執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金の取消し・返還をめぐって、くり返し問題になる場面があります。交付主体や事務局の担当者から書類の書き方を具体的に指示され、言われたとおりに直して出した。後になって、その書類の内容が事実と違うと指摘され、交付決定を取り消され、全額の返還を求められた。――このとき、交付した側の落ち度は、返す金額に影響するのか。この問いに正面から答えた裁判例が、本稿で取り上げる二つの判決です。
本稿で使う言葉を先に定めます。不当利得とは、法律上の原因がないのに得た利益は返さなければならないという民法703条以下の仕組みです。信義則(信義誠実の原則)とは、権利の行使と義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならないという民法1条2項の考え方で、権利の行使そのものが個別の事情のもとで許されないとされる場合に働きます。過失相殺とは、損害賠償の責任や額を定めるときに相手方の過失を考慮する仕組みです(民法418条・722条2項)。非債弁済とは、債務がないことを知って弁済した者は返還を請求できないという定めです(民法705条)。
もう一つ、言葉の整理をしておきます。本稿でいう「減額」は、額の確定の段階で交付額そのものが減らされること(補助金の「減額」とは何か、補助金の減額確定で扱っているもの)ではなく、返還を求められた後に、返還請求額が制限されるかという問題です。別の話ですので、混同しないようご注意ください。
同じ基礎となる事実の大筋のもとで、第一審と控訴審の結論が分かれました。第一審(宮崎地判令和4年5月18日)は、市の係長が内容虚偽の実績報告書の提出を依頼する電子メールを送っていた「事前の経緯」と、市が補助事業の実現可能性を十分に検討した形跡がないことを挙げて、補助金全額の返還請求は信義則に反するとして、元本の9割と判決確定の日の翌日からの遅延損害金に限って請求を認めました。控訴審(福岡高宮崎支判令和4年12月7日)は、これを変更し、元本の全額の返還を命じました。
分かれ目はどこにあったのか。ここは慎重に読む必要があります。両審はいずれも、市が交付決定の時点で事業者に新製品の開発計画がないことを知っていたとは認められないと認定しています。第一審もそう認定したうえで1割を落としたのですから、両判決の違いは、市が知っていたかどうかにはありません。動いたのは、同じ事実の評価です。
第一審が「見過ごすことはできない」とした係長の依頼メールについて、控訴審は、事業者が虚偽であることを認識しながら依頼に応じて提出したのだから、係長の依頼は「総務省との関係においてはともかく」事業者との関係では信義に反するとまではいえない、としました。そして、事業者が補助金を補助事業の目的以外に使用していたこと自体が取消事由に当たるから市はそれを理由に取り消すことができる、と述べて、信義則の主張を実質的に閉じています。あわせて、過失相殺の法理は不当利得には類推適用されないという法律論も示しました。
実務にとって重いのは、この「取消しの理由」の置き方です。本件では、市が設置した第三者委員会が、提訴の前の時点で、事業完了時期違反とこれに関する虚偽報告を理由とする返還請求については信義則等によって返還請求額が制限される可能性があると報告していました。ところが市の取消通知は、虚偽報告(規則14条3号)を取消事由として挙げていません。そして控訴審は、目的外使用を決定的な理由としました。市の職員の関与は、虚偽報告には直結しますが、目的外使用には結び付きません。相手方が選んだ取消事由に、自分が主張したい信義則の事情が結び付くかどうか。ここが、本件から読み取れるいちばん実践的な事柄だと考えております。
本稿は、両判決の判断を一字一句引用したうえで、どこで分かれたのかを整理し、担当者の指示に従って書類を出してしまった事業者が何を主張できるのか、実務上どう組み立てるのかを述べます。
なお、本件は市が交付規則に基づいて交付した補助金について、市が民法の不当利得として返還を請求した事案です。国や中小機構が交付する補助金(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」といいます。)が適用され、又は独立行政法人中小企業基盤整備機構法(以下「中小機構法」といいます。)16条により準用されるもの)とは、返還を実現する手段も、返還額に付く金銭の性質も異なります。この区別はこのサイトが扱う補助金で述べています。もっとも、交付決定及びその取消しが行政処分に当たるかどうかは、両判決の判断の対象ではありません。自治体の補助金についてのこの問題は補助金の取消しは行政処分なのか(対談)で述べているところであり、本稿は扱いません。
1 この裁判例を取り上げる理由
補助金の取消し・返還を争う場面では、二つのことを分けて考える必要があります。ひとつは、交付決定を取り消すこと自体が許されるのかという問題です。これは交付決定の取消し・返還請求、補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか、補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのかで扱っています。もうひとつが、取消し自体は仕方がないとしても、返す金額を減らせるのかという問題です。本稿が扱うのは、後者です。
本稿で取り上げる二つの判決は、この後者の問題について、同じ基礎となる事実の大筋から逆の結論に至りました。第一審は元本の9割、控訴審は元本の全額です。しかも第一審は、宮崎地方裁判所民事第2部の裁判官三名による合議体の判断です。単独の裁判官が例外的な結論を出したという事案ではありません。
両判決は、当職が調べた範囲では、判例タイムズ等の判例誌には掲載されておらず(いずれも掲載誌の記載は「LLI/DB 判例秘書登載」のみです)、評釈も見当たりませんでした。控訴審判決について上告・上告受理申立てがされたのか、確定したのかも、当職が調べた範囲では確認できていません。したがって、以下は最高裁判所の判断が示されていない論点について、地方裁判所と高等裁判所が異なる結論を示した事例として読んでいただくことになります。裁判官の間でも判断が分かれる難しい問題だということ自体が、この裁判例を紹介する意味だと考えております。
判例秘書は、第一審判決を次の判示事項を掲げて収録しています。裁判所が書いた文ではなく、判例秘書の編集による要約です。
引用引用(判例秘書が付した判示事項。LLI/DB判例秘書登載)
「原告において、補助事業の実現可能性につき十分に検討された形跡が見当たらず、原告が交付決定を取り消すことは当然のこととしても、補助金全額の返還請求は信義則に反するとして、補助金の9割の返還を求める限度で請求を認容した事例」
なお、自治体が要綱に基づいて交付した補助金の返還請求権を私法上の金銭債権とした裁判例については補助金の返還請求に時効はあるのかで述べています。本件も、自治体の補助金の返還が民法の不当利得として処理された例です。ただし、本件の根拠は要綱ではなく市の交付規則であり、交付決定・取消しという行為が現にありますので、同じ理由付けがそのまま当てはまる事案ではありません。
2 事案――国の交付金を原資とする市の補助金と、市の職員の関与
(1)補助金の名称と根拠
本件の補助金は、宮崎市が交付した「宮崎市地域経済循環創造事業補助金」3210万円です。根拠は宮崎市補助金等交付規則(判決の略称は「本件規則」)で、判決に現れる条は、交付申請の3条、条件を付すことができるとする4条、交付決定の内容の通知の5条、条件に不服があるときの申請の取下げの6条1項、取消しと返還の14条です。14条の内容は、第一審判決が次のように認定しています。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(2)ウ)
「なお、本件規則14条は、補助事業者が補助金等をその目的以外に使用したとき(同条1号)、補助事業者が補助金等の交付の内容又はこれに付した条件等に違反したとき(同条2号)等は、補助金等の決定を取り消し、又は既に交付した補助金等の全部又は一部を期限を定めて返還させることができると定めている。」
※ 宮崎市補助金等交付規則そのものの条文(14条3号の内容を含みます)は、当職が調べた範囲では確かめられませんでした。上記は判決の認定によるものです。規則の番号は、宮崎市の各補助金交付要綱が「宮崎市補助金等交付規則(昭和50年規則第19号)」として引用しているものによります。なお、3条(交付申請)と5条(通知)は、控訴審が原判決に加えた補正によって現れたもので、第一審判決の本文には出てきません。
(2)二階建ての構造と、適用される法令
この補助金の原資は、総務省の地域経済循環創造事業交付金(判決の略称は「総務省交付金」)3210万円です。市が総務大臣に交付申請し、総務省が市に対して交付決定をする。市はそれを財源として事業者に補助金を交付する。国から市へ、市から事業者へ、という二階建ての構造になっていました。
この二階建ての上下で適用される法令が違うことは、控訴審で市が正面から主張しています。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第2の3(2)ア。被控訴人(市)の主張)
「また、総務省交付金は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)が適用される公法上の法律関係であり、民法が適用される私法上の法律関係である本件補助金とは適用法令や当事者が異なり、総務省から被控訴人に対して実現可能性の検討が不十分といわれるのであれば格別、本件補助金に関して、申請者である控訴人が実現可能性を十分に検討すべきであるのに、その検討が不十分であることからすれば、上記②の事情は、控訴人と被控訴人との法律関係において、被控訴人のみが信義則に違反するとすべき事情とはいえない。」
――以上は市の主張です。両判決は、現に民法の不当利得として返還を命じており(第一審主文1項、控訴審主文2項(1))、この組み立てを前提としています。もっとも、交付決定及びその取消しが行政処分に当たるかどうかは、両判決の判断の対象ではありません。
そのうえで、本件の補助金のように国の補助金を財源とする自治体の補助金は、補助金適正化法2条4項1号の「間接補助金等」(「国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で、補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし、かつ、当該補助金等の交付の目的に従つて交付するもの」)に当たると読むのが素直です。両判決はこの点を判断していませんが、返還を実現する手段が民法だからといって、国の法律が事業者に何も及ばないわけではありません。
