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弁護士 岸上大起

3者から見積りを取ると、いちばん高い金額で納付額が決まるのでしょうか――業者の見積りは「鑑定評価額」なのか

このページの結論

補助金で買った中古設備を売って処分することになり、見積書を3者以上そろえるように言われました。手引きには、いちばん高い見積額を「鑑定評価額」として扱うと書かれています。見積りを増やすほど納付額が増えるのでしょうか。

見積りの数が増えるだけで納付額が増えるわけではありません。納付額が上振れするのは、最高額の見積りが残存簿価相当額を上回り、かつ実際の売却額がその最高額と比べて著しく低く、その理由を合理的に説明できないときに限られます。もっとも、交付規程24条6項が踏まえるものとしている取扱基準(平成16・06・10会課第5号)4.が納付額の上振れの基礎としているのは「鑑定評価を行った場合の鑑定評価額」であり、業者から取った売却見積りの最高額をこれと同じものとして扱うことは、取扱基準が置いた用語を別のものに読み替えるものではないかと考える余地があります。

もっとも、3者以上の見積りをそろえること自体が不利に働くわけではありません。手引きは、処分価額が残存簿価相当額を下回った場合でも、処分価額と「鑑定評価額」に著しい乖離がなければ処分価額を用いて算定するとしており、この定めは事業者に有利に働きます。本稿で申し上げているのは、その最高額を「鑑定評価額」と呼び、納付額の基礎に用いる点に限られます。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 公式の説明――見積額のうちいちばん高い金額を「鑑定評価額」として取り扱う

補助金で取得した設備を、処分制限期間内に売って処分する場面があります。このとき、何を基礎として納付額を計算するのかについて、手引きは次のように説明しています。以下、手引きの引用は、中小企業新事業進出補助金「補助事業の手引き」(中小企業新事業進出補助金事務局。2026年8月17日 第1.8版。閲覧日2026年10月23日)からのものです。

引用(同手引き65頁「手続時のルール」)「見積額(譲渡等による処分時に、3者以上の業者から処分価格の見積書を取得した場合は、見積価格の最も高い額)または残存簿価相当額を基に所定の計算式により算出した補助金の全部または一部に相当する金額を事務局が指定する口座に納付していただきます。」
出典:中小企業新事業進出補助金事務局「補助事業の手引き」(2026年8月17日 第1.8版)

計算式そのものは、同手引き66頁の「2.納付額の考え方」の「(ア)共通となる基本的な考え方」に置かれています。

引用(同手引き66頁「2.納付額の考え方(ア)共通となる基本的な考え方」)「納付額は、原則として以下の式により計算します。」
「「納付額」 = 「処分価額 または 残存簿価相当額」 × 「補助率」」
「ここでいう「補助率」とは、当該処分制限財産に係る補助金確定額が、補助対象経費(実績額)に占める割合をいいます。」

本稿で取り上げるのは、その次に、同じ66頁の「(イ)譲渡(有償)・貸付(有償)の場合」の中に置かれた項です。

引用(同手引き66頁「2.納付額の考え方(イ)譲渡(有償)・貸付(有償)の場合」のうち「3 者以上の見積りが取得されている場合の取扱い(鑑定評価額の考え方)」)「提出された見積額のうち最も高い金額を、本補助金における鑑定評価額として取り扱います。」
「処分価額が残存簿価相当額よりも低価であった場合でも、処分価額と鑑定評価額に著しい乖離がない場合は、処分価額を用いて納付額を算定します。」
「処分価額が鑑定評価額と比較して著しく低価であり、その理由を合理的に説明できない場合には、鑑定評価額を用いて納付額を算定します。」

同じ読み替えは、手引きだけのものではありません。交付規程の様式にも置かれています。

引用(中小企業新事業進出促進補助金交付規程〔令和7年4月21日規程令7第1号。改正規程令7第17号・規程令8第2号〕様式第12-1「財産処分承認申請書」の注記・同規程50頁)「※見積書を3者以上徴取した場合は最も高い見積額を記載し、鑑定評価額とする。」
「※3者未満の見積書を提出された場合、残存簿価相当額と鑑定評価額のいずれか高い額を適用する。」
出典:中小企業新事業進出促進補助金交付規程(閲覧日2026年10月23日)

