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弁護士 岸上大起

補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのか――裁判例紹介:名古屋地判平成4年4月23日・名古屋高判平成5年2月23日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金の交付決定の取消しは、「取消事由があるかどうか」だけで決まるものではありません。補助金適正化法17条1項は、補助事業者等が義務に違反したときに、交付行政庁が交付決定の全部又は一部を「取り消すことができる」と定めています。取消事由が生じたことと、その場で取消権を行使できることとは、同じではありません。

ところが実務で届く文書は、しばしばこの二つを一直線につなげています。「承認を受けずに担保に供した」「承認を受けずに処分した」といった事実を指摘し、だから同法22条違反であり、だから交付決定を全部取り消し、交付済みの補助金の全額と年10・95パーセントの加算金(同法19条1項)を納付せよ、という形です。事業者の側は、事実関係そのものは争えないことが多いため、ここで反論の糸口を失ってしまいます。

本稿で取り上げる二つの判決は、この一直線を切り分けたものです。名古屋高判平成5年2月23日(訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁)は、無承認の担保提供によって「同法一七条一項所定の取消事由が生じるに至った」と認めながら、そのすぐ後に「(直ちに取消権を行使し得る状態であったかはともかくとして)」という括弧書きを置きました。そして、取消権の行使は、義務違反があるというだけで直ちに行い得るものではなく、補助目的達成の可否を補助関係の全過程を通じて総合的に判定し、当初の目的を達成することが困難となった時点において初めて行うべきものである、と述べています。

その第一審である名古屋地判平成4年4月23日(訟月39巻11号2262頁、判タ799号243頁、判時1443号130頁、金判900号21頁)は、別の角度から同じところに踏み込みました。この補助金の交付の目的に立ち返れば、補助金で取得した建物を担保に供したとしても、その建物が引き続き補助の目的にかなう形で使われている限り、他用途使用に当たるとはいえない場合があり得る。だから、担保提供があったからといって「取消処分がなされることが必須であったとはいえない」。こう述べています。

もっとも、二つの判決は、いずれも取消処分の適法性を審判対象とした事件ではありません。破産手続の中で、国の補助金返還請求権がどの性質の債権に当たるかを争った事件です。そのため、ここで紹介する説示は、いずれも理由中の判断です。「この判決が取消しを違法とした」という引き方はできません。本稿では、どこまでが判決の言葉で、どこからが学説と当職の見解なのかを分けて示します。そのうえで、今の事業再構築補助金などで「22条違反だから全部取消し・全額返還」と言われたときに、何を問い、何を主張できるのかを整理します。

1 「取消事由がある」と言われたら、まず何を問うべきか

(1)17条1項は「取り消すことができる」と書いてある

はじめに、条文を確かめます。

引用(補助金適正化法17条1項)

「各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。」

この一文の中に、三つのことが書かれています。

第一に、取消事由は三つの類型に限られています。①補助金等の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基づく処分への違反です。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)243頁から245頁までは、この三つを分けて説明しています。取消しを受ける側としては、まず、告げられた事実がこの三つのどれに当たるとされているのかを確かめることになります。この点は、補助金の交付決定の取消し・返還請求で扱っています。

第二に、「取り消すことができる」とされています。「取り消さなければならない」ではありません。小滝・前掲245頁も、「取消権の行使は交付行政庁の裁量事項に属するものというべきである」としています。

第三に、取消しの範囲は「全部又は一部」です。全部取消しだけが法の定める姿ではありません。

(2)実務で起きていること

交付決定から数年が経ち、補助事業で取得した設備や建物について、担保を設定した、リースに切り替えた、譲渡した、使い方を変えた――こうした事実が、実地検査や事業化状況報告の過程で把握されることがあります。そこから届く文書は、おおむね次の形を取ります。承認を受けていないこと、だから22条違反であること、だから交付決定を全部取り消すこと、だから交付済みの全額と加算金を納付すべきこと。

事実関係そのものに争いがない場合、事業者の側は「争う余地がない」と受け止めてしまいがちです。しかし、そこで問うべきことは、少なくとも三つあります。

一つ目は、その行為が本当に「交付の目的に反して」いるのか、ということです。22条が禁じているのは「補助金等の交付の目的に反して」する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供であって、承認を受けていない行為のすべてではありません。