- 事業者自身に直接及ぶ定めとして、目的に従って事業を行う義務と他の用途への使用の禁止(11条2項)、報告・立入検査(23条1項。同条3項は犯罪捜査のために認められたものと解してはならないとしています)、罰則(29条1項・30条)があります。この点はこのサイトが扱う補助金の3と補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのかで述べています。
- 事業者の違反があったときに国が動く先は、事業者ではなく自治体です。17条2項は「各省各庁の長は、間接補助事業者等が、間接補助金等の他の用途への使用をし、その他間接補助事業等に関して法令に違反したときは、補助事業者等に対し、当該間接補助金等に係る補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる」と定めています。事業者に対する返還は、自治体が別に実現することになります。
この構造が返還額の議論にどう響くかは、後記5(6)で述べます。
(3)市の職員の関与
ここが本稿の中心です。判決が認定した事実経過を、順に見ていきます。
なお、第一審と控訴審とで職員等に振られた符号が異なります。内容虚偽の実績報告書の提出を依頼した市の係長は第一審で「I係長」、控訴審で「A係長」。事業計画書の案を送った係員は第一審で「J係員」、控訴審で「E係員」。事業者の取締役総務経理部長は第一審で「D部長」、控訴審で「B部長」。国への交付金申請書類を作成した外部の支援者(県のOBで中小企業団体のコーディネーター)は第一審で「G」、控訴審で「C」です。引用はそれぞれの判決のとおりとしますので、符号の対応にご注意ください。
ア 市の係員が事業計画書の案を作って送った
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(2)ア)
「市工業政策課企業立地係のJ(以下「J係員」という。)は、平成26年12月10日、D部長に対し、本件補助金の交付申請に必要となる書類の作成を求めた。これを受け、D部長は、同月15日、J係員に対し、事業計画書及び増設の動機の各項目からなる企業進出計画書その他の書類の電子データを送信した。これらの書類には、新工場につき、平成27年6月に完成し、同年7月に操業開始を予定していることが記載されていた。 これを受け、J係員は、D部長に対し、平成26年12月15日、自ら作成した事業計画書の案(以下「本件事業計画書案」という。)等の電子データを参考送信した。」
この案には、事業者が送った企業進出計画書に書かれていない内容も入っていました。判決は、「本件補助金を活用して同年3月までに新製品の専用ラインを設置する」という内容を含めて、「D部長から送信されてきた企業進出計画書に記載されていない内容も記載されていた」と認定しています。
イ 市の係員が完了予定日の書き換えを求めた
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(2)ア)
「その後、D部長は、本件事業計画書案の補助事業実施期間の欄に着工予定日を平成27年1月9日と、完了予定日を同年6月30日とそれぞれ記載した事業計画書を作成した上、平成26年12月18日、J係員に対し、その他の書類とともに、電子データを送信した。これに対し、J係員は、同月19日、D部長に対し、補助事業実施期間の完了予定日を平成27年3月31日に修正すること等を求める電子メールを送信した。」
事業者が自分で書いた完了予定日(同年6月30日)を、市の係員が平成27年3月31日に直すよう求めた、ということです。もっとも、交付申請自体は同月18日付けでされており、その事業計画書には既に平成27年3月31日が完了予定日として記載されています(同イ)。判決はこの前後関係をそのまま認定しているだけで、どちらが先かという点に判断を加えていません。交付決定は翌19日にされています。
ウ 年度内の設置が不可能だと分かった
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(3)ア)
「この回答を受け、I係長は、同年2月27日、今後の対応につき、市工業政策課課長のK(以下「K課長」という。)及びH補佐と協議を行い、平成26年度内の本件機械の設置は断念し、同年度内の本件機械の被告敷地内への納品をもって本件補助事業完了として取り扱う余地がないかを探ることとなった。しかし、同年3月5日に被告及び上記施工業者と協議した際の上記施工業者の説明では、本件機械の大半は、いまだ製造業者に発注すらされていない状況で、同月末までに納品される物件はないとのことであった。」
市の内部で、年度内の設置を断念し、納品をもって完了として扱う余地を探ることになったのが2月27日。その余地もないと分かったのが3月5日です。役所側が何をどの時点で把握していたのかが、判決に時点つきで認定されているという点に、ご注意ください。
エ 市の係長が総務省に照会し、「聞かなかったことにします」という回答を得た
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(3)イ)
「I係長は、前記アの施工業者の説明を受け、H補佐と協議した上、本件機械と同種同等品の写真を使用して総務省に実績報告することとし、平成27年3月24日、同日時点で被告に納品された物件が存在しないと知りながら、総務省に対し、電子メールで、同日時点で本件機械は設置が完了していないが納品はされているとし、設置でなく納品をもって総務省交付金の交付対象事業の完了と取り扱ってよいかと問い合わせた。これに対し、総務省の職員からは、電話で、「聞かなかったことにします」との回答がなされた。」
オ 市の係長が、同種同等品の写真を取り寄せて、実績報告書の提出を依頼した
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(3)イ)
「他方、I係長は、前記アの施工業者から本件機械と同種同等品の写真データを取り寄せた上、同月27日、D部長に対し、この写真データを添付した上、同月30日に本件補助事業の補助事業実績報告書を提出するように依頼する電子メールを送信した。」
この認定の証拠として、判決は甲12とともに乙19、20、22、24を挙げています。乙号証は被告(事業者)側が提出した書証ですので、役所側が送ってきた電子メールを、事業者の側が証拠として残していたことになります。
カ 事業者が実績報告書を提出し、市が補助金を交付した
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(3)ウ)
「被告は、平成27年3月30日、原告に対し、補助事業の完了日を同月27日と記載し、I係長から送られてきた写真データを出力した写真を添付した事業実施報告書を添付した補助事業実績報告書(以下「本件実績報告書」という。)を提出した。これを受け、原告は、被告に対し、同月30日、交付確定額を3210万円とする本件補助金の交付確定通知を行った上、被告からの請求を受け、同年4月10日、本件補助金として3210万円を交付した。」
同じ構図で、市も総務省に対して、機械が設置されていないのに完了したとする実績報告書を、同種同等品の写真を添付して提出しています(同ウ)。
(4)取消しと返還請求に至る経緯
機械は平成27年6月15日に設置が完了しましたが、その後は専ら既存製品の製造に利用され、新製品は結局製品化されませんでした。会計検査院が検査を行い、平成30年11月の検査結果報告で指摘がされます。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(4)ア)
「その後、会計検査院は、同年11月の検査結果報告において、総務省交付金の交付対象事業である本件機械の設置が事業年度中に実施されておらず、原告が施工業者に依頼し、事業年度中に本件機械が設置されたとする虚偽の実績報告書を作成して提出したと指摘し、交付された3210万円全額が過大であったと指摘した。」
虚偽の実績報告書の作成主体を市と指摘している点にご注意ください。
市は弁護士で構成される第三者委員会を設置し、令和元年8月7日に報告を受けました。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(4)イ)
「また、本件交付決定は、それがなされた時点では適法であったが、事業完了時期違反及びこれに関する虚偽報告は本件規則14条2号、3号に、目的外使用は同条1号、2号に、それぞれ、該当するから、これを取り消した上、被告に対し、本件補助金の返還を求める必要があるが、事業完了時期違反及びこれに関する虚偽報告を理由とする返還請求については、信義則等によって返還請求額が制限される可能性があるとされていた。」
返還請求額が制限される可能性は、「事業完了時期違反及びこれに関する虚偽報告を理由とする返還請求について」限って述べられていることを、押さえておいてください。後記5(4)で立ち返ります。
その後の取消通知は、次のとおりです。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第2の2(4)ウ)
「原告は、令和元年10月10日、被告代理人に対し、被告が平成27年3月31日までに本件機械を設置していないこと、被告が実際に設置した本件機械が新製品専用ではないこと、及び被告が本件交付申請の際に補助事業の具体的内容としていた本件新製品を製造していないことが本件規則14条1号及び2号の各事由に該当するとして、本件交付決定を取り消すことを通知した上、交付済みの本件補助金3210万円の返還を請求した。」
挙げられた取消事由は1号及び2号だけで、虚偽報告(3号)は入っていません。返還の期限は令和元年10月24日とされています(この期限は、控訴審が原判決9頁8行目を補正して明示したものです)。
(5)請求の構成と、事業者側の主張
市の請求は、不当利得に基づくものです。交付決定が規則14条により取り消されたことで、交付の法律上の原因が失われたという組み立てです。遅延損害金は、請求の日の翌日である令和元年10月11日から、平成29年法律第45号による改正前の商事法定利率である年6分の割合で求められました。
