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弁護士 岸上大起

採択(交付内定)を受けた後に「交付しない」と言われたら、争えるのか――裁判例紹介:東京地判令和3年6月21日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金・助成金の手続は、二段階になっています。まず申請して採択(交付内定)を受け、次に交付申請をして交付決定を受ける。事業者の側は、採択の通知が届いた時点で資金計画を組み、発注の段取りを進めます。ところが、その後の交付申請の段階で、「交付決定はしない」と告げられることがあります。しかも、その理由が、申請した経費の内容とは関係のないところに置かれていることがあります。

このとき、事業者はどう受け止めるでしょうか。手元には、公募要領の「補助金交付候補者の採択結果は、申請いただいた事業計画に記載のある金額の全額に対して、補助金の交付決定を保証するものではありません。」という一文があります。採択は保証ではない、と書かれている。だから交付されなくても仕方がない。そう考えてしまいがちです。

本稿で取り上げる東京地判令和3年6月21日(令和元年(行ウ)第634号、民集77巻8号2121頁、判タ1499号141頁、判時2511号5頁)は、この受け止め方を正面から否定した判決です。独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長が、交付内定を出した後に、「国の事業による助成金を交付することは、公益性の観点から、適当ではない」として助成金を交付しない旨の決定をした事案です。東京地裁は、交付の判断が理事長の裁量に委ねられていることを認めたうえで、その裁量は、交付内定の審査における専門的知見に基づく判断を尊重する仕組みを踏まえたものでなければならないとし、この仕組みを踏まえてもなお交付しないことを相当とする合理的理由がなければ不交付決定はできない、としました。そして、本件の不交付決定を裁量権の範囲の逸脱・濫用として取り消しました。

この判決は、控訴審(東京高判令和4年3月3日)でいったん覆されています。しかし最高裁(最二小判令和5年11月17日、民集77巻8号2070頁)は、控訴審の判断を是認せず、原判決を破棄して控訴を棄却しました。つまり、第一審判決が正当であるとされ、そのまま確定しています。地裁と高裁で結論が割れ、最高裁が地裁の側に立ったという経過です。判断の分かれる難しい問題であり、それだけに、押さえておく価値のある裁判例です。

本稿では、この判決が何を言い、何を言っていないのかを、判決の言葉で確かめます。そのうえで、今の補助金の運用――採択の審査結果は開示しない、審査の基準や内容の問い合わせには答えない、しかし採択は交付決定を保証しない――という組み合わせが、この判決の論理に照らしてどこまで通るのかを検討します。交付申請そのものが通らない場合や差し戻しの場合の扱いは交付申請が不交付・差し戻しとされたらで扱っていますので、本稿は「採択(交付内定)を受けた後に、採択の判断を覆す形で交付されない」場面に絞ります。

1 採択と交付決定が二段階であることの意味

(1)二段階であることは、事業者にとって不利でもあり有利でもある

補助金の手続が二段階であること自体は、事業者にとって不利に働きます。採択の通知を受けても補助金は確定しておらず、交付決定の前に発注した経費は補助の対象になりませんから、事業者は、交付決定を待つ時間と事業を進める都合との間で板挟みになります。

もっとも、二段階であることは、別の面を持っています。第一段階(採択・交付内定)で何が審査され、誰がそれを審査したのか、という面です。第一段階の審査が外部の有識者によって行われ、その判断を尊重する仕組みが制度の中に組まれているのであれば、第二段階(交付決定)でその判断を覆すには、それに見合った理由が必要になるはずです。

(2)この記事が扱う場面

本稿が扱うのは、採択(交付内定)を受けて交付申請をしたのに、申請した経費の内容の精査とは別の理由で交付決定がされない場面です。経費の精査の結果として補助対象経費が削られ、交付決定額が減額される場合は、第二段階の審査が本来果たすべき役割そのものですから、本稿の対象ではありません。問題にするのは、第一段階の判断を、第二段階で、別の理由によって覆す場合です。

2 事案――交付内定の後に「公益性の観点から適当ではない」とされた

(1)制度の仕組み

独立行政法人日本芸術文化振興会は、芸術の創造又は普及を図るための活動等に対する援助を行うことを目的とする独立行政法人です(独立行政法人日本芸術文化振興会法3条)。同法14条1項1号イは、芸術家及び芸術に関する団体が行う公演、展示等の活動に対し資金の支給その他必要な援助を行うことを業務として定め、同法17条は、この資金の支給について補助金適正化法の規定を準用しています。

