執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金の申請を支援する事業者との契約には、「採択されたら採択額の○パーセントを成功報酬として支払う」という形のものが広く使われています。この形の約定には、見えにくい落とし穴があります。採択は、補助金が手に入ったことを意味しません。採択の後に交付申請があり、交付決定があり、補助事業を実施し、実績報告を経て額の確定があって、そこでようやく入金されます。その途中で事業をやめれば、補助金は一円も入ってきません。それでも成功報酬の支払義務は残るのか――これが本稿の問いです。
東京地判令和4年2月22日(令和2年(ワ)第30321号、令和3年(ワ)第769号、判例秘書L07730608)は、この問いに正面から答えています。結論は、支払わなければならない、というものでした。この事件の事業者は、ものづくり補助金について1000万円を上限として採択され、交付決定まで受けましたが、その後に事業の廃止の承認申請をしており、補助金の交付を実際には受けていません。それでも裁判所は、採択額の20パーセントに当たる183万6000円の成功報酬の支払義務を認めました。あわせて支払った着手金32万4000円(三件で合計97万2000円)についても、不返還の約定が有効であるとして、返還を認めませんでした。
もっとも、この判決は、申請支援の報酬を無条件に正当だと言ったものではありません。裁判所は、報酬額について「高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ないものである」と述べ、さらに「申請に高額な費用が必要となる場合、少なくとも補助金交付事業の効果という点から見る限り、補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない」とまで述べています。そのうえで、それでも暴利とはいえない、という結論に至りました。理由は、相手が株式会社であって消費者ではないこと、着手金と報酬の額が申込書に明記され署名していたこと、その契約を結ばずに申請する道も開かれていたこと、実際に情報提供・ツール提供・事業計画書の添削などの業務が提供されていたことです。
本稿では、この判決が何を認め、何を認めなかったのかを、判決の言葉で確かめます。あわせて、同じ業態の申請支援をめぐる二つの判決も取り上げます。東京地判令和4年6月8日は、ほとんど同じ文言の申込書による契約について、支援業者側の請求を棄却し、着手金と弁護士費用の賠償まで命じました。決め手は公序良俗ではなく、詐欺でした。東京地判令和6年9月17日は、事業再構築補助金について、採択を基準とする成果報酬の約定を合理的であるとし、途中で契約を解除しても既に発生した成果報酬請求権は消えないとしています。
三つを並べると、争える場所が見えてきます。報酬が高いこと自体を公序良俗で攻めるのは、事業者間の契約では通りにくい。通るのは、その支援業者が、専門的知識によって当然に判断できたはずのことを、判断しないまま、あるいは知りながら「補助金をもらえる」と告げた場合です。そして、こうした紛争が生じ続けている背景には、制度の側の作りがあります。この点は、根拠を示して第6章で述べます。
1 「採択されたのに、補助金は受け取れなかった」というときに起きること
(1)採択は入金ではありません
補助金の手続は、段階に分かれています。公募に応募して事業計画が採択され、そのうえで交付申請をし、交付決定を受け、補助事業を実施し、実績報告をし、額の確定を受けて、はじめて補助金が支払われます。採択は、この長い流れの最初の関門を通ったという意味しか持ちません。
ところが、申請支援の契約では、成功報酬の発生時期が「採択」に置かれていることが多くあります。しかも支払期限は、採択通知から1週間や14日といった短い期間に設定されています。補助金が入金されるはるか前に、採択額を基準とする報酬を払う約束になっているのです。
(2)その後に事業をやめると何が起きるか
補助事業の途中で計画を続けられなくなることは、めずらしくありません。資金調達ができなかった、取引先の事情で発注ができなくなった、別の紛争の対応に手を取られた、補助対象経費に当たらないと事務局から言われた――理由はさまざまです。事業を廃止すれば、補助金の交付は受けられません。このとき、支援業者への成功報酬はどうなるのか。本稿の判決が扱ったのは、この場面です。
2 事案――着手金32万4000円と「採択額の20%+消費税」
(1)当事者と契約
事業者側は、通信販売等を目的とする株式会社と、インターネットビジネスのコンサルティング業務等を目的とする株式会社の二社です。同一の人物が両社の代表取締役を務めていました。
