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弁護士 岸上大起

補助金の返還を求められている――別の会社を作って新しい事業をそちらで始めてよいのか

このページの結論

補助金の返還を求められ、争う方針です。争った結果が思わしくなければ今の会社の財産が返還の引当てになりますので、これから始める新しい事業や新しい取引先からの売上は、別の法人を設立してそちらで受けたいと考えています。既に指摘を受けている段階でそのような動きをすると、財産や事業を移しているように見られて、かえって問題にならないでしょうか。

別の法人を設立して、新たな事業をその法人で始めること自体は、妨げられないと考えております。訴訟の結果は確実に見通せるものではありませんので、敗訴した場合に備えて新しい事業を別の法人で行うことは、リスクヘッジとして、経営判断として合理的な場合があります。線は、「新たに始める」ことと「今あるものを移す」ことの間に引かれます。今の会社が持っている財産や取引を新しい法人に移すことは、避けるべきです。

移した財産や取引は、対価と時期によっては、債権者から詐害行為として取り消され(民法424条。会社分割の形を取っても対象になります。最二小判平成24年10月12日)、破産手続では管財人に否認され(破産法160条・161条)、商号や事業主体を表す名称を続ければ、新しい法人が今の会社の債務を弁済する責任を負います(会社法22条1項。最三小判平成20年6月10日)。相当の対価を払っても、代表者が重なっていれば安全にはなりません。返還を命じられる相手が交付決定を受けた法人であること自体は動きませんので、新しい法人は、今の会社から財産・取引・名称を引き継がない形で始めることになります。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 線は「新たに始める」ことと「今あるものを移す」ことの間にあります

補助金の返還を求められ、争う方針を決めた後に、「今の会社で事業を広げて財産を積み上げていくことが、かえって危ないのではないか」というご相談をいただくことがあります。返還を命じられる相手は今の会社です。争った結果が思わしくなければ、その会社に積み上がった財産が返還の引当てになります。そこで、これから始める新しい事業や、これから新しく契約する取引先からの売上は、別の法人を設立してそちらで引き受けたい、という発想が出てきます。

私見としては、別の法人を設立して、新たな事業をその法人で始めること自体は、妨げられないと考えております。訴訟の結果は確実に見通せるものではありませんので、敗訴した場合に備えて、新しい事業を別の法人で行うことは、リスクヘッジとして、経営判断として合理的な場合があります。

ただし、ここには線があります。今の会社が持っている財産(預金・売掛金・設備・在庫・知的財産)や、今の会社が結んでいる契約・取引先・従業員を、新しい法人に移すことは、別の話です。移した財産や取引は、対価と時期によっては、債権者から取り消され、破産手続では否認され、商号や名称を続ければ新しい法人が今の会社の債務を払う責任を負うことがあります。線は、「新たに始める」ことと「今あるものを移す」ことの間に引かれます。このページの本体は、後者の危うさです。

2 返還を命じられる相手は、交付決定を受けた法人です

出発点を確かめておきます。交付決定の取消しは「補助事業者等」に対してされ(補助金適正化法17条1項)、取り消した場合の返還の命令も、その補助事業者等に対してされます(同法18条1項)。中小企業基盤整備機構が交付する補助金(中小機構法15条1項6号・2項3号の助成金)については、中小機構法16条によりこれらの規定が準用され、「各省各庁の長」は機構の理事長と読み替えられます。

引用(補助金適正化法18条1項)「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」

返還の債務を負うのは、交付決定の名宛人である法人です。新しく設立した法人は、交付決定の名宛人でない限り、返還の命令がそちらに向けられることはありません(補助事業そのものを承継し、交付主体の承認を受けて補助事業者の地位を引き継いだ場合は別で、その場面は前記のQ&A「補助事業を事業譲渡したら」で扱っています)。株主の責任は株式の引受価額を限度とし(会社法104条)、代表者個人も、法人が受けた返還命令の債務者ではありません(前記のQ&A「社長や役員個人が払わされることはあるのか」)。ここまでが、「別の法人で新しい事業を始めること自体は妨げられない」という結論の土台です。

