執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 場面を三つに分ける――分かれ目は「払えるか払えないか」
「廃業したら、補助金はどうなるのか」というご質問は、実際には、場面の違う三つのことをまとめて指しています。会社は続けるけれども補助事業だけをやめる場合(A)、会社そのものをたたむ場合(B)、たたむにあたって債務を払えない場合(C)です。分かれ目は、払えるか払えないかです。要る手続も、お金の扱いも、この三つで変わります。
もう一つ、先に分けておくべきことがあります。補助金について「返す」と言われるものには、性質の違う二つがあるということです。一つは、交付決定が取り消された結果として返還を命じられるもの(返還。補助金適正化法18条1項)、もう一つは、財産処分の承認の条件(講学上の附款といいます)として納付を求められるもの(返納。同法22条)です。根拠になる条文も、争い方も違いますので、お手元の書面がどちらの話なのかを最初に確かめることになります(自主返納の求めのページで、両者の違いを述べています)。
| 場面 | 会社はどうなるか | 最初に問題になる手続 |
|---|---|---|
| A 補助事業だけをやめる | 会社は続く | やめる時期に応じた中止・廃止の承認申請又は届出。処分制限期間内の設備を処分するなら、別に財産処分の承認 |
| B 会社をたたむ(払える) | 解散して清算に入る | Aと同じ中止・廃止の承認申請又は届出。清算の手続(債権者への公告・各別の催告と、債務の弁済)。設備を売るなら、別に財産処分の承認 |
| C 払えない | 破産手続開始の決定により解散する | 破産手続。返還を命じられた補助金が、どの順位に置かれるのかが問題になる |
以下は、事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金のように、中小企業基盤整備機構が交付し、中小機構法16条により補助金適正化法が準用される補助金を念頭に置いた整理です。事務局が交付主体となる補助金については、後記4の末尾で触れます。交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程のものです。交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なりますので、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
2 A 会社は続けるが、補助事業だけをやめる
この場面で最初に押さえておきたいのは、法律が「廃止」を交付決定の取消事由として挙げていない、ということです。交付決定を取り消し、補助金の返還を求めることができる理由は、補助金適正化法17条1項所定の3つ――①補助金の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件(補助条件)への違反、③法令又はこれに基づく処分への違反――に限られています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』243〜245頁)。「廃止」は、この3つのいずれにも挙げられていません。
もっとも、義務違反とは別に、同法10条1項は、その後の事情の変更により特別の必要が生じたときに交付決定を取り消すことができると定めており、同条2項は、その場合を「天災地変その他補助金等の交付の決定後生じた事情の変更により補助事業等の全部又は一部を継続する必要がなくなつた場合その他政令で定める特に必要な場合」に限っています。小滝解説も、撤回の第一の場合が10条の事情変更による取消し、第二の場合が17条の義務違反による取消しであるとしています(同書242頁)。他方、同法10条1項ただし書は「補助事業等のうちすでに経過した期間に係る部分については、この限りでない」としていますので、すでに経過した期間について交付済みの補助金の返還を求める根拠にはならないと考えております。
法律は、廃止を、取消しではなく額の確定の手続に乗せています(同法15条)。
引用(補助金適正化法15条)「各省各庁の長は、補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合においては、報告書等の書類の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、その報告に係る補助事業等の成果が補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、当該補助事業者等に通知しなければならない。」
廃止に係る報告の成果が交付決定の内容・条件に適合しないと認めるときに用意されているのも、まずは是正のための措置をとるべきことの命令です(同法16条1項)。条文の建て付けからは、廃止したこと自体が当然に取消しに直結するとは読めないと考えております。
もっとも、手続が要らないという意味ではありません。同法7条1項4号は、交付決定に附する条件として「補助事業等を中止し、又は廃止する場合においては、各省各庁の長の承認を受けるべきこと」を掲げ、同項5号は「補助事業等が予定の期間内に完了しない場合又は補助事業等の遂行が困難となつた場合においては、すみやかに各省各庁の長に報告してその指示を受けるべきこと」を掲げています。やめる兆しが出た段階で報告することも、条件として予定されているということです。
