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弁護士 岸上大起

立入調査は、支援した当社にも来るのか――補助金ごとに違う「調査の相手方」

このページの結論

顧客の補助事業について、事務局や中小機構の立入調査(実地検査)が入ると聞きました。申請を支援した当社も調査の相手方になるのでしょうか。断ることはできるのでしょうか。営業代理店や関連会社の資料まで対象になるのでしょうか。

補助金によって違います。IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)の交付規程32条1項は、立入調査の相手方として補助事業者とIT導入支援事業者を並べて挙げており、支援した側が直接の相手方になります。中小企業省力化投資補助金も、カタログ注文型では販売事業者が「補助事業者等」に含まれますので、同じく直接の相手方です。他方、国が直接交付する補助金と、中小機構が交付主体となる事業再構築補助金では、条文が相手方として挙げているものが異なります。

まず、自社が関与している補助金の交付規程の、立入調査(立入検査)の条を読むところから始まります。条数と文言は版によって異なりますので、交付決定通知書に記載された交付規程でお確かめください。なお、正当な理由なく拒否した場合の帰結も、同じ条に置かれています(上記交付規程32条3項は、IT導入支援事業者の登録取消しと交付決定の取消しを挙げています)。断るための手がかりとして読まれるべきものではありません。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 結論――補助金によって違います

申請を支援した会社、ITツールや設備を売った会社が、顧客(補助事業者)の補助事業についての調査の相手方になるかどうかは、補助金によって違います。交付規程や法律が、調査の相手方を誰と定めているかで分かれるからです。以下では、4つに分けて、条文の文言を並べます。

  • IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)――交付規程32条1項が、相手方として補助事業者とIT導入支援事業者を並べて挙げています(後記2)。
  • 中小企業省力化投資補助金――交付規程22条2項の相手方は「補助事業者等」で、カタログ注文型ではこれに販売事業者が含まれます(後記5)。
  • 事業再構築補助金――交付規程が相手方として挙げているのは補助事業者です(後記6)。
  • 国が直接交付する補助金――補助金適正化法23条1項の相手方は「補助事業者等若しくは間接補助事業者等」です(後記7)。

ですから、まず確かめていただきたいのは、自社が関与している補助金の交付規程の、立入調査(立入検査)の条です。条数と文言は、補助金ごと・公募回ごとに異なります。「立入検査」と「実地検査」という呼び名の違いと、その中身の重なりについては、補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのかの1で整理しています(同ページは、補助事業者の立場から、補助金適正化法23条の検査について述べたものです)。交付規程が「立入調査」と呼んでいるものについては、以下で条文の文言をそのまま引きます。

2 IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)――32条1項が挙げる相手方

この補助金の交付規程は、「立入調査」という見出しを付けた条を置いています。1項は、次のような定め方です。

引用(中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程32条1項)「事務局及び中小機構は、補助事業の適切な遂行を確保するため必要があると認めるときは、補助事業者及びIT導入支援事業者に対し、補助事業に関する報告を求め、事務局又は中小機構の指定する者が、補助事業者及びIT導入支援事業者の事業所等に立ち入り、補助事業に係る全ての証拠書類その他の物件を調査し、関係者に質問することができる。
なお、本項による立入調査は事前に連絡なく行うことができる。」

報告を求める相手方として挙げられているのも、立ち入る先として挙げられているのも、「補助事業者及びIT導入支援事業者」です。顧客の補助事業についての調査であっても、IT導入支援事業者は、顧客の付随物としてではなく、条文に名の挙げられた相手方として調査を受ける立場にあります。そして、事前の連絡なく行うことができる旨が、なお書きで明記されています。

調査を行う側として挙げられているのは、事務局及び中小機構です。この補助金の交付主体は事務局であり、事務局は民間の会社です(この交付規程の表紙には、中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局(TOPPAN株式会社)と記されています)。中小機構が交付主体となる補助金との構造の違いは、事務局が交付する補助金で述べています。この違いは、後記8(適正化法の条文をどこまで及ぼせるか)で効いてきます。

3 同32条2項――調査の対象となる資料の範囲

2項は、1項の立入調査について、対象となる書類・資料の範囲を定めた項です。

引用(同交付規程32条2項)「前項の立入調査は、補助事業者及びIT導入支援事業者が有する補助事業に係る全ての書類を対象とする。当該補助事業者及びIT導入支援事業者の関連会社に限らず営業代理店等が介在する場合には、当該事業者に関する資料及び関係性についても立入調査の対象とする。」

