執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 納付額の算定式は、どこに書かれているのか
補助金で取得した設備や内装を処分制限期間の途中で手放すとき、承認と引換えに、補助金の一部を納付するよう求められます。このとき、金額がどのように計算されるのかを定めた文書は、補助金ごとに置き場所が違います。確かめる順番は、次のとおりです。
- 交付決定通知書そのものと、その別表。自治体の補助金では、交付決定通知書に別表が付き、納付額の算式と各項目の定義がそこに書かれている例があります。自治体の規則・要綱・承認基準に算式が置かれている例もあります。
- 交付規程・交付要綱。中小機構が交付する補助金では、承認と、承認に付される納付の条件の根拠は、補助金適正化法22条の仕組み(中小機構法16条により準用されます)にあり、交付規程は、その運用として、処分制限財産に係る補助金額を限度として納付させることができるとし、処分については通達の各規定を踏まえて取り扱うと定めています(交付規程24条6項)。このページで引く交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。
- 通達・取扱い。国の補助金については「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・06・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日。全9頁。以下「会課第5号」といいます)の4.が算定方法を定めています。小規模事業者持続化補助金については、事務局が定めた財産処分の取扱い(後記3)が、交付規程の条文を受けて算定方法を定めています。
このページで扱うのは、その算定式の中に「処分のために払った撤去費・取壊し費を差し引く」という項目があるかどうか、あるとして、それが実際の計算で使われているかどうか、という一点です。残存簿価相当額の求め方そのものは、Q&A「残存簿価相当額」は、当社の帳簿の簿価ではないのかで、業者の見積額を「鑑定評価額」として扱う問題は、Q&A3者から見積りを取ると、いちばん高い金額で納付額が決まるのかで、事業再構築補助金の計算式と計算例は、コラム補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢で述べています。
2 控除項目があるのに、空欄のまま試算が届く
自治体の補助金の交付決定通知書の別表や交付要綱に、納付額の算式が書かれている例があります。その算式の中には、処分により得た収入から、補助事業の終了後に加えた加工費や処分のための撤去費等を差し引いた額を出発点にする組立てのものがあります。設備や内装を撤去するとき、撤去費や解体費は事業者が自分で払いますので、この種の項目は、その費用を、納付額を計算する前の段階で差し引くことを予定しているものです。
ただし、この組立ては、有償譲渡のように、処分によって収入を得た場合に働くものです。収入のない取壊し・廃棄では、差し引く元になる収入がありませんので、この項目に金額を入れても納付額は動きません。収入のない撤去の場面で撤去費用がどう扱われるかは、残存簿価相当額から控除すると定める持続化取扱い4条4号(後記3)が本体です。自分の補助金の算式が、収入から引く組立てなのか、残存簿価相当額から引く組立てなのかを、先に見分けてください。
ところが、交付した側が最初に示してくる試算表では、控除の項目があっても、その欄にゼロが入ったまま計算されていることがあります。交付した側は、事業者がいくらの撤去費を払ったのかを知りません。撤去の見積書や請求書は事業者の手元にしかなく、こちらから金額と証憑を出さない限り、ゼロのまま額が決まります。別表に控除の項目が置かれていても、それだけで控除されるわけではない、ということです。
試算表が届いたら、算式のどの項目に、いくらが入っているのかを一つずつ見てください。控除の項目がゼロになっていれば、その項目の定義に当たる費用を自分で集計し、証憑を添えて、計算に入れるよう書面で求めることになります。何を揃えるかは、後記5で述べます。
3 小規模事業者持続化補助金の取扱いは、撤去費用等を差し引いてから補助率を乗じると定めている
控除の項目を明文で置いている例は、自治体の補助金に限りません。小規模事業者持続化補助金(商工会議所地区)では、事務局が定めた「『小規模事業者持続化補助金』<一般型>において補助事業者が補助対象経費により取得し、または効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(2024年3月28日制定。商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金事務局。以下「持続化取扱い」といいます)が、納付額の算定を4条で定めています。以下の引用は、同取扱いの2頁からのものです。
