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弁護士 岸上大起

相殺・手形・小切手・ファクタリング・割賦による支払は「いかなる事情でも一切認められません」と書かれていますが、交付規程に支払手段の定めは一つもありません

このページの結論

資金繰りの都合で、設備代金の一部を手形で支払い、取引先との間では相殺で清算した分もあります。事務局の手引きには、相殺・手形・小切手・ファクタリング・割賦による支払は「いかなる事情でも一切認められません」と書かれていました。支払手段を理由に、経費として認めないという扱いができるのでしょうか。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の交付規程が補助対象経費について定めているのは、補助事業に要する経費であって全国中小企業団体中央会が認める経費であること(4条1項)と、補助事業の実施期間内において発生した経費であること(4条2項)だけです。支払手段についての定めは、交付規程に一つもありません。同じ事務局の公募要領20頁は、禁止の理由を「実績を確認できないもの」と書き、少額の現金・クレジットカード払いについては事前相談という例外まで置いています。つまり、ここで言われている禁止は証明の問題です。これに対し、手引き15頁は証明ができる場合まで含めて「いかなる事情でも一切認められません」としており、証明手段の指定を実体要件に格上げしています。

額の確定の基準は、補助金適正化法15条と交付規程16条1項が定めており、いずれも「交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうか」です。条件は、同法8条により交付決定の内容として通知されて初めて条件になります。もっとも、争える筋があることと、段取りを崩してよいこととは別です。支払の方法を変えるのであれば、変える前に事務局へ照会し、やり取りを書面で残してください。事業実施期間内に契約が完了しない割賦払いが問題になるのは、支払手段が理由なのではなく、期間内に発生した経費といえるかどうかの問題です。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 公式の説明――「いかなる事情でも一切認められません」

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(以下「ものづくり補助金」といいます。事務局は全国中小企業団体中央会です。以下「全国中央会」といいます)の「補助事業の手引き」(23次締切。掲載日 令和8年8月7日)は、15頁(PDF16頁)に「(2)代金の支払等に係る注意事項について」という項目を置いています(以下、公式資料の閲覧日はいずれも2026年10月23日です)。まず、書かれていることをそのまま引きます。

引用(補助事業の手引き15頁②)「支払は、補助事業者から発注先への銀行振込の実績で確認いたします。」
引用(同15頁③)「他の取引との相殺払による支払、手形による支払、手形の裏書譲渡、小切手、ファクタリング(債権譲渡)による支払、事業期間内に契約が完了しない割賦による支払は行わないでください。前記の支払については、いかなる事情でも一切認められませんのでご注意ください。その他、少額(※)を現金またはクレジットカードで支払う場合は、必ず事前に事務局にご相談ください。(※~少額については、10万円未満とします。)」
引用(同15頁(注))「銀行振込は補助事業者ご自身で行っていただくこととしております。第三者介在によるトラブル回避のため『代行振込』は国内・海外ともに認めておりませんのでご留意ください。」

同じ事務局の「よくあるご質問」(最終更新日 令和8年3月31日)「5.補助対象経費について」No.1(PDF16頁)も、同じ向きです。

引用(よくあるご質問「5.補助対象経費について」No.1)「銀行振込は事業者自身で行ってください。第三者介在によるトラブル回避のため、振込代行は国内・国外ともに認めておりません。」

読まれた事業者の方が受け取るのは、支払手段を一つでも誤れば、その経費は補助の対象にならない、という理解でしょう。資金繰りの都合で手形を切った、取引先との間に相殺の合意があった、分割で払った――そうした事情があれば、設備が現に納品されていても経費として認めてもらえない、と読めます。しかし、「いかなる事情でも」と書く根拠が、どこにあるのかを確かめる必要があります。

2 交付規程に、支払手段の定めは一つもありません

補助の条件を定めている文書は、交付規程です。ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金交付規程(制定 令和7年2月25日。最終改訂 令和8年8月5日)が、補助対象経費について定めているのは、次の二つだけです。