第一の注記は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程の様式第12-1(同規程72頁)にも、中小企業省力化投資補助金交付規程の様式第8(同規程30頁)にも、同じ文言で置かれています(3者未満の場合の注記は、省力化投資補助金では「なお、見積書の徴取が3者未満の場合には、残存簿価相当額と鑑定評価額のいずれか高い額を適用する。」と書かれています)。一つの文書の書き損じではなく、複数の補助金に共通して置かれている扱いです。

2 どこが誤りか――取扱基準がいう「鑑定評価額」は、鑑定評価を行った場合の額です

この説明のどこが誤りかを、箇所を特定して申し上げます。誤りは、「提出された見積額のうち最も高い金額を、本補助金における鑑定評価額として取り扱います。」という一文にあります。

出発点は、交付規程です。

引用(中小企業新事業進出促進補助金交付規程24条6項・同規程7頁)「中小機構は、補助事業者が処分制限財産を処分するときは、様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができるものとし、補助事業者は当該納付命令にしたがって納付しなければならない。なお、当該処分については、補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱うものとする。」

交付規程の本体が書いているのは、ここまでです。納付させることができる限度(当該処分制限財産に係る補助金額)を定め、算定の中身は、通達を踏まえて取り扱うものとしています。この通達(「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」平成16・06・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日。以下「取扱基準」といいます。)は、納付額の算定について、次のように定めています。

引用(取扱基準「4.国庫納付額の算定について」)「(1)有償譲渡又は有償貸付けに係る国庫納付額は、処分制限財産に係る補助金額を上限として、譲渡額又は貸付額(ただし、当該譲渡額又は貸付額が残存簿価相当額又は鑑定評価を行った場合の鑑定評価額に比して著しく低価である場合において、その理由を合理的に説明することができないときは、残存簿価相当額又は鑑定評価額)に補助率(補助金交付額が事業額に占める割合その他の適切な比率。以下同じ。)を乗じて得た額とする。」
「(2)転用、無償譲渡、無償貸付け、交換、取壊し又は廃棄の場合の国庫納付額は、残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額とする。ただし、鑑定評価を行う場合には、鑑定評価額に補助率を乗じた金額と前記の金額で高い方とする。」
出典:経済産業省「補助事業等により取得し、又は効用の増加した財産に関する通達等」(大臣官房会計課。閲覧日2026年10月23日)

取扱基準が納付額の上振れの基礎としているのは、「鑑定評価を行った場合の鑑定評価額」です。4.(2)も、「鑑定評価を行う場合には」と書いています。いずれも、鑑定評価という行為が行われたことを要件にしています。鑑定評価が行われていない場合に用いる額として挙げられているのは、残存簿価相当額だけです。

「鑑定評価」という語の意味は、不動産については法律に定めがあります。不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年法律第152号)2条1項は、「不動産の鑑定評価」とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいうと定めています。これを行うのは不動産鑑定士です(同法3条1項)。機械装置のような動産について、同じ資格の定めがあるわけではありませんので、ここでお借りしているのは、資格の話ではなく、「経済価値を判定し、その結果を価額に表示する」という語の意味です。

これに対して、処分業者が出す「処分価格の見積書」は、その業者が買い取る、あるいは仲介する意思のある価格です。買い手の側が、自分の支払える額として示す申出であって、第三者が財産の経済価値を判定した結果ではありません。業者が3者そろっても、その性質は変わりません。

手引きは「本補助金における鑑定評価額」と限定していますので、一般の用語を定義し直したものではない、という説明はありうるところです。もっとも、問題は語の選び方だけではありません。取扱基準が置いたのは、「鑑定評価を行った場合の」という限定です。鑑定評価という行為が行われていないのに、取扱基準が鑑定評価を行った場合にだけ認めた基礎が生まれるのであれば、それは呼び名の問題ではなく、要件の問題であると考えております。

同じことは、交付規程の様式の中にも表れています。様式第12-1の注記は、3者以上のときの「鑑定評価額」を見積額の最高額と定義する一方で、3者未満のときには「残存簿価相当額と鑑定評価額のいずれか高い額を適用する」としています。3者未満のときには最高額の定義が働きませんので、ここでいう「鑑定評価額」は、鑑定評価を行った場合の鑑定評価額を指すほかありません。同じ様式の中で、「鑑定評価額」が二つの意味で使われていることになります。