理事長は「文化芸術振興費補助金による助成金交付要綱」を定め、文化庁長官から交付される文化芸術振興費補助金を財源として、劇映画の製作活動等を対象とする助成金を交付しています。手続は二段階です。交付を受けようとする者が交付要望書を提出し、理事長が芸術文化振興基金運営委員会の議を経て交付内定をする。内定を受けた者が助成金交付申請書を提出し、理事長が内容を審査して交付決定をする(適正化法6条1項)。第一段階の審査は、基金運営委員会の下に置かれた分野別の部会、さらにその下の専門委員会で行われ、劇映画の場合、「企画意図に則した優れた内容の作品であること」「スタッフ・キャスト等に高い専門性、新たな創造性が認められること」といった基準によるものとされていました。

(2)事実経過

映画製作会社は、平成30年4月頃に劇映画の製作に着手し、同年10月30日に撮影を終え、平成31年3月12日までに編集・整音を完了しました。同年3月29日付けで交付内定を受け、助成対象経費約7800万円に対し助成金の額は1000万円とされました。

ところが、出演者の一人が、交付内定の直前である平成31年3月12日にコカイン使用の疑いで逮捕され、交付内定後の令和元年6月18日、麻薬及び向精神薬取締法違反の罪により有罪判決を受け、同判決は確定しました。

製作会社は令和元年7月2日までに交付申請書を提出しましたが、理事長は同月10日付けで不交付決定をしました。通知書に書かれた理由は、「本助成対象活動である映画『宮本から君へ』には、麻薬及び向精神薬取締法違反により有罪が確定した者が出演しており、これに対し、国の事業による助成金を交付することは、公益性の観点から、適当ではないため。」というものでした。

(3)押さえておくべき二つの事実

この事案には、本稿の主題に直結する事実が二つあります。

一つ目は、不交付決定に先立って、交付内定の取消しがされていなかったことです。要綱は、交付内定を取り消すことができる場合を具体的に列挙していました。しかし、この列挙された事由による取消しを経ずに、交付申請に対して不交付決定がされたのです。そして要綱には、交付内定の取消しによらずに不交付決定をすることについての定めは置かれていませんでした。

二つ目は、不交付決定の後に、要綱が改正されたことです。理事長は、不交付決定の約2か月半後である令和元年9月27日に要綱を改正し、交付内定・交付決定の取消事由に「公益性の観点から助成金の交付決定が不適当と認められる」との文言を加えました。処分の時点では、根拠とされた「公益性」は、取消事由として書かれていなかったのです。

3 判断の枠組み――裁量はある。しかし「自由に」ではない

(1)裁量があることは前提

東京地裁は、まず、交付の要件や手続について具体的な定めがないことから、これを理事長の合理的な裁量に委ねる趣旨であるとしました。ここは、行政側の主張と同じ出発点です。

もっとも、判決は、そこから先が違いました。裁量に委ねられていることと、裁量を「自由に」行使できることとは別である、という組み立てです。

(2)第一段階の判断を尊重する仕組みが制度の中にある

判決は、要綱が二段階の手続を定め、第一段階に基金運営委員会の議を要求していることの意味を次のように読みました。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の2(2)ウ)

「このような立場から,本件要綱は,交付内定に当たって基金運営委員会の議を経ることとし,基金運営委員会に設けられた分野別の部会及びその下に設けられた各専門委員会における芸術的観点からの専門的知見に基づく審査の結果(前提事実(2)ウ(イ),エ(ア)参照)を踏まえて交付内定をすることとした上,かかる交付内定を受けた者(内定者)に交付申請をさせて交付決定をすることとしているのであり,また,交付内定後の事情の変更や不正の事実の発覚等によりそのまま交付決定をすることが相当でない場合については交付内定の取消事由を具体的に定め,そのような特段の事情がない限りは交付内定の判断が維持される仕組みを設けているのであって,これらの定めや仕組みを通じて,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重しているものというべきである。」