手続は、やめる時期によって違います。補助事業の実施期間中(補助事業がまだ完了していない段階)の中止・廃止は、あらかじめ承認申請をする対象とされ(交付規程12条1項4号)、補助事業が完了した後の事業計画期間中に事業計画をやめる場合は、届出の対象とされています(同26条1項1号)。事業計画の全部の廃止に係る届出を行った場合は、その届出日に事業計画期間が終了したものとされ、以降の事業化状況報告は不要になります(同26条2項)。
もっとも、この承認・届出を踏まずにやめてしまうと、それ自体が、交付決定に附した条件への違反(前記②)として取消事由に当たると言われる余地が生じます。やめる時期による書き分けと、踏むべき順番は、Q&A「補助事業を途中でやめたい・縮小したいとき」で詳しく述べています。
実施期間中の廃止について、交付規程と手引きが示している扱い
もっとも、交付規程の側には、明文の定めが置かれています。交付規程22条1項は、「中小機構は、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請があった場合又は次の各号のいずれかに該当する場合には、第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる。」と定め、中止・廃止の申請があった場合を、各号とは別に掲げています。同条2項は、取消しをした場合に既に交付した補助金の返還を命ずるものとしています。
補助事業の実施期間中の廃止の申請については、事務局は、次のように説明しています。
引用(事業再構築補助金【補助事業の手引き】2.4版「イ 中止(廃止)の承認の申請」)「廃止申請は、承認と同時に、補助金交付決定が取り消されるため、原則、再度本事業への応募はできなくなります。」「また、概算払で補助金を受け取っている場合は、補助金の返還を求めます。」
つまり、法律の建て付けと、交付規程及び手引きが示す扱いは、同じではありません。もっとも、交付規程は中小機構が自ら定めた内部的な規範であり、交付決定の取消しの根拠法条は補助金適正化法17条1項であって交付規程ではないと考えております。交付規程22条1項各号の該当性を基礎づける事実と、同法17条1項所定の取消事由を基礎づける事実とは、異なります(この点は、コラム「取消しの処分性と理由付記の不備」で述べています)。これに対し、補助事業が完了した後の事業計画期間中の廃止については、手引きも取消しには触れておらず、届出と財産処分の手続を示すにとどめています。
引用(同手引き「補助事業完了後の事業計画期間における中止(廃止)の届出」の項)「廃止の届出の受付完了後、処分制限期間内の取得財産については、財産処分の承認手続きを行う必要がありますので、速やかに財産処分承認申請書を提出してください。」
設備の扱いは、やめる手続とは別に問題になります。処分制限期間内の処分については、あらかじめ財産処分の承認申請をすることとされ(交付規程24条3項)、事務局の運用では、承認と引き換えに、残存簿価相当額を基に計算した金額の納付を命じられます。もっとも、交付規程24条6項は、納付を「させることができる」と定めており、必ず納付させると定めているわけではありません。そして、事業をやめても設備やソフトウェアが手元に残っているのであれば、財産は何も「処分」されていません。廃棄が補助金適正化法22条の承認の対象に含まれるのかという論点を含め、この場面の詳しい整理は、前記のQ&Aと、廃棄処分・廃業のページで述べています。
もっとも、最高裁第三小法廷令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説は、22条に基づく承認の対象を、補助目的に沿って管理しなくなることと広く捉える整理を示しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。この整理を前提とすれば、廃棄も承認の対象に含まれると解する余地は否定し切れません。「当たらないと解する余地が十分にある一方、当たり得るとする解釈も否定し切れない」というのが、この論点の正確な現状です。
廃棄と「残存簿価相当額の納付」について。事業をやめるにあたって設備を廃棄しようとすると、中小機構や事務局からは、それが補助金の交付の目的に反する処分に当たるとして財産処分の承認申請を求められ、承認と引き換えに残存簿価相当額の納付を命じられる、という運用が行われています。
私は、この点を二段構えで考えております。まず、廃棄は、そもそも補助金適正化法22条の承認の対象ではないと考えております。取得財産等の廃棄処分は同条が規制する処分行為には当たらないとした裁判例もあります(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁。控訴審もこれを支持したと文献は注記しています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』298〜299頁注2、308頁注21)。控訴審判決は公刊物に見当たりません。)。そのうえで、仮に承認の対象であるとしても、当初の目的どおりに補助事業を一定の期間実施し、事業の継続が困難となってやむを得ず廃棄する場合に、承認の附款として残存簿価相当額の納付を命じることは、比例原則等に照らして許される限界を超え、裁量を逸脱した違法なものであると考えております。この附款の限界の点は、コラム処分制限期間中に補助金で取得した設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければならないのかで詳しく述べています。私自身、このような主張をして争っている事案を担当しております。