この項が定めているのは、調査の対象となる資料の範囲です。関連会社や営業代理店が介在する場合について書かれているのは、「当該事業者に関する資料及び関係性についても立入調査の対象とする」ということであり、関連会社や営業代理店それ自体が、1項の立入りの相手方になると定めたものではありません。

ですから、代理店を通じて販売している会社について言えば、ここから読み取れるのは、自社が持っている代理店に関する資料と、代理店との関係性が、IT導入支援事業者に対する調査の対象に含まれる、ということになります。販売の経路に別法人が入っている場合に、その法人との契約書と取引の記録をどこに置いているかは、あらかじめ確かめておいていただくのがよいと考えております。

4 同32条3項――正当な理由なく拒否した場合

引用(同交付規程32条3項)「第1項の立入調査を補助事業者及びIT導入支援事業者が正当な理由なく拒否した場合、事務局は第8条第1項の規定に基づくIT導入支援事業者の登録取消及び第27条第1項の規定に基づく交付決定の取消しを行うことができる。」

挙げられている帰結は2つです。IT導入支援事業者の登録取消し(同交付規程8条1項)と、交付決定の取消し(同27条1項)です。27条1項1号カは、8条の規定に基づきIT導入支援事業者の登録又はITツールの登録が取り消された場合を、交付決定の取消事由として挙げています。登録取消しがされた場合に、その支援事業者が関わった交付申請がどう扱われるかは、同8条に定めが置かれています。

立入調査については、現行の公募要領にも記載があります。

引用(デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠。2026年10月9日。第7回公募以降)33頁 4.留意事項(シ))「事務局及び中小機構は、補助事業の適切な遂行を確保するため必要があると認めるときは、補助事業者及びIT導入支援事業者に対し、予告なく立入調査を行う場合がある。また、立入調査に当たり必要書類等の閲覧や導入したITツールの現物確認等を求める場合がある。
※ 立入調査の対象となった場合は、交付決定及び補助金の交付を留保する等の対応をとる場合がある。
※ 予告の有無に関わらず立入調査への協力が得られない場合は交付決定の取消しとなる場合がある。」

導入したITツールの現物確認を求められることがある旨と、調査の対象となった場合に交付決定及び補助金の交付を留保する等の対応をとる場合がある旨が書かれています。顧客への入金が止まり得るということですので、支援した側にとっても、そのまま自社の問題になります。

顧客(申請者)の側でも、この調査への協力は申請の要件に挙げられています。同公募要領8頁の「2-1-1 申請の対象となる事業者及び申請の要件」(2)申請要件(ソ)は、交付規程32条に基づく立入調査等への協力を要請された場合には協力すること、協力しない場合は交付決定の取消しや補助金の返還となる場合があることに同意することを、申請要件の一つとしています。

なお、調査の場で、どの資料を、どの範囲までお出しになるかは、個別のご相談を要します。前記のとおり、ここでは正当な理由なく拒否した場合の帰結が交付規程に定められており、何が「正当な理由」に当たるかについて、条文に例示は置かれていません。

5 中小企業省力化投資補助金――販売事業者は直接の相手方

この補助金の交付規程も、立入調査の定めを置いています。22条2項は、中小機構が、補助事業の適切な遂行を確保するため必要があるときは、「補助事業者等」に対し、中小機構及び中小機構の指定する者により補助事業者等の事業所等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、もしくは関係者に質問させることができるとしています。

この「補助事業者等」が誰を指すかは、同交付規程2条6号が定めています。カタログ注文型においては、補助事業者、販売事業者及び対象リース会社をいうものとされ、一般型においては、補助事業者及び対象リース会社と読み替えるものとされています。したがって、カタログ注文型の販売事業者は、交付規程の文言上、立入調査の直接の相手方です。一般型には、販売事業者が「補助事業者等」として挙げられていません。なお、ここでいう「補助事業者等」は、この交付規程2条6号が定める語です。補助金適正化法2条3項の「補助事業者等」(補助事業等を行う者)とは定義が異なりますので、後記7で引く同法23条1項の相手方に販売事業者が含まれるかどうかは、別に考えることになります。