これに対する事業者側の主張は、第一審では次の四本でした。
- 規則14条1号・2号に該当する事由はない(条件に拘束されない、市が事業計画書案を押し付けた)
- 非債弁済(民法705条)
- 信義則違反
- 国家賠償法1条1項・民法715条による損害賠償債権での相殺(相殺に使う側の債権を「自働債権」といいます)
控訴審では、さらに次の三本が追加されました。
- 利得と損失の相当因果関係の不存在
- 過失相殺(民法418条ないし722条2項の類推適用)
- 補助金の交付を受けたことで多く納付した法人税・法人事業税1096万9900円の損害賠償債権での相殺
3 第一審(宮崎地判令和4年5月18日)――信義則により1割と遅延損害金を落とした
(1)主文
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・主文)
「1 被告は、原告に対し、2889万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。」
2889万円は、3210万円の9割です。そして、遅延損害金の起算日が「本判決確定の日の翌日」とされていることにご注意ください。元本の1割だけでなく、市が請求した令和元年10月11日から判決確定までの遅延損害金も落ちているということです。
(2)取消事由はあるとした(争点①)
裁判所は、まず取消事由があることを認めました。注目すべきは、条件に従うことが合意の内容になっていると認めた筋道です。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第4の1(1))
「このような事実経過からすると、被告が本件条件に従うことは、本件交付決定及び本件補助金の交付に係る原告及び被告の合意を構成する要素であったと認められる。」
条件に不服があれば申請を取り下げることができたのに(規則6条1項)、取り下げずに交付を受けた、という事実経過が根拠とされています。補助金が、条件に従うという負担を伴うものとして受け取られていたという認定です。後記4(6)で立ち返ります。
「市が事業計画書案を押し付けた」という主張も退けられました。退けた理由の中心は、事業者が異議を述べていなかったことです。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第4の1(2))
「しかし、D部長は、本件総務省交付金申請書につき、これが作成され、提出されるまでの電子メールのやり取りの中で、にら、トマト及び有機にんじんの規格外品でドレッシングを製造する予定も含め、特段の意見や異議を述べたことはない(前記第2の2(1)イ)。……そうすると、原告において本件交付決定時までに被告が本件新製品を製造する具体的な開発計画も立てていないと知っていたとは認められず、被告の上記主張は、採用することができない。」
第一審が、市は知らなかったと認定している点を、ここで押さえてください。
(3)非債弁済は認めなかった(争点②)
第一審は、係長については、交付を拒絶し得る状況にあったと認識していたとまで認定しています。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第4の2)
「I係長は、総務省の職員に対し、本件機械の納品をもって総務省交付金の交付対象事業の完了と取り扱うことの是非を問い合わせた際、「聞かなかったことにします」とする回答を受け(前記第2の2(3)イ)、総務省が本件機械の納品だけをもって総務省交付金の交付対象事業の完了とは認めない立場であることを認識していたからこそ、D部長に対し、内容虚偽の補助事業実績報告書を提出するように依頼している(前記第2の2(3)イ)ものであるから、本件補助金が交付された平成27年4月10日時点で、本件補助事業の完了予定日である同年3月31日までに本件補助事業が完了しておらず、本件補助事業の交付を拒絶し得る状況にあったと認識していたものと認められる。」
それでも非債弁済は認められませんでした。理由は、「確定的」な認識まではなかったこと、そして決裁権者の認識です。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第4の2)
「もっとも、I係長は、本件機械の代金の支払は平成26年度内に完了し、本件機械が被告の新工場の完成した後の平成27年5月末頃に部品を搬入して組み立てられ、その後、本件新製品が開発、製造される予定であるから、本件補助金を交付しても、本件補助金の目的である地域経済循環創造事業の創出は達成されると考えていたものであり(前記第2の2(1)ア、(3)ア、証人I)、積極的に本件交付決定を取り消さなければならないと確定的に認識していたというわけではない。また、本件補助金の交付の決裁権者である市観光商工部長においては、本件補助事業の完了予定日である平成27年3月31日までに、本件機械が納品されていないことすら把握していなかったものである(弁論の全趣旨)。 このような原告職員それぞれの具体的な認識の内容に加え、原告において、本件交付決定時までに、被告が本件補助事業を遂行する予定がなかったと認識していたとは認められないこと(前記1(2))も併せ考えると、原告が本件補助金を交付した際、これを交付すべき債務の存在しないことを確定的事実として知っていたとまでは認められない。」
(4)信義則により1割と遅延損害金を落とした(争点③)
本稿の中心です。全文を引用します。
引用引用(宮崎地判令和4年5月18日・第4の3)
「3 原告が本件補助金の返還を請求することは信義則に反するか(争点③)について 被告は、原告が勝手に作成したものでもGが独断で作成したものでもない事業計画(前記1(2))につき、その内容を知りながら、これを補助事業とする本件事業計画書を提出して本件補助金の交付申請をするとともに(前記第2の2(2)イ)、本件機械ではない同種同等品の写真を添付した内容虚偽の本件実績報告書を提出している(第2の2(3)イ、ウ)。とすれば、被告が本件補助金の交付に至るまでに適切な内容の事業計画書を提出し、内容虚偽の本件実績報告書を提出していなければ、本件交付決定が取り消されることもなかった以上、原告が本件補助金の返還を請求することが直ちに信義則に反するものとは認められない。 ただ、被告が上述した内容虚偽の本件実績報告書を提出するに至ったことについては、I係長が施工業者から本件機械の同種同等品の写真データを取り寄せた上、D部長に対し、この写真データを添付し、本件実績報告書を提出するように依頼する電子メールを送信したという事前の経緯を見過ごすことはできない。また、原告は、総務省交付金の対象となる事業を探していた状況の下、宮崎県からの情報提供を受け、平成26年8月27日に被告と初めて協議をした後、総務省交付金の申請期限である同年9月10日に間に合わせるべく、わずか10日余りのうちに総務省交付金の交付申請を行っているもので(前記第2の2(1)ア)、この交付申請までに、本件総務省交付金申請書に記載された事業、すなわち、本件補助事業の実現可能性につき、十分に検討された形跡も見当たらない。 そうすると、原告が本件交付決定を取り消すことは当然のことであるとしても、本件補助金全額の返還を請求することは信義則に反するものというべく、以上の諸事情を考慮し、本件請求のうち、本件補助金の1割の返還及び本判決確定の日までの遅延損害金の支払を求める部分は、信義則に反するものとして許されない(なお、原告は、平成29年法律第45号による改正前の商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金の支払を請求しているが、本件補助金の返還に係る債権は、不当利得の規定に基づき発生するもので、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものであるとは認められない以上、遅延損害金の割合は、同年法律第44号による改正前の民法所定の年5分となる。)。」
※ この部分は、控訴審が「以下のとおり改める」として差し替えており、控訴審の判断としては採用されていません(後記4(4)・(11))。
読み取っておきたい点が三つあります。
第一に、減額の理由として挙げられたのは二つだけです。①係長が同種同等品の写真データを取り寄せ、実績報告書の提出を依頼する電子メールを送ったという「事前の経緯」、②初めての協議から10日余りで国への交付申請を済ませており、補助事業の実現可能性を十分に検討した形跡が見当たらないこと。市も控訴審で、原判決の減額理由をこの二つと整理して反論しています(控訴審第2の3(2)ア)。
第二に、裁判所は「本件交付決定を取り消すことは当然のことである」としています。取消しの適法性と、返還額の制限とは、別の問題として扱われているということです。
第三に、落ちた範囲が元本の1割にとどまらない点です。市は請求の日の翌日である令和元年10月11日からの遅延損害金を求めたのに対し、第一審は判決確定の日までの分を信義則違反として排斥しました。第一審判決は令和4年5月18日ですから、落ちた期間は約2年7か月分(確定の日までを数えればそれ以上)に及びます。
(5)国家賠償の主張は認めなかった(争点④)
事業者が自働債権として主張した損害賠償債権は、いずれも認められませんでした。機会の喪失については「被告が主張する実際の事業計画なるものが総務省交付金の対象となる事業に該当すると認めるに足りる証拠はなく」とされ、名誉・信用の毀損についても、認識が広がったことを認めるに足りる証拠はなく、損害額の算定根拠も明らかでないとされています。
(6)合議体の判断であること
判決末尾には、裁判長裁判官及び陪席裁判官が転補(他の裁判所等への異動)のため署名押印できない旨が記載されており、裁判官三名による合議体の判断であることが分かります。
4 控訴審(福岡高宮崎支判令和4年12月7日)――過失相殺は類推適用されず、信義則にも反しない
(1)主文
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・主文)
「1 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文第1項及び第2項を次のとおり変更する。 2(1)控訴人は、被控訴人に対し、3210万円及びこれに対する令和元年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被控訴人のその余の請求を棄却する。 3 控訴人の控訴を棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審とも、控訴人の負担とする。 5 この判決は、第2項(1)に限り、仮に執行することができる。」