中小機構や事務局から、廃棄について財産処分の承認申請を求められている方、残存簿価相当額の納付を求められている方は、申請や納付をされる前にご相談ください。
3 B 会社をたたむ――解散して清算する
債務を払える見込みがある場合は、解散して清算する手続によることになります。この場面について、先に申し上げておきたいことがあります。補助金の側の定め、すなわち交付規程・公募要領・手引きには、解散・清算についての定めが置かれていません。手元にある交付規程・公募要領・手引きを通して確かめた限り、「解散」「清算」という語は、いずれにも出てきませんでした。もっとも、会社をたためば補助事業も終わりますので、前記Aの手続(やめる時期に応じた中止・廃止の承認申請又は届出)は、Bの場面でも重なって要ることになります。以下は、会社法の手続の説明です。
株式会社は、解散により清算に入り、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなされます(会社法476条)。そして、清算人の職務として、債務の弁済が明文で挙げられています。
引用(会社法481条)「清算人は、次に掲げる職務を行う。一 現務の結了 二 債権の取立て及び債務の弁済 三 残余財産の分配」
返還を命じられている場合、その返還の債務も、清算人が弁済すべき債務の一つとして扱われることになると考えております。財産処分の承認の条件として既に納付の義務が生じている場合(前記1の「返納」)も、同じです。もっとも、承認申請をしていない段階では、その納付の義務はまだ生じていません。この点は、自主返納の求めのページで述べています。
手続の上では、交付主体は債権者の一人として扱われることになります。清算株式会社は、債権者に対し、一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならないとされています(同法499条1項。その期間は、二箇月を下ることができません)。返還命令や納付通知を受け取っている場合、交付主体は、この「知れている債権者」に当たることになると考えております。この期間内は、原則として債務の弁済をすることができず(同法500条1項)、債務を弁済した後でなければ、財産を株主に分配することができないとされています(同法502条本文)。
合同会社(持分会社)の清算は、株式会社とは別の条文によります。清算人の職務(同法649条)、債権者に対する公告と各別の催告(同法660条1項)、期間内の弁済の制限(同法661条1項)、債務の弁済前における残余財産の分配の制限(同法664条本文)が、それぞれ対応する定めです。内容は株式会社の場合と並んでいますが、条数が違いますので、お調べになるときはご注意ください。
設備を売って清算の原資にする場合は、清算の手続とは別に、財産処分の承認の問題が残ります。処分制限期間の内側で、補助金の交付の目的に反して譲渡するのであれば、あらかじめ承認を受けることとされています(補助金適正化法22条、交付規程24条3項。同24条1項は「処分」を「補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等」と定義しています)。もっとも、譲り受けた者が補助事業を続け、財産が引き続き補助目的に沿って使われるのであれば、適正化法22条が禁じる「交付の目的に反して」する譲渡には当たらないと考えております(事業譲渡による解決のページで述べています)。これに対し、廃棄については、前記2で述べたとおり、そもそも同法22条の承認の対象に含まれるのかという論点があります。詳しくは、前記の廃棄処分・廃業のページをご覧ください。
そして、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならないとされています(会社法484条1項)。ここが、BとCの分かれ目です。
4 C 払えない――破産手続での返還金の位置づけ
まず、どの債務の話なのかを限ります
以下は、交付決定の取消し(補助金適正化法17条1項)に伴って返還を命じられた補助金(同法18条1項)についての話です。財産処分の承認の条件(附款)に基づく納付は、含みません。調査官解説は、この納付について、加算金・延滞金が付されず、強制徴収の対象ともならないものとして整理しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)80〜81頁)。後記の21条が対象としているのは「返還を命じた補助金等」ですので、同じには扱えないと考えております。
21条が定めているのは、税金に準じた順位です
出発点は、徴収についての補助金適正化法21条です。
引用(補助金適正化法21条1項)「各省各庁の長が返還を命じた補助金等又はこれに係る加算金若しくは延滞金は、国税滞納処分の例により、徴収することができる。」
引用(同条2項)「前項の補助金等又は加算金若しくは延滞金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。」
「国税滞納処分の例により」とは、国税を滞納した場合に国がとる手続と同じ方法によるという意味です(この語の説明は、前記のQ&A「加算金・延滞金は払うのか」でも述べています)。そして2項は、先取特権の順位を、国税及び地方税に次ぐものと定めています。税金そのものではないけれども、税金に準じた順位が定められている、ということです。この定めは、中小機構法16条の準用によって、中小機構が交付する補助金にも及びます。同条は、補助金適正化法中の「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えていますので、21条1項の主体は機構の理事長となります。他方、「国」を機構と読み替える対象として挙げられているのは補助金適正化法2条1項・4項、7条2項、19条1項・2項、24条、33条であり、21条は挙げられていませんので、同法21条2項の「国税及び地方税」は、そのまま国税及び地方税を指すことになります。
