執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 公式の枠組み――借り物の場所でも、設備・内装は制限の対象になり得る
補助事業で取得し、又は効用の増加した財産は、処分制限期間内は、承認を受けないで、補助金の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないとされています(補助金適正化法22条)。事業再構築補助金の交付規程は、処分の定義に「廃棄等」も含め(交付規程24条1項)、処分制限期間内に処分しようとするときは、あらかじめ承認を受けることとしています(同条3項)。以下の交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。
土地や建物が借り物であっても、補助金で設置した内装・設備は、補助事業で取得し、又は効用の増加した財産として、この制限の対象になり得ます。事務局も、公式の「よくあるご質問」で次のように説明しています。
引用(事業再構築補助金 よくあるご質問「財産処分について」Q6)「補助事業の実施場所を変更して引き続き使用される資産(財産)を除き、補助事業により取得した資産を返却する場合は、無償譲渡や廃棄等にあたる可能性があります。事前に財産処分の承認申請を事務局へ行う必要があります……」
出典:事業再構築補助金「よくあるご質問」財産処分Q6
つまり、退去それ自体ではなく、内装・設備を「どうするか」が問われています。以下、場面ごとに整理します。
2 撤去して廃棄する場合
私見としては、補助目的どおり使用してきた財産を、やむを得ない事情により廃棄する行為は、補助金適正化法22条が規制する財産処分には当たらないと考えております。同条が列挙するのは使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供の5つであり、「廃棄」は含まれていないからです。東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁も、補助金の目的どおりに建設・使用されていた施設を解体する行為について、同条の規制する行為の対象には含まれないと判示しています(同判決に対しては控訴がされており、控訴審判決は公刊物に見当たりません。詳しくはコラム「廃棄処分」で述べています。)。
もっとも、最高裁判決の調査官解説の整理からは、廃棄も承認を要する行為に含まれると解する余地があり、この点は反対の解釈も否定し切れない論点です(詳しくは「廃棄処分」のページをご覧ください)。
3 居抜きで残す場合
退去の際、内装や設備を撤去せず、そのまま残して引き渡すことがあります。このときは、その後に何が起きたかで評価が分かれます。
私見としては、次の借主の側で内装が解体撤去されているのであれば、内装を廃棄処分したものとして整理する余地があると考えております。他方で、実際に無償で引き渡し、次の借主がそのまま使用しているのであれば、無償での「譲渡」と評価されるおそれがあります。
いずれに当たるかは事案次第です。店舗や土地の賃貸借契約書(原状回復の定め)と、解約・退去の際の書類で、実情を確認する必要があります。
次のような場合は、ご相談ください
- 借りている店舗・土地からの退去や閉店を考えている
- 退去後の設備の扱いについて、事務局から連絡を受けた
退去・閉店に伴う手続と返還額の見込みについては、こちらもご覧ください: 廃棄処分・廃業(対応ページ)/返還額はいくらになるのか(コラム)
4 事業ごと引き継ぐという選択肢
退去される前であれば、補助事業を、内装・設備ごと第三者に引き継いでもらう(事業譲渡)という方法も考えられます。譲受人が同じ場所で補助事業を続けるのであれば、財産は補助目的に沿って使われ続けるため、交付の目的に反する譲渡には当たらないと考えております。譲受人が場所を変える場合については、後記5及びコラムの該当の節で触れています。
最高裁判決の調査官解説は、補助金適正化法22条の承認の対象について、補助事業で取得した財産を補助事業者において補助目的に沿って管理しなくなることであると整理しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。裏を返せば、補助目的に沿った管理・使用が続く状態が契約上確保されているのであれば、同条の規制対象とはならないということになります。譲受人が同じ場所で続ける場合には、場所の継続性と譲受人による事業の継続を契約で担保することが前提となります。譲受人が場所を変える場合の扱いは、コラム事業再構築補助金により取得した財産を含む補助事業を事業譲渡するという解決方法についての該当の節をご覧ください。
5 移転して続ける場合と、貸主の側の事情で出ることになった場合
退去の形には、別の場所に移って、同じ補助事業を自分で続けるという形もあります。この場合も、問われているのは退去それ自体ではなく、内装・設備を「どうするか」です。もっとも、ここでは、持ち出せる設備と、持ち出せない造作とで、扱いが分かれます。
移転先で引き続き使用する設備
機械・装置のように、取り外して移転先へ持ち出せる財産について、移転先で引き続き同じ補助事業に使用するのであれば、財産は補助金の交付の目的に沿って使われ続けます。補助金適正化法22条が承認の対象としているのは、交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供ですので、交付の目的に沿った使用が続く限り、同条の承認を要する処分には当たらないと考えております。前記1に引用した事務局の説明も、「補助事業の実施場所を変更して引き続き使用される資産(財産)」を、返却に伴って無償譲渡・廃棄等に当たり得るものから除いています。