引用(持続化取扱い4条1号・2号)「(1)有償譲渡又は有償貸付けに係る納付額は、処分制限財産に係る補助金額を上限として、譲渡金額又は貸付金額(ただし、当該譲渡金額又は貸付金額が残存簿価相当額又は鑑定評価を行った場合の鑑定評価額に比して著しく低価である場合において、その理由を合理的に説明することができないときは、残存簿価相当額又は鑑定評価額)に補助率(補助金交付額が補助対象経費総額に占める割合。以下同じ。)を乗じて得た額とする。」
「(2)転用、無償譲渡、無償貸付け、交換、取壊し又は廃棄の場合の納付額は、処分制限財産に係る補助金額を上限として、残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額とする。ただし、鑑定評価を行う場合には、鑑定評価額に補助率を乗じた金額と前記の金額で高い方とする。」
ここまでは、後記4で見る会課第5号の4.とほぼ同じ組立てです。持続化取扱いは、その後に、もう一つの号を置いています。
引用(持続化取扱い4条4号)「(4)前記(1)及び(2)において、処分のための撤去費用等が生じる場合は、譲渡金額、貸付金額又は残存簿価相当額等から当該費用の額を控除した後、補助率を乗じるものとする。」
読み方は、文言のとおりです。有償譲渡であれば譲渡金額から、無償譲渡・取壊し・廃棄であれば残存簿価相当額から、処分のための撤去費用等を差し引き、その残りに補助率を乗じます。控除は「乗じる前」です。補助率を乗じた後の納付額から撤去費を引くのではありません。
数字を置いて確かめます。以下は説明のための仮の数字です。残存簿価相当額が90万円、処分のための撤去費用が30万円、補助率が3分の2の設備を廃棄したとします。4条4号を使わなければ、納付額は90万円×3分の2=60万円です。4条4号を使えば、(90万円-30万円)×3分の2=40万円です。差は撤去費用の3分の2、20万円です。撤去費用の全額が納付額から引かれるのではなく、補助率を乗じた分だけ減る、という関係になります。
持続化取扱いの「取壊し」と「廃棄」は、2条1項6号・7号で、処分制限財産の使用を止め、取壊すこと、使用を止め、廃棄処分することと定義されています。取壊し・廃棄に当たっての解体費・運搬費・処分費は、「処分のための撤去費用等」の中心になる費用です。
納付の条件を付さないことができる場合も、同じ取扱いに書かれています
持続化取扱いは、承認をする場合には原則として納付の条件を付すとしたうえで(3条1項)、次の定めを置いています。
引用(持続化取扱い3条3項)「前2項の規定に関わらず、事情を勘案して、納付の条件を付さないことができる。」
撤去費用の控除は「いくら納付するか」の問題で、3条3項は「納付させるか否か」の問題です。順番としては、まず3条3項の事情――事業の継続が難しくなった経緯、撤去に至った理由――を申請書に書いて納付の条件を付さないよう求め、それが通らない場合に備えて、4条4号による控除後の額を自分で計算して示しておく、という組立てになります。納付の条件を付さないことができる場合の考え方は、国の通達についてのものですが、Q&A通達の『国庫納付条件を付さないことができる場合』を検討しないまま納付を命じられたらで述べています。
4 会課第5号の算定の定めには、控除の項目がない
国の補助金と、中小機構が交付する補助金(事業再構築補助金など)では、どうか。交付規程24条6項が踏まえるものとして挙げる会課第5号の「4.国庫納付額の算定について」を、全9頁の原本で確かめました。同4.(1)は、有償譲渡又は有償貸付けについて、譲渡額又は貸付額に補助率を乗じて得た額とし、同4.(2)は、転用、無償譲渡、無償貸付け、交換、取壊し又は廃棄について、残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額としています(3頁。条文の引用は前記コラム「補助事業を続けられないとき」の9にあります)。持続化取扱い4条4号に当たる、撤去費用等を控除する旨の定めは、会課第5号にはありません。事業再構築補助金の公式の「よくあるご質問」が示す計算式(D=A×C/B)にも、控除の項目はありません。
控除の定めがないことが、控除を求めることができないことを意味するわけではないと考える余地があります。理由は二つあります。