引用(同交付規程4条1項。同規程1頁)「全国中小企業団体中央会(以下「全国中央会」という。)は、中小企業者等が行う補助事業に要する経費であって、補助金交付の対象として全国中央会が認める経費(以下「補助対象経費」という。)について予算の範囲内で補助金を交付する。」
引用(同交付規程4条2項。同規程1頁)「補助対象経費は補助事業の実施期間(以下「事業実施期間」という。)内において発生した経費とし、事業類型ごとの補助対象経費、補助金の額及び補助率等は別紙2の通りとする。」

要件は、補助事業に要する経費であること、全国中央会が認める経費であること、事業実施期間内において発生した経費であること。これだけです。支払の手段については、何も定められていません。交付規程の全文を機械で検索しても、「銀行振込」「振込」「手形」「小切手」「ファクタリング」「割賦」「現金」「クレジット」「代行」の語は、いずれも出てきません(「相殺」は1か所ありますが、債権譲渡の禁止を定めた12条2項1号で、全国中央会が譲渡対象債権と相殺する権利を留保する旨の定めです。補助事業者の支払手段の話ではありません)。

交付の条件は、法律上、交付決定に附して通知するものとされています。補助金適正化法7条1項は、交付の目的を達成するため必要があるときに条件を附するものとし、その2号に「補助事業等を行うため締結する契約に関する事項その他補助事業等に要する経費の使用方法に関する事項」を挙げています。支払手段の指定が条件になりうる余地は、たしかにここにあります。しかし、同法8条は、「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定をしたときは、すみやかにその決定の内容及びこれに条件を附した場合にはその条件を補助金等の交付の申請をした者に通知しなければならない。」と定めています。条件は、交付決定の内容として通知されて初めて条件になります。手引きに書いたから条件になる、という建てつけではありません。

そして、額の確定の基準も、法律が定めています。同法15条は、報告に係る補助事業等の成果が「補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうか」を調査し、適合すると認めたときは交付すべき額を確定しなければならないとしています。交付規程16条1項も、同じ形です。

引用(同交付規程16条1項後段。同規程4頁)「補助対象物件や帳簿類の調査ができない場合等、補助金の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないときは、当該物件等に係る金額は補助対象とならない。」

否認の根拠になるのは、交付決定の内容と、これに附した条件です。手引きの記述そのものではありません。

3 公募要領は、禁止の理由を「実績を確認できないもの」と書いています

同じ事務局が出している公募要領(第23次締切。掲載日 令和8年2月6日)の20頁(PDF25頁)は、同じことを、違う書き方で説明しています。

引用(公募要領20頁「2.7.1 補助対象経費」)「補助対象経費は、補助事業実施期間内に補助事業のために支払いを行ったことを確認できるものに限ります(外国通貨の場合は、支払日当日の公表仲値で円換算)。支払いは、補助事業者自らの名義で行った銀行振込の実績で確認をします(原則、現金払い及びクレジットカード払いは不可とします。また、振込代行サービス等を活用した代行払いや、手形払い等で実績を確認できないものは一切認めません)。ただし、やむをえず少額を現金やクレジットカードで支払う場合は、事前に事務局に相談ください。」

公募要領が挙げている理由は、「実績を確認できないもの」であることです。つまり、ここで言われている禁止は、支出があったことをどう証明するかという、証明の問題です。しかも、公募要領は「原則、……不可とします」と書き、「ただし、やむをえず少額を現金やクレジットカードで支払う場合は、事前に事務局に相談ください。」と、例外の扱いまで置いています。

これに対して手引き15頁は、「前記の支払については、いかなる事情でも一切認められませんのでご注意ください。」と書いています。証明ができる場合まで含めて、支払手段そのものを禁止する書き方です。証明手段の指定と、実体要件の創設とは、別のことです。手形で支払ったことを、手形の写し、当座勘定照合表、取引先の受領書で証明できる場合に、それでも経費性が失われる理由は、公募要領の説明からは出てきません。