「特段の事情がない限りは交付内定の判断が維持される仕組み」という読み方が、この判決の土台です。取消事由を具体的に列挙していること自体が、列挙された事情がなければ内定の判断が維持されるという仕組みの表れであると読んでいます。

(3)第二段階の判断は、その仕組みを踏まえたものでなければならない

そして、ここが核心です。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の2(3))

「以上のとおり,振興会法は,被告の助成事業における助成金の交付の要件や手続について被告理事長による合理的な裁量に委ねているところ,被告理事長は,本件要綱を定めるに当たり,同法の趣旨を踏まえ,交付内定に当たって基金運営委員会の議を経るものとし,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重するための定めや仕組みを設けているのであるから,被告理事長が内定者の交付申請に対して行う交付又は不交付の判断も,このような本件要綱の定めや仕組みを踏まえたものでなければならない。」

自分で定めた仕組みに、自分が縛られる。これが判決の論理です。制度の設計者が第一段階の専門的判断を尊重する仕組みを作ったのであれば、第二段階の判断もその仕組みの枠内で行われなければならない、ということになります。

(4)「自由裁量である」という主張は採用されなかった

行政側は、要綱8条1項が、交付・不交付の決定が理事長の自由裁量行為であることを明記したものである旨を主張しました。判決はこれを退けています。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の2(5)ア)

「しかし,上記(2)及び(3)に説示したとおり,被告理事長は,振興会法の趣旨に従って定めた本件要綱において,交付内定に当たり基金運営委員会の議を経るものとし,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重するための定めや仕組みを設けているのであるから,これを離れて,内定者に対して助成金を不交付とする判断を自由に行うことができるものではなく,本件要綱に例示的に列挙された交付内定の取消事由に該当する場合か,あるいは,これらの事由と同様に,助成の必要性や適正性の観点から,上記のような本件要綱の定めや仕組みを踏まえてもなお助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるといえる場合に限り,内定者に対する不交付決定をすることができるものと解するべきである。」

不交付決定ができるのは、①列挙された取消事由に該当する場合か、②これらと同様に、助成の必要性・適正性の観点から、仕組みを踏まえてもなお交付しないことを相当とする合理的理由がある場合に限られる。「限り」という言葉が使われていることが重要です。

なお判決は、処分当時の要綱に取消事由として書かれていない事由(公益性)を考慮することが一切許されないとまでは述べていません。公金を財源とする事業の性質上、公益性の観点から交付決定が不適当な場合に交付決定をすることは助成の適正性の観点から相当でないとして、規定のない事由を根拠としたという一事で直ちに逸脱・濫用になるとはいえない、としています。そのうえで、公益性が多義的な概念であることから、次の考慮要素を立てました。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の2(4)イ)

「そこで,被告理事長が交付内定を受けた芸術団体等(内定者)に対し公益性を理由に助成金の交付内定の取消し又は不交付決定をしたことが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるか否かを判断するに当たっては,交付内定の取消し又は不交付決定の根拠とされた公益の内容,当該芸術団体等に対し助成金を交付することにより当該公益が害される態様・程度,交付内定の取消し又は不交付決定により当該芸術団体等に生じる不利益の内容・程度等の諸事情を総合的に考慮して,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する本件要綱の定めや仕組みを踏まえてもなお助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるか否かを検討するべきである。」

①根拠とされた公益の内容、②交付によってその公益が害される態様・程度、③不交付によって事業者に生じる不利益の内容・程度。この三つを総合して、「仕組みを踏まえてもなお交付しないことを相当とする合理的理由」があるかを見る、という枠組みです。

(5)「内定後に生じた事情だから自由に判断できる」も通らない

行政側は、交付内定後に生じた事情を考慮する場合には裁量の範囲が限定されることはないとも主張しました。判決は、要綱が内定後に生じた事情についても取消事由として列挙していることを指摘し、次のように述べています。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の2(5)イ)

「そうすると,交付内定後に生じた事情であるからといって,被告理事長が当該事情を考慮して内定者に対する不交付決定を自由に行うことが許されるものではなく,交付内定前に生じた事情の場合と同様に,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する本件要綱の定めや仕組みを踏まえてもなお助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるといえるか否かを検討すべきものである。」

採択後に生じた事情であっても、それだけで自由な判断が許されるわけではない。実務では、採択後の事情が持ち出される場面が少なくありませんので、押さえておきたい説示です。

