執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
本稿は、裁判例を紹介するシリーズの一本です。以下には当職の私見が含まれます。
従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)やIT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)のように、国の予算を財源として、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」といいます。)を経由し、さらに全国中小企業団体中央会(以下「全国中央会」といいます。)などの団体が事務局となって事業者に交付される補助金があります。このような補助金は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「適正化法」といいます。)が「間接補助金等」と呼ぶものに当たります(適正化法2条4項1号)。中小機構が交付主体となる新事業進出・ものづくり補助金は、これには当たりません。どちらの類型に当たるかは、交付決定通知書の主語が「中小機構は」か「事務局は」かが最初の見分け方になります。
この類型について、事務局から交付決定を取り消され、補助金の返還と年利10.95パーセントの加算金を求められた事業者が、取消訴訟(行政訴訟)でこれを争おうとすると、「交付決定の取消しは行政処分ではないから、取消訴訟では争えない。民事の債務不存在確認訴訟によるべきである」という整理が持ち出されます。その根拠として引かれるのが、福岡高判平成25年9月26日です。
もっとも、この論点について、第一審である福岡地判平成25年2月4日は、裁判長裁判官及び裁判官2名の合議体で、間接補助金の不交付決定に処分性(行政処分として扱われるかどうか。取消訴訟で争えるかどうかを決めます)があると判断していました。控訴審がこれを取り消して訴えを却下したというのが事の経緯です。そして、この点について最高裁判所が判断を示したものは見当たりません。地方裁判所と高等裁判所とで判断が分かれたというにとどまるのであって、裁判官であっても判断が分かれる難しい問題なのです。「控訴審で取り消されている」という一言で片付けられる問題ではないと考えております。
本記事で特にお伝えしたいのは、控訴審が処分性を否定した理由のうち、「交付規程に不服申立手続が規定されていない」という点には、論証の循環があるということです。国が直接交付する補助金については、民間の補助事業者にも行政不服審査法(平成26年法律第68号)2条の審査請求の道が開かれており、交付行政庁には同法82条1項の教示義務があります。それが事務局型では途絶えるのは、事務局を私人と見ることの結果であって、その結果を処分性否定の理由に用いれば、結論を前提に置いたことになります。
本記事では、両判決の判示を引用しながら、どちらの判断に分があるかを検討し、あわせて、事務局の現在の運用について、公開されている交付規程・公募要領・手引き・政府答弁書を根拠として申し上げるべきことを申し上げます。なお、個別の補助金ごとに取消事由があるかどうかという実体法上の問題、及び理由付記の不備という手続上の問題は、本記事では立ち入りません。中小機構が直接交付する類型についての整理は事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、理由付記の不備という瑕疵がある可能性が高いことで述べております(同記事は、事務局型については処分性がないことを前提に、理由付記の問題は生じないとしています。本記事はその前提自体が裁判上争い得ることを述べるものです)。
当方は、同種の論点について訴訟を追行中です。本記事では、その事件の内容には立ち入りません。
1 この裁判例を取り上げる理由
(1)「間接補助金」とは
適正化法は、国が交付する補助金を直接又は間接に財源として、国以外の者が交付する給付金を「間接補助金等」と定義しています。
引用「この法律において「間接補助金等」とは、次に掲げるものをいう。 一 国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で、補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし、かつ、当該補助金等の交付の目的に従つて交付するもの」 (適正化法2条4項1号。e-Gov法令検索・法令ID 330AC0000000179、2026年10月23日閲覧)
そして、この給付金の対象となる事務又は事業を行う者を「間接補助事業者等」といいます(同条5項、6項)。
(2)従来のものづくり補助金の交付の経路
従来のものづくり補助金は、国から中小機構へ運営費交付金が交付され、中小機構から全国中央会へ補助金が交付され、全国中央会が事務局として事業者に交付する、という経路をたどります。令和3年5月時点の中小企業庁の資料のスキーム図は、この経路を次のように示していました。
引用図中の記載:「国」→「運営費交付金」→「中小機構」→「補助・定額」→「全国中小企業団体中央会」→「補助」→「中小企業等」。全国中央会の欄の説明は「補助事業にかかる公募、審査、採択、検査、支払等の事務を実施」。 (「中小企業生産性革命推進事業について」令和3年5月、中小企業庁技術・経営革新課ほか、PDF4頁。https://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2021/kokai/overview5.pdf 、2026年10月23日閲覧)
事務局である全国中央会自身も、次のように説明しています。
引用「本事業は、全国中小企業団体中央会が、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)で定めた「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金交付要綱」第3条に基づき、中小機構からの補助金を受け、設備投資等の支援を行うものです。」 (「補助事業の手引き(23次締切)」1.0版・令和8年8月、ものづくり・商業・サービス補助金事務局(全国中小企業団体中央会)、本文6頁。https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/ippan/23th/hojo/補助事業の手引き_23次締切_20260807.pdf 、2026年10月23日閲覧)
さらに、政府は、事務局の法的地位について、次のように答弁しています。
引用「令和六年度補正予算において措置した中小企業生産性革命推進事業(以下「本事業」という。)については、独立行政法人中小企業基盤整備機構が管理業務を実施しているところ、お尋ねの「事務局業務」を担う「民間事業者」については、本事業に係る補助金の交付決定などの当該補助金の執行業務を行うものであるが、その選定に当たっては、同機構が策定した「中小企業生産性革命推進事業補助金交付要綱」に基づき、同機構が、御指摘の「事務局」としての執行業務を行うことを希望する「民間事業者」から同業務に関する補助金の交付に係る申請を受け付け、当該申請の内容を審査し、当該交付の決定を行っており、お尋ねの「事務局業務の委託」は行っていない。」 (衆議院議員松原仁君提出中小企業生産性革命推進事業に関する質問に対する答弁書、令和7年3月14日受領、答弁第八一号、内閣総理大臣 石破茂。https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b217081.htm 、2026年10月23日閲覧)
事務局は、受託者ではなく、中小機構から補助金の交付の決定を受けた者である、というのが政府の説明です。そうすると、事業者が事務局から受ける補助金は、その補助金を財源とする給付金、すなわち適正化法2条4項1号の「間接補助金等」に当たることになります。
