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弁護士 岸上大起

補助金の返還命令を放っておくとどうなるのか――裁判なしの差押えと、払えないときの考え方

このページの結論

補助金の返還命令が届きましたが、手元に資金がありません。このまま払わずにいると、どうなるのでしょうか。訴えられてからでよいのでしょうか。

補助金適正化法は、返還を命じた補助金等及びこれに係る加算金・延滞金について、国税滞納処分の例により徴収することができると定めています(21条1項)。徴収する側は、判決を得ることなく財産を差し押さえることができ、その先取特権の順位は国税及び地方税に次ぐものとされています(同条2項)。訴えられてから考えるという前提は、この仕組みでは成り立ちません。

もっとも、放っておくことの不利益と、返還命令そのものに理由があるのかという問題は別です。不服の申立てと取消訴訟の期間は、納付の交渉をしている間も進みます。返還命令は取り消されない限り効力があるものとして扱われますので(いわゆる公定力)、分割納付の取決めや残額の確認書に署名する前に、処分そのものを争うかどうかを決めておくことになります。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 返還命令は、訴訟を経ずに差押えまで進める仕組みです

お金を払えという書面が届いても、民事の取引であれば、相手方は訴えを起こし、勝訴判決を得なければ差押えに進むことができません。補助金の返還命令は、ここが違います。補助金適正化法は、返還を命じた補助金等について、国税滞納処分の例による徴収ができると定めています。

引用(補助金適正化法21条1項)「各省各庁の長が返還を命じた補助金等又はこれに係る加算金若しくは延滞金は、国税滞納処分の例により、徴収することができる。」

「国税滞納処分の例により」とは、国税を滞納した場合に国がとる手続と同じ方法によるという意味です。徴収する側は、裁判所の判決を得ることなく、自ら財産を調査し、差押えをすることができます。対象として並んでいるのは、返還を命じた補助金等そのものだけではありません。これに係る加算金と延滞金も、同じ方法で徴収することができるとされています。

さらに、2項が先取特権の順位を定めています。

引用(同条2項)「前項の補助金等又は加算金若しくは延滞金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。」

税金そのものではないけれども、税金に準じた順位が与えられている、ということです。ほかに債権者がいる場面では、この順位が効いてきます。

2 どの補助金に及ぶのか――準用の形で決まります

21条は、補助金適正化法が適用され、又は準用される補助金について働きます。手元の補助金にこの条文が及ぶのかどうかは、感覚ではなく、根拠法の準用の規定を見て決めることになります。

中小機構が交付する補助金

事業再構築補助金、新事業進出補助金、中小企業省力化投資補助金は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が交付する助成金で、独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号に基づく業務として交付されています。同法16条は、補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用するものとしています。条文を選んでいませんので、交付の決定、取消し、返還命令、立入検査、罰則と並んで、21条の徴収の定めも準用の対象に入ります。同条により、補助金適正化法中の「各省各庁の長」は「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えられますので、21条1項の主体は機構の理事長となります。

他方、「国」を機構と読み替える対象として同条が挙げているのは補助金適正化法2条1項・4項、7条2項、19条1項・2項、24条、33条であり、21条は挙げられていません。そのため、21条2項の「国税及び地方税」は、そのまま国税及び地方税を指すことになります。

事務局が交付主体となる補助金

これに対し、デジタル化・AI導入補助金(従来のIT導入補助金)、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、小規模事業者持続化補助金のように、事務局が交付主体となる補助金は、補助金適正化法が適用・準用される類型ではありません。21条の徴収の定めがそのまま及ぶわけではなく、返還を求める側に強制徴収の権限があるかどうかは、その補助金の根拠となる定めによります。どちらの類型に当たるかは、交付決定通知書の主語が「中小機構は」か「事務局は」かが最初の見分け方になります。この類型の返還請求については、IT導入補助金の返還請求のページでも述べています。

準用の形が結論を分けるという点は、科学研究費補助金について判断した裁判例の読み方にも関わります。この点は後記4で述べます。

3 放っておくと何が増えるのか――期限と、率と、充当の順序

返還命令には期限が付きます。補助金適正化法は、交付決定を取り消した場合において既に補助金等が交付されているときは、期限を定めてその返還を命じなければならないと定めています(同法18条1項)。その期限が何日なのかは、交付規程に書かれています。以下に引くのは、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程の条文です。交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なり、版によって条数と文言が違い得ますので、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でお確かめください。

引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程18条3項)「前項の補助金の返還期限は、当該命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない場合は、未納に係る金額に対して、その未納に係る期間に応じて年利10.95パーセントの割合で計算した延滞金を徴するものとする。」

命令の日から20日以内です。届いた書面を置いたまま考えている間に、期限が過ぎることがあります。そして、同交付規程22条4項は、取消しに伴う返還についてこの18条3項を準用しています。同条3項は、返還を命ずる場合には、一定の場合を除き、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとしています。加算金は返還命令の日からではなく、補助金を受け取った日から数えます。交付から年数が経っている事案では、加算金の額が元本に近づくことがあります。

