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弁護士 岸上大起

公式のよくあるご質問は「現金、手形払、小切手、ファクタリング、相殺等による支払いは認められず、補助金は交付することはできません」としていますが、実際に払っていても補助対象外になるのでしょうか

このページの結論

設備の代金を、取引先に対する売掛金と相殺して決済しました。別の経費は現金で払い、一部は手形で決済しています。事務局のよくあるご質問には、現金、手形払、小切手、ファクタリング、相殺等による支払いは認められず、補助金は交付することはできないと書かれていました。実際に支払っていても、補助対象外になるのでしょうか。

補助金適正化法15条は、交付すべき補助金の額の確定について、報告に係る補助事業の成果が交付決定の内容及びこれに附した条件に適合するかどうかを調査し、適合すると認めたときは額を確定しなければならないと定めています。額が下がるのは、補助事業の実支出額が交付決定ベースの事業費を下回る場合です(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』230頁)。基準は実支出額であって、決済の手段ではありません。相殺は、民法505条1項が置いた債務の消滅原因であり、相殺の意思表示によって代金債務は対当額で消滅します。支払手段を銀行振込に限ることを事業者に及ぼす筋道があるとすれば交付決定に附された条件ですが、同法7条4項は、条件が交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであってはならないと定めています。

「いかなる事情でも一切」という言い方は、同じ手引き22頁の中で崩れています。問題のウの直前のイは、やむを得ない事情によりクレジットカードで支払う場合は事前に事務局に相談するよう求め、事後報告となる場合の理由書の提出にも触れています。すぐ後のカは「ポイント・クーポンでの支払いは原則認めません。」としています。やむを得ない事情を考える余地と「原則」という留保を自ら置きながら、ウに挙げた手段だけを「いかなる事情でも一切」とする理由は、手引きのどこにも書かれていません。もっとも、銀行振込で払えるのであればそうするのが安全です。本稿が述べているのは、現金・相殺・手形で払ってしまった経費について不交付と言われたときに、そこで終わりではないということです。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 公式の説明――よくあるご質問Q11と「補助事業の手引き」22頁

事業再構築補助金のよくあるご質問の「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q11は、次のとおりです(以下、公式資料の閲覧日はいずれも2026年10月28日です)。

引用(よくあるご質問「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q11)「Q 設備購入の支払いは銀行振込払いのみか。/A 支払の実績は、補助事業終了後の確定検査において、銀行振込の実績で確認させていただきます。現金、手形払(L/C決済を含む)、小切手、ファクタリング、相殺等による支払いは認められず、補助金は交付することはできません。」(※原文は問と答が別の欄に置かれています。引用に当たり「/」で区切りました。また、答の末尾には手引きを確認するよう促す一文が続きます。)

同じ向きの記述が、「補助事業の手引き」(1.2版。第12回〜第13回補助金交付候補者・補助事業者向け)の22頁、「(8)代金の支払い等に係る注意事項」のウにあります。

引用(補助事業の手引き22頁・(8)ウ)「ウ 現金払い、他の取引との相殺払による支払い、代引き払い、手形による支払い(L/C 決済を含む)、手形の裏書譲渡、小切手、ファクタリング(債権譲渡)による支払い、補助事業実施期間内に契約が完了しない割賦による支払いは行わないでください。前記の支払いについては、いかなる事情でも一切認められませんのでご注意ください。」

公募要領(第13回)の本文36頁(PDF37頁)にも、同じことが短く書かれています。

引用(公募要領(第13回)36頁・(2)③)「③ 補助対象経費は、補助事業実施期間内に補助事業のために支払いを行ったことを確認できるものに限ります(外国通貨の場合は、支払日当日の公表仲値で円換算)。交付決定より前に契約(発注)した経費は、補助対象になりません。支払いは、銀行振込の実績で確認を行います。現金払・手形払(L/C決済を含む)等は対象外です。」

読み比べていただくと、三つの文書で言っていることの強さが違います。公募要領は「銀行振込の実績で確認を行います」と書いたうえで「現金払・手形払(L/C決済を含む)等は対象外です」としています。手引きは「行わないでください」と求め、「いかなる事情でも一切認められません」と付け加えています。そして、よくあるご質問は「補助金は交付することはできません」という結論まで書いています。確認の方法として始まった話が、最後は不交付の結論になっているわけです。

2 補助金の額の確定の基準は「実支出額」であって、決済の手段ではありません

補助金の額がどのように決まるのかは、法律が定めています。

引用(補助金適正化法15条)「各省各庁の長は、補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合においては、報告書等の書類の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、その報告に係る補助事業等の成果が補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、当該補助事業者等に通知しなければならない。」

15条が調査の対象としているのは、報告に係る補助事業の「成果」が交付決定の内容及びこれに附した条件に適合するかどうかです。本補助金について同法が及ぶのは、中小機構法16条による準用です。そして、額が下がるのはどういう場合なのかについて、文献は次のように整理しています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』230頁(株式会社全国会計職員協会、2016))「第二は、補助事業等の実支出額が交付決定ベースの事業費よりも下回る場合である。この場合には、当初国が負担した補助金等交付債務は原則として下回った事業費に対応して減少することになり、当初交付決定額を減額すべきこととなる。」