(3)当サイトの既存の整理との関係
当サイトでは、交付決定の通知の主語が「事務局は」となっている補助金については、その交付が交付規程に基づく負担付贈与契約と解され、処分性がないという整理を示してきました(補助金の処分性の見分け方、財産処分制限、減額確定・自主返納への誘導――中小機構が交付する補助金の法的問題点について、負担付贈与契約型補助金のトラブル)。この整理は、交付する側が現にそのように扱って運用していることを前提に、契約上の債務の有無を巡る民事上の争い方を述べたものです。
本記事が扱うのは、その前提自体が裁判上争い得るということです。すなわち、間接補助金の交付決定及びその取消しに処分性があるかどうかについては、下級審の判断が分かれており、決着がついていないのです。
(4)この類型で持ち出される整理
事務局型の間接補助金について、交付決定を交付契約と、取消しを契約の解除と置き換えて考える整理は、適正化法の標準的な解説書にも、裁判例にもあります(後記5(7)(8))。この整理を前提にすれば、争い方は民事の債務不存在確認訴訟になり、取消訴訟を提起しても却下されることになります。
もっとも、その根拠として福岡高判平成25年9月26日が引かれるとき、その中身を確かめると、以下に述べるとおり、判断が分かれている難問であることを示すものです。
2 事案――何が争われたのか
(1)補助金と交付の経路
対象となった補助金は、環境対応車普及促進対策費補助金(平成21年度第2次補正予算分)、いわゆるエコカー補助金の自家用自動車分です。登場する者を先に並べると、経済産業省 → 基金設置法人(判決の表記は一般社団法人B)→ 受託事業者(同C。本件の被告・被控訴人)→ 申請者(同A)という四段です。
第一に、経済産業省が「環境対応車普及促進対策費補助金(平成21年度第2次補正予算分)交付要綱」(判決の略語は「本件交付要綱」)を定め、同要綱3条に基づき基金設置法人Bに補助金を交付しました。第二に、経済産業省が定める「環境対応車普及促進事業実施要領」(同「本件実施要領」)に基づき、経済産業省が公募によりBの委託先となる受託事業者を定め、BがこれとBを委託者とする業務委託契約を締結しました。この受託事業者が一般社団法人Cです。第三に、Cが自ら定めた「環境対応車普及促進事業補助金交付規程」(同「本件交付規程」)に基づき、交付申請を受け付け、交付決定・額の確定・支払・不交付通知を行っていました。この交付規程は、本件実施要領第4(3)により、経済産業大臣の承認を要するものでした。
(2)取消し・不交付の経緯と請求
申請者Aが平成22年9月8日付けの申請書で交付を申請したところ、Cは、同年12月30日付けの不交付通知書で、同年9月8日申請分で予算を超過したため同日分の申請はすべて補助金を交付しないこととなった旨を通知しました。その後Aが死亡し、Aの子である原告が、平成23年9月14日、国を被告として取消しの訴えを提起し、原告の申立てにより、裁判所が平成24年2月23日、行政事件訴訟法15条1項に基づき被告を国から一般社団法人Cに変更しました。
引用「被告が,Aに対して平成22年12月30日付けで行った環境対応車普及促進対策費補助金不交付決定を取り消す。」 (福岡地判平成25年2月4日・第1「請求」)
(3)本記事を読む際に注意していただきたいこと
ここで大切なのは、この事件は「不交付決定」の事案であって、「交付決定の取消し・返還命令」の事案ではないということです。補助金の返還を求められた事業者が勝った裁判例ではありません。
もっとも、議論は交付決定の取消しの場面にも波及します。第一審は、処分性を肯定する事情の一つとして、交付規程11条が交付決定の一方的な取消しを認めていることを挙げており、控訴審は、まさにその交付規程11条を「贈与契約の解除である」と性格づけているからです。交付決定の取消しの法的性質について、両判決は見解を異にしているのです。
ただし、射程(判決の理由づけが及ぶ範囲)は同じではありません。本件は申請を拒否した場面であって、既に成立した法律関係を一方的に消滅させ、期限を付して返還を命じ、法定の率と同率の加算金を課す場面とは、仕組みの密度が異なります。控訴審が交付規程11条に触れたのも、控訴人の主張に答える部分での一行の説示にとどまります。
(4)地方裁判所の結論
地方裁判所は、処分性を肯定して訴えを適法としたうえで、本案では、予算の範囲内で交付されること自体は間接補助金の性質上当然であり、受理日の早い順を優先し同一受理日内では優先順位を設けないという方針を事前に決めていたこと等から、同日付け申請を一律に不交付としたことに違法はないとして、請求を棄却しました。
引用「1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。」 (同判決・主文)
したがって、被告である事務局は、第一審で勝訴していました。それにもかかわらず、附帯控訴(第一審で勝った側が、控訴審で原判決の変更を求める申立て)をして、訴えの却下を求めたのです。処分性が認められれば、多数の申請について取消訴訟の排他的管轄と出訴期間の規律が及ぶことになりますので、この点の影響は大きかったものと思われます。
3 福岡地判平成25年2月4日の判断(処分性を肯定)
この判決は、福岡地方裁判所第6民事部の、裁判長裁判官1名及び裁判官2名による合議体の判断です(裁判長裁判官山之内紀行、裁判官前田郁勝、裁判官林漢瑛)。
なお、以下の引用は、控訴審において取り消された第一審判決の理由中の判断です。この点は、以下の引用のすべてについて当てはまります。
(1)適正化法上の法律関係は公法上の法律関係であること
引用「確かに,補助金適正化法は,補助事業者が間接補助事業者に補助金の交付等をする際の具体的手続等については特に定めていないものと認められる。しかし,補助金適正化法は,国が交付する補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部として補助事業者から他の者に交付される給付金につき,「間接補助金等」,間接補助金等を受け取る者について「間接補助事業者等」と定義した上,国が間接補助事業者に対して直接・間接的に影響力を及ぼすことを認めているほか(同法23条1項,同法17条2項),間接補助事業者に対しては,間接補助金等の交付又は融通の目的に従い,善良な管理者の注意をもって間接補助事業等を行うこと及び他の用途へ間接補助金等を使用しない義務を課し(同法3条2項,11条2項),これに反した行為については,罰則まで設けているところ(同法30条),その理由は,間接補助金等についても,国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることから,補助金等が最終受領者の段階で実際に使用される用途にまで規制を及ばさなければ,補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることとする補助金適正化法の目的を十分に達成できないためであると解される。」 (福岡地判平成25年2月4日。控訴審において取り消された)
引用「実質的にも,国が直接に補助金等を交付するかそれとも都道府県その他の法人等を経由してこれを交付するかというのは,効率的な事務遂行その他の事情によるものであると考えられるのであり,間接補助金等の交付を受ける者は,形式的には補助金等を受け取る者とは異なるが,国から助成を受ける関係に立つ者であるという点において,実質的に国から直接補助金等の交付を受ける者と異なるところはないというべきである。」 (同判決。控訴審において取り消された)