もっとも、法人格が別であるということは、裏を返せば、今の会社の財産が今の会社の債務の引当てであるということです。その財産を別の法人に移す行為に対しては、債権者を守るための仕組みが、民法・破産法・会社法に置かれています。以下、順に見ていきます。

3 移すと何が起きるか(1)――債権者による取消し(詐害行為取消権)

債務者が、債権者を害することを知って財産を減らす行為をしたときは、債権者は、裁判所にその行為の取消しを請求することができます。これを詐害行為取消権といいます。

引用(民法424条1項・3項)「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。」「債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。」

ここでいう債権者には、返還を求める交付主体(国・中小機構・事務局)も含まれます。国や中小機構が返還を命じた場合、その返還金は国税滞納処分の例により徴収することができる債権ですが(補助金適正化法21条1項)、そのことは、交付主体が民法上の債権者としてこの権利を使うことを妨げません。取消しが認められると、受益者(財産を受け取った新しい法人)は、その財産を返還し、返還が困難であれば価額を償還することになります(民法424条の6第1項)。認容判決の効力は、債務者と全ての債権者に及びます(同法425条)。

三つ、押さえておきたい点があります。

対価のない移転は、取消しの典型です

今の会社の預金を新しい法人に振り替える、設備や在庫を無償で使わせる、売掛金を新しい法人の口座に入れさせる、といった対価のない移転は、取消しの対象になる典型です。取引先との契約を新しい法人に切り替え、今の会社が築いた顧客・従業員・ノウハウをそのまま使って売上だけを新しい法人で受けることも、事業の移転として同じ目で見られます。

相当の対価があっても、取り消されることがあります

対価を払えばよい、という話でもありません。民法は、相当の対価を得てした財産の処分についても、一定の場合には取り消すことができるとしています。

引用(民法424条の2)「債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。」

相当の対価があれば、取消しの要件は三つとも揃わなければならなくなりますので、対価のない移転より取り消されにくくなります。もっとも、新しい法人の代表者が今の会社の代表者と同じであれば、三号の「受益者が…知っていたこと」は、争いようがありません。設備を売って現金に換え、その現金を手元から消すような動きがあれば、一号・二号も満たされます。相当の対価は、要るものではありますが、それだけで安全になるものではありません。

会社分割の形を取っても、取り消されます

事業の一部を新しい会社に承継させる方法として、会社法には会社分割(新設分割・吸収分割)という制度があります。会社の組織に関する行為ですので、単なる売買とは違い、詐害行為取消しの対象にならないのではないかという議論がありましたが、最高裁は、対象になると判示しています。

引用(最二小判平成24年10月12日民集66巻10号3311頁)「株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。」

この事件は、債務者が所有していた不動産を新設分割により新しい会社に承継させ、債務は承継させなかったというものです(最高裁判所判例解説民事篇(平成24年度)654〜655頁)。同解説は、新設分割の濫用事例として、「債務の引当てとなる資産が新設分割によって新たに設立される株式会社(新設分割設立株式会社)に承継されたとしても,新設分割をする株式会社(新設分割株式会社。本件でいうA)は移転した純資産の額に等しい対価を新設分割設立株式会社から取得しているはずとの理解の下」、分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者については、一定の場合を除き、債権者保護手続が設けられていなかったこと、しかし対価が「換価性の乏しい新設分割設立株式会社の株式であった場合などを想定すると,そのような債権者についても,その保護を図る必要性がある場合が存することは否定できない」ことを述べています(同657〜658頁)。

その後、平成26年の会社法改正で、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合に、残存債権者が承継会社・設立会社に対し、承継した財産の価額を限度として直接に債務の履行を請求することができる定めが置かれました(会社法759条4項、764条4項。承継会社が分割の効力発生時に残存債権者を害することを知らなかったときは除かれます)。この改正の後も、最高裁判所判例解説民事篇(平成29年度)829頁は、優良な資産や事業を移す一方で債務を承継しない会社分割について、「平成24年最判のような詐害行為取消権の行使又は会社法の詐害的な会社分割に対応する規定の適用によって対処することが可能であると思われる」と述べています。取消しの道と直接請求の道が、並んで残っているということです。事業譲渡についても、同じ構造の定めが置かれています。

