執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 公式の説明――よくあるご質問「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q2
事業再構築補助金のよくあるご質問は、「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」というカテゴリのQ2に、次の問答を載せています(以下、公式資料の閲覧日はいずれも2026年10月23日です)。
引用(よくあるご質問「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q2)「Q 採択金額よりも低い金額で交付決定されたが、経費の変更が生じたため、交付決定額を増額したい。 A いかなる理由であっても、交付決定額の増額変更はできません。」
「いかなる理由であっても」「できません」という書き方です。例外の余地をすべて否定する形で、交付主体の側に判断の幅がないと述べています。同じ型の記述は、ほかのカテゴリにもあります。交付決定前の事業承継について「いかなる理由においても認められません」と書かれている例は、Q&A「採択の後に会社分割や事業譲渡をしたのですが、公募要領には交付決定前の承継は『いかなる理由においても認められません』と書かれています」で取り上げました。本稿が扱うのは、金額の変更について同じ型が使われている箇所です。
2 適正化法10条1項は「その決定の内容……を変更することができる」と定めています
まず、法律の文言を確かめます。本補助金の交付については、交付規程1条が、補助金適正化法、同法施行令、独立行政法人中小企業基盤整備機構法及びその他の法令の定めによるほか、同規程の定めるところによるとしています(適正化法の規定は中小機構法16条による準用です)。その適正化法は、交付決定をした後の変更について、次の条文を置いています。
引用(補助金適正化法10条1項)「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定をした場合において、その後の事情の変更により特別の必要が生じたときは、補助金等の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又はその決定の内容若しくはこれに附した条件を変更することができる。ただし、補助事業等のうちすでに経過した期間に係る部分については、この限りでない。」
交付決定の内容を「変更することができる」と、正面から定めています。そして、条文は変更の方向を限定していません。減らす方向の変更だけを認める文言にはなっていません。
もう一つ、条文の作りに注意すべき点があります。同条2項は、「各省各庁の長が前項の規定により補助金等の交付の決定を取り消すことができる場合は、天災地変その他補助金等の交付の決定後生じた事情の変更により補助事業等の全部又は一部を継続する必要がなくなつた場合その他政令で定める特に必要な場合に限る。」としています。限定がかかっているのは、「取り消す」場合だけです。政令の側も、施行令5条が「法第十条第二項に規定する政令で定める特に必要な場合」を定めているにとどまります。内容の変更について、同じ限定は置かれていません。
3 交付規程自身が、金額の変更を前提に書かれています
以下で引く交付規程は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。最終改正 規程令7第5号)です。計画変更の承認について、同規程12条は次のように定めています。
引用(同交付規程12条2項)「中小機構は、前項の承認をする場合において、必要に応じ交付の決定の内容を変更し、又は条件を付することができる。」
計画変更を承認する場面で、交付決定の内容を変更する権限を、中小機構自身に与えた条項です。ここでも、変更の方向は限定されていません。
金額の変更があり得ることを、より直接に書いている条項もあります。債権譲渡に関する14条2項3号です。
引用(同交付規程14条2項3号)「中小機構は、補助事業者による債権譲渡後も、補助事業者との協議のみにより、補助金の額その他の交付決定の変更を行うことがあり、この場合、債権を譲り受けた者は異議を申し立てず、当該交付決定の内容の変更により、譲渡対象債権の内容に影響が及ぶ場合の対応については、専ら補助事業者と債権を譲り受けた者の間の協議により決定されなければならないこと。」
「補助金の額その他の交付決定の変更を行うことがあり」と書かれています。金額の変更があり得ることを前提に、譲受人に異議を申し立てさせないための条項を置いているわけです。
額の確定の条項も、同じ方向です。18条1項は、実績報告を受けた場合に、「その報告に係る補助事業の実施結果が補助金の交付決定の内容(第12条第1項に基づく計画変更の承認をした場合は、その承認された内容)及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定し」とします。確定の基準となるのは、当初の交付決定の内容ではなく、承認された変更後の内容です。計画変更の承認によって交付決定の内容が動き、その動いた内容を基準に額が確定される、という建てつけになっています。
さらに、取消しの条項(22条1項)の柱書も、「第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる。」としています。「変更」という手段が、規程のあちこちに置かれているのです。
私見としては、「いかなる理由であっても……できません」という回答は、12条2項が中小機構自身に与えた権限と、14条2項3号が前提にしている「補助金の額……の交付決定の変更」を説明できていないと言わざるを得ません。
4 交付決定額が上限であることと、例外のない禁止であることは別です