二つ目は、仮に取消事由が生じたとして、その時点で直ちに取消権を行使できるのか、ということです。

三つ目は、取消しの範囲が全部でなければならないのか、ということです。

本稿で紹介する二つの判決は、一つ目と二つ目について、裁判所の言葉で手がかりを与えています。

2 事案――無承認の担保提供を取消事由とされた事件

(1)補助金の種類と、その交付の目的

防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律3条2項による助成措置として、保育園を設置していた社会福祉法人に対し、園舎を木造から鉄筋コンクリート造りに改築する防音工事費用の一部が交付されました。昭和50年度・51年度の補助金で、昭和51年4月から昭和52年4月までの4回に分けて、合計8291万6000円が交付されています。交付決定の通知には、補助金適正化法等に従うという条件が付されていました。

第一審は、この補助金の性格を次のように押さえています。本稿の読み方の出発点になる部分です。

引用(名古屋地判平成4年4月23日・第三 4)

「本件補助金等は、防衛施設である自衛隊の航空機の発着による騒音被害を防止し軽減するために、防音設備を備えた建物の建築工事費用を補助するものであって、そのうち、教育施設等一定の事業を行う建物についてはその事業目的を考慮して一般の住宅に比して高額の補助をするものとされている」

(2)交付決定に付されていた条件

控訴審は、書証から次の条件を認定しています。

引用(名古屋高判平成5年2月23日・第三 四2)

「本件交付決定には、破産者は、(1)補助事業等により取得した財産については、補助事業等完了後においても善良な管理者の注意をもって管理するとともに、補助金等の交付の目的に従って効率的な運営を図らなければならないこと、(2)補助事業等により取得した機械及び重要な器具のうち一個あたりの取得価格が五○万円以上のもの(破産者が本件補助金等の交付を受けて行った補助事業により取得した園舎がこれに含まれることはいうまでもない。)は、防衛施設局長の承認を受けないで、交付の目的に反して担保に供するなどしてはならないこと、等の条件が付されていた」

今の公募要領・交付規程に基づく交付決定にも、これと同じ趣旨の条件が付されています。条文(22条)と交付決定の条件の両方に重なって現れる、という構造は変わっていません。

(3)無承認の担保提供から取消しまでの経緯

昭和62年4月10日、この法人は、交付行政庁の承認を受けないまま、補助金で取得した園舎に根抵当権(極度額7000万円)を設定し、翌11日にその登記を経由しました。処分が制限される財産に不動産が含まれることは、同法施行令13条1号により明らかであるとされています(現行の施行令13条1号も「不動産」のままです)。

交付行政庁は、昭和62年6月にこの事実を知りましたが、すぐには取消権を行使しませんでした。控訴審が認定したところによれば、補助対象の園舎が保育園として将来にわたって使用されることが補助目的の達成のためにも望ましいと考え、関係自治体と連絡を取りながら、根抵当権設定登記の抹消登記手続を採るなどして運営を正常化するよう要請し、取消権の行使を控えてきた、という経過です。

その後、他の債権者による破産申立てがされ、平成元年3月20日ころには破産宣告を受けることが避けられない状況となりました。それでも交付行政庁は、園舎が保育園として将来にわたって使われ続けることが望ましいこと、法人が保育園の運営を断念していないこと、取消しと返還命令を発すれば破産が決定的となり閉園が確実になることなどを理由に、破産宣告後に取消権を行使することとしました。

そして、平成元年3月27日午前10時に破産宣告がされ、その翌日である3月28日に交付決定の取消しと返還命令(同法17条1項・18条1項)がされています。

この経緯そのものが、本稿の主題に直結します。 交付行政庁は、違反の事実を知ってから約1年9か月、取消権を行使しませんでした。そして、その理由を書証に残しています。取消事由が生じた時点で直ちに取り消さなければならないわけではないことを、交付行政庁自身の運用が示している事案なのです。

(4)この事件が破産債権確定訴訟であったこと

訴訟の形は、取消訴訟ではありません。国が返還命令に基づく債権を破産債権として届け出たところ、破産管財人が異議を述べたため、国が破産債権確定訴訟を提起したものです。第一審は、この債権が破産宣告前の原因に基づく債権とはいえないとして請求を棄却しました。控訴審では、同じ債権が財団債権であることの確認を求める請求が主位的請求として追加され、控訴審はこれを認容しています。

