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弁護士 岸上大起

補助金の調査は取引先にも及ぶのか――工事業者が資料を出してくれないとき

このページの結論

交付主体や事務局から、工事を請け負った業者や委託先の資料まで出すように求められ、出てこなければ取引先に直接調査に入ると言われています。そのような権限があるのでしょうか。取引先が応じてくれない場合、当社はどうなるのでしょうか。

事業再構築補助金の交付規程18条4項は、中小機構は、補助事業の適正な遂行のため必要があると認めたときは、事業に係る取引先(請負先、委託先及びそれ以下の請負先、委託先も含む。)に対して現地調査等を行うことができるとしています。もっとも、同項が「必要な措置を講じる」ことを求めているのは補助事業者であって、取引先ではありません。交付規程は行政規則ですので、交付決定の当事者でない別の法人に対し、交付主体に対する調査受忍の義務を課す根拠にはならないと考える余地があります。

もっとも、「協力しなくてよい」という結論にはなりません。同交付規程18条1項後段は、補助対象物件や帳簿類の調査ができない場合等、交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないときは、当該物件等に係る金額は補助の対象とならないとしており、不利益は補助事業者の側に来ます。補助の対象とならないとされる範囲は「当該物件等に係る金額」ですので、額の確定の段階では、対象とされている物件等と金額の範囲を確かめることになります。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 言われていることを二つに分ける

実績報告を出した後、あるいは実地検査の後に、交付主体や事務局から、工事を請け負った業者、設備を納入した販売店、作業を委託した先の資料まで出すように求められることがあります。「出てこなければ取引先に直接見に行く」と言われることもあります。このとき、言われていることは二つに分かれます。

  • 交付主体の側に、取引先という別の法人に対して調査をする権限があるのかという問題(下記2〜4)。
  • 取引先が資料を出してくれないことによって、自社にどのような不利益が生じるのかという問題(下記5)。

事業者の方が困るのは、ほとんどの場合、二つ目です。権限があるかどうかを論じている間に、額の確定の段階で「資料が確かめられない」という理由が立てられてしまうためです。順番としては、一つ目を確かめたうえで、二つ目に対して先に手を打つことになります。

以下、交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものを引きます。本補助金について補助金適正化法が及ぶのは、中小機構法16条による準用です。交付規程の条数と文言は補助金ごと・版ごとに違いますので、お手元の交付決定通知書に書かれている交付規程の名称と版を先にお確かめください。

2 交付規程18条――額の確定の条に置かれた二つの定め

取引先への調査について、事業再構築補助金の交付規程は、立入検査の条ではなく、補助金の額の確定の条に定めを置いています。18条です。同条1項は、中小機構は実績報告を受けた場合には、報告書等の書類の審査及び必要に応じて現地調査等を行い、その報告に係る補助事業の実施結果が補助金の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定し、様式第8により通知するものとしています。そして、同項には、次のなお書きが置かれています。

引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程18条1項後段)「なお、補助対象物件や帳簿類の調査ができない場合等、補助金の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないときは、当該物件等に係る金額は補助の対象とならない。」

同条4項が、取引先への調査の定めです。

引用(同交付規程18条4項)「中小機構は、補助事業の適正な遂行のため必要があると認めたときは、事業に係る取引先(請負先、委託先及びそれ以下の請負先、委託先も含む。)に対して、現地調査等を行うことができるものとし、補助事業者は当該調査の実施に必要な措置を講じるものとする。」

読んでいただきたいのは、文の後半です。「必要な措置を講じる」とされているのは、取引先ではなく補助事業者です。同項は、取引先に対して「調査に応じなければならない」と定めた条文ではありません。義務を負う者として名が挙げられているのは、補助事業者だけです。

同じ構造は、契約の条にも現れます。同交付規程13条3項は、次のとおり定めています。

引用(同交付規程13条3項)「補助事業者は、前2項の契約に当たり、契約の相手方に対し、補助事業の適正な遂行のために必要な調査に協力を求める措置を講じなければならない。」