ここで、公平に申し上げておきます。交付される補助金の額が交付決定額を超えないという運用そのものは、条文の建てつけと矛盾しません。交付規程4条1項は「補助対象経費……について予算の範囲内で補助金を交付する」とし、同条2項は補助対象経費の区分、補助率、下限額及び上限額を別紙に委ねています。適正化法15条の額の確定は、報告された成果が交付決定の内容と条件に適合するかどうかを調査する手続であり、交付規程18条2項・同法18条は、確定額を超える交付がされていたときの返還を定めています。経費が増えたからといって、その分が自動的に補助金として支払われる仕組みにはなっていません。
ですから、本稿が問題にしているのは、結論として増額が通りにくいことではありません。問題にしているのは、「いかなる理由であっても」という書き方です。この書き方は、交付主体の側に判断の余地がないと読者に伝えます。しかし、判断の余地を与えているのは、ほかの誰でもなく交付規程12条2項です。例外のない禁止として書くのであれば、その根拠となる条項が示されていなければならないはずですが、回答には何も挙げられていません。
この書き方には、実務上の副作用もあります。経費が増えた事業者に本当に必要なのは、総額の増額だけではありません。補助対象経費の区分ごとの配分を組み替えることで吸収できるかどうか、計画の内容を見直せるかどうか、という検討です。交付規程12条1項1号は、配分された額を変更しようとするときは承認を受けなければならないとしつつ、「各配分額の10パーセント以内の流用増減」を承認の対象から外しています。「増額変更はできません」の一行で話が終われば、この手当てを検討する機会まで失われます。
なお、「採択金額よりも低い金額で交付決定された」という設問の前半それ自体は、別の論点です。申請額より少ない金額での交付決定は、適正化法6条3項の修正を加えた交付決定であり、同条4項は「その申請に係る当該補助事業等の遂行を不当に困難とさせないようにしなければならない。」と修正の限界を定めています。この点は、Q&A「申請した金額より少ない交付決定が来た――自己負担が増える。到底できないと言えるのか」で正面から扱っていますので、本稿では立ち入りません。
5 公式の説明は、一方当事者の見解です
中小機構・中小企業庁・各事務局の説明は、公正な第三者による解説ではなく、補助金をめぐる紛争の一方当事者の見解です。通説が説いていない立場を強く主張しているものもあります。公式の説明だからと鵜呑みにするのは非常に危険です。
本件について申し上げれば、次のとおりです。適正化法10条1項は、交付決定の内容を「変更することができる」と定め、変更の方向を限定していません。取消しの方だけに、同条2項と施行令5条の限定がかかっています。交付規程12条2項は、計画変更の承認をする場合に交付の決定の内容を変更することができるとし、14条2項3号は「補助金の額その他の交付決定の変更を行うことがあり」と書き、18条1項は確定の基準を「承認された内容」としています。それにもかかわらず、よくあるご質問は「いかなる理由であっても、交付決定額の増額変更はできません。」と答えています。
申し上げているのは、公式の説明に従わなくてよい、ということではありません。承認を受けずに計画を変えてしまえば、交付規程12条1項の違反として扱われ、22条1項1号の取消事由にもつながります。申し上げているのは、公式の説明が「いかなる理由であっても」と閉ざしている場面にも、条文と交付規程の側には判断の余地が残されている、ということです。書かれていないことは、ないことと同じではありません。
次のような場合は、手続に入られる前にご相談ください
- 資材費や工事費が上がり、交付決定額では計画どおりの設備が入らない
- 事務局に増額の相談をしたところ、「いかなる理由であっても増額はできません」と言われた
- 経費の区分を組み替えたいが、どこまでが承認を要する変更なのか分からない
6 経費が増えたときに、順序を誤らないために
実務では、次の順に整理していただくのがよいと考えております。
- (1)総額の増額を求める話なのか、配分の組み替えで足りる話なのかを分ける。交付規程12条1項1号は、補助対象経費の区分ごとに配分された額を変更しようとするときは承認を受けなければならないとしたうえで、各配分額の10パーセント以内の流用増減を除いています。増えた経費を別の区分の減りで吸収できるのであれば、総額の増額を求めるまでもありません。どの区分がいくら増え、どの区分がいくら減るのかを、先に表に落としてください。
- (2)承認を受けないまま、内容を変えてしまわない。承認の対象となる変更を承認なく実施してしまうと、争点が「増額が認められるか」から「違反があったか」に移ってしまいます。どこまでが軽微な変更として承認を要しないのかは、Q&A「補助事業の計画はどこまで変えたら承認が必要か」で述べています。
- (3)求めるなら、根拠の条項を書いて、書面で求める。増額を含む変更を求めるのであれば、交付規程12条1項の承認申請書(様式第3)の中で、どの事情が変更されたのか、その結果として交付決定の内容のどこを変更する必要があるのかを特定し、同条2項により交付の決定の内容を変更することを求める形にしてください。よくあるご質問の一行を引いて口頭で断られた場合でも、書面で求めておけば、判断の有無と理由が記録に残ります。
- (4)交付決定の金額それ自体に不服があるなら、期限が短いことに注意する。交付規程10条は、交付決定の内容又はこれに付された条件に不服があり、交付の申請を取り下げようとするときは、「当該通知を受けた日から10日以内」に書面で申し出なければならないとしています。10日です。増額の相談を続けているうちに過ぎてしまう長さですので、交付決定通知書を受け取った段階で、金額のまま進めるのかどうかを決めておく必要があります。
- (5)額の確定の段階で「対象外」とされる場合と混同しない。増やした分が補助対象経費として認められるかどうかは、確定の段階でも問題になります。確定の手続と減額の意味は、Q&A「補助金の『減額』とは何か」と、コラム「額の確定(補助金適正化法15条)とは何か」で述べています。
最後に一つ申し上げます。増額が認められるかどうかは、交付主体の判断にかかる部分が大きく、求めれば通るというものではありません。それでも、「いかなる理由であっても」という一行で検討を終えてしまうと、使える手当てを探さないまま自己負担を増やすことになります。経費が増えた時点で、配分の組み替え、計画の見直し、承認申請の順序を一度に整理しておくことが、結果としていちばん損の少ない進め方になると考えております。
