執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助事業には着手している。しかし、計画のとおりには進まず、売上の記録として出せるものがまだない。――そうした段階で、交付主体から、補助金で取得した財産を本当に補助事業に使っているのか、事業の実態があるのかを尋ねられることがあります。このようなとき、補助事業を続けていることは、どのように示せばよいのでしょうか。
先に答えを申し上げます。補助事業を遂行していることは、売上の記録でしか示せないわけではありません。受注や販売の記録、会計帳簿への売上の計上、事業に従事している人の記録、販路を広げるための活動の記録、補助金で取得した財産が現にその場所に置かれ、使える状態にあることが分かる写真――日付の分かるこうした資料の積み上げによって示すことができると考えております。
補助金適正化法は、補助事業者が補助事業の遂行の状況を報告しなければならないことを定め(12条)、補助事業が完了したときは、その成果を記載した実績報告書により報告しなければならないことを定めています(同法14条)。これとは別に、報告を求められ、又は事務所・事業場等への立入検査を受けることもあります(同法23条1項)。いずれの場面でも、提出するのは報告書や回答ですが、そこに書いたことを裏から支えるのは、日々の業務の中で残っている資料です。そして、その資料は、後から遡って作れるものではありません。
以下は、中小機構が交付する事業再構築補助金のように、補助金適正化法が適用され、又は中小機構法16条により準用される補助金を念頭に置いた整理です。事務局が交付主体となる補助金(負担付贈与契約型)は、同法が「補助金等」として規律する対象ではありませんので、本稿で挙げる条文がそのまま当てはまるものではありません。この類型については事務局が交付する補助金で述べています。
なお、本稿が扱うのは、資料の残し方です。補助金で取得した財産を既存事業にも使っていることが「目的外使用」に当たるのかという法律論は、「事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて」・既存事業との併用・「補助金の『目的外使用』とは何か」で扱っています。また、交付決定の取消しの前に法が置いている報告・命令・調査の段階は、「補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか」で述べています。
1 尋ねられていることの中身を確かめる
はじめに確かめていただきたいのは、何を言われているのかです。似た言い方で届きますが、中身の違う二つの指摘があります。
- 補助事業に使っていないのではないか、事業の実態がないのではないか――これは、補助事業を遂行しているという事実の問題です。資料で示すほかありません。
- 補助金で取得した財産を他の事業に使っているから、交付の目的に反するのではないか――これは、補助金適正化法22条の解釈の問題です。資料をそろえるだけでは答えになりません。
二つが混ざった形で届くこともあります。その場合でも、どちらについて何を求められているのかを分けないまま資料を出すと、求められていない資料を出すことにも、答えるべき点に答えないことにもなります。まずは、指摘の根拠が書かれた書面の文言に戻って、どちらの問題なのかを分けるところから始めていただければと思います。本稿が扱うのは、前者の、事実の側です。
2 資料は二つに分かれる
補助事業に関する資料は、性質の違う二つの束に分かれます。
一つは、取得と支出の側の資料です。契約書、発注書、納品書、請求書、振込の記録、工事や設置の写真といったものがこれに当たります。補助金で何を買い、いくら支払い、どこに設置したのかを示すもので、実績報告の中心になる資料です。この束については、「補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか」でも触れています。
もう一つが、事業を続けている側の資料です。取得した財産を使って、現に事業を進めているのかを示すものです。本稿が扱うのは、こちらの束です。
この区別には意味があります。前者だけが整っていると、買ったことと支払ったことは分かるけれども、その後に事業をしているのかは分からない、という状態になります。設備を入れたところまでは資料がそろっているのに、その先の記録は残っていない、ということが起こります。
3 売上の記録がまだ出せない段階で、遂行を示す資料になるもの
計画した売上がまだ立たず、売上の記録として出せるものがない段階でも、遂行を示す資料になるものはあります。