つまり、争点は「返還請求権がいつ発生したか」でした。そこで、債権発生の基礎がいつ整ったのかを決めるために、取消権をいつ行使すべきものなのかが論じられることになったのです。破産手続の中で補助金の返還金がどの順位に置かれるかという整理そのものは、廃業・破産したら、補助金の返還はどうなるのかで扱っています。本稿では、これ以上は立ち入りません。

3 名古屋高判平成5年2月23日――取消事由が生じたことと、取消権を行使し得ることは別

(1)22条が置かれている理由

控訴審は、まず22条がなぜ置かれているのかを説明しています。この説明は、後の当てはめにそのまま効いてきます。

引用(名古屋高判平成5年2月23日・第三 四1)

「しかし、補助金等が単に補助目的どおりに消費されたという事実のみをもって補助目的が達成されたとは即断できず、補助金等の使用によってその資金価値の転換された物件が事後引き続いて当初の目的どおりに使用されることによって初めて、補助金等交付の本来の目的が完全に達成されることとなるものであるところから、同法は、右の各規制に加えて更に、補助金等の交付を受けた者(補助事業者)は、補助事業により取得した財産等を、各省各庁の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して担保に供するなどしてはならない旨規定している(二二条)。」

22条の目的は、取得した財産が「当初の目的どおりに使用される」ことを確保することにある、という押さえ方です。ここから、22条違反とされる行為が本当に「当初の目的どおりの使用」を失わせているのか、という問いが立ちます。

(2)担保設定の時点で取消事由は生じた――ただし括弧書きが付く

控訴審は、無承認の担保設定が22条違反であり、同時に交付決定に付された条件にも違反すると認めました。そのうえで、次のように述べます。文末の括弧書きが、この判決のいちばん大切な部分です。

引用(名古屋高判平成5年2月23日・第三 四2)

「補助目的の貫徹を図って規定された前記適正化法の条項の趣旨に鑑みると、これは、適正化法二二条の規定に反する行為であると同時に、本件交付決定の際付加された右の条件にも反する行為であるということができ、したがって、本件交付決定については、その時点において、同法一七条一項所定の取消事由が生じるに至ったということができる(直ちに取消権を行使し得る状態であったかはともかくとして)。」

取消事由が生じたことは認める。しかし、それと、その時点で取消権を行使し得る状態にあったかは別である。裁判所は、わざわざ括弧を使って、この二つを切り分けました。

(3)では、いつ取消権を行使すべきなのか

続く段が、その答えです。

引用(名古屋高判平成5年2月23日・第三 四3)

「本件交付決定のような補助金等の交付決定は、受益的行政行為と解されるところ、右行政行為については、瑕疵なく成立した以上、これに基づいて形成された補助行政上の法律関係は、既得の権利利益の保護及び既成の法律秩序維持を図るため、みだりに消滅させることは許されないものと解されるが、補助事業等が補助行政目的どおりに遂行され得ないこととなった場合には、資金の効率性が阻害されることを防止するためにも、当該交付決定を取り消した上、補助金等の返還を求めることができる必要が生じるところから、適正化法は、その撤回権(取消権)について明示的に留保の規定を置き(一七条等)、相手方の信頼保護との調和を図ることとしているものと解される。このような観点に立つと、補助金等の交付決定の取消権の行使については、補助事業者の義務違反(条件違反行為)があるというだけで直ちにこれを行い得るものと解すべきではなく、補助目的達成の可否について補助関係の全過程を通じて総合的に判定し、補助金等交付の初期の目的を達成することが困難となった時点において初めてその取消権を行使すべきものと解するのが相当である。」

組み立てを分けて読みます。

第一に、交付決定は受益的行政行為であり、瑕疵なく成立した以上、それに基づいて形成された法律関係を「みだりに消滅させることは許されない」。

第二に、しかし補助事業が補助行政目的どおりに遂行され得なくなった場合には、取り消して返還を求める必要が生じる。だから適正化法は、撤回権(取消権)を明示的に留保する規定(17条等)を置いて、相手方の信頼保護との調和を図っている。

第三に、そういう観点に立つと、取消権の行使は、義務違反があるというだけで直ちに行い得るものではない。「補助目的達成の可否について補助関係の全過程を通じて総合的に判定し」、当初の目的を達成することが困難となった時点において初めて行使すべきである。

ここで使われているのは、「比例原則」や「裁量権の逸脱・濫用」という言葉ではありません。受益的行政行為の撤回の制限と、適正化法が撤回権を留保していることの意味から導かれています。この違いは、後記5(2)で改めて述べます。