旧破産法の下では、財団債権として扱われるとされていました
破産手続での扱いについては、裁判例があります。名古屋高判平成5年2月23日訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁は、次のように判示しています。
引用(名古屋高判平成5年2月23日)「適正化法二一条一項にいう「国税滞納処分の例により徴収することができる債権」は、破産法四七条二号本文に規定する右請求権に該当するものと解すべきであって、本件のような補助金等交付決定が取り消された後の返還命令を根拠とする請求権を含めて、国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる公租公課等の請求権は、すべて破産法上の財団債権として扱われることとされているものと解される。」
同判決の判示事項は、取消し後の返還命令に基づく補助金等返還請求権が、破産者の破産宣告前の原因に基づいて生じた財団債権であるとされた事例とされています。同事件で審理されたのは、まさにこの点、すなわち取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではありません。もっとも、この判決については上告がされており、上告審の裁判は公刊物に見当たりません。また、同判決が前提としているのは旧破産法47条2号本文です。同判決は、同号ただし書の反対解釈として、同号本文にいう財団債権であるというためには破産宣告前の原因に基づいて生じた債権であることが当然の前提要件とされていると述べており、この要件を満たす限り、納期限がいつであるかを問わず財団債権とされていました。現行の破産法は、後記のとおり、この納期限の点を改めています。
文献も、同じ当てはめを示しています。
引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』281頁)「なお、破産法(大正一一年法律第七一号)第四七条第二号本文は、「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ベキ請求権」はこれを財団債権とする旨規定しているが、補助金等返還請求権及び加算金、延滞金債権は本条第一項において「国税滞納処分の例により、徴収することができる」債権とされているから、右破産法上の財団債権として取り扱われうることとなる。」
条文の文言が「国税徴収の例」ではなく「国税滞納処分の例」になっている理由については、沿革の説明があります。
引用(同書281頁注3)「本法制定当初、本条は「国税徴収の例により徴収することができる」と規定されていたが、国税徴収法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(昭和三四年法律第一四八号)により、現行の「国税滞納処分の例により」に改められた。」
制定当初の文言が「国税徴収の例により」であったものが、国税徴収法の施行に伴う法律の整備によって、現行の「国税滞納処分の例により」に改められたということです。
現行の破産法の下での当てはめ(当職の整理)
現行の破産法は、「租税等の請求権」を次のように定義しています。
引用(破産法97条4号)「四 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの」
そして、財団債権となるのは、破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権のうち、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年を経過していないものに限られます(同法148条1項3号)。旧破産法の下では、破産宣告前の原因に基づいて生じたものであれば、納期限がいつであるかを問わず財団債権とされていましたが、現行法は、納期限による限りを設けています。
適正化法21条1項の文言は「国税滞納処分の例により」であって、破産法97条4号の「国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」とは一致していません。もっとも、前記の沿革に照らすと、この文言の違いは、実質的な区別を意図したものではないと考えております。旧破産法の下では、同じ文言の違いを前提にしながら、21条1項の債権が同号本文の請求権に当たるとされていたところでもあります。
そのうえで、正直に申し上げておかなければならないことがあります。現行の破産法の下で、適正化法21条1項の債権が破産法97条4号の「租税等の請求権」に当たるかを正面から判断した裁判例・文献は、手元では見当たりません。したがって、ここから先の分類は、当職の整理にとどまります。とくに、納期限から一年を経過した後の扱いは、適正化法21条2項の先取特権が破産法98条1項の「一般の先取特権その他一般の優先権」に当たるかという別の問題を含みます。同項の文言は「一般の」であり、適正化法21条2項はそのようには書いていません。この点を述べた裁判例・文献も、手元では見当たりません。
交付規程の側に置かれている定め