4 当てはめ――公益が害されるおそれと、事業者に生じる不利益

(1)公益が害されるおそれは認められなかった

行政側が主張した公益は、薬物乱用の防止でした。助成金を交付すれば、「国は薬物乱用に対し寛容である」という誤ったメッセージを発信したと受け取られ、違法薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれがある、という主張です。

判決は、これを認めませんでした。理由として挙げられたのは、助成金は製作主体に交付されるものであって出演者に交付されるものではないこと、出演料の支払は助成金の交付の有無によって影響を受けるものではないから助成金の交付によって出演者が経済的利得を得るものと評価できないこと、違法薬物の使用については刑罰規定による厳正な処罰と国の啓発活動が現に行われていること、問題とされた出演者の出演時間は全129分のうち約11分にすぎず、映画の「顔」として受け止められるとはいえないこと、などです。

(2)アンケート調査による立証を退けた部分

行政側は、訴訟係属後に行ったアンケート調査の結果(約7割の回答者が税金を原資とする助成金の交付を適切だと考えないと回答した等)を提出しました。判決はこれも退けています。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の3(2)エ(イ))

「しかし,そもそも,本件助成金を交付することにより薬物乱用の防止という公益が害される態様・程度については,本件助成金の交付の性質や,これと上記公益との関係等に照らし,客観的に判断すべきものであるところ,上記のようなアンケートの結果は,一定の条件で抽出され,質問に回答した者の回答結果を集計したものとして上記の客観的な判断を補強し得るものではあっても,上記判断に代替し得るものではなく,被告が主張する「違法薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれ」の存在を直接に証明するものでもない。」

公益が害される程度は客観的に判断すべきものであり、世論の集計はそれに代替しない。加えて判決は、アンケートの質問が「メインキャストの1人」という前提で作られていた点を捉え、実際の事案との齟齬を指摘しています。行政側が示した資料の前提が事案と合っているかを見る、という検証の仕方です。

(3)事業者に生じる不利益

判決は、不利益を二つの面で見ています。経済的な面と、自主性の面です。経済的な面では、助成対象経費約7800万円に対して助成金が1000万円であり、予算額全体のうちに占める割合は小さいとはいえないこと、不交付決定により急遽新たな資金調達の必要が生じ、事業の実施に及ぼされた影響も小さいとはいえないことを挙げています。

行政側の「交付内定後に交付決定がされない可能性は要綱上も予定されていた」という主張に対しては、次のように述べました。

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の3(3)エ(ア))

「原告がこれらの事由のいずれにも該当していなかったことは明らかであるから,本件内定を受けたことにより本件助成金1000万円の交付について原告が抱いていた期待は合理的なものであり,その期待に反して新たな資金調達の必要が生じたことの影響は,小さいものということはできない。」

採択を受けた事業者がその交付を期待することは「合理的」である。 これは、補助金の実務で繰り返し争点になる点です。列挙された取消事由のいずれにも当たらないのであれば、交付を前提に資金計画を組んだことは責められない、ということになります。

(4)結論

引用(東京地判令和3年6月21日・第3の3(4))

「そうすると,本件においては,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する本件要綱の定めや仕組みを踏まえてもなお本件助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるということはできないから,被告理事長が本件内定を受けた原告に対し本件助成金を交付しないこととした本件処分は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たり,違法である。」

5 上訴審の帰趨――高裁は覆し、最高裁が第一審を復活させた

本判決は、控訴審で覆されています。東京高判令和4年3月3日(民集77巻8号2162頁、判タ1505号41頁)は、出演者が映画のストーリーにおいて重要な役割を果たす著名人であったこと、有罪判決が広く報道されたこと、出演者が出演していた他の作品の多くでは代役による再撮影等の対応が採られていたことなどに照らし、理事長の判断が重要な事実の基礎を欠くとも社会通念に照らし著しく妥当性を欠くともいえないとして、請求を棄却しました。

しかし最高裁は、この判断を是認しませんでした。最二小判令和5年11月17日(民集77巻8号2070頁、判タ1518号67頁、判時2597号23頁)は、交付に係る判断が理事長の裁量に委ねられていることを認めたうえで、次の限定を加えました。

引用(最二小判令和5年11月17日・理由4(2))