事業者の控訴は棄却され、市の附帯控訴(控訴された側が、自分の負けた部分の変更を求めて起こす申立て)により、元本は全額が認容されました。もっとも、市が附帯控訴で求めたのは3210万円と令和元年10月11日からの年6分でしたので、遅延損害金については市の求めた起算日も利率も認められておらず、主文2項(2)で「被控訴人のその余の請求を棄却する」とされています。訴訟費用は、第一審では市が5分の1を負担していたのが、1・2審とも事業者の負担に変更されています。
(2)取消事由の当てはめを分けた
控訴審は、原判決のうち規則14条の当てはめの部分を次のように改めました。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・原判決の補正(1))
「以上によれば、控訴人が、平成27年3月31日までに本件機械を設置しなかったことについては、本件規則14条2号に該当し、また、控訴人が、本件機械を設置した同年6月15日以降も本件機械を専ら既存製品の製造の用に供していたことについては、本件規則14条1号及び2号に該当すると認められる。」
第一審が「1号及び2号に該当」と一括りにしていたところを、期限内に設置しなかったこと=2号(条件違反)、既存製品の製造に使っていたこと=1号及び2号(目的外使用かつ条件違反)と分けたものです。この切り分けが、後の信義則の判断に効いてきます。
(3)当審の証拠を加えて認定を補強した
控訴審は、信義則の判断に入る前に、原判決の認定に当審の証拠を一つ加えています。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・原判決の補正(2))
「原判決15頁24行目の「前記第2の2(2)ア」の次に「、甲41・8頁」を加える。」
甲41は、A係長作成の陳述書です(控訴審第2の3(2)ア)。原判決15頁24行目は、第4の1(2)の中にある箇所ですが、同(2)には「前記第2の2(2)ア」という引用が二か所あり、頁行との対応が分からないため、どちらであるかは確定できません。いずれにしても、控訴審が、係員の参考送信の経緯等についての認定に、当審で出された陳述書を加えていることは明らかです。後記(5)の予備的判断が依拠する乙48(平成25年頃には新工場建設の計画を立てていたことの証拠)も、第一審判決の本文には現れない書証です。「同じ事実関係」といっても、記録は控訴審で増えています。
(4)信義則違反を否定した
第一審の信義則の部分(原判決17頁7行目から18頁11行目まで)は、全部が差し替えられました。差し替えられた部分のうち、判断の中心は次のとおりです。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・原判決の補正(3))
「3 被控訴人が本件補助金の返還を請求することは信義則に反するか(争点③)について (1)控訴人は、E係員において、B部長に対し、Cが独断で作成をした本件総務省交付金申請書と同じ事業計画が記載された本件事業計画書案を提示し、控訴人の実際の事業計画とは異なる内容の補助事業を記載した事業計画書を提出するように指導し、A係長において、控訴人に対し、実際の事業実績と異なる内容虚偽の本件実績報告書を提出するように指導したとして、被控訴人が本件補助金の返還を請求することが信義則に反する旨主張する。 しかし、E係員が本件事業計画書案等の電子データを参考送信したのは、B部長が本件補助金とは全く別の宮崎市企業立地促進条例による指定の申請書(乙10)の電子データを送信してきたことから、本件補助金の原資に係る本件総務省交付金申請書に記載された内容と同じものが補助事業として記載されたものを案として送信したに過ぎない(基礎となる事実(2)ア)。また、本件実績報告書が控訴人から被控訴人に提出された経緯は、基礎となる事実(3)アないしウのとおりであり、控訴人は、本件実績報告書の内容が虚偽であることを認識しながら、A係長の依頼に応じて、これを提出しているのであるから、A係長が、控訴人に本件実績報告書の提出を依頼したことが、総務省との関係においてはともかく、控訴人との関係において、信義に反する行為であるとまでいうことはできない。さらにいえば、控訴人は、本件交付決定時、本件新製品の製造ラインとして本件機械を設置することを本件補助事業の具体的内容としながら、本件新製品の製造という事業計画に沿う補助事業を行う予定がなく、本件機械設置後も本件機械を専ら既存製品の製造の用に供し(基礎となる事実(4)イ)、本件補助金を本件補助事業の目的以外に使用していたのであり、そのこと自体、本件規則14条1号及び2号に該当するから、被控訴人は、これを理由に本件交付決定を取り消すことができるというべきであり、被控訴人において、本件交付決定時までに控訴人が本件新製品を製造する具体的な開発計画も立てていないと知っていたとは認められないこと(原判決第4の1(2)))に照らすと、本件交付決定を取り消して本件補助金の返還を請求することが信義則に反するとはいえないというべきである。 以上によれば、控訴人の主張する被控訴人の職員の行為をもって、被控訴人において、本件補助金全額の返還及び返還すべき期限後の遅延損害金を請求することが信義則に反するということはできない。」
※ 「(原判決第4の1(2)))」の閉じ括弧は原文のままです。差し替えられた部分の残り(遅延損害金の起算日と利率の判断)は、後記(11)で引用します。
否定の柱は四つです。①係員が事業計画書案を送ったのは「参考送信」にすぎない。②虚偽の実績報告書は、事業者が虚偽であることを認識しながら依頼に応じて提出したものだから、係長の依頼は「総務省との関係においてはともかく」事業者との関係では信義に反するとはいえない。③事業者が補助金を目的外に使用していたこと自体が規則14条1号及び2号に該当するから、市はそれを理由に取り消すことができる。④市は交付決定の時点で、事業者に新製品の開発計画がないことを知っていたとは認められない。
②の言い回しにご注意ください。「ともかく」は、国との関係については判断しないという留保です。控訴審は、国に対する関係で市に落ち度があったとは認定していません。もっとも、市は自らの主張の中で、添付写真が同種品であったことについて「被控訴人と総務省との関係で、被控訴人が責めを負うべきである」と述べていました(控訴審第2の3(2)ア)。
④は、第一審が同じ認定をしていた点です(前記3(2))。両判決が共有している認定ですので、ここが結論の違いを生んだのではないことになります。後記5(2)で立ち返ります。
なお、第一審が減額の理由に挙げた二つのうち、②の「実現可能性について十分に検討された形跡も見当たらない」という点については、控訴審の信義則の判断の中に言及がありません。控訴審は、この点に、過失相殺の予備的な判断(後記(5))と確認義務の判断(後記(6))の中で、実現可能性を判断すべきなのは事業者の側であるという形で答えています。
(5)過失相殺の法理は不当利得に類推適用されない
控訴審で追加された過失相殺の主張に対しては、法律論で答えています。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(3)ア)
「しかし、不当利得制度は、被害者の被った損害の填補を目的とする不法行為制度とはその趣旨、目的を異にするものであり(債務不履行責任との関係についても同じ。)、損害の填補における公平性を確保するために被害者の過失を考慮する過失相殺の法理は、不当利得には類推適用されないと解するのが相当である。」
そのうえで、仮に類推適用が認められるとしてもという予備的な判断も示しています。ここが、実務上とても重い判示です。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(3)ア)
「仮に本件事案に過失相殺の法理の(類推)適用が認められるとしても、本件事業計画書や本件実績報告書は、控訴人が、控訴人が申請した本件補助金の交付を受けるという経済的な利益を得る目的をもって作成、提出したものであり、かつ、控訴人は、昭和63年頃からドレッシングを開発、製造して、小売店に出荷し、ドレッシング事業は順調に推移して、平成25年頃には新工場建設の計画を立てていた(乙48)のであるから、本件補助金交付の対象となる補助事業に関連するドレッシングの開発、製造についての長年の実績と経験があり、本件事業計画書の補助事業の内容を理解し、その実現可能性の有無、程度について判断することは難しい事柄ではなかったというべきであって、その内容について被控訴人の職員による提示や依頼があったからといって、控訴人が指示や依頼に応じたという消極的な関与をしたにとどまるということはできない。また、前記補正して引用する原判決第4の1(1)及び(2)のとおり、控訴人は、本件補助金を本件補助事業の目的外に使用しているところ、被控訴人において、本件交付決定の際、控訴人が本件新製品を製造する具体的な開発計画を立てていないことを知っていたとは認められないし、その後の本件補助金交付までに被控訴人の認識が変更されたと認め得る証拠もないから、本件新製品専用の製造ラインを設置したことに対して被控訴人が控訴人に本件補助金を交付したことについて、被控訴人の職員に故意又は重過失があるということはできない。」
その分野での長年の実績と経験があるのだから、言われたとおりにしただけという消極的な関与にとどまるとはいえない、という判断です。
(6)事業計画は事業者が立案すべきもの
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(3)イ)
「また、本件事業計画は、本件補助金の交付を受ける控訴人が立案すべきものであるから、被控訴人に本件新製品の製造が可能であることを控訴人に確認する義務があるということはできないし、仮にそのような義務が認められる場合があるとしても、上記のとおり、控訴人には本件補助金交付の対象となる補助事業に関連するドレッシングの開発、製造についての長年の実績と経験があるのであるから、被控訴人が控訴人に本件新製品の製造が可能であることの確認をしなかったからといって、被控訴人に義務違反があるということはできない。そして、本件実績報告書の作成、提出について、A係長が、控訴人に本件実績報告書の提出を依頼したことが、控訴人との関係において、信義に反する行為であるとまでいうことはできないことは、前記補正して引用する原判決第4の3(1)のとおりである。したがって、控訴人の主張する上記各事情は、控訴人が無償で受け取った本件補助金の返還を求めることが信義則違反になることを根拠付けるものとはいえず、被控訴人の控訴人に対する本件補助金の返還請求が信義則に反するものとはいえない。」
