています。

事業計画名は、当初案の「飼育装置の開発・製造」から「飼育装置の量産化のための金型開発」へと変更されました。

(3)採択、そして交付申請の辞退

被告は令和元年5月8日に事業計画書申請を行い、同年6月28日、正式に受理されて採択決定されました。同年7月12日付けで約1000万円の交付申請をしています。

ところが、全国中央会の埼玉支部の担当者から、この申請内容では補助金の対象にならないので申請を取り下げたほうがよいとのアドバイスを受けました。その説明の内容が、判決に次のとおり認定されています。

引用(東京地判令和4年6月8日・第3の1(7))

「前記担当者の説明では、補助事業として行うことができるのは試作用の金型を作ることであり、それを実施地である日本国内の被告の本社所在地で行わなければならないこと、被告の説明する事業地がベトナムである以上ベトナムまで金型を見に行くことはできず、金型が日本に存在する期間があるとしてもその間に全国中央会が必ず見に行くことができる保証がないこと、補助事業で製造した金型は量産には使用することができず、金型の使用は試作品の製造に限定されること、当初の事業計画の申請書において商品の製造がベトナムであることが分かり得るとしても、その段階では詳細まで精査せず採択がされることがあることなどが説明された。」

被告は、手続を進めても補助金を受領することはできないと考え、令和元年8月26日付けで、「実施場所での補助事業の実行が不可能であると判断したため」という理由で交付申請の辞退を申し出ました。

その後、原告が約定成功報酬190万0800円の支払を求めて提訴し(本訴)、被告が着手金と弁護士費用の賠償を求めて反訴したのが、本件です。被告は、令和3年5月20日の口頭弁論期日において、詐欺による取消しの意思表示をしました。

3 裁判所は、どの理由で報酬請求を退けたか

(1)争点は六つ挙げられましたが、判断されたのは一つです

本訴について、①詐欺による取消し、②錯誤による無効、③条件の不成就、④契約解釈上の報酬請求権の不発生、⑤公序良俗違反の五つ、反訴について⑥損害額が争点として整理されました。

判決は、①を認めたことで足りるとし、「その余について判断するまでもなく」として本訴請求を棄却しています。②から⑤までの判断は示されていません。ここは、本判決を使う際に押さえておくべき点です。条件の不成就や契約解釈の主張が通るかどうかについて、本判決は何も述べていません。

(2)判断の出発点――業者に求められる知識の水準

判決は、まず、被告が実施しようとしていた事業が対象になり得ないものであったことを確認します。

引用(東京地判令和4年6月8日・第3の2(2))

「被告が実施しようとしていた事業は、前記(1)のとおりであるが、これは、全国中央会の埼玉支部の担当者から、事業地が日本ではなく、また、金型を製作してもそれを量産に用いることはできないとして、本件補助金の対象事業にならないと明言されたものであり、本件補助金に対する専門的知識があれば誰でも当然にそのような事業であると理解できるものであるといえる。」

「誰でも当然に」と述べています。制度に通じた者であれば当然に分かる、という水準を設定したわけです。

そのうえで、業者がその水準の知識を有していなければならない理由を、受け取る金員の額から導きます。

引用(東京地判令和4年6月8日・第3の2(2))

「そして、原告は、本件補助金に関して、補助金申請を支援するサービス提供を業として行っていると自ら主張しているものであり、本件において、採択の可能性があるかどうかの見通しを告げ書類の記載方法や手続を説明することによって着手金と成功報酬を合わせて200万円を超える金員を受領するというのであるから(原告が提供するサービスの内容に照らして、着手金と報酬の合計額が多額に過ぎ、暴利行為・公序良俗違反の可能性も十分にあり得るが、ここではこれ以上検討しない。)、当然ながら専門的知識を有していなければならない(そのような知識を有していないならば、そもそも本件契約を締結してサービスを提供し、上記のような高額の報酬を受領すべきではないのである。)。」

