本文へ移動
弁護士 岸上大起

賃上げ要件を達成できなければ、補助金を返還しなければならないのか――交付規程の定めが補助条件になるのかについて

本稿は、note(2026年9月6日公開)に掲載した記事を転載したものです。note版はこちら →

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金、そして事業再構築補助金(第12回公募以降)においては、いわゆる賃上げ要件というものが交付規程に設けられています。

この要件を達成できなければ、必ず補助金を返還しなければならない。そのように考えていらっしゃる事業者の方、それを前提に助言している支援者の方が、多数おられるかと思います。実際に、賃上げ要件の未達成を理由として、中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」といいます。)から補助金の返還を求められている事案があります。

結論からいえば、私は、賃上げ要件はそもそも補助条件になっていないのではないかと考えております。

補助条件になっていないのであれば、賃上げ要件を達成できなかったとしても、補助金適正化法17条1項の取消事由には当たりません。同項の取消事由は、①補助金等の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件(補助条件)への違反、③法令又はこれに基づく処分への違反、の三つに限定されているからです。そして、取消事由に当たらない以上、交付決定の取消しも、補助金の返還請求もすることができないということになります。

なお、本記事で述べる考え方は、賃上げ要件に限られるものではありません。「交付規程にこう書いてあるから」という理由で補助金の返還を求められる場面一般に、同じことが妥当すると考えております。

以下、このことについて述べていきます。

1 中小機構の見解(交付規程に書いてあるから補助条件である)

はじめに、賃上げ要件の未達成が取消事由になるという中小機構の見解について、確認する必要があるかと思います。

前提として、事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金及び中小企業省力化投資補助金は、中小企業基盤整備機構法15条1項6号に基づき交付されるものであり、同法16条により補助金適正化法が全面的に準用されます。これらの補助金の交付決定が行政処分であることは、過去の記事「事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、理由付記の不備という瑕疵がある可能性が高いこと」(note記事)で述べたとおりです。したがって、その取消しは、補助金適正化法17条1項に基づくものということになります。なお、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は事務局が交付主体であり、処分性がなく、負担付贈与契約の問題になります。本記事で「ものづくり補助金」というときは、中小機構が交付主体となる新事業進出・ものづくり補助金を指しています。

その上で、中小機構は、大要、以下のような主張をしてきます。

① 交付決定通知書には「補助事業者は、交付規程で定めるところに従うこ   と」という趣旨の記載がある

② そうすると、交付規程に定められたことはすべて補助条件である

③ 交付規程には賃上げ要件が定められている。

④ したがって賃上げ要件は補助条件であり、その未達成は補助金適正化法17条1項の「これに附した条件」への違反に当たる。

実際に、私が担当している訴訟でも、このような主張がなされています。

一見すると、筋が通っているように見えるかもしれません。

しかし、私見としては、このような主張は上記②の段階で成り立たなくなると考えております。

交付決定通知書に「交付規程で定めるところに従うこと」と書いてあるからといって、交付規程の定めがすべて補助条件になるわけではないからです。

そのことを示すために、まず「交付規程とは何か」、次に「補助条件とは何か」を確認し、その上で賃上げ要件の定めを実際に読んでみたいと思います。

2 交付規程とは何か(中小機構がよるべき一応の基準)

交付規程は、法律ではありません。

補助金の交付主体である中小機構が自ら定めた内部的な規範にすぎないものです。

このような、補助金の交付主体が定める交付規程のような交付要綱・補助要綱の類は、この給付規則と整理されており、塩野宏『行政法Ⅰ〔第六版補訂版〕行政法総論』119頁(有斐閣、2024)は、給付規則について、給付主体のよるべき一応の基準である旨を述べています。

すなわち、交付規程は、中小機構が補助金を交付し、その額を確定し、あるいは交付決定を取り消し、返還を命ずるに際して、自らがよるべき基準を定めたものです。あくまで行政の内部規範であって、補助事業者に対して直接の法的効力を持つものではありません。