(4)当てはめ――目的達成の可能性が「殆ど消滅」した段階

そして当てはめです。控訴審は、違反の時点ではなく、破産宣告の直前を基準時としました。

引用(名古屋高判平成5年2月23日・第三 四5)

「右に認定したような破産者が本件交付決定の条件及び法令に違反する担保提供等を行ってから本件破産宣告を受ける直前までの経緯に徴すると、右破産宣告の直前において、既に破産者について本件補助目的が達成される可能性は殆ど消滅するに至っており、本件交付決定について取消権を行使することも止むを得ない状態となっていたのであるから、遅くともその段階(破産宣告の直前)においては、破産者について、本件補助金等返還請求権発生の基本となる法律関係が生じ、債権の成立に必要な事実の大部分が生じるに至ったと認めるのが相当である。」

「補助目的が達成される可能性は殆ど消滅するに至っており」、だから「取消権を行使することも止むを得ない状態となっていた」。これが、控訴審が取消権行使の限界線を引いた言い方です。無承認の担保提供という違反行為そのものではなく、補助目的の達成可能性が尽きたことが、取消しをやむを得ないものにしたとされています。

4 名古屋地判平成4年4月23日――その事実が発生すれば取消処分が「必須」といえるか

第一審は、控訴審とは違う角度から入りました。結論(破産債権に当たらない)は控訴審と異なりますが、取消しの可否についての見方は、同じ方向を向いています。

(1)授益的行政処分の特性

第一審は、まず、交付決定の取消しが関係者に重大な影響を及ぼすことを具体的に指摘します。

引用(名古屋地判平成4年4月23日・第三 3)

「補助金等によって取得した財産の処分制限は、補助事業者の所有権の行使に対する重大な制約である。また、補助金等によって建築された物であることは何等公示されていないにもかかわらず、交付決定が取消され返還命令が確定したときは、強制徴収ができ、競売や倒産手続きにおいては補助事業者に対する一般債権者はもとより担保権の設定時期如何によって担保権者に対しても優先することになる。このように交付決定の取消は関係者に重大な影響を及ぼすものである。 このような授益的行政処分の特性に鑑みると、行政処分の取消によって発生する受益の返還請求権については、破産宣告前に、『債権の発生の基本となる法律関係があった』というためには行政処分の取消事由の要件が明確であることが前提でなければならず、『債権の成立に必要な事実の大部分が具備した』というためには、取消事由とされる事実が、当該事実が発生すれば取消処分がなされることが必須であるような場合であることを要するものと解する。」

処分制限は所有権の行使に対する重大な制約である。補助金で建てられた物であることは何ら公示されていない。それにもかかわらず、取消しと返還命令が確定すれば、強制徴収ができ、倒産手続では一般債権者はもちろん、設定時期によっては担保権者にも優先する。――取消しの重さを、こうして具体的に数え上げたうえで、「その事実が発生すれば取消処分がなされることが必須であるような場合」かという問いを立てています。

(2)交付の目的に立ち返る

次が、本稿でもっとも使い道のある説示です。第一審は、この補助金の交付の目的に立ち返って、担保提供が他用途使用に当たるかどうかを検討しました。

引用(名古屋地判平成4年4月23日・第三 4)

「このように、本件補助金等交付の目的は直接的には騒音被害を軽減することであり、当該建物によって営まれる教育事業そのものを育成、推進することを目的としているものではないから、補助事業者の行為が補助金等の他用途使用にあたるか否かを判断するにあたっては、前記の補助の目的を考慮して慎重になされなければならない。 すなわち、補助金等の交付が教育事業そのものの育成、推進にある場合には補助金等によって取得した財産を担保に供することは、端的に他用途使用ということができようが、本件補助金等の交付の目的は前記のとおりであり、補助金等によって取得された建物が教育施設として引き続き利用されている限りは騒音被害を軽減する必要が存在するから、仮にこれを担保に供したとしても、他用途使用に当たるといえない場合がありうるのである。」

同じ「無承認の担保提供」でも、その補助金が何のために交付されたのかによって、他用途使用に当たるかどうかの評価は変わり得る。これが第一審の読み方です。この補助金は防音のための補助であって、そこで営まれる教育事業そのものを育成するための補助ではない。だから、建物が教育施設として使われ続けている限り、担保に供したこと自体では、交付の目的に反したとはいえない場合があり得る、というのです。

