執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 まず分けること――「当初の申告の誤り」か「後からの事情」か
補助金を返したあと、受け取った年に納めた法人税はどうなるのか、というご質問をいただきます。返還額そのものは動かないのに、受け取った年の税金が戻らないのであれば、返還額の全部を自己負担することになる、という受け取り方をされる方が多い論点です。
この問いは、税務の一般的な枠組みでは、二つに分かれます。過去の事業年度の損益を修正する必要が生じた場合の処理について、文献は次のように整理しています。
引用(三宅知三郎・最高裁判所判例解説民事篇令和2年度344頁)「概していうと,①当初の課税自体に客観的な誤りがあった場合(売上げの計上漏れ,架空経費の計上,粉飾決算による利益の過大計上等)には,法人税法上の課税所得は事実に即して計算されなければならないとの観点から,当初の事業年度に遡って損益を修正すべきであるが(=これらはいずれも,申告当初から,担税力に応じた財産内容が適切に申告されていなかった場合であると考えられる。),②当初の課税に誤りはなかったが,後発的な事情により損益を修正する必要が生じた場合(契約の解除又は取消し,返品等)には,当初の事業年度に遡って損益を修正することはせず,その修正原因が生じた時点でその修正による損益を前期損益修正損(又は益)として計上するものと解されている。」
交付決定を受けて補助金を受領し、その年度の益金に算入して申告をした後に、交付決定が取り消され、あるいは財産処分に伴う納付を求められて返還することになった場合は、通常、②に当たると考えております。申告の時点では、交付決定に基づいて現に受領した補助金であり、申告自体に客観的な誤りがあったわけではないからです。
これに対し、当初から交付の要件を欠いていた場合などには、①の側で考える余地があります。もっとも、どちらに当たるのかは税務の判断であり、税理士の先生と併せて検討する場面です。士業の先生方との進め方は、コラム中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方へで述べています。
2 後からの事情による返還は、返した事業年度の損失として処理するのが原則
②の場合の処理を明らかにしているのが、法人税基本通達2-2-16です。国税庁が公表している法令解釈通達の本文は、次のとおりです。
引用(法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)。国税庁ウェブサイト https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_03.htm ・2026年10月23日閲覧)「当該事業年度前の各事業年度においてその収益の額を益金の額に算入した資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の取引について当該事業年度において契約の解除又は取消し、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する。」
読んでいただきたいのは、二つの点です。第一に、この通達が挙げているのは「資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の取引」についての契約の解除・取消し・返品等であって、補助金の返還を名指しした定めではありません。第二に、それにもかかわらず、ここに示されている考え方は、補助金を返す場面にもそのまま及びます。前掲の文献は、この通達が前記②の場合の処理を明確にしたものであるとし、①及び②の処理は課税実務及び裁判例において定着しているものといえると述べています(同344頁)。
言い換えますと、返したこと自体は、返すことが決まった事業年度の損失として扱われるのが原則であり、受け取った年の申告をさかのぼって直す(更正の請求をする)という形にはならない、ということです。
3 最高裁は、事業年度ごとに計算することが原則だと述べています
この点について、最高裁判所の判断があります。最一小判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁です。補助金の事件ではありません。貸金業者の破産管財人が、受領した制限超過利息等(利息制限法所定の制限利率を超えて支払われた利息及び遅延損害金)についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続で確定したことを理由に、受領した年度にさかのぼって益金の額を減額する更正の請求をした、という事件です。もっとも、後から生じた事情によって過去の収益を返すことになった場合に、受け取った年にさかのぼれるのかという問いに、正面から答えています。
引用(同判決の判決要旨)「法人が受領した制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の申告をし,その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において,当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえない。」
理由として述べられている部分が、補助金の場面でも効いてきます。
