執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 まず、その書面を誰が出したものかを確かめる
「どこに言えばよいか」の答えは、その補助金の交付主体が誰かによって分かれます。ですから、お手元の取消しの通知と交付決定通知書を並べて、差出人と、交付決定をする旨の記載の主語を確かめることから始まります。
主語が「中小機構は」であれば、その補助金は中小機構が直接交付するものです。中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付され、同法16条により補助金適正化法が準用されますので、交付決定の取消しは補助金適正化法17条1項に基づく行政処分になります。これに対し、主語が「事務局は」であれば、交付主体は事務局で、その交付は事務局との負担付贈与契約と解されます。この類型の「取消し」の法的な正体は契約の解除であり、争い方も、行政処分を前提とする手続とは別になります(負担付贈与契約型補助金のトラブルをご覧ください)。
以下は、中小機構が交付主体の補助金(事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金)を念頭に置いた整理です。
2 取消しは、取り消されるまで有効なものとして扱われる
行政処分は、取り消されるまでは有効なものとして扱われます(講学上「公定力」と呼ばれるものです)。ですから、窓口に電話をして納得できないことを伝えても、それだけで取消しの効力が止まるわけではありません。返還の命令が出ている場合も同じで、電話で不服を述べたことによって期限が動くわけではありません。
覆す方法は、原則として、交付主体に撤回を求めるか、取消訴訟を提起して取消判決を得るかのいずれかです(この整理は自主返納の求めで述べています)。ですから、「どこに言えばよいのか」という問いは、この二つのどちらによるのか、そのためにどこに宛てて何を出すのか、という問いになります。
3 意見を述べる機会は、取消しの前の段階に置かれている
取消しの前には、取り消す予定であることを知らせる事前通知が出され、意見を述べる機会が与えられることがあります。もっとも、補助金等の交付に関する処分については、行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3章(不利益処分)の規定が適用されません(補助金適正化法24条の2)。この機会は、法律が義務づけた手続ではなく、交付する側が自ら設けた手続ですので、期限・方法・様式は事前通知の記載によります。この段階での進め方は、交付決定取消しの事前通知が届いたらで述べています。
他方、交付決定の取消しをするときにその理由を示すことは、法律上の義務です(同法21条の2)。届いた通知に理由が書かれていない、又は何を指しているのかが分からないという場合は、そのこと自体を書き留めておいてください。理由の提示が十分といえるかという論点は、取消しの処分性と理由付記の不備で述べています。
4 通知が届いた後にとり得る二つの道
交付主体に宛てて、書面で撤回を求める
一つめは、交付主体に宛てて、撤回を求める書面を出すことです。これは法律に手続の定めがあるものではありませんので、様式も、提出の期限も定まっていません。宛先は交付主体です。中小機構が交付する助成金については、中小機構法16条が、補助金適正化法の「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えていますので、法律上の名義は中小機構の理事長になります。
手続の定めがないということは、出したこと・出した内容が残るかどうかが、こちらの出し方によって決まるということでもあります。日付と宛先が分かる形で控えを残してください。
取消訴訟
二つめは、取消訴訟です。審査請求を先に経なければならないという建付けにはなっていませんので、いきなり提起することができます。行政事件訴訟法8条1項本文は、処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げないと定めています。同項ただし書が例外としているのは、法律に、審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがある場合ですが、その定めは、補助金適正化法にも中小機構法にも置かれていません。この点は、対談の形で処分性のある補助金とない補助金でも述べています。現段階では、いきなり取消訴訟で対応しております。裁判例がある程度積み上がれば、簡明な事案については行政不服審査で対応するという選択肢も出てくると考えております。
宛先と期限のうち、取消訴訟の側は、お手元の通知書の記載から確かめることができます。行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分をする場合には、その相手方に対し、取消訴訟の被告とすべき者と出訴期間を書面で教示しなければならないものとされています(処分を口頭でする場合を除きます。行政事件訴訟法46条1項)。出訴期間そのものは、同法14条に定めがあります。「もう6か月を過ぎている」と言われた場合の考え方は、交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのかで整理しています。
次のような場合は、期限が来る前にご相談ください
- 交付決定の取消しの通知が届いたが、どこに宛てて不服を述べればよいのかが分からない
- 問い合わせはしたものの、どこに何を出すことになるのかが分からないままになっている
- 取消しの通知に、被告とすべき者や出訴期間についての教示が見当たらない
あわせてご覧ください: 出訴期間と「正当な理由」(Q&A)/交付決定取消しの事前通知が届いたら(Q&A)
5 「不服の申出」の条文は、地方公共団体についての定め
補助金適正化法には、「不服の申出」という見出しの条文が置かれています(同法25条)。見出しだけを見ると、不服のある者のための一般的な手続のように見えますが、申し出ることができる者として挙げられているのは、地方公共団体です。
引用(補助金適正化法25条1項)「補助金等の交付の決定、補助金等の交付の決定の取消、補助金等の返還の命令その他補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分に対して不服のある地方公共団体(港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)に基く港務局を含む。以下同じ。)は、政令で定めるところにより、各省各庁の長に対して不服を申し出ることができる。」
同条2項は、不服の申出があったときは、各省各庁の長が、不服を申し出た者に意見を述べる機会を与えた上、必要な措置をとり、その旨を不服を申し出た者に対して通知しなければならないとしています。同条3項は、その措置に不服のある者は、内閣に対して意見を申し出ることができるとしています。2項・3項は、いずれも1項の申出を受けた後の手続を定めたものです。
