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弁護士 岸上大起

助成金の不正受給で、社会保険労務士や従業員のしたことはどう扱われるのか――みなし規定と連帯返還

このページの結論

雇用調整助成金の申請を社会保険労務士に任せていたところ、労働局から不正受給と告げられ、返還と延滞金・二割相当額の納付を求められました。会社は書類を見ていません。社会保険労務士や、実務を担当していた従業員のしたことは、どう扱われるのでしょうか。

共通要領(通達)は、役員・従業員・代理人など申請書類の作成に関わった者が偽りその他不正の行為をした場合には事業主が不正の行為をしたものと「みなす」と定めています。他方、雇用保険法施行規則140条の3は、事業主への返還命令(1項)と、偽りの届出・報告・証明等をした代理人等への連帯の納付命令(2項)を分けて置き、行為をした人ごとに責任を置く建て方です。関与した社会保険労務士・代理人は、事業主と連帯して請求金を支払う義務を負い、5年間は申請が受理されず、氏名・事務所名等が公表されます。

連帯債務ですので労働局はどちらにも全額を請求できますが、負担部分に応じた求償(民法442条)が残り、従業員の行為については事業主から従業員への損害賠償が認められた例があります(大阪地判令和7年8月22日)。「関与」は故意に偽りの届出等を行うことであり、渡された資料のとおりに作成しただけでは当たりません。省令が連帯の納付命令と公表の相手方として挙げるのは「手続を代理して行う者」であり、社会保険労務士の提出代行がこれに当たるかは争う余地があります。事業主と支援者の利益は対立しますので、調査で署名する議事録・申立書は内容を確かめてからにしてください。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 問いは二つに分かれます――「会社がしたものとみなす」と「関与した人が連帯して払う」

雇用調整助成金やキャリアアップ助成金などの雇用関係助成金について、労働局から「不正受給」と告げられたとき、事業主の側からよく出るのは、「申請は社会保険労務士に任せていた」「総務の担当者が勝手にやった」という説明です。逆に、申請を手伝った社会保険労務士や代理人の側からは、「会社から渡された資料のとおりに作っただけだ」という説明が出ます。どちらの説明も、制度の側では、二つの別の問いとして扱われます。

一つめは、代表者以外の人がした行為によって、事業主自身が「不正受給を行った」ことになるのか、という問いです。厚生労働省は、雇用関係助成金の不正受給について、次のように案内しています。

引用(厚生労働省「雇用関係助成金の不正受給について」・閲覧日2026年10月30日)「不正受給とは、事業主等が偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすることをいいます。」「事業主等の代表者のほか、事業主等の役員、従業員、代理人その他当該事業主等の支給申請、申請書類の作成に関わった者が、偽りその他不正の行為をした場合には、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなします。」

二つめは、関与した社会保険労務士・代理人が、事業主と並んで何を負うのか、という問いです。同じページは、社会保険労務士・代理人が不正受給に関与した場合として、「不正受給に関与した額(延滞金、2割に相当する額を含む)について、事業主と連帯して返還する義務を負います。」、「不正受給決定日から5年間、雇用関係助成金の申請は受理されません。」、そして「都道府県労働局及び独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページに「氏名及び事業所名」などが公表されます。」と案内しています。

一つめの「みなします」は、他人の行為を本人の行為に置き換える擬制です。二つめの「連帯して」は、行為をした人に、その人自身の責任として支払義務を負わせる建て方です。この二つは根拠の置き場所が違い、働き方も違います。このページでは、まず根拠を法律・省令・要領の順に並べ、そのうえで、連帯債務の中身(負担部分と求償)、事業主と支援者の利益の対立、何が「関与」なのかを整理します。

2 法律と省令は、行為をした人ごとに責任を置いています

雇用関係助成金は、雇用保険法62条(雇用安定事業)・63条(能力開発事業)に基づいて政府が行う事業として支給されます(このページでは、この62条・63条に基づく助成金一般を「雇用関係助成金」と呼びます。雇用保険法施行規則120条は、雇用調整助成金など11種を列挙して「雇用関係助成金」と定義していますが、以下では区別しません)。同法62条2項は、「前項各号に掲げる事業の実施に関して必要な基準は、厚生労働省令で定める。」と定め、具体的な定めを雇用保険法施行規則に委ねています。不正受給に関する定めも、法律ではなく、この施行規則に置かれています。