支援業者側は、民間資格の認定事業やコンサルティング業等を目的とする一般社団法人です。その代表理事は税理士及び行政書士の資格を有し、中小企業等経営強化法(令和元年法律第21号による改正前)26条1項所定の認定経営革新等支援機関の認定を受けていました。ただし、契約の当事者となった一般社団法人そのものは、この認定を受けていませんでした。ここが、のちに争点になります。
平成31年4月5日、三件の業務委託契約が結ばれました。ものづくり補助金の申請支援一件と、IT導入補助金の申請支援二件です。いずれも着手金32万4000円、報酬は「採択額の20%+消費税」、報酬の支払時期は採択通知日から14日以内とされていました。事業者側は同月10日に着手金合計97万2000円を振り込んでいます。
(2)問題となった条項
判決は、三件に共通して置かれていた条項(判決のいう「本件不返還条項」)を、次のように認定しています。
引用(東京地判令和4年2月22日・前提事実(4)エ)「『実際のサービス着手と関係なく,着手金の支払い義務が発生いたします』,『補助金の申請を中止した場合,その他いかなる場合でも着手金は返金されません。』,『本サービスにより申込者の補助金申請が採択された場合,申込者に採択報酬の支払義務が発生します。なお,採択発表後に申込者の都合により補助金受給に至らなかった場合でも,着手金および採択報酬を返金することはありません。また,補助金受給のための申請等を取りやめた時点で,申込者から当事務所に対して着手金および採択報酬の支払いが完了していなかった場合でも,申込者の着手金および採択報酬の支払義務は存在します。』」
「その他いかなる場合でも」「採択発表後に申込者の都合により補助金受給に至らなかった場合でも」。この二つの言葉が、この契約の性質を決めています。
(3)採択から事業廃止まで
令和元年6月28日、中央会は、一方の会社の事業計画について、補助金の金額につき1000万円を上限として採択する旨を通知しました。同社は同年7月25日付けで交付申請をし、中央会は同年8月23日付けで、補助金交付決定額を1000万円、補助対象経費を2000万円とする交付決定をしています。
ところが同社は、同年11月20日付けで、中央会に対して事業の廃止の承認申請を行いました。廃止の理由として、同年8月に米国の企業から知的財産権侵害訴訟の提起及び預金口座の仮差押えを受け、その対応が必要となったため、要件定義が進まず、補助金交付規程の納期に間に合わないことが確定した旨が記載されていました。
つまり、事業者側は、補助金を一円も受け取っていません。それにもかかわらず、支援業者は、採択額の20パーセントに当たる183万6000円の報酬を請求しました。事業者側は、三件の契約が公序良俗に反して無効である、あるいは詐欺により取り消すと主張して、着手金の返還を求めました。
3 判決は、なぜ成功報酬の支払義務を認めたのか
(1)認定を受けていない者が申請支援をすることは違法か
事業者側は、認定経営革新等支援機関以外の者は経営革新等支援業務を行うことができないはずであり、認定を受けていない一般社団法人が契約主体となったことは法26条に違反すると主張しました。
裁判所は、これを採用しませんでした。同条1項・2項の文言に照らすと、認定を受けていない者が経営革新等支援業務を行うことを禁止する規定であると解することは直ちに困難であるとし、業務の内容を見ても、「弁護士法72条、税理士法52条、行政書士法19条といった禁止規定に該当する場合は別として、特定の資格を有する者に限定されるべき内容であるとは解されず」、これらの業務を認定支援機関以外の者が行ってはならないとする理由も見出せない、としています。同法の他の規定にも、認定を受けていない者が業として経営革新等支援業務を行うことができない旨の明示的な規定はなく、罰則規定も見当たらない、とも述べています。
「認定支援機関ではないから違法だ」という主張だけでは、契約の効力を否定できません。
(2)報酬の額――裁判所の評価は二段構えです
次が、この判決の中心です。裁判所は、報酬額の評価について、まず次のように述べました。
引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)「被告が本件各契約に基づいて受託したのは,補助金交付申請の支援サービスを行う業務であり,弁護士でなければ行うことができない業務ではないから,被告が,補助金交付申請の支援を行う業務の対価として,資格を有する弁護士と同等の報酬を受領することは,被告が提供するツールがノウハウを含むものであるとしても,業務内容及び資格の有無という点から見る限り,高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ないものである。」
