執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金の申請を、事業者が自分だけで行うことは少なくなりました。公募要領の読み込み、事業計画の組立て、交付申請書や実績報告書の作成、事務局や所管省庁とのやり取り。これらを、支援機関、申請代行の業者、あるいは設備を納める側の会社が引き受ける形が、広く見られます。そこから当然に出てくる問いがあります。申請の内容に虚偽があったとき、罪に問われるのは誰なのか、ということです。
条文を読むと、答えは一見はっきりしているように見えます。補助金適正化法29条1項が処罰するのは、「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け」た者です。補助金を受け取るのは事業者ですから、代わりに申請事務を行った者は、この条文の名宛人の外にいるようにも読めます。この点を正面から主張して争われた事件があります。
本記事で取り上げる最二小決平成27年12月14日(刑集69巻8号832頁、判タ1422号84頁、裁時1642号35頁)は、この問いに正面から答えた決定です。事業主である会社の代表取締役から補助金の交付を受けるための業務を一括して委任され、各種書類を会社名義で作成・提出し、会社の担当者として所管省庁と折衝・連絡を行い、その遂行状況を代表取締役に報告していた者について、同法32条1項にいう「代理人」に当たるとし、同法29条1項違反の罪の成立を認めた原判断を是認しました。被告人は事業主の従業員でも役員でもなく、自ら別の会社を経営して設備の調達を請け負っていた外部の事業者です。それでも「代理人」に当たるとされました。
決定が示した判断の筋は、肩書でも契約の形式でもありません。事業主と行為者との間に、事業主が行為者の違反行為を防止できるような統制監督関係があるかどうかです。そして、その有無は、事業主から行為者に与えられた権限の性質・内容、行為者の業務履行状況、事業主の関与状況その他の事情を総合して判断すべきものとされました。この決定は確定しています。
本記事では、この決定が何を基準としたのか、どの事実が決め手になったのかを、判決の言葉で確かめ、そのうえで、認定支援機関、申請代行の業者、士業の先生方、そして事業者自身にとってどのような意味をもつのかを整理します。どこからが当職の見解であるかは、その都度分けて示します。
1 「代わりに申請した人」は罰則の外にいるのか
(1)29条1項の名宛人は「交付を受けた者」
まず、条文を確かめます。
引用(補助金適正化法29条1項)「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
※ 「拘禁刑」は刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第68号)による改正後の表記です。本記事で紹介する裁判例の当時は「五年以下の懲役」でした。
条文の形を見ると、処罰の対象は「補助金等の交付を受け」た者です。補助金の交付決定を受け、口座に入金を受けるのは事業者ですから、申請事務を代わりに行った者は、文言上はこの対象に入りません。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)421頁も、29条から31条までの罪の主体は事業者であることが明らかであるとし、事業者の従業者等がその業務主の業務に関してこれらの条に違反する事実行為を行っても、行為者自身を処罰することが明定されない限り当然には処罰されないと整理しています。
(2)32条1項が行為者処罰の根拠になる
その「明定」が、両罰規定です。
引用(補助金適正化法32条1項)「法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定のあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、当該法人又は人に対し各本条の罰金刑を科する。」
両罰規定という呼び名からは、法人を処罰するための規定という印象を受けます。しかし、条文の中心には「その行為者を罰するほか」という一句が置かれています。小滝・前掲421頁は、この一句によって違反の事実行為者たる従業者等を処罰する旨を明らかにするとともに、形式的には違反行為者でなくともその従業者等を通じて行為規範違反の状態を惹起した事業者の責任を問い、これを罰金刑に処しうるようにしたものであると説明しています。
