執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 事前通知とは何か――まだ取消しはされていない
事前通知は、交付決定を取り消す予定であることを、処分の前に知らせる書面です。「交付決定の取消しについて(事前通知)」「意見を述べる機会の付与について」など、表題は交付する側によって異なります。大切なのは、この書面が届いた時点では、まだ取消しはされていないということです。
取消しがされた後は、中小機構が直接交付する補助金であれば取消訴訟、事務局が交付主体となる補助金であれば返還義務がないことの確認を求める訴訟で争うことになります。いずれも、相手方の判断が既に出てしまった後の手続です。これに対し、事前通知の段階は、相手方がまだ判断をしていない段階ですから、こちらの説明によって結論そのものが変わり得ます。事前通知に対して意見を述べることは、取消しを回避するための最初にして最大の機会です。
実際の事案でも、事前通知に対する意見の中で、何が問題とされているのか、それが法律上の取消事由に当たらないのはなぜかを、資料に基づいて具体的に示すことが出発点になります。重複受給を理由とする取消しの事前通知については、コラム「重複受給を理由に交付決定を取り消すことはできるのか」で、示すべき内容を詳しく述べています。
2 行政手続法の聴聞・弁明の手続は適用されない
行政手続法は、行政庁が不利益処分をしようとする場合について、処分の種類の区分に従い、聴聞又は弁明の機会の付与という意見陳述のための手続を執らなければならないと定めています(行政手続法13条1項)。弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明書という書面を提出して行うものとされ(同法29条1項)、行政庁は、予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項、その原因となる事実、弁明書の提出先及び提出期限を書面で通知しなければならないとされています(同法30条)。
もっとも、これらの規定は、補助金の場面には適用されません。補助金等の交付に関する処分については、行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3章(不利益処分)の規定を適用しないと定められているからです(補助金適正化法24条の2)。聴聞・弁明の機会の付与は、いずれも第3章に置かれた手続ですので、補助金の交付決定の取消しには及びません。解説記事の中には、補助金の取消しの場面で行政手続法29条・30条の弁明の機会に言及するものが見られますが、条文上はそうなっていません。
引用(補助金適正化法24条の2)「補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」
意見を述べる機会は、何に基づくものなのか
そうすると、事前通知による意見の聴取は、法律が義務づけた手続ではなく、交付する側が自ら設けた手続だということになります。したがって、期限・方法・様式は、事前通知の記載によります。「弁明書」という様式が用意されているとは限りませんし、書面ではなく面談を提案されることもあります。法律上の手続ではないからこそ、述べたことを形に残すかどうかは、こちらの側の進め方によって決まります。
他方、理由を示すことは法律上の義務である
意見陳述の手続とは別に、交付決定の取消しをするときにその理由を示すことは、法律上の義務です(補助金適正化法21条の2)。事業再構築補助金など、中小機構が直接交付する補助金は、中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付されており、同法16条により補助金適正化法が準用されますので、この義務も及びます。理由の提示は、処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を図る趣旨によるものと解されています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』291〜292頁(株式会社全国会計職員協会、2016))。
事前通知そのものについて、理由を示す義務が定められているわけではありません。もっとも、事前通知に書かれた理由は、後に出される取消通知書の理由の下敷きになるものです。取消しの際の理由の提示が十分といえるかという論点については、コラム「取消しの処分性と理由付記の不備」で詳しく述べています。
次のような場合は、手続が進む前にご相談ください
- 交付決定の取消しの事前通知(意見を述べる機会の通知)が届いた
- 意見を述べる期限が迫っている
事前通知への対応については、こちらもご覧ください: 交付決定の取消し・返還請求(対応ページ)/取消しに裁量はあるのか(Q&A)
3 事前通知が届いたら確認すること・集めること
まず、事前通知そのものを読み、次の点を確認します。
- 期限。いつまでに、どのような方法で意見を述べることとされているか。最初に確認すべき点です。
- 指摘されている事実。どの事実が問題とされているのかを、事前通知の記載から特定します。記載が抽象的であれば、どの事実を指しているのかが分からないこと自体を書き留めておきます。
- その事実が、補助金適正化法17条1項所定の3つの取消事由――①補助金の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件(補助条件)への違反、③法令又はこれに基づく処分への違反――のどれに当たるとされているか。3つのどれにも当たらなければ、交付決定を取り消すことはできません(小滝・前掲243〜245頁)。