支援業者側は、採択額の20パーセントという報酬額は日本弁護士連合会又は各弁護士会が定めていた弁護士報酬基準を参考にしたものだと説明していました。裁判所は、その説明を受けて、弁護士でなければできない業務ではないのに弁護士と同等の報酬を取ることは「高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ない」と述べたのです。
そして、制度の側の問題にも踏み込んでいます。
引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)「また,ものづくり補助金においては,補助金交付申請の支援に対する報酬は補助対象経費には該当しないとされているが,その申請に必要な費用は,結局は補助金の受給者が負担することになるから,申請に高額な費用が必要となる場合,少なくとも補助金交付事業の効果という点から見る限り,補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない。本件通知が,法令に当たらないとはいえ,不適切な行為として,補助金申請に関与する際に,作業等にかかる費用等と乖離した成功報酬等の費用を中小企業・小規模事業者等に請求することを掲げているのも,そのような趣旨を踏まえたものと見られる。」
ここでいう「本件通知」は、中小企業庁及び金融庁が平成25年11月27日に認定経営革新等支援機関に対して出した通知です。判決は、一部の認定支援機関による不適切な行為に関する情報が当局に寄せられているとして注意喚起をしたものであり、不適切な行為として、作業等にかかる費用等と乖離した成功報酬等の費用を請求すること、認定経営革新等支援機関であることを示しながら補助金申請代行等のPRや営業活動を行うことなどを例示している、と認定しています。
(3)それでも暴利ではないとされた理由
しかし、裁判所の結論は、暴利ではない、というものでした。理由はこうです。
引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)「しかしながら,原告らは,いずれも営利を目的とする株式会社であり,被告は一般社団法人であるから,原告らは,消費者として,消費者契約法の適用を受けるような立場にはない。そして,本件各契約の着手金及び報酬の額並びに本件不返還条項は,いずれも申込書兼同意書に明記されており,原告代表者は,署名の上で,これを被告に交付したのであるから(認定事実(2)ウ),本件各契約を締結すれば,その約定に基づいて着手金や報酬の支払義務が生じ得ることは,原告らにおいて契約締結前の時点で認識していたといえる。また,原告らにおいて,その契約内容に不服があれば,契約を締結しないという判断を行うことができたはずであり,被告と契約を締結せずに補助金の交付を申請することが妨げられるような事情も見当たらない。」
四つの事情が並んでいます。相手が消費者ではないこと。額と条項が申込書に明記され署名されていたこと。契約しないという選択ができたこと。その契約を結ばずに補助金を申請する道も開かれていたこと。これに加えて、実際に情報やツールの提供、事業計画書の添削、認定支援機関による確認といった業務が行われており、「着手金や報酬の対価としての業務が提供されていないと認めることも困難である」と判断しています。
着手金の性質についても判断があります。裁判所は、着手金が報酬から控除される旨の約定があることからすれば、着手金は費用の前払いではなく、報酬の前払いであると解されるとしました。費用の前払いであれば、使われなかった部分の清算が問題になり得ます。報酬の前払いだとされると、その議論の入口が閉じられます。
(4)「補助金を受け取っていない」ことは結論を左右しないとされました
本稿の問いに対する答えは、次の部分です。
引用(東京地判令和4年2月22日・第3の2(1)エ)「また,中央会が補助金を採択した場合,申請者が採択額の範囲内で補助金の交付を受けることができる蓋然性が高まるといえるから,その時点で報酬の支払義務が生ずるとしても,委任者にとって一方的に不利な内容であると認めることは困難である。この点について,原告X1社は,補助金交付決定がされた後に,本件事業計画に係る事業の廃止の承認申請を行い,実際には補助金の交付を受けていないことが認められるが(認定事実(4)ウ),その申請書に記載された廃止の理由は,専ら原告ら側の事情によるものであり,被告側の事情によるものではないから,結論を左右する事情とはいえない。」