二つの括弧書きが置かれています。前の括弧は、暴利行為・公序良俗違反の可能性も十分にあり得るとしながら、本件では検討しないというもの。後の括弧は、その水準の知識がないのなら、そもそも契約を締結して高額の報酬を受領すべきではないというものです。いずれも傍論ですが、報酬を受け取る側に要求される水準についての裁判所の見方が表れています。

(3)そこから「知りながら」の推認へ

引用(東京地判令和4年6月8日・第3の2(2))

「そうすると、原告代表者は、被告が実施しようとした事業が上記の点においてそもそも本件補助金の対象事業となり得ないものであることを容易に理解できたはずであり、平成31年1月22日時点でそのように理解したものと推認せざるを得ない。そうすると、原告代表者は、被告の実施しようとしていた事業が本件補助金の対象事業になりえないことを知りながら、補助金をもらうことができるなどと述べて本件契約の締結へと被告代表者を欺罔したものであり、詐欺があったといわざるを得ない。」

組み立てを分けると、こうなります。①業として行い、高額の報酬を受け取るのだから、制度に通じていなければならない。②制度に通じていれば、この事業が対象外であることは当然に分かる。③したがって、面談の時点で理解していたと推認するほかない。④理解していながら「もらうことができる」と述べたのだから、欺罔行為である。

主観的要件(故意)を、業者の属性と報酬の額から推認したところが、この判決の特徴です。業者が「自分は対象外だとは思っていなかった」と述べても、その弁解は、業として高額の報酬を受け取る立場と両立しない、という構造になっています。

なお、判決は、原告が援用した打合せ時のメモについて、そのメモは証拠提出されておらず実際に存在するのかは明らかではないこと、仮に存在するとしても被告代表者の説明内容からはそのようなメモは作成し難く、原告代表者において自らの都合のよいような理解を記載したものであるとも解されることを指摘しています(第3の2(1)イ)。業者側が「こう聞いた」と主張するのであれば、その記録を提出できるかが問われる、ということです。

(4)結論と損害

契約は取り消され、成功報酬の支払義務はないとされました。あわせて不法行為が成立し、着手金21万6000円が損害と認められ、弁護士費用2万1600円も相当因果関係のある損害と認められています。弁護士費用が損害の約1割として認められているのは、不法行為に基づく請求の通常の扱いです。

重要なのは、払わなくてよくなっただけでなく、既に払った着手金が戻ったという点です。契約条項には「返金することはありません」と書かれていましたが、不法行為に基づく損害賠償請求には、その条項は効きません。

4 同じ契約書式で結論が分かれた――東京地判令和4年2月22日との対比

(1)事案と結論

東京地判令和4年2月22日(令和2年(ワ)第30321号、令和3年(ワ)第769号、判例秘書L07711104)は、事業者側の2社が、IT導入補助金の申請支援に係る業務委託契約は公序良俗に反して無効であると主張し、着手金各32万4000円の返還を求め、これに対して業者が、ものづくり補助金の申請支援に係る契約に基づき報酬183万6000円を請求した事件です。

結論は、事業者側の請求を全部棄却、業者の報酬請求を全部認容でした。契約には、報酬の支払時期を採択通知日より14日以内とする定め、着手金を返還しない旨の定めが置かれており、報酬は「採択額の20%+消費税」です。採択通知の日付も令和元年6月28日で、本稿で紹介した事件と同じ日です。判決文は当事者を匿名としていますので、同一の業者であると断定することはできませんが、契約書式は共通しています。

(2)「暴利である」という主張は通りませんでした

事業者側は、認定経営革新等支援機関が補助金支援サービスで受領する報酬は20万円程度であり、業者が実際に行った作業は事業計画書の原稿の削除、加筆又は修正といったもので作業費用としては2万円程度にすぎないから暴利である、と主張しました。

裁判所は、報酬額が高額であるとの評価それ自体は否定しませんでした。

引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)