なお、交付規程24条6項の文言は、「各規定を踏まえ取り扱うものとする」であって、「各規定に従う」ではありません。「踏まえ」である以上、本補助金の運用として細目を補うことは許されると考えております。しかし、取扱基準が「鑑定評価を行った場合」と限定して置いた基礎を、鑑定評価が行われていない場合にまで及ぼすことは、細目の補充ではなく、要件の付加に当たるのではないかと考える余地があります。

3 買うときは最低価格、処分するときは最高額

もう一つ、同じ手引きの中で向きが分かれている点を申し上げます。補助事業で物を買う場面について、手引きは次のように定めています。

引用(同手引き26頁「見積依頼書及び見積書の記載ルール」)「本事業における契約(発注)先(海外企業からの調達を行う場合も含む)の選定にあたっては、経済合理性の観点から、原則、相見積書を取得し、相見積書の中で最低価格を提示したものを選定してください(一般の競争入札の場合も同様)。」
「契約(発注)先 1 者当たりの見積額の合計が 50 万円以上(税抜き)になる場合は、全ての費目において同一仕様による 3 者以上の見積書を、50 万円未満(税抜き)の場合は、1 者以上(広告宣伝・販売促進費の場合は 2 者以上)の見積書を取得してください。」

調達の場面で手引きが掲げているのは、経済合理性です。一定額以上であれば複数の見積りをそろえさせ、そのうち最低価格を選ばせています。公金が目減りする取引をさせない、という考え方です。処分の場面で最高額を基準とすることも、この考え方から出ているものと見ることはできます。売れるはずの価格より安く売って納付額を抑えることを防ぐ、という発想です。

分かれるのは、価格を何で決めるかです。調達の場面では、複数の見積りを比べたうえで、実際に契約した価格が補助対象経費になります。実際の取引額が基礎です。これに対して処分の場面では、実際に売れた価格があるにもかかわらず、業者が示した最高額が「鑑定評価額」とされ、実際の売却額がそれと比べて著しく低ければ、売却額ではなく最高額で計算されます。第三者が経済価値を判定したわけでもない数値が、実際の取引額に優先する形になっています。

もっとも、ここは正確に申し上げる必要があります。3者以上の見積りをそろえたからといって、それだけで納付額が上がるわけではありません。実際に不利に働くのは、最高額の見積りが残存簿価相当額を上回り、かつ実際の売却額がその最高額と比べて著しく低く、その理由を合理的に説明できないときに限られます。逆に、手引き66頁は、「処分価額が残存簿価相当額よりも低価であった場合でも、処分価額と鑑定評価額に著しい乖離がない場合は、処分価額を用いて納付額を算定します。」としており、この定めは、残存簿価相当額に届かない価格でしか売れなかった事業者にとって有利に働きます。申し上げているのは、その最高額に「鑑定評価額」という取扱基準上の用語を与え、納付額の基礎に用いる点に限られます。

なお、この読み替えは、売却の場面だけのものではありません。手引き66頁の「(エ)担保に供する処分の場合」は、担保権が実行された場合は有償譲渡が行われたものとみなし、「(イ)有償譲渡・有償貸付の場合」と同様の考え方で納付額を算定するとしています。担保に供する処分については、Q&A「補助金で買った設備や建物を、銀行の担保に入れることはできるのか」で述べています。

4 正しい整理――納付義務は、承認に付された条件(附款)から生じます

財産処分に伴う納付の義務が、どこから生じるのかを整理します。補助金適正化法22条は、承認を受けないで補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないと定めるだけで、金銭の納付を命じる規定ではありません。納付の義務は、処分の承認に付された条件(附款)から生じます。取扱基準3.(1)も、22条の承認をする場合には4.で定める金額を国庫に納付する旨の条件を付さなければならないとしており、納付が「条件」として組まれていることを前提にしています。この点の文献の整理は、Q&A「財産処分の承認を申請したら、残存簿価相当額を納めることになるのか」で述べていますので、本稿では繰り返しません。