- 受注・販売の記録。注文を受けた記録、販売の記録、売上の伝票といったものです。数が少なくても、現に取引が動いていることは示せます。
- 会計帳簿への計上。総勘定元帳等の帳簿の上で、補助事業に関する売上や経費が計上されていることです。帳簿は日々の取引に沿って付けられるものですから、ほかの資料を裏から支えます。
- 事業に従事している人の記録。在籍している人の記録や、その人が補助事業に関わっていることが分かる記録です。
- 販路を広げるための活動の記録。取引先となり得る相手との協議の記録、相手に示した事業計画の説明資料といったものです。売上に至っていなくても、売上に向けて現に動いていることは、ここに表れます。
- 補助金で取得した財産が、現にその場所に置かれ、使える状態にあることが分かる写真。
ソフトウェアやシステムのように形のないものについては、置かれている様子を写せません。現に動いていることが分かる記録――利用の記録や画面――を残しておくことになります。
いずれについても、日付が分かる形にしておくことが大切です。写真は撮影の時期が分かる形で残し、記録は月ごとにそろえておく。どの資料も、時間がたつほど集めにくくなります。機器の入れ替えや担当者の交替があると、そのときには確かにあった記録が、後から探しても出てこないということが起こります。
4 実績報告書の記載と資料を一つずつ結び付ける
資料がそろっていても、束のまま渡したのでは、読む側には何が何の裏付けなのかが分かりません。実績報告書だけを見ても、書かれていることが現にあったのかどうかは、第三者には分からないままです。
そこで、実績報告書の記載と、その裏付けとなる資料を、一つずつ結び付けた形にしておくことをお勧めしています。報告書のこの記載がこの写真に対応し、この記載が帳簿のこの計上に対応する、という形で並べた一覧にしておくということです。報告書の記載に写真と帳簿が肉付けされると、事業の実体が具体化し、外から確かめられる形になると考えております。
これは、交付主体に出すためだけの作業ではありません。どの記載に裏付けがなく、何が足りないのかが、作る側にも分かります。足りないところが早い段階で分かれば、まだ残せるうちに残すことができます。
次のような場合は、資料がそろわないうちにご相談ください
- 補助事業の実態があるのかを尋ねられ、何を出せばよいのか分からない
- 売上の記録がまだ出せず、ほかに何を示せるのかを整理したい
- 取得した財産を既存事業にも使っていることを指摘されている
関連ページ: 既存事業との併用(対応ページ)/補助金の「目的外使用」とは何か(Q&A)/取消しの前に置かれた手段(解説記事)
5 協議の記録は、双方で内容を確認した形にする
販路を広げるための活動の記録のうち、取引先となり得る相手との協議の記録については、作り方で意味が変わります。
こちらで作ったメモだけであれば、相手がどう述べたのかは、こちらの説明にとどまります。協議の内容を相手との間で確認した記録にしておけば、こちらの一方的な説明ではなくなると考えております。協議の後に、話した内容を書き出して相手に送り、相違がないことを確かめておくという形でも、こちらだけで作った記録とは性質が違ってきます。
あわせて、その協議が、事業計画のどの部分に向けた販路開拓なのかを言葉にしておくことをお勧めしています。活動の記録だけを並べると、補助事業と関係があるのかどうかが読む側に伝わりません。計画に書いた取組と、現に進めている活動を並べて、対応を示しておくということです。
6 公募申請時の事業計画書に、既存事業への活用が書かれている場合
ここで、公募申請のときに提出した事業計画書を読み直していただきたいと思います。補助金で取得した設備を既存事業にも活用することが、計画書に書かれている場合があります。
補助金適正化法22条は、補助事業により取得した政令で定める財産について、各省各庁の長の承認を受けないで、交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないと定めています。
引用(補助金適正化法22条)「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」
計画書に既存事業への活用が記載されており、交付主体がその計画書の提出を受けて交付決定をしているのであれば、交付主体は、取得した財産が既存事業にも使われることを前提にして交付決定をしたことになります。そうであれば、既存事業への使用が、同条にいう「交付の目的に反して使用」することに当たることはなく、これを理由として交付決定を取り消すことはできないと考えております(同法17条1項)。