「被告が本件各契約に基づいて受託したのは,補助金交付申請の支援サービスを行う業務であり,弁護士でなければ行うことができない業務ではないから,被告が,補助金交付申請の支援を行う業務の対価として,資格を有する弁護士と同等の報酬を受領することは,被告が提供するツールがノウハウを含むものであるとしても,業務内容及び資格の有無という点から見る限り,高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ないものである。また,ものづくり補助金においては,補助金交付申請の支援に対する報酬は補助対象経費には該当しないとされているが,その申請に必要な費用は,結局は補助金の受給者が負担することになるから,申請に高額な費用が必要となる場合,少なくとも補助金交付事業の効果という点から見る限り,補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない。」

※ この判決の引用は、手元の判決全文の表記(読点に「,」を用いるもの)のままとしています。

「補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない」とまで述べています。それでも、結論は暴利の否定でした。

引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)

「しかしながら,原告らは,いずれも営利を目的とする株式会社であり,被告は一般社団法人であるから,原告らは,消費者として,消費者契約法の適用を受けるような立場にはない。そして,本件各契約の着手金及び報酬の額並びに本件不返還条項は,いずれも申込書兼同意書に明記されており,原告代表者は,署名の上で,これを被告に交付したのであるから(認定事実(2)ウ),本件各契約を締結すれば,その約定に基づいて着手金や報酬の支払義務が生じ得ることは,原告らにおいて契約締結前の時点で認識していたといえる。また,原告らにおいて,その契約内容に不服があれば,契約を締結しないという判断を行うことができたはずであり,被告と契約を締結せずに補助金の交付を申請することが妨げられるような事情も見当たらない。」

理由は三つです。①事業者は株式会社であって消費者ではなく、消費者契約法の適用を受ける立場にない。②額も不返還条項も申込書兼同意書に明記され、署名して交付している。③内容に不服があれば契約しない選択ができたし、業者と契約せずに申請することも妨げられていなかった。

補助金の申請支援をめぐる契約は、事業者と事業者の間の契約です。消費者契約法10条のような受け皿がない。この一点が、条項の不当性を争うルートの見通しを大きく変えています。

(3)「採択だけで報酬が発生する」という条件も否定されませんでした

引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)

「また,中央会が補助金を採択した場合,申請者が採択額の範囲内で補助金の交付を受けることができる蓋然性が高まるといえるから,その時点で報酬の支払義務が生ずるとしても,委任者にとって一方的に不利な内容であると認めることは困難である。」

さらに、この事件では事業者が交付決定を受けた後に事業の廃止の承認申請をしており、実際に補助金の交付を受けていませんでしたが、判決は、廃止の理由が「専ら原告ら側の事情による」ものであって業者側の事情によるものではないから、結論を左右する事情とはいえないとしています。

つまり、「結果として受け取れなかった」という事実だけでは足りません。受け取れなかった原因が業者の側にあることを示す必要がある、という読み方になります。本稿で紹介した令和4年6月8日の事件では、辞退の原因が業者の説明そのものにあったわけです。

(4)認定支援機関でないこと・弁護士法72条違反の主張も通りませんでした

令和4年2月2二日判決は、ほかにも二つの主張を退けています。

一つは、認定経営革新等支援機関の認定を受けていない者が申請支援を業として行うことは中小企業等経営強化法26条に違反するという主張です。判決は、同条1項・2項の文言に照らすと、認定経営革新等支援機関以外の者が経営革新等支援業務を行うことを禁止する規定と解することは直ちに困難であるとし、禁止する明示的な規定も罰則規定も見当たらないとしました。なお、この事件では、業者の代表者個人は認定を受けていたものの、契約の主体となった法人は認定を受けていなかったことが認定されています(前提事実(6))。

もう一つは、弁護士報酬基準を参考に報酬額を定めたことが弁護士法72条違反に当たるという主張です。判決は、同条は報酬を得る目的で一般の法律事件等に関して法律事務の取扱い等を業として行うことを禁止するものであり、一定の業務を行った場合に弁護士と同等の報酬を受領することそれ自体を禁止するものではないとして、これも退けています。