引用(会社法23条の2第1項)「譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。」

つまり、会社分割や事業譲渡という形式を整えても、債務を今の会社に残したまま財産や事業だけを新しい法人に移せば、残された債権者は、取消しを求めるか、新しい法人に直接に請求するかを選べるということです。

「まだ返還命令は出ていない」という理由で安全になるわけではありません

民法424条3項は、取消しを請求できる債権者を、その債権が「行為の前の原因に基づいて生じたもの」である場合に限っています。取消しや返還命令が出る前に財産を移した場合、交付主体の返還請求権は「行為の前の原因」に基づくものといえるのか、という問題があります。私見としては、返還の命令はまだ出ていなくても、取消しの理由とされている事実(補助条件への違反等)が既に生じており、交付主体から指摘も受けている段階であれば、その債権は行為の前の原因に基づいて生じたものに当たると判断される余地が十分にあると考えております。「指摘は受けているが、命令はまだ出ていない」という時期に財産を移すことは、むしろ、債権者を害することを知っていたことの裏付けに使われやすい動きです。

なお、詐害行為取消請求の訴えには期間の制限があり、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年、行為の時から十年を経過したときは提起することができません(民法426条)。長い期間、移した財産の帰属が確定しないということでもあります。

4 移すと何が起きるか(2)――破産手続での否認

争った結果、返還債務が確定し、今の会社が払えずに破産手続に入ったとします。このとき、破産手続開始前に財産を移していた行為は、破産管財人によって否認されることがあります。

引用(破産法160条1項柱書・1号・3項)「次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。」「破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。」「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。」

詐害行為取消権と並ぶ構造ですが、違いが二つあります。一つは、主体が破産管財人であることです。管財人は、破産財団のために否認権を行使する職務を負っており、債権者が訴えるかどうかを待つものではありません。もう一つは、無償行為については、支払の停止等の後、又はその前六か月以内にされたものであれば、債権者を害することを知っていたかどうかを問わずに否認できることです(同条3項)。相当の対価を得てした財産の処分についても、民法424条の2と同じ三つの要件で否認することができ(同法161条1項)、相手方が破産者である法人の取締役等や、総株主の議決権の過半数を有する者であるときは、隠匿等の処分の意思を知っていたものと推定されます(同条2項)。新しい法人の代表者や株主が今の会社と重なっていれば、この推定が働きます。

否認権は、破産手続開始の日から二年、否認しようとする行為の日から十年で行使できなくなります(同法176条)。破産手続での返還金の順位や、法人が破産すれば債務を負う主体がなくなるという点は、前記のQ&A「廃業・破産したら、補助金の返還はどうなるのか」と「会社が破産したら・再生を使ったら」で述べています。ここで申し上げたいのは、「最後は破産すればよい」という見通しは、財産を移していた場合には、管財人がその財産を取り戻しに来るところまで含めて考えなければ成り立たない、ということです。

5 移すと何が起きるか(3)――商号・名称を続ければ、新しい法人が債務を払う責任を負います

三つ目は、取消しや否認とは別の筋です。今の会社の事業を新しい法人が引き継ぎ、商号を引き続き使う場合、新しい法人は、今の会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。

引用(会社法22条1項)「事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」

個人事業主からの営業譲渡については、商法17条1項が同じ定めを置いています。この責任は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、及びません。登記をしない場合は、譲受会社及び譲渡会社から遅滞なくその旨の通知を受けた第三者に対してのみ、及びません(会社法22条2項、商法17条2項)。

「商号を引き続き使用する」とは、登記上の商号をそっくり使う場合に限られません。最高裁は、預託金会員制のゴルフクラブの名称が事業主体を表示するものとして用いられている場合に、会社分割によって事業を承継した会社がその名称を引き続き使用したときについて、特段の事情のない限り、会社法22条1項の類推適用により預託金の返還義務を負うと判断しました。その理由は、次のとおりです。