ここでも、義務の主体は補助事業者です。取引先が調査に協力するかどうかは、補助事業者との契約の内容として処理される仕組みになっていると考えております。同条6項は、第三者に負わせ、又は委託し、若しくは共同して実施する体制が何重であっても同様に取り扱うものとし、補助事業者は必要な措置を講じるものとするとしていますので、下請けの下請けまで同じ扱いです。

3 交付規程で、別の法人に調査に応ずる義務を課すことができるのか

では、仮に交付規程が取引先自身に対して調査に応ずる義務を定めていたとしたら、どうなるのでしょうか。ここで出発点になるのは、交付規程がどういう性質のものかという点です。補助金適正化法4条は、補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによると定めています。この「特別の定」について、文献は次のとおり述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』57頁(株式会社全国会計職員協会、2016))「したがって、補助金等交付規程あるいは補助金等交付要綱等の行政規則に特別の規定をしても、それによって「特別の定」となることはありえない。」

交付規程は行政規則であって、法律又は法律の委任に基づく命令ではありません。交付規程が補助事業者を拘束するのは、交付決定に附された条件(補助金適正化法7条1項・同条3項)として取り込まれているからです。交付規程の条項が補助条件に取り込まれているかどうかという見方そのものは、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で述べています。

そうすると、交付決定を受けていない取引先は、交付決定に附された条件によって拘束される立場にありません。交付規程に定めを置いたとしても、それによって交付決定の当事者でない別の法人に対し、交付主体に対する調査受忍の義務を課す根拠にはならないと考える余地があります。取引先が調査に応ずる根拠は、交付主体との関係ではなく、補助事業者との契約の中にあると考えております。前記2で見た18条4項と13条3項が、いずれも補助事業者を義務の主体としているのは、この構造に沿うものと読めます。

もっとも、これは「調査に協力しなくてよい」という結論ではありません。協力しない取引先がいる場合に不利益を受けるのは、後記5のとおり、取引先ではなく補助事業者です。実務上の意味は、権限の有無を論じて断ることにあるのではなく、求められているものを誰がどの根拠で出すのかを整理し、出せるものを早く出すことにあると考えております。

4 法律の側が挙げている相手方と、補助金ごとの違い

法律の側の定めは、補助金適正化法23条1項です。同項は、各省各庁の長は、補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは、補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して報告をさせ、又は当該職員にその事務所、事業場等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができると定めています。相手方として挙げられているのは、補助事業者等と間接補助事業者等です。代金の支払を受けて物件を納入し、工事を請け負った取引先が「間接補助事業者等」に当たるのかという点は、同法2条4項1号から同条6項までをたどって定まります。この当てはめは、Q&A「立入調査は、支援した当社にも来るのか」で述べていますので、ここでは繰り返しません。

補助金によって、交付規程の書き方は違います。中小企業省力化投資補助金交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。当方が確かめた版のもの)22条2項は、中小機構及び中小機構の指定する者による立入調査を定めたうえで、同条3項で、調査の対象をこう定めています。

引用(中小企業省力化投資補助金交付規程22条3項)「前項の立入調査においては、補助事業者等が有する本事業にかかる一切の資料を対象とし、関連会社のみならず営業代理店等が介在した場合には当該別法人に関する資料及び関係性にまで、立入調査の対象が及ぶものとする。」

別法人に関する資料にまで対象が及ぶとされています。もっとも、この項の文言も、「補助事業者等が有する」資料を対象とするものです。そして、調査が拒まれた場合の手当ては、同条4項に置かれています。

引用(同交付規程22条4項)「中小機構は、第2項の立入調査を補助事業者等が正当な理由なく拒否した場合、第5条第4項の規定に基づく販売事業者の登録取消及び次条第1項の規定に基づく交付決定の取消しを行うことができるものとする。」

拒否した場合の帰結として挙げられているのは、販売事業者の登録取消しと交付決定の取消しです。いずれも、補助金の制度の中にいる者に向けられた措置です。交付規程が用意している強制の手段は、別法人に直接向かうのではなく、補助事業者(及び登録を受けた事業者)に向かう形になっていると読めます。前記3の整理と同じ方向です。