資格の有無や報酬の水準をもって契約の有効性を争うことは、現行法の下では難しい。そう受け止めておくほうが、見通しを誤りません。

(5)中小企業庁・金融庁の通知の位置づけ

同判決は、中小企業庁及び金融庁が平成25年11月27日に認定経営革新等支援機関に対して発した通知についても認定しています。

引用(東京地判令和4年2月22日・前提事実(7))

「本件通知は,不適切な行為に当たる行為として,補助金申請に関与する際に,作業等にかかる費用等と乖離した成功報酬等の費用を中小企業・小規模事業者等に請求すること,認定経営革新等支援機関であることを示しながら,補助金申請代行等のPRや営業活動を行うことなどを例示している」

判決は、この通知が「法令に当たらないとはいえ」と述べたうえで、暴利性の判断の中で参考にしています。つまり、通知に反する行為であっても、それ自体で契約が無効になるわけではありません。

ここは、行政の側に申し上げておきたいところです。作業等にかかる費用と乖離した成功報酬の請求を「不適切な行為」として挙げたのが平成25年で、その後も補助金の規模は拡大し、申請支援を業とする事業者は増えました。それでも、報酬の上限や開示義務といった法令上の規律は置かれず、注意喚起の通知のままに置かれています。その間、裁判所は「高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ない」「補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない」と述べながら、私的自治の原則を理由に契約を有効としてきました。制度の設計で引き受けるべき問題を、事業者と業者の間の訴訟に委ねてきたと言わざるを得ません。

5 「採択」は何を意味するのか――事務局自身の説明から

(1)採択の審査は、対象適合性の確認ではないとされています

前記2(3)に引いた全国中央会埼玉支部の担当者の説明に、こうありました。当初の事業計画の申請書において商品の製造がベトナムであることが分かり得るとしても、「その段階では詳細まで精査せず採択がされることがある」。

これは、事務局の担当者の説明として判決に認定された事実です。採択は、提出された事業計画が補助の対象であることを確認したものとは限らない。対象外であることが申請書から分かり得る場合でも、採択されることがある。――そういう運用であることを、事務局の側が述べているわけです。

(2)ところが、報酬は採択に連動しています

一方で、令和4年2月22日判決は、「中央会が補助金を採択した場合,申請者が採択額の範囲内で補助金の交付を受けることができる蓋然性が高まる」として、採択を報酬の発生条件とすることを是認しました。

二つの判決を並べると、こうなります。採択の審査は対象適合性を精査するものではない。それでも、採択は交付の蓋然性を高めるものとして、報酬の発生条件になり得る。この二つは、同じ地方裁判所の判断です。矛盾しているとまではいえませんが、事業者の位置からは、きわめて落ち着きの悪い組合わせです。採択の通知を受け取った事業者が「対象として認められた」と理解するのは自然であり、その理解の誤りを事業者だけに負わせるのは筋が通りません。

採択と交付決定が別の行為であることは、補助金の手続を理解するうえでの前提です。令和4年6月8日判決も、この補助金のスキームを、全国中央会が公募を行い、応募した事業者が事業計画書申請を行い、これが採択されると補助事業の実施に進み、その中で具体的に補助金の交付申請を行い、全国中央会による交付決定、事業実施、補助金の請求、支払等という流れで進んでいくものと認定しています(第3の1(2))。採択は、この流れの途中にある一つの通過点であって、補助金を受け取る権利を与えるものではありません。

(3)この構造が、事業者に二重の負担を生じさせます

採択が対象適合性の確認でないとすれば、対象外の事業が採択されることはあり得ます。そして、対象外であることが判明するのは、交付申請や交付決定の後、場合によっては実地検査や事業化状況報告の段階です。そのとき事業者が直面するのは、補助金が入らないという結果だけではありません。申請支援の報酬は採択に連動して既に発生しており、設備の発注や工事の手配が先行していることもあります。交付決定後に対象外の疑いが生じて取消しに至る場面の整理は、補助金の交付決定の取消し・返還請求、補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのかで扱っています。