法律の側も同じ組み立てで、同法19条1項が加算金、同条2項が延滞金を定めています。率も起算点も、交付規程と法律の両方を見て確かめることになります。

一部だけ払ったときに、どこから減るのか

手元の資金で払える分だけ先に入れる、という対応をお考えになることがあります。このとき、入れたお金がどこに充てられるのかは、政令に定めがあります。

引用(補助金適正化法施行令10条)「補助金等が二回以上に分けて交付されている場合における法第十九条第一項の規定の適用については、返還を命ぜられた額に相当する補助金等は、最後の受領の日に受領したものとし、当該返還を命ぜられた額がその日に受領した額をこえるときは、当該返還を命ぜられた額に達するまで順次さかのぼりそれぞれの受領の日において受領したものとする。
2 法第十九条第一項の規定により加算金を納付しなければならない場合において、補助事業者等の納付した金額が返還を命ぜられた補助金等の額に達するまでは、その納付金額は、まず当該返還を命ぜられた補助金等の額に充てられたものとする。」

1項は、加算金の起算点の数え方です。補助金が二回以上に分けて交付されていた場合、返還を命ぜられた額は最後の受領の日に受け取ったものとして扱い、それを超える分は、額に達するまで順次さかのぼってそれぞれの受領の日に受け取ったものとして計算します。先に受け取った分から数えるのではなく、後に受け取った分から数える、ということです。加算金は、この数え方で定まった受領の日から納付の日までの期間に応じて計算されますので、どの入金がいつあったのかを示す記録は、額を検算するための資料になります。

2項は、一部を納付したときの充当の順序です。納付した金額は、返還を命ぜられた補助金等の額に達するまでは、まず元本に充てられたものとされます。加算金に先に充てられるのではありません。そして、延滞金については、施行令11条が、未納付額の一部が納付されたときは、納付の日の翌日以後の期間に係る延滞金の計算の基礎となるべき未納付額は、その納付金額を控除した額によるものとすると定めています。一部を入れた分だけ、その後の延滞金の計算の基礎が減るということです。

もっとも、加算金・延滞金には、やむを得ない事情があると認めるときに全部又は一部を免除する定めが置かれています(同法19条3項)。免除の求め方と、免除の対象が加算金・延滞金に限られることは、前記のQ&A「加算金・延滞金は払うのか」で述べています。

次のような場合は、お返事をされる前にご相談ください

  • 返還命令の書面が届き、期限が過ぎている、又は期限が迫っている
  • 分割での納付や、納付の猶予を打診されている
  • 財産の調査に関する照会や、差押えの予告を受けている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 加算金・延滞金は払うのか(Q&A)/補助金の納付命令とは何か(コラム)

4 民事訴訟で請求されることもあります――東京地判令和6年3月22日

強制徴収の定めがあるのだから、徴収する側は民事訴訟を使えないのではないか、という見方があり得ます。この点を正面から判断した裁判例があります。東京地判令和6年3月22日(令和3年(行ウ)第275号。LLI/DB判例秘書登載)です。独立行政法人日本学術振興会が、科学研究費補助金の交付の一部を取り消し、返還を命じたうえで、残額と加算金の支払を求めて給付の訴えを提起した事案です。

裁判所は、まず一般論を示しました。

引用(同判決。同判決は補助金適正化法を「適化法」と略しています)「法が特別の手続を設けていても、特にその手続によってのみ排他的に権利の実現を図る趣旨であると認められない場合には、通常の手続を利用して権利の実現を図ることは妨げられない」

この一般論の典拠として、同判決は最高裁昭和38年(オ)第797号同41年2月23日大法廷判決・民集20巻2号320頁、最高裁昭和53年(オ)第436号同年12月21日第一小法廷判決・民集32巻9号1749頁、最高裁平成13年(行ヒ)第25号同17年4月14日第一小法廷判決・民集59巻3号491頁、最高裁平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小法廷判決・民集74巻3号646頁を挙げています。

そのうえで、同判決は、21条1項の趣旨を、補助目的を達しない補助金等を迅速かつ的確に回収し、その資金の効率性を確保するという行政目的を実現するため、債務が履行されない場合には最終的に債権者が自らこれを執行し得ることとしたものと解しました。そして、科学研究費補助金の交付の取消し及び返還については、その範囲を確定するための手続が法律上存在せず、不正使用等の事実の存否やその範囲に争いがある場合が少なくないため、民事訴訟手続において既判力をもってこれを確定し、一回的に解決する必要性が相当程度あると述べて、次のように結論づけています。

引用(同判決)「振興会法17条が適化法21条1項を準用し、上記各金員について国税滞納処分の例により徴収することができるとしたことにつき、一定の公益性が認められるものの、民事訴訟手続によることを排除すべきほどの公益性があるとまでは認められない。」

強制徴収の定めがあることは、民事訴訟による請求を直ちに封じるものではない、ということです。返還を求める側には、国税滞納処分の例による徴収と、給付の訴えという二つの道があり得ることになります。