第一に、納付の条件を付す権限の所在です。中小機構が交付する補助金で、処分の承認に納付の条件を付すことができる根拠は、交付規程ではなく、補助金適正化法22条の仕組み(中小機構法16条により準用されます)にあります。交付規程は、中小機構が定めた行政内部の規律であり、その24条6項は、この権限の行使について、処分制限財産に係る補助金額を「限度として、納付させることができる」とし、処分については会課第5号の各規定を踏まえ取り扱うとしています。納付の条件を付すかどうか、いくらとするかは、22条の承認に条件を付す権限に属する判断であり、交付規程24条6項と会課第5号は、その判断の基準です。会課第5号は、判断に当たって踏まえる基準であって、これと異なる額とすることを法令が禁じているわけではありません。この基準が裁量基準として働くという見方は、前記Q&A「通達の『国庫納付条件を付さないことができる場合』を検討しないまま納付を命じられたら」で述べています。裁量の範囲で額を決めるのであれば、処分のために事業者が現に負担した費用を考慮に入れることは、同じ判断の中でできることであると考える余地があります。
第二に、補助金適正化法7条4項です。同項は、交付の決定に附する条件は公正なものでなければならず、交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉するようなものであってはならないと定めています(中小機構が交付する補助金には中小機構法16条により準用されます)。同項は、直接には交付の決定に附する条件についての規定です。しかし、小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』168〜169頁は、行政行為の附款は目的に照らし必要な限度にとどまらなければならないという比例原則が一般に妥当するから「附款の限界について、特に法律上明示した規定を設けるまでもないものと考えられる」としたうえで、同項を「確認的規定」と位置づけています。承認に付される納付の条件も行政行為の附款ですから、同じ限界に服します。この橋渡しは、コラム残存簿価相当額の納付命令とその限界の6でも述べています。
そのうえで、持続化取扱いとの関係です。持続化取扱いは、経済産業省の通達ではなく、商工会議所地区の事務局が定めたもので、納付先も同事務局です。会課第5号とは、定めた主体も納付先も違いますので、両者を同列に置いて均衡を言うことはできません。それでも、処分のための撤去費用等を控除してから補助率を乗じる扱いが、補助金の納付額の算定として現に明文で置かれている以上、別の補助金で撤去費用を一切考慮しない額を条件として付すのであれば、それが「必要な限度」の内にあるのか、考慮しないことの理由が問われる余地があると考えております。もっとも、これは当職の見解であり、この点を正面から判断した裁判例は見当たりません。
次のような場合は、試算表に回答する前にご相談ください
- 納付額の試算表が届いたが、撤去費用を払ったのにどこにも反映されていない
- 算式に控除の項目があるのに、ゼロで計算されている
- 原状回復工事の見積りが一式で、どこまでが補助対象財産の撤去費か分からない
関連ページ: 補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢(コラム)/残存簿価相当額の納付命令とその限界(コラム)
5 何を揃えて出すか
控除の項目は、金額と証憑を事業者の側から出して初めて使われます。揃えるものは、次のとおりです。
- 撤去・解体・処分の見積書と請求書。明細が項目ごとに分かれているもの。補助金で取得した財産に当たる項目に印を付け、それ以外の項目と分けた集計表を添えます。
- 支払の記録。振込の控え、通帳の写し、領収書。見積りだけで支払っていない費用は、持続化取扱い4条4号にいう「処分のための撤去費用等が生じる場合」に当たるかが争いになるおそれがあります。
- 撤去前と撤去後の現場の写真。撮影日が分かる形で残します。どの財産を撤去したのかを、取得財産等管理台帳の財産名と対応させておきます。
- 取得財産等管理台帳と、実績報告の経費明細表。撤去した財産が、台帳のどの行に当たるのか、その財産に係った補助対象経費と補助金の確定額がいくらだったのかを、こちらで先に当てておきます。
- 賃貸借契約書の原状回復の定め(借りている店舗の場合)。原状回復の義務の範囲と、補助対象財産の撤去との切り分けを説明するために使います。
出し方は、書面またはメールで、送った日と送った内容が残る形にしてください。電話で金額を伝えただけでは、後から確かめることができません。承認申請書に添付する場合は、申請書の本文に「処分のための撤去費用として金○円を要した。別添の見積書・請求書・支払記録のとおり。納付額の算定に当たり控除を求める」という一文を入れておきます。既に試算表が届いている場合は、試算表のどの欄に、いくらを入れるべきかを指摘した回答書を付けます。
6 試算表のどの欄に、何が入るのかを一つずつ当てる
試算表は、算式の項目ごとに数字が入った表です。控除の項目だけでなく、ほかの項目も、こちらの資料で一つずつ当てていきます。見るところは、次のとおりです。