もっとも、塩野は同じ119頁で、補助金行政に際して適用される平等取扱いの原則からすると、合理的理由がないのに一方に給付し他方に給付しないことには違法の問題が生ずることもありうるとし、その限りで、一定の外部効果を給付規則がもつことも認められようとしています。この留保には、先に触れておく必要があります。しかし、そこで論じられているのは、合理的理由なく一方に給付し他方に給付しないことの違法性、すなわち給付主体の側を縛る効果です。給付規則に書かれた事項が、そのまま補助事業者に対する義務(補助条件)になるという意味ではありません。本稿が問題としているのは、後者です。

このような理解は、最高裁判所調査官解説とも一致します。

最高裁判所判例解説民事篇令和5年度551頁は、交付要綱は内部的な規範であり講学上の行政規則にすぎず、国民に対して直接の法的効力を有しない旨を述べています。

さらに、補助金適正化法との関係も確認しておきます。同法4条は、「補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる」と定めていますが、小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』57頁(株式会社全国会計職員協会、2016)は、交付規程はここでいう「特別の定」に該当せず、適正化法が交付規程に優先して適用される旨を述べています。

交付規程は、法律の上にも、法律と並ぶ位置にもありません。

3 補助条件とは何か

次に、補助条件とは何かを確認します。

補助金適正化法7条1項は、各省各庁の長は、交付決定をする場合において、交付の目的を達成するため必要があるときは、一定の事項につき条件を附するものとする旨を定めています。ここでいう「条件」が、いわゆる補助条件です。

そして、この補助条件は、講学上の附款に当たります。

さらに、附款にはいくつかの種類がありますが、補助条件は、そのうちの「負担」に当たるものがほとんどです。負担とは、行政行為の主たる意思表示に付随して、相手方に一定の作為、不作為、受忍等の義務を命ずる従たる意思表示をいい、本法の「条件」にはこれに当たるものが多いとされています(前掲小滝148頁参照)。

この点は、最高裁判所調査官解説も同様の理解を示しています。

最三小判令和3年3月2日の調査官解説は、補助金適正化法にいう「条件」は講学上の「附款」に当たるとした上で(最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)(1月~4月分)78~79頁参照)、附款の種類として「許認可等を行うに際して、法令により課される義務とは別に作為又は不作為の義務を課す」ものを挙げ、法にいう「条件」は講学上の「負担」に当たるものが多い旨を指摘しています(同80頁参照)。

そうすると、ある定めが補助条件であるという場合には、その定めによって、補助事業者に対して作為又は不作為の義務を課しているはずであるといえます。

4 賃上げ要件の定め

以上の前提を踏まえて、交付規程の賃上げ要件についての定めを、実際に読んでみます。

確認していただきたいのは、その定めの主語が誰になっているか、という一点です。

まず、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程27条3項は、次のように定めています。

参考文献「中小機構は、第25条第1項の規定に基づき提出された事業化状況・知的財産権報告書により、(中略)補助金額又は補助率引上げを受けている補助事業者が事業計画終了時点を含む年度までの間に、予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、次の各号の条件を満たしていないと認められる場合には、第19条第1項の規定により支払を受けた補助金の額のうち補助金額及び補助率引上げ分について補助金の返還を命ずる。」

次に、中小企業新事業進出促進補助金交付規程27条1項は、次のように定めています。

参考文献「中小機構は、第25条第1項の規定に基づき提出された事業化状況・知的財産権報告書により、補助事業者が事業計画終了時点を含む年度の終了時点において、次の各号の条件をいずれも満たしていないと認められる場合には、公募要領で規定する計算式に応じて、第19条第1項の規定により支払を受けた補助金の額の返還を命ずる。」

さらに、中小企業省力化投資補助金交付規程28条2項も、同様です。

参考文献「中小機構は、前条に基づき報告された事業実施効果報告により、補助事業者が事業計画終了時点を含む年度までの間に、予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、次の各号のいずれかに該当する場合は、交付した補助金の全部又は一部に相当する金額について補助金の返還を命じることができるものとする。」

