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弁護士 岸上大起

実績報告の経費の一部を対象外とされた――補助金の全額を返すのか、差額だけなのか

このページの結論

実績報告を出したところ、報告した経費のうち一部は補助の対象にならないと言われました。補助金の全額を返すことになるのでしょうか。それとも、対象外とされた分だけでよいのでしょうか。

補助金適正化法が返還の対象としているのは、確定すべき額をこえて既に交付されている部分です(同法15条、18条2項)。経費の一部が対象外とされたこと自体から、交付を受けた額の全部を返す義務が出てくるわけではありません。全額の返還は、交付決定の全部が取り消され、取消しに係る部分の返還を命じられたとき(同法17条1項、18条1項)に初めて出てくるものです。

もっとも、対象外とされた経費の額がそのまま返還額になるわけでもありません。補助金の額は補助対象経費に補助率を乗じて算出されるのが通例であり、上限額が設けられている場合には、残った適合経費に補助率を乗じた額が交付決定額を下回らない限り、こえる部分は生じないことになります。私見としては、対象外という判断に反論するかどうかを決める前に、この計算を通しておく余地があると考えております。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 「対象外」と言われたときの問いは、二つに分かれます

実績報告を出したあと、確定検査の場や通知の中で、報告した経費のうち一部は補助の対象にならない、と言われることがあります。このとき起きている問いは、条文の上では二つに分かれます。

一つは、その経費を対象外とする判断がそもそも正しいのか、という当否の問いです。もう一つは、対象外とする判断を前提にしたとして、返す額はいくらになるのか、という量の問いです。交付主体から届く書面は、この二つをまとめて書いてくることが多く、読む側も、対象外とされた経費の額をそのまま返すのか、それとも補助金の全額を返すのかが分からないまま、計算書の提出を求められることになります。

このページは、二つめの量の問いだけを扱います。結論を先に申し上げますと、補助金適正化法が返還の対象としているのは、確定した額をこえる部分であって、交付を受けた額の全部ではありません。全額の返還は、交付決定の全部が取り消されたときに初めて出てくるもので、経費の一部が対象外とされたことと同じではないと考えております。

2 法律は、全額を返せとは書いていません――15条と18条2項

補助金適正化法は、額を確定する手続と、返還を命じる手続とを、別の条文に分けて置いています。

引用(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律15条)「各省各庁の長は、補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合においては、報告書等の書類の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、その報告に係る補助事業等の成果が補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、当該補助事業者等に通知しなければならない。」
引用(同法18条2項)「各省各庁の長は、補助事業者等に交付すべき補助金等の額を確定した場合において、すでにその額をこえる補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」

返還を命じる対象は、「その額をこえる」部分です。交付を受けた額の全部ではありません。確定した額と、既に交付された額とを比べ、後者が前者を上回っている分だけが返還の対象になる、という組み立てです。

全額の返還が出てくる経路は、これとは別の条文です。同法17条1項により交付決定が取り消され、同法18条1項により「当該取消に係る部分」について既に交付されている補助金等の返還が命じられる場合です。17条1項は、交付の決定の「全部又は一部を取り消すことができる」と定めています。全額の返還は、全部の取消しがされたときに初めて出てくるものです。経費の一部が対象外とされたことと、交付決定の全部が取り消されることとは、同じことではないと考えております。

交付規程も同じ組み立てです。以下の交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。交付規程の条番号は補助金ごと・版ごとに違いますので、お手元の交付規程で条数を確かめてください。

引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程18条1項・2項)「第18条 中小機構は、前条第1項の実績報告を受けた場合には、報告書等の書類の審査及び必要に応じて現地調査等を行い、その報告に係る補助事業の実施結果が補助金の交付決定の内容(第12条第1項に基づく計画変更の承認をした場合は、その承認された内容)及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定し、様式第8により確定された補助金の額を補助事業者に通知するものとする。なお、補助対象物件や帳簿類の調査ができない場合等、補助金の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないときは、当該物件等に係る金額は補助の対象とならない。
2 中小機構は、補助事業者に交付すべき補助金の額を確定した場合において、既にその額を超える補助金が交付されているときは、その超える部分の補助金の返還を命ずる。」

ここでも、返還の対象は「その超える部分」です。また、1項のなお書きが落とすとしているのは「当該物件等に係る金額」であって、報告した経費の全体ではありません。物件ごと、財産ごとに外れていくという書き方になっています。