破産について交付規程が定めているのは、あらかじめ承認を受けるべき事項として「破産手続き、民事再生手続き等法的整理の手続きを行うとき(代理人による申請を含む。)。」を挙げた一か条です(交付規程12条1項7号)。手引きも、「やむを得ない理由により、破産手続き、民事再生手続き等法的整理をする場合は、速やかに、事業再構築補助金事務局ポータルサイトに記載のお問い合わせ先へご連絡ください。」とするにとどめています。手続の進め方について、これ以上の定めは置かれていません。
事務局が交付主体となる補助金の場合
IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)、小規模事業者持続化補助金のように、事務局が交付主体となる補助金は、事務局との負担付贈与契約と解されます。前記の補助金適正化法21条1項が対象としているのは「各省各庁の長が返還を命じた補助金等」ですので、事務局との契約に基づいて返還を求められている債権には、同条の徴収や先取特権の定めがそのまま及ぶわけではありません。この類型で返還を求められている債権は、契約に基づく債権として扱われることになると考えております。もっとも、国の補助金を財源として国以外の者が交付する給付金が同法の「間接補助金等」に当たり、間接補助事業者等についての定め(同法11条2項、23条1項)が及ぶことは、別の問題です(この類型の構造は、事務局が交付する補助金のページで述べています)。
もっとも、負担が軽いという意味ではありません。廃業・倒産等により補助事業を取りやめた場合に、交付規程に基づく全額又は一部の返還が生じることがあり、返還が必要となる場合には加算金の納付も求められるとしている補助金もあります。他方、取消しの事由によっては返還の対象から除かれている定めもありますので、条項は、お手元の交付規程・公募要領でご確認ください。
次のような場合は、手続をお進めになる前にご相談ください
- 補助事業を続けられず、廃業・解散や破産を検討している
- 返還命令や納付通知が届いているが、支払える見込みが立たない
- 会社をたたむにあたって、補助金で取得した設備をどうするか決めていない
- 設備の廃棄について承認申請や残存簿価相当額の納付を求められている
5 法人格と、代表者個人の債務
破産手続開始の決定により、会社は解散します(会社法471条5号。持分会社は同法641条6号)。もっとも、破産手続が終了していない間は、会社法上の清算の開始原因から除かれています(同法475条1号括弧書き。持分会社は同法644条1号括弧書き)。破産手続の中で財産の換価と配当が行われるため、会社法の清算を重ねて行うことにはならない、という建て付けです。そして、破産法35条は、破産手続開始の決定によって解散した法人(及び解散した法人で破産手続開始の決定を受けたもの)について、「破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなす」と定めています。破産手続が終了すれば、この存続の擬制も終わりますので、法人は、原則として、法人格を失うことになると考えております。
ここで大切なのは、法人の債務と、代表者個人の債務が別のものであるということです。法人が受けた返還命令の債務を負うのは法人であり、出資者の責任も、株式会社では「株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。」とされ(会社法104条)、合同会社では、定款に社員の全部を有限責任社員とする旨を記載すべきものとされたうえで(同法576条4項)、有限責任社員は「その出資の価額(既に持分会社に対し履行した出資の価額を除く。)を限度として、持分会社の債務を弁済する責任を負う。」とされています(同法580条2項)。代表者個人は、法人が受けた返還命令の債務の債務者ではありませんので、これを代表者個人が当然に負うものではないと考えております。
もっとも、代表者個人が連帯保証をしている場合や、不正な行為があったと主張される場合など、個別の事情によって代表者個人の責任が問われる場面は、別にあります。この点は、個別の事情を確かめる必要がありますので、このページでは立ち入りません。
6 「やむを得ない事情があれば免除される」という話の正確なところ
「やむを得ず廃業したのだから、返還を免除してもらえないか」というご相談をいただくことがあります。条文の定め方は、少し違います。
返還の命令そのものについて、期限の延長や命令の取消しができるとされているのは、次の場合です。
引用(補助金適正化法18条3項)「各省各庁の長は、第一項の返還の命令に係る補助金等の交付の決定の取消が前条第二項の規定によるものである場合において、やむを得ない事情があると認めるときは、政令で定めるところにより、返還の期限を延長し、又は返還の命令の全部若しくは一部を取り消すことができる。」
「前条第二項の規定によるもの」とは、間接補助事業者等の法令違反による取消し(同法17条2項)のことです。17条1項による取消しに伴う返還の命令には、この定めは及びません。
「やむを得ない事情」による免除が定められているのは、加算金・延滞金の方です。
引用(同法19条3項)「各省各庁の長は、前二項の場合において、やむを得ない事情があると認めるときは、政令で定めるところにより、加算金又は延滞金の全部又は一部を免除することができる。」
免除は、補助事業者等の申請により行うものとされています(同法施行令12条により準用される同令9条1項)。詳しくは、前記のQ&A「加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