引用(雇用保険法施行規則140条の3(返還命令等)1項・2項)「偽りその他不正の行為により雇用調整助成金その他の法第四章の規定により支給される給付金の支給を受けた事業主又は事業主団体若しくはその連合団体がある場合には、都道府県労働局長は、その者に対して、支給した給付金の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、当該偽りその他不正の行為により支給を受けた第百二十条に規定する雇用関係助成金及び第百三十九条の四第一項に規定する雇用関係助成金については、当該返還を命ずる額の二割に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。」
「前項の場合において、代理人等又は訓練機関が偽りの届出、報告、証明等をしたため同項の規定による雇用関係助成金が支給されたものであるときは、都道府県労働局長は、その代理人等又は訓練機関に対し、その支給を受けた者と連帯して、同項の規定による雇用関係助成金の返還又は納付を命ぜられた金額の納付をすることを命ずることができる。」

ここでいう「代理人等」は、同施行規則120条の2第3項が「雇用調整助成金その他の法第四章の規定により支給される給付金の支給に関する手続を代理して行う者」と定義しています。社会保険労務士が、社会保険労務士法2条1項1号の3の事務代理(申請等について「代理すること」)として関わる場合は、これに当たります。他方、同項1号の2の提出代行は、申請書等の「提出に関する手続を代わつてすること」であって、代理ではありません。施行規則140条の3第2項と140条の4第1項2号が挙げるのは「代理人等」と「訓練機関」だけで、「社会保険労務士」という語は出てきません。後記の共通要領と様式第1号は「社会保険労務士」と「代理人」を並べて書き、要領0901ロ(イ)aも「代行又は代理」と書き分けています(22頁)。提出代行にとどまる社会保険労務士が省令の「代理人等」に当たるかは、争う余地があると考えております。この点は後記3で戻ります。

省令の建て方を見てください。1項は、「偽りその他不正の行為により」支給を受けた事業主に対する返還命令と、施行規則120条・139条の4第1項に規定する雇用関係助成金についての、返還額の二割までの納付命令です。2項は、「代理人等又は訓練機関が偽りの届出、報告、証明等をしたため」助成金が支給されたときに、その代理人等に対し、事業主と「連帯して」納付を命ずることができるというものです。つまり、代理人等の責任は、代理人等自身が偽りの届出・報告・証明をしたことに結びつけられています。他人の行為を事業主の行為に置き換える「みなし」の定めは、省令にはありません。

この建て方は、法律の側と揃っています。雇用保険法10条の4は、失業等給付(基本手当など)についての返還命令の規定ですが、2項は次のように定めています。

引用(雇用保険法10条の4第2項。括弧書きの定義は略)「前項の場合において、事業主、職業紹介事業者等(略)、募集情報等提供事業を行う者(略)又は指定教育訓練実施者(略)が偽りの届出、報告又は証明をしたためその失業等給付が支給されたものであるときは、政府は、その事業主、職業紹介事業者等、募集情報等提供事業を行う者又は指定教育訓練実施者に対し、その失業等給付の支給を受けた者と連帯して、前項の規定による失業等給付の返還又は納付を命ぜられた金額の納付をすることを命ずることができる。」

受給者本人の返還義務(1項)と、偽りの届出等をした事業主らの連帯の納付義務(2項)を分けて置き、後者は「偽りの届出、報告又は証明をしたため」という、その人自身の行為を要件にしています。法律も省令も、行為をした人ごとに責任を置く建て方であって、誰かの行為を別の人の行為に置き換える建て方はしていません。

では、冒頭の「みなします」はどこから来ているのか。厚生労働省が定める通達である「雇用関係助成金支給要領」(後記の様式第1号の留意点13も、都道府県労働局等が行う支給事務に関して定めた「通達」と説明しています。令和8年4月1日版5頁)の「第1 共通要領」(以下「共通要領」といいます。以下の引用と頁は令和8年10月22日版の印刷頁です)の0205が、不正受給の定義に続けて置いている「なお書き」です。