これに対し、同交付規程22条1項は取消しの事由を列挙し、同条2項は「前項の取消しをした場合において、既に当該取消しに係る部分に対する補助金が交付されているときは、期限を付して当該補助金の全部又は一部の返還を命ずる」と定めています。つまり、返還命令の根拠が18条2項なのか、22条2項なのかで、額の決まり方が全く違います。お手元の通知書が、どちらの条項を根拠として書かれているのかを先に確かめてください。

3 対象外とされた経費の額が、そのまま返還額になるわけではありません

量の問いを計算に落とすと、二つの段差があります。

補助率の段差

補助金の額は、補助対象経費そのものではなく、補助対象経費に補助率を乗じて算出されるのが通例です。交付規程も、消費税等仕入控除税額を定義する中で「補助率を乗じて得た金額」という言い方をしています(同交付規程21条1項)。そうしますと、対象外とされた経費の額と、返還を命じられる補助金の額とは、はじめから一致しません。対象外とされた経費の額をそのまま納付額として書いた計算書を求められることがありますが、その書き方が交付規程の組み立てに合っているかどうかは、出す前に確かめる余地があると考えております。

上限額の段差

補助金の額には、公募要領で上限額が設けられているのが通例です。交付申請の段階で、補助対象経費に補助率を乗じた額が上限額を上回っていた場合、交付決定額は上限額に合わせて決まっています。この場合、経費の一部が対象外とされても、残った適合経費に補助率を乗じた額が交付決定額を下回らない限り、確定すべき額は交付決定額のままで、18条2項の「その額をこえる」部分は生じないことになります。私見としては、この計算を先に行い、こえる部分が生じないのであれば、その旨を書面で示して返還命令の前に申し述べる余地があると考えております。

計算に必要なものは、交付決定通知書(補助対象経費・補助率・補助金額)、実績報告書に添えた費目別支出明細書、そして対象外とされた経費の一覧と金額です。対象外とされた経費の一覧は、口頭で告げられるだけのことがありますので、どの支出のどの金額が対象外とされたのかを、書面又はメールで示していただくよう求めてください。

次のような場合は、計算書や実績報告の出し直しの前にご相談ください

  • 報告した経費の一部が対象外だと言われ、補助金の全額を返すよう求められている
  • 対象外とされた経費の額が、そのまま返還額として書かれた計算書の提出を求められている
  • 対象外とされた経費がどれなのか、書面では示されていない
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 補助金の「減額」とは何か(Q&A)/返還額はいくらになるのか(計算式と計算例)(コラム)

4 最高裁は、適合する支出の総額と交付額とを比べています

同じ構造の問いについて、最高裁の判断があります。最二小判平成30年11月16日民集72巻6号993頁です。補助金ではなく、地方議会の政務調査費及び政務活動費についての住民訴訟の事件ですが、使途を限定して交付された公金について、報告された支出の一部が否定されたときに、返還の対象が何になるのかを正面から示しています。

引用(最二小判平成30年11月16日の判決要旨。最高裁判所判例解説民事篇(平成30年度)305頁)「政務調査費及び政務活動費につき,具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費等を交付すべきものとは定めておらず,年度ごとに行われる決定に基づき月ごとに一定額を交付し,年度ごとに収支報告を行うこととされ,その返還に関して当該年度における交付額から使途基準に適合した支出の総額を控除して残余がある場合にはこれを返還しなければならない旨の定めがある神奈川県議会政務活動費の交付等に関する条例…に基づいて交付された政務活動費等について,その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても,当該年度において,収支報告書上の支出の総額から実際には存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には,当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は,県に対する不当利得返還義務を負わない。」

注目すべきは、報告された支出の中に実際には存在しない架空のものが混じっていた事案で、それでも返還義務を負わないとされたことです。調査官解説は、その理由を次のように説明しています。

引用(池原桃子・最高裁判所判例解説民事篇(平成30年度)317頁)「交付額を上回る支出の総額を計上する収支報告書を提出した場合において,その支出の総額に架空の支出が含まれていたとしても,使途基準に適合する支出の総額が交付額を下回らない限りは,当該架空の支出のために政務活動費等を取得したとの評価をすることは困難であるといえよう。」

私見としては、補助金についても、この比べ方を立てる余地があると考えております。補助金適正化法18条2項が返還の対象を「その額をこえる」部分としているのは、確定すべき額と現に交付された額とを比べる構造であり、適合する支出の総額と交付額とを比べた平成30年判決の構造と重なります。そして、適合する支出の総額に補助率を乗じた額が交付決定額を下回らないのであれば、こえる部分は生じないことになります。