目的外使用の判断の枠組みそのものは、補助金の目的外使用とは何かで扱っています。

(3)処分制限と一律の返還という負担の重さ

第一審は、さらに、取消しがもたらす負担の重さそれ自体を、慎重さを要する理由として挙げています。

引用(名古屋地判平成4年4月23日・第三 4)

「しかも、補助金等の交付によって取得された財産の処分制限の期間は財産の種別毎に減価償却期間を参考として定められた長期間に及ぶものであるが、期間内の違反に対しては、それまでの経過期間を問わず、交付された補助金等の額に交付の日から年一〇・九五パーセントの割合で計算した金額を加えた額を返還すべき旨一律に定められているところ、本件補助金等に関しては、当該事業が廃止されたとしてもそれまでの間防音工事をする必要があったことは否定できないし、教育施設以外の用途の建物であったとすればそれ相応の補助金等の交付が受けられたはずである。このように決して軽くない負担をもたらす補助金等の取消決定はより慎重になされなければならない。」

処分制限期間は長い。その期間内の違反であれば、経過期間を問わず、全額に加算金を加えた額の返還が一律に定められている。しかし、それまでの期間については、補助金が目的どおりに効果を上げていたことは否定できない。――この指摘は、処分制限期間の終わりに近い時期の違反について、特に効いてきます。処分制限期間そのものの考え方は、処分制限期間は何年かで扱っています。

(4)結論

引用(名古屋地判平成4年4月23日・第三 5)

「前記4で述べたように、本件補助等については、担保に供する行為が取消事由に該当するか否かは、補助金等交付の目的に照して慎重に判断されなければならず、交付決定を取消すかどうかも、従前の経過や他の場合と比較して慎重になされなければならないのである。 このようなことからすると、本件においては、破産者の担保提供行為があったからといって取消処分がなされることが必須であったとはいえないから、担保提供行為があったという段階では、補助金等返還請求権の成立に必要な事実の大部分が具備したものとはいえない。」

※ 「本件補助等」は、手元の判決全文の表記のままです。

ここには二つの「慎重に」が書かれています。一つは、その行為が取消事由に該当するかどうかの判断(22条の当てはめ)。もう一つは、取消事由に当たるとして、交付決定を取り消すかどうかの判断です。前者は「補助金等交付の目的に照して」、後者は「従前の経過や他の場合と比較して」慎重に、とされています。

なお、第一審は、国の政策論に対する応答の中で、この事件で補助目的が達成されなかったのは、違反行為とされた根抵当権の設定とは直接の関係がなく、他の債権者の申立てに基づいて破産宣告がされた結果であると述べています(第三 6)。違反行為と目的不達成との間のつながりを見ている部分として、あわせて押さえておく価値があります。

5 この二つの判決はどこまで使えるか――射程と限界

ここは、正直に書いておかなければならない部分です。

(1)審判対象は取消処分の適法性ではない

いずれの判決も、審判対象は債権の性質(財団債権か、破産債権か)です。取消処分の適法性ではありません。それどころか、第一審は、取消決定の効力をこの訴訟では審理できないと明示しています。

引用(名古屋地判平成4年4月23日・第二 二なお書き)

「なお、被告は、本件根抵当権の設定行為が、適正化法二二条によって禁止された『補助金等の交付の目的に反する取得財産の担保提供行為』に該当することを争うが、補助金等交付決定の取消決定は行政処分であって、公定力を有するから抗告訴訟によって取消されるか、或いは行政庁によって撤回されない限り、他の訴訟において権利義務を判断するに際しては右行政処分は有効であることを前提としなければならない。」

したがって、ここで紹介した説示は、いずれも理由中の判断です。「この判決が取消しを違法とした」「22条違反に当たらないとした」という引き方はできません。前記4(2)の説示も、取消処分を無効としたものではなく、他用途使用に当たらない場合があり得るから「必須」とはいえない、という論証の一部です。

同時に、この引用は実務上の警告でもあります。取消通知が確定してしまえば、他の手続の中で「そもそも取り消されるべきではなかった」と言っても通りません。 争うのであれば、審査請求や取消訴訟の形で、期間内に争う必要があります。取消通知が届く前に何をしておくべきかは、取消しの通知が届く前にしておくべきことにまとめています。