このほか、交付規程は、補助事業の中止・廃止の申請を承認した場合などを加算金の対象から除いており(交付規程22条3項)、収益納付については、事業化状況・知的財産権報告書の決算が赤字の場合は納付を免除するものとしています(同27条1項ただし書)。
整理すると、「やむを得ず廃業した」ことを理由に返還そのものを免除する定めは、置かれていないことになります。条文に受け皿があるのは、(1)そもそも取消しや納付の前提があるのかを争う筋と、(2)加算金・延滞金の免除を申請する筋の2つであると考えております。
7 最初に確かめること
- 届いた書面が、交付決定の取消しに伴う返還の命令(補助金適正化法18条1項)なのか、財産処分の承認に伴う納付の求めなのか。根拠になる条文も、争い方も、破産手続での扱いも違います。
- いまどの場面にいるのか。会社は続けるのか(A)、たたむのか(B・C)、たたむとして債務を払えるのか(B)、払えないのか(C)。
- 補助金で取得した設備・ソフトウェアが、いま手元にあるのか。既に売ったのか、捨てたのか。手元に残っているのであれば、財産の「処分」はまだ起きていません。
- 処分制限期間が経過しているかどうか。交付の目的及び財産の耐用年数を勘案して定める期間を経過した場合は、補助金適正化法22条の承認を要しません(同法施行令14条1項2号)。期間の数え方は、コラム処分制限期間は何年かで述べています。
- 清算の手続に入っている場合、財産が債務を完済するのに足りるのか。足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならないとされています(会社法484条1項)。
- 代表者個人が連帯保証をしているかどうか。法人の債務と代表者個人の債務は別のものですが、保証をしている場合は別に検討することになります。
- 取消通知・返還命令の日付。古い補助金について返還を求められている場合は、返還請求権そのものの消滅時効も問題になります(前記のQ&A「返還請求に時効はあるのか」)。
廃業・解散・破産のいずれの場面でも、順位や手続の話より先に、返還や納付を求める根拠そのものがあるのかという問題が残ります。設備を動かされる前、届出や承認申請を出される前の段階でご検討されることをお勧めします。
補助事業を続けられず、廃業・解散や破産をお考えの事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、設備を動かされる前、届出や承認申請を出される前にご相談ください。交付決定通知書、届いている取消通知・返還命令・納付通知、取得財産等管理台帳(様式第7)があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法21条1項(各省各庁の長が返還を命じた補助金等又はこれに係る加算金若しくは延滞金は、国税滞納処分の例により、徴収することができる)・2項(先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐ)
- 補助金適正化法7条1項4号・5号、10条1項・2項(事情変更による決定の取消等。1項ただし書により、すでに経過した期間に係る部分は除かれます)、15条(完了又は廃止に係る成果の報告を受けた場合の額の確定)、16条1項(是正のための措置の命令)、17条1項・2項、18条1項・3項、19条3項、22条(「廃止」「廃棄」は、17条1項の取消事由にも22条の列挙にも挙げられていません。22条が承認を要するとしているのは「交付の目的に反して」する使用・譲渡・交換・貸付け・担保供与です)、11条2項・23条1項(間接補助事業者等についての定め)
- 補助金適正化法施行令12条により準用される同令9条1項(加算金又は延滞金の免除は、補助事業者等の申請により行うものとされています)
- 補助金適正化法施行令14条1項2号(補助金等の交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して定める期間を経過した場合は、同法22条の承認を要しないこと)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号及び2項3号、16条(これらの規定により機構が交付する助成金について、補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用するもの。「各省各庁の長」は機構の理事長と読み替えられ(この読替えは同法中の規定に及びます)、「国」を機構と読み替える対象として挙げられているのは補助金適正化法2条1項・4項、7条2項、19条1項・2項、24条、33条であり、21条は挙げられていません)
- 会社法471条5号、475条1号、476条、481条、484条1項、499条1項、500条1項、502条本文(株式会社の解散と清算)、104条(株主の責任)、429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任。このページでは立ち入らない旨を述べるために挙げています)
- 会社法641条6号、644条1号、649条、660条1項、661条1項、664条本文、576条4項、580条2項(持分会社。合同会社の清算と社員の責任。株式会社とは条数が異なります)