ただし、この判決をそのまま他の補助金に持ち込むことはできないと考えております。同判決が民事訴訟を許す理由として挙げたのは、独立行政法人日本学術振興会法17条が補助金適正化法5条から9条までを準用しておらず、交付の仕組みが同会の取扱要領に置かれていること、同条1項が同法23条(立入検査等)及び25条(不服の申出)を準用していないこと、取消し及び返還の範囲を確定するための手続が存在しないこと、でした。前記2で見たとおり、中小企業基盤整備機構法16条は条文を選ばずに準用していますので、準用の形が違います。同じ結論になるとは限りません。なお、同判決の上訴審の帰趨は確認できておりませんので、確定した判断として扱うものではありません。

準用の形の違いが処分の性質の議論にどう効くのかという点は、コラム「独立行政法人や事務局から交付された補助金の取消し・返還は、取消訴訟で争えないのか」で、同じ振興会の事案の別の判決を取り上げて述べています。

5 自治体の補助金は、強制徴収の根拠があるかを確かめる

都道府県・市区町村の補助金について返還を求められている場合は、別に確かめることがあります。普通地方公共団体による補助金の交付には、補助金適正化法の適用がありません。そのため、21条1項の強制徴収の定めも、そのまま働きません。地方公共団体が自ら差押えまで進めることができるのは、地方自治法が定める場合です。

引用(地方自治法231条の3第3項前段)「普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入(以下この項及び次条第一項において「分担金等」という。)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該分担金等並びに当該分担金等に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。」

挙げられているのは、分担金、加入金、過料と、法律で定める使用料その他の歳入です。補助金の返還金について、地方税の滞納処分の例によることを定めた法律の規定があるかどうかを、確かめることになります。同項が強制徴収の対象を法律で定めるものに限っている建て方からすると、根拠となる法律の定めが見当たらない場合には、自治体の側が自ら差押えに進むことはできず、返還を求めるには民事訴訟(給付の訴え)によることになると考える余地があります。私見としては、督促状が届いただけで差押えが続くものと受け取る必要はなく、まず根拠の条文を確かめていただくのがよいと考えております。

なお、国の補助金を財源として都道府県が交付する補助金のように、間に自治体が入る形のものでは、適用関係が一段複雑になります。交付決定通知書と、その根拠として挙げられている条例・規則・要綱・交付要領を一式そろえていただくと、どちらの筋道で検討することになるのかが見えます。

6 払えないとき、どう動くか

最後に、順序を申し上げます。

  • 届いた書面がどちらなのかを分ける。取消しに伴う返還の命令なのか、財産処分の承認に伴う納付の求めなのかで、加算金が付くかどうかと、強制徴収の対象になるかどうかが変わります。この区別は、前記のQ&A「加算金・延滞金は払うのか」と、コラム「補助金の納付命令とは何か」で述べています。
  • 争う期間が走っていることを確かめる。不服の申立ての宛先と期間は、Q&A「取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で、取消訴訟の出訴期間は、Q&A「出訴期間が過ぎてしまったら、もう争えないのか」で述べています。納付の交渉をしている間も、この期間は進みます。
  • 分割の打診に乗る前に、処分そのものを争うかどうかを決める。返還命令は、取り消されない限り、その効力があるものとして扱われます(いわゆる公定力)。そうすると、取り消してもらうか、相手方に撤回してもらうかのいずれかでなければ、返還義務の存在そのものは覆りません。分割納付の取決めや残額の確認書に署名することが、争う途にどのような影響を与えるのかは、その書面の文言によります。債務の存在を認める文言が入っていれば、後に処分の違法を主張する場面で不利に働く余地があります。署名を求められたら、文言をお持ちになってご相談ください。
  • 資料をそろえる。交付決定通知書、交付規程(版の分かるもの)、取消しの通知、返還命令の書面、督促状、補助金の入金が分かる記録です。入金の記録は、前記3の施行令10条1項の数え方で加算金の起算点を特定し、額を検算するために使います。
  • 事業を続けられない見込みがあるときは、手続の選択も併せて検討する。破産手続の中でこの債権がどう扱われるのかは、前記のQ&A「廃業・破産をしたら、補助金の返還はどうなるのか」で述べています。

申し上げたいことは一つです。放っておくと、期限が過ぎ、延滞金が重なり、訴訟を経ずに差押えまで進み得る仕組みです。他方で、返還命令そのものに理由があるのかという問題は、額の交渉とは別に残っています。取消事由に当たる事実があるのかという入口は、交付決定の取消し・返還請求のページで、返還を求められたときの対応の順序は、返還・残存簿価の返納を求められたらのページで述べています。額の計算は、コラム「補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢」にあります。

返還命令の書面が届いて期限が迫っている方、分割での納付や残額の確認書に署名を求められている方、財産の調査に関する照会や差押えの予告を受けている方は、お返事をされる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、取消しの通知、返還命令の書面、督促状、補助金の入金が分かる記録があれば、額の検算と、処分そのものを争うかどうかの検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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