引用(共通要領0205「不正受給」・7頁)「この要領において「不正受給」とは、事業主等が偽りその他不正の行為(詐欺、脅迫、贈賄等刑法(明治40年法律第45号)各本条に触れる行為のほか、刑法上犯罪を構成するに至らない場合であっても、故意に支給申請書に虚偽の記載を行い又は偽りの証明を行うことが該当する。ただし、支給申請書に事実に反する記載があった場合であっても、当該記載誤りが故意によらないものと認められる場合は不正の行為には該当しない。)により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすることをいう。」
「なお、事業主等の代表者のほか、事業主等の役員、従業員、代理人その他当該事業主等の支給申請、申請書類の作成に関わった者が、偽りその他不正の行為をした場合には、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなす。」

二つのことが分かります。一つは、要領の定義では、不正の行為は「故意に」虚偽の記載や偽りの証明を行うことであり、故意によらない記載誤りは除かれていることです(厚生労働省のページの説明は、この「故意に」とただし書を落としています。この点は前記のコラムで述べています)。もう一つは、「みなす」の対象が、従業員・代理人など書類の作成に関わった者の行為に広がっていることです。この「みなし」は、法律にも省令にもなく、通達である要領に置かれています。

要領がなぜ事業主を拘束するのかについて、共通要領自身は、助成金が「支給申請者の申し込みに対する行政庁の承諾により成立する贈与契約」であると述べ(0703ロ・18頁)、支給申請の際に提出する「支給要件確認申立書」(様式第1号)で、要領に従うこと、公表、返還等について事業主に承諾させています(様式第1号13・15。令和8年4月1日版1頁)。「みなし」も、この様式の「記載にあたっての留意点」3(同3頁)に書かれており、事業主は了解したうえで回答するものとされています。契約の内容として受け入れている以上、要領の定めが働くというのが、制度の側の説明です。

私見としては、要領の「みなし」が働くとしても、それは贈与契約の内容としてであって、施行規則140条の3第1項の返還命令と二割の納付命令の要件である「偽りその他不正の行為により……支給を受けた事業主」に当たるかどうかは、省令の文言に即して判断されるべきものであり、要領の定めで省令の要件を広げることはできないと考える余地があります。従業員や代理人が事業主に無断で虚偽の記載をした場合に、事業主自身が「故意に」虚偽の記載を行ったといえるのかは、事業主の関与の有無と程度を踏まえて、別に問われる問題であると考えております。

もっとも、共通要領0801イ(イ)・ロは、偽りその他不正の行為によって支給を受けた場合の返還と、延滞金・2割相当額の支払を、契約上の義務として同じ内容で定めています(20頁)。事業主は様式第1号15で要領に従うことを承諾していますので、省令の要件を満たさなくても契約上の原状回復として請求できる、という反論が想定されます。省令の要件を争う実益があるのは、省令に基づく命令として争う場面(命令の名宛人、不服の申立て方)と、「故意」の有無そのものが否定される場面です。また、「申請者は会社であり、申請事務を委ねられた従業員や役員の故意は会社の故意である」という反論も想定されます。従業員や代理人の行為が「事業主に無断」であったといえるかは、その者にどこまで権限を与えていたか(労務・申請の委任の範囲、押印の運用、説明の有無)で決まりますので、そこを資料で示せるかが分かれ目になります。

3 支援した側が負うとされているもの――連帯返還・5年の不受理・公表

社会保険労務士・代理人の側に目を移します。共通要領は、「不正受給に関与」を次のように定義しています。

引用(共通要領0205・7頁)「また、この要領において「不正受給に関与」とは、社会保険労務士、代理人又は訓練を行う者が故意に偽りの届出、報告、証明等を行い事業主等が助成金の支給を受け、又は受けようとすることをいう。」

要件は、社会保険労務士・代理人が「故意に」偽りの届出・報告・証明等を行ったことです。事業主から渡された出勤簿や賃金台帳のとおりに申請書を作成し、その資料が実は事実と違っていたという場合、作成者に故意はなく、「関与」には当たりません。この線引きは、後記6で述べます。