- 破産法97条4号(「租税等の請求権」の定義。「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」)、148条1項3号(財団債権となるのは、破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権のうち、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年を経過していないものに限られます)、98条1項(優先的破産債権。「一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権」)、35条(法人の存続の擬制。破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなす)
- 名古屋高判平成5年2月23日訟月39巻11号2247頁、判タ859号260頁(適正化法21条1項にいう「国税滞納処分の例により徴収することができる債権」は旧破産法47条2号本文に規定する請求権に該当するとしたもの。上告がされているが上告審の裁判は公刊物に見当たらない。審理されたのは取消し後の補助金返還請求権が破産手続上の財団債権に当たるかどうかであり、取消処分の適法性が訴訟物とされた事件ではない。第一審=名古屋地判平成4年4月23日訟月39巻11号2262頁、判タ799号243頁)
- 東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁(取得財産等の廃棄処分は補助金適正化法22条が規制する処分行為に当たらないとしたもの。控訴審も支持したと文献は注記(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』298〜299頁注2、308頁注21)。控訴審判決は公刊物に見当たらない)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』281頁(旧破産法47条2号本文との関係)、同頁注3(制定当初の「国税徴収の例により」が昭和34年法律第148号により「国税滞納処分の例により」に改められた沿革)、242頁(撤回の第一の場合が10条の事情変更による取消し、第二の場合が17条の義務違反による取消しであること)、243〜245頁(取消事由の3類型)(株式会社全国会計職員協会、2016)
- 荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)80〜81頁(財産処分の承認の附款による納付は、加算金・延滞金が付されず、強制徴収の対象ともならないこと)
- 最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁、荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁(補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は承認を要するとの整理)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程12条1項4号・7号(中止・廃止、破産手続き・民事再生手続き等法的整理の手続きは、あらかじめ承認を受けるべき事項)、22条1項・2項(中止・廃止の申請があった場合を各号とは別に掲げた取消しと、取消しに伴う返還命令)、22条3項(中止・廃止の申請を承認した場合などは加算金の対象から除かれること)、24条1項(「処分」=「補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等」)・3項・6項、26条1項1号・2項、27条1項ただし書(報告書の決算が赤字の場合の収益納付の免除)
- 中小企業等事業再構築促進補助金【補助事業の手引き】2.4版(第1回~第5回補助金交付候補者・補助事業者向け・令和7年10月。事業再構築補助金事務局)「イ 中止(廃止)の承認の申請」(廃止申請は承認と同時に交付決定が取り消されること)、「補助事業完了後の事業計画期間における中止(廃止)の届出(交付規程第26条)」の項(届出の受付完了後に財産処分の承認手続を行う必要があること)、「エ 破産手続き、民事再生手続き等法的整理の手続き」(速やかに連絡することを求めるもの)。手引きは必要に応じて改訂されるとされており、公募回によって版が異なります
- IT導入補助金「後年手続きの手引き」(サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局・令和8年4月7日改訂)「後年手続きについて」(「廃業・倒産・事業廃止・事業譲渡・吸収合併等により、補助事業を取りやめた場合」に辞退届の提出を求め、令和4年度第二次補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程27条・28条・31条に基づき「交付された補助金の全額返還あるいは一部返還が発生することがあります」、27条に基づいて返還が必要となる場合は同29条に基づき加算金の納付が必要になるとするもの)
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程(2026。上記の手引きが引く交付規程とは別の版です)27条1項・28条1項・29条(28条1項の返還の対象は27条1項一号から四号及び八号から十号に限られ、五号「事務局の承認を受けず補助事業を廃止した場合」・六号「補助事業を遂行する見込みがなくなった場合」は除かれています。29条の加算金も、27条1項九号(交付決定後生じた事情の変更等により継続する必要がなくなった場合)による取消しの場合は除かれています)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。