つまり、32条1項は、二つの働きをしています。一つは、事業主を罰金刑に処する根拠です。もう一つは、補助金を受け取っていない行為者自身を各本条(ここでは29条1項)の刑で処罰する根拠です。そうすると、申請を代わりに行った者が処罰されるかどうかは、その者が32条1項にいう「代理人、使用人その他の従業者」に当たるかどうかにかかってきます。本記事の主題は、この一点です。
申請の代行を引き受ける側の実感としては、自分は事業者の「従業者」ではありません。雇用されているわけではなく、報酬を受けて業務を請け負う独立した事業者です。「代理人」と言われても、委任状を出して代理人として申請したわけではなく、申請書の名義はあくまで事業者で、顕名もしていません。そのような立場の者が「代理人」に当たるのか。この問いが争われたのが、次に紹介する事件です。
2 事案――設備が未完成のまま実績報告書を出した事件
(1)当事者の関係
被告人は、バイオガス製造設備の設計・販売や運営受託等を行う複数の会社の代表取締役です。知人を介して、産業廃棄物処理事業等を営む意向をもっていたBと知り合い、事業の仕組みや見通しを説明し、事業計画を提案し、環境省が所管する補助金による助成を受けることも可能であると説明しました。
Bは、当時パチンコ店を経営しており、バイオガス製造事業に関する知識をもっていませんでした。被告人の説明を聞いて事業を営むことを決意し、平成20年3月、事業の実施主体としてA社を設立し、その代表取締役に就任しました。被告人は過去の事業経験から設備の設置や補助金交付申請手続に通じていたため、A社が事業を開始するに当たって必要となる設備の調達と、補助金の交付申請手続に係る各種事務を、Bからの委託を受けて被告人が行うこととしました(以上、京都地判平成25年10月10日・第2の1(1))。
ここが、この事件の骨格です。被告人は、①設備の調達という請負的な業務と、②補助金の交付申請手続という事務の両方を引き受けていました。そして②について、報酬を受けて独立の立場で業務を行う外部者でした。
(2)申請事務の進め方
第一審が認定した事務の進め方は、次のとおりです。
被告人又はその指示を受けた自社の従業員は、補助金の交付申請手続に関し、応募書類・交付申請書類・実績報告書等、環境省に提出することを要する各種書類をA社名義で作成・提出していました。被告人の会社の従業員が、A社の従業員であると名乗って、環境省の担当者との折衝等を行うこともありました(京都地判・第2の1(1)ウ)。
他方、Bの側も何もしていなかったわけではありません。Bは、事業資金の調達や許可申請手続、近隣住民対策等を行うとともに、工事や補助金の交付申請手続等の進捗状況について被告人から適宜報告を受け、被告人が作成した環境省への提出書類に押印していました。もっとも、Bは、工事の進捗状況や提出書類の内容について被告人に意見を述べることはなかったと認定されています(京都地判・第2の1(1)エ)。
(3)何が起きたか
平成21年、設備の設置工事が大幅に遅れていました。被告人は、自社の従業員Fに実績報告書の作成を指示しました。Fは、現場に未設置であったガス精製装置、脱臭装置等の各設備について、インターネットから取得した写真や他の施設の写真を流用・加工し、あたかも現場にこれらの設備が設置されたかのような外観を有する写真を添付しました。堆肥貯蔵施設の壁については、契約社員Gが工事業者に発注して、ベニヤ板等で作製されたダミー壁を現場に設置し、Fがこれを撮影しました(京都地判・第2の2(1))。
こうして、事業が完了したとする内容虚偽の実績報告書が作成され、同年6月16日、環境大臣に提出されました。補助金額1億1069万2000円が確定し、同年8月、A社名義の口座に振込入金されました。
(4)事業主である会社は起訴されていない
もう一つ、この事件の特徴を押さえておく必要があります。起訴されたのは被告人だけでした。事業主であるA社とその代表取締役Bは起訴されていません。弁護人は、この点を捉えて、事業主かつ補助金の受領者であるA社が起訴されず被告人のみが起訴されたのは見せしめであり、平等原則(憲法14条)に違反すると主張しましたが、控訴審はこれを採用しませんでした(大阪高判平成26年9月3日・第2の2(2)オ)。
事業主が訴追されなくても、代わりに申請事務を行った者が単独で処罰されることがある。この事件は、まずその事実を示しています。
