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弁護士 岸上大起

自治体はどんな補助金でも出せるのか――裁判例紹介:東京地判平成10年7月16日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

国の補助金には補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)があり、交付の決定、取消し、返還の仕組みが法律に書かれています。これに対して、都道府県や市町村が独自の財源で出す補助金については、根拠となる条文はたった一つです。地方自治法232条の2が、「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」と定めているだけです。

この一文は、裏から読むと厳しいことを言っています。公益上必要がある場合でなければ、自治体は補助をすることができません。つまり、自治体の補助金は、要綱があり、予算があり、議会が通っていても、それだけで適法になるわけではないということです。要件は「公益上必要がある場合」に当たることであり、これに当たらない支出は違法な公金の支出になります。

本稿で取り上げる東京地判平成10年7月16日(判タ1009号134頁、判時1687号56頁、判自185号52頁。判タ1036号324頁〔平成11年度主要民事判例解説〕に掲載)は、経営破綻した信用組合の処理のために東京都が10年間で総額200億円の補助金を交付したことについて、都民が違法な公金支出であるとして争った住民訴訟の判決です。裁判所は、「公益上必要がある場合」に当たるかどうかの判断は当該地方公共団体の長の合理的な裁量にゆだねられているとしたうえで、何を見て判断するのかという判断要素を具体的に並べました。そして、本件では知事の判断に客観的合理性を認め得るとして、請求を棄却しています。

事業者の側から見ると、この判決が意味を持つのは次の場面です。自治体から補助金を受け取った。ところが後になって、住民監査請求や住民訴訟で「あの補助金は公益上の必要がない違法な支出だ」と争われる。このとき、争いの名宛人は自治体の長や職員だけではありません。地方自治法242条の2第1項4号は、「当該行為……に係る相手方」に対する損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを自治体に求める請求を認めています。補助金を受け取った事業者は、この「相手方」に当たり得ます。自分は申請書を出して交付決定を受けただけなのに、数年後に自治体から不当利得の返還を求められる、という形で跳ね返ってくるわけです。

そこで本稿では、「公益上必要がある場合」とは何を指すのか、裁判所はどこまで踏み込んで審査するのか、違法とされた裁判例はどのような事案だったのか、そして受け取った側にどう跳ね返るのかを、順に整理します。住民訴訟の手続そのものの説明は、必要な限度にとどめます。

1 自治体の補助金に適用される条文は一つしかないこと

(1)条文を確かめる

まず、条文です。

引用(地方自治法232条の2)

「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」

見出しは「寄附又は補助」です。自治体の補助金について、地方自治法が置いている規定はこれだけです。国の補助金のように、交付決定・事業遂行命令・是正措置命令・額の確定・取消し・返還命令・加算金という一連の仕組みが法律に書かれているわけではありません。実務では、各自治体が補助金等交付規則や要綱を定め、それに基づいて交付がされています。

ここから二つのことが出てきます。

一つは、補助金を出す側の要件が「公益上必要がある場合」という一語に集約されているということです。要綱に書いてあるから適法、予算が議会を通っているから適法、という話ではありません。要綱も予算も、この条文の要件を満たした範囲でしか効力を持ちません。

もう一つは、その要件該当性を争う入口が、住民監査請求と住民訴訟であるということです。補助金を出すかどうかは自治体と事業者の間の話ですが、それが公益上必要かどうかは、住民が争うことができます。しかも、住民訴訟は補助金が交付されてから提起されるのが通常ですから、事業者としては、受け取って使い終わった後に争いが始まることになります。

(2)「公益上必要がある場合」は自由裁量か

次の問題は、この要件の判断を誰がどこまで自由にできるのか、です。

通説と行政実例は、全くの自由裁量ではないとしてきました。判タ1036号325頁の評釈(太田幸夫判事)は、次のように整理しています。地方自治法232条の2にいう「公益上必要がある」か否かは、地方公共団体の長又は議会が個々の事情に即して判断するが、全くの自由裁量行為ではなく、客観的に公益上必要であると認められなければならないとするのが通説であり、行政実例となっている、というものです。典拠として、長野士郎『逐条地方自治法〔第11次改訂新版〕』717頁、杉村敏正ほか編『コンメンタール地方自治法』605頁〔清水敬次〕が挙げられています。同評釈は、これを羈束裁量というよりも、自由裁量であるがその要件判断について厳格な司法審査が及ぶ趣旨に理解するのが相当であると思われる、としています。