- 出発点の額。有償譲渡なら譲渡金額、無償譲渡・取壊し・廃棄なら残存簿価相当額です。残存簿価相当額については、取得価額、償却方法、償却率、経過期間の数え方のどれが使われているかを確かめます(前記Q&A「『残存簿価相当額』は、当社の帳簿の簿価ではないのか」)。
- 控除の項目。持続化取扱い4条4号のような定めや、前記2のように収入から費用を差し引く項目があるのに空欄なら、前記5の資料で埋めるよう求めます。収入から引く組立ての項目は、収入のない取壊し・廃棄では働きません。定めがない場合は、前記4の考え方で控除を求めます。
- 補助率。持続化取扱いでは「補助金交付額が補助対象経費総額に占める割合」、会課第5号では「補助金交付額が事業額に占める割合その他の適切な比率」です。実績報告で確定した額に基づく率になっているかを確かめます。
- 制限年数と経過年数。財産ごとに耐用年数が違い、処分制限期間も違います。別の財産の年数が使われていないか、経過年数の起算日が取得日・使用開始日のどちらになっているかを確かめます。期間の考え方は、コラム処分制限期間は何年かで述べています。
- 上限。納付額は、処分制限財産に係る補助金額が上限です(持続化取扱い4条1号・2号、交付規程24条6項)。上限を超えていないかを、財産ごとに確かめます。
- 対象の財産。単価50万円(税抜)に満たない財産や、処分制限期間を既に経過した財産が混ざっていないかを確かめます。混ざっていれば、計算の手前で前提が崩れます(前記コラム「補助事業を続けられないとき」の9)。
試算表は、交付した側が持っている情報だけで作られた、仮の計算です。事業者の側にしかない情報――撤去費の額、財産ごとの実情、原状回復との切り分け――を入れて初めて、額が決まります。届いた金額をそのまま受け入れる前に、欄を一つずつ当ててください。
納付額の試算表が届いた事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、試算表に回答する前にご相談ください。交付決定通知書(別表を含む)、試算表、撤去工事の見積書・請求書・支払の記録、取得財産等管理台帳があれば、どの欄にいくらが入るべきかを具体的に検討できます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 「小規模事業者持続化補助金」<一般型>において補助事業者が補助対象経費により取得し、または効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(2024年3月28日制定。商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金事務局)2条1項6号・7号(取壊し・廃棄の定義。1頁)、3条1項・3項(承認に納付の条件を付すこと、事情を勘案して付さないことができること。1〜2頁)、4条1号・2号・4号(納付額の算定。処分のための撤去費用等が生じる場合は、譲渡金額、貸付金額又は残存簿価相当額等から当該費用の額を控除した後、補助率を乗じる。2頁)
- 補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・06・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日。全9頁)4.(1)・(2)(国庫納付額の算定。3頁。撤去費用等を控除する定めはありません)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)24条6項(処分制限財産に係る補助金額を限度として納付させることができる。会課第5号の各規定を踏まえ取り扱う)
- 補助金適正化法22条(財産の処分の制限。承認と、承認に付される納付の条件の根拠)
- 補助金適正化法7条4項(交付の決定に附する条件は公正なものでなければならず、交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に干渉するようなものであってはならない)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』168〜169頁(7条4項は比例原則の確認的規定。「附款の限界について、特に法律上明示した規定を設けるまでもないものと考えられる」)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条(補助金適正化法の準用)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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