執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 「立入検査」と「実地検査」――呼び名の整理
補助金の手続のなかで、交付主体の職員が事業場に来て、帳簿書類を確かめ、関係者に質問することがあります。法律は、これを定めた条文に「立入検査等」という見出しを付けています(補助金適正化法23条)。1項の本文は、「その事務所、事業場等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ」という書き方です。他方、交付主体の側では「実地検査」という呼び名が使われることがあります。中小機構が交付する補助金の交付規程にも、補助事業終了後に予告なく実地検査を実施することができる旨の定めが置かれています(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程27条4項前段)。呼び名は違いますが、交付主体が事業場に立ち入って帳簿書類を確かめ、関係者に質問するという中身は重なります。以下では、法律の見出しの語である「立入検査」を使います。
このページで扱うのは、交付主体が補助金適正化法23条に基づいて行う検査です。前記の交付規程27条4項前段は、実地検査を行う主体として、中小機構のほかに会計検査院と経済産業省も挙げています。もっとも、会計検査院が行う実地の検査は、会計検査院法25条・26条に基づくものです。同法25条は、会計検査院は常時又は臨時に職員を派遣して実地の検査をすることができるとしたうえで、実地の検査を受けるものはこれに応じなければならないと定めています。根拠となる条文が異なりますので、会計検査院の検査には、このページの説明がそのまま当てはまるものではありません。
2 根拠となる条文――適正化法23条1項
引用(補助金適正化法23条1項)「各省各庁の長は、補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは、補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して報告をさせ、又は当該職員にその事務所、事業場等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。」
この条文が定めているのは、報告を求めること(報告徴収)、事務所・事業場等に立ち入って帳簿書類その他の物件を検査すること(立入検査)、関係者に質問すること(質問)の3つです。相手方には、補助事業者等のほか、間接補助事業者等も含まれます。文献は、本条について、交付行政庁の行政調査の権限及びその限界について定めた規定であると説明しています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』311頁(株式会社全国会計職員協会、2016))。行政調査とは、行政機関が、処分をするかどうかなどの判断に必要な事実を調べ、資料を集める活動のことです。文献も、立入検査・質問等を一括して行政調査と称するとしています(小滝・前掲313頁)。
中小機構が交付する補助金にも及びます
事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金は、中小機構が中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付する助成金です。同法16条が、補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用し、「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えると定めていますので、23条の権限も、これらの補助金に及びます。
これに対して、事務局が交付主体となる補助金――IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)、小規模事業者持続化補助金――は、事務局との間の、交付規程に基づく負担付贈与契約と解されます。この類型については、検査の根拠として、まず交付規程の定めを確かめることになると考えております(事務局が交付する補助金で、この類型の全体像を述べています)。
3 23条3項――「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」
23条には、3項が置かれています。
引用(補助金適正化法23条3項)「第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」
文献は、この種の規定が行政調査について一般に設けられるのが通例であるとしたうえで、これは憲法35条(住居の不可侵)の規定との関係から、行政機関の職員が裁判官の令状なくして立入検査等を行うことは違憲ではないかとの疑問も生じうるので、違憲ではないゆえんを明らかにするため設けられているものであり、本項の趣旨もこれと同一であると説明しています(小滝・前掲315頁)。
つまり、立入検査は行政調査であって、犯罪捜査ではありません。法律が明文で釘を刺しているところです。検査の場で刑事責任を示唆されることがあっても、その場は犯罪捜査の場ではない、というのが法律の建付けです。
4 権限には限界があります
「適正を期するため必要があるとき」という限定
23条1項の権限は、「補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは」行使することができるものとされています。文献は、行政機関の職員が一般私人の事務所等に立ち入り、検査し、質問することは私権の制限となるので、立入検査等の権限は目的達成上必要最小な限度にとどめられなければならない(比例原則)と述べています(小滝・前掲312頁)。報告徴収についても、本条の報告徴収権限は極めて強制的色彩の強いものであるだけに、その運用にあたっては十分な配慮が必要であり、不必要に詳細なデータを徴収することは避けるべきであろう、とされています(同頁)。
実力による強制は予定されていないと解説されています