6 請求を受けた事業者は、何を集め、何を主張すればよいのか

ここからは、前記の二つの判決を踏まえた当職の整理です。

(1)契約前のやり取りを、すべて洗い出すこと

令和4年6月8日判決が詐欺を認定した材料は、契約書の中にはありませんでした。①面談で事業者が何を説明したか、②それに対して業者が何と答えたか、③その後のメールで、事業者が公募要領の記載を引いて懸念を伝え、業者がどう回答したか。この三つです。

したがって、集めるべきものは次のようになります。初回面談の記録(日時、同席者、説明した事業の内容、メモ、録音)。申込書・契約書と、その交付を受けた日。業者との全メール(とくに、対象になるかを尋ねたやり取りと、事業計画名や記載内容の修正を指示したやり取り)。事業計画書の各版(当初案と提出版の違いは、業者の関与の内容を示します)。事務局とのやり取り(担当者の説明、辞退や取下げを勧められた経緯、辞退の申出書)。公募要領の該当頁。

事業者の側から「対象になるのか」と問いかけた記録が残っていたことが、この事件では決定的でした。問いかけが残っていれば、業者は「聞いていない」と言えません。

(2)主張のルートを、順序立てて選ぶこと

① 詐欺による取消しと不法行為。 業として申請支援を行い、相当額の報酬を得る立場にある業者が、対象になり得ない事業について「もらうことができる」と述べたのであれば、このルートが正面です。業者の故意は、業者の属性と報酬の額から推認され得ます(前記3(3))。取消しだけでなく不法行為の主張を併せることで、既払いの着手金の回復まで届きます。「返金しない」という条項は、不法行為に基づく損害賠償を妨げません。

② 条件の不成就・契約解釈。 報酬の発生条件として合意されたのが何であったかは、申込書の文言によります。「採択」と明記されている場合、このルートだけで争うのは容易ではありません。令和4年2月22日判決は、交付を受けられなかった原因が事業者側の事情にあるとして、この点を結論に反映させませんでした。交付に至らなかった原因が業者の説明にあることを、事実で示す必要があります。

③ 公序良俗違反・暴利行為。 令和4年2月2二日判決は、事業者が株式会社であることを理由に、消費者契約法の適用がないことを繰り返し述べて、これを退けました。他方、令和4年6月8日判決は傍論で「暴利行為・公序良俗違反の可能性も十分にあり得る」と述べています。業務の内容が著しく乏しいこと(提供されたのが一般的な資料とひな形だけであるなど)を具体的に示せる場合には、なお主張の余地があります。もっとも、これを主たる柱に据えるのは勧められません。

(3)補助金の側の手続と、民事の請求は別に進みます

業者への報酬を争うことと、補助金そのものの処理(交付申請の辞退、交付決定の取消し、返還命令)とは、別の手続です。交付決定を受けた後に対象外であることが判明した場合、辞退で済むのか、取消しと返還命令に進むのかで、負担は大きく変わります。加算金が付くかどうかも含めて、補助金の側の処理の見通しを立ててから民事の対応を決めるほうが、順序としては安全です。交付規程や公募要領に書かれていることに反したという指摘が、そのまま法律上の取消事由になるかという問題は、交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。

(4)支援する側の事業者にとっての意味

同じ判決は、申請支援を行う事業者の側から読むこともできます。令和4年6月8日判決が業者の責任を認めた根拠は、契約書の不備ではなく、対象になり得ない事業について「もらうことができる」と述べたことでした。