「関与」に当たるとされた場合に負うとされているものは、次の四つです。

  • 連帯返還。共通要領0802イは「社会保険労務士、代理人又は訓練を行う者が、不正受給に関与していた場合は、申請事業主等と連帯して、不正受給に係る請求金を支払う義務を負う。」と定め(21頁)、同ロ(イ)は、社会保険労務士又は代理人が様式第1号で、関与していた場合に申請事業主等と連帯して債務を負うことを承諾する旨を記載するものとしています。「不正受給に係る請求金」は、返還を求めた額、不正受給の日の翌日から納付の日までの年3分(支給申請が行われた日が令和2年3月31日以前の場合は年5分)の延滞金、返還を求めた額の2割に相当する額の合計です(0205・7頁)。省令の側の根拠は、事務代理など「手続を代理して行う者」として関わった場合については、前記の施行規則140条の3第2項です。ただし、同項が連帯の対象にしているのは、1項により返還又は納付を「命ぜられた金額」であり、延滞金の定めは省令にありません(延滞金は要領0701・0801ロにだけ置かれています)。提出代行にとどまる場合は、省令に当たる定めがなく、様式第1号の承諾(契約)が根拠になります(前記2)。
  • 5年間の不受理。不支給決定又は支給決定取消を行った日から起算して5年間、その社会保険労務士が行う提出代行・事務代理に基づく申請、その代理人が行う申請は受理されません。5年を過ぎても請求金が全額納付されていなければ、時効が完成している場合を除き、納付される日まで続きます(0902・23頁)。
  • 公表。社会保険労務士・代理人が不正受給に関与したときは、氏名、事務所の名称及び所在地、助成金の名称、不支給決定日又は支給を取り消した日、返還を命じた額及び返還状況、不正の行為の内容が、不支給決定又は支給決定取消を行った日から5年を経過する日まで公表されます(0705イ(ロ)・ロ(ロ)・ハ・19〜20頁)。5年を過ぎても請求金が全額納付されていなければ、全額納付を労働局長が確認した日まで続きます(0705ハ(イ)ただし書・20頁)。省令の側では、施行規則140条の4第1項2号・2項2号が、「代理人等」について公表することができる場合と事項を定めています。ここでも省令が挙げるのは「代理人等」であって、「社会保険労務士」ではありません。
  • 社会保険労務士会への情報提供。社会保険労務士が関与していた場合は、労働局から全国社会保険労務士会連合会と都道府県社会保険労務士会に、不正の内容や調査の協力状況等が情報提供されます(0902・23頁)。

事業主の側にも、支援者の関与に結びついた不利益が一つあります。施行規則120条の2第3項は、過去5年以内に偽りの届出等を行った代理人等・訓練機関が関与している助成金は、事業主に支給しないものとしています。関与歴のある代理人等に申請を委ねると、その申請自体が不支給になる建て方です。様式第1号の留意点11(4頁)も、申請等を委任する際に、不正に関与した代理人等でないかを確認するよう求めています。

他方で、公表については、事業主にとっての例外が置かれています。

引用(共通要領0705イただし書・19頁)「ただし、社会保険労務士、代理人又は訓練を行う者が不正受給に関与した場合であって、事業主等が当該不正受給について関与していないことが明らかな場合は、事業主等については公表しないことができる。」

要領自身が、支援者が関与した事案で、事業主が関与していないことが明らかな場合を想定しているのです。「みなし」で事業主が不正受給を行ったことにされても、公表の場面では事業主の関与の有無が別に問われます。この区別は、後記5で述べる利益の対立の出発点になります。なお、事業主についての公表は、取消額等の合計が100万円以上で返還を命じた日から1か月以内に請求金が全額納付されないとき、又は労働局長が特に重大又は悪質と認めるときに行うものとされています(0705イ(イ)・19頁)。

4 連帯債務の範囲、負担部分と求償(民法436条以下)