私見としては、手引き15頁の「いかなる事情でも一切認められません」という書き方は、同じ事務局の公募要領20頁が挙げる理由と整合しておらず、交付規程4条が定めた要件に支払手段という要件を足すものであって、額の確定の基準を定めた15条の理解が浅いと言わざるを得ません。

4 相殺・手形・小切手・割賦は、いずれも有効な債務の消滅原因です

手引き15頁③が挙げている支払手段は、どれも民法・商法が認めている債務の消滅原因です。相殺について、民法505条1項は次のとおり定めています。

引用(民法505条1項)「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。」

相殺をすれば、代金債務は消えます。手形や小切手で支払い、その手形・小切手が決済されれば、やはり代金債務は消えます。割賦であれば、払った分だけ債務が消えます。つまり、問題になるのは「債務が消えたか」ではなく、「いつ、いくら、だれに対して支出されたのかを、どう示すか」です。前者は実体の話、後者は証明の話であり、公募要領20頁が書いているのは後者です。

もちろん、手段によって証明が難しくなることは事実です。手形であれば、振出だけでは資金が出ていません。相殺であれば、相殺の意思表示と対当額の確認が必要になります。ファクタリングを使えば、支払先と資金の流れがずれます。そうした難しさがあることと、「いかなる事情でも一切認められません」と言い切れることとは、別です。証明が難しいのであれば、求められるのは追加の資料であって、経費性の否認ではありません。

5 交付規程に根拠のない要式――「事務局担当名」を余白に書かせる

支払手段の話は、証拠書類の要式の話につながっています。よくあるご質問「5.補助対象経費について」No.2(PDF16頁)は、クレジットカード払いしか選べない場合の対応として、次のように書いています。

引用(よくあるご質問「5.補助対象経費について」No.2)「事前に事務局にご相談ください。(対応例として、支払後のWeb領収書やWeb受領明細等のスクリーンショット等を紙で印刷出力し、当該事情を支払い前にあらかじめ事務局に連絡した「年月日」及び事情を応諾した「事務局担当名」を当該紙ベース資料の余白に明記して、記名判押捺若しくは自署等により貴事業者様名が判別できる形式の資料をご準備いただきます。)」

交付規程に、この様式はありません。紙に印刷することも、余白に事務局担当名を書くことも、記名押印することも、交付規程のどこにも定めがありません。事務局が自分で作った要式です。しかも、要式の一部は事務局の側の行為(事前の連絡を受けた年月日、応諾した担当者名)に依存していますので、事業者がそろえようとしても、事務局が応じなければそろいません。

実績報告に添付させる書類の範囲について、文献は次のとおり述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』224頁注(10)が全文引用する、行政監理委員会「補助金事務手続の簡素合理化方策についての答申」(昭和53年4月)。同書225頁)「実績報告書の添付書類の範囲は、額の確定を行うための審査に必要最小限度のものに限定する必要がある。」

同書224頁注(10)は、この答申を引くに当たり、実績報告書の様式や添付書類の「内容は、補助金の額の確定を行うのに必要かつ十分なものでなければならない」という答申の文言も引いています。補助金適正化法7条4項も、「補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。」としています。私見としては、支払手段を銀行振込一本に限定し、例外の場面では交付規程に定めのない要式を要求する運用については、必要な限度との関係で検討の余地があると考えております。もっとも、同項は交付決定に附する条件についての定めですので、手引きの記述がそもそも条件に当たらないとすれば、同項を直接持ち出せるとは限りません。その場合に効くのは、前記2の筋――交付規程4条の要件に支払手段という要件はない、という筋です。

なお、事務局から求められる資料の範囲をどう考えるかは、コラム「行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのか」で述べています。

6 公式の説明は、一方当事者の見解です

中小機構・中小企業庁・各事務局の説明は、公正な第三者による解説ではなく、補助金をめぐる紛争の一方当事者の見解です。公式の説明だからと鵜呑みにするのは非常に危険です。