「控訴人が無償で受け取った本件補助金」という言い方にご注意ください。補助金を無償で受け取ったものと捉える見方が、返還請求に信義則の制約をかけにくくする方向に働いていると読めます。
もっとも、この見方には反論の余地があると考えております。第一審は、条件に従うことが「本件交付決定及び本件補助金の交付に係る原告及び被告の合意を構成する要素であったと認められる」としており(前記3(2))、控訴審もこの認定を補正して引用しています。条件という負担を負うことを前提に受け取るものであれば、単純な無償の給付と同じに見るのは実質に合いません。文献も、補助金適正化法の枠組みについて、交付決定は形式的行政行為であって、実質的には相手方が補助事業等を目的どおり遂行する負担を負うことを前提とする負担附贈与契約であり、相手方が負担を履行しないときはこれを解除し得るものと解すべきであるとしています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』250〜251頁(全国会計職員協会、2016))。同書の本文解説に信義則の項目は見当たりませんので、返還額の制限をこの観点から論じたものではありませんが、補助金が「無償」ではないという整理の根拠にはなります。
ただし、この筋には裏目があります。後記7(6)で述べます。
(7)非債弁済の「知っていたか」は、誰を基準に判断するのか
ほかの事案にも及ぶ判示です。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(1))
「しかし、本件交付決定に係る被控訴人の義務の存否の知・不知は、原則として、被控訴人の代表者ないし決裁権者を基準として判断すべきものと解するのが相当であり、本件補助金交付について被控訴人の折衝を担当する職員のうちの一人であるA係長の認識が被控訴人の認識であると認めることはできない。もっとも、A係長の認識について被控訴人の認識を認定する上での有力な資料と位置付ける余地はあるところ、A係長は、積極的に本件交付決定を取り消さなければならないと確定的に認識していたと認められないことは、前記補正して引用する原判決第4の2のとおりであり、被控訴人において、本件補助金を交付した際、これを交付すべき債務の存在しないことを知っていたと認めるに足りる的確な証拠はないから、控訴人の上記主張は理由がない。」
整理すると、①原則は代表者ないし決裁権者を基準とする、②折衝を担当した職員一人の認識は、そのまま法人の認識にはならない、③もっとも、その職員の認識は法人の認識を認定する上での「有力な資料」としては位置付けられる、ということです。担当者の認識が完全に切り捨てられているわけではありません。
(8)市は自らの規則に基づいて取り消している
事業者側は、国が市への交付金を取り消した理由は虚偽報告だけだと主張しました(控訴審第2の3(1)イ)。控訴審は次のように答えています。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(2))
「しかし、被控訴人は、本件規則の定めに基づいて、本件交付決定を取り消している(基礎となる事実(4)ウ)のであるから、被控訴人が総務省の総務省交付金の取消しの理由に拘束されることはなく、控訴人に対し、本件補助金の目的外使用を理由に本件交付決定を取り消して、交付済みの本件補助金の返還を請求することができるから、控訴人の上記主張は理由がない。」
仮に国の取消理由が虚偽報告だけであったとしても、市は自らの規則の定めに基づき、自らの判断で目的外使用を理由に取り消すことができる、という判断です。なお、総務省が市への交付決定を取り消した事実とその理由は、控訴人の主張の中にしか現れず、両判決の認定事実には入っていません。また、ここで述べられているのは、交付主体が自らの根拠規定で自らの判断で取り消した事案についての判断であり、処分の理由を後から差し替えてよいかという問題とは別です。
(9)申請書を実際の事業計画に即したものにするよう指導すべき義務
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(4)ア)
「控訴人は、被控訴人の職員は、控訴人からヒアリングを行うなどして、補助金交付申請書の記載内容が控訴人の実際の事業計画に即したものとなるように指導すべき義務を負っていたなどと主張するが、前記(3)アで説示したとおり、被控訴人は、本件補助金の交付の際、控訴人が本件新製品を製造する具体的な開発計画を立てていないことを知っていたとは認められないし、被控訴人が上記義務を負う法的根拠も明らかではないから、控訴人の上記主張はその余の点について判断するまでもなく、理由がない。」
ここで否定されたのは、「申請書の記載内容を実際の事業計画に即したものとなるよう指導すべき義務」を立てて国家賠償を組む構成です。控訴人が主張した言葉は「適法に補助金の交付を受けられるように指導すべき信義則上の義務」でしたが(控訴審第2の3(1)エ)、判示はその言葉を使っていません。
また、本件の市の職員は補助金適正化法24条(不当干渉等の防止)の名宛人である「国又は都道府県の職員」ではなく、同条に基づく義務の有無は本件の判断の対象になっていません。同条の読み方は行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのかと負担付贈与契約型の補助金で述べています。交付規程や公募要領が交付主体の側に手続を定めている場合も、別に考える余地があります。
(10)法人税・法人事業税の払い過ぎ
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第3の3(4)イ)
「しかし、控訴人に生じた税負担について、これが被控訴人の職員による違法な職務行為により生じた損害ということができないことは、上記アと同様であるから、控訴人の上記主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。」
「その余の点について判断するまでもなく」とされていますので、税の払い過ぎが損害になり得るのかという中身の判断には、この判決は踏み込んでいません。この論点は残されたままです。なお、市は控訴審で、返還した場合にはその時点における損失として当該年度の納税義務の有無及び範囲に反映されるから損害ではない、と反論していました(控訴審第2の3(2)ウ)。この整理が税務上正しいかどうかは、当職は確認できていません。
(11)遅延損害金の利率と起算日
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・原判決の補正(3)のうち差し替え後の第4の3(2))
「(2)したがって、被控訴人は、控訴人に対し、不当利得に基づき、利得金3210万円の返還を求めることができる。そして、これに対する遅延損害金の起算日は、本件規則14条により被控訴人が控訴人に同利得の返還を求める際に定めた期限である令和元年10月24日(基礎となる事実(2)ウ及び(4)ウ)の翌日である同月25日となる。また、本件補助金の返還に係る債権は、不当利得の規定に基づき発生するもので、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものであるとは認められない以上、遅延損害金の割合は、平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分となる。」
利率は年5分で、第一審と同じです(市が主張した年6分は、両審で退けられました)。変わったのは起算日です。第一審は「本判決確定の日の翌日」、控訴審は「令和元年10月25日」――規則14条により市が定めた返還期限(同月24日)の翌日です。これにより、約3年分の遅延損害金が復活しました。
なお、この年5分・年6分は、平成29年の改正前の民法404条・商法514条の話です。現行民法404条2項の法定利率は年3パーセントで、3年ごとに変動します(同条3項)。どちらの率によるかは、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点で決まります(民法419条1項。「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」)。そして、改正法の施行日(令和2年4月1日)より前に遅滞の責任を負った場合は、改正前の民法の年5分によります(平成29年法律第44号附則17条3項)。本件が年5分になったのは、交付が平成27年だからではなく、返還期限が令和元年10月24日だったためです。交付の年ではなく、返還期限がいつかをご確認ください。この点は補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのかでも述べています。
5 どこで判断が分かれたのか
(1)返還額を動かす筋道は三つある
不当利得で返還額を動かす筋道は、三つに分けて考える必要があります。
ひとつは、民法703条と704条の区別です。703条は、受益者は「その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」と定め、704条は「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない」と定めています。本件では、市がこの構成を採らず、取消しによる元本全額の返還と請求後の遅延損害金だけを求めたため、両判決もこの点に触れていません。もっとも、返還額の議論の出発点はここにあります。
ふたつめは過失相殺です。民法418条は、債務不履行について、債権者に過失があったときは裁判所がこれを考慮して損害賠償の責任及びその額を定めると定めています(必要的)。722条2項は、不法行為について、被害者に過失があったときは裁判所がこれを考慮して損害賠償の額を定めることができると定めています(額だけで、しかも裁量的)。いずれも、損害の公平な分担を図る仕組みです。
みっつめが信義則です。権利の行使そのものが、個別の事情のもとで許されないとされる場合に働く一般的な枠組みです。
控訴審は、ふたつめについて「不当利得には類推適用されない」と法律論で切りました。この線は、本件控訴審だけのものではありません。国が談合を理由として売買代金の不当利得返還を請求した事案で、東京地判平成23年6月27日(訟月58巻2号245頁、判時2129号46頁)も同じ判断をしています。
