執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 行政事件訴訟法14条の定め方――6か月と1年
行政処分を取り消してもらうための訴えを、取消訴訟といいます。取消訴訟には、いつまでに起こさなければならないかという期間の定めがあります。これを出訴期間といい、行政事件訴訟法14条が定めています。
引用(行政事件訴訟法14条1項・2項)「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」
同条1項の6か月は、処分があったことを知った日から数えます。これを主観的出訴期間といいます。2項の1年は、知ったかどうかにかかわらず、処分の日から数えます。これを客観的出訴期間といいます。
この二つは、別々に進みます。南博方ほか編『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』(弘文堂、2023)449頁は、6か月の主観的出訴期間と1年の客観的出訴期間とは、それぞれ別個の起算日から進行するとしています。そのうえで、処分等の7か月後に原告がそのことを知った場合であっても、処分等があった日から1年を経過すれば取消訴訟を提起することはできなくなる、と述べています。
ここで見ていただきたいのは、1項にも2項にも、「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」というただし書が置かれていることです。ただし書とは、本文の定めに例外を設ける部分をいいます。6か月・1年という数字だけで決まるものではありません。
2 ただし書の「正当な理由」――どういう概念か
前掲『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』448頁は、平成16年改正後の1項ただし書の「正当な理由」の意義を説明しています。同書は、これを、民事訴訟法97条1項の当事者の「責めに帰することができない事由」よりも緩やかな概念であるとしています。そのうえで、出訴期間内に出訴しなかった(できなかった)ことについての社会通念上相当と認められる理由を意味する、と述べています。
ここで引き合いに出されている民事訴訟法97条1項は、当事者が自らの「責めに帰することができない事由」により期間を守れなかった場合に、その事由がなくなった後1週間以内に限り、期間内にすべきであった訴えの提起等を後から行うことを認める定めです。出訴期間のただし書の「正当な理由」は、これよりも緩やかな概念とされています。期間を守れなかったことについて、社会通念上相当と認められる理由があればよい、という整理です。
同書同頁は、具体的な事案で正当な理由があると認められるか否かは、次の事情を総合勘案して判断することになろう、としています。
- 処分等の内容・性質
- 行政庁の教示の有無およびその内容
- 処分等に至る経緯およびその後の事情(とりわけ、出訴の障害事由解消後、遅滞なく訴えが提起されたか否か)
- 処分当時およびその後の時期に原告が置かれていた状況
- その他出訴期間徒過の原因となった諸事情
二つ目に「行政庁の教示の有無およびその内容」が挙げられていることが、補助金の事案では意味を持ちます。そこで、この教示とは何かを次に見ます。
3 46条1項の教示――被告と出訴期間を書面で知らせる義務
引用(行政事件訴訟法46条1項)「行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
一 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
二 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
三 法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨」
教示とは、処分を受けた相手方に、その処分を争う方法を知らせることをいいます。行政事件訴訟法46条1項は「教示しなければならない」という義務の定め方をしており、方法も「書面で」と指定されています。この義務は、処分を受けた側が次のことを当然に知っているという前提には立っていないものと考えております。すなわち、受け取った書面が行政処分であること、取消訴訟という手続で争うこと、そこに期間の制限があることです。
お手元の取消通知書に、被告とすべき者と出訴期間が書かれているかどうかを、まず確かめていただければと思います。
4 教示がなかった場合の扱い
前掲『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』450頁は、平成16年改正前の裁判例の傾向に触れています。取消訴訟を提起できることや出訴期間の存在について、行政庁から教示がなかった、という事案についてです。こうした事案でも、出訴期間を徒過したことについて正当な理由があるとは認められないとした裁判例が少なくなかった、としています。
そのうえで、同書同頁は、同改正において行政庁の教示義務が新設されたこと(46条1項)を指摘しています。そして、現在では、これらの教示をしなかったという事情は、正当な理由を判断する上での重要な要素になるものと考えられる、と述べています。同書は、それのみで正当な理由があると認められるかはさておき、という留保を付しています。
もっとも、教示がなかったことをどこまで重く見るかには、考え方の幅があります。同書1060頁は、二つの考え方を紹介しています。一つは、教示の懈怠――義務を果たさないことをいいます――や誤りがあった場合には、原則として「正当な理由」が認められるとする見解です。もう一つは、誤って長期の出訴期間が教示された場合と、教示が全くされなかった場合とを区別する指摘です。後者では、その事実が「正当な理由」の判断における重要な要素として考慮されるにとどまる、とされています。