引用「以上からすれば,国と補助事業者等のみならず,補助事業者等と同人から間接補助金等の交付を受ける間接補助事業者等の法律関係についても,私法上の法律関係ではなく,公法上の法律関係であると解すべきであることは明らかであり,これは,たとえ,補助事業者等が,国又は地方公共団体に属しない純然たる私人である場合でも異なるところはないというべきである。」 (同判決。控訴審において取り消された)
(2)処分性を肯定した理由
引用「前記のとおり,補助金適正化法は,補助事業者等から間接補助事業者に対して間接補助金等を交付する具体的手続については規定していないものの,補助事業者等が間接補助事業者に対して間接補助金等を給付する権限があることは,これを当然の前提としているから,補助事業者等が行う間接補助事業者等に対する間接補助金等の給付も当然補助金適正化法にその根拠を有するものである。そして,国による補助事業者等に対する補助金等の給付は処分であると解されるところ(このこと自体は被告も争っていない。),前記のとおり,国が直接に補助金等を交付するかそれとも都道府県その他の法人等を経由してこれを交付するかというのは,効率的な事務遂行その他の事情によるものであるから,補助金等の給付を受けた補助事業者等が,同補助金等の特定性を維持しながら間接補助金等を給付する場合,補助金等の交付と異なり,これを処分には該当しないと解する理由はないし,間接補助金等の交付についても,国の予算を原資とするものであり,同交付行為の有効性については,他の行政庁の処分と同じく,早期確定の必要性があるものというべきであるから,これを処分と解した上で,いわゆる取消訴訟の排他的管轄の規律及び出訴期間の制限(行政事件訴訟法14条)を及ぼすのが相当である。」 (同判決。控訴審において取り消された)
引用「実際に,被告が本件補助金事業を行う際に用いるために作成し,本件実施要領第4(3)に基づき経済産業省が承認した本件交付規程によれば,本件補助金の交付の申請をした者に対して,同補助金を交付するか否か及びその額については,被告が定めた要件に沿って被告が一方的に決定することになっており(本件交付規程6条,7条),また,一旦交付を決定した補助金についても,被告が一方的にその取消等を行うことができるとされている(同11条)など,そこに対等な当事者間の契約で見られるような合意の要素を見いだすことは困難であり,その点からも,本件不交付決定について契約関係上のものと解するのは相当ではない。」 (同判決。控訴審において取り消された)
引用「本件不交付決定によって,本件補助金の申請者であるAの本件補助金の給付を受け得る地位(被告による決定があるまでは給付・不給付のいずれの可能性がある。)が否定されたのであるから,同決定によって,Aと被告の法律関係に変動があったのは明らかであり,被告の上記主張は失当である。」 (同判決。控訴審において取り消された)
(3)被告適格――民間の団体でも取消訴訟の被告になること
引用「被告は,被告が純然たる私人であるとして,行政事件訴訟法が規定する取消訴訟の被告にはなり得ない旨主張するが,国又は公共団体に属しない法人等が行政訴訟法が規定する取消訴訟の被告になり得ることは,行政事件訴訟法11条2項の規定からも明らかであり,被告の主張は失当である。」 (同判決。控訴審において取り消された。「行政訴訟法」は原文のまま)
(4)出訴期間――教示を欠いたことが「正当な理由」になること
引用「被告は,本件不交付決定を書面で行っているにもかかわらず,行政事件訴訟法46条1項が定める本件不交付決定の取消訴訟において被告とすべき者及び出訴期間に関する教示を行っていないことが認められるのであるから(甲3),格別な法律知識を有しないと思われるAないし原告において本件不交付決定の取消訴訟の提起が遅れたことについてはやむを得ない面があるというべきであり,これにつき,行政事件訴訟法14条1項但書きが規定する正当な理由が認められる。」 (同判決。控訴審において取り消された)
4 福岡高判平成25年9月26日の判断(処分性を否定し訴えを却下)
控訴審は、福岡高等裁判所第5民事部の、裁判長裁判官1名及び裁判官2名による合議体です(裁判長裁判官一志泰滋、裁判官足立正佳、裁判官島田正人)。
引用「1 控訴人の本件控訴を棄却する。 2 被控訴人の本件附帯控訴に基づき原判決を取り消す。 3 控訴人の本件訴えを却下する。 4 訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。」 (福岡高判平成25年9月26日・主文)
(1)判断の枠組み
引用「行政事件訴訟法3条2項の規定する「処分」とは,公権力の主体である国又は公共団体の機関が行う行為のうち,その行為により直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが,法律上,認められているものをいうと解するのが相当である(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照。)。そして,その「処分」に当たる行為は,いわゆる権力的作用に属する行為のほか,本件補助金の交付のような非権力的作用に属する行為の場合であっても,法律が,一定の者に当該補助金の交付に関する申請権を与えるとともに,行政庁が,申請権を有する者の申請に基づき,交付・不交付の決定をして当該申請者の権利の存否を判断するという手続を採用している場合には,当該交付・不交付の決定行為は,行政庁が,優越的地位に基づき,当該申請者の権利義務を直接に形成し,又はその範囲を確定する行為としての性質を有するものといえるから,「処分」に当たるものと解される。」 (同判決)
この枠組み自体は、当方が用いるものと変わりません。非権力的作用に属する行為であっても処分に当たり得ることを、控訴審自身が認めているのです。
(2)処分性を否定した中核の判示
引用「以上の事実関係及び原判決別紙の関係法令等の定めによれば,本件不交付決定は,被控訴人が定めた本件交付規定に基づき行われたものであるが,その性質上,非権力的作用に属する行為であり,本件交付規定には,補助金の交付申請に対して交付,不交付決定をするという手続の定めがあるものの,これについて不服申立手続は規定されていないし,同定めは法律の根拠に基づいていないから,同交付・不交付決定が,優越的地位に基づき,申請者の権利義務を直接に形成し,又はその範囲を確定する行為として行われるものということはできない。 したがって,本件補助金不交付決定は,行政事件訴訟法3条2項の規定する「処分」に当たるということはできない。」 (同判決。「本件交付規定」は原文のまま。第一審判決及び控訴審の「事案の概要」では「本件交付規程」と表記されています)
(3)贈与契約という性格づけ
引用「しかしながら,本件補助金事業が公益性の高いものであり,経済産業大臣及び基金設置法人であるBの指導,監督の下に,独占的に行われているとしても,本件補助金の交付は,一般社団法人である被控訴人が,一般社団法人であるBの行う事業の一環として行うものであるから,これを公法上の法律関係とみるか,私法上の法律関係とみるかについては議論の余地があるが,被控訴人の補助金交付決定により具体的な給付請求権が発生するという仕組みは,申込み(補助金申請)と承諾(補助金支給決定)により成立する公法上あるいは私法上の贈与契約を原因として発生するものであり,原判決の指摘する交付決定の取消しの規定(本件交付規定11条)は贈与契約の解除であると解され,これをもって,行政庁の優越的地位に基づく行為であり,処分性があるということはできない。」 (同判決)
引用「加えて,本件交付規定を直接の根拠とする本件補助金不交付決定が,その仕組みにおいて本件交付要綱及び本件実施要領に基づくものといえるとしても,これらは行政内部の規則に過ぎないから,この観点からしても,本件補助金不交付決定が,法律に根拠するものということはできない。」 (同判決)