基準は実支出額です。現金で払っても、相殺で決済しても、手形を振り出して決済が終わっていれば、その経費は現実に支出され、負担されています。実支出額があるのに、支出の事実を証明する手段が銀行振込でないことを理由に、その経費をはじめから補助対象外として扱う――それが公式の説明の帰結です。私見としては、よくあるご質問Q11の「補助金は交付することはできません」という書き方は、額の確定が実支出額を基準とする精算の手続であることを理解していないと言わざるを得ません。

額の確定と減額の仕組みそれ自体は、コラム「額の確定」とQ&A「減額を言われたら」で述べていますので、本稿では立ち入りません。

3 相殺は、債務を消滅させます

手引き22頁が挙げる支払方法のうち、「他の取引との相殺払による支払い」は、性質が他と違います。相殺は、民法が置いた債務の消滅原因です。

引用(民法505条1項)「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。」

相殺の意思表示によって、代金債務は対当額で消滅します。設備の代金を支払う債務が消滅しているのに、「支払っていない」と扱うことはできません。公式の説明は、弁済という一つの消滅原因だけを「支払い」と呼び、相殺による消滅を支払いの外に置いています。

もっとも、相殺の場合に経費の額が分かりにくくなること自体は、否定できません。相手方に対する売掛金と仕入代金とを差引計算で処理していると、その設備にいくら支出したのかが通帳からは追えません。そうすると、事務局が銀行振込を求める実質的な理由は、支出の額と相手方と時期を一つの資料で確かめたい、という証明の便宜にあることになります。

証明の便宜であれば、証明の方法を尽くせば足ります。相殺の意思表示の書面、双方の請求書と残高の確認書、総勘定元帳と補助元帳、相殺後の差額の振込記録――支出の額と時期は、これらで示せます。私見としては、証明の便宜の問題を、経費そのものの不交付に結びつけることには、次に述べる条件の限界との関係で、検討の余地があると考えております。

4 支払手段の制限は、どこに根拠があるのか

支払手段を銀行振込に限ることは、法律そのものが定めていることではありません。これを事業者に及ぼす筋道があるとすれば、交付決定に附された条件(補助条件)だということになります。法律は、条件を附し得る事項を挙げています。

引用(補助金適正化法7条1項2号)「補助事業等を行うため締結する契約に関する事項その他補助事業等に要する経費の使用方法に関する事項」

支払方法は、「経費の使用方法に関する事項」に入る余地があります。しかし、同じ7条は、条件の限界も定めています。

引用(補助金適正化法7条4項)「補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。」

この項について、文献は次のように述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』169頁)「「必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするような」補助条件は、違法・無効な附款といわなければならない」

同書168頁は、7条4項について、一般に行政行為の附款は、具体的な行政行為の目的と照らし必要な限度にとどまらなければならない(比例原則)ものとされていると述べています。支出の事実を証明する手段を一つに限り、ほかの手段では「いかなる事情でも一切」認めないという定め方が、交付の目的を達成するため必要な限度にとどまっているかどうかは、正面から論ずることができる問題です。

もう一つ、手続の面があります。条件は、交付決定の通知で示されなければなりません。

引用(補助金適正化法8条)「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定をしたときは、すみやかにその決定の内容及びこれに条件を附した場合にはその条件を補助金等の交付の申請をした者に通知しなければならない。」

8条がこう定めているのは、附された条件を知った上で、7条の次の条文――交付決定の内容又は条件に不服があるときは申請を取り下げることができるという仕組み――を使えるようにするためです。ですから、手引きとよくあるご質問だけに書かれている禁止が、交付決定に附された条件としてどこまで事業者を拘束するのかは、交付決定通知書の記載に戻って確かめるべきことになります。公募要領や交付規程の文言が補助条件に取り込まれているかどうかという見方は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で述べています。

5 同じ手引きの中に例外があり、「いかなる事情でも一切」と整合しません

「いかなる事情でも一切」という言い方は、同じ頁の中で崩れています。問題のウの直前にあるイは、次のとおりです。

引用(補助事業の手引き22頁・(8)イ)「イ 支払いは、銀行振込の実績で確認いたします(国内、海外を問わず。)。経理処理の都合上、やむを得ない事情によりクレジットカードで支払う場合は、事前に事務局に相談してください。/やむを得ない事情により、事後報告となる場合は、追加提出書類及び事務局より理由書の提出を求める場合がありますので、その際はご対応いただくようお願いいたします。」(※原文は改行で区切られています。引用に当たり「/」で区切りました。)

そのすぐ後のカは、こう書いています。

引用(補助事業の手引き22頁・(8)カ)「カ ポイント・クーポンでの支払いは原則認めません。」

整理すると、同じ一つの頁で、三通りの扱いが並んでいます。

  • クレジットカード払い(イ)――やむを得ない事情があれば、事前の相談による。事後報告となる場合にも、理由書の提出で対応する道が示されています。
  • ポイント・クーポン(カ)――「原則」認めない。例外があることを、文言が認めています。
  • 現金・相殺・代引き・手形・手形の裏書譲渡・小切手・ファクタリング・割賦(ウ)――「いかなる事情でも一切」認めない。