そこから導かれる実務は、おおむね次のとおりです。初回の相談の段階で、公募要領の該当箇所を示して、対象となる範囲と対象外となる範囲を区別して説明し、その説明を書面またはメールで残すこと。対象適合性について疑いがある場合に、その疑いを率直に伝え、伝えた記録を残すこと。報酬の発生条件を、採択に置くのか、交付決定に置くのか、入金に置くのかを明示し、採択に置く場合には、採択が対象適合性の確認ではないことを含めて説明すること。業務の内容と範囲(どこまで行い、どこから行わないか)を特定して契約書に書くこと。

令和4年2月22日判決は業者の請求を認めましたが、判決自身が報酬の水準について「高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ない」と述べ、「補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない」とまで述べていることは、軽く見るべきではありません。契約書の形式が整っていても、報酬の水準と業務の内容が見合っていなければ、次の事件で同じ判断が繰り返されるとは限りません。

7 まとめ

補助金が1円も入らないまま、申請支援業者から成功報酬を請求されたとき、払わなければならないのかという問いに対する答えは、契約書の文言では決まりません。

東京地判令和4年6月8日は、業として申請支援を行い、着手金と成功報酬を合わせて200万円を超える金員を受け取るというのであれば、その事業が対象になり得ないことは「誰でも当然に」理解できたはずであるとして、業者の代表者が面談の時点でそれを理解していたと推認し、「補助金をもらうことができる」と述べて契約を締結させたことを詐欺に当たるとしました。成功報酬の請求は棄却され、既払いの着手金と弁護士費用が損害として認められています。「返金することはありません」という条項は、この結論を妨げませんでした。

他方、東京地判令和4年2月22日は、ほぼ同じ契約書式について、報酬が暴利であるとも、採択を報酬の発生条件とすることが一方的に不利であるとも認めませんでした。事業者が株式会社であって消費者契約法の適用を受ける立場にないこと、額も不返還条項も申込書に明記されていたことが理由です。認定経営革新等支援機関の認定を受けていないこと、弁護士報酬基準を参考にしたことを捉えた主張も退けられています。

二つを並べると、争うべき場所が見えてきます。契約条項の不当性ではなく、契約を締結させた時点の説明です。そして、そこで物を言うのは、面談の記録と、契約前後のメールです。

あわせて、採択の意味を確かめておく必要があります。事務局の担当者は、対象外であることが申請書から分かり得る場合でも「その段階では詳細まで精査せず採択がされることがある」と説明しました。採択は、補助の対象であることの確認ではありません。それにもかかわらず、報酬は採択に連動し、設備の手配も採択を前提に動き出します。この落差の処理を、事業者と業者の間の訴訟に委ね続けている現状は、制度の側で引き受けるべき課題であると言わざるを得ません。

なお、いずれも地方裁判所の判断であり、本稿で紹介した二つの判決について、上訴審の裁判は手元の資料では確認できていません。事案の個別性も大きいため、結論を一般化してお使いになることは避けていただきたいところです。

ご相談をお考えの事業者の方へ

申請支援業者から成功報酬を請求されている、あるいは、支援業者の説明どおりに申請したところ事務局から対象外であると指摘された、という段階でのご相談を承っております。契約書の文言から「払うほかない」と判断してしまう前に、初回面談の記録、業者との全メール、事業計画書の各版、事務局とのやり取り、公募要領の該当箇所をご用意いただければ、争える筋があるかどうかの検討ができます。あわせて、補助金の側の処理(辞退で済むのか、取消しと返還命令に進むのか)の見通しも立てる必要があります。早い段階でご相談ください。

申請支援を行っておられる事業者の方からのご相談も承っております。報酬条件の設計、説明の記録の取り方、業務範囲の特定について、裁判例を踏まえた検討が必要な場面があろうかと存じます。

士業の先生方へ

顧問先から「支援業者に成功報酬を請求されているが払う必要があるのか」「紹介した業者との間で紛争になった」というご相談を受けることがあろうかと存じます。補助金の制度の側の処理と、業者との民事の紛争は、別に進みます。民事の部分だけ、あるいは補助金の部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第4章(5)後段、第5章(2)(3)及び第6章は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、契約書・やり取りの記録等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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