この点をどう呼ぶかは、評釈自身が述べるとおり術語の問題にとどまります。自由裁量行為であるとしても、裁量権の範囲を逸脱したか、その濫用があったと説明できるからです。大事なのは、呼び方ではなく、裁判所がどこまで中身を見るのかという点です。

2 事案――破綻した信用組合の処理に総額200億円

(1)信用組合の破綻

事案は、次のようなものです(以下の経緯は、判タ1036号324頁の《事案の概要》によります)。

C信用組合は、都知事の認可を受けて昭和27年に設立され、業務を行っていました。ところが、いわゆるバブル経済の時期に不動産関連事業に多額の融資を行ったことが災いし、バブル経済崩壊後、不良債権が増加して経営内容が悪化しました。それが報道されたこともあり、平成7年7月31日(月曜日)には、開業1時間で約128億円、当日中に預金総額の約17パーセントに当たる約730億円の預金が流出する事態となりました。都知事は、同日夜、C信用組合に対し、関係法令に基づき、流動性預金と満期が到来した定期性預金の払戻し等を除き、業務の一部停止を命令しています。

当時の預金保険法では、1000万円までの預金元本のみが保護の対象とされていました。しかし、C信用組合にこれを適用すると連鎖的な信用不安が生ずるおそれがあるとして、東京都、大蔵省及び日本銀行は、預金者の保護と信用秩序維持の観点から、同組合の事業を第三者に譲渡する案を軸に破綻処理策について検討し、関係金融機関等とも協議しました。

その結果、同年8月28日、T銀行を受け皿とし、日本銀行、預金保険機構、貸付金融機関等がT銀行に資金贈与等の財政支援をする、回収可能な債権1300億円は都信用組合協会に有償譲渡し、都は同債権回収を促進させるため200億円の資金援助をする、C信用組合はT銀行に業務の全部を譲渡し解散する、などの内容の処理スキームについて、関係者間で合意が成立しました。

(2)補助金交付要綱と、10年間で200億円

都は、平成8年3月5日、都信用組合協会が行う債権管理回収事業に要する経費の一部を補助することによって、C信用組合の破綻処理を円滑に促進し、地域の信用秩序の維持に資することを目的として、平成7年度から16年度までの10年間で総額200億円の補助金を交付することなどを定めた東京都信用組合緊急特別対策補助金交付要綱を定めました。以後、これに従って、10年間にわたり毎年20億円を補助金として支出することになります。

ここで押さえておきたいのは、補助金の相手方が信用組合そのものではなく、債権管理回収事業を行う協会であった、という点です。自治体の補助金は、最終的に助けたい相手と、補助金の名宛人とが一致しないことがあります。本件は、その典型です。後記6で述べるとおり、住民訴訟で「相手方」として名指しされ得るのは、補助金を現実に受け取った者ですから、この構造は実務上重要です。

(3)住民訴訟の提起

Xら11名は都民であり、本件補助金の支出について公益上の必要がないなどと主張しました。そして、本来的な支出負担行為及び支出命令権者である都知事、専決権限を有する都労働経済局長、規則により支出命令権限の委任を受けている同局計理課長らに対し、平成7年度・8年度の既支出分相当の損害賠償と、同9年度以降の交付決定又は支出命令の差止めを求めて提訴しました。

本判決は、地方自治法232条の2にいう「公益上必要がある場合」を判断する基準及び方法を示したうえ、本件補助金の支出につき、知事の裁量判断には客観的合理性を認め得るとし、Xらのその他の主張も排斥して、各請求を棄却しています。