第一審は被告人を懲役1年6月の実刑に処し(求刑懲役2年)、控訴審も量刑を是認しました。
3 弁護人の主張――「対向的に委任を受けた代理人は含まれない」
(1)限定説
弁護人の主張は、学説上の有力な見解に乗ったものでした。
引用(判タ1458号17頁注58。原文は半角数字・全角カンマです)「学説の中では,両罰規定における代理人とは,対向的に委任を受けた代理人は含まれず,商業支配人など,従業者たる身分を持っている者に限られるという見解も有力である」
この見解の根拠は、条文の文理です。両罰規定は「代理人、使用人その他の従業者」と並べて書いていますから、「代理人」も「従業者」の例示として挙げられていると読むべきです。そして「従業者」とは、直接・間接に事業主の統制監督の下に事業に従事する者を指すと理解するのであれば、対向的な委任契約によって個別に特定事項の代理権を与えられた者は、まだ「従業者」の範疇に属するとはいえず、したがって「代理人」にも当たらない――という組立てです(判タ1458号17頁注58)。「対向的」とは、事業主の組織の中に取り込まれているのではなく、事業主と向かい合う立場で契約を結んでいる、という意味です。申請代行を請け負う業者は、まさにこの立場にあります。
弁護人は、さらに、本件は事業主が処罰されず代理人のみが処罰の対象とされようとする事案であるから「代理人」の定義は慎重に判断されるべきであり、仮に広く解するとしても、該当するには従業員たる身分を持っている者と同視できる程度の対外的な行為や選任監督関係が必要であるとも主張しました(大阪高判・第2の1)。
(2)大阪高判平成26年9月3日の答え
控訴審は、この主張を正面から退けました。理由は三つに分けて読めます。
引用(大阪高判平成26年9月3日・第2の1)「しかし,「代理人」に当たる者のみが起訴されている場合と事業主である本人が併せて起訴されている場合とで区別して「代理人」の意義やその該当範囲を異ならしめるのは同じ文言の解釈の在り方として相当ではないというべきであるし,また,事業主たる本人から対向的に委任を受けた者であっても,本人の業務に関する義務を履行すべき地位にあって,本人のためにこれを行う中で法が定める罰則の違反行為を行うことは十分想定されるところである。にもかかわらず,補助金等適正化法が,そのような事務につき対向的に委任を受けた者が本人の業務に関して罰則に違反する行為を行った場合において,その委任が対向的なものであるという点を理由に処罰の対象から除外しているとは解し難い上,そのような解釈は文理上も無理があるといわざるを得ない」
第一に、行為者だけが起訴された場合と事業主も起訴された場合とで、同じ条文の同じ文言の意味を変えることはできません。第二に、対向的に委任を受けた者であっても、本人の業務に関する義務を履行すべき地位にあって、本人のためにこれを行う中で違反行為を行うことは十分に想定される。この一文は、申請代行の実務をそのまま言い当てています。第三に、委任が対向的であるという点だけを理由に処罰の対象から外していると読むのは、文理上も無理である。
控訴審は、さらに括弧の中で、雇用関係の不存在についても触れています。32条1項の「代理人」は「従業者」(広義の従業者)の例示の一つであることが明らかであるけれども、この「従業者」に当たるには事業主との間で雇用関係等があることまでは要しないから、「代理人」についても、雇用関係等が存在しないことは該当性の判断に大きな影響を及ぼすものではないとしました(大阪高判・第2の1)。
(3)どの程度の統制監督が必要なのか
弁護人は、統制監督があるというには、事業主が形式的に報告を受けて書類に押印するだけでは足りず、内容を理解し必要に応じて加除訂正等の指示を出せることが必要であると主張しました。Bには、高度に技術的な報告内容を理解する意思や能力はなかった、というのです。
引用(大阪高判平成26年9月3日・第2の1)「「代理人」該当性を肯定する上で,そのような具体的又は直接的な統制監督関係が認められることまでは必要ないと解される。また,弁護人の指摘するような,商業的支配人など従業員たる身分を持っている者と同視できる程度の選任監督関係の存否は,「代理人」に該当するか否かを判断する際の一事情となり得るとしても,それを肯定するに当たっての必要条件になるとまでは考えられず,弁護人の主張は採用できない。」
内容を理解して指示を出せることまでは要らない。従業員と同視できる程度の選任監督関係は、判断の一事情にはなるが、必要条件ではない。――この二点は、実務にとって重い意味をもちます。後記5(3)で改めて述べます。
