執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
先日、X(旧Twitter)にて、士業・支援機関の先生方に向けて、以下の内容の投稿をしたところ、想像以上に多くの反響をいただきました。
「顧問先・支援先が補助金の返還を求められたとき、『おかしいと思うが、決まりだから仕方ない』と答える前に見ていただきたいページを作りました。」
本記事は、この投稿でご紹介したページ(士業・支援機関・お取引先企業の方へ)の内容を踏まえて、中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方、認定支援機関の皆さまに向けて、当職がこれまで実際に対応してきた事案と、先生方との連携の形をご紹介するものです。
1 「おかしいと思うが、決まりだから仕方ない」と答える前に
顧問先・支援先の事業者が、中小機構や事務局から「交付決定を取り消す」、「補助金を返還してほしい」と言われて、先生方がご相談を受ける——そのような場面は、決して珍しいものではないと思います。
しかしながら、補助金適正化法や行政訴訟の議論は、多くの先生方にとって専門分野の外にあります。その結果、「おかしいとは思うけれど、決まりだから仕方ない」と答えるほかなかった、というお話を伺うことがあります。
結論からいえば、その「おかしい」という違和感は、法的に正しいことが少なくありません。
補助金の交付決定の取消事由は、補助金適正化法17条1項により、①補助金等の他の用途への使用をした場合、②補助事業に関して、交付の決定の内容又はこれに附した条件に違反した場合(補助条件違反)、③その他、法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反した場合(法令違反)の3類型に限定されています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』243~245頁参照(株式会社全国会計職員協会、2016))。
この3類型のいずれにも該当しなければ、交付決定を取り消すことはできず、補助金の返還を求めることもできません。ところが、実際に行われている取消し・減額・返納の求めの中には、この法律のルールからずれたものが相当数あると考えています。
例えば、事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用していることや、取得した財産を廃棄処分したことをもって取消事由に該当すると指摘される事案がありますが、これらが補助金適正化法17条1項所定の取消事由に該当することは、原則としてありません。この点の法的な整理は、以下の記事・解説ページで詳述しています。
・事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて(note記事)
・事業再構築補助金の交付決定の取消しの処分性と理由付記の不備について(note記事)
先生方が顧問先・支援先からご相談を受けた際の検討材料として、また、弁護士へのご紹介をご検討いただく前の判断材料として、お使いいただければと思います。
2 当職がこれまで対応してきた事案
抽象的な議論だけではイメージが湧きにくいと思いますので、当職がこれまで実際に対応してきた事案を、局面ごとにご紹介します(守秘義務の関係上、いずれも事案の特定に至らない限度での記載です)。
(1)取消しの前——助言・内容証明郵便により、取消しを回避した事例
取得財産の廃棄処分や既存事業との併用を理由として、事務局から交付決定を取り消す旨を示されていた事案において、当職が、これらは補助金適正化法17条1項所定の取消事由に該当しないと助言し、事案によっては当職名義の内容証明郵便によりその旨を主張した結果、交付決定の取消しはなされなかったという事例があります。
取消しがなされる前の段階で法的な主張を尽くすことにより、紛争化させることなく解決できた事例であり、早期にご相談いただくことの意義が最もよく表れた類型だと考えています。
(2)取消しの後——交渉により、訴訟外で取消決定を撤回させた事例
既に交付決定の取消決定がなされていた事案においても、当職が代理人として交渉を行い、訴訟に至ることなく、取消決定を撤回させた事例が複数件あります。
「既に取り消されてしまったから、もう手遅れだ」と考えてしまいがちですが、取消決定の後であっても、法的な主張により結論を覆す余地は残されています。
(3)取消訴訟の提起——係属中の事件
交渉によっても解決に至らない事案については、取消処分に対する取消訴訟を複数件提起しており、現在も訴訟が係属しています。
交付決定の取消しが行政処分としての処分性を有し、取消訴訟の対象となり得ることについては、上記のnote記事で法的な整理をしています。交渉の局面においても、「最終的には訴訟で争い得る」という裏付けがあることが、主張の重みを支えます。
(4)事業譲渡——補助金を返還せずに、継続義務から解放される出口
補助事業の継続が困難となった事業者について、事業再構築補助金等の補助金により取得財産を含む事業譲渡を行った事案が複数件あります。これらの事案では、現時点まで、事業譲渡を理由とする交付決定の取消し等はなされていません。
事業譲渡は、補助金を返還することなく、補助事業の継続義務から解放される出口となり得る選択肢です。法的な整理は、以下の解説ページをご参照ください。
3 連携の形(1)——役割分担での並走(交渉は弁護士、経営支援は先生方)
中小機構・事務局との交渉は当職が代理人として担い、先生方には、事業者の経営・実務のご支援をこれまでどおり続けていただく、という連携の形です。
実際の連携の例をご紹介します。補助金により取得した財産が補助事業に十分に活用されておらず、既存事業との併用は「目的外使用」に当たるなどとして、補助金の返還を求められた事案がありました。
この事案では、当職が、既存事業との併用は補助金適正化法17条1項所定の取消事由に該当しないことを主張して、中小機構・事務局との交渉を担う一方、中小企業診断士の先生には、取得財産を用いた補助事業の実施・売上化を経営面から支援していただく、という役割分担で並走しました。
補助事業で現に売上が立っているという事実は、当該財産が補助目的に沿って使用されていることを裏付けるものであり、その事実そのものが交渉の材料になります。法律と経営、それぞれの持ち場からの支援が噛み合うことで、事業者にとって最も望ましい解決に近づく——この形の連携は、弁護士だけでも、診断士の先生だけでも成し得ないものだと考えています。
4 連携の形(2)——事業譲渡での連携(出口の設計)
上記2(4)でご紹介した事業譲渡による出口の設計は、複数の専門家の連携が特に活きる場面です。
実際の連携としては、事業の継続が困難であるとのお話となった事業者について、当職が事業譲渡契約書の作成と法的スキーム全体の構築を担い、譲渡に伴う各種の許認可・届出は行政書士の先生が、税務面の検討は税理士の先生が、譲渡前後の経営面のご支援は中小企業診断士の先生が担う、という役割分担で進める形があります。
それぞれの専門家が自らの持ち場を担うことで、事業者は、補助金の返還という負担を回避しつつ、事業の整理・承継を円滑に進めることができます。
5 お引き受けするのは法律事務のみです
当職がお引き受けするのは、交渉・訴訟・契約書作成等の法律事務のみです。
補助金の申請支援・経営支援・税務は、引き続き先生方の業務であり、そこに立ち入ることはありません。顧客対応と本業のご支援は、これまでどおり先生方の役割です。
なお、ご紹介に際して、紹介料その他の対価の授受は一切行っておりません(弁護士職務基本規程の定めによります)。ご紹介は、支援先・お客様の利益のための連携としてお願いできればと思います
6 ご連絡の方法
ご連絡・ご紹介をご検討いただける場合には、お問い合わせフォームまたはメールにて、事案の概要をお知らせください(利益相反確認のため、相手方・関係先の名称をお願いします)。XのDMからでも構いません。
その後、交付決定通知書・事務局とのやり取り等の資料の共有方法を調整のうえ、必要に応じて、支援先・お客様を交えた面談(対面またはオンライン)を設定し、法的な見立てと対応の選択肢をご説明します。先生方の見立てや経緯の整理があれば、検討が格段に速くなります。
士業・支援機関の先生方との連携の詳細は、以下のページにまとめています。
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