3 東京地判平成10年7月16日――「公益上必要がある場合」の判断の仕方

(1)判旨一――判断要素と、裁量の所在

本判決の中心は、次の判示です。自治体の補助金の適法性を考えるときの出発点になりますので、全文を掲げます。

引用(東京地判平成10年7月16日・判旨一〔判タ1036号324頁〕)

「「公益上必要がある場合」に当たるか否かは、当該地方公共団体が置かれている社会的、経済的状況を前提として、補助金の交付を受ける相手方と当該地方公共団体との関係、補助金の交付が当該地方公共団体ないしその住民にもたらす利益、効果、その程度、交付される補助金の額がそれに見合うだけの利益をもたらすものかなど諸般の事情を総合的に勘案して決するほかないが、かかる総合的な判断をする場合においては、事例の性質上、裁量が機能する余地を否定することはできないのであって、法は、「公益上必要がある場合」に当たるか否かの判断については、当該地方公共団体の長の合理的な裁量にゆだねているものと解するのが相当である。」

この一文は、二つのことを続けて述べています。

第一に、判断要素です。①当該地方公共団体が置かれている社会的、経済的状況、②補助金の交付を受ける相手方と当該地方公共団体との関係、③補助金の交付が当該地方公共団体ないしその住民にもたらす利益、効果、その程度、④交付される補助金の額がそれに見合うだけの利益をもたらすものか。この四つが、条文の「公益上必要がある場合」という抽象的な文言に、裁判所が与えた中身です。

第二に、裁量の所在です。これらを総合的に勘案する以上、事例の性質上、裁量が機能する余地を否定することはできない。だから、法は、この判断を当該地方公共団体の長の合理的な裁量にゆだねている。――ここで「合理的な」という限定が付いていることが大切です。自由にしてよいとは書かれていません。

(2)②と④に注目していただきたいこと

四つの判断要素のうち、事業者の立場から実際に効いてくるのは、②と④です。

②の「補助金の交付を受ける相手方と当該地方公共団体との関係」は、その事業者がなぜその自治体から補助を受けるのか、という問いです。当該自治体の区域内で事業を行っているか、住民の雇用や生活にどう関わっているか、他の同種事業者と比べて特別扱いになっていないか。本件でいえば、都知事の認可を受けて設立された信用組合であり、その預金者と取引先が都民・地域の中小企業者であった、という関係が効いています。

④の「交付される補助金の額がそれに見合うだけの利益をもたらすものか」は、金額の相当性です。公益目的があるというだけでは足りず、その目的のために200億円を出すことが見合っているか、という問いが立ちます。評釈も、本判決について、地方公共団体が二〇〇億円という巨額を支出するのを適法と判断した事例であり、社会の注目を浴びた、と述べています(判タ1036号325頁)。

補助金の申請を受ける側の自治体が、この②と④を記録として残していないことがあります。要綱の要件に形式的に当てはまるかどうかだけを見て、公益上の必要性の吟味を事実上省いている運用です。そうした運用は、法232条の2が「公益上必要がある場合においては」と要件を定めた趣旨に沿わないものと言わざるを得ません。そして、その不備が表に出るのは、たいてい、事業者が補助金を使い終わった後の住民訴訟の場面です。

(3)司法審査の方法――客観的合理性があったかを見る

次に、裁判所がどのように審査するかです。評釈は、裁量行為の司法審査の方法について、裁判所の実体的判断を代置させる方式と、処分を前提としてその合理性を判断する方式とを分け、裁判例は基本的に後者の方法によっているとみられる、と整理しています(判タ1036号325頁。最高裁事務総局行政局監修『主要行政事件裁判例概観7』786頁以下参照)。そして、本判決の位置づけについて、次のように述べています。

引用(判タ1036号325頁〔太田幸夫評釈〕)

「公益上の必要性が争われた裁判例は多数あるが、本判決は、その基本的な判断要素を示し、裁量判断についての司法審査の方法として、地方公共団体による決定に客観的合理性があったかどうかを見るべきであるとした点で手続統制に近い立場を採用したものである。」