(2)「比例原則」「裁量権の逸脱・濫用」は判決の言葉ではありません

控訴審の説示は、取消しの裁量が問題となる場面で広く引かれています。もっとも、判決は「比例原則」とも「裁量権の逸脱・濫用」とも書いていません。 述べているのは、受益的行政行為の撤回が制限されること、適正化法が撤回権を明示的に留保していること、相手方の信頼保護との調和を図っていること、の三つです。

これらの言葉を使った議論は、学説の側にあります。遠藤博也『行政行為の無効と取消-機能論的見地からする瑕疵論の再検討-』(東京大学出版会、1968)186頁は、受益者側の原因による授益的行政行為の取消しについて、「原則として、法令違反の事実をもってただちに取消しうるのではなく、まず他の処分等によって行政目的実現に努力すべきであって、相手方の態度その他の事情から、このような方法によっては行政目的実現が不可能であるという場合にかぎって、取消が認められると解すべきであろう」とします。碓井光明「補助金」現代行政法体系第10巻財政(1984)247頁は、「事業遂行命令や是正措置命令により容易に目的を達しえたとみられる事業について、いきなり交付決定の取消をなすことは、裁量権の濫用になるものと思われる。」とします(いずれも小滝・前掲246頁注4・注5の引用によります)。

当職としても、取消事由があるというだけで直ちに全部取消しをすることは、裁量権の逸脱・濫用となり得ると考えております。もっとも、それは学説と当職の見解であって、判決の言い回しそのものではありません。書面でも記事でも、この層は分けて書くようにしております。取消しの裁量という枠組みでの整理は、補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのかで扱っています。

(3)文献上の位置づけ――小滝解説と評釈

小滝・前掲244頁は、交付決定の内容・条件違反を理由とする取消しについて、「取消権の行使にあたっては、交付決定の内容違反が極めて広範な取消事由であるだけに、補助目的達成の可否について形式的、一時的にではなく、補助関係の全過程を通じて総合的に判定のうえ行うこととすべきであろう」とし、不作為であっても事業の適期を失していない限り着手命令を発すべきこと、完了前であれば是正の余地のある限り事業遂行命令(13条1項)で対処すべきこと、完了実績報告の段階でも是正の余地のある限り是正措置命令(16条1項)で対処すべきことを挙げ、「これらの命令処分をまっては所期の目的が達成されえないような、相手方の重大な義務違反を責めるに足る主観的事情があると認められる場合に、取消権を発動することが相当であると解される」としています。

そして、同書246頁注6は、前記3(3)の控訴審の説示を引いて「私見を支持している」と述べています。つまり、控訴審の判示は、適正化法の実務解説の中で、取消権行使の限界を示すものとして位置づけられています。

控訴審判決には、判タ882号282頁(平成6年度主要民事判例解説)に評釈があります。評釈は、控訴審と第一審の関係を次のように見立てています。

引用(判タ882号283頁)

「判旨一、二は通説の見解に沿うものであるが、授益的行政処分の取消(撤回)の制限という特質及び適正化法一七条一項の取消権の留保についての考えのニュアンスが一審判決と若干異なっているように思われ、議論のあるところであろう。本判決はYから上告されており、その判断が注目される。」

第一審と控訴審の違いを、「結論の対立」ではなく「取消権の留保についての考えのニュアンス」の違いとして見ていること、そのうえで「議論のあるところであろう」と留保していることに注目していただきたいところです。なお、上告がされていますが(判タ882号282頁)、上告審の裁判は公刊物に見当たりません。この問題について最高裁の判断は示されていない、ということになります。

(4)引用する際の注意

実務上の注意を一つ付け加えます。小滝・前掲245頁注3は、「補助金等の交付決定の取消権の行使は、補助事業者の義務違反があるということで直ちに行い得るものではなく、補助目的達成の可否について形式的でなく、補助関係の全過程を通じて総合的な判断の上に立って行うものである。」という一文を、第一審(名古屋地判平成4年4月23日)の判示として引用しています。 しかし、判決全文を確かめると、この一文は「(争点に関する原告の主張)3」として記録された国側の主張であって、裁判所の判示ではありません。

この命題を裁判例の言葉として引くのであれば、前記3(3)に掲げた控訴審の正文を用いるのが正確です。書面で引用する際には、二次文献の注を経由せず、判決全文で確かめることをおすすめします。