「そうすると、本件助成金の交付に係る判断において、これを交付するとその対象とする活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されるということを消極的な考慮事情として重視し得るのは、当該公益が重要なものであり、かつ、当該公益が害される具体的な危険がある場合に限られるものと解するのが相当である。」

「以上に説示したところは、本件要綱に一般的な公益の考慮に関する定めがあるか否か等によって左右されるものではない。」

そして、出演者が助成金の交付により直接利益を受ける立場にあるとはいえないことなどからすれば、薬物乱用の防止という公益が害される具体的な危険があるとはいい難く、助成金の在り方に対する国民の理解という抽象的な公益が薬物乱用の防止と同様に重要なものであるということはできないとして、本件処分は重視すべきでない事情を重視した結果社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであり、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとしました。結論として原判決を破棄し、「本件処分の取消請求を認容した第1審判決は正当である」として控訴を棄却しています。

本判決は、この最高裁判決によって結論を維持された第一審判決です。地裁と高裁で結論が割れ、最高裁が地裁の側に立ったという経過ですから、容易な問題ではありません。もっとも、だからこそ、使える説示として残っています。

ここで一点、注意しておきます。最高裁が述べた「重要な公益」「具体的な危険」という限定は、表現行為を対象とする助成金について、憲法21条1項による表現の自由の保障の趣旨を踏まえて導かれたものですから、設備投資や事業転換を対象とする補助金にそのまま及ぶとは言えません。これに対して、第一審が示した枠組み――①第一段階の判断を尊重する仕組みを自ら設けた以上、第二段階の判断もその仕組みを踏まえたものでなければならない、②公益の内容・害される態様と程度・事業者に生じる不利益を総合して、仕組みを踏まえてもなお交付しないことを相当とする合理的理由があるかを検討する――は、表現の自由に固有の議論を経由していません。制度が二段階で、第一段階に外部有識者の審査が組み込まれているという構造の共通性に着目して読むことができる部分です(この点は当職の整理です)。

6 「採択は交付決定を保証するものではありません」をどう読むか

(1)公募要領の文言

ここからは、今の補助金の運用に当てはめて考えます。事業再構築補助金の公募要領(第13回。https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/koubo.pdf )5頁には、次の記載があります。

引用(事業再構築補助金公募要領(第13回)5頁)

「本事業では、提出いただいた事業計画を外部有識者からなる審査委員会が評価し、より優れた事業計画を提出した者を補助金交付候補者として採択します。」

「補助金交付候補者の採択結果は、申請いただいた事業計画に記載のある金額の全額に対して、補助金の交付決定を保証するものではありません。補助金交付候補者の採択後に「補助金交付申請」をしていただき、その経費等の内容を事務局で補助対象経費として適切なものであるかどうかの精査を行います。必要に応じて、事業者に照会・連絡等を行った上で、補助金交付額を決定し、通知いたします。精査の結果次第では、交付決定額が、応募申請時に計上している補助金申請額から減額または、全額対象外となる場合もあります。」

(2)この一文は、何について「保証しない」と言っているのか

まず確かめておきたいのは、この一文が何を留保しているのかです。文の主語は「採択結果は、申請いただいた事業計画に記載のある金額の全額に対して」であり、続く文は「その経費等の内容を事務局で補助対象経費として適切なものであるかどうかの精査を行います」です。そして結びは「精査の結果次第では、交付決定額が……減額または、全額対象外となる場合もあります」。

つまり、この記載が留保しているのは、第二段階で経費の内容を精査した結果として交付決定額が動き得ることです。経費の精査とは関係のない理由によって交付自体をしないことを宣言した文ではありません。この一文を、採択の判断を別の理由で覆す根拠として持ち出すのであれば、文意を超えた使い方であると言わざるを得ません。

(3)審査は外部有識者が行う。しかしその評価は示されない

同じ5頁には、次の記載もあります。

引用(事業再構築補助金公募要領(第13回)5頁)

「補助金交付候補者の採択発表後、審査委員会による個別の評価結果の詳細はお答えいたしかねますので、ご了承ください。」

口頭審査についても、同49頁に次の記載があります。

引用(事業再構築補助金公募要領(第13回)49頁)