ただし、政務活動費は、使途基準に適合する支出の総額をそのまま交付額と比べる仕組み(総額記載方式)であり、補助金は、補助対象経費に補助率を乗じ、上限額で切るという仕組みです。比べ方の「ものさし」が同じではありませんので、補助金の側では、前記3の二つの段差を踏んだうえで比べることになると考えております。

5 同じようには言えない場合

調査官解説は、射程について自ら限定を置いています。

引用(同318頁)「以上の解釈は,新旧条例の下におけるものであるから,政務活動費等に関する条例に,本件返還規定のように残余について返還義務があることをいう規定とは別に,違法な支出が認められた場合等に残余の有無とは関係なく返還義務を定める規定が存在する場合には,異なる結論となる可能性はある。」

補助金では、まさにこの「残余の有無とは関係なく返還義務を定める規定」に当たるものとして、交付決定の取消しの規定が置かれています。交付規程22条1項の取消事由に当たるとして交付決定が取り消され、同条2項により取消しに係る部分の返還が命じられる経路です。この経路に入ると、問題は量から、取消しをするかどうか、どの範囲で取り消すかという裁量の問題に移ります。この点は、Q&A「補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか」と、コラム「補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのか――裁判例紹介:名古屋地判平成4年4月23日・名古屋高判平成5年2月23日」で述べています。取消しの前にすべきことは、コラム「補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか」にあります。

また、報告された支出が実際には存在しないと見られている場合には、返還の額とは別に、不正の手段により交付を受けたのではないかという問題が重なります。この点は、Q&A「「不正受給だ」と言われた――刑事罰を受けることになるのか」で述べています。

報告書に載せていない経費を、後から足せるのか

量の問いには、もう一つの枝があります。対象外とされた経費を外すと適合経費が足りなくなる場合に、実績報告に計上していない適合経費を後から足して比べることができるのか、という問題です。調査官解説は、政務活動費についてこの問題を取り上げ、「この点,京都地判平成16年9月15日はこれを肯定するようである」とした上で、当該地方公共団体の条例や取扱いにおいて、収支報告書の支出に何を計上すべきとされているのか、収支報告書の記載内容の訂正が許容されているのかなどの事情にもよるように思われるとしています(同318頁)。この京都地判と、同解説の注が参照する文献(碓井光明『政府経費法精義』438〜439頁。同320頁注14)については、当職は原本を確認しておりませんので、引用は同解説の記述の限度にとどめます。

補助金では、実績報告書に添える費目別支出明細書に何を計上すべきとされているのか、そして実績報告の訂正・出し直しが認められているのかが、同じ役割を果たすことになります。私見としては、補助対象経費に計上していないが補助事業に要した支出が帳簿に残っているのであれば、それを示して比べ直すよう求める余地があると考えております。

6 お手元で確かめていただく順番

  • 届いた書面が、額の確定の通知なのか、返還命令なのか、取消しの通知なのかを分けます。根拠として書かれている条項(交付規程18条2項か、22条1項・2項か)を書き出してください。
  • 対象外とされた支出が、どの支出のどの金額なのかを、書面又はメールで示していただくよう求めます。口頭のやり取りだけでは、後から確かめることができません。
  • 交付決定通知書の補助対象経費・補助率・補助金額を書き出し、対象外とされた額を除いた適合経費に補助率を乗じた額が、交付決定額を下回るかどうかを計算します。下回らないのであれば、こえる部分が生じないことになります。
  • 下回る場合は、その差額がいくらになるのかを自ら計算し、交付主体の示す額と突き合わせます。対象外とされた経費の額そのものが納付額として書かれていないかを確かめてください。
  • 補助対象経費に計上していないが補助事業に要した支出が帳簿に残っていないかを洗います(前記5)。
  • 期限を確かめます。同交付規程18条3項は、同条2項の返還期限を命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない場合は未納の金額に対して年利10.95パーセントの割合で計算した延滞金を徴するものとしています。加算金・延滞金の考え方は、Q&A「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
  • 不服の申立先と期間を確かめます。宛先と期間はQ&A「交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」、出訴期間はQ&A「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」で述べています。

量の問いは、計算の問いです。計算は、交付決定通知書と実績報告の控えが手元にあれば、その日のうちに一度は通せます。対象外という判断に反論するかどうかを決める前に、この計算を通しておいていただくと、仮に反論が通らなかった場合でも、返す額がいくらで止まるのかが分かります。

報告した経費の一部を対象外とされ、補助金の全額を返すよう求められている事業者の方、顧問先・支援先から返還額の計算についてご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、計算書や実績報告の出し直しをお出しになる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、実績報告書(費目別支出明細書を含む)、対象外とされた経費が分かる書面があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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