「連帯して」負う債務は、民法の連帯債務です。民法436条は、「債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。」と定めています。施行規則140条の3第2項の命令による連帯は「法令の規定」による連帯、様式第1号の承諾による連帯は「当事者の意思表示」による連帯と読めますが、いずれにしても、労働局は、事業主と支援者のどちらに対しても、請求金の全部を請求することができます。「自分の関与した額だけを払えばよい」という話にはなりません。

もっとも、連帯債務者の間には「負担部分」があり、全額を払った者は、他の連帯債務者に求償することができます。

引用(民法442条1項)「連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。」

負担部分は、法令にも要領にも定めがありませんので、事業主と支援者の間で、不正の行為にどれだけ寄与したかによって決まることになります。支援者が虚偽の記載を主導し、事業主がそれを知らなかったのであれば、事業主の負担部分は小さく、場合によっては零と評価する余地があります。逆に、事業主が指示し、支援者がそれに従っただけであれば、負担部分は事業主の側に大きく傾きます。労働局に対しては全額を払わなければならないとしても、その先の清算は、両者の間の問題として残るのです。

連帯債務者の一人について生じた事由は、原則として他の連帯債務者に効力を生じません(民法441条)。事業主が労働局と分割納付の合意をしても、支援者の債務には及びません。また、連帯債務者の一人に対して免除がされ、又は時効が完成した場合でも、他の連帯債務者は、その者に対して求償権を行使することができます(同445条)。労働局との間で誰がどう決着しても、負担部分に応じた清算の問題は消えないということです。

従業員や役員の行為によって事業主が返還した場合も、構図は同じです。従業員は労働局に対して連帯債務を負うわけではありませんが、事業主は、自らが支払った延滞金や2割相当額などを損害として、その従業員に不法行為による損害賠償を請求することができます。大阪地判令和7年8月22日(令和4年(ワ)第11571号、同第11575号。判例秘書登載)は、総務・人事を統括していた従業員(一方の会社では取締役)が、代表者に無断で、一部の従業員について実際には休業していない日も休業したこととして雇用調整助成金を申請し、支給決定の取消しを受けた2社が、助成金の返還に加えて延滞金と違約金(返還額の2割に相当する額)を納付した事案です。判決は、代表者が不正申請を指示したことも、認識しながら放置したことも認められないとして、その行為は会社に対する故意による不法行為を構成すると認め、延滞金と違約金、申請手続を委託していた社会保険労務士に支払った報酬、弁護士費用を損害として、2社合計で4000万円を超える賠償を命じました。社会保険労務士に支払った報酬については、次のように述べています。

引用(大阪地判令和7年8月22日・第3の3(2))「よって、上記報酬の支払は、上記不正申請の対価として支払われたものであるから、原告X1の損害と認められる。」

この判決は、会社が、行為者である従業員に対して、延滞金・違約金と社会保険労務士への報酬を損害として取り戻せることを示した例です(支給決定の取消しの根拠や、前記2の「みなし」については判断していません)。地方裁判所の判断であり、上訴審は確認できていません。なお、この事案では、代表者は申請書類に押印していましたが、判決は、申請の一部は根拠のあるものであったこと、労務を従業員に委ね、申請手続は従業員と社会保険労務士の協議に委ねて、押印の際に休業実績の説明も受けていなかったことから、押印の事実だけで代表者が不正申請を認識していたとは推認できないとしています。押印していたから知っていたはずだ、という言い方に対する一つの答えになります。

次のような場合は、議事録や申立書に署名される前にご相談ください

  • 社会保険労務士や従業員に申請を任せていたところ、労働局から不正受給と告げられ、返還と延滞金・二割相当額の納付を求められている
  • 申請を手伝った側として、事業主と連帯して返還する義務を負うと告げられ、公表や5年間の不受理の話が出ている
  • 労働局の調査で、事業主と支援者の説明が食い違っている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 「不正受給」と言われたら、何が「偽りその他不正の行為」に当たるのか――東京地判令和元年11月7日(コラム)/コンサル・支援機関の助言に従ったのに取消しになった(Q&A)