ここは実務上、二面があります。自治体の決定そのものが正しかったかを裁判所が一から判断し直すわけではない、という点では、補助金を受けた事業者にとって有利に働きます。他方で、自治体が判断の過程で考慮すべき事項を落としていたときには、結論の当否とは別に、その決定が違法とされる余地があるということでもあります。

(4)自治体の財政状況はどう効くか

もう一つ、実務でよく持ち出される論点があります。「財政難の自治体が補助金を出すのは、それだけで違法ではないか」という主張です。

本判決は、自治体の財政状況は考慮すべき事情ではあるが、支出の必要性の程度との兼ね合いの問題であるという立場を採りました。評釈も、「なお、地方公共団体の財政状況について、支出の必要性の程度との兼ね合いであるとしたことも、同種の訴訟において参考となるものである。」としています(判タ1036号325頁)。評釈は、別のところで、地方公共団体に財政的余裕のないことは公益上の必要性の有無の判断に当たって消極的に働くものであり、評価障害事実と考えられる、とも述べています(同325頁。司法研修所編『民事訴訟における要件事実(1)〔増補〕』34頁参照)。

つまり、財政に余裕がないことは、必要性を打ち消す方向に働く一事情ではあっても、それだけで違法を導くものではない、という整理です。逆にいえば、必要性の程度が低い補助金については、自治体の財政状況が効いてくる、ということになります。

(5)この枠組みが上級審でも用いられていること

本判決は控訴されています(判タ1036号324頁の事件表示に「請求棄却・控訴」とあります)。当職は、本判決そのものの控訴審の裁判を確認できていません。

もっとも、同じ補助金の後年度分について別に提起された住民訴訟の控訴審である東京高判平成13年3月28日(平成12年(行コ)第293号・判例秘書登載)が、同じ枠組みを前提として、第一審の判断を是認しています。同判決は、第一審がどのような見地に立ったかを次のように説明しています。

引用(東京高判平成13年3月28日・第3の2(2))

「法232条の2の「公益上必要がある場合」という要件具備の判断については,結局のところ,事柄の性質上,当該普通地方公共団体が置かれている社会的,経済的状況を前提として,寄附金又は補助金の交付を受ける相手方と当該普通地方公共団体との関係,寄附金又は補助金の交付が当該普通地方公共団体ないしその住民にもたらす利益,効果,その程度,交付される額がそれに見合うだけの利益をもたらすものかなど諸般の事情を総合的に勘案して決するのが相当であるとの見地を示し」

さらに、同判決は、この「裁量」の意味についても、念を押しています。

引用(東京高判平成13年3月28日・第3の2(2))

「原判決は,本件 補助金 の 交付決定 の性質は全くの自由裁量であるといっているのではなく,当該要件としての「公益上必要」といった事柄の性質上,その具備の判断に当たっては裁量の幅に広い面があるとはいえ,あくまでそれは当該普通地方公共団体(本件の場合は東京都)の長の合理的な裁量によりその要件の具備を吟味し」

※ 引用中の語の前後の空白は、判例秘書登載の本文の表記のままです。

全くの自由裁量ではない。裁量の幅は広いが、要件の具備を吟味したうえでの合理的な裁量である。――この押さえ方は、平成10年判決の判旨一の「合理的な裁量」という限定と一致しています。

4 この事案で公益上の必要性が認められた理由

(1)判旨二

では、本件でなぜ公益上の必要性が認められたのか。判示は短く、しかし構造がはっきりしています。

引用(東京地判平成10年7月16日・判旨二〔判タ1036号324頁〕)

「都が、預金者を保護することにより、地域の信用不安を回避し、都民や地域の中小企業者への影響を最小限にとどめることが都の公益に合致し、そのために財政支出が必要であるとの判断に基づき、本件処理スキームに基づく資金援助を決定したことについては、その判断に客観的合理性を認め得る。」

読み方としては、次の連鎖になっています。①預金者を保護する、②それによって地域の信用不安を回避する、③その結果、都民や地域の中小企業者への影響を最小限にとどめる、④これが都の公益に合致する、⑤そのために財政支出が必要である。