もっとも、特定の地域又は場所で実施することが交付の目的に含まれている補助金では、別に考える必要があります。場所を変えても補助事業が続いているといえるのかという問題は、事業譲渡の場面について、コラム事業再構築補助金により取得した財産を含む補助事業を事業譲渡するという解決方法についての該当の節で述べています。
持ち出せない造作
他方、建物に施した内装・造作のように、取り外して持ち出すことができない財産もあります。これらについては、移転先で使い続けるという形を採ることができませんので、撤去して廃棄するのか、そのまま残して引き渡すのかという、前記2・3の問題に戻ります。移転して続ける場合であっても、取得した財産の全部が同じ扱いになるわけではなく、財産ごとに分けて考えることになります。借りている建物に施した造作の処分制限期間が何年になるのかは、コラム処分制限期間は何年かの該当の節で述べています。
移転それ自体に手続が要るのか
移転それ自体について別の手続が要るのかという点は、お手元の交付規程で確かめる必要があります。同交付規程12条1項5号は、「補助事業の実施場所を変更するとき」は、あらかじめ承認申請書を提出して中小機構の承認を受けなければならないと定めています。もっとも、同条は補助事業の実施期間中の計画の変更についての定めであり、補助事業が完了した後の移転にこの定めが及ぶかどうかは、条文の文言から直ちに明らかとはいえないように思われます。
補助事業の完了後の事業計画期間については、事業計画の廃止と承継について届出の定めが置かれています(同交付規程26条1項)。これとは別に、同交付規程29条は、中小機構に報告している会社情報等の変更が生じた場合は、速やかに中小機構に届け出るものとすると定めています。同交付規程の様式一覧に置かれた<参考様式3>(社名等変更届出書)の注3は、「事業完了後の補助事業の実施場所、機械装置等の保管場所等、変更内容によって文面を変更してください。」としており、同様式の注1は、「事前に変更内容について事務局と協議し、変更内容に合わせて必要書類の添付の上、変更後ただちに提出してください。」としています。補助事業の完了後に実施場所や機械装置等の保管場所を変える場合についても、この届出の筋が置かれており、提出の前に協議をすることが求められているということになります。届出も協議もしないまま移転や機械装置の持ち出しに進んでよいというものではありません。
どの手続によることになるのかは、動かれる前に交付主体にご確認ください。条数と文言は、補助金ごと・公募回ごとに異なります。
貸主の側の事情で出ることになった場合
自分の都合で事業をやめるのではなく、貸主の側の事情で明渡しを求められることがあります。事務局の公式の「よくあるご質問」も、補助事業を実施していた店舗をオーナーの都合で返却することになった場合を取り上げており、前記1に引用したのがその回答です。ここでも、まず問われているのは、財産をどう扱うかという点です。
自分の都合によらない明渡しであるという事情は、前記2で述べた、やむを得ない事情による廃棄は補助金適正化法22条が規制する処分に当たらないという整理につながるものと考えております。もっとも、これは、はっきりこうと言い切れる問題ではありません。交付規程が承認の手続を簡略にしているのは、処分制限財産が災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合、若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合に限られており(同交付規程24条5項。この定めの範囲は、Q&A「補助金で導入した設備を取り外して保管している」で述べています)、貸主の側の事情による明渡しは、そこに挙げられていません。承認を受けないまま撤去・廃棄に進めば、承認のない処分であるとして、交付決定の取消しや加算金の納付を求められることがあり得ます(補助金適正化法17条1項、19条1項)。
明渡しの期限が決まっている場合でも、撤去や引渡しに進まれる前に、どの手続によることになるのかを確かめておいてください。あわせて、明渡しを求められた経緯が分かるもの――貸主からの通知、賃貸借契約の原状回復・造作についての定め、協議の記録――を残しておいていただくと、後から説明することができます。移転先で引き続き使用する財産については、設置した場所と稼働の状況が分かる記録を残しておくことになります。
なお、事業化状況報告の期間と、取得財産の処分制限期間とは、別のものです。報告の期間が終わっていても、処分制限期間が続いていることがあります。この点は、Q&A「事業再構築補助金は5年たてば自由に処分できるのか」で述べています。
借りている店舗・土地からの退去や閉店を考えている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、退去・引渡しの前にご相談ください。賃貸借契約書と、交付決定通知書・取得財産等管理台帳があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法22条
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)12条1項5号、24条1項・3項・5項、26条1項、29条、<参考様式3>注1・注3
- 事業再構築補助金 よくあるご質問「財産処分について」Q6(実施していた店舗をオーナー都合で返却する場合)
- 東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁
- 荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁(補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は承認を要するとの整理)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。