引用(同判決・理由5(1))「このように,法人税の課税においては,事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則であるといえるから,貸金業を営む法人が受領し,申告時に収益計上された制限超過利息等につき,後にこれが利息制限法所定の制限利率を超えていることを理由に不当利得として返還すべきことが確定した場合においても,これに伴う事由に基づく会計処理としては,当該事由の生じた日の属する事業年度の損失とする処理,すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである。」
「事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則である」という部分は、制限超過利息等に限った話ではありません。そして、同判決は、この原則に対する例外として法人税法が置いている仕組みを具体的に挙げたうえで、特別に定められた要件と手続の下においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているものと解されると述べています。挙げられているのは、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し(法人税法57条)、欠損金の繰戻しによる還付(同80条)、解散した法人について残余財産がないと見込まれる場合における期限切れ欠損金相当額の損金算入(同59条3項)です。
つまり、調整の道がないわけではなく、調整は法人税法が用意した仕組みの中で行う、という組み立てです。受け取った年の申告に戻るのではありません。
4 「払い過ぎた税金の分を返還額から差し引いてほしい」という主張
返還を求められた事業者が、交付を受けたことで多く納めた法人税・法人事業税の分を返還額から差し引いてほしい、という主張をされることがあります。実際に、この主張が裁判でされた例があります。裁判例の中身は、コラム役所の担当者に言われたとおりにしたのに全額返還と言われたらで、相殺・信義則・過失相殺の各主張ごとに整理しています。
そこで述べているとおり、控訴審は、この主張を、税負担が職員の違法な職務行為により生じた損害とはいえないという理由で退け、「その余の点について判断するまでもなく」として、税の払い過ぎが損害になり得るのかという中身には踏み込んでいません。他方で、交付した側は、返還した場合にはその時点における損失として当該年度の納税義務の有無及び範囲に反映されるから損害ではない、という反論をしていました。この反論の筋は、前記2・3で述べた前期損益修正の考え方と整合するものと考える余地があります。
そうしますと、「払い過ぎた税金の分を返還額から引く」という組み立てには、壁が二つあることになります。一つは、差し引く根拠となる債権(損害賠償債権など)を立てられるのかという壁です。もう一つは、そもそも損害といえるのか――返した事業年度に損失として立つのであれば、税の負担はそこで反映されるのではないか――という壁です。返還額そのものを争うのか、税の調整の中で処理するのかは、先に決めておくべき事柄だと考えております。
5 圧縮記帳をしていた場合(確かめられていないことを含みます)
補助金で固定資産を取得した法人は、圧縮記帳(法人税法42条1項)をしていることが少なくありません。この処理をしている場合に、返還に伴ってどのような処理をすることになるのかは、別に確かめるべき問題です。前掲の文献は、前記①②のほかに、次の場合があることを注で述べています。
引用(三宅知三郎・最高裁判所判例解説民事篇令和2年度354頁注9)「なお,本文で述べた①及び②のほかに,税法に別段の定めがあるため前期損益修正が認められない場合もある(減価償却の不足額,圧縮記帳の不足額など)。」
圧縮記帳が関わる場面では、別段の定めの適用を個別に確かめることになります。補助金の返還に伴う圧縮記帳の処理について、当職はその取扱いを確認できておりませんので、このページでは申し上げません。税理士の先生に確かめていただく事柄です。
なお、圧縮記帳をしていた設備について、残存簿価相当額の算定で圧縮記帳が考慮されないという扱いは、これとは別の問題です。納付額の計算の問題として、Q&A「残存簿価相当額」は、当社の帳簿の簿価ではないのでしょうかで述べています。
次のような場合は、お返事をされる前にご相談ください
- 交付決定の取消しや返還命令の通知が届いており、返還額の当否を検討したい
- 返還した分について、受け取った年の税金の扱いを税理士の先生と並行して検討したい
- 返還額から税金の払い過ぎ分を差し引けないかを検討している
関連ページ: 役所の担当者に言われたとおりにしたのに全額返還と言われたら(コラム)/補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢(コラム)
6 どう動くか
(1)返還の額と時期を、記録の上で確定させる
どの事業年度の損失になるのかは、返還債務がいつ確定したといえるかで動きます。前掲の文献は、損失のうち法律上の負担については、支払債務が確定するまでは損失とすることはできないとして、債務の確定が要求されるとしています(同354頁注11)。したがって、次のものを日付の分かる形で残しておいてください。
- 交付決定の取消しの通知、返還命令の通知、納付の通知を受け取った日が分かるもの(封筒・送付状を含みます)。
- 返還額が示された書面と、その計算の根拠が書かれた部分。
- 実際に納付した日が分かるもの(振込の控え、納付書の控え)。
- 返還額や返還義務の有無を争っている場合は、その経過(提出した書面、送った日)。確定の時期に関わります。
(2)返還そのものを争うかどうかを先に決める