採択されれば交付を受けられる蓋然性が高まるから、その時点を報酬の発生時期とすることは不合理ではない。そして、実際に補助金を受け取れなかった理由が事業者側の事情にあるのなら、そのことは結論を変えない。――これが裁判所の筋道です。
逆から読めば、補助金を受け取れなかった理由が支援業者側の事情にある場合には、違う判断があり得ることになります。この点は、第4章と第7章で改めて述べます。
(5)弁護士法72条違反・詐欺取消しの主張
事業者側は、弁護士報酬基準を参考に報酬を定めたことが弁護士法72条に違反するとも主張しました。裁判所は、同条は「報酬を得る目的で一般の法律事件等に関して法律事務の取扱い又はこれらの周旋を業として行うことを禁止するものであり,一定の業務を行った場合に弁護士と同等の報酬を受領することそれ自体を禁止するものではない」として、これを採用していません。
さらに事業者側は、支援業者が認定経営革新等支援機関の認定を受けていないのにこれを秘し、あたかも認定を受けているかのように装って契約の締結を勧誘したと主張しました。契約締結前の勧誘メールには「認定支援機関等推進協議会」という肩書が付されていました。
それでも、裁判所は詐欺を認めませんでした。申込書兼同意書には、その法人が認定経営革新等支援機関であることを示す記載が見当たらないこと、契約の締結に先立って、代表理事ではなく法人そのものが認定支援機関であることを示して勧誘したと認めるに足りる的確な証拠も見当たらないことが理由です。
認定の有無をめぐる誤認を主張するのであれば、どの文書・どの発言で、誰が認定を受けていると示されたのかを、資料で特定できる形にしておく必要があります。
4 詐欺取消しが認められた別の判決――東京地判令和4年6月8日
(1)ほとんど同じ文言の申込書
東京地判令和4年6月8日(令和3年(ワ)第4116号、令和3年(ワ)第25895号、判例秘書L07732091)も、ものづくり補助金の申請支援サービス提供契約をめぐる事件です。支援業者側は、民間資格の認定事業、各種講座の開催及び運営、コンサルティング業務等を行う一般社団法人でした。
申込書の記載は、前章の事件とほとんど同じです。着手金は21万6000円、採択報酬は「採択額の20%+消費税-着手金」、支払期限は採択通知日から14日以内、そして「本サービスにより、申込者の補助金申請が採択された場合、申込者に採択報酬の支払義務が発生します。なお、採択発表後に申込者の都合により補助金受給まで至らなかった場合でも、着手金及び採択報酬を返金することはありません。」という条項が置かれていました。なお、二つの判決の記載から、支援業者が同一であるかどうかを確定することはできません。
経緯も似ています。事業者は令和元年6月28日に採択決定を受け、同年7月12日付けで約1000万円の交付申請をしました。ところが、中央会の支部の担当者から、事業の実施地が日本ではなくベトナムであること、補助事業で製造した金型は量産には使用できないことを理由に、申請を取り下げたほうがよいとのアドバイスを受けました。事業者は同年8月26日付けで交付申請を辞退しました。そして支援業者が、成功報酬190万0800円を請求して訴えを提起しました。
(2)結論は正反対でした
裁判所は、支援業者の請求を棄却し、さらに事業者の反訴を認容して、着手金21万6000円と弁護士費用2万1600円の合計23万7600円の支払を命じました。決め手は、公序良俗ではなく詐欺です。
引用(東京地判令和4年6月8日・第3の2(2))「そうすると、原告代表者は、被告の実施しようとしていた事業が本件補助金の対象事業になりえないことを知りながら、補助金をもらうことができるなどと述べて本件契約の締結へと被告代表者を欺罔したものであり、詐欺があったといわざるを得ない。」
この結論を導いた理屈が重要です。裁判所は、事業者が実施しようとしていた事業は「本件補助金に対する専門的知識があれば誰でも当然にそのような事業であると理解できる」ものであったとし、支援業者は補助金申請を支援するサービス提供を業として行っていると自ら主張しているのだから、「当然ながら専門的知識を有していなければならない」と述べました。そのうえで、支援業者の代表者は、面談での説明を聞いた時点で、その事業が補助金の対象外である可能性が高いことを判断できたはずであり、そのように理解したものと推認せざるを得ない、としています。申請支援を業として高額の報酬を得る者には、対象事業の該当性を判断できる知識があることが前提とされ、その前提から推認が働いたのです。
(3)報酬額についての括弧書き
この判決には、報酬額について、次の括弧書きが置かれています。