引用(最三小判平成20年6月10日裁判集民事228号195頁、判タ1275号83頁)「なぜなら,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社または設立会社に承継される場合,法律行為によって事業の全部又は一部が別の権利義務の主体に承継されるという点においては,事業の譲渡と異なるところはなく,事業主体を表示するものとして用いられていたゴルフクラブの名称が事業を承継した会社によって引き続き使用されているときには,上記のような特段の事情のない限り,ゴルフクラブの会員において,同一事業主体による事業が継続しているものと信じたり,事業主体の変更があったけれども当該事業によって生じた債務については事業を承継した会社に承継されたと信じたりすることは無理からぬものというべきであるからである。」

この判決は、同項の会社分割への類推適用を最高裁として初めて認めたものとされています(元芳哲郎=豊田愛美「会社分割と会社法22条1項類推適用」判タ1369号46〜48頁)。事業主体を表示する名称――屋号、店名、ブランド名、サービス名――を新しい法人がそのまま使えば、取引先から見て事業主体が交替したことが分からない以上、同じ責任を問われ得るということです。

補助金の返還債務について考えると、この責任の射程には注意が要ります。会社法22条1項が対象とするのは「譲渡会社の事業によって生じた債務」です。返還命令に基づく債務が、補助事業という「事業によって生じた債務」に当たるのかを正面から判断した裁判例は、手元では見当たりません。当たらないと言い切れるものではありませんので、及び得ることを前提に考えておくのが安全です。加えて、同項の責任は、取引先や金融機関など、今の会社の事業上の債権者全員との関係で問題になります。補助金の返還だけを念頭に置いて新しい法人を作っても、他の債権者からこの責任を問われれば、新しい法人の財産は守られません。

6 返還命令を争う筋への影響

財産を移す動きは、返還命令そのものを争う筋にも影響します。交付決定の取消しに理由がないと主張して争っている最中に、今の会社から財産が抜けていけば、交付主体は、返還命令の徴収(補助金適正化法21条1項。国税滞納処分の例による差押え)を急ぐ理由を得ます。返還命令を放っておいた場合の差押えについては、Q&A「補助金の返還命令を放っておくとどうなるのか」で述べています。

また、加算金・延滞金の免除は「やむを得ない事情があると認めるとき」に限られており(同法19条3項)、納付の時期と方法(分割)を交付主体と協議する場面でも、財産を移した事実は、協議の土台を崩す方向に働きます。この点は、前記のQ&A「会社が破産したら・再生を使ったら」の「私的整理・免除・分割という筋」で述べています。争う筋と、別の法人で新しい事業を始める筋は、両立します。両立しないのは、争う筋と、今の会社の財産を移す動きです。

次のような場合は、動かす前にご相談ください

  • 補助金の返還を求められており、別の法人を設立して新しい事業を始めることを検討している
  • 既に別の法人を設立し、取引先や設備の一部をそちらに移している
  • 会社分割や事業譲渡の形で、補助事業以外の事業を新しい法人に移すことを提案されている
  • 返還命令を争う方針と、新しい法人の設立とを、どう両立させるか決めかねている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 社長や役員個人が払わされることはあるのか(Q&A)/破産したら・再生を使ったら、返還債務はどうなるのか(Q&A)