附款を付す権限の根拠は、補助金適正化法7条1項のほか、同条3項です。同項は、前二項に定める条件のほか、交付の目的を達成するため必要な条件を附することを妨げるものではないと定めています。最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁も、22条に基づくものとしてされた財産の処分の承認を、同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法であるとした事例です。もっとも、同判決が適法としたのは、交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件であって、その金額をどう算定するかは争点になっていません。上限の枠内であることと、算定の基礎の選び方が公正であることとは、別の問題です。

そして、附款を付す権限には限界があります。

引用(補助金適正化法7条4項)「補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。」

この7条4項は、文言の上では交付決定に附する条件についてのものです。もっとも、補助金適正化法全体を貫く規律として、承認の附款についても同じ趣旨が及ぶと解すべきであり、比例原則からも同様の限界が導かれると考えております。この点は、コラム「残存簿価相当額の納付を求められたら」で述べています。本補助金について補助金適正化法が及ぶのは、中小機構法16条による準用です。同条1項は、補助金適正化法の規定(罰則を含む。)を、機構が交付する助成金について準用するものとしていますので、7条4項も準用されます(同項の中に条文が列挙されているのは、「各省各庁」「国」等の語を中小機構と読み替える箇所であって、準用する条文を限る趣旨ではありません)。

なお、同法24条(不当干渉等の防止)について、文献は、「補助条件の形式をとらなくとも、実質的に補助金交付の前提条件として相手方に不当な干渉を加えるものは、すべて本条に違反する行為とみるべきであろう。」としたうえで、同じ頁で、本条はいわゆる訓示的規定であると述べています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』320頁(株式会社全国会計職員協会、2016))。附款の限界を画するのは7条4項であって、24条それ自体から納付義務が消えるという筋ではありません。もっとも、形式ではなく実質を見るという姿勢は、ここにも表れています。

承認の基準の立て方についても、国の側で指針が示されています。小滝・前掲書307〜308頁注(20)は、「補助金等適正化法第二十二条の規定に基づく各省各庁の長の承認について」(平成二〇年四月一〇日、補助金等適正化中央連絡会議決定事項)の全文を引用しています。そこでは、各省各庁は、補助対象財産の財産処分の承認基準をできるだけ具体的で分かりやすい形で定めるとともに、地方公共団体及び地方支分部局に対する周知・情報提供を確実に実施すること、とされています。この決定事項は地方公共団体の補助対象財産を主な対象とするものですが、冒頭に、地方公共団体以外の者の補助対象財産についても、下記の趣旨を踏まえて適切に対処すること、と書かれています。業者の見積りの最高額に「鑑定評価額」という取扱基準上の用語を与えることが、「具体的で分かりやすい形」に当たるのかは、検討の余地があると考えております。

そうすると、実際の処分価額でも、鑑定評価の結果でもない数値を納付の基礎にすることが、7条4項の「公正」を満たすのかについては、検討の余地があると考えております。

あわせて、反対の材料も挙げておきます。第一に、取扱基準4.(2)の「鑑定評価額に補助率を乗じた金額と前記の金額で高い方とする」という定めは、取扱基準自身が置いているものです。高い方を採ること自体は、手引きが勝手に加えたものではありません。むしろ手引き66頁の「(ウ)譲渡(無償)・貸付(無償)・目的外使用・交換・廃棄等の場合」は、「処分による対価が発生しない場合は、残存簿価相当額に補助率を乗じた額を納付額とします。」とだけ書いており、この点では取扱基準より事業者に有利です(事業再構築補助金については、公式の説明が「いずれか高い額」としています。前掲のコラム「補助事業を続けられないとき」をご覧ください)。第二に、算定の数値が事業者の帳簿の数字と一致しないこと自体を、一律に違法と申し上げることはできません。小滝・前掲書164頁は、収益納付について、「「生ずると認められる」収益であればよいから、必ずしも損益計算書(P/L)上に計上された利益ではなくとも差し支えないものと解される。」としています。手引き67頁の「3.納付額の具体的な計算方法(イ)「残存簿価相当額」について」が、残存簿価相当額を「資産を処分する時点において、会計上の帳簿に残っている資産価値のことです。」と定義しながら「圧縮記帳は考慮しません。」としている点も、そのこと自体を違法と申し上げるものではありません。