裁判例としては、同書1061頁が、平成16年改正の施行前の事案について傍論ながら次のように述べたものがあるとして、広島地判平成20年5月21日労働判例978号66頁を引用しています。傍論とは、結論を導くために必要な判断ではない部分をいいます。
引用(前掲『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』1061頁が引用する広島地判平成20年5月21日労働判例978号66頁)「法46条1項の趣旨にかんがみ、出訴期間について行政庁が全く教示を行わなかった場合には、出訴期間を経過したことについて正当な理由が認められる余地がある」
最高裁の反対意見――少数意見であることを前提に
最三小判令和4年12月13日(判タ1507号33頁)には、宇賀克也裁判官の反対意見が付されています。反対意見とは、結論について他の裁判官と意見を異にする裁判官が、判決に書き添えた意見をいいます。この事件は、健康保険組合が行った、被保険者の親族が被扶養者に該当しない旨の通知をめぐるもので、審査請求の期間を過ぎたことについて「正当な事由」があるかが問題になりました。補助金の事案ではありません。
引用(最三小判令和4年12月13日 宇賀克也裁判官反対意見。判タ1507号40頁)「……いずれについても、教示の懈怠があった場合、正しい審査請求期間又は出訴期間を具体的に知り得る特別の事情があった場合を除き、「正当な理由」に当たると解すべきと思われる。」
同反対意見は、この判断を、改正後の行政不服審査法の審査請求期間と、平成16年改正後の行政事件訴訟法14条1項ただし書の出訴期間とで平仄を合わせた解釈として述べています。もっとも、反対意見は少数意見であり、判例として確立したものではありません。
5 受け取った書面が行政処分だと分からなかった場合
教示と並んで、あるいはそれと重なって問題になるのが、受け取った書面が行政処分であること自体を理解できなかった、という事情です。
前掲『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』448頁は、平成16年改正前の裁判例のうち、期間を過ぎた後の訴えの提起が例外的に認められた事案について述べています。同書は、これらの事案については、現在であれば正当な理由が認められると考えられるとしています。その例の一つとして挙げられているのは、不許可処分という表示も形式も用いることなく申請書が返戻されたため、申請者において不許可処分と理解することができず、その取消訴訟の出訴期間を徒過した事案です。
取消しの根拠として交付規程の条項だけが示されている場合
交付決定の取消しの根拠となる法律の定めは、補助金適正化法17条1項です。事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金は、中小機構が中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付する助成金であり、同法16条により補助金適正化法が全面的に準用されます。これに対し、交付規程は、交付主体が定める内部の規範であって、法律でも命令でもありません。
そうすると、取消通知書に、取消しの根拠として交付規程の条項だけが示されている場合があります。補助金適正化法17条1項が挙げられていない場合です。このような通知について、受け取った事業者がこれを行政処分と理解し、6か月という出訴期間を意識することは、難しいのではないかと考えております。私見としては、このような事情は、「正当な理由」の判断において考慮される余地があります。
なお、根拠となる法律の条文が示されていないことは、理由の提示(補助金適正化法21条の2)の問題にもなり得ます。この点は、コラム「取消しの処分性と理由付記の不備」で述べています。
次のような場合は、取消通知書をお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください
- 交付決定の取消通知が届いてから、6か月以上が経っている
- 取消通知書に、被告とすべき者や出訴期間の記載が見当たらない
- 取消しの根拠として、交付規程の条項だけが書かれている
6 処分の日から1年――14条2項の扱い
2項の1年にも、同じく「正当な理由があるとき」のただし書があります。前掲『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』449〜450頁は、2項ただし書の「正当な理由」の意義は、1項ただし書の「正当な理由」と基本的に同じであるとしています。もっとも、2項ただし書の正当な理由は、処分・裁決の存在を知っていたか否かにかかわらず、処分等から1年経過後に訴えを提起したことについてのものです。そこで、処分等の存在を知っていたことを前提とする1項ただし書の正当な理由とは、その判断要素や具体的内容が若干異なることとなろう、とも述べています。
同書450頁は、2項ただし書の「正当な理由」を認めた例として、行政庁が出訴期間について誤った教示を行い、これに従ったために出訴期間を遵守できなかったものなどを挙げています。また、同書1060頁は、教示の懈怠があった場合について、1項だけでなく2項・3項のただし書所定の「正当な理由」についてもこれを肯定する見解があることを紹介しています。
6か月の期間が過ぎている事案では、処分の日から1年が経っているかどうかも、併せて確かめることになります。前記2で挙げた事情の中には、出訴の障害事由が解消した後、遅滞なく訴えが提起されたか否かという事情が含まれています。時間が経つほど、この点についての説明が必要になりますので、主張することは難しくなっていきます。
7 「もう6か月を過ぎている」と言われたら確認すること
- 取消通知書に、被告とすべき者と出訴期間が書面で示されているかどうか。「この処分に不服がある場合は、○○を被告として、処分があったことを知った日から6か月以内に取消訴訟を提起することができる」といった記載があるかどうかです。
- 取消しの根拠として、補助金適正化法17条1項が挙げられているかどうか。交付規程の条項だけが書かれていないかどうかです。