引用「この点,適正化法は,国と補助事業者との関係について適用され,補助金等に係る予算の執行の適正化を図るため,国と補助事業者との関係を把握し,是正を図ることなどを定めるとともに,補助事業者の業務に関して必要な限りで,間接補助事業者に報告義務等を負わせ(適正化法23条1項),これに刑事罰を科することができるものとしているが(同法30条,11条2項),これによっても,国と間接補助事業者との間に法律関係を創設するものではなく,補助事業者と間接補助事業者との法律関係を規律するものでもないし,同法は,補助事業者の間接補助事業者への補助金交付業務の交付手続を定めていないから,本件不交付決定が適正化法等に根拠するものということはできない。」 (同判決)
引用「そうすると,控訴人の本件訴えは,他の争点について検討するまでもなく,不適法として却下されるべきである。」 (同判決)
(4)この控訴審判決について押さえておくべき三点
第一に、控訴審は「民事訴訟で解決することが可能だから処分性がない」とは述べていません。「通常の民事訴訟によって紛争を解決することが可能である」という主張は、第一審で被告がしたものであり、控訴審の理由中には現れません。控訴審の理由は、①非権力的作用に属する行為であること、②交付規程に不服申立手続が規定されていないこと、③交付規程・交付要綱・実施要領は法律の根拠ではないこと、④適正化法は補助事業者と間接補助事業者の法律関係を規律しないこと、の四点であって、そこにはありません。
第二に、控訴審は、公法上の法律関係か私法上の法律関係かを決めていません。「議論の余地があるが」と述べて、第一審が正面から判断した論点の判断を留保したまま、処分性だけを否定しています。
第三に、控訴審は、原告適格・被告適格・出訴期間について判断していません。「他の争点について検討するまでもなく」としているからです。したがって、第一審が示した、行政事件訴訟法46条1項の教示を欠いたことを同法14条1項ただし書の「正当な理由」とする判断は、控訴審で覆されたのではなく、判断されなかったにとどまります。
なお、両判決について、判例時報・判例タイムズ等の判例誌への登載は確認できておりません(第一審=判例秘書L06850741、控訴審=判例秘書L06820794)。控訴審判決の全文は、裁判所ウェブサイトでも公開されており、その「(原裁判等の表示)」として第一審判決の全文が収録されています(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-84102.pdf 、2026年10月23日閲覧)。また、控訴審判決について上告又は上告受理の申立てがされたかどうか、その結果がどうであったかは、公刊物では確認できておりません。上告棄却・上告不受理の決定は公表されないことが多いため、確認できていないことをもって上訴がなかったということはできません。
5 どちらの判断に分があるか
(1)争点は当てはめに尽きること
両判決は、処分性の判断枠組みを共有しています。いずれも、最一小判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁の定式を出発点とし、非権力的作用に属する行為であっても、法律が申請権を与え、行政庁が申請に基づき交付・不交付の決定をして権利の存否を判断する手続を採用している場合には処分に当たる、という理解に立っています。
そうすると、争いは、当てはめ、すなわち間接補助金について適正化法の規律がどこまで及んでいるかという一点に絞られます。
(2)近年の最高裁判所は処分性を柔軟に判断してきたこと
まず押さえておきたいのは、昭和39年の定式そのものは維持されているということです。
引用「ここでいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政処分)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によつて直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうとするのが,最高裁の確立した判例である」 (最高裁判所判例解説民事篇平成20年度452頁)
もっとも、その当てはめは柔軟になってきました。
引用「近時,上記の処分性の有無に関する一般的な判断基準からすると処分性が認められるかどうか微妙な行政上の行為について,その処分性を肯定する最高裁の判決が現れているが,これらは,実効的な権利救済を図るという観点から,上記の処分性の有無に関する一般的な判断基準を柔軟に解したものと理解することができるものであり,その基準自体は依然として維持されているものと解される。」 (最高裁判所判例解説民事篇平成20年度452〜453頁)
学説も、同じ方向の整理をしています。
引用「処分性を判断するに当たり,最近の最高裁判例は,国民の権利利益の実効的な救済という観点から,当該処分の根拠法令の文言のみによることなく,当該法の趣旨・目的,関係法令の趣旨・目的,要綱を含めた法令の運用実態,原告が受ける不利益の性質等を含め,制度の仕組みを総合的に考察して処分性を判断している。」 (大久保規子「処分性をめぐる最高裁判例の展開」ジュリスト1310号18頁・23頁(2006))
この流れの中で、本記事の論点にとくに関わるのは次の三つです。
一つは、最一小判平成15年9月4日(労災就学援護費の支給・不支給決定)です。この事件では、支給対象者・支給額・手続の定めは法律にはなく、労働省労働基準局長通達の別添である支給要綱にしかありませんでした。原審は、就学援護費の支給は贈与契約であって処分ではないとして処分性を否定しましたが(東京高判平成11年3月9日労判858号55頁。整理は大久保・前掲ジュリスト1310号20頁)、最高裁判所はこれを破棄し、次のように判示しました。
引用「そうすると、労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。」 (最一小判平成15年9月4日集民210号385頁・判時1841号89頁)
ここでとくに注意していただきたいのは、この事件の法制度には、具体的な支給要件の定めも、不服申立ての定めも、法律上なかったということです。
引用「給付行政の領域では,契約方式が用いられることも少なくないが,労災法の保険給付の支給決定は処分であると解されている。しかし,これを補完する労働福祉事業の給付決定については,①労災法に具体的な支給要件等に関する規定が置かれていない,②不服申立てに関する定めも設けられていないなどの点で,保険給付の場合と規定の仕方が異なっている。それにもかかわらず,最高裁が,「保険給付と同様の手続」であるとした理由は必ずしも明らかではない」 (大久保・前掲ジュリスト1310号20頁)
引用「本判決の特徴は,労災法や施行規則の文言のみならず,通達・要綱も含めた制度の仕組みと法の趣旨・目的を総合的に考慮することにより,上述の解釈を導き出したところにある。」 (同21頁)
二つめは、最一小判平成16年4月26日民集58巻4号989頁(食品衛生法違反通知)です。従来の下級審は、この通知は法令に直接の根拠を有しない行政指導であるとして処分性を否定していましたが、最高裁判所は、通知の効果が関税法70条2項・3項の仕組みと通関実務を介して生じることを踏まえ、通知は食品衛生法16条(当時)に根拠を置くものであるとして処分性を肯定しました(大久保・前掲21頁。評釈として西田幸介「平成16年度重要判例解説 行政法4 食品衛生法違反通知の処分性」ジュリスト1291号44頁。同書44頁は「本判決は,検疫所長による食品衛生法違反の通知の処分性を初めて肯定した最高裁判決である」としています)。制度の仕組み全体から法律上の根拠を読み取った例として引くものであり、通達のみを根拠に処分性を認めたものではありません。
三つめは、最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁(土地区画整理事業の事業計画の決定)です。昭和41年の大法廷判決を変更して処分性を肯定したもので、その理由は次のように整理されています。