7 新しい法人で始めるときに整えること――対価・時期・記録

ここまでを踏まえると、別の法人で新しい事業を始めるにあたって整えるべきことは、次のように絞られます。

  • 今の会社の財産を移さないこと。新しい法人の資本金は、今の会社からではなく、出資者個人から出します。今の会社の預金・売掛金・設備・在庫・知的財産を、無償でも、名目的な対価でも、新しい法人に移しません。補助金で取得した設備は、各省各庁の長(機構の理事長)の承認を受けずに譲渡し、貸し付けることなどが禁じられていますので(補助金適正化法22条)、新しい法人に使わせることも含め、動かしません。処分制限期間や届出の扱いは、前記のQ&A「補助事業を事業譲渡したら」で述べています。
  • 今の会社の取引を移さないこと。既存の取引先との契約を新しい法人に切り替えることは、事業の移転です。新しい法人で受けるのは、新しい事業と、新しく契約する取引先に限ります。既存の取引先から新しい法人が受注することになる場合は、今の会社の顧客・ノウハウを使った事業の承継と見られますので、避けるか、相当の対価を定めた契約を結ぶことになります。
  • どうしても使うものには、相当の対価を定めること。事務所の一部、人員、システムなどを新しい法人が使うのであれば、賃料・業務委託料・使用料を市場相場で定め、契約書を作り、実際に払います。対価は今の会社の口座に入り、そこに残ることが要ります。対価を受け取った直後に今の会社からその金銭が消えるようであれば、民法424条の2・破産法161条の要件が揃います。
  • 商号・名称を変えること。新しい法人には、今の会社の商号、屋号、店名、ブランド名を使いません。同じ名称を使わざるを得ない事情があるのであれば、新しい法人の本店所在地で、債務を弁済する責任を負わない旨の登記を遅滞なく行います(会社法22条2項)。通知で済ませる場合は、通知を受けた相手にしか効きませんので、債権者ごとに、今の会社と連名で、遅滞なく通知します。
  • 時期と理由を記録に残すこと。新しい法人を設立した目的が新しい事業であり、今の会社の財産を移すためではないことを、設立時の事業計画、取締役会・株主総会の議事録、資金の出所の記録で示せるようにしておきます。交付主体から指摘を受けた日、返還命令が届いた日と、新しい法人の設立日・各取引の日とを、時系列で整理しておきます。
  • 混ぜないこと。二つの法人の口座・帳簿・契約名義を分け、今の会社の資金で新しい法人の経費を払う、新しい法人の売上を今の会社の口座で受けるといった混同をしません。混同は、財産の移転と同じ目で見られるだけでなく、法人格が別であるという前提そのものを弱めます。

既に財産や取引を移してしまっている場合は、何を、いつ、いくらで移したのかを一覧にし、対価が払われていないものについては、相当の対価を定めて精算することを検討します。精算は、取消しや否認を免れることを保証するものではありませんが、「債権者を害することを知って」した行為であるという評価を弱める方向には働きます。

8 最初に確かめること

  • 新しい法人で行おうとしているのが、新しい事業なのか、今の会社の事業の続きなのか。取引先・従業員・設備・名称のどれが今の会社から引き継がれるのか。
  • 今の会社から新しい法人に、金銭・物・権利・契約が一つでも移るのか。移るのであれば、その対価はいくらで、誰が決め、どこに入るのか。
  • 新しい法人の代表者・株主が、今の会社と重なるのか。重なる場合、受益者の悪意(民法424条1項ただし書)や隠匿等の処分の意思を知っていたことの推定(破産法161条2項)が問題になります。
  • 交付主体から指摘を受けた日、取消しの通知・返還命令の日付。新しい法人の設立や各取引が、その前なのか後なのか。
  • 今の会社に、補助金の返還のほかにどのような債権者がいるのか。金融機関・取引先・税務署との関係で、商号続用の責任や詐害行為の問題が別に生じます。
  • 返還命令そのものを争う見込み。争う筋があるのであれば、新しい法人の設立と並行して、不服申立て・取消訴訟の期間を管理することになります(Q&A「取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」)。

移す前に止められるかどうかで、取り得る手当ては変わります。財産や契約を動かす順序を決める前の段階で、ご検討されることをお勧めします。

補助金の返還を求められている状況で、別の法人を設立して新しい事業を始めることを検討しておられる事業者の方、既に設立した法人との間で財産や取引をどう扱うか迷っておられる方、顧問先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、財産や契約を動かす前にご相談ください。返還を求める書面、今の会社の直近の決算書と資金繰りの資料、新しい法人の事業計画と設立の資料があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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