文献は、23条1項の立入検査・質問の権限について、直接の物理的強制は許容されないものと解すべきであろうと述べています(小滝・前掲313頁)。理由として挙げられているのは、検査を拒んだ者などに罰則の定めがあること(31条3号)です。また、この法律が、取締りのための法律ではなく、補助金行政の執行のあり方を定めたものであることも挙げられています。そのうえで、相手方の抵抗を排除してまで強制的に立入検査等を行うことは差し控えるべきものと思われる、としています。もっとも、これは検査を断ってよいという意味ではありません。検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者は、三万円以下の罰金に処するものとされています(補助金適正化法31条3号)。
職員は身分を示す証票を携帯しなければなりません
23条2項は、立入検査・質問を行う職員について、「その身分を示す証票を携帯し、関係者の要求があるときは、これを提示しなければならない」と定めています。要求があるときは提示しなければならない、という定め方ですので、提示を求めていただいて差し支えありません。小滝・前掲314頁には、その証票の書式が掲げられており、書式の裏面の欄には、23条1項から3項までが抜すいとして掲げられています。
精算が終わったあとに行われることもあります
文献は、必要がある限り、額の確定(精算手続)により補助関係の消滅した後においても、立入検査等を行うことは可能と解されると述べています(小滝・前掲312〜313頁)。前記の交付規程も、中小機構が補助事業終了後に予告なく実地検査を実施することができるとしています(同交付規程27条4項前段)。補助金の精算が終わったから、もう検査はない、というものではありません。
5 検査の場でできること――協力したうえで、即答はしない
検査の場で求められることは、大きく2つに分かれます。一つは、帳簿書類・契約書・写真といった、事実を示す資料の提示と、事実についての質問への回答です。もう一つは、「これは他の用途への使用に当たる」「交付規程に違反している」といった、法的な評価についての同意です。前者は、協力すべきことです。後者は、事実の確認とは性質が違うと考えております。
法的な評価は、条文の要件に当てはまるかどうかの判断です。資料を見返すこともできないまま、その場で判断を迫られたときに、無理に答える必要はないと考えております。確かめたうえで改めて回答する旨をお伝えいただいて差し支えないと考えております。その場で示された書面に署名を求められたときも、内容を読んでから応じることで差し支えないと考えております。
言葉の意味も、確かめておいてよい事柄です。たとえば「目的外使用」は、話し手によって指しているものが違うことがあります(「目的外使用」とは何かで整理しています)。
6 条文から言えること――検査の範囲、場所、日程、立会い
前記のとおり、交付規程は、補助事業終了後に予告なく実地検査を実施することができると定めており(同交付規程27条4項前段)、前記4のとおり、補助金の精算が終わったあとに行われることもあります。他方、同交付規程20条は、中小機構が報告を求め、事業所等に立ち入って検査し、関係者に質問することができるとしたうえで、「この場合において、補助事業者は協力するものとする」と定めています。
以下は、検査に応じることを前提とした説明です。報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者に罰則の定めがあることは、前記のとおりです(補助金適正化法31条3号)。また、23条1項が立ち入る先として挙げているのは「その事務所、事業場等」であり、日程や場所の決め方、立ち会う者を定めた条文は置かれていません。ですから、以下で述べるのは、条文の定めから言えることの範囲にとどまります。実際にどのように進むかは、交付主体によって、また事案によって異なります。
このページで扱っているのは、検査の進み方と、その場での応対です。求められた資料をどこまで出さなければならないのか、その求めは何を根拠とするものかについては、行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのかで述べています。
検査の対象は、23条1項が挙げている事柄です
23条1項が定めているのは、前記2のとおり、報告を求めること、事務所・事業場等に立ち入って帳簿書類その他の物件を検査すること、関係者に質問することの3つです。検査で確かめられるのは、この範囲の事柄になります。帳簿書類のほか、補助金で取得したものが現にあるかどうかも、「その他の物件」の検査として対象になり得ます。
同項が検査の対象として挙げているのは「帳簿書類その他の物件」ですから、写しとして提出した資料について、原本が対象となることもあり得ます。原本がどこに保管されているのかは、あらかじめ確かめておいていただくのがよいと考えております。また、前記5のとおり、事実についての質問には協力したうえで、法的な評価については、その場で答えを出す必要はありません。
立ち入る先は、23条1項が挙げる場所です
23条1項が立ち入る先として挙げているのは、前記のとおり、補助事業者等の「事務所、事業場等」です。帳簿書類その他の物件を検査し、関係者に質問するという検査の中身からしても、帳簿書類と現物のある場所で行われることが前提とされています。後記の日程について申し入れる余地があるのとは異なり、場所については、同じようには考えられないところです。
日程について申し入れることはできます
日程の決め方を定めた条文は置かれていません。交付主体から示された日が難しい場合に、別の日を挙げて申し入れること自体は、報告を拒むことや、検査を拒み、妨げ、又は忌避することに当たるものではないと考えております。代理人が選任されている場合には、日程の調整を代理人を通じて行っていただきたい旨を、あらかじめ申し入れておくこともできます。もっとも、日程が希望どおりになるとは限りません。
立ち会う者を制限する定めは置かれていません
23条には、検査に立ち会う者を制限する定めは置かれていません。代理人が選任されている場合に、代理人が立ち会うことを妨げる定めも置かれていません。
その場で結論が示されるものではありません
23条の検査は、前記2のとおり行政調査であって、交付決定の取消しや返還の命令そのものではありません。ですから、検査の場で取消しや返還についての結論が示されるわけではなく、後日改めて連絡を受けることになります。後日提出することになった書類について、何を、いつまでに、どういう形で(原本か、データか)出すのかは、その場で確かめておいてください。次の節に挙げる記録のうち、最後の項目は、ここで効いてきます。