中小機構が交付する助成金についての準用(中小機構法16条)でも、この点は変わりません。同条が読み替えているのは、補助金適正化法(2条7項を除く。)中の「各省各庁」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構」、「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」とすること、同条が列挙する条(補助金適正化法2条1項・4項、7条2項、19条1項・2項、24条、33条)の「国」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構」とすること、及び、同法14条の「国の会計年度」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業年度」とすることです。25条1項の「地方公共団体」という主体は、読み替えの対象になっていません。したがって、補助事業者がこの条文によって不服を申し出ることは、定められていないということになります。
条文に手続の定めが置かれているのは、上の二つのうち取消訴訟です。交付主体に宛てて書面で撤回を求めることは、手続の定めによるものではなく、交付主体に対して、自ら取消しを撤回するよう求めるものです。
6 窓口に話すことと、交付主体に宛てて出すことは、別のこと
中小機構が直接交付する補助金では、事務局は、補助金の交付に関する事務手続を行うものであり、交付主体ではありません(この構造は取消しの処分性と理由付記の不備で述べています)。窓口の担当者に電話で不服を伝えることと、交付主体に宛てて書面を出すこととは、別のことになります。
電話でのやり取りは、後から何を述べたのかを示すことができません。説明を受けたとき、またこちらの考えを伝えたときは、日時・相手の氏名・内容を記録し、その内容を書面又はメールで確かめておいてください。何がいつ言われたのかが資料として残っているかどうかで、後に争うことになった場合の主張の立て方が変わります。
あわせて、分けておいていただきたいことがあります。補助金適正化法23条1項は、補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは、補助事業者等に対して報告をさせ、又は職員にその事務所、事業場等に立ち入って帳簿書類その他の物件を検査させ、関係者に質問させることができると定めています。この報告・質問に応じることは、取消しに不服があるかどうかとは別の義務です。報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者には、罰則の定めがあります(同法31条3号)。不服があっても、求められた報告・資料には、できる限り応じた方がよいと考えております。そのうえで、不服は交付主体に宛てた書面で述べることになります。資料をどこまで出すかの考え方は求められた資料はどこまで出すのか、検査の場での受け答えは補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのかで述べています。
7 どこに言うかと同じくらい、いつまでかが効く
期間の定めがあるのは、二つのうち取消訴訟です。
- 取消訴訟。処分があったことを知った日から6か月を経過したときは、提起することができないとされています(行政事件訴訟法14条1項)。処分の日から1年という定めもあります(同条2項)。いずれにも「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」とのただし書が置かれています。
- 審査請求をした場合の取消訴訟。処分につき審査請求をすることができる場合に審査請求があったときは、その審査請求をした者については、裁決があったことを知った日から6か月、又は裁決の日から1年という定めになります(同条3項)。この場合も、同じただし書が置かれています。
- 交付主体に撤回を求めること。期間の定めはありません。もっとも、撤回を求めている間は出訴期間の進行が止まるという定めも、行政事件訴訟法14条には置かれていません。撤回を求めながら、取消訴訟の期間を数えておくことになります。
数え始める日は、同じではありません。14条1項の6か月は処分があったことを知った日から、同条2項の1年は処分の日から、同条3項の6か月は裁決があったことを知った日から数えます。ですから、通知が現実に届いた日が分かる記録――封筒、郵便の記録、受領の記録、社内で開封した日の記録――を、先に残しておいてください。期間を数える前に、まず、その日を押さえることになります。
交付決定の取消しの通知を受け取った事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、通知が届いた日と、通知書に教示の記載があるかどうかをお確かめのうえ、お早めにご相談ください。宛先と期限は、お手元の通知書の記載から確かめることができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法25条(不服の申出。1項が、不服を申し出ることができる者として「不服のある地方公共団体(港湾法に基く港務局を含む。)」を挙げ、各省各庁の長に対して申し出ることができるとするもの。2項は意見を述べる機会の付与と必要な措置・通知、3項は内閣に対する意見の申出を定めます)
- 補助金適正化法17条1項(交付決定の取消し)、21条の2(理由の提示)、24条の2(行政手続法第2章・第3章の適用除外)
- 補助金適正化法23条1項(報告の徴収・立入検査・質問)、31条3号(報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者を三万円以下の罰金に処するもの)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条(補助金適正化法の準用。「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えるもので、25条1項の「地方公共団体」という主体は読み替えの対象になっていません)
- 行政事件訴訟法8条1項(処分の取消しの訴えは、審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げないとするもの。ただし書のいう審査請求に対する裁決を経るべき旨の定めは、補助金適正化法にも中小機構法にも置かれていません)
- 行政事件訴訟法14条1項・2項・3項(出訴期間。処分があったことを知った日から6か月、処分の日から1年。審査請求をした者については、裁決があったことを知った日から6か月、裁決の日から1年)
- 行政事件訴訟法46条1項(取消訴訟を提起することができる処分をする場合に、被告とすべき者と出訴期間を書面で教示する義務)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
関連ページ
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