この連鎖は、前記3(1)の判断要素に対応しています。②と③は、補助の効果が都民・地域にもたらす利益(判断要素③)です。①は、補助を受ける相手方と都との関係(同②)につながります。⑤は、その額の必要性(同④)です。

(2)事業者の側が示すべきものは何か

ここから引き出せる実務上の示唆は、はっきりしています。補助金を受ける事業者の側が、自分の事業と住民の利益とのつながりを説明できる材料を持っているか、ということです。

自治体の補助金の申請では、事業計画や収支計画は提出しても、「この補助がその自治体の住民にどのような利益をもたらすのか」を正面から書く欄がないことがあります。しかし、後に適法性が争われたとき、審査の対象になるのはまさにそこです。地域の雇用、取引先への波及、住民が受けるサービスの維持――これらを、交付の時点で記録として残せているかどうかで、数年後の防御力が変わります。

(3)後記5(3)の裁判例と対比すると分かりやすいこと

なお、後に述べる山口地判平成10年6月9日は、第三セクターへの出資を違法とした理由として、補助金の交付と住民の利益との間の因果関係の存在を肯定できないことを挙げています(判自180号19頁。判タ1036号325頁の紹介によります)。

本判決の判旨二が、預金者保護から住民への影響までを一本の線で結んでいるのに対し、山口地判はその線が切れていると見た、ということになります。「公益」という言葉を抽象的に掲げるだけでは足りず、住民の利益まで届いているかが見られる、という点で、両者は同じことを裏表から述べています。

5 では、どのようなときに違法とされるのか

(1)違法とされた裁判例

ここが、本稿の読者にとって実際的な部分です。判タ1036号325頁の評釈が挙げる裁判例から、違法とされたものを拾います。

第一に、名古屋地判昭和43年12月26日(判タ233号121頁)は、たばこ小売業者に対する補助金の交付を違法としました。評釈は、これを通説・行政実例と同旨のものとして紹介しています。

第二に、大阪高判平成元年2月15日(判タ696号100頁)は、ある運動に関する費用等の補助金支出を違法としたうえ、公益上の必要性の有無の判断は客観的に羈束された行為であり、いわゆる自由裁量行為ではないとしています。

第三に、山口地判平成10年6月9日(判自180号19頁)は、第三セクターへの出資を違法とし、その理由として、補助金の交付と住民の利益との間の因果関係の存在を肯定できないとしました。

逆に、適法とされた例としては、第三セクターへの出資について逸脱・濫用を否定した釧路地判平成10年2月17日(判自180号98頁)、第三セクターに対する出資を適法とした名古屋高判平成11年1月28日(判タ1027号136頁)、政治的団体の公益活動に対する補助金支出を適法とした名古屋高判昭和51年4月28日(判タ340号224頁。最二小判昭和53年8月29日判タ369号148頁により上告棄却)があります。

こうして並べると、違法とされているのは、①補助の対象が特定の業種・団体に向けられていて、住民一般の利益との結び付きが説明できない類型と、②第三セクターのように、出資・補助と住民の利益との間の因果関係が切れている類型である、と整理できます。これは当職の整理です。

(2)八つの判断要素――名古屋高判平成11年1月28日で主張されたもの

実務で使いやすい形にまとまっているのが、名古屋高判平成11年1月28日の事件で原告らが主張した八つの要件です。評釈は、これを次のように紹介しています(判タ1036号325頁)。①当該地方公共団体に財政上の余裕があること、②出資目的が公益性を有すること、③他の行政支出目的との関連で、当該出資が重要性・緊急性を有すること、④当該出資の対象となる事業活動が、地方公共団体又はその住民の大部分の利益につながること、⑤出資の方法、金額が相当であること、⑥出資を受ける者の性格、活動状況に問題がないこと、⑦出資に目的違反、動機の不正、平等原則違反、比例原則違反のないこと、⑧支出手続、事業の検査体制が整備されていること。