引用引用(東京地判平成23年6月27日訟月58巻2号245頁、判時2129号46頁・争点一四)
「また、不当利得制度は、公平の観点から、法律上の原因がなくして受益した者から損失者に対して受益者が取得した利益を返還させることを目的とする制度であるのに対し、不法行為制度は被害者に生じた損害の填補を目的とした制度であることからすると、不当利得制度と不法行為制度とは目的を異にする制度であるといえる。 そして、不法行為制度において、過失相殺が設けられているのは、上記のとおり、損害の填補を目的とした不法行為制度において、公平な損害の填補を図るためであるのだから、取得した利益の返還をさせることを目的とした不当利得制度においては、過失相殺によって不当利得返還請求権の行使が制限されることはないと解すべきである。」
ところが、同じ判決は、信義則については余地を残しています。
引用引用(東京地判平成23年6月27日・争点一四)
「なお、この場合においても、個別具体的な事案において、信義則の適用によって、不当利得返還請求権の行使が制限される余地を認めることはできると解されるが、本件では、上記のとおり、原告の不当利得返還請求権の行使が信義則に反すると認めるに足りる事情は存在しない以上、信義則の適用によって、原告が不当利得返還請求権に基づき、被告らに返還請求できる金銭が減額されるべきという被告らの主張には理由がない。」
同判決は、遅延損害金の利率についても、争点一五で、商法514条の適用・類推適用を受けるのは商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないとして「その利息の利率については年五分と解するのが相当であり」と判示しており、本件控訴審と同じ線に乗っています。
もっとも、二点、留保が必要です。第一に、信義則の余地を認めた部分はなお書きであり、同判決が信義則違反を否定した理由は、「調達実施本部の担当官が受注調整行為を指示、要請したわけではないこと」等にありました。役所の側が具体的に依頼した本件とは事情が逆です。第二に、同判決の上訴審の帰趨は、当職が調べた範囲では確認できていません。ここで柱に据えるものではなく、本件控訴審と同じ判断をした下級審があるという補強にとどめます。
過失相殺の類推適用は否定しつつ、信義則による制限の余地は閉じない。 下級審の判断は、この形で揃っています。そして本件の第一審と控訴審の違いは、この残された余地の中での当てはめの違いだということになります。
(2)両審が共有していた認定――市は知らなかった
ここを取り違えないことが大事です。第一審も控訴審も、市が交付決定の時点で事業者に新製品の開発計画がないことを知っていたとは認められないと認定しています(第一審第4の1(2)、控訴審補正(3)・第3の3(3)ア)。第一審は、そう認定したうえで元本の1割と遅延損害金を落としました。したがって、「役所が知っていたかどうか」は、両判決の分かれ目ではありません。
もちろん、役所側の認識が無意味だという話ではありません。控訴審は信義則を否定する理由の一つにこれを挙げていますし、過失相殺の予備的判断では、市の不知を理由に「被控訴人の職員に故意又は重過失があるということはできない」としています。役所側が事情を知っていたことを立証できる事案であれば、同じ土台には立てません。しかし、それだけでは第一審のような結論に届かないのが、本件の示すところです。
(3)動いたのは、係長の依頼行為の評価
実際に動いたのは、同じ事実に対する評価です。
第一審は、係長が同種同等品の写真データを取り寄せ、実績報告書の提出を依頼する電子メールを送ったという「事前の経緯を見過ごすことはできない」としました。控訴審は、同じ事実について、事業者が「本件実績報告書の内容が虚偽であることを認識しながら、A係長の依頼に応じて、これを提出している」から、係長の依頼は「総務省との関係においてはともかく、控訴人との関係において、信義に反する行為であるとまでいうことはできない」としました。
つまり、自分の側が内容の虚偽性を認識していたと認定されるかどうかが、役所側の関与の評価を決めています。主張の軸は、役所が知っていたことではなく、ここに置くべきだということになります。後記7(3)で述べます。
加えて、控訴審の第一の柱(参考送信にすぎない)は、当審で出された陳述書に支えられています(前記4(3))。記録が後から足されたことも、結論の違いの一部です。
(4)相手方が選んだ取消事由に、自分の主張が結び付くか
本件からもっとも実践的に読み取れるのは、この点だと考えております。
前記2(4)のとおり、市が設置した第三者委員会は、返還請求額が信義則等によって制限される可能性を、「事業完了時期違反及びこれに関する虚偽報告を理由とする返還請求について」述べていました。市の職員の関与は、虚偽報告には直結します。
ところが、市の取消通知は、規則14条1号・2号を挙げ、3号(虚偽報告)を挙げていません。そして控訴審は、「本件補助金を本件補助事業の目的以外に使用していたのであり、そのこと自体、本件規則14条1号及び2号に該当するから、被控訴人は、これを理由に本件交付決定を取り消すことができるというべきであり」と述べて、目的外使用を決定的な理由としました。
目的外使用は、設置後に機械を既存製品の製造に使っていたという、交付後の事業者自身の行為です。市の職員の関与は、ここには結び付きません。信義則の事情が、相手方が選んだ取消事由に結び付かなければ、どれほど具体的に認定されても返還額は動かない。 本件の記録から読み取れるのは、これだと考えております。
(5)言われたからそうしたのか、言われなくてもそうしていたのか
返還命令という行政処分の適法性について、役所側の助言に従ったという主張が退けられた例として、大津地判平成9年12月8日(判タ981号73頁)があります。県教育委員会の技術職員が、補助金の交付申請書に添付する決算書の収入総額を過少に記載するよう助言していた、という事案です。
もっとも、同判決は、まずこの助言について、その内容は「あくまで助言に止まり、指導と評価しうる程積極的なものであったとは認められない」とし、県教育委員会を代表してされたものとも認められないとして、過少申告が被告らの指導によるものとまでは認められないとも判断しています。そのうえで、申請者側の事情として、補助金率を希望どおりに獲得するための虚偽記載であったこと、正規の帳簿を終始見せていなかったこと、助言を受ける前から収入総額を正規の額よりはるかに低く記載していたことを認定し、次のとおり述べました。
引用引用(大津地判平成9年12月8日判タ981号73頁・四の3)
「これらの事実によれば、原告は、右助言の有無にかかわらず、当初から総収入額を不当に低く抑えて多額の補助金を獲得しようとしていたものであり、右〔技術職員〕の助言にしたがって総収入額を低く抑えて補助金交付申請を行うことが本来許されないことも、当初から十分に認識していたものと認められる。」
「このような事情に照らせば、前記1、2に認定判断し事実を十分考慮しても、原告には法を曲げてまで保護すべき利益は認められず、信義則上、本件各行政処分が許されないと解することはできないというべきである(なお、右結論は、右原告側の事情に照らせば、仮に、被告滋賀県教育委員会の技術職員との間に、総収入額を低く抑えるように助言する慣行が認められていたとしても変わらないというべきである。)。」
※ 判決は当該職員の氏名を摘示していますが、本稿では〔技術職員〕と置き換えました。 ※ 同判決に対しては控訴がされており、控訴審の裁判は公刊物に見当たりません。
助言の有無にかかわらず当初からそうするつもりだったのか、助言があったからそうしたのか。ここが分かれ目として挙げられています。もっとも、同判決は額の確定の性質についても述べており、その点は補助金の額の確定と補助金の減額確定で引用しています。本件は返還額の制限の事案ですので、場面は異なります。
(6)二階建ての上の段の負担
国の交付金を原資とする自治体の補助金では、事業者の違反によって、国が自治体への交付決定を取り消すことができます(補助金適正化法17条2項)。そして取消しがされれば、国は期限を定めて返還を命じなければなりません(18条1項)。
もっとも、この場面は、自治体自身の義務違反による取消しとは別扱いにされています。18条3項は、17条2項による取消しの場合に、やむを得ない事情があると認めるときは返還の期限を延長し、又は返還の命令の全部若しくは一部を取り消すことができると定めています。また、19条1項の加算金が付くのは「第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたとき」ですので、17条2項による取消しに伴う返還には、加算金は付きません。文献も、間接補助事業者等の義務違反に対する交付決定の取消しの場合は加算金納付の義務を負わないこととなると整理しています(小滝・前掲268頁)。18条3項と19条で両者の均衡を実質的に図る趣旨だとされています(同248頁)。
この構造は、返還額の議論の背景として押さえておく意味があります。自治体が事業者から回収できなければ、その差額は自治体の負担として残ります。二階建ての事案で減額の主張が通りにくいのは、この事情が背後にあるからだと考えております。ただし、本件で総務省が市への交付決定を取り消したのか、市が国に返還したのかは、事業者側の主張にしか現れておらず、両判決は認定していません。
(7)上告の有無
控訴審判決について上告・上告受理申立てがされたのか、確定しているのかは、当職が調べた範囲では確認できていません。判例集・判例秘書に、この事件の最高裁判所の判断は見当たりませんでした。
6 現実に起きている問題との関わり
(1)本件の構図
本件の事実経過は、交付主体の担当者から書類の書き方を具体的に指示され、そのとおりに出した事業者が、後に全額の返還を求められるという形を、裁判所が正面から認定した事例です。しかも、指示をした側の内部では、年度内の設置を断念して納品で完了として扱う余地を探ることが協議され(前記2(3)ウ)、上位の省への照会と回答を経たうえで(同エ)、同種同等品の写真が添付された依頼メールが送られています(同オ)。
このようなやり取りの中で、減額や自主返納へと導かれていく経過については、補助金の返還・残存簿価の返納を求められたらでも述べています。
(2)行政側の整理への疑問