なお、交付申請書及び事業計画書は交付決定の内容を成すものであり、公募要領の記載が補助条件に取り込まれるかどうかという問題(既存事業との併用のページで述べています)とは、別の問題です。
これは、計画書にその記載がある場合の当てはめです。記載がない場合には、この筋道は使えません。もっとも、記載がないからといって、既存事業にも使っていることが直ちに22条に反することになるものではありません。同条にいう「交付の目的に反して使用」することの意味――補助目的に沿って管理・使用しなくなった状態をいうと解されること――は、「事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて」で、最高裁判決の調査官解説と文献に即して述べています。本稿の第3節で挙げた資料は、補助事業にも使っていることを示すものとして、この整理を支えるものでもあります。
7 いつ、だれが整えるか
時期について申し上げると、交付決定を受けた後、実績報告をするまでの間が、記録の残し方を決めておく時期です。取消しや返還を求められた段階では、そのときに残っているものを集めるしかありません。記録は、遡って作れるものではないからです。
だれが整えるかについては、資料を集めて並べる作業の多くを、事業者の経営を支援している中小企業診断士・税理士・行政書士等の先生方が担うことができると考えております。帳簿や受注の記録はもともと先生方の手元を通っていることが多く、計画書に書いた取組と現に進めている事業のつながりも、日ごろ関与されている先生方がよく把握しておられます。交付主体との交渉を当職が担い、資料の作成と経営面の支援は先生方に続けていただくという連携の形があります。詳しくは「顧問先の補助金トラブルと弁護士との連携」の3で述べています。
指摘の根拠と、こちらが出せる資料を突き合わせる段階になりましたら、ご相談ください。何を示せばよいのかは、指摘の根拠として何が挙げられているかによって変わります。
よくある質問
- 補助事業を続けていることを示す資料として、何を残しておけばよいですか。
補助金適正化法は、補助事業者が補助事業の遂行の状況を報告しなければならないことを定めています(12条)。報告書に書いたことを裏から支えるのは、日々の業務の中で残っている資料です。売上の記録がまだ出せない段階であれば、受注や販売の記録、会計帳簿への売上の計上、事業に従事している人の記録、取引先となり得る相手との協議の記録や相手に示した事業計画の説明資料、補助金で取得した財産が現にその場所に置かれ、使える状態にあることが分かる写真が、遂行を示す資料になります。いずれも日付が分かる形にしておき、写真は撮影の時期が分かる形で残しておいてください。
既存事業との併用(対応ページ) →- 計画した売上がまだ立っていません。それだけで補助事業を遂行していないことになるのでしょうか。
売上の有無だけで決まるものではないと考えております。補助金適正化法17条1項が定める取消事由は、補助金の他の用途への使用、交付決定の内容又はこれに附した条件への違反、法令又はこれに基づく処分への違反の三つであり、計画した売上に達していないことがこのいずれかに当たるかどうかは、別に検討することになります。遂行の事実としては、売上に向けて現に動いていること――受注や販売の記録、会計帳簿への計上、販路を広げるための活動の記録――を示すことができます。
補助金の「目的外使用」とは何か(Q&A) →- 実績報告の後に、補助事業の実施の状況について資料の提出を求められました。応じなければならないのでしょうか。
補助金適正化法23条1項は、補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは、補助事業者に報告をさせ、職員に事務所・事業場等へ立ち入って帳簿書類を検査させ、関係者に質問させることができると定めています。求めに応じられる部分には応じたうえで、何を示す資料として出すのかを整理しておくことになります。求められた資料をどこまで出すことになるのか、立入検査(実地検査)の権限の限界については、別のページで扱っています。
補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか(Q&A) →
※ 本稿は、執筆時点の法令に基づく一般的な整理であり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。第3節から第5節までに挙げた資料の整え方は条文の定めではなく、当職の考え方です。どの資料がそろえば足りるという基準が法令に定められているものではありません。第6節の当てはめは、公募申請時の事業計画書に既存事業への活用が記載されている場合についてのものです。