対象となる資料の範囲についても、同3項が定めを置いています。前項の立入調査においては、補助事業者等が有する本事業にかかる一切の資料を対象とし、関連会社のみならず営業代理店等が介在した場合には当該別法人に関する資料及び関係性にまで、立入調査の対象が及ぶものとする、という定め方です。前記3と同じく、これは対象となる資料の範囲についての定めです。

拒否した場合の帰結も置かれています。同4項は、中小機構は、2項の立入調査を補助事業者等が正当な理由なく拒否した場合、5条4項の規定に基づく販売事業者の登録取消及び23条1項の規定に基づく交付決定の取消しを行うことができるものとするとしています。そして23条1項10号は、5条4項に基づき省力化製品及び販売事業者の登録取消がなされた場合を、交付決定の取消事由として挙げています。

なお、この補助金は中小機構が交付主体ですので、交付規程の定めとは別に、後記7の補助金適正化法23条も及びます(独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条の準用によるものです)。

6 事業再構築補助金――相手方は補助事業者とされています

中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程20条は、「是正のための措置」という見出しのもとで、中小機構は、補助事業の適切な遂行のため必要があると認めたときは、補助事業者に対し、補助事業に関し報告を求め、又は、補助事業者の事業所等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、若しくは関係者に質問することができるとしたうえで、「この場合において、補助事業者は協力するものとする」と定めています。報告を求める相手方、立ち入る先、協力する者として挙げられているのは、いずれも補助事業者です。

補助事業の終了後について定めた項も同じです。同交付規程27条4項前段は、補助事業終了後、会計検査院、経済産業省又は中小機構は、補助事業に関して予告なく実地検査を実施することができるとし、同項後段は、当該実地検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合について、「補助事業者はこれに必ず従うものとする」と定めています。ここでも、名が挙げられているのは補助事業者です。前記2・5の2つの交付規程のように、支援した側・売った側を相手方として並べて挙げた文言は、置かれていません。

もっとも、取引先が調査から無縁であるという意味ではありません。同交付規程13条3項は、補助事業者は、売買・請負その他の契約及び第三者への委託等に当たり、契約の相手方に対し、補助事業の適正な遂行のために必要な調査に協力を求める措置を講じなければならないとしています。IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)の交付規程33条2項も、補助事業者は、補助事業を遂行するため売買、請負その他契約をする場合は、当該契約の相手方に対し、事務局が行う調査への協力を求めるための措置をとるものとするとしており、同趣旨です。

この定め方からすると、取引先が負うのは、補助事業者との契約の内容として生じる義務であって、交付主体に対する直接の義務ではないと読めます。調査への協力を求められた取引先としては、まず、顧客との契約にどのような条項が入っているかを確かめることになります。

7 国が直接交付する補助金――「間接補助事業者等」に当たるか

国が直接交付する補助金については、補助金適正化法23条1項が、報告徴収・立入検査・質問の権限を定めています。相手方として挙げられているのは、「補助事業者等若しくは間接補助事業者等」です。文献も、報告徴収、立入検査等の行政調査を受忍すべき義務者には、補助事業者等のほか間接補助事業者等も含まれることが明記されていると述べています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』311頁(株式会社全国会計職員協会、2016))。

そこで、物を売った取引先が「間接補助事業者等」に当たるのかが問題になります。この語は、3つの条文をたどって定まります。

  • 同法2条4項1号は、「間接補助金等」を、「国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で、補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし、かつ、当該補助金等の交付の目的に従つて交付するもの」と定めています。
  • 同法2条5項は、「間接補助事業等」を、「前項第一号の給付金の交付又は同項第二号の資金の融通の対象となる事務又は事業」と定めています。
  • 同法2条6項は、「間接補助事業者等」を、「間接補助事業等を行う者」と定めています。

この順にたどると、起点にあるのは「相当の反対給付を受けないで交付する給付金」です。代金の支払を受けて物件を引き渡した取引先は、相当の反対給付を受けて代金を得たものですから、2条4項1号の給付金の交付を受けた者ではなく、同条5項の間接補助事業等を行う者(同条6項)にも当たらないと読めます。そうであれば、23条1項の相手方としても挙げられていないことになります。