- 通知書を受け取った日と、通知書に記載された日付。1項の6か月は、処分があったことを知った日から数えます。2項の1年は、処分の日から数えます。前掲『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』449頁は、2項の「処分又は裁決の日」とは、処分が成立し、その効力が発生した日を意味するとしています。
- 通知書を受け取ってから今日までの経過。相談や問い合わせの記録、やり取りの書面は、残しておいてください。
- 交付決定通知書の主語が「中小機構は」か「事務局は」か。事務局が交付主体となる類型では、行政事件訴訟法の出訴期間の定めは適用されません。
「正当な理由」が認められるかどうかは、最終的には個別の事案ごとの判断になります。教示がなかったという一事で常に出訴が認められる、と申し上げるものではありません。他方で、6か月が過ぎたというだけで検討が終わるものでもないと考えております。取消通知書と交付決定通知書をお手元にご用意のうえ、早い時期にご相談いただければと思います。
交付決定の取消しを受けてから時間が経っている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、取消通知書をお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください。通知書に出訴期間の教示があるかどうか、取消しの根拠として補助金適正化法17条1項が挙げられているかどうかが、最初の手がかりになります。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 行政事件訴訟法14条1項・2項(出訴期間。いずれも「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」とのただし書を置いています)
- 行政事件訴訟法46条1項(取消訴訟等の提起に関する事項の教示。被告とすべき者と出訴期間等を書面で教示しなければならないとするもの)
- 民事訴訟法97条1項(訴訟行為の追完。当事者が「責めに帰することができない事由」により不変期間を遵守することができなかった場合に、その事由が消滅した後1週間以内に限り、追完をすることができるとするもの。14条1項ただし書の「正当な理由」は、これよりも緩やかな概念とされています)
- 補助金適正化法17条1項(交付決定の取消し)
- 補助金適正化法21条の2(理由の提示)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条(補助金適正化法の準用)
- 南博方ほか編『条解行政事件訴訟法〔第5版〕』(弘文堂、2023)448頁(14条1項ただし書の「正当な理由」は、民事訴訟法97条1項の当事者の「責めに帰することができない事由」よりも緩やかな概念であり、出訴期間内に出訴しなかった(できなかった)ことについての社会通念上相当と認められる理由を意味するとしたうえで、処分等の内容・性質、行政庁の教示の有無およびその内容、処分等に至る経緯およびその後の事情、処分当時およびその後の時期に原告が置かれていた状況、その他出訴期間徒過の原因となった諸事情を総合勘案して判断することになろうとするもの。あわせて、平成16年改正前に期間を過ぎた後の訴えの提起が認められた事案は現在であれば正当な理由が認められると考えられるとし、その例として、不許可処分という表示も形式も用いることなく申請書が返戻されたため申請者において不許可処分と理解することができず出訴期間を徒過した事案を挙げています)
- 同449頁(6か月の主観的出訴期間と1年の客観的出訴期間とは、それぞれ別個の起算日から進行するとするもの)
- 同449〜450頁(2項ただし書の「正当な理由」の意義は1項ただし書の「正当な理由」と基本的に同じであるが、その判断要素や具体的内容が若干異なることとなろうとするもの)
- 同450頁(平成16年改正において行政庁の教示義務が新設されたこと(46条1項)から、現在では、これらの教示をしなかったという事情は、それのみで正当な理由があると認められるかはさておき、正当な理由を判断する上での重要な要素になるものと考えられるとするもの。あわせて、2項ただし書の「正当な理由」の肯定例として、行政庁が出訴期間について誤った教示を行い、これに従ったために出訴期間を遵守できなかったもの等を挙げています)
- 同1060頁(出訴期間についての教示の懈怠または誤りがあった場合につき、原則として「正当な理由」が認められるとする見解(1項だけでなく2項・3項のただし書所定の「正当な理由」についてもこれを肯定するものを含む)と、誤って長期の出訴期間が教示された場合と教示が全くされなかった場合とを区別し、後者ではその事実が「正当な理由」の判断における重要な要素として考慮されるにとどまるとする指摘との、双方を紹介するもの)
- 同1061頁(平成16年改正の施行前の事案について傍論ながら「法46条1項の趣旨にかんがみ、出訴期間について行政庁が全く教示を行わなかった場合には、出訴期間を経過したことについて正当な理由が認められる余地がある」とした広島地判平成20年5月21日労働判例978号66頁を引用するもの)
- 最三小判令和4年12月13日判タ1507号33頁(健康保険組合が行った被扶養者非該当通知の処分性に関する事件。宇賀克也裁判官の反対意見は同号38〜40頁で、同号40頁に「……いずれについても、教示の懈怠があった場合、正しい審査請求期間又は出訴期間を具体的に知り得る特別の事情があった場合を除き、「正当な理由」に当たると解すべきと思われる。」との記載があります。反対意見は少数意見であり、判例として確立したものではありません)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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