引用「土地区画整理事業の事業計画の決定の処分性の有無につき,本判決と41年大法廷判決とで判断を異にすることになった最も大きな理由は,以上のような実効的な権利救済の必要性にかかわる評価判断の違いにあるのではないかと思われる。」 (最高裁判所判例解説民事篇平成20年度456頁)
そして、この視点は、土地利用計画以外の場面にも及ぶものとされています。
引用「処分性の問題は広義の訴えの利益の問題であり,実効的な権利救済のために当該行為を抗告訴訟の対象として取り上げるのが合理的であるかどうかは,処分性の有無を判断するに当たって当然に考慮されるべき事柄であって」 (最高裁判所判例解説民事篇平成21年度866頁)
以上からすれば、「要綱や通達にしか定めがないから処分ではない」という決めつけは、最高裁判所が採っていないところです。
(3)控訴審判決の10年後に、最高裁判所が示した判断
次に、最二小判令和5年11月17日民集77巻8号2070頁(判タ1518号67頁、判時2597号23頁)です。この事件は、独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長がした文化芸術振興費補助金による助成金の不交付決定の取消しを求めたものであり、最高裁判所は、裁量権の逸脱濫用があるとして原判決を破棄しました。すなわち、不交付決定が行政処分であることを前提として、本案の審理をしたのです。
引用「本件助成金の交付の申請に対する交付・不交付の決定は、補助金等適正化法の規定が準用されるため(振興会法17条)、行政処分に当たり、抗告訴訟の対象となるものとされる。」 (最高裁判所判例解説民事篇令和5年度548頁(山本拓)。同旨、山本拓「[最高裁時の判例]民事 独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長がした文化芸術振興費補助金による助成金を交付しない旨の決定が上記理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとされた事例」ジュリスト1600号121頁・122頁(2024))
しかも、この事件でも、助成金の交付の要件・手続を定めていたのは理事長が定めた要綱でした。そして、同じ解説は、その要綱の性質について、次のように述べています。
引用「なお、本件要綱は講学上の行政規則であるから(後記4(1)参照)、その定めにより理事長が基金運営委員会の議を経て行う交付内定は、交付の申請(振興会法17条、補助金等適正化法5条)の前に行われる事実上の手続にすぎず、これを授益処分とみる余地はない。」 (同548頁)
つまり、交付の要件・手続を定めるものが講学上の行政規則(内部規則)であっても、法律が適正化法を準用している以上、交付・不交付の決定は行政処分に当たるという理解が示されているのです。福岡高判が「これらは行政内部の規則に過ぎないから」と述べて処分性を否定した論法は、この理解と相容れません。
もっとも、この最高裁判決の射程については、正確に申し上げなければなりません。第一に、この事件は、振興会が自ら交付する助成金についてのものであり、間接補助金の事案ではありません。第二に、上記の引用のとおり、申請権を与えていたのは準用された適正化法5条です。したがって、この判決から言えるのは、①法律による適正化法の準用がある助成金の交付・不交付の決定は行政処分に当たるということ、②交付の要件・手続を定めるものが行政規則であることは処分性を否定する理由にならないということ、までです。この判決が間接補助金の処分性を認めたものではありません。
(4)適正化法が間接補助事業者を直接規律している範囲
控訴審は、適正化法が「補助事業者と間接補助事業者との法律関係を規律するものでもない」と述べました。もっとも、適正化法の条文を並べると、末端の事業者を名宛人とする規定は確かに置かれています(いずれもe-Gov法令検索・法令ID 330AC0000000179、2026年10月23日閲覧)。
引用「補助事業者等及び間接補助事業者等は、補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し、法令の定及び補助金等の交付の目的又は間接補助金等の交付若しくは融通の目的に従つて誠実に補助事業等又は間接補助事業等を行うように努めなければならない。」(3条2項)
引用「間接補助事業者等は、法令の定及び間接補助金等の交付又は融通の目的に従い、善良な管理者の注意をもつて間接補助事業等を行わなければならず、いやしくも間接補助金等の他の用途への使用(略)をしてはならない。」(11条2項)
引用「各省各庁の長は、補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは、補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して報告をさせ、又は当該職員にその事務所、事業場等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。」(23条1項)
引用「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(29条1項)
引用「第十一条の規定に違反して補助金等の他の用途への使用又は間接補助金等の他の用途への使用をした者は、三年以下の拘禁刑若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(30条)
義務(3条2項、11条2項)、立入検査(23条1項)、そして刑罰(29条1項、30条)です。国家が用いる強制力を伴う手段が、末端の事業者に直接届いているのです。
他方で、当方に不利な点も、はっきり申し上げておかなければなりません。第一審が挙げた適正化法17条2項は、国(各省各庁の長)が、補助事業者等に対して、交付決定を取り消す規定です。事務局が事業者の交付決定を取り消す根拠ではありません。解説書も、交付行政庁が間接補助金等の交付決定の取消しを行うことは認められないとしています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』249頁注(8)参照(全国会計職員協会、2016))。同じく、適正化法5条(交付の申請)、6条(交付の決定)、17条(取消し)、18条(返還命令)、21条(国税滞納処分の例による徴収)、25条(不服の申出)は、いずれも「各省各庁の長」とその相手方についての規定であり、事務局と事業者との間の交付・取消しの手続を定めた規定は、適正化法にはありません。
したがって、本件の争点は、次の一点に絞られます。義務・検査・罰則という強制力を伴う手段だけが末端の事業者に直接届き、その入口(申請・交付決定)と出口(取消し・返還・不服申立て)の手続規定は置かれていない。この立法の不整合をどちらに寄せて解釈するか、です。第一審は、「補助事業者等が間接補助事業者に対して間接補助金等を給付する権限があることは、これを当然の前提としている」として前者に寄せ、控訴審は後者に寄せました。裁判官の判断が分かれたのは、この一点です。
なお、控訴審が適正化法の条文として挙げたのは、23条1項、30条、11条2項の三つだけです。第一審が理由中で挙げた17条2項、3条2項には触れていません。
(5)従来のものづくり補助金の場合に介在するもの
福岡の事案は、経済産業省の交付要綱に基づく予算補助を原資とする基金から、業務委託を受けた受託事業者が、自ら作った交付規程を直接の根拠として交付していたものでした。これに対し、中小機構を経由する補助金には、次の規定が介在します。
