執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 取消しの根拠になるのは、交付規程ではなく補助金適正化法17条1項です
事前通知や取消通知に、交付規程(交付規定と表記されることもあります。)の条項番号だけが挙げられていることがあります。そうしますと、まず交付規程の条文を読み、自分がそれに違反したかどうかから考え始めることになります。しかし、交付決定を取り消す権限の根拠は、交付規程そのものではありません。
事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金は、中小機構が中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付する助成金です。同法16条が、補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用し、「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えると定めています。そうしますと、交付決定の取消しは、補助金適正化法17条1項によることになります。なお、補助金適正化法は、適化法と略されることがあります。
これに対して、事務局が交付主体となる補助金――IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)、小規模事業者持続化補助金――は、事務局との間の、交付規程に基づく負担付贈与契約と解されます。中小機構が交付主体となる新事業進出・ものづくり補助金は、これには当たりません。この類型では、交付規程の定めは契約の内容として扱われることになりますので、以下で述べる整理は当てはまりません(事務局が交付する補助金で、この類型の全体像を述べています)。
次に引用する17条1項の「各省各庁の長」は、中小機構が交付主体となる補助金では、上の読替えにより、中小機構の理事長と読むことになります。
引用(補助金適正化法17条1項)「各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。」
ここから読み取れる取消事由は、①補助金の他の用途への使用、②交付の決定の内容又はこれに附した条件(補助条件)への違反、③法令又はこれに基づく処分への違反の三つです。交付規程の条項に違反したという指摘は、このうち②に当たるかどうかという問題に置き換わるのが通常です。
交付規程は、交付主体が自ら定めた内部的な規範であって、法令ではありません。最高裁判所の調査官解説も、同種の交付要綱について、交付主体の内部的な規範(講学上の行政規則)にすぎず、国民に対して直接の法的効力を有するものではないと述べています(最高裁判所判例解説民事篇令和5年度551頁参照)。そうしますと、交付規程の条項に違反したという指摘は、③のうち「法令」への違反の問題にはならないと考える余地があります。もっとも、17条1項は「これに基く各省各庁の長の処分」への違反も取消事由としていますので、交付規程の条項それ自体とは別に、個別に出された指示や処分に違反したといえるかどうかという問題は、なお残ります。
2 挙げられた条項の主語と、命じている内容を見ます
②の補助条件とは、交付決定に際して附される条件(補助金適正化法7条1項、3項)のことです。これは、交付決定という処分の本体に付け加えられる定め(講学上の附款といいます)に当たり、その中でも、法令により課される義務とは別に作為又は不作為の義務を課す「負担」に当たるものが多いとされています(最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)79~80頁参照。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』148頁(株式会社全国会計職員協会、2016)も同旨です)。
そうしますと、ある定めが補助条件であるという以上、その定めは、補助事業者に対して作為又は不作為の義務を課しているはずだ、ということになります。これが、挙げられた条項を読むときの物差しです。「補助事業者は、……しなければならない」という形の定めであれば、補助条件になる余地があります。これに対し、「中小機構は、……することができる」という形の、交付主体自身を主語とする条項は、補助事業者に義務を課していませんから、補助条件になることはないというべきです。
交付決定通知書には、交付規程に従うべき旨の一文が置かれていることがあります。この一文があることを根拠に、交付規程に定められたことはすべて補助条件になっている、という説明がされることがあります。もっとも、この一文があることのみによって、交付規程の全部が補助条件になったと解することは難しいと考えております。
交付規程がどのような性質のものか、交付決定通知書には何が書かれているか、個々の条項がどうなっているかの詳しい検討は、コラム「賃上げ要件を達成できなければ、補助金を返還しなければならないのか」の第2節・第3節・第5節・第7節で述べています。重複受給を理由に取消しを求められた場合については、コラム「『重複受給』を理由に交付決定を取り消すと言われたら」をご覧ください。
次のような書面が届いている場合は、お返事をされる前にご相談ください
- 事前通知・取消通知に、交付規程の条項番号だけが挙げられている
- 交付規程に違反したので返還が必要である、という説明を受けている
- 交付決定通知書に書かれていない事項について、違反を指摘されている
3 交付規程を守らなくてよい、という意味ではありません
また、ここで述べたのは、取消事由に当たるかどうかという入口の問題です。仮に取消事由に当たるとされた場合でも、現実に交付決定を取り消すかどうかは別の問題として残ります(取消しに裁量はあるのかをご覧ください)。交付規程の条項を挙げられたからといって、返還に応じるほかないということにはなりません。
4 お手元で確かめられること
- 挙げられている条項の主語が誰か。「中小機構は」で始まる定めか、「補助事業者は」で始まる定めか。
- その条項が、補助事業者に対して、何をせよ、何をしてはならないと命じているか。命じていないのであれば、違反するということ自体が考えにくいことになります。
- 交付決定通知書に、その事項についての記載があるか。通知書そのものと、添付されている交付申請書・経費明細を見ます。
- 取消しの根拠法条として、補助金適正化法17条1項が示されているか。交付規程の条項番号だけが示されている場合は、三つの取消事由のどれに当たるとされているのかが、書面から読み取れないことがあります。理由の提示についてはコラム「取消しの処分性と理由付記の不備」をご覧ください。
交付規程の条項番号を挙げた事前通知・取消通知が届いている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、お返事をされる前にご相談ください。交付決定通知書とそこに添付された交付申請書・経費明細、届いた通知書があれば、挙げられている条項が補助事業者に何を命じているのかという形で、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法17条1項(取消事由は、①補助金等の他の用途への使用、②交付の決定の内容又はこれに附した条件への違反、③法令又はこれに基く各省各庁の長の処分への違反の三つ)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条(補助金適正化法の準用)
- 補助金適正化法7条1項、3項(補助金等の交付の条件)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程 様式第2(交付決定通知書)「補助事業者は、交付規程で定めるところに従うほか、補助事業の実施に当たっては、独立行政法人中小企業基盤整備機構の指示に従うこと。」
- 最高裁判所判例解説民事篇令和5年度551頁(補助金の交付要綱について、交付主体の「内部的な規範(講学上の行政規則)にすぎず、国民に対して直接の法的効力を有するものではない」とするもの。最二小判令和5年11月17日民集77巻8号2070頁の解説)
- 最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)79~80頁(補助金適正化法にいう「条件」は講学上の「附款」に当たるとし、附款の種類のうち、許認可等を行うに際して法令により課される義務とは別に作為又は不作為の義務を課すものが「負担」であるとした上で、法にいう「条件」は「負担」に当たるものが多いとするもの。最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁の解説)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)148頁(本法の「条件」は、内容的には「負担」(相手方に一定の作為、不作為、受忍等の義務を命ずる従たる意思表示)にあたるものが多い)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
関連ページ
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。