なお、第一審も、代理権の形式について同じ方向の判断をしていました。
引用(京都地判平成25年10月10日・第2の1(2))「なお,同項にいう「代理人」は,必ずしも事業主から公法上ないし私法上の代理権を授与された者に限られず,事業主より委託を受けて各種事実行為を行った者も含まれると解され,被告人がAから代理権を授与されて代理行為をしていないことや顕名がないことは,被告人が同項にいう「代理人」に当たるとの前記判断を妨げるものではない。」
委任状を出していないこと、代理人として名乗っていないことは、「代理人」に当たるかどうかの判断を妨げない、というのです。
4 最高裁の判断――決め手は「統制監督関係」
(1)32条1項は事業主の過失を推定した規定である
最高裁は、職権により判断を示しました。出発点は、両罰規定がなぜ事業主を処罰できるのかという点にあります。
引用(最二小決平成27年12月14日・理由3第1段)「補助金等適正化法32条1項は,「法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関し,前三条の違反行為をしたときは,その行為者を罰するほか,当該法人又は人に対し各本条の罰金刑を科する。」と規定しており,「代理人」等が事業主の業務に関して所定の違反行為をした場合に,当該行為者と事業主の双方を処罰する法律上の根拠とされている。また,同条項は,「代理人」等の行為者がした違反行為について,事業主として行為者の選任,監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失の存在を推定した規定と解される(最高裁昭和26年(れ)第1452号同32年11月27日大法廷判決・刑集11巻12号3113頁参照)。このように,行為者のした違反行為について過失が推定され,事業主が処罰されるのは,事業主と行為者との間に,事業主が行為者の違反行為を防止できるような統制監督関係があることが前提とされていると解されるから,事業主が行為者を現に統制監督しておらず,統制監督すべき関係にもない場合には,同条項により事業主の過失を推定して事業主を処罰するという前提を欠き,同条項が適用されないこととなる。」
論証の運びを分けて読みます。第一に、32条1項は、行為者と事業主の双方を処罰する法律上の根拠です。第二に、事業主が処罰されるのは、行為者の選任・監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失が推定されるからであり、無過失責任ではありません(最大判昭和32年11月27日・刑集11巻12号3113頁。小滝・前掲422頁注6、423頁も同じ判例を挙げ、過失責任主義の立場であると整理しています)。第三に、過失の推定が成り立つのは、事業主が行為者の違反行為を防止できるような統制監督関係があることが前提になっているからです。第四に、したがって、事業主が行為者を現に統制監督しておらず、統制監督すべき関係にもない場合には、32条1項は適用されません。
この論証は、「代理人」という言葉の語感からではなく、事業主を処罰できる理由から出発しています。事業主を処罰する前提が欠ければ、行為者処罰の根拠である32条1項そのものが適用されない。そういう組立てです。
(2)統制監督関係の有無は総合判断である
続く段で、最高裁は判断の枠組みを示しました。
引用(最二小決平成27年12月14日・理由3第2段)「補助金等適正化法は,「補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図る」ことを目的とし(同法1条),その目的を実現するため,補助金等の交付の決定を受けた補助事業者等に対し,補助事業等の遂行に関する善管注意義務,各種報告義務等を課すとともに,一部の義務違反行為に対して罰則を設けるなど,補助事業者等に対し,重い義務を課している。このような同法の目的及び規定内容をも踏まえると,前記の統制監督関係の有無については,事業主から行為者に与えられた権限の性質・内容,行為者の業務履行状況,事業主の関与状況その他の事情を総合して判断すべきである。」
判断の要素として挙げられているのは、①事業主から行為者に与えられた権限の性質・内容、②行為者の業務履行状況、③事業主の関与状況、の三つと「その他の事情」です。