- 根拠として何が挙げられているか。交付規程22条1項各号だけが挙げられている場合、取消しの根拠は交付規程ではなく補助金適正化法17条1項ですから(交付規程は中小機構の内部的な規範にすぎないと考えております。山本拓・最高裁判所判例解説民事篇令和5年度551頁参照)、3つの取消事由のどれに当たるとされているのかを確かめる必要があります。
- 是正の機会が与えられているか。補助金適正化法は、補助事業等の完了又は廃止に係る成果の報告を受けた場合において、その報告に係る成果が交付決定の内容及びこれに附した条件に適合しないと認めるときは、適合させるための措置をとるべきことを命ずることができると定めています(同法16条)。実績報告の内容に関わる指摘であれば、直ちに取消しに進むほかに、この措置命令という選択肢があることになります。実績報告より前の段階での指摘には、この条文は及びません。
そのうえで、手元に次の資料を集めます。
- 交付決定通知書(附された条件の全文)と、そこで引用されている交付規程
- 事業計画書・交付申請書
- 実績報告書と、その添付資料
- 経費の明細と、支払を裏付ける資料(見積書・注文書・請求書・領収書・振込の記録)
- 交付する側・事務局とのやり取り(メール、面談の記録、指示を受けた書面)
この5点がそろえば、指摘されている事実が本当にあったのか、あったとして3つの取消事由のどれかに当たるのかを、こちらの側から具体的に示せるようになります。交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なりますので、条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程で確認してください。
4 意見は書面で、期限までに
- 期限までに出す。期限内に出せない事情があるときは、期限が来る前に、理由を示して延長を書面で求めます。
- 面談だけで済ませない。面談を提案された場合も、述べた内容は書面にして提出します。口頭でのやり取りは、後から何を述べたのかを示すことができません。
- 事実と評価を分けて書く。「そのような事実はない」のか、「事実はあるが取消事由に当たらない」のかは、まったく別の主張です。
- 資料で示せることは資料で示す。経費が重なっていないこと、設備が補助事業に使われていることなどは、明細や写真で示せます。
- 控えを残す。提出した書面と添付資料は、提出の日付と提出先が分かる形で控えを取っておきます。
- やり取りは書面で。電話で説明を受けたときも、その内容を書面又はメールで確認しておきます。後に争うことになった場合、何がいつ言われたのかが資料として残っているかどうかで、主張の立て方が変わります。
5 取消しがされた後はどうなるか
意見を述べても、取消しがされることがあります。その場合の争い方は、補助金の種類によって分かれます。
事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金のように、中小機構が直接交付する補助金の交付決定の取消しは、行政処分に当たると考えられます。取消訴訟で争うことができますが、原則として、処分があったことを知った日から6か月を経過すると提起することができません(行政事件訴訟法14条1項。ただし、正当な理由があるときはこの限りでないとされています)。また、取消訴訟を提起することができる処分をする場合には、被告とすべき者と出訴期間を書面で教示しなければならないとされていますが(同法46条1項)、これがされていない事案も見受けられます。
これに対し、IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)、小規模事業者持続化補助金のように、事務局が交付主体となる補助金は、事務局との負担付贈与契約と解されます。この類型での「取消し」の法的な正体は契約の解除であり、返還義務がないことの確認を求める訴訟(債務不存在確認訴訟)で争うことになります。行政事件訴訟法の出訴期間の定めは適用されませんが、返還を求められたまま時間を置いてよいわけではありません。どちらの類型に当たるかは、交付決定通知書の主語が「中小機構は」か「事務局は」かが最初の見分け方になります。
いずれの類型でも、事前通知の段階で何を書面に残したかが、その後の手続で使える資料になります。取消しを回避できた場合はもちろん、回避できなかった場合にも、そこで示した事実と資料が次の段階の土台になります。
交付決定の取消しの事前通知を受け取った事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、意見を述べる期限が来る前にご相談ください。事前通知、交付決定通知書、実績報告の控えがあれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法16条、17条1項、21条の2、24条の2
- 行政手続法13条1項・2項4号、29条1項、30条(第3章=不利益処分)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条
- 行政事件訴訟法14条1項、46条1項
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程22条1項
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』291〜292頁(理由提示の趣旨)、243〜245頁(取消事由の3類型)(株式会社全国会計職員協会、2016)
- 山本拓・最高裁判所判例解説民事篇令和5年度551頁(交付要綱は内部的な規範であり国民に対して直接の法的効力を有しないこと)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
関連ページ
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。