資材費や工事費の上昇で交付決定額では計画どおりの設備が入らない事業者の方、事務局に増額の相談をして「いかなる理由であっても増額はできません」と言われた方、経費の区分の組み替えがどこまで承認を要するのか分からない方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、承認申請を出される前にご相談ください。交付決定通知書、交付申請時の経費の内訳、増えた経費の見積書があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法10条1項(各省各庁の長は、補助金等の交付の決定をした場合において、その後の事情の変更により特別の必要が生じたときは、補助金等の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又はその決定の内容若しくはこれに附した条件を変更することができる。ただし、補助事業等のうちすでに経過した期間に係る部分については、この限りでない)、同条2項(取り消すことができる場合は、天災地変その他補助金等の交付の決定後生じた事情の変更により補助事業等の全部又は一部を継続する必要がなくなつた場合その他政令で定める特に必要な場合に限る=限定は取消しの側にのみ置かれている)
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令5条(法10条2項に規定する政令で定める特に必要な場合=補助事業等を遂行するため必要な土地その他の手段を使用することができないこと、補助金等によつてまかなわれる部分以外の部分を負担することができないことその他の理由により補助事業等を遂行することができない場合(補助事業者等の責に帰すべき事情による場合を除く))
- 補助金適正化法6条3項(適正な交付を行うため必要があるときは、補助金等の交付の申請に係る事項につき修正を加えて交付の決定をすることができる)、同条4項(修正を加えてその交付の決定をするに当つては、その申請に係る当該補助事業等の遂行を不当に困難とさせないようにしなければならない)
- 補助金適正化法15条(補助金等の額の確定等。報告に係る補助事業等の成果が交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、通知しなければならない)
- 補助金適正化法18条2項(補助事業者等に交付すべき補助金等の額を確定した場合において、すでにその額をこえる補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条(機構が交付する助成金について、補助金適正化法の規定を準用する。「各省各庁の長」は機構の理事長と読み替える)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。最終改正 規程令7第5号。2026年10月23日閲覧)1条(本補助金の交付については、適正化法、同施行令、独立行政法人中小企業基盤整備機構法及びその他の法令の定めによるほか、この規程の定めるところによる)〔同規程1頁〕、4条1項(補助対象経費について予算の範囲内で補助金を交付する)・2項(補助対象経費の区分、補助率並びに下限額及び上限額は別紙2のとおり)〔同規程1頁〕、10条(交付の決定の内容又はこれに付された条件に対して不服があり、補助金の交付の申請を取り下げようとするときは、当該通知を受けた日から10日以内にその旨を記載した書面をもって中小機構に申し出なければならない)〔同規程3頁〕、12条1項1号(補助対象経費の区分ごとに配分された額を変更しようとするときは、あらかじめ様式第3-1、様式第3-2又は様式第3-3のいずれかによる承認申請書を提出し、その承認を受けなければならない。ただし、各配分額の10パーセント以内の流用増減を除く)・3号(補助事業の内容を変更しようとするとき。ただし軽微な変更を除く)〔同規程3頁〕、12条2項(中小機構は、前項の承認をする場合において、必要に応じ交付の決定の内容を変更し、又は条件を付することができる)〔同規程4頁〕、14条2項3号(中小機構は、補助事業者による債権譲渡後も、補助事業者との協議のみにより、補助金の額その他の交付決定の変更を行うことがあり……)〔同規程5頁〕、18条1項(その報告に係る補助事業の実施結果が補助金の交付決定の内容(第12条第1項に基づく計画変更の承認をした場合は、その承認された内容)及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定し……)・2項(既にその額を超える補助金が交付されているときは、その超える部分の補助金の返還を命ずる)〔同規程5〜6頁〕、22条1項柱書(第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる)・同項1号(補助事業者が、法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合)〔同規程6〜7頁〕
- 事業再構築補助金「よくあるご質問」(事業再構築補助金事務局。2026年10月23日閲覧)「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q2(「Q 採択金額よりも低い金額で交付決定されたが、経費の変更が生じたため、交付決定額を増額したい。 A いかなる理由であっても、交付決定額の増額変更はできません。」。表示データは同サイトの faq.json の id faq0048)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』447頁(資料編。適正化法10条と同法施行令5条が対照で掲げられている頁)(株式会社全国会計職員協会、2016)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。