この総合判断に先立って、最高裁は適正化法の目的と規定内容を持ち出しています。補助事業者等には、事業遂行に関する善管注意義務(同法11条1項)や各種報告義務が課され、一部の義務違反には罰則が設けられている。「補助事業者等に対し,重い義務を課している」。だから統制監督関係の有無もその枠の中で判断すべきである、という流れです。言い換えれば、重い義務を負うのは事業者であり、その義務の履行を外部に委ねたからといって義務が消えるわけではない。この前提が、「代理人」を広く捉える方向に働いています。
(3)当てはめ――四つの事実
当てはめは、四つの事実を順に並べる形で示されています。
引用(最二小決平成27年12月14日・理由4)「(1) A社は,本件事業に関し,環境省から本件補助金の交付決定を受けた補助事業者であり,本件事業の実施主体として,補助金等適正化法の前記目的に適うよう,事業遂行に関する善管注意義務,実績報告を含む各種報告義務その他補助金等適正化法に定められた規定を遵守すべき義務を本来的に負うべき立場にあった。 (2) 被告人は,A社の代表取締役Bから,本件補助金の申請から交付に至る一連の手続におけるA社の業務である各種書類の作成・提出,環境省との折衝等を一括して委任されており,実績報告書の作成・提出もこれに含まれていた。 (3) 被告人は,自らが経営する会社の従業員を用いつつ,前記委任を受けて,各種書類をA社名義で作成,提出し,A社の担当者として環境省担当者との折衝・連絡を行うとともに,これらの事務の遂行状況をBに報告し,提出書類には原則としてBの押印を受けていた。なお,本件実績報告書は,被告人が自社の従業員に指示して作成し,Bから預かっていたA社の銀行印を押印の上,環境省に提出したものであった。 (4) Bは,前記のとおり,被告人から事務の遂行状況の報告を受け,提出書類に押印することにより,本件補助金に関する手続の進捗状況を把握しており,かつ,本件事業に係るバイオガス製造設備のうち一部の設置が完了していないことも認識していた。」
(1)は義務の帰属先が事業者であることの確認、(2)は権限の性質・内容(「一括して委任」されており実績報告書の作成・提出も含まれていたこと)、(3)は業務履行状況(会社名義での作成・提出、会社の担当者としての折衝・連絡、遂行状況の報告、書類への押印、会社の銀行印の使用)、(4)は事業主の関与状況(報告と押印による進捗の把握、設備の一部が未完成であることの認識)に対応しています。
そして結論です。
引用(最二小決平成27年12月14日・理由5)「以上の事実関係によれば,被告人は,本件補助金の交付を受けるための業務に関し,事業主であるA社の統制監督を現に受け,又は受けるべき関係の下でA社の業務を代理したといえる。したがって,被告人が補助金等適正化法32条1項にいう「代理人」に当たるとした第1審判決を是認した原判断は相当である。」
「統制監督を現に受け,又は受けるべき関係の下で」という言い方に注意していただきたいところです。現に統制監督を受けていた場合と、受けるべき関係にあった場合とが、選択的に並べられています。事業主が実際には何もチェックしていなかったとしても、チェックすべき関係にあったのであれば、足ります。
なお、この決定の基準は「代理人」の解釈にとどまらないと受け取られています。判タ1458号19頁(大阪刑事実務研究会「ほ脱犯の実行行為及び主体」)は、租税法の両罰規定に関する検討の中で、業務主の「その他の従業者」に対する統制監督の有無についても、「代理人」について本決定が示した判断基準が参考になるとしています。両罰規定における行為者の範囲を決める一般的な基準として読まれている、ということです。
5 この決定から何が読み取れるか
ここからは、判決の言葉をどう使うかという整理に移ります。以下の見方は当職の整理を含みますので、どこが判決の言葉で、どこが当職の整理なのかを区別して書きます。
(1)肩書と契約の形は決め手ではない
まず、判決の言葉から確実に言えることを並べます。委任状を出していないこと、代理人として顕名していないこと、公法上・私法上の代理権を授与されていないことは、「代理人」該当性の判断を妨げません(京都地判・第2の1(2))。事業主との間に雇用関係等が存在しないことは、該当性の判断に大きな影響を及ぼしません。委任が対向的であること――つまり事業主と向かい合う立場で請け負っていること――だけを理由に処罰の対象から外されることはありません。事業主が内容を理解し加除訂正の指示を出せることまでは必要ではなく、従業員と同視できる程度の選任監督関係も必要条件ではありません(以上、大阪高判・第2の1)。