引用(東京地判令和4年6月8日・第3の2(2))「(原告が提供するサービスの内容に照らして、着手金と報酬の合計額が多額に過ぎ、暴利行為・公序良俗違反の可能性も十分にあり得るが、ここではこれ以上検討しない。)」
同じ括弧の中で、裁判所はさらに、専門的知識を有していないならば「そもそも本件契約を締結してサービスを提供し、上記のような高額の報酬を受領すべきではないのである」とも述べています。
暴利行為・公序良俗違反の可能性が「十分にあり得る」。これは判断しなかった論点についての言及であって、判断そのものではありません。それでも、同じ契約書式について評価が分かれ得ることを示すものとして、記憶しておく価値があります。
5 採択を基準とする成果報酬の約定――東京地判令和6年9月17日
(1)事業再構築補助金の事案
東京地判令和6年9月17日(令和4年(ワ)第30328号、判例秘書L07932168)は、事業再構築補助金の申請コンサルティング業務委託契約をめぐる事件です。コンサルタント側は認定経営革新等支援機関の認定を受けた株式会社でした。成果報酬は「補助金申請において採択された金額補助金額(確定した金額)の8%(税別)」、支払期限は「補助金採択後1週間以内」とされていました。
裁判所は、この契約の法的性質を準委任契約であるとし、「原告が、本件契約において、被告が申請する同補助金の採択ないし支給の成果を獲得することを契約上の義務として約したものとは考えにくい」と述べています。採択や支給という結果を保証する契約ではなく、専門的知見による支援・助言を行う手段債務の契約であるという整理です。
(2)公序良俗違反は認められませんでした
引用(東京地判令和6年9月17日・第3の7)「成果報酬について補助金の採択を基準としてその1週間後を支払時期とし、採択額を基準として報酬額を定めることは、本件契約の趣旨、目的に照らして合理的であるし、不当に高額であるともいえない。」
(3)途中で解除しても、発生済みの報酬は消えません
この判決には、実務上きわめて重要な説示があります。
引用(東京地判令和6年9月17日・第3の6)「なお、本件契約は準委任契約の性質を有するから、被告の解除は民法656条において準用する651条1項に基づくものとしては有効であるが、この場合の解除は将来に向かってのみ効力を生ずるにすぎず(民法656条、652条、620条)、既に発生した原告の成果報酬請求権を消滅させるものではない。」
準委任契約ですから、事業者はいつでも解除できます。しかし、その解除は将来に向かってしか効力を持ちません。採択によって成果報酬請求権が発生した後に契約を解除しても、発生済みの報酬債務は残ります。「もう頼まないと言ったのだから払う必要はない」という考え方は通りません。
なお、この事件では、補助対象経費の該当性に疑念があったことから、裁判所は「原告においては、補助金事務局との間で補助対象について確認、検討をすることが望ましかったとはいえる」とも述べています(善管注意義務違反までは認めていません)。
6 制度の側に規制がないこと
ここからは、制度の作りの話です。根拠を示して述べます。
ものづくり補助金の経費支出基準には、専門家に支払う謝金の上限が定められています。令和4年2月22日判決が認定したところによれば、次の内容です。
引用(東京地判令和4年2月22日・認定事実(1))「経費支出基準には,専門家経費として,謝金及び旅費についての定めがあり,謝金については,弁護士等の場合,1日つき5万円を限度とする旨,税理士,行政書士等の場合,1日につき4万円を限度とする旨,その他の場合,3万円を限度とする旨の定めがある」
※ 「1日つき」は手元の判決全文の表記のままです。
ところが、公募要領は、確認書を発行した認定経営革新等支援機関や応募申請時に事業計画書の作成を支援した者を専門家経費の対象外とし、補助金事業計画書・申請書・報告書等の事務局に提出する書類の作成・送付にかかる費用は補助対象経費に該当しないとしています。判決も、この定めがあるため、契約主体が認定支援機関であるかどうかにかかわらず、確認書の発行や書類の作成支援に対する対価は補助対象経費に該当せず、経費支出基準の対象外となる、と整理しました。
つまり、こういう構造です。補助対象経費として処理する限りでは、専門家の謝金は1日3万円から5万円までに抑えられる。しかし、申請支援の対価は補助対象経費から外されているため、この上限はそもそも及ばない。そして補助対象経費の外では、採択額の20パーセントを取ることについて、制度上の歯止めが置かれていません。裁判所が述べたとおり、その費用は「結局は補助金の受給者が負担する」のです。