7 残しておいていただきたい記録
検査の場では、次の点を書き留めておいていただきたいと考えております。
- 日時と場所。何時から何時まで、どこで行われたか。
- 立ち会った職員の官職と氏名。前記のとおり、身分を示す証票の提示を求めることができます(23条2項)。
- 提示を求められた資料と、実際に提示した資料。提出したものは控えを残してください。
- 口頭で言われた内容。とくに、どの事実について、どの条文・どの条項に違反すると言われたのかは、そのままの言葉で書き留めてください。
- 後日提出することになった資料について、何を、いつまでに、どういう形で出すのか。
これらの記録は、検査のあとに取消しや返還の話が出てきたときに、書面に書かれた理由と、検査の場で言われたこととが合っているかを確かめる材料になります。
次のような場合は、ご相談ください
- 実地検査・立入検査の場で、刑事責任を示唆された
- 検査のあとに、交付決定の取消しや補助金の返還について連絡が来た
- 検査で指摘された事柄について、書面で回答するよう求められている
8 検査のあとに取消し・返還の話が出てきたら
検査の結果として、交付決定の取消しや補助金の返還が問題になることがあります。もっとも、交付決定を取り消すことができる場合は、補助金適正化法17条1項が定めています。同項は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときに、交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる、という定め方をしています。検査の場で指摘を受けたことが、そのままこの要件に当たるとは限りません。どの事実が、どの取消事由に当たるとされているのかは、改めて確かめることになります。
また、適正化法は、17条1項の取消しに先立つ規定として、補助事業等の遂行の状況の報告(12条)、遂行命令・一時停止命令(13条)、是正のための措置の命令(16条1項)を置いています。これらの手段の順序と、補助事業の実施の状況を調べないまま取消しがされた場合の考え方は、補助事業の実施状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのかで述べています。
取消しの前に、取消しを予定している旨の事前通知が届くことがあります。その通知の読み方と、意見を述べる機会の位置づけは、交付決定取消しの事前通知が届いたらで述べています。取消通知・返還命令が届いた場合の対応は、交付決定の取消し・返還請求をご覧ください。
検査の場でお取りになった記録は、この段階で効いてきます。通知に書かれた理由が、検査の場で言われたことと食い違っていないか、指摘された事実がどの取消事由に結び付けられているかを、記録と突き合わせて確かめることになります。
実地検査・立入検査を受けられた事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、検査のあとに取消しや返還の話が出てきたときに、お返事をされる前にご相談ください。検査の際にお取りになった記録、検査後に受け取った書面、交付決定通知書があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法23条(立入検査等)1項(報告徴収・立入検査・質問)、2項(職員は身分を示す証票を携帯し、関係者の要求があるときは提示しなければならない)、3項(1項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない)
- 補助金適正化法31条(柱書・3号)(次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処するとしたうえで、3号に、23条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者を掲げる)
- 補助金適正化法17条1項(決定の取消)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条(補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用し、「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替える)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』311〜315頁(株式会社全国会計職員協会、2016)(本条は交付行政庁の行政調査の権限及びその限界について定めた規定であるとし、立入検査等の権限は目的達成上必要最小な限度にとどめられなければならない(比例原則)こと、直接の物理的強制は許容されないものと解すべきこと、額の確定により補助関係の消滅した後においても行うことは可能と解されること、3項は憲法35条との関係で違憲ではないゆえんを明らかにするため設けられたものであることを述べる。314頁に23条2項の証票の書式が掲げられており、書式の裏面の欄に23条1項から3項までが抜すいとして掲げられている)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程20条(中小機構は報告を求め、事業所等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、関係者に質問することができる。この場合において、補助事業者は協力するものとする)、27条4項前段(補助事業終了後、会計検査院、経済産業省又は中小機構は、補助事業に関して予告なく実地検査を実施することができる)
- 会計検査院法25条(会計検査院は、常時又は臨時に職員を派遣して、実地の検査をすることができる。この場合において、実地の検査を受けるものは、これに応じなければならない)、26条(帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出を求め、又は関係者に質問し若しくは出頭を求めることができる。この場合において、求めを受けたものは、これに応じなければならない)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。