したがって、「自分は外部の業者であって従業者ではない」「委任状も出していない」という形式的な説明は、この決定の下では通りません。
(2)効いたのは業務のやり方そのものである
決定が挙げた事実のうち、申請代行の実務に直接当てはまるものを拾うと、一括して委任されていたこと、書類を事業者名義で作成・提出していたこと、事業者の担当者として所管省庁の担当者と折衝・連絡していたこと、事務の遂行状況を代表者に報告していたこと、提出書類に代表者の押印を受けていたこと、事業者の銀行印を預かっていたことです。
このうち、報告していたことと押印を受けていたことは、代行者の側からすれば「きちんと事業者に確認を取っていた」という事情です。ところが、この決定の枠組みでは、それが統制監督関係を基礎づける事実として働きました。事業主の関与状況が認められるほど、統制監督関係が認められやすくなるという構造です。
当職の見方を述べますと、ここは直感に反するところです。丁寧に報告し、押印を受けていた代行者のほうが「代理人」に当たりやすい。もっとも、決定は「又は受けるべき関係の下で」という選択肢を置いていますから、事業者を蚊帳の外に置いて進めた代行者が処罰を免れるわけではありません。
(3)「事業者が内容を分かっていなかった」は代行者を救わない
申請代行の現場でよく起こるのは、事業者が技術的な内容も補助金制度も分からず、代行者に任せきりになっている状態です。この事件でも、第一審は、Bが工事の進捗状況や提出書類の内容について被告人に意見を述べることはなかったと認定しています。しかし控訴審は、まさにこの点を争う主張に対して、「具体的又は直接的な統制監督関係が認められることまでは必要ない」と答えました。事業者が内容を理解していなかったことは、代行者を「代理人」の外に出す理由にはならない、ということです。
当職としては、この結論は適正化法の構造からすれば自然であると考えております。同法は、善管注意義務(11条1項)も報告義務(14条)も、補助事業者等に課しています。最高裁も、補助事業者等が「重い義務」を負う立場にあることを当てはめの出発点に置きました。義務を負うのは事業者であり、その事業者が理解できなかったという事情は、義務が軽くなる理由にはなりません。
(4)事業者の側にとっての意味――会社も罰金刑を受ける
ここまでは代行者の側から見てきましたが、32条1項は事業主をも処罰する規定です。同項により、事業主である法人又は人には各本条の罰金刑が科されます。29条1項の罪であれば、100万円以下の罰金です。そして、前記4(1)のとおり、事業主の過失は推定されます。小滝・前掲422頁注6・423頁は、最大判昭和32年11月27日を引いて、事業主は無過失を立証しない限り処罰を免れない趣旨であると整理しています。
つまり、事業者の立場からすれば、「支援機関に任せていたから知らなかった」という説明は、過失の推定を覆す主張として組み立てる必要があるものです。任せていたこと自体が無過失の理由になるわけではありません。選任と監督について必要な注意を尽くしたこと――誰にどこまでの権限を与えたのか、提出前にどのような確認をしたのか、現場の状況をどう把握していたのか――を、資料で示すことになります。この事件で事業主が起訴されなかったことは訴追の運用の問題であって、法律上処罰されないということではありません。
(5)虚偽の報告書を出しただけなら罰則はないが、交付を受ければ重い
条文の構造として、もう一点押さえておくべきことがあります。適正化法31条2号が罰金の対象とするのは「法令に違反して補助事業等の成果の報告をしなかった者」であり、内容虚偽の報告をしたこと自体を処罰する規定は、同法に置かれていません(小滝・前掲419頁注1は、些少な虚偽報告による違反嫌疑者の多発が予想されるとの配慮によるものといわれると紹介しています)。
しかし、その虚偽の報告によって補助金の交付を受ければ、29条1項の「偽りその他不正の手段」に当たります。控訴審は、補助事業が完了していないのに完了したとする実績報告書は内容虚偽のものにほかならず、これを所管官庁の長に提出することは不当に補助金等の交付を受ける原因となる手段であって不正なものといえるから「偽りその他不正の手段」に当たるとしました(大阪高判・第2の2(1))。