ここで注意が必要です。この八つは、原告らの主張です。同判決がこれを判断基準として採用したわけではありません。評釈によれば、同高判は、この八要件により判断すべきことが必須であるかどうかはともかくとしても、本件出資が公益上の必要性がなかったかどうかの判断にあたって、考慮すべき事項であるのは確かであるとして判断に入り、結局、出資は行政において許容される裁量の中に止まるとした、とされています。

したがって、この八項目は「満たさなければ違法になる要件」ではありません。しかし、自治体が公益上の必要性を記録に残すときの項目としては、過不足のない並びです。補助金を受ける事業者の側でも、申請書や協定書にこれらの点を書き込んでおけば、後に住民訴訟で争われたときに、自治体の判断過程を支える材料になります。

(3)自治体側の運用について

実務で目にするのは、要綱の要件に当てはまるかどうかの審査はするが、法232条の2の「公益上必要がある場合」に当たるかどうかを独立に検討した形跡が記録に残っていない、という運用です。

法が自治体に求めているのは、要綱に当てはめることではなく、公益上の必要があるかどうかを判断することです。通説・行政実例が、全くの自由裁量ではなく客観的に公益上必要であると認められなければならないとしてきたこと(判タ1036号325頁。長野・前掲717頁、杉村ほか編・前掲605頁〔清水敬次〕)からすれば、要綱該当性の審査で置き換えてよいものではありません。その意味で、公益上の必要性の検討を記録に残さない運用は、法の求めるところを満たしていないと言わざるを得ません。

そして、その不備の帰結を最初に受けるのは、自治体ではなく、補助金を受け取った事業者であることが少なくありません。次にその点を述べます。

6 受け取った事業者にどう跳ね返るのか

(1)住民訴訟の四号請求と「相手方」

住民訴訟の請求類型は、地方自治法242条の2第1項に四つ並んでいます。このうち、補助金が交付された後に用いられるのが四号です。

引用(地方自治法242条の2第1項4号)

「当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の九第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求」

ここに「当該行為……に係る相手方」とあります。違法な公金の支出の相手方、すなわち補助金を受け取った者です。住民が勝訴すると、自治体は、その相手方に対して不当利得返還の請求をすることを求められます。

本件の原告らが選んだのは、知事らに対する損害賠償と、将来の交付決定・支出命令の差止めでした。しかし、同じ条文は、補助金を受け取った側に向けることもできます。事業者にとっては、ここが本当の問題です。

(2)事業者から見た三つの厄介さ

第一に、事業者は、自分が当事者になるかどうかを選べません。住民訴訟は住民が起こすものであり、補助金を受け取った事業者の関与なしに進みます。そして、争点は「自治体の判断に客観的合理性があったか」であって、事業者が誠実に申請し誠実に事業を行ったかどうかではありません。

第二に、時間が経ってから来ます。住民監査請求には期間の制限がありますが(地方自治法242条2項)、訴訟が一審・控訴審・上告審と続けば、交付から数年が経ちます。本件でいえば、平成7年度・8年度の支出について提起された訴訟の第一審判決が平成10年、後年度分についての控訴審判決が平成13年です。事業者の側では、担当者が代わり、資料が散逸していることが珍しくありません。

第三に、請求が「不当利得返還」の形を取ることです。補助金の返還を求められる場面は、交付決定の取消しによるものだけではない、ということです。交付決定の取消しとそれに基づく返還請求については補助金の交付決定の取消し・返還請求に、返還額の計算の仕組みについては補助金の返還額はどう計算するのかにまとめていますが、住民訴訟を経由してくる不当利得返還請求は、これらとは別の筋道です。

(3)今から残せること

以上を踏まえると、自治体の補助金を受ける事業者が、交付の段階でしておけることは、おおむね次のものになります。以下は当職の整理です。

① 公益上の必要性を説明する材料を、申請書類の中に残す。 事業が当該自治体の住民にどのような利益をもたらすのか、雇用・取引・サービスの維持という形で具体的に書きます。前記5(2)の八項目は、そのまま項目立てとして使えます。