5 不利益は自社に来る――18条1項後段の「補助の対象とならない」

ここが、この場面の本体です。前記2で引いた18条1項後段は、補助対象物件や帳簿類の調査ができない場合等、交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないときは、当該物件等に係る金額は補助の対象とならないとしています。取引先が資料を出さなかったことによる結果は、取引先ではなく、補助事業者に向かいます。

もっとも、この文言は、調査ができなかったという一事で直ちに補助対象外になると定めたものではないと考えております。文の構造は、「調査ができない場合等」と並べたうえで、「交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないとき」を要件としています。適合しないと認められることが、補助の対象とならないという結論の要件になっていると読むのが、文言に沿うと考えております。

補助金適正化法15条も同じ組み立てです。同条は、報告書等の書類の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、その報告に係る補助事業等の成果が交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは額を確定するものとしています。問われているのは、交付の決定の内容と条件への適合であって、特定の資料が特定の形で出てきたかどうかそれ自体ではないと考えております。

また、補助の対象とならないとされる範囲は、「当該物件等に係る金額」です。調査ができなかった物件等を超えて、補助金の全体に及ぶものではないと考えております。額の確定の段階で指摘を受けたときは、対象とされている物件等と金額の範囲を確かめることになります。額の確定と減額の仕組みは、コラム「額の確定(補助金適正化法15条)とは何か」と、Q&A「補助金の「減額」とは何か」で述べています。

保存義務の期間との関係

同交付規程17条4項は、補助事業者は、実績報告を行うに当たって、その証拠となる書類を整理し、当該報告に係る年度の終了後5年間保存しなければならないとしています。ここで保存が求められているのは、補助事業者が整理した証拠書類です。取引先の社内資料そのものの保存までを求めた定めではありません。何を自社で持っているべきかという線は、この項から引くことになると考えております。

次のような場合は、ご回答になる前にご相談ください

  • 工事を請け負った業者や委託先の資料を出すよう求められているが、相手方が応じない
  • 取引先の資料が確かめられないことを理由に、補助の対象とならないと言われている
  • 取引先に直接調査に入ると告げられ、どこまで応じるべきか判断がつかない
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのか(コラム)/立入調査は、支援した当社にも来るのか(Q&A)

6 どう動くか

この場面でしていただきたいことは、順序が決まっています。

  • 交付決定通知書に記載された交付規程の名称と版を確かめ、額の確定の条と、取引先への調査の項を読む。条数は補助金ごと・版ごとに違います。
  • 求められているものを、書面で特定してもらう。どの物件・どの経費について、どの資料を、どの条項に基づいて求めているのかです。口頭のやり取りだけで進めると、後から範囲が動きます。
  • 取引先には、契約に基づいて、書面又はメールで期限を切って求める。交付規程13条3項が補助事業者に求めているのは、契約の相手方に対して調査への協力を求める措置を講じることですので、求めた事実と日付が残る形にしておくことに意味があります。
  • 自社の側にある資料で代替できるものをそろえる。契約書、見積書(相見積りを取得できなかった場合の理由書と価格の妥当性を示す書類を含みます。同13条1項)、発注書、納品書、検収の記録、請求書、振込の記録、現場の写真、設置後の稼働の記録です。
  • 取引先が応じない経過を、日付とともに残す。求めた日、相手方の回答、応じられない理由として告げられた事柄です。
  • 「調査ができないので補助の対象とならない」と告げられた段階で、対象とされている物件等と金額の範囲を文書で確かめる。範囲は、当該物件等に係る金額です。

遂行の状況を何によって示すかという点は、コラム「補助事業を続けていることを、どう示すか」で述べています。取引先の資料が出てこないという状態は、放置すると、額の確定の段階でそのまま減額の理由として用いられます。資料を集めることと並行して、求められている根拠の条項と範囲を文書の上で確定させておくことが、後から争う余地を残すことにつながると考えております。

取引先の資料を出すよう求められている事業者の方、取引先が応じないことを理由に補助の対象とならないと言われている事業者の方、顧問先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、ご回答をお出しになる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、取引先との契約書、実績報告書の控え、交付主体や事務局から受け取った書面があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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