6 では、今はどのようなときに取り消せるのか

ここからは、今の補助金――事業再構築補助金のように、補助事業で取得した設備や建物に処分制限が付き、事業化状況報告や実地検査を通じてその使われ方が確かめられる仕組みの補助金――を念頭に、主張の組み立てを整理します。以下は、前記の判決・文献を踏まえた当職の整理です。

(1)告げられた事実が、17条1項の三つの類型のどれに当たるのか

出発点は条文です。取消事由は、①他用途使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基づく処分への違反の三つに限られます。

したがって、まず、届いた文書が取消しの根拠としてどの類型を挙げているのかを特定します。「不適切である」「趣旨に反する」といった評価が書かれているだけで、三つの類型のどれに当たるのかが示されていないことがあります。また、交付規程や公募要領に書かれていることに反したという指摘が、そのまま②や③に当たるかは別の問題です。この点は、交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。

(2)そもそも「交付の目的に反して」いるか

22条が禁じているのは、「各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して」する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供です。

引用(補助金適正化法22条)

「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」

「交付の目的に反して」という文言は、飾りではありません。最三小判令和3年3月2日に関する調査官解説は、22条における承認の対象について、次のように述べています。

引用(最判解民事篇令和3年度86頁)

「このような法22条における各省各庁の長の承認の効果からすると,その対象は,補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなることであると解され,『補助金等の交付の目的に反して使用し,譲渡し,交換し,貸し付け,又は担保に供し』とは,補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなる具体例として挙げられているもののように思われる。」

承認が必要となる対象の核心は、「補助目的に沿って管理しなくなること」である。列挙された行為は、その具体例として挙げられているにすぎない――こう読む整理です。第一審が、交付の目的に立ち返って「他用途使用に当たるといえない場合がありうる」と述べたことは、この読み方と整合します。控訴審が、22条の目的を、取得した財産が「当初の目的どおりに使用される」ことの確保に求めたことも同じ方向です。

そこで、具体的には次のように問うことになります。その補助金は何を実現するために交付されたのか(公募要領・交付規程・交付決定通知書に書かれた目的)。問題とされた行為によって、取得財産は補助目的に沿って管理されなくなったのか。設備が担保に供されたとしても、補助事業の用に供され続けているのではないか。リースに切り替えたとしても、当該設備が当該事業で稼働し続けているのではないか。所有の形が変わったことと、補助目的に沿った管理が失われたこととは、同じなのか。

ここを「承認を取っていないから違反である」で済ませないことが、第一歩です。

(3)取消事由が生じたとして、直ちに全部取消しができるのか

次が、控訴審の説示が正面から効く場面です。

義務違反があるというだけで直ちに取消権を行使し得るものではない。補助目的達成の可否を「補助関係の全過程を通じて総合的に判定」し、当初の目的を達成することが困難となった時点で初めて行使すべきである。――この枠組みに乗せるとすれば、主張すべき事実は、おおむね次のものになります。

① 補助目的がどこまで達成されているか。 補助事業は完了し、額の確定を受けているか。導入した設備は稼働しているか。計画した製品・サービスは提供されているか。付加価値額や賃上げの実績はどうか。処分制限期間のうち何年が経過しているか。第一審が述べたとおり、「それまでの間」に補助金が効果を上げていたことは、違反があっても否定されるものではありません。

② 違反後の是正。 担保を抹消したか、設定しないで済む形に組み替えたか。処分したものを買い戻し、あるいは同等の設備を取得して補助事業を継続しているか。事後の承認申請をしたか。報告をしたか。この事件で交付行政庁が1年9か月にわたって取消権の行使を控えたのは、まさに是正の努力が続いていたからでした。

③ より軽い手段が先に尽くされたか。 適正化法は、事業遂行命令(13条1項)、一時停止命令(13条2項)、是正措置命令(16条1項)を用意しています。是正の余地があるのに、これらを経ずに取消しに進んでいるのであれば、前掲の碓井247頁・遠藤186頁の指摘が当てはまる場面です。小滝・前掲244頁も、「これらの命令処分をまっては所期の目的が達成されえないような、相手方の重大な義務違反を責めるに足る主観的事情」が認められる場合に取消権を発動することが相当であるとしています。

④ 違反と目的不達成とのつながり。 第一審が、補助目的が達成されなかったのは違反行為とは直接の関係がないと述べていることは、裏から読めば、違反行為のゆえに補助目的が達成できなくなったのか、という問いになります。目的が達成できなくなった原因が別にあるのなら、その違反を取消しの理由とすることの筋は弱くなります。