② 自治体とのやり取りを保存する。 照会と回答、協議の記録、要綱制定の経緯に関する説明。自治体がどのような検討をしたかの記録は、本来は自治体が持つものですが、事業者の手元にある分だけでも意味があります。

③ 補助金の額の根拠を残す。 四つの判断要素のうち、額の相当性(判断要素④)は、事業者の側がもっとも具体的に説明できるところです。積算の根拠、相見積り、他の資金調達手段との比較。

④ 交付の相手方と受益者がずれる場合の整理。 本件のように、補助金の名宛人と、実際に助けられる者とが異なる仕組みでは、両者の関係を説明する書面を残しておくことになります。

⑤ 補助金の性質を確かめる。 国の補助金(補助金適正化法が適用されるもの)なのか、自治体が独自に出す補助金なのか、国の補助金を原資とする間接補助金なのかで、適用される規律が変わります。交付規程や要綱に書かれていることが補助条件に当たるかという問題については交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで、返還請求の時効については補助金の返還請求に時効はあるのかで扱っています。

なお、自治体から補助金の返還を求められた場合の対応一般については補助金の返還・残存簿価の返納を求められたらをご覧ください。

7 まとめ

地方自治法232条の2は、「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」と定めています。自治体は、どんな補助金でも出せるわけではありません。公益上必要がある場合でなければ、補助をすることができません。

東京地判平成10年7月16日は、この「公益上必要がある場合」に当たるか否かについて、①当該地方公共団体が置かれている社会的、経済的状況、②補助金の交付を受ける相手方と当該地方公共団体との関係、③補助金の交付が当該地方公共団体ないしその住民にもたらす利益、効果、その程度、④交付される補助金の額がそれに見合うだけの利益をもたらすものか、といった諸般の事情を総合的に勘案して決するほかないとし、その判断は当該地方公共団体の長の合理的な裁量にゆだねられているとしました。そして、本件については、預金者保護から地域の信用不安の回避、都民や地域の中小企業者への影響の最小化へとつながる都の判断に、客観的合理性を認め得るとしています。

裁量にゆだねられている、という言葉だけを取れば、自治体に広い自由があるように見えます。しかし、判示は「合理的な裁量」と限定しており、同じ補助金について判断した東京高判平成13年3月28日も、全くの自由裁量ではないと念を押しています。現に、たばこ小売業者への補助金、ある運動に関する費用等の補助金、住民の利益との因果関係が認められない第三セクターへの出資は、いずれも違法とされています。

事業者にとっての意味は、受け取った後にあります。自治体の判断に客観的合理性がなかったとされれば、地方自治法242条の2第1項4号により、補助金を受け取った事業者が「相手方」として不当利得返還の請求を受けることがあります。自治体が公益上の必要性を記録に残さずに交付している場合、その不備の帰結を先に受けるのは事業者です。

本判決の控訴審の裁判は確認できていません。もっとも、同じ補助金の後年度分についての控訴審である東京高判平成13年3月28日が、同じ枠組みを前提に第一審の判断を是認しており、この判断の枠組み自体は、その後の裁判例でも用いられています。

ご相談をお考えの事業者の方へ

自治体の補助金について、住民監査請求がされた、住民訴訟が提起されたと聞いた、あるいは自治体から「補助金の交付が違法とされる可能性がある」と連絡を受けた――こうした段階で、できることがあります。補助金交付要綱、交付申請書と添付資料、交付決定通知書、協定書、自治体とのやり取り、事業の実績を示す資料があれば、公益上の必要性がどこまで説明できるかの見通しを立てることができます。住民訴訟は事業者の関与なしに進みますので、早い段階で状況を把握しておくことに意味があります。ご相談ください。

士業の先生方へ

顧問先が自治体の補助金を受けている場合、国の補助金とは適用される規律が異なります。交付の段階で公益上の必要性を説明する材料を残しておくことが、数年後の防御につながります。補助金に関する法律上の検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

交付決定の取消しの場面については、補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのかもあわせてご覧ください。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節(1)後段、第6節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付要綱・交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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