控訴審では、市が、過失相殺の主張に対する反論として、事業計画の内容は申請者しか計画し得ないものであり、担当者は申請書と提出資料に従って判断するほかないと主張していました。
引用引用(福岡高宮崎支判令和4年12月7日・第2の3(2)イ。被控訴人(市)の、控訴人の過失相殺の主張に対する認否・反論)
「補助金対象の事業内容、事業計画等については、補助金の交付申請を行う事業者である控訴人のみが計画し得る性質のもので、被控訴人担当者においては、控訴人の申請書及び提出資料に従った判断しかできないものであり、控訴人から本件事業計画について異議や指摘がされたことも全くないから、被控訴人担当者は、控訴人の事業計画が虚偽であることを知る由もない。」
しかし、同じ判決が補正して引用する第一審の認定によれば、市の係員は自ら事業計画書の案を作成して送っており(しかも、その案には事業者が送った計画書に書かれていない内容が入っていました)、事業者が記載した完了予定日について、平成27年3月31日に修正するよう求める電子メールを送っています(前記2(3)ア・イ)。申請者の書類に従った判断しかできないという整理は、同じ判決が認定したこの事実経過とは整合しないと考えております。
また、第一審が認定した照会の経過にも、照会をする側の問題があります。係長は、「同日時点で被告に納品された物件が存在しないと知りながら」、総務省に対し「同日時点で本件機械は設置が完了していないが納品はされているとし」て、納品をもって完了と取り扱ってよいかを問い合わせています(前記2(3)エ)。制度を運用する側の照会として、前提の立て方に問題があったと考えております。会計検査院も、虚偽の実績報告書の作成主体を市と指摘しています(前記2(4))。なお、市は第一審で、総務省の職員の回答について「総務省から本件機械の設置が間に合わないことの了承が得られたと認識し」ていたと主張しており(第一審第3の2(2))、記録には回答の意味について二つの読み方があります。
(3)行政側の内部でも、返還額の制限は検討されていた
前記2(4)のとおり、市が設置した第三者委員会は、提訴の前の時点で、事業完了時期違反とこれに関する虚偽報告を理由とする返還請求について、信義則等によって返還請求額が制限される可能性があると報告していました。そして、市の取消通知は、虚偽報告(規則14条3号)を取消事由として挙げていません。控訴審も、目的外使用を決定的な理由としました。
返還請求額が制限され得るという筋道は、事業者側の苦しまぎれの主張ではなく、行政側の内部でも検討されていたものです。そして、記録から読み取れるのは、その筋道が付きにくい取消事由が選ばれて通知されたということになります。相手方が何を取消事由として挙げているかを最初に確定する意味は、ここにあります。
(4)窓口の説明は当てにできないという前提
前記4(9)のとおり、控訴審は、申請書の記載内容を実際の事業計画に即したものとなるよう指導すべき義務について、市がその義務を負う法的根拠も明らかでないとしました。窓口や事務局の説明に従って手続を進めたこと自体が、後の争いで事業者を守る根拠にはならないという前提で考えざるを得ません。
会計検査院が指摘した事例においても、受託事業者や機構の側の指導・監督が十分でなかったことが理由に挙げられているものがあります。この点は補助金の返還を求められるのは、どのような場合かで述べています。行政側の事情が挙げられていることと、それが返還額を動かすこととは、別の問題だということになります。
7 この裁判例から事業者が主張できること(当職の見解)
ここからは当職の見解です。
(1)はじめに――事実と異なる記載を求められたときは
先にお断りしておきます。指示の内容が、事実と異なる記載を求めるものであるときは、それに従うこと自体が、返還とは別のリスクを伴います。本稿は、そのような指示に従ってよいという趣旨ではありません。本件でも、控訴審は、事業者が虚偽であることを認識しながら応じたことを、信義則違反を否定する柱の一つにしています。この点は補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのかでも述べています。
そのうえで、既に出してしまった場合に何を主張できるのかを述べます。
(2)やり取りの記録が、そのまま結論を左右する
本件で第一審が減額の理由に挙げた「事前の経緯」は、市の係長が送った電子メールが残っていたことによって認定されています。写真データを取り寄せて添付し、実績報告書の提出を依頼した電子メール。これらが乙号証として、つまり事業者の側が提出した書証として記録に入っていたからこそ、第一審は元本の1割と遅延損害金を落とすことができました。
なお、完了予定日の修正を求めたメールは、第一審が減額理由として挙げたものではありません。それでも残しておく意味があるのは、どの記載が誰の発意によるものかを示す資料になるからです。
逆に、両審で一貫して事業者の不利に働いたのが、異議を述べていなかったという事実です。第一審は、電子メールのやり取りの中で「特段の意見や異議を述べたことはない」ことを、市が事情を知っていたとはいえない理由として挙げています(前記3(2))。
ですから、やり取りの記録の残し方は、次の二つの意味を持ちます。①役所側が何を言ってきたのかを後から示せるようにすること、②自分が違和感を伝えたことを後から示せるようにすること。②が抜けていると、「黙って従った」という形になります。
残していただきたいものは、既にこのサイトで述べているところと同じです。口頭で言われた内容、とくに、どの事実について、どの条文・どの条項に違反すると言われたのかは、そのままの言葉で書き留めてください。いつ、何について相談し、どのような助言を受けたのかは、日付の分かる形(メール、チャット、打合せのメモ)で残してください。その助言に従って、どの書類を、いつ、どこへ提出したのかも同じです。詳しくは補助金の取消しに不服があるとき、どこに申し立てるのか、補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか、申請を認定支援機関に手伝ってもらった――「制度を知っていたはずだから悪質だ」と言われたらに挙げてあります。
そして、違和感のある指示を受けたときは、書面又はメールで出し、送ったものと送った日が分かる形で残してください。口頭で伝えただけでは、後から確かめることができません。記録は後から作れるものではありませんので、指示を受けた段階でご連絡いただく形が実際的です。
(3)「言われたとおりにした」だけでは足りないこと
控訴審の予備的な判断(前記4(5))は、その分野での長年の実績と経験があれば、計画の内容を理解し実現可能性を判断することは難しい事柄ではなかったとして、「指示や依頼に応じたという消極的な関与をしたにとどまるということはできない」としました。
これは事業者に不利な判示ですが、裏を返せば主張の組み方を示しているものでもあります。問われているのは、言われたかどうかではなく、言われた内容の当否を自分で判断できる立場にあったかどうかです。ですから、申請の内容が自社の実際の計画と違うことに気づいていなかった、気づける状況になかった、という事情があるならば、その事情を具体的に主張しておく必要があります。
本件では、国への交付金申請書類を作成したのは外部の支援者でした(前記2(3))。それでも、控訴審は事業者自身の実績と経験を理由に、消極的な関与にとどまるとはいえないとしています。申請を支援機関等に手伝ってもらった場合の整理は申請を認定支援機関に手伝ってもらった――「制度を知っていたはずだから悪質だ」と言われたらで述べたとおりです。
(4)減額を狙うより、まず取消し自体を争う
本件の経過が示しているのは、返還額の制限だけに寄りかかる構えは危ういということです。
控訴審は、「そのこと自体、本件規則14条1号及び2号に該当するから、被控訴人は、これを理由に本件交付決定を取り消すことができるというべき」と述べた時点で、信義則の主張を事実上閉じています。しかも本件では、第一審で落ちた分が控訴審で全部元に戻り、遅延損害金の起算日も返還期限の翌日に戻って、約3年分が復活しました。制限の主張は、立てる位置を間違えると、負けたときに元本も遅延損害金もそのまま戻るということです。
ですから、取消事由に当たる事実そのものを崩すことに力を割き、返還額の制限は予備的に置くのが筋だと考えております。もっとも、何を争うかは、交付主体によって変わります。
- 国や中小機構が交付する補助金のように、取消しが行政処分としてされる場合。取消事由に当たる事実があるのか、あるとしても取消権を行使してよい場面なのか、理由が示されているのかを争うことになります。この点は補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのか、補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか、補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのかで述べています。取消しの事前通知を受けた段階での確認事項は交付決定取消しの事前通知が届いたらに挙げてあります。
- 本件のように、自治体の交付規則に基づいて取り消され、民法の不当利得として請求される場合。取消しの裁量や理由の提示といった行政処分の枠組みは、そのままの形では問題になりません。本件でも、裁量権の逸脱・濫用は主張されておらず、両判決も判断していません。争点は、条件の内容が交付の合意に組み込まれていたか(第一審第4の1(1))、違反の事実があるか(控訴審補正(1))という点に絞られます。
本件の事業者も、第一審から取消事由の不存在を主位で争い、そこで敗れています。返還額の制限だけを争った事案ではありません。それでも、取消事由が認められた時点で信義則の主張が実質的に閉じられたというのが、本件の経過です。
(5)信義則の主張の組み方
本件の二つの判決を並べると、信義則の主張は次の順で組むことになると考えております。
- 相手方が挙げた取消事由を最初に確定する。 そして、自分が主張したい事情が、その取消事由に結び付くかを確かめる。前記5(4)のとおり、本件では、信義則の事情が結び付く取消事由(虚偽報告)が通知で挙げられておらず、結び付かない取消事由(目的外使用)が決定的な理由とされました。ここを確かめないまま事情を並べても、返還額は動きません。
- 誰が、いつ、何をしたのかを特定する。 「役所の指導に従った」という抽象的な主張では足りません。本件の第一審が取り上げたのは、特定の職員が、特定の日に、写真データを添付して実績報告書の提出を依頼した電子メールを送ったという、ひとつの行為でした。