(4)取消しの範囲――全部か、一部か

最後に、見落とされやすい点です。17条1項は「全部又は一部を取り消すことができる」と定めています。そして、返還命令の対象は「当該取消しに係る部分」に限られます(18条1項)。小滝・前掲258頁は、「交付決定の一部取消しの場合においては、当該取消しに係る部分に関し補助金等が交付されている場合に、返還の問題が生ずる」としています。

したがって、複数の設備・複数の経費区分からなる補助事業で、そのうちの一部の財産についてのみ処分制限違反が指摘されている場合には、交付決定全部の取消しが当然ではないことになります。違反の対象となった財産に対応する部分に限った一部取消しで足りるのではないか、という主張は成り立ち得ます。全部取消しの通知を受けた場合、違反の程度と取消しの範囲とが見合っているかは、確かめておくべき点です。返還額の計算の仕組みそのものは、補助金の返還額はどう計算するのかにまとめています。

(5)記録に残しておくこと

以上の主張は、いずれも事実の裏づけを必要とします。取得財産等管理台帳、設備の稼働記録、事業化状況報告の控え、交付行政庁とのやり取り(照会・回答・面談の記録)、是正のために行ったことの資料。交付行政庁が取消権の行使を控えていた期間のやり取りが書証として残っていたからこそ、この事件では経緯が認定されました。同じことが、今の事案でも言えます。

7 まとめ

補助金適正化法17条1項は、取消事由があるときに交付決定の全部又は一部を「取り消すことができる」と定めています。「取消事由があるから取り消す」という一直線の論法は、条文の形に合っていません。

名古屋高判平成5年2月23日は、無承認の担保提供によって17条1項所定の取消事由が生じたと認めながら、「(直ちに取消権を行使し得る状態であったかはともかくとして)」という括弧書きを置き、取消権の行使については、義務違反があるというだけで直ちに行い得るものではなく、補助目的達成の可否を補助関係の全過程を通じて総合的に判定し、当初の目的を達成することが困難となった時点において初めて行使すべきであるとしました。そして、この事件では、補助目的が達成される可能性が殆ど消滅し、取消権の行使も止むを得ない状態になったのは、違反の時点ではなく、破産宣告の直前であるとしています。

名古屋地判平成4年4月23日は、交付の目的に立ち返り、建物が引き続き補助の目的にかなう形で使われている限り、これを担保に供したとしても他用途使用に当たるといえない場合があり得るとしました。そして、担保提供があったからといって「取消処分がなされることが必須であったとはいえない」と述べています。

いずれも、取消処分の適法性を審判対象とした事件ではありません。「比例原則」「裁量権の逸脱・濫用」という言葉も、判決には出てきません。それでも、①取消事由が生じたことと取消権を行使し得ることは別であること、②その行為が「交付の目的に反して」いるかは補助金の目的に照らして判断されること、この二つを裁判所の言葉で示した裁判例として読むことができます。上告はされていますが、上告審の裁判は公刊物に見当たりません。裁判官の間でも判断の分かれた、難しい問題です。

そのうえで、今「22条違反だから交付決定を全部取り消し、全額を返還せよ」と言われたときに問うべきことは、三つです。告げられた事実が17条1項の三類型のどれに当たるのか。その行為によって取得財産が補助目的に沿って管理されなくなったのか。そして、補助目的の達成状況・違反後の是正・より軽い手段の可能性に照らして、今、全部を取り消すことがやむを得ないといえるのか。

ご相談をお考えの事業者の方へ

取消しを示唆された段階、あるいは取消通知・返還命令が届いた段階で、「事実関係に争いがないから仕方がない」と判断してしまう前に、確かめていただきたいことがあります。取消しの根拠が17条1項のどの類型なのか、その行為が本当に交付の目的に反しているのか、取消しの範囲が違反の程度に見合っているのか。交付決定通知書、交付規程・公募要領、取得財産等管理台帳、届いている通知書類、交付行政庁とのやり取りがあれば、具体的な検討ができます。取消通知には不服申立ての期間がありますので、早い段階でご相談ください。

士業の先生方へ

顧問先から「補助金の設備に担保を付けたいが問題ないか」「承認を取らずに処分してしまった」「取消しを示唆された」というご相談を受けることがあろうかと存じます。承認申請で足りる場面と、取消しを争う場面とでは、やるべきことが変わります。補助金適正化法の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節(2)及び第6節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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