これに対して国が行ったのは、平成25年11月27日の通知による注意喚起でした。作業等にかかる費用等と乖離した成功報酬等の費用を請求することを不適切な行為として例示し、慎むよう求める、という内容です。この通知から本稿の判決までに8年余り、今日までには12年余りが経っています。その間に、ものづくり補助金、IT導入補助金、事業再構築補助金と制度は積み重なりました。にもかかわらず、報酬についての規律は、法令でも交付規程でもなく、法令に当たらない通知による注意喚起にとどまっています。
裁判所自身が「補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない」と述べ、別の裁判体が「暴利行為・公序良俗違反の可能性も十分にあり得る」と述べている事柄について、制度の側が12年にわたって注意喚起しか用意していないのは、国の補助金制度の運営として不十分であると言わざるを得ません。補助対象経費の側だけに上限を置き、補助対象外の報酬には何も置かないという作りは、上限を回避する道をあらかじめ開いているのと変わりません。中小企業庁・中小企業基盤整備機構・中央会のいずれも、申請支援の報酬について、公募要領や交付規程の水準で規律を置くことは可能であったはずです。制度の側が動かないまま、個々の事業者が民事訴訟で争うほかない状態が続いていることは、改められるべきであると考えております。
7 では、どこで争うのか、契約の前に何を確かめるのか
以下は、前記三つの判決を踏まえた当職の整理です。
(1)報酬が高いことだけでは足りません
報酬額の高さそのものを公序良俗で攻める筋は、事業者間の契約では通りにくいことが示されています。令和4年2月22日判決は「高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ない」としながら暴利とはいえないとし、令和6年9月17日判決は「不当に高額であるともいえない」としました。消費者契約法の適用がないこと、額が書面に明記され署名されていること、契約しない選択ができたことが、繰り返し理由に挙げられています。「20パーセントは高すぎる」という主張だけでは、見込みは高くありません。
(2)勝ち筋は、専門的知識と説明の内容にあります
令和4年6月8日判決が示した道筋は、これと違います。そこで問われたのは、報酬の額ではなく、支援業者が契約締結の時点で何を判断できたか、そして何を告げたかでした。申請支援を業として行い、高額の報酬を受ける者には、その補助金の対象事業に当たるかどうかを判断できる専門的知識があることが前提とされます。ですから、事業者が面談で説明した事業の内容が、公募要領の定めから見て明らかに対象外であるにもかかわらず、「補助金をもらえる」と告げて契約に至ったのであれば、詐欺の主張が通る余地があります。
確かめるべきことは具体的です。契約の前に、どのような事業をしたいと説明したのか。その説明に対して、支援業者は何と答えたのか。その内容は、メール・チャット・申込書・面談メモのどこに残っているのか。公募要領のどの定めに照らして対象外だったのか。――この種の資料が揃っているかどうかで、見通しが大きく変わります。
(3)「補助金を受け取れなかった原因が誰にあるか」
令和4年2月22日判決は、補助金を受け取れなかった理由が「専ら原告ら側の事情によるものであり、被告側の事情によるものではない」ことを明示して、結論を左右しないとしました。
ここは裏から読む価値があります。原因が支援業者側にある場合、たとえば、支援業者の助言に従って作成した事業計画が補助対象経費の要件を満たしていなかった、対象外であることを知り得たのに告げなかった、という場合には、同じ結論にはなりません。令和6年9月17日判決が、補助対象経費の該当性について「補助金事務局との間で補助対象について確認、検討をすることが望ましかったとはいえる」と述べているのも、同じ方向を向いています。
(4)契約を結ぶ前に確かめておくこと
これから申請支援を依頼する側の立場では、次の点を契約書・申込書の文面で確かめておくことになります。
第一に、成功報酬の発生時期です。採択の時点か、交付決定の時点か、額の確定・入金の時点か。採択の時点とされている場合、補助金が入る前に支払うことになります。
第二に、採択されたが補助金を受け取れなかった場合の扱いです。減額されたとき、交付申請を取り下げたとき、事業を廃止したとき、取消しを受けたとき、報酬はどうなるのか。令和4年2月22日判決の契約には、「その他いかなる場合でも」という文言が置かれていました。
第三に、着手金の性質です。報酬の前払いなのか、費用の前払いなのか。報酬から控除される旨の定めがあると、報酬の前払いと解される余地が生じます。