本件について申し上げれば、次のとおりです。交付規程4条が定める補助対象経費の要件は、補助事業に要する経費で、全国中央会が認める経費で、事業実施期間内において発生した経費であることです。支払手段についての定めは、交付規程に一つもありません。公募要領20頁は、禁止の理由を「実績を確認できないもの」と書き、少額の現金・クレジットカード払いについては事前相談という例外まで置いています。それにもかかわらず、手引き15頁は「いかなる事情でも一切認められません」と書いています。交付規程19条1項が挙げる取消事由も、法令・交付規程・これらに基づく全国中央会の処分若しくは指示に違反した場合など六つの場合であり、「手引きに違反した場合」という号は置かれていません。

申し上げているのは、公式の説明に書かれていない道が、条文と交付規程の側にあるということです。すでに手形や相殺で支払ってしまい、経費性を否認されたという場面でも、支出が実在し、期間内に発生した経費であることを示せるのであれば、争う余地はあります。書かれていないことは、ないことと同じではありません。

次のような場合は、実績報告の前にご相談ください

  • 手形・相殺・ファクタリング・割賦で支払った経費について、補助対象外だと言われている
  • 取引先との間に相殺の合意があり、銀行振込の記録が残らない支払が含まれている
  • クレジットカード払いしか選べない取引があり、事務局から要式の整った資料を求められている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 交付規程に違反したと言われたら(Q&A)/額の確定とは――実績報告が計画と違っていたら減額されるのか(コラム)

7 支払の段取りを組まれる前に

争える筋があるとしても、争わずに済ませられるのであれば、そのほうがよいことは言うまでもありません。順に三つ、整理しておいていただくのがよいと考えております。

  • (1)支払の手段を決める前に、事務局に照会し、やり取りを残す。手引き15頁③は、少額(10万円未満)の現金・クレジットカード払いについて事前の相談を求め、公募要領20頁も「事前に事務局に相談ください」としています。事前の相談があったかどうかは、後から作れません。照会はメールで行い、回答もメールで受けてください。電話で済ませた場合は、その日のうちに「本日お電話でご確認いただいた内容は次のとおりです」という形で送り、記録を残してください。
  • (2)支出が実在し、期間内に発生したことを示す資料を、支払の時点でそろえる。交付規程4条2項の要件は、事業実施期間内において発生した経費であることです。手段が銀行振込でない場合には、何がいつ消滅したのかを示す資料が要になります。相殺であれば、相殺の合意書または意思表示の通知と、双方の債権の明細、残額の決済記録。手形であれば、手形の写し、当座勘定照合表、取引先の受領書。割賦であれば、契約書と期間内の入金記録。発注書・納品書・検収記録と突き合わせられる形で、そろえてください。
  • (3)経費性を否認されたら、根拠条項を書面で求める。「手引きに書いてあるから」という説明では、根拠になりません。どの条項に基づく判断なのか、交付決定に附された条件のどれに適合しないのかを、書面で尋ねてください。 書面で尋ねておくことには、二つの意味があります。根拠が示されれば、その根拠に即して反論できます。根拠が示されなければ、示されなかったという事実が残ります。不服の申出先と期間は、Q&A「交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で述べています。

額の確定の段階で経費を削られたときにどう動くか、確定した額に不服があるときにどこへ言うのかは、コラム「額の確定(補助金適正化法15条)とは何か――実績報告が計画と少し違っていたら減額されるのか」と、Q&A「実績報告の経費の一部を対象外とされた――補助金の全額を返すのか、差額だけなのか」で述べています。

手形・相殺・ファクタリング・割賦で支払った経費について補助対象外だと言われた方、取引先との相殺で清算した分が含まれていて銀行振込の記録が残らない方、クレジットカード払いしか選べない取引について事務局から要式の整った資料を求められている方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、実績報告の前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、手引きの該当頁、支払の経過が分かる資料があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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