執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 採択と交付決定は違う
事業再構築補助金の手続は、公募・採択の後に交付申請を行い、中小機構が交付申請書の内容を審査して、補助金を交付すべきものと認めたときに交付決定をする、という流れです(交付規程9条1項)。交付申請書が到達してから交付決定を行うまでに通常要すべき標準的な期間は、30日とされています(同条2項)。
「採択」は、交付決定そのものではありません。最高裁判所の調査官解説は、助成金の交付申請の前に行われる交付の内定について、次のように整理しています。
引用(山本拓・最高裁判所判例解説民事篇令和5年度549頁)「……交付内定は、交付の申請……の前に行われる事実上の手続にすぎず、これを授益処分とみる余地はない。したがって、本件内定後にされた本件処分は単なる申請に対する拒否処分であり、これについて、授益処分の取消しや撤回に関して議論されているような制約を観念することはできないものと解される。」
採択の段階では、まだ補助金を受け取る権利は発生していないと考えられますので、交付決定の取消しとは争い方が異なります。
2 交付申請の却下は行政処分か
中小機構が直接交付する事業再構築補助金、新事業進出補助金、中小企業省力化投資補助金などは、中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付され、同法16条により、交付の申請(補助金適正化法5条)や交付の決定(同法6条)を含めて補助金適正化法が全面的に準用されています。そのため、交付決定やその取消しは、法律上の根拠を持つ行政処分であり、取消訴訟で争うことができる、というのがこれまでの記事で述べてきた整理です。
交付申請の却下(不交付の決定)も、同じ法律の仕組みの中で、申請に対する応答としてされるものです。この点について、前記の調査官解説は、次のように述べています。
引用(山本拓・最高裁判所判例解説民事篇令和5年度548頁、560頁注5)「本件助成金の交付の申請に対する交付・不交付の決定は、補助金等適正化法の規定が準用されるため(振興会法17条)、行政処分に当たり、抗告訴訟の対象となるものとされる。」
「(注5) 補助金等適正化法は、補助金等の交付を交付決定という行政行為(行政処分)として構成しており、同法が適用される国の補助金等の交付決定や交付申請の却下は、抗告訴訟の対象となるものと解される(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補版)〕』110〜112頁)。」
ここで引かれている小滝敏之『補助金適正化法解説』も、行政行為説が通説であるとしたうえで、この説によれば「交付決定や交付申請の却下処分についての争い、その他補助金行政をめぐる争いがある場合には、抗告訴訟の提起が認められることになる」と述べています(同書110頁)。
私見としては、これらの整理に照らし、中小機構が交付する補助金についての交付申請の却下も、取消訴訟の対象となる行政処分に当たると考える余地が十分にあると考えております。
次のような場合は、ご相談ください
- 交付申請の却下・不交付の通知を受け取った
- 差し戻しが続いていて、このまま却下されないか心配している
却下を争えるかどうかは、その却下に処分性があるかで決まります。詳しくは: 処分性と理由付記の不備(コラム)/処分性のある補助金とない補助金(コラム)
3 却下にも裁量の限界がある
補助金を交付するかどうかの判断には、交付する側に一定の裁量があります。しかし、その裁量も無制限ではありません。
最二小判令和5年11月17日民集77巻8号2070頁は、独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長がした、文化芸術振興費補助金による助成金を交付しない旨の決定について、理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であると判断しました。同判決の事案では、補助金適正化法の規定が準用される助成金について、重視すべきでない事情を重視した結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるとされています。
却下の理由が、交付規程・公募要領のどの定めに基づくのか、事務局の説明や差戻しの指示とどのような関係にあるのかは、個別に検討すべき事柄です。
4 出訴期間――原則6か月
取消訴訟は、処分があったことを知った日から6か月を経過すると、原則として提起できません(行政事件訴訟法14条1項)。処分の日から1年を経過したときも同様です(同条2項)。ただし、いずれにも「正当な理由があるとき」は、この限りでないとのただし書があります。
また、行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分をする場合には、被告とすべき者や出訴期間を書面で教示しなければならないとされています(同法46条1項)。私見としては、却下の通知にこの教示がなかったという事情は、出訴期間を過ぎたことについての「正当な理由」を判断する上で考慮される余地があると考えております。もっとも、認められるかどうかは個別の事案次第であり、期間が過ぎるほど難しくなることは否めません。
5 事務局が交付主体となる補助金の場合
IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)、小規模事業者持続化補助金など、事務局が交付主体となる補助金は、負担付贈与契約型と解され、交付決定や不交付に処分性はないと考えております。中小機構が交付主体となる新事業進出・ものづくり補助金は、これには当たりません。この類型の不交付をどう争えるかは、別途の検討が必要です。
交付申請の却下・不交付の通知を受け取った事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、通知書と事務局とのやり取りをお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください。出訴期間の関係で、時間が経つほど選べる手段は少なくなります。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法5条、6条
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程9条1項・2項
- 行政事件訴訟法14条1項・2項、46条1項
- 最二小判令和5年11月17日民集77巻8号2070頁(独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長がした助成金の不交付決定が裁量権の逸脱・濫用として違法とされた事例)
- 山本拓・最高裁判所判例解説民事篇令和5年度548〜549頁、560頁注5
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』110頁(株式会社全国会計職員協会、2016)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。