- その行為が、自分との関係で信義に反することを示す。 控訴審は「総務省との関係においてはともかく、控訴人との関係において」と切り分けました。役所が上位の機関に対して不適切なことをしていたというだけでは足りず、自分に対する関係で信義に反することを示す必要があります。
- 自分の側が内容の虚偽性を認識していなかった(認識し得なかった)ことを示す。 前記5(3)のとおり、控訴審が係長の依頼行為の評価をひっくり返した理由はここでした。本件で動いたのは役所側の認識ではなく、事業者側の認識の評価です。あわせて、前記(3)のとおり、自分の側の帰責性を小さくする事情を具体的に並べることになります。
- 役所側が事情を知っていたことを示す資料を早く探す。 これだけでは足りませんが、両判決が共有している認定(市の不知)を崩せる事案であれば、同じ土台には立ちません。照会とその回答、内部の検討記録、担当者の陳述に、早い段階から狙いを定める必要があります。本件で市の内部協議の日付まで認定されていることは、こうした資料が出得ることを示しています。
なお、非債弁済(民法705条)を主張する場合には、控訴審が示した「原則として、被控訴人の代表者ないし決裁権者を基準として判断すべき」という枠組みが壁になります。もっとも、控訴審は、担当者の認識を法人の認識を認定する上での「有力な資料」と位置付ける余地を認めていますので、担当者の認識と決裁権者の認識を結ぶ経路(決裁の過程、内部の報告、起案の回付)を押さえることになります。
(6)加算金・遅延損害金との関係
返還額に付く金銭は、交付主体によってまったく違います。
国や中小機構が交付する補助金のように補助金適正化法が適用されるものでは、17条1項による取消しに伴って返還を命ぜられたときに、19条1項の加算金が付きます。
引用引用(補助金適正化法19条1項)
「補助事業者等は、第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたときは、政令で定めるところにより、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、当該補助金等の額(その一部を納付した場合におけるその後の期間については、既納額を控除した額)につき年十・九五パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならない。」
受領の日からの年一〇・九五パーセントです。中小機構が交付するものについては、中小機構法16条の読替えにより、この「国」は独立行政法人中小企業基盤整備機構と読み替えられます。同条3項は、やむを得ない事情があると認めるときの免除を定めています。文献は、加算金が民法の法定利息に比して高い理由を、その原因となった義務違反が私法上の負担附贈与契約の債務不履行にとどまらず公法上の事業遂行義務に違反するものとして制裁に値すると観念されたからであろうとし、加算金は制裁的賦課金としての意義を合わせもつとしています(小滝・前掲268頁)。加算金・延滞金の詳細は補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのかで述べています。
これに対し、本件のように自治体が交付規則に基づいて交付した補助金について民法の不当利得として返還を請求する構成では、この加算金の定めは働きません。問題になるのは民法の利息・遅延損害金です。本件では、争いの実質は利率ではなく起算日にありました。年6分か年5分かではなく、「判決確定の日の翌日」か「返還期限の翌日」かで、約3年分の差が出たのです。交付規則そのものに加算金・延滞金の定めが置かれている場合は、その定めによることになりますので、お手元の規則・要綱の確認が先に来ます。
そして、ここに裏目があります。返還額の制限を強く押すことは、相手方に別の構成を思い出させる面があります。 民法704条は、悪意の受益者は受けた利益に利息を付して返還しなければならないと定めています。また、前記4(6)のとおり補助金を負担附贈与と整理して取消しを解除に相当するものと見る筋に乗れば、民法545条2項により「金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない」ことになります。いずれも、起算日を受領の日まで前倒しする向きに働きます。本件では市がこれらを主張せず、請求の日の翌日からの遅延損害金だけを求めたため、両判決もこの点に触れていません。返還額だけでなく、どの時点からの利息を相手方が請求し得るのかを先に見積もってから主張を組む必要があります。
(7)残された問題――補助金を収入に計上して納めた税
補助金の交付を受けた年度にこれを収入に計上して法人税等を納め、後になって返還を求められたとき、払い過ぎた税はどうなるのか。これは現実に起こる問題です。本件の控訴審は、職員の違法行為を否定したため、「その余の点について判断するまでもなく」として中身の判断に至っていません(前記4(10))。市は、返還した時点における損失として当該年度の納税義務に反映されると反論していましたが、この整理が税務上正しいかどうかは、当職は確認できていません。顧問の税理士の先生と並行して検討していただく必要がある論点です。
あわせて、民法703条の「利益の存する限度」の当てはめも、本件では争点になっていません。この点も残されたままです。
8 まとめ
- 本件は、国の交付金を原資とする市の補助金について、市が交付規則に基づいて交付決定を取り消し、民法の不当利得として3210万円の返還を請求した事案です。市の係員が事業計画書の案を作って送り、完了予定日の修正を求め、市の係長が同種同等品の写真データを取り寄せて内容虚偽の実績報告書の提出を依頼した、という事実関係が認定されています。
- 第一審(宮崎地判令和4年5月18日)は、裁判官三名の合議体による判断として、補助金全額の返還請求は信義則に反するとして、元本の9割と判決確定の日の翌日からの遅延損害金に限って請求を認めました。減額の理由は、虚偽の実績報告書の提出を依頼した「事前の経緯」と、市が補助事業の実現可能性を十分に検討した形跡がないことの二つです。
- 控訴審(福岡高宮崎支判令和4年12月7日)は、これを変更して元本の全額を認容しました。過失相殺の法理は不当利得に類推適用されないという法律論に加えて、係長の依頼は事業者との関係では信義に反するとまではいえない、事業者が補助金を目的外に使用していたこと自体が取消事由に当たる、という事実の評価によって信義則違反を否定しています。「総務省との関係においてはともかく」という言い方は、国との関係について判断しないという留保です。
- 分かれ目は、役所が知っていたかどうかではありません。両審はいずれも、市は交付決定の時点で事業者に開発計画がないことを知っていたとは認められないと認定しています。 動いたのは、事業者が虚偽であることを認識しながら応じたという点の評価と、どの取消事由を返還請求の理由に置くかでした。
- したがって、控訴審は信義則という筋道そのものを封じたのではありません。残された余地の中で、信義則の事情が、相手方が選んだ取消事由に結び付くかが効きます。本件では、第三者委員会が返還請求額の制限の可能性を指摘した取消事由(事業完了時期違反と虚偽報告)ではなく、職員の関与が結び付かない取消事由(目的外使用)が決定的な理由とされました。
- 実務としては、①指示を受けた段階でやり取りを記録に残し、違和感は書面又はメールで伝えておくこと、②相手方が挙げた取消事由を最初に確定し、取消事由に当たる事実そのものを崩すことに力を割き、返還額の制限は予備的に置くこと、③自分の側が内容の虚偽性を認識し得なかった事情を具体的に主張すること、④返還額の制限を押すことが、民法704条・545条2項による受領時からの利息という裏目を持つことを先に見積もること、になります。
- 両判決は、当職が調べた範囲では判例誌への掲載・評釈が見当たらず、控訴審判決について上告・上告受理申立てがされたかどうかも確認できていません。最高裁判所の判断が示されていない論点について、裁判官の間でも結論が分かれる難しい問題として受け取っていただくのが正確だと考えております。
引用参考裁判例
宮崎地判令和4年5月18日(宮崎地方裁判所令和2年(ワ)第42号・補助金返還請求事件) 福岡高宮崎支判令和4年12月7日(福岡高等裁判所宮崎支部令和4年(ネ)第127号、令和4年(ネ)第155号・補助金返還請求控訴事件、同附帯控訴事件)
※ いずれも掲載誌の記載は「LLI/DB 判例秘書登載」のみで、当職が調べた範囲では判例誌への掲載・評釈は見当たりませんでした。控訴審判決について上告・上告受理申立てがされたかどうかも確認できていません。
交付主体や事務局の担当者に言われたとおりに書類を作って出したのに、後になって交付決定の取消しや補助金の返還を求められてお困りの事業者の方は、ご相談ください。やり取りの記録は後から作れるものではありませんので、指摘を受けた段階、あるいは違和感のある指示を受けた段階でご連絡いただく形が実際的です。手元の交付決定通知書、交付規則・交付要綱、取消しの通知(挙げられている取消事由を含みます)、担当者とのメール、提出した書類の控えをそろえていただければ、どこから争うべき事案なのかの見通しをお伝えできます。
顧問先・支援先から「担当者に言われたとおりにしたのに返還を求められた」というご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、士業の先生方へのご案内をご覧ください。本稿の二つの判決が示しているとおり、この種の事案は、法律構成の選び方と、どの記録を早い段階で確保するかで結論が動きます。先生方が日々のやり取りを押さえていただき、法的な構成と交渉・訴訟の部分を当職が担うという役割分担が、顧問先にとって実際的だと考えております。本稿に関する論点は、顧問契約又は個別のご依頼の形でお受けしております。
※ 本稿は、執筆時点の法令・裁判例に基づく一般的な整理であり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第7節は当職の見解です。また、本稿で紹介した二つの判決は、控訴審判決について上告・上告受理申立ての有無及び確定の有無を確認できておりません。第3節(4)で引用した第一審の信義則に関する判断は、控訴審が「以下のとおり改める」として差し替えており、控訴審の判断としては採用されていません。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。