第四に、業務の範囲です。採択までか、交付申請までか、実績報告まで含むのか。令和6年9月17日判決は、採択に向けた支援と資金調達に向けた金融機関との交渉の支援とでは業務内容や必要な専門的知見が異なるとして、契約書に記載のない業務は当然に含まれないとしています。採択後の手続を誰がやるのかは、あらかじめ決めておく必要があります。
第五に、誰が認定経営革新等支援機関なのかです。代表者個人が認定を受けていて、契約の当事者となる法人は受けていない、ということがあり得ます。確認書を発行するのは誰なのかを含めて、確かめておくことが確実です。
(5)取消し・返還の場面との関係
申請支援の報酬をめぐる紛争は、補助金の取消しや返還の問題ともつながります。交付決定の取消しがどのような場合にできるのかは、補助金の交付決定の取消し・返還請求と裁判例紹介:交付決定はどのようなときに取り消すことができるのかで、交付規程や公募要領に反したという指摘がそのまま補助条件違反に当たるかどうかは交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。IT導入補助金のように販売事業者や支援事業者が制度に組み込まれている補助金については、IT導入補助金の返還請求もあわせてご覧ください。
8 まとめ
採択されたものの補助金を受け取れなかった場合に、申請支援の成功報酬を払わなければならないのか。東京地判令和4年2月22日の答えは、払わなければならない、というものでした。採択されれば交付を受けられる蓋然性が高まるのだから、その時点を報酬の発生時期とすることは一方的に不利とはいえず、補助金を受け取れなかった理由が事業者側の事情にあるのなら結論は変わらない、という筋道です。着手金についても、報酬の前払いであると解されるとして、不返還の約定が有効とされました。
同時に、この判決は、報酬額について「高額な報酬であるとの評価を受けてもやむを得ないものである」と述べ、申請に高額な費用が必要となる場合には「補助金交付事業の趣旨に沿わない面があることは否定することができない」とまで述べています。暴利ではないという結論は、相手が消費者でないこと、額が書面に明記され署名されていたこと、契約しない選択ができたこと、実際に業務が提供されていたことに支えられたものです。
東京地判令和4年6月8日は、ほとんど同じ文言の申込書による契約について、詐欺による取消しを認め、支援業者の請求を棄却したうえ、着手金と弁護士費用の賠償を命じました。申請支援を業とする者には対象事業の該当性を判断できる専門的知識があることが前提とされ、その前提から、判断できたはずだという推認が働いています。同判決は、報酬額についても「暴利行為・公序良俗違反の可能性も十分にあり得る」と述べました。東京地判令和6年9月17日は、採択を基準とする成果報酬の約定を合理的であるとし、準委任契約の解除は将来に向かってしか効力を持たないため、既に発生した成果報酬請求権は消滅しないとしています。
三つを並べたうえで言えることは、争う場所は報酬の額ではなく、契約締結時に何を判断できたか、何を告げたか、補助金を受け取れなかった原因が誰の側にあるのか、というところにあるということです。そして、こうした紛争が民事訴訟でしか決着しない状態が12年以上続いていることは、制度の側の手当ての不足であると言わざるを得ません。
ご相談をお考えの事業者の方へ
採択の通知を受けた直後に高額の報酬を請求された、補助金を受け取れていないのに成功報酬を請求されている、着手金を払ったが業務らしいものが提供されていない、申請支援を受けた事業がそもそも補助の対象外だったことが後から分かった――こうした場面では、契約前のやり取りがどこまで資料として残っているかが見通しを左右します。申込書・契約書、勧誘時のメールやチャット、面談のメモ、事務局や中央会からの説明の記録。これらがあれば、具体的な検討ができます。成功報酬の請求には支払期限が付けられ、遅延損害金が加算されていくことが多いため、早い段階でご相談ください。
士業の先生方へ
顧問先から「申請支援の契約を結んでよいか見てほしい」「採択されたが補助金が入らないのに報酬を請求されている」というご相談を受けることがあろうかと存じます。契約の文面を点検する場面と、既に発生した請求を争う場面とでは、やるべきことが変わります。補助金適正化法や公募要領・交付規程の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第6章及び第7章は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、契約書・申込書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。