なお、事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金は、中小機構が中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付する助成金です。適正化法の規定がこれらに及ぶのは、同法16条の準用によるものです。他方、同法2条1項の「補助金等」は、国が国以外の者に対して交付するものですから、事務局が交付主体となる類型は、「補助金等」そのものではありません。

8 適正化法23条の権限の限界と、資料の限度

この節で述べるのは、補助金適正化法23条に基づく立入検査についてのことです。前記2・5の交付規程に基づく立入調査にそのまま当てはまるものではありません。その理由は、この節の最後に述べます。

権限には限界があります

23条1項の権限は、「補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは」行使することができるものとされています。文献は、行政機関の職員が一般私人の事務所等に立ち入り、検査し、質問することは私権の制限となるので、立入検査等の権限は目的達成上必要最小な限度にとどめられなければならない(比例原則)と述べています(小滝・前掲312頁)。また、直接の物理的強制は許容されないものと解すべきであろうとし、相手方の抵抗を排除してまで強制的に立入検査等を行うことは差し控えるべきものと思われる、としています(同313頁)。もっとも、これは検査を断ってよいという意味ではありません。検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者には、罰則の定めがあります(同法31条3号)。

同条2項は、立入検査・質問を行う職員について、その身分を示す証票を携帯し、関係者の要求があるときは、これを提示しなければならないと定めています。同条3項は、1項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないと定めています。この2つの項の意味については、補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのかで述べています。また、必要がある限り、額の確定(精算手続)により補助関係の消滅した後においても、立入検査等を行うことは可能と解されるとされています(小滝・前掲312〜313頁)。

資料の限度について、既に述べていること

補助対象経費と直接の関係のない事業年度の総勘定元帳の提出を求められることがあります。額の確定や補助金の支払という意味で必要のないものであれば、必要がないと述べていただいて差し支えないと考えております。この点は、求められた資料はどこまで出すのか――報告徴収・現地調査の限度と、「事業再構築補助金の交付期限(支払遅滞)とその他自主返納問題等について」の13「差し戻し・追加書類要求への対応」で述べています。

同じ理由から、適正化法23条3項(犯罪捜査のために認められたものと解してはならない)と同法31条3号(罰則)を、交付規程32条に基づく立入調査にそのまま当てはめることもしません。これらは、各省各庁の長(中小機構の補助金については、中小機構法16条の準用により中小機構の理事長)の権限と、その権限に対する違反について定めた条文です。事務局は、交付主体ではありますが、行政機関ではありません。

次のような場合は、ご相談ください

  • 顧客の補助事業について、事務局や中小機構から立入調査の連絡が来た
  • 予告なく来訪を受け、自社と営業代理店に関する資料の提出を求められている
  • 調査のあとに、登録の取消しや顧客の交付決定の取消しについて連絡が来た
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 事務局が交付する補助金(対応ページ)/士業・支援機関・お取引先企業の方へ

9 残しておいていただきたい記録

調査の場では、次の点を書き留めておいていただきたいと考えております。

  • 日時と場所。何時から何時まで、どこで行われたか。
  • 立ち会った方の所属と氏名。補助金適正化法23条に基づく立入検査については、職員は身分を示す証票を携帯し、関係者の要求があるときはこれを提示しなければならないものとされています(同条2項)。
  • 提示を求められた資料と、実際に提示した資料。提出したものは控えを残してください。
  • 口頭で言われた内容。とくに、どの事実について、どの条文・どの条項に違反すると言われたのかは、そのままの言葉で書き留めてください。
  • 後日提出することになった資料について、何を、いつまでに、どういう形で(原本か、データか)出すのか。

これらの記録は、調査のあとに登録の取消しや顧客の交付決定の取消しの話が出てきたときに、書面に書かれた理由と、調査の場で言われたこととが合っているかを確かめる材料になります。

最後に、繰り返しになりますが、何が「正当な理由」に当たるかについて、交付規程にも適正化法にも例示は置かれていません。断るかどうかという形で判断される前に、ご相談ください。

顧客の補助事業について調査の連絡を受けたIT導入支援事業者・販売事業者・お取引先企業の方は、資料をお出しになる前にご相談ください。調査の連絡の文面、自社が関与している補助金の交付規程、顧客との契約書がお手元にございますと、相手方と対象の範囲を条文で確かめることができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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