三つの交付規程の主語は、いずれも「中小機構」です。

いずれも、補助事業者に対して作為又は不作為の義務を課しているものではありません。

上記のような定めは、まさに、給付主体のよるべき一応の基準にすぎません(前掲塩野119頁参照)。

そうであれば、結論は明らかです。

賃上げ要件についての定めは、中小機構が返還を命ずるに際してよるべき一応の基準を示したものにほかならず、補助事業者に対して作為義務も不作為義務も課していないのですから、講学上の「負担」に当たらず、補助条件たり得ません。

5 交付決定通知書には、何が書かれているか

賃上げ要件が補助条件になっていないことは、交付決定通知書の記載からも裏付けられます。

補助金適正化法8条は、次のように定めています。

参考文献「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定をしたときは、すみやかにその決定の内容及びこれに条件を附した場合にはその条件を補助金等の交付の申請をした者に通知しなければならない。」

条件を附したのであれば、それを通知しなければならないのです。

そこで、事業再構築補助金の交付決定通知書(交付規程様式第2)の記載事項を確認してみます。公表されている見本によれば、記載されているのは、①補助金の交付の対象となる事業の内容、②補助事業に要する経費・補助対象経費・補助金の額及び補助事業実施期間(開始日と完了期限日)、③補助対象経費の配分、そして④次の一文です。

参考文献「補助事業者は、交付規程で定めるところに従うほか、補助事業の実施に当たっては、独立行政法人中小企業基盤整備機構の指示に従うこと。」

賃上げ要件についての記載は、どこにもありません。

加えて、実質的な観点からも申し上げたいことがあります。補助条件に違反した場合には、交付決定の取消しという重大な不利益処分が予定されています(補助金適正化法17条1項)。そうであれば、何が補助条件であるのかは、交付決定通知書の記載自体から明示的に了知し得るものでなければならないはずです。九十頁を超える交付規程の全条項への包括的な参照によって、その全部が補助条件になると解することは、このような観点からしても困難であると考えております。

お手元の交付決定通知書に、賃上げ要件についての記載があるかどうか。まずはそこをご確認いただきたいと思います。

6 交付規程ですら、賃上げ未達を取消事由としていない

上記の点は、交付規程自身の構造からも裏づけられます。

事業再構築補助金の交付規程22条1項は、交付決定の取消し等について定めており、その対象となる場合を第1号から第12号まで列挙しています。ところが、そこに掲げられているもののうち、賃上げに関わるものは次の一つだけです。

参考文献「(6)補助事業者が、大規模賃金引上枠の応募申請時点で、応募申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明していないことが判明した場合」

これは、応募申請の時点で計画を表明していなかったという話であって、事後的に賃上げを達成できなかったこととは別の事柄です。

新事業進出補助金の交付規程22条1項も第1号から第13号までを列挙していますが、賃上げに関わるのは同じく「応募申請時点で、応募申請要件を満たす賃上げ計画を従業員に表明していないことが判明した場合」(第6号)のみです。中小企業省力化投資補助金の交付規程23条1項に至っては、第1号から第13号までのいずれにも賃上げに関する定めがありません。

すなわち、中小機構自身が定めた交付規程ですら、賃上げ要件の未達成を交付決定の取消事由として掲げていないのです。賃上げ要件の未達成については、事業再構築補助金及び新事業進出補助金では第27条において、省力化投資補助金では第28条において、「返還を命ずる」と定められているにとどまります。

もっとも、交付規程が法律に優先するわけではありませんから、交付規程に列挙がないことそれ自体が結論を決めるものではありません。しかし、交付規程の作成者である中小機構が、賃上げ未達を取消事由に含めなかったという事実は、少なくとも、賃上げ要件を補助条件として構成していなかったことをうかがわせるものというべきです。