報告書だけを出した段階では罰則の対象外であるのに、それによって交付を受けた瞬間に、五年以下の拘禁刑(当時は懲役)という段に跳ね上がります。その間に中間の段はありません。この段差の大きさは、申請代行に関わる者が初めに知っておくべきことであると考えております。
成立する範囲についても一言述べます。弁護人は、不正受交付額は正当に支払われた工事費用との差額で算定されるべきであると主張しましたが、控訴審は、報告書の提出がなければ完成部分に係る経費等を含め一切交付される余地はなかったとして、交付を受けた補助金全額との間に因果関係があるとしました(大阪高判・第2の2(2)エ)。「完成していた部分は正当だったのだから、その分は差し引くべきである」という主張は、通りにくいことになります。
6 支援者・代行業者・士業にとっての実務
ここからは、当職の整理です。根拠となる判示・条文はその都度示します。
(1)どこまで引き受けているのかを、契約書で書き分ける
最高裁が挙げた第一の要素は、「事業主から行為者に与えられた権限の性質・内容」です。この事件で効いた事実は、「一括して委任されており、実績報告書の作成・提出もこれに含まれていた」ことでした(理由4(2))。
したがって、支援・代行を引き受ける側としては、何をどこまで引き受けるのかを書面で区切ることになります。公募要領の読み込みと計画書の作成支援までなのか、交付申請書の作成も含むのか、実績報告書の作成も含むのか、事務局・所管省庁との連絡窓口になるのか。これらは、負う責任の重さが違います。もっとも、前記5(1)のとおり形式は決め手ではありませんので、契約書の意味は、実際の業務のやり方を契約の内容に合わせていくための足場を作ることにあります。
(2)名義の使い方を区別する
この事件で重く見られた事実の一つは、書類を事業者名義で作成・提出し、事業者の担当者として折衝・連絡し、事業者の銀行印を預かっていたことでした(理由4(3))。第一審は、代行者側の従業員が事業者の従業員であると名乗って折衝していたことも認定しています(京都地判・第2の1(1)ウ)。
当職としては、ここは分けられる部分であると考えております。事務局・所管省庁に対しては、支援機関として関与していることを明らかにし、その立場で連絡を取る。事業者の従業員であると名乗らない。事業者の印章を預からない。提出前に事業者本人が内容を確認したことを記録に残す。
これらは、「代理人」に当たらなくなるための工夫ではありません。前記5(2)のとおり、むしろ事業主の関与が記録に残るほど統制監督関係は認められやすくなります。目的は、虚偽の内容が混入したときに、それが誰の認識と判断によるものかを後から辿れるようにしておくことです。この事件で被告人が実刑を受けた理由は「代理人」に当たったことではなく、自ら従業員に指示して虚偽の報告書を作らせたと認定されたことにあります。
(3)自分で確かめられない部分を、確かめられる形に組み替える
実績報告書の中心は、補助事業が完了したという事実です。設備の設置が完了しているか、稼働しているか。これは、書類の上では確かめられません。
当職としては、支援・代行を引き受ける際に、完了の事実を自分の目で確かめられる形にしておくこと、確かめられない場合には事業者自身に確認させて記録を残すことが、実際的な備えであると考えております。工程表、現地写真の撮影日、検収書、工事業者からの完了報告。報告書に添付する写真が、いつ、どこで撮られたものかを特定できる状態にしておくことです。
(4)制度の側の問題も指摘しておきます
補助金適正化法は、善管注意義務(11条1項)、各種報告義務(14条)、財産の処分の制限(22条)といった義務を、すべて補助事業者等に課しています。そして32条1項は、その義務の履行に関与した「代理人、使用人その他の従業者」を処罰の対象とします。ところが、同法には、申請事務を代行する者、支援機関として関与する者について定めた規定は置かれていません。条文を通読しても、関与の態様や責任の範囲を区切る手がかりは見当たりません。
他方で、今の補助金の仕組みは、外部の支援者の関与を事実上の前提としています。認定経営革新等支援機関の確認を申請の要件とする補助金があり、公募要領は事業者が自ら作成することを求めながら、実際の運用は支援機関や代行業者の関与なしには成り立っていません。
制度が外部の関与を前提にしておきながら、その関与者がどこまで関われば刑事責任を負う立場に立つのかについて、制度の側は何も示していません。事業者も支援者も、その線引きを知る手がかりを行政から与えられていない状態に置かれています。この状態は、支援者の関与を要件に組み込んだ側の説明が足りていないと言わざるを得ません。支援機関の関与をめぐって事業者の責任が問われる場面については、認定支援機関の関与を悪質と言われたらで扱っています。