「口頭審査の対象となる基準や審査の内容に関するお問い合わせについては、お答えいたしかねます。」

「口頭審査中の申請者からの質問は一切受け付けません。」

ここで、三つの記載を並べてみます。第一に、採択の審査は外部有識者からなる審査委員会が行う。第二に、その個別の評価結果の詳細は答えない。第三に、採択は交付決定を保証しない。

この三つが揃うと、事業者の側には、自分の計画が何をもって評価されたのかは知らされないまま、その評価が後の段階でどこまで尊重されるのかも分からないという状態が残ります。制度の設計としては、外部有識者による評価を経ることに意味を持たせているはずです。それにもかかわらず、評価の中身は示さず、他方で採択は保証ではないと述べるのであれば、外部有識者の審査を置いたことの意味が事業者には見えません。東京地判令和3年6月21日が、第一段階の審査を尊重する仕組みを自ら設けた以上、第二段階の判断もその仕組みを踏まえたものでなければならないとしたことに照らせば、この組み合わせは、説明として足りていないと言わざるを得ません。

もとより、評価結果を一件ごとに開示しない運用にも、公平な審査を保つという理由はあり得ます。当職が申し上げているのは、開示しないのであれば、なおのこと、採択によって生じた事業者の期待は軽く扱えないはずだ、ということです。第一審が事業者の期待を「合理的なもの」と述べたのは、要綱に列挙された取消事由のいずれにも当たらないという一点からでした。

(4)規程や要領に書き足せば自由になるわけではない

もう一点、本件の経過から引き出せることがあります。本件では、不交付決定の後に要綱が改正され、「公益性の観点から助成金の交付決定が不適当と認められる」との文言が取消事由に加えられました。

これについて最高裁は、先に引用したとおり、「以上に説示したところは、本件要綱に一般的な公益の考慮に関する定めがあるか否か等によって左右されるものではない。」と述べています。交付規程や公募要領に抽象的な文言を書き足せば、その範囲で自由に判断できるようになる、というものではありません。 交付規程や公募要領に書かれていることが、そのまま法律上の補助条件として機能するかという問題は、交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。

7 不交付とされたときに、何を問い、何を主張できるのか

以下は、前記の判決を踏まえた当職の整理です。

(1)通知の理由を特定する

まず、交付しないという通知に書かれた理由を特定します。本件の通知書は「公益性の観点から、適当ではないため。」という一文でした。訴訟では、行政側がその「公益」の中身を薬物乱用の防止であると主張し、裁判所はその公益について具体的な危険の有無を検討しています。通知の段階で理由が抽象的である場合には、どの事実を、どの基準に当てはめて、何という公益ないし必要性・適正性の観点から交付しないとしたのかを、文書で確かめておくことになります。事前の通知や弁明の機会の扱いは取消しの前に通知や弁明の機会はあるのかにまとめています。

(2)列挙された取消事由に当たるかを確かめる

次に、交付規程・公募要領に列挙された不採択事由・取消事由のどれに当たるとされているのかを確かめます。どれにも当たらないのであれば、第一審の論理によれば、「これらの事由と同様に、助成の必要性や適正性の観点から、仕組みを踏まえてもなお交付しないことを相当とする合理的理由」があるといえるかどうかが問われることになります。

(3)三つの要素を事実で埋める

第一審の枠組みに乗せるとすれば、主張すべき事実は次のものになります。

① 根拠とされた公益等の内容。 それは具体的な公益なのか、抽象的な評価にとどまるのか。最高裁が「このような抽象的な公益が薬物乱用の防止と同様に重要なものであるということはできない」と述べたことは、抽象度そのものが争点になり得ることを示しています。

② その公益が害される態様と程度。 交付によって誰が利益を得るのか。問題とされた事情と、害されるとされる公益との間に、どのようなつながりがあるのか。第一審は、助成金が製作主体に交付されるものであって出演者に交付されるものではないこと、出演料の支払が助成金の有無に左右されないことを、おそれを否定する事実として挙げました。行政側が世論調査を出した場面では、公益が害される程度は客観的に判断すべきものであるとして、調査結果の前提と事案との齟齬まで検討しています。行政側が示した資料の前提が事案と合っているかを一つずつ検証することは、有効な反論になります。