さらに指摘しておきたいのは、補助金適正化法との関係です。

同法18条1項は、次のように定めています。

参考文献「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」

返還命令は、交付決定の取消しがあって初めて可能となるという構造です。取消し(17条)が先にあり、その帰結として返還(18条)が来る。

現に、交付規程も、22条1項に基づく取消しについては、同条2項において「中小機構は、前項の取消しをした場合において、既に当該取消しに係る部分に対する補助金が交付されているときは、期限を付して当該補助金の全部又は一部の返還を命ずる」と定めており、この構造に従っています。

ところが、賃上げ要件の未達成についての規定は、交付決定の取消しに触れることなく、直ちに「返還を命ずる」と定めています。適正化法が予定する段階を飛ばした建付けになっているのです。

適正化法が交付規程に優先して適用される以上(前記のとおり、同法4条、前掲小滝57頁)、賃上げ要件の未達成を理由に補助金の返還を求めるのであれば、その前提として、適正化法17条1項の取消事由に該当することが必要なはずです。交付規程に「返還を命ずる」と書かれていることは、その根拠にはなりません。

7 賃上げ要件に限らない――交付規程の読み方

ここまで賃上げ要件を例に述べてきましたが、この考え方は、賃上げ要件に限られるものではありません。

交付規程の定めは、大きく二種類に分かれます。

第一の類型は、「補助事業者は、〜しなければならない」という形の規定です。これは補助事業者に義務を課していますから、補助条件になる余地があります。

第二の類型は、「中小機構は、〜することができる」「中小機構は、〜命ずる」という形の定めです。補助金の額の確定についての規定、交付決定の取消しについての規定、そして前記の返還についての規定が、これに当たります。この類型は、中小機構が処分をする際によるべき一応の基準を定めたものであって、補助事業者に対して何らの義務も課していません。

とりわけよくみられるのが、交付規程22条1項3号の「不正、怠慢、その他不適当な行為」に該当する、という主張です。

しかしながら、同項の柱書は「中小機構は、……交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる」というものです。これは、中小機構が適正化法17条1項等に基づく交付決定の取消しをする際のよるべき一応の基準を定めたものにほかならず、ここで義務を負っている者は誰もいないのですから、そもそも補助条件たり得ないというべきです。

同じことは、他の定めにもいえます。例えば、補助金の額の確定について定める交付規程18条1項は、中小機構が適正化法15条の額の確定をする際のよるべき一応の基準であって、補助事業者に作為又は不作為の義務といった負担を課す内容のものではありません。

このように、交付規程には、中小機構自身を主語とする条項が含まれています。そうである以上、「交付規程に定められたことはすべて補助条件である」という前提自体が、出発点において成り立たないというべきです。

なお、この「不正、怠慢、その他不適当な行為」という文言については、別の観点からも問題があります。

碓井光明『公的資金助成法精義』212頁〜213頁(信山社、2007)は、「要綱に定めることはすべて補助の条件であると解し、補助条件違反についてのみ指示も可能であると解するならば一応問題をクリアーすることができるが、どのような補助条件であってもよいというものではあるまい」と述べた上で、このような文言の定めについて「あまりに包括的であって、とくに『不適当な行為』は具体的に定める必要があるように思われる」と指摘しています。

そもそも、補助条件は、補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえてはならないとされています。補助金適正化法7条4項は、次のように定めています。

参考文献「補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。」

補助金適正化法17条1項は、取消事由を三つに限定して列挙しています。ところが、行政規則にすぎない交付規程を、交付決定通知書の一文によって包括的に参照させることにより、この限定列挙された取消事由が実質的に拡張されているのだとすれば、それは許されないのではないかと思います。

法律が限定した事柄を、行政の内部規範への包括的な参照によって広げることができるのであれば、限定列挙とした意味が失われてしまうからです。

8 仮に補助条件だとしても、違法・無効な附款ではないか

ここからは、予備的な検討です。

仮に、賃上げ要件が補助条件になっていたとしましょう。それでもなお、私は、賃上げ要件は「補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするような」(補助金適正化法7条4項)違法・無効な附款であると考えております(前掲小滝169頁参照)。