税の調整は、返還額が決まった後の話です。返還額そのものに争う余地があるのであれば、そこを先に検討することになります。取消しができる場合の要件は交付決定の取消し・返還請求のページで、通知が届いた段階でできることはコラム補助金の交付決定の取消しの前に行われることで述べています。財産処分に伴う納付については、納付の条件を付さないことができる場合があり、この点はQ&A「財産処分の承認を申請したら、残存簿価相当額を納めることになるのか」で述べています。
(3)加算金・延滞金は別に見る
返還額に加算金・延滞金が付くかどうかは、返還の根拠となった条項によって変わります。この点は、Q&A「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」で述べています。返還額の計算そのものの筋道は、コラム補助事業を続けられないときにあります。
(4)税理士の先生と並行して進める
このページで申し上げたのは、返還と税務の関係について、どこまでが固まっており、どこから先が個別の確認になるのかという見取り図です。どの事業年度にいくらの損金を立てるのか、欠損金の繰越し・繰戻しによる還付をどう使うのか、圧縮記帳をしていた資産をどう処理するのかは、税理士の先生が判断される事柄です。弁護士の側で返還額と返還時期を争い、税理士の先生がその結果を前提に申告を組む、という並行の進め方が実際に動きやすいと考えております。返還を求められている段階で、両方に同時に相談していただくのがよいと考えております。
補助金の返還を求められている事業者の方、顧問先・支援先からこのご相談を受けている税理士・中小企業診断士・行政書士の先生方は、返還額が確定する前にご相談ください。交付決定通知書、取消しや返還命令の通知、返還額の計算が示された書面、直近の申告書があれば、返還額を争う余地と、税務の側で確かめるべき点を併せて検討できます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)(当該事業年度前の各事業年度においてその収益の額を益金の額に算入した資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の取引について当該事業年度において契約の解除又は取消し、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する)。国税庁ウェブサイト・2026年10月23日閲覧
- 最一小判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁(法人が受領した制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において、当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえないとするもの。理由中で、法人税の課税においては事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則であるといえるから、前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきであると述べています)
- 三宅知三郎・最高裁判所判例解説民事篇令和2年度344頁(①当初の課税自体に客観的な誤りがあった場合には当初の事業年度に遡って損益を修正すべきであるが、②当初の課税に誤りはなかったが後発的な事情により損益を修正する必要が生じた場合には、当初の事業年度に遡って損益を修正することはせず、その修正原因が生じた時点で前期損益修正損(又は益)として計上するものと解されているとし、②の場合の処理を明確にしたのが法人税基本通達2-2-16であり、①及び②の処理は課税実務及び裁判例において定着しているものといえるとするもの)
- 同347頁(通説として、後発的事由に基づく更正の請求の多くの部分が法人税等には適用されることはないと解されているとし、武田昌輔監修「DHCコンメンタール国税通則法」1453頁、東京高判昭和61年11月11日行裁集37巻10・11号1334頁(最二小判昭和62年7月10日税務資料159号65頁)、大阪高判昭和60年5月29日行裁集36巻5号689頁(最一小判平成元年2月23日税務資料169号360頁)を挙げるもの。これらの文献・裁判例は同書の引用によるもので、当職は原本を確認しておりません)
- 同354頁注9(本文で述べた①及び②のほかに、税法に別段の定めがあるため前期損益修正が認められない場合もあるとして、減価償却の不足額、圧縮記帳の不足額などを挙げるもの)、同354頁注11(損失のうち法律上の負担については、支払債務が確定するまでは損失とすることはできないとして、債務の確定が要求されるとするもの)
- 法人税法57条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)、80条(欠損金の繰戻しによる還付)、59条3項(解散した法人について残余財産がないと見込まれる場合における期限切れ欠損金相当額の損金算入)、42条1項(国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)、22条4項(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準)
- 国税通則法23条1項・2項(更正の請求。最一小判令和2年7月2日は、益金の額を減額する計算を前提とする更正の請求が同条1項1号所定の要件を満たすものでないことは明らかであるとしています)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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