③ 不交付によって生じる不利益。 補助金が予算総額のうちに占める割合。資金調達の組み直しが必要になったこと。採択を前提に進めていた発注・契約・人員の手当て。第一審が、「意に沿わない再撮影等を行わなければならないこととなれば」事業者の自主性が損なわれると述べたことも押さえておきたい点です。補助金を受けるために事業の中身を曲げなければならなくなるという形の不利益も、主張できるということです。

(4)手続と期間

交付しない旨の決定が行政処分に当たる場合、これを争う手続は審査請求と取消訴訟であり、いずれにも期間の制限があります。出訴期間の考え方は補助金の処分を争う出訴期間にまとめています。もっとも、補助金の交付主体や仕組みによっては、そもそもその決定が行政処分に当たるかどうかが先に問題となります。この点は補助金の交付決定の取消しに処分性はあるか及び処分性をめぐる対談で扱っています。制度によって結論が変わり得るところです。

(5)記録として残しておくもの

採択通知(交付内定通知)、交付申請書とその添付書類、事務局・交付行政庁との照会と回答のやり取り、採択を前提に行った資金調達や発注の記録。第一審が事業者側の不利益を具体的に認定できたのは、助成金の額、支払の予定時期、代替手段が困難であった事情が記録として残っていたからです。

8 まとめ

採択(交付内定)を受けた後に「交付しない」と言われたとき、「採択は交付決定を保証するものではない」で終わらせる必要はありません。

東京地判令和3年6月21日は、交付の判断が裁量に委ねられていることを認めたうえで、交付内定の審査における専門的知見に基づく判断を尊重する定めや仕組みを自ら設けた以上、交付申請に対する交付・不交付の判断もその仕組みを踏まえたものでなければならないとし、列挙された取消事由に当たる場合か、これと同様に助成の必要性・適正性の観点から仕組みを踏まえてもなお交付しないことを相当とする合理的理由がある場合に限り、不交付決定ができるとしました。そして、根拠とされた公益の内容、それが害される態様・程度、事業者に生じる不利益を総合して、本件の不交付決定を裁量権の範囲の逸脱・濫用として取り消しました。交付内定後に生じた事情であっても自由な判断が許されるわけではないこと、採択を受けた事業者が交付を期待することは合理的であること、公益が害される程度は客観的に判断すべきもので世論の集計がこれに代替しないことも、判決の言葉として示されています。

この判決は控訴審で覆されましたが、最高裁が原判決を破棄して控訴を棄却し、第一審判決が正当であるとしました。最高裁の加えた「重要な公益」「具体的な危険」という限定は表現の自由の保障の趣旨を踏まえたものですから、設備投資型の補助金にそのまま及ぶとはいえません。それでも、二段階の手続のうち第一段階に外部有識者の審査を組み込んだ制度において、第二段階でその判断を覆すには何が必要かを正面から論じた裁判例として、使うことができます。

そして、採択の審査は外部有識者が行うとしながら、その評価結果の詳細は答えず、審査の基準や内容の問い合わせにも答えない。その一方で、採択は交付決定を保証しないとする。この組み合わせは、第一段階の判断を尊重する仕組みを自ら設けた者の説明としては足りていないと言わざるを得ません。評価の中身を示さないのであれば、採択によって生じた事業者の期待は、なおのこと軽く扱えないはずです。

ご相談をお考えの事業者の方へ

採択の通知を受け、交付申請をしたのに交付決定がされない、交付しない旨の通知が届いた、あるいは採択を取り消すと言われた――このような段階でご相談をいただくことがあります。確かめるべきことは、通知に書かれた理由がどの事由に当たるとされているのか、その理由が交付規程・公募要領に列挙された事由に当たるのか、当たらないとすればどのような必要性・適正性の観点が持ち出されているのか、そして事業にどのような不利益が生じているのかです。採択通知、交付申請の書類、事務局とのやり取り、資金調達の記録があれば、具体的な検討ができます。争う手続には期間の制限がありますので、早い段階でご相談ください。

士業の先生方へ

顧問先から「採択されたのに交付決定が下りない」「交付申請の段階で止まっている」というご相談を受けることがあろうかと存じます。経費の精査として交付決定額が動く場面と、採択の判断そのものが覆されている場面とでは、やるべきことが変わります。補助金適正化法と交付規程の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節末尾、第6節及び第7節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、通知書・交付規程等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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