申し上げたいのは、この一点です。3者以上の見積りの最高額を「鑑定評価額」と呼び、納付額の基礎に用いることは、取扱基準が「鑑定評価を行った場合の」と限定して置いた用語を、別のものに読み替えるものではないかと考える余地があります。

次のような場合は、見積書をお出しになる前にご相談ください

  • 財産処分の承認申請にあたり、見積書を3者以上そろえるように言われている
  • 納付額の基礎として、業者の見積りの最高額を「鑑定評価額」とすると言われている
  • 実際の売却額ではなく、それより高い金額で納付額を計算すると言われている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢(コラム)/財産処分の承認を申請したら、残存簿価相当額を納めることになるのか(Q&A)

5 公式の説明は、紛争の一方当事者の見解です

もう一度申し上げます。中小機構・中小企業庁・中央会・各事務局の説明は、公正な第三者による解説ではありません。補助金をめぐる紛争において、納付を求める側に立つ一方当事者の見解です。通説が説いていない極端な立場を主張しているものもあります。公式の説明だからと鵜呑みにするのは、非常に危険です。

本稿で取り上げた手引きの記述についていえば、この取扱いは、22条の承認に付す附款の限界を定めた7条4項の構造と、取扱基準4.が「鑑定評価を行った場合の」と限定した趣旨を、十分に踏まえたものとは言いがたいと考えております。手引きは、交付規程と取扱基準を前提に事務局が作成した運用上の文書です。交付規程24条6項が踏まえるものとしているのは取扱基準であって、手引きではありません。手引きに書かれているという一点で、納付額の基礎が決まるわけではないと考えております。

6 見積りを出す前に、そして納付通知書が届いたときに

見積りを依頼する前に

3者以上の見積りをそろえるように求められた段階で、どの業者に、どういう条件で見積りを依頼するのかを先に決めておかれることをおすすめします。いったん提出した見積書を、提出しなかったことにはできません。処分の条件(現状有姿で引き渡すのか、撤去と搬出の費用はどちらの負担か、搬出の期限はいつか)がそろっていない見積りは、同じ財産についての価格でありながら、額が大きく開くことがあります。開いた額のうち、いちばん高いものが基準になります。

承認申請の段階で

申請は電子申請システムで行い、見積額等は、実績報告時に提出した「様式第7 取得財産等管理台帳」の「財産処分承認申請用」シートに記入して添付する運用とされています(中小企業新事業進出補助金事務局「電子申請システム操作マニュアル ⑥財産処分の手続き」(2026年8月17日 第1.1版)13頁)。交付規程の様式第12-1にも、「電子申請システムで操作し、申請いただく内容です。」との囲みが置かれています。シートに入れる前に、どの額を「鑑定評価額」として書くことになっているのかを確かめてください。

納付通知書(様式第12-5)が届いたとき

納付期限は、本書発信日より30日以内とされています(同交付規程54頁)。日数に余裕はありませんので、届いたらすぐに、次の点を書面で尋ねてください。

  • どの財産について納付を求めているのか。取得財産等管理台帳(様式第7)の区分・財産名ごとの内訳。
  • どの金額を基礎としたのか。処分価額か、残存簿価相当額か、「鑑定評価額」か。
  • 「鑑定評価額」としたものが、不動産鑑定士による鑑定評価の結果なのか、業者の見積りの最高額なのか。後者であれば、どの業者のどの見積書を採ったのか。

三つ目が、本稿で申し上げた点にそのまま対応します。残存簿価相当額の計算に用いた償却方法・償却率、財産ごとの制限年数など、算定根拠を尋ねる項目の全体と、その書き方は、コラム「納付額の算定根拠が示されていないとき」にありますので、そちらをご覧ください。

そのうえで、算定根拠の開示を求めることと、処分の範囲・取得価額・制限年数・処分の態様を認めることとは別であることを、同じ書面に書き添えておいてください。金額の計算方法だけを争っているものと受け取られることを避けるためです。返納を求められたときの進め方は自主返納の求めのページで、納付を命じる書面そのものの性質は前掲のコラム「残存簿価相当額の納付を求められたら」で述べています。

財産処分の納付額について、3者以上の見積りの最高額を基礎とすると言われている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、見積書をそろえてお出しになる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、取得財産等管理台帳(様式第7)、事務局から受け取った書面と、取得した見積書があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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