5 事業主と支援者の利益は対立します

ここまでの整理から、事業主と支援者の利益が対立することが見えてきます。

  • 公表について、事業主は「自分は関与していないことが明らかだ」と言えれば公表を免れる余地があります(0705イただし書)。それは、支援者が関与したと言うことと表裏です。
  • 支援者の連帯債務・不受理・公表は、支援者が「故意に」偽りの届出等をしたことが要件です。支援者は「事業主から渡された資料のとおりに作った」と言い、事業主は「社会保険労務士に言われたとおりにした」と言います。どちらの説明が通るかで、一方の責任が重くなり、他方の責任が軽くなります。
  • 連帯債務の負担部分と求償も同じです。全額を払った側が、相手に求償する場面で、不正の行為を主導したのはどちらかが争われます。

利益が対立する以上、同じ弁護士が事業主と支援者の双方の代理人になることはできません。共通要領が「実地調査」として挙げるのは、雇用保険法79条に基づく立入検査のほか、事業主の任意の協力のもとに行われる事業所訪問による調査と、社会保険労務士・代理人・訓練を行う者の任意の協力のもとに行われる事務所等への訪問による調査であり、事業主と支援者への調査はそれぞれ別に定められています(0204イ〜ハ・6〜7頁)。事業主と支援者が別々に聴取を受け、それぞれの説明が記録に残ります。労働局の調査とは別の場面ですが、前記の大阪地判令和7年8月22日では、会社が委任した弁護士が社会保険労務士と従業員から別々に事情を聴き、その議事録に本人が内容を確認したうえで署名(社会保険労務士は署名押印)したものが、後の訴訟で証拠として使われています。

ですから、調査の段階で、相手の側と口裏を合わせるのではなく、自分の側の事実を資料で示せる形にしておくことが、事業主にとっても支援者にとっても必要になります。申請に使った資料を誰が用意し、誰が数字を入れ、誰が確認したのか。やり取りはメールや申請システムの記録として残っているのか。署名を求められた議事録や申立書の内容が、自分の説明と一致しているのか。ここで不正確な記録を残すと、後の求償や損害賠償の場面で、それがそのまま相手の証拠になります。

6 どの行為が「関与」なのか

共通要領の定義(0205)では、「不正受給に関与」は「故意に偽りの届出、報告、証明等を行い」事業主等が助成金の支給を受け、又は受けようとすることです。様式第1号の代理人等の記載欄(令和8年4月1日版2頁)は、連帯して弁済する義務を負う場合を「代理人等が故意に不正受給に関与していた場合(偽りその他不正の行為の指示やその事実を知りながら黙認していた場合を含む。)」と書いています(様式は「代理人又は社会保険労務士」を「代理人等」と呼んでおり、前記2の施行規則の「代理人等」とは範囲が違います)。「指示」と「黙認」が、関与の二つの型です。

この線引きが問題になった例として、東京地判令和7年6月26日(令和5年(ワ)第34267号。判例秘書登載)があります。雇用調整助成金の教育訓練用のオンラインプログラムを提供した業者について、事業主が、短時間の訓練で受給できると説明された、受講レポートのひな形の実施時間欄には4時間の選択肢しかなかった、などと主張して、不正受給と認定されたことによる違約金・延滞金等の賠償を求めた事案です。判決は、説明資料に最短で1日3時間の訓練が必要と明記されていたことなどから、不正受給の指南というべき説明があったとは認められないとし、ひな形の点については次のように述べて、請求を棄却しました。

引用(東京地判令和7年6月26日・第3の2(2)ウ)「本件契約が、雇用調整助成金の受給を念頭に置いたものであったことからすれば、受給要件を満たす形で教育訓練協定書や受講レポートのひな形が作成されるのは当然のことというべきであるし、それをもって、不正受給を促す趣旨の指示があったなどと認めることはできない。」

判決は、事業主が、訓練実施者は支給申請の都度「雇用調整助成金支給申請合意書(訓練実施者)」に署名押印しており、偽りその他不正の行為の指示を行った場合には連帯責任を負うとされているのだから、業者も連帯責任を負うはずだと主張した点についても、指示を行ったと認めるに足りる証拠がないとして退けています。地方裁判所の判断であり、上訴審は確認できていません。