(5)取消し・返還と刑事責任は別の問題である
交付決定の取消しと補助金の返還は、適正化法17条・18条に基づく行政上の処理であり、本記事で扱った刑事責任は29条以下の罰則の問題です。取消しを受けたことがそのまま刑事責任を意味するわけではなく、逆に、取消しを受けていないからといって刑事責任の問題が生じないわけでもありません。取消しの要件は補助金の交付決定の取消し・返還請求と取消しの通知が届く前にしておくべきこと、返還額の計算は補助金の返還額はどう計算するのか、加算金・延滞金は加算金・延滞金とは何かにまとめています。支援者の側に調査が及ぶ場面は支援者への調査、不正受給が刑事事件として扱われる場合の全体像は不正受給と刑事責任で扱っています。
7 まとめ
補助金適正化法29条1項が処罰するのは「補助金等の交付を受け」た者ですから、申請事務を代わりに行った者は、条文の文言上はその外にいます。しかし、同法32条1項が「その行為者を罰するほか」と定めていますので、同項の「代理人、使用人その他の従業者」に当たる者は、各本条の刑で処罰されます。
最二小決平成27年12月14日は、この「代理人」の意義について、次の枠組みを示しました。32条1項は事業主の過失を推定した規定であり、過失が推定されるのは事業主と行為者との間に事業主が行為者の違反行為を防止できるような統制監督関係があることが前提とされているから、事業主が行為者を現に統制監督しておらず、統制監督すべき関係にもない場合には、同項は適用されない。そして統制監督関係の有無は、事業主から行為者に与えられた権限の性質・内容、行為者の業務履行状況、事業主の関与状況その他の事情を総合して判断すべきである。――当てはめとして挙げられたのは、一連の手続における業務を一括して委任されていたこと、各種書類を事業者名義で作成・提出し、事業者の担当者として折衝・連絡していたこと、遂行状況を代表取締役に報告し提出書類に押印を受けていたこと、代表取締役が進捗を把握していたことです。この決定は確定しています。
実務上の帰結は三つです。第一に、申請代行を引き受けた者が「自分は外部の業者である」「委任状を出していない」と述べても、処罰の対象から外れることはありません。第二に、事業者が内容を理解していなかったことは、代行者を救いません。第三に、事業主である法人も、無過失を立証しない限り罰金刑を免れません。「任せていたから知らなかった」は、それだけでは無過失の理由になりません。
ご相談をお考えの事業者の方へ
補助金の申請を外部に委ねている事業者の方からは、「支援機関が作った書類の内容を自分では確かめていない」「実績報告の中身が分からない」というお話を伺うことがあります。本記事で見たとおり、適正化法が義務を課しているのは事業者です。委ねたこと自体が責任を軽くするものではありません。
交付決定通知書、交付規程・公募要領、支援機関や代行業者との契約書、提出済みの交付申請書・実績報告書、事務局とのやり取りがあれば、どこにどのような危うさが残っているのかを具体的に検討できます。実地検査や事業化状況報告の前に整えておくことが、後の負担を小さくします。お困りの場合は、早い段階でご相談ください。
士業・支援機関の先生方へ
認定経営革新等支援機関、中小企業診断士、行政書士、税理士の先生方からは、「どこまで関わると責任を負うのか」というご質問をいただきます。本記事で紹介した決定は、その線引きが肩書や契約の形式では決まらないことを示しています。関与の範囲を書面で区切ること、名義の使い方を分けること、自分で確かめられない事実を確かめられる形に組み替えること。この三つが、事前にできることです。顧問先に関わる部分だけを分担してお引き受けすることもできます。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本記事は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。第5節の一部及び第6節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、契約書・交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。