引用「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和三十年法律第百七十九号)の規定(罰則を含む。)は、前条第一項第六号及び第二項第三号の規定により機構が交付する助成金について準用する。この場合において、同法(第二条第七項を除く。)中「各省各庁」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と、「各省各庁の長」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と、同法第二条第一項及び第四項、第七条第二項、第十九条第一項及び第二項、第二十四条並びに第三十三条中「国」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と、同法第十四条中「国の会計年度」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業年度」と読み替えるものとする。」 (独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条。e-Gov法令検索・法令ID 414AC0000000147、2026年10月23日閲覧)
「の規定(罰則を含む。)は」です。条文を選んでいません。申請(5条)、交付の決定(6条)、立入検査(23条)、国税滞納処分の例による徴収(21条)、不服の申出(25条)、罰則(29条以下)が、すべて準用の対象です。この違いが、条文を選んで準用している振興会法の事案とどこで分かれるかは、独立行政法人や事務局から交付された補助金の取消し・返還は、取消訴訟で争えないのかで述べております。
そうすると、読み替え後の適正化法の下では、中小機構が交付する助成金が「補助金等」、事務局が「補助事業者等」、事業者が事務局から受ける補助金が「間接補助金等」、事業者が「間接補助事業者等」に当たることになります。前記(1)の政府答弁書が、事務局は中小機構から補助金の交付の決定を受けた者であって委託は受けていないと述べていることは、この構造と一致します。
そして、事業者を名宛人とする11条2項・23条1項・29条1項・30条が及ぶことになります。立入検査の主体に中小機構が加わっていることは、交付規程の文言にも現れています。
引用「全国中央会及び地域事務局は、補助事業の適正な遂行を確保するため、必要があるときは、補助事業者に対し、補助事業に関し報告を求め、又は、全国中央会及び地域事務局の指定する者により補助事業者の事業所等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問することができる。この場合において、補助事業者は協力しなければならない。 2 中小機構は、必要に応じて前項の措置を取ることができる。」 (ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金交付規程18条(制定:令和7年2月25日/最終改訂:令和8年8月5日。全国中小企業団体中央会)、4頁。https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/ippan/common/hojo/交付規程_23次_20260807.pdf 、2026年10月23日閲覧)
適正化法23条1項の主体は「各省各庁の長」であり、機構法16条の読み替えによれば「中小機構の理事長」です。それが交付規程に書き込まれているのは、準用の具体化とみるのが自然です。
さらに、交付規程は、適正化法6条1項・2項の仕組みをそのまま移し植えています。
引用「全国中央会は、第6条第1項の規定による補助金交付申請書の提出があった場合には、当該申請書の内容を審査し、補助金を交付すべきものと認めたときは交付決定を行い、様式第2による補助金交付決定通知書を申請者に通知するものとする。 2 補助金交付申請書を受理してから、当該申請に係る前項による交付決定を行うまでに通常要すべき標準的な期間は、原則30日とする。」 (同交付規程7条1項・2項、2頁)
適正化法6条1項は「当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により……補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみやかに補助金等の交付の決定……をしなければならない」と定め、同条2項は標準的な期間を定めて公表するよう努めるものとしています。交付規程7条は、この二項を順序も含めて写したものです。申請に対する審査と応答の手続が置かれていること、その標準処理期間まで定められていることは、「対等な当事者間の贈与契約の申込みと承諾」という説明にはそぐわないと考えております。
もっとも、従来のものづくり補助金が機構法15条1項6号及び2項3号にいう「助成」として実施されているかどうか、交付規程の制定それ自体が中小機構の承認にかかるものかどうかは、中小機構の交付要綱の本文を確認しなければ確定できません。この交付要綱は、中小機構・中小企業庁・各事務局のいずれのサイトでも公開を確認できませんでした(後記6(2)オ)。したがって、この点は未確認の事項として申し上げます。交付規程31条1項は、同規程に定めるもののほか必要な事項を定めるときは「経済産業省及び中小機構と協議の上」行うものとしており、主務官庁の関与があることまでは確認できます(同規程31条1項、6頁)。
(6)控訴審判決の弱点
以上を踏まえると、控訴審判決には、次の弱点があると考えております。
第一に、「不服申立手続が規定されていない」ことを処分性の否定に結びつけた点です。 ここには論証の循環があると考えております。
適正化法25条の不服の申出は、たしかに地方公共団体に限られています。しかし、それは民間の事業者に不服申立ての道がないからではなく、逆の理由です。
引用「本条は、補助金等の交付に関する処分に対して不服のある地方公共団体に対し不服申出権を認めた規定であり、行政不服審査法の特例規定としての意義をもつ。これにより、地方公共団体の不服申出は特例規定である本条の規定に基づき、地方公共団体以外の一般私人の不服申立ては一般法たる行政不服審査法の規定に基づき、それぞれ提起しうることとなる。」 (小滝・前掲339頁参照)
引用「行政不服審査法(昭和三七年法律第一六〇号)上、地方公共団体がその固有の資格において相手方となる処分については同法による不服申立てを行うことができないと解されている中で、補助金適正化法上特則(第二五条)を設け、地方公共団体に対して不服申出を認めることにより、一般私人と地方公共団体との間に大きな不均衡が生じないよう配慮されている」 (同331頁参照)
引用「他方、地方公共団体以外の一般私人の不服申立ての手続は、すべて行政不服審査法の定めるところによることはいうまでもない。」「したがって、交付行政庁が補助金等の交付に関する処分を行うにあたっては、不服申立て(又は本条の不服の申出)をすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を教示しなければならないこととなる。」 (同345頁参照。引用中の行政不服審査法の条数は旧法57条1項のものですが、現行法では82条1項に当たります)
引用「塩野教授は、「この規定(本法第二五条)は、私人に関しては、行政不服審査法による不服申立てができることを当然のこととして前提としていると解されよう。」と指摘されている」 (同346頁注(刊)参照)
現行の行政不服審査法2条は「行政庁の処分に不服がある者は……審査請求をすることができる」と定め、同法7条1項の適用除外に補助金に関する処分は含まれていません。同法7条2項が適用を除外しているのは、国の機関又は地方公共団体等がその固有の資格において相手方となる処分です。同法82条1項は、処分をする行政庁に対し、書面による教示を義務づけています(いずれもe-Gov法令検索・法令ID 426AC0000000068、2026年10月23日閲覧)。
