執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
HP(当サイト)を開設したこともあり、今、中小機構が関与する補助金においてどのような問題が起きており、私、弁護士岸上がどのような対応、業務を行っているのかということについて、8つの類型に分けて概要を述べていきます(補助金分野の解説ページ)。
1 交付決定の取消し・返還請求について
事業再構築補助金等の交付決定が取り消され、補助金の返還請求をされるということがあり、事業再構築補助金の交付決定取消決定に対する取消訴訟を提起、現在、係属中の事案が複数あります。
また、これも事業再構築補助金についてですが、交付決定の取消通知書が届き、この交付決定の取消しはおかしいと交渉し、交付決定の取消しが取り消されたというような事案もあります。
事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金及び中小企業省力化投資補助金に係る交付決定の取消しは、補助金適正化法17条1項に基づくものとなりますが、同項所定の取消事由に該当しないにもかかわらず、交付決定の取消し・補助金全額の返還請求をなされるということがあります。
理由付記の不備という手続上の瑕疵が認められることもあります(事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、理由付記の不備という瑕疵がある可能性が高いこと(note記事))。
上記補助金の交付決定の取消し・返還請求については、行政訴訟において争うことができます。処分を受けた方は、返還に応じる前に一度ご相談ください。
2 補助金の交付遅延について
これも事業再構築補助金でよくみられる問題です。交付決定から2年も3年も、補助金の確定・交付をしないということがよくあります。
少なくとも、国が交付する補助金については、会計法令上、精算払により支出できる期限が翌年度の4月30日限りとされていること(予算決算及び会計令4条本文)との関係上、国の精算手続行為も最終的にはこの期限に制約されると考えるべきであるとされており(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』234頁(株式会社全国会計職員協会、2016))、中小機構法16条が国と中小機構を読み替えていることからすると、事業再構築補助金の交付期限についても、交付決定の翌年度の4月30日とすべきと考えております。
中小機構が、事業再構築補助金額の確定・交付をしない場合には、公法上の当事者訴訟を提起することができます(藤山雅行=村田斉志編『新・裁判実務大系第25巻行政争訟〔改訂版〕』185頁(青林書院、2012))。
3 補助金額の減額について
例えば、交付決定額が2000万円であった場合において、補助事業を実施してみたところ、1500万円しかかからず、その内容の実績報告をすると(適正化法14条)、補助金の金額は1500万円と確定され(適正化法15条)、1500万円が交付されます。
上記1500万円と補助金の額を確定するのは減額確定といって、行政処分ですから(前掲小滝229~230頁)、これを取消訴訟において争うことができます。
上記のような話であれば、誰も不満にも思わず、取消訴訟を提起しようというような話にはならないと思いますが、事業再構築補助金においては、交付決定の際には、補助対象経費として認められていたものを実績報告・確定の段階になって、「これは補助対象外であるから、実績報告から外してください」などとして、当該補助対象経費相当額の分だけ減額した内容の確定・補助金の交付がなされることがあります。
このような処分を受けた場合には、これを取消訴訟において争い、交付決定から減額された分の補助金の交付を受けることができる可能性があります。
4 自主返納について
この問題は、非常によくあるもので、中小機構や事務局から、「廃業しているから本来は交付決定の取消しで全額返還しないといけないが、財産処分の申請をしてくれたら、残存簿価相当額の返納だけで済ませる」、「既存事業と併用しているのは目的外使用で本来は全額返還だが、今回に限り残存簿価相当額の返納で済ませる」等の打診を受け、これに応じて、補助金の一部又は全部を返納してしまったという事案が本当によくあります。
上記のようなケースで、補助金の一部を返還する必要などないです。
既存事業と併用していることにより補助金適正化法22条違反となることは考え難いですし、取得財産等を廃棄処分をしたことについて、このような行為が補助金適正化法22条が禁止する取得財産等の処分行為には該当しない旨を判示した裁判例もあります(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁。この裁判例の射程については、後記6及びコラム「廃棄処分」で述べています。)。
中小機構や事務局からの求めに応じて実際に補助金を返納してしまうと、詳細は省きますが、取消訴訟→不当利得返還請求ということが必要となるので、このような求めに応じて返納する前にご相談いただければと思います。
5 補助金により取得した財産の既存事業との併用について
上記4の自主返納との関係でよく発生する問題です。取得財産等を既存事業と併用したことは目的外使用で本来であれば、補助金の交付決定を取り消し、補助金全額の返還を請求できるなどとの指摘を受けたという相談を受けることがあります。
しかしながら、補助金適正化法17条1項所定の取消事由は、①補助金等の他の用途への使用をした場合、②補助事業に関して、交付の決定の内容又はこれに附した条件に違反した場合(補助条件違反)、③その他、法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反した場合(法令違反)の3類型に限られているところ、既存事業との併用は、いずれの取消事由にも該当しません。
このことについては事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて(note記事)という記事で詳しく書いたので、こちらを参照していただければと思います。
6 補助金により取得した財産の廃棄処分について
これも既存事業との併用と同様に、上記自主返納との関係でよく発生する問題です。
前記4のとおり、取得財産等の廃棄処分については補助金適正化法22条が規制する処分行為ではない旨を判示した裁判例はありますが(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)、既存事業との併用とは異なり、廃棄処分については、補助金適正化法22条違反とされる可能性がある行為だと考えております。
そうすると、では、かなりの長期にわたることがある処分制限期間中、取得財産等を廃棄処分することもできず、どうすればよいのか困っているという方が多くいらっしゃいます。
そのような場合における1つの解決方法として、後記7の取得財産等を含む補助事業の事業譲渡があります。
7 補助金により取得した財産を含む事業譲渡について
補助金により取得した財産を他社に移転させるという行為は補助金適正化法22条に抵触するように思われるかもしれませんし、実際、補助金適正化法22条に違反するような事業譲渡もあり得ると思います。
もっとも、補助事業の継続性を確保するなど、十分な措置を講ずることによって、補助金適正化法22条に違反しない形で、事業譲渡により取得財産等を他社に移転することができます。
実際、私が担当した事業再構築補助金に係る事案において、取得財産等を含む事業譲渡を行ったものが複数件ありますが、その後、交付決定の取消しがなされたものは今のところありません。
事業再構築補助金については処分制限期間が長く、自身において事業を継続するのが困難であるという方はよくいらっしゃるかと思います。そのような場合には、事業譲渡により解決できることもありますので、是非、ご相談ください。
8 IT導入補助金、従来のものづくり補助金及び小規模事業者持続化補助金について
IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)及び小規模事業者持続化補助金については、事業再構築補助金や新事業進出補助金等とは異なり、補助金適正化法が全面的に適用されるようなものではなく、これらの補助金における交付決定・交付決定の取消しは行政処分ではありません。これらの補助金に関しては負担付贈与契約であるとされており、私人間の契約であるとご理解いただければと思います。
私人間の契約なのですから、IT導入補助金を交付しているTOPPAN株式会社や、従来のものづくり補助金を交付している全国中小企業団体中央会が、好き放題に交付決定の取消し(債務不履行解除、返還請求)ができるようなものではないです。
そもそも、債務(負担)となっていないことが履行されていないなどとして、補助金の返還を求めることはできませんから、このような場合にはTOPPAN株式会社等の事務局の求めに応じる必要はないです。