この判決から言えることは二つです。一つは、支援者の側にとって、要件を満たす前提で作られたひな形や説明資料は、それ自体では「指示」にならないということです。もう一つは、事業主の側にとって、「言われたとおりにした」という説明は、言われたことを示す客観的な記録がなければ通らないということです。この判決は、説明資料に3時間以上の訓練が必要と明記されていたことから、事業主が要件を誤信したとは認め難いとしました。説明資料に要件が明記されていれば、それを読んでいなかったという説明は通りにくいと考えております。

整理すると、「関与」の有無は、おおむね次のように分かれると考えております。

  • 事業主から渡された資料のとおりに申請書を作成し、その資料が事実と違っていた――作成者に故意はなく、「関与」には当たりません。
  • 資料と実態が違うことを知りながら、事業主の求めに応じて申請書を作成した――「黙認」として関与に当たり得ます。
  • 休業していない日を休業にする、労働条件通知書を申請用に作り直す、といった方法を提案した――「指示」として関与に当たります。前記のコラムで紹介した東京地判令和元年11月7日の事案では、申請代行を依頼していた者の指導のもとで申請用の労働条件通知書を別に作ったと事業主が申し立てていました。
  • 従業員や役員が事業主に無断で虚偽の記載をした――事業主は「みなし」の対象になりますが、その従業員・役員に対する損害賠償の問題が残ります(前記4)。

7 どう動くか

不正受給の通知を受けた事業主の方、関与したと告げられた社会保険労務士・代理人の方に、共通して確かめていただきたいのは、次の点です。

  • 届いた書面が何に基づくものか。施行規則140条の3による返還命令・納付命令なのか、要領0801・0802に基づく請求なのか。返還を求める額、延滞金、二割相当額のそれぞれの根拠と計算。
  • 誰のどの行為を「偽りその他不正の行為」としているのか。その人に「故意」があったとする根拠は何か。故意によらない記載誤りは、要領の定義上、不正の行為に当たりません。
  • 事業主について、支援者の関与に対する「みなし」で不正受給とされているのか、事業主自身の故意が認定されているのか。公表の場面では、事業主が関与していないことが明らかなら公表しないことができるとされています(0705イただし書)。
  • 連帯債務の相手は誰か。労働局に対してどちらが支払うにしても、負担部分に応じた求償の問題が残ります。相手との間のやり取りの記録(委任状、報酬の定め、資料の授受、申請システムの操作履歴、メール)を、いまの時点で保全しておく。
  • 労働局の調査でも、相手方や会社が依頼した弁護士の聴取でも、署名を求められる議事録・申立書は、内容を読んで、事実と違うところは訂正を求めてから署名する。署名した記録は、労働局の判断の材料になるだけでなく、後の求償・損害賠償の場面で相手の証拠になります。
  • 助成金の支給は贈与契約とされていますので、返還義務の有無は民事の債務の存否として争うことができます。争い方は、前記のコラムで述べています。なお、共通要領は、支給・不支給の決定と支給決定の取消しが行政不服審査法上の不服申立ての対象にならないとしています(0703ロ・18頁)が、施行規則140条の3は「命ずることができる」という命令の形式を取っています。届いた書面が契約上の請求なのか、省令に基づく命令なのかによって、争い方(債務不存在確認の訴えか、処分の取消しか)が変わり得ますので、書面の形式と根拠の書き方を確かめることから始めます。

顧問先の助成金についてこのような問題が起きている社会保険労務士・税理士・中小企業診断士の先生方は、士業・支援機関・お取引先企業の方へをご覧ください。先生ご自身が「関与」を告げられている場合は、顧問先とは利益が対立しますので、顧問先とは別に、早い段階でご相談ください。

社会保険労務士や従業員に申請を任せていて不正受給と告げられた事業主の方、顧問先の申請に「関与」したと告げられている社会保険労務士の先生は、労働局の議事録や申立書に署名される前にご相談ください。申請に使った資料の授受の記録、委任状、報酬の定めがお手元にあると、どちらの行為が問題にされているのかを確かめやすくなります。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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