やむを得ない事情を考える余地と「原則」という留保を自ら置いておきながら、ウに挙げた手段だけを「いかなる事情でも一切」とする理由は、手引きのどこにも書かれていません。支出の事実を証明できるかどうかという観点から見れば、クレジットカード払いも引落しの記録を待つ必要があり、現金払いも領収証と出納帳で跡を追う必要があります。証明の難易で線を引いたのであれば、その線がどこから出てくるのかが示されていなければなりません。

さらに、この書き方は財産処分の局面にも及んでいます。手引き36頁は、承認を受けた後の売却代金の受け取り方について、次のように書いています。

引用(補助事業の手引き36頁・⑧)「⑧ 「財産処分承認通知書」<様式第12-2>を受けた後、取得財産を売却する際、売却額の受け取りは、銀行振込の実績で確認いたします。銀行振込以外は、いかなる事情でも一切認められませんのでご注意ください。」

ここで問題になるのは、国庫に納付する額です。そして、同じ事務局が公表しているよくあるご質問(財産処分について)Q10は、納付額の計算式の分子について「A:(有償譲渡又は有償貸付の場合は)譲渡額又は貸付額」としています。同Q15は「財産処分に伴う納付額は、処分制限財産に係る補助金額が上限となります。」としています。基準は譲渡額であって、譲渡額の受取方法ではありません。売却代金を振込で受け取ったか否かは、納付額に影響しません。財産処分に伴う納付額の算定は、Q&A「財産処分の承認と国庫納付」で扱っています。

私見としては、同じ「いかなる事情でも一切認められません」という一文を、経費の支払いの場面と財産処分の代金の受取りの場面とに同じように置いている書き方は、それぞれの場面で何が基準になっているのかを区別していないと言わざるを得ません。

次のような場合は、確定検査の回答を出される前にご相談ください

  • 現金や相殺で支払った経費について、補助対象外とすると言われている
  • 手形・小切手・ファクタリングで決済した経費を、確定検査で問題にされている
  • 支払方法を理由に、交付決定の取消しや返還を示唆されている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 額の確定――補助金の額はいつ、どのように決まるのか(コラム)/公募要領にも交付規程にも書かれていないことを求められたら(Q&A)

6 現金・相殺・手形で払ってしまっているとき、どう動くか

確定検査で指摘を受けてから動くことになる場面が多いところです。順番として、次の四つを整理しておいていただくのがよいと考えております。

  • (1)交付決定通知書に戻り、附された条件の文言を確かめる。支払手段の制限が、交付決定の内容又はこれに附した条件としてどう書かれているのかを、通知書の原本で確かめてください。手引きとよくあるご質問は、交付決定の通知ではありません。8条は、条件を附した場合にはその条件を通知しなければならないと定めています。
  • (2)支出の額・相手方・時期を、振込以外の資料で固める。相殺であれば相殺の意思表示の書面と双方の請求書・残高確認書、現金であれば領収証と現金出納帳、手形であれば手形の写しと決済された当座勘定照合表――支出が現実にあったことを、総勘定元帳・固定資産台帳と突き合わせて示せる形にしてください。実支出額が基準である以上、ここが要になります。資料の残し方は、Q&A「記録の残し方」で述べています。
  • (3)どの経費が、いくら問題にされているのかを特定する。支払方法を理由とする指摘は、補助対象経費の一部についてのものであることが多いところです。問題にされているのが額の確定(減額)なのか、交付決定の取消しなのかによって、争う方法も期間も変わります。取消しであれば、処分の通知の日付と教示の記載を確かめてください。
  • (4)「一切認められません」と書かれていることを、そのまま結論として受け取らない。手引きの同じ頁には、やむを得ない事情による事前の相談(イ)と「原則」という留保(カ)が置かれています。相談の余地があるという前提で書かれている文書です。回答書に「支払方法が銀行振込でなかったため補助対象外であることを了解します」と書いてしまうと、後で動かすことが難しくなります。

公式の説明は、公正な第三者による解説ではなく、補助金をめぐる紛争の一方当事者の見解です。本件について申し上げれば、15条は額の確定の基準を補助事業の成果と交付決定の内容・条件への適合に置いており、文献は額が下がる場合を実支出額が交付決定ベースの事業費を下回る場合として整理しています。相殺は民法が置いた債務の消滅原因です。それにもかかわらず、よくあるご質問Q11は、支払方法の一点から「補助金は交付することはできません」という結論を導いています。書かれていない道が条文の側にあることは、珍しいことではありません。

現金払い・相殺払い・手形・小切手・ファクタリングで決済した経費について、確定検査で補助対象外とすると言われている事業者の方、支払方法を理由に交付決定の取消しや返還を示唆されている方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、回答書を出される前にご相談ください。交付決定通知書、問題にされている経費の請求書・領収証・相殺の書面、総勘定元帳の該当部分、事務局とのやり取りの記録があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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