つまり、国が直接交付する補助金の交付決定の取消しや返還命令については、民間の事業者にも審査請求の道があり、教示もされなければならないのです。事務局型でそれが途絶えるのは、事務局を私人と見ることの結果であって、原因ではありません。その結果を処分性否定の理由として用いれば、結論を前提に置いたことになります。行政事件訴訟法46条1項の教示についても同じことが言えます。
もっとも、不服申立手続の不存在を処分性否定の一要素として挙げる下級審があることは、申し上げなければなりません。東京地判令和8年1月29日(判例秘書L08130321)は、地方公共団体の要綱補助について「交付決定や交付決定の取消し等に対する不服申立ての手続がないこと、補助金の返還や違約加算金及び延滞金……に関し強制徴収の手続が定められていないことなど、行政処分性を肯定するための重要な要素が欠落しているといわざるを得ない」とし、金沢地判令和4年3月29日(判例秘書L07750538)も「不服申立手段が定められていないことも併せ考慮すると」としています。他方で、前記5(2)のとおり、最一小判平成15年9月4日は、法律に具体的な支給要件の定めも不服申立ての定めもない給付について処分性を肯定しています。この一事をもって処分性を否定することはできないと考えております。
第二に、「法律が申請権を与えているか」を条文に即して検討していないことです。 控訴審は、一般論として「法律が,一定の者に当該補助金の交付に関する申請権を与えるとともに」という要件を立てたうえ、「同定めは法律の根拠に基づいていない」と一行で結論を述べました。もっとも、適正化法が間接補助事業者に申請権を与えているかどうかについて、条文に即した検討は示されていません。第一審も、この点を「当然の前提としている」という解釈で埋めたにとどまります。ここは両判決に共通する薄いところであって、当方としては、前記5(5)のとおり、交付規程が適正化法6条1項・2項の審査・応答・標準処理期間を移植していること、交付規程1条が適正化法を筆頭に掲げていること、同規程31条1項が主務官庁との協議を要するものとしていること、そして福岡の事案では交付規程が大臣の承認にかかるものであったことを、制度の仕組みとして積み上げて主張すべきであると考えております。
第三に、公法上の法律関係か私法上の法律関係かという論点の判断を回避したまま、結論だけを逆にしたことです。 第一審は、この点を正面から判断して「公法上の法律関係であると解すべきであることは明らかである」と述べました。控訴審は、これを「議論の余地があるが」として留保しています。
第四に、交付規程11条の加算金・延滞金に触れていないことです。 控訴審は、交付規程11条を「贈与契約の解除である」と一行で性格づけました。しかし、適正化法19条1項・2項の年10.95パーセントの加算金・延滞金は、受領の日からの利息相当分と「制裁的賦課金」の性質とを併せもつとされています(碓井光明『公的資金助成法精義』217頁参照(信山社、2007)。同頁は小滝・前掲264頁、266頁を引用しています)。対等な当事者間の贈与契約の解除として、受贈者に法定の率と同率の金員を課すことができるのか、という問いに、控訴審は答えていません。
第五に、処分性に関する最高裁判所の判断の流れに一切言及していないことです。 とりわけ、前記最一小判平成15年9月4日及び最一小判平成16年4月26日との整合は、検討されていません。
(7)反対の材料――当方に不利な文献と、それに対する当方の考え
この問題について、当方に不利な文献があることを申し上げなければなりません。むしろ、この点に触れずに「第一審に分がある」と述べることはできないと考えております。
適正化法の標準的な解説書は、全国中央会を名指しで例に挙げたうえで、次のように述べています。
引用「間接補助金等を交付する補助事業者等は必ずしも公法人には限定されていない。実際上はほとんどすべて地方公共団体であるが、私立大学等経常費補助金が日本私立学校振興・共済事業団(従前は日本私学振興財団)を通じて学校法人に交付され、中小企業連携組織対策推進事業費補助金が全国中小企業団体中央会より傘下中小企業団体に交付され、また土地改良施設維持管理適正化事業費補助金が全国土地改良事業団体連合会より傘下土地改良区に交付される場合のごとく、民間団体が補助事業者等となるケースもある。このような場合、間接補助金等の交付の法律関係(間接補助関係)は公法上の法律関係として把握することはできず、私法上の負担附贈与契約関係と観念せざるをえないであろう。したがって、間接補助金等の交付決定は交付契約と、交付決定の取消しは交付契約の解除と、それぞれ置き換えて考えなければならない場合が出てくるわけである」 (小滝・前掲248〜249頁注(7)参照)
福岡高判と同じ結論です。また、裁判実務の研究書にも、次の記述があります。
引用「しかし,条例等の法令に根拠を持たない補助金の支給は,本来贈与であり,その性質上公権力の行使という色彩の乏しいものであって,これを公権力の行使とするためには,そのような補助金の支給を申請することのできる地位に権利性を作出するような法令の規定が必要であろう。そのように考えると,その支給制度の根拠となる要綱に法的拘束力がないのであれば,当該要綱に基づく支給の拒否を行政処分とするのは困難であろう。」 (司法研修所編『改訂 行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』20頁参照(法曹会、2000))
さらに、当サイトが処分性の整理の典拠として引いてきた体系書も、同じ方向の記述を置いています。
引用「法律上の根拠がないことが明らかな行政庁の行為(例えば,要綱のみに基づく補助金の不支給決定など)」 (西川知一郎編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 行政関係訴訟〔改訂版〕』27頁参照(青林書院、2021))
前掲の大久保論文も、「法律に何らのてがかりもなく,要綱のみを根拠とする決定は本判決の射程の範囲外であり,この点では従来の判例と異なるところはない」としています(ジュリスト1310号21頁)。
これらに対して、当方は次のように考えております。
第一に、「実質が贈与契約である」ことは、処分性を否定する理由になりません。 前記の解説書自身が、国の交付決定について次のように述べているからです。
引用「交付決定は、既に触れたとおり(第六条解説八)補助金等の交付の法的行為形式として、本法上行政処分として構成されたものであって、本来的行政行為(例えば事業取締法規による各種営業の許認可処分、資格付与法規による各種免許・登録処分等)と同一に観念されるべきものではなく、公権力の発動の実体を随伴しない形式的行政行為と解すべきであり(略)形式的行政行為としての交付決定は、形成的処分(行為)として相手方に補助金等交付請求権を設定する効果をもつが、実質的には私法的行為形式としての負担附贈与契約として、相手方が補助事業等を目的どおり遂行する負担を負うことを前提に、国において補助金等交付債務を負担する効果をもつことになる。したがって、相手方が負担を履行しない債務不履行(事業遂行義務違反)があるときは、当該負担附贈与契約を解除しうるものと解すべきである(法定解除権の行使)。ただ、交付決定が形式的行政行為として構成された以上、これを解除という私法上の法律行為形式をもって対処すべきではなく、公法上の法的行為形式たる取消し(撤回)をもって対応すべきこととされたものと考えられ」 (小滝・前掲250〜251頁参照)
ここでいう「形式的行政行為」とは、公権力の発動そのものを伴わないけれども、法が行政処分という形式で構成したために行政処分として扱われる行為という意味です。国の交付決定ですら、実質は負担付贈与契約なのです。それでも行政処分として扱われるのは、法がこれを行政処分という行為形式で構成したからです。前記の体系書も、同じ区別を述べています。