事業再構築補助金の交付目的は、交付規程3条に定められています。同条は、本補助金について、次のように定めています。

参考文献「ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために、新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰、地域サプライチェーン維持・強靱化又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とする。」

賃上げという言葉は、そこには出てきません。

この交付目的の達成と、賃上げということは、無関係ではないでしょうか。究極的には、補助事業を継続していれば、上記の交付目的は達成できるものと考えます。事業再構築に挑戦し、その事業を続けている。それで交付目的は果たされているはずです。

そうすると、賃上げ要件は、交付の目的を達成するため必要な限度をこえて、不当に補助事業者に干渉するものであり、違法・無効な附款であるというのが私見です。

そして、違法・無効な補助条件である以上、当然に、これに違反したとしても交付決定の取消しをすることはできません。

9 裁量権の逸脱濫用の問題

最後に、もう一つの論点に触れておきます。

仮に、賃上げ要件が有効な補助条件であり、その未達成が補助条件違反に当たるとしましょう。その場合、補助金適正化法17条1項所定の取消事由(「交付の決定の内容又はこれに附した条件」への違反)に該当することにはなります。

しかし、そのことから直ちに、交付決定の取消しが適法となるわけではありません。

同項は、「補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる」と定めており、取消しをするかどうか、その範囲を全部とするか一部とするかは、裁量に委ねられているからです。

すなわち、取消事由があったとしても、必ずしも交付決定の取消しが適法となるというわけではなく、場合によっては、裁量権の逸脱濫用により違法・無効な処分となり得るということです。

例えば、0.1%の賃上げ要件未達成であった場合や、その他やむを得ない事情によって賃上げ要件を達成できなかった場合に、交付決定の取消しという重大な不利益処分をすることは、比例原則に反するように思われます。

そして、これは賃上げ要件に限った話ではなく、補助条件違反一般について同じことがいえます。

裁量権の逸脱濫用と比例原則については、長くなりますので、また改めてnoteの記事に書こうと思います。

10 まとめ

本記事で述べたことを整理すると、次のとおりです。

交付規程は、中小機構が自ら定めた給付規則であり、中小機構がよるべき一応の基準にすぎません。補助条件とは講学上の「負担」、すなわち補助事業者に作為又は不作為の義務を課すものです。そして、賃上げ要件についての定めは、いずれの交付規程でも主語が「中小機構は」、述語が「返還を命ずる」であって、補助事業者を主語とする義務規定は置かれていません。交付決定通知書にも賃上げ要件の記載はなく、交付規程自身も、賃上げ未達を取消事由の列挙に含めていません。そうである以上、賃上げ要件を達成できなかったとしても、補助金適正化法17条1項の取消事由には当たらず、交付決定の取消しも補助金の返還請求もすることができないというのが私見です。

この考え方は、「中小機構は、〜することができる」という形の交付規程の定め一般に妥当します。仮に補助条件だとしても、補助金適正化法7条4項に反する違法・無効な附款ではないかという問題があり、仮に有効な補助条件だとしても、取消しをするかどうか、その範囲は裁量に委ねられており、裁量権の逸脱濫用の問題が残ります(この点は、改めて別の記事に書こうと思います)。

賃上げ要件の未達成を理由に、あるいは交付規程違反を理由に補助金の返還を求められている事業者の方は、ぜひご相談ください。顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、士業・支援機関・お取引先企業の方へのご案内をご覧ください。

※ 本稿は私見を含む一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本文で述べたとおり、この論点を正面から判断した裁判例は現時点で見当たらず、個別の事案については、交付決定通知書・交付規程等の資料に基づく検討が必要です。

Contact

補助金トラブル・中小企業法務・一般民事ご相談を承ります

ご相談はお問い合わせフォーム、メール、お電話、または LINE よりお願いいたします。法律相談料は30分 5,000円(税別・税込5,500円)です。ご相談はオンラインでも承っています。

お電話の受付は平日10:00〜18:00です(出られないときは折り返します)。

士業・支援機関・お取引先企業の方からのご相談・ご紹介も受け付けています。連携のご案内 →