引用「ただし,行政庁と相手方(国民)との関係が私法上の契約関係ないしこれに類する関係である場合であっても,立法政策により,根拠法令において公権力性が付与され,処分性が認められることがある」 (西川編著・前掲26〜27頁参照)
したがって、問われるべきは、実質が贈与契約かどうかではなく、法が行為形式を定めているかどうかです。福岡高判が「贈与契約を原因として発生するものであり」「贈与契約の解除であると解され」と述べて処分性を否定したのは、この区別を取り違えているものと考えております。なお、同じ区別は、近時の下級審も明示しています。
引用「適正化法は、かかる給付行政の分野にも法律による規律を設けたものであるところ、その対象となる「補助金等」(2条)に該当するものについては、その交付の手続として、申請者に申請権を与え、これを受けた行政庁に応答義務を負わせる旨規定し(5条及び6条)……そうすると、適正化法6条1項にいう交付又は不交付の決定それ自体は、その行為により直接に当該申請者の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものとして、抗告訴訟の対象となる処分に当たるものと解される。」 (東京地判令和5年4月20日・判例秘書L07830977)
第二に、事務局型の間接補助金は、「条例等の法令に根拠を持たない補助金」ではありません。 前記の実務的研究も、適正化法をまさに反対の例として挙げています。
引用「補助金の交付などは本来贈与であるから,その申込みが拒絶されても民法上はその承諾を強制する手段はあり得ないが,行政法規には,ある目的から,この交付申請のような実体法上は権利性の認められないものについて実体的ないし手続的権利を作出し,行政庁がこれに応じ又は拒否する行為を行政処分として構成する立法政策を採用しているものがある。 実体法上は権利性の認められないものについて法がそのような立法政策を採った制度の例として,国の補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく負担金の交付決定がある」 (司法研修所編・前掲19頁参照)
前掲の体系書の注も、同じことを述べています。
引用「補助金等の支給決定であっても,法律や条例に直接の根拠を有する補助金等の支給決定については,処分性が認められる(例えば,国の補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく負担金交付決定など)」 (西川編著・前掲27頁注39参照)
第三に、交付規程には、適正化法7条3項に基づく補助条件が流れ込んでいます。 財産処分の制限について、この整理が前最高裁判所調査官によって紹介されています。
引用「法22条は,国と補助事業者等との関係についての規定であるが,間接補助事業者等であっても,これと実質的に同一の規制を及ぼす必要があり,そのためには,補助事業者等が間接補助事業者等に間接補助金等の交付決定をする際に,「間接補助事業等により取得し,又は効用の増加する財産の処分については,補助事業者等の承認を受けるべき」旨の間接補助条件を附さなければならないという補助条件を附すことが必要であるとされている(青木編・前掲117頁)」 (荒谷謙介「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条に基づくものとしてされた財産の処分の承認が同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法であるとされた事例」ジュリスト1565号103頁・105〜106頁(2021))
交付行政庁が適正化法7条3項に基づいて付した補助条件を、補助事業者が間接補助事業者に転嫁する。これが交付規程のうち財産処分の制限に関する部分の由来です。そうすると、交付規程は、団体が独自に作った文書というだけのものではなく、法律が補助条件という形で背後に立っていることになります。
ただし、ここには大切な限定があります。 これは、交付規程それ自体が法規たる性質をもつという意味ではありません。交付規程は講学上の行政規則であり、その個々の定めに違反したことが直ちに取消事由になるのではなく、転嫁された補助条件の内容に当たるかどうかを条文に即して見る必要があります。この点は、交付規程に違反したと言われたら――交付規程を守ることは「補助条件」なのかで述べているとおりです。学説も、交付要綱の取消事由の書き方について、「要綱に定めることはすべて補助の条件であると解し、補助条件違反についてのみ指示も可能であると解するならば一応問題をクリアーすることができるが、どのような補助条件であってもよいというものではあるまい」としています(碓井・前掲213頁参照)。
第四に、地方公共団体が規則等に基づいて行う交付決定の取消しについて、処分性を肯定すべきであるという見解があります。
引用「他方,規則等によるものは,行政処分性が否定されるとする考え方が通用していると推測される。筆者は,交付決定について述べたのと同じ理由により行政処分性を肯定したいと考えているが,否定説による場合も当事者訴訟(民事訴訟又は公法上の当事者訴訟)の活用によって目的を達することができよう。」 (碓井・前掲210〜211頁参照)
(8)処分性を否定した裁判例も、あわせて申し上げます
公正を期すため、補助金等の給付決定について処分性を否定した裁判例も挙げます。
まず、高等裁判所のものです。
引用「しかるところ,地方公共団体のする補助金の支給(地方自治法232条の2)は,本来私法上の贈与の性質を有するものというべきであり,そもそも公権力の行使という性格は希薄である。これを公権力の行使と認めるためには,補助金支給を申請することのできる地位に権利性を付与したと認めるに足りる法令の規定が必要というべきである(略)が,神戸市補助金交付要綱は条例や命令ではなく,神戸市長が被控訴人の内部規則として制定したものであって,法令としての拘束力があるとはいえない。(略)立法者が条例等の法令の形式を選択せず,あえて要綱という方式を選択している以上,これを法令と同視するような解釈は取りえないというべきである。」 (大阪高判平成18年11月8日・平成18年(行コ)第54号。判例秘書L06120584)
次に、本記事が扱う論点にもっとも近い位置にあり、かつもっとも新しいものとして、東京地判令和8年1月29日(判例秘書L08130321。民事第43部の合議体)があります。この判決は、国の医療施設耐震化臨時特例交付金を原資とする都道府県の基金から交付された補助金について、適正化法2条4項の間接補助金等に当たること自体は当事者間に争いがなかった事案で、第一審が挙げたのと同じ条文を同じ順に並べたうえ、次のように述べました。
引用「補助金適正化法は,補助事業者等と間接補助事業者等との間の権利関係を直接規律するものではなく,間接補助事業者等に係る上記規制は,あくまでも国による補助事業者等への補助金の交付目的を達成するために設けられているものと解される。本件耐震化整備事業補助金が補助金適正化法に定める間接補助金等に該当するからといって,その交付が行政行為に当たるということはできない。」 (同判決)
この判決は、本記事の論点について正面から反対の判断をしたものですので、区別を示しておかなければなりません。第一に、同事件は普通地方公共団体の要綱補助の事案であり、同判決自身が「普通地方公共団体による補助金の交付には補助金適正化法の適用がない」と明言しています。機構法16条のような、法律による適正化法の全面準用規定は介在していません。第二に、当該要綱は都の事務執行上の内部的な定めであって、主務官庁の承認にかかるものではありません。第三に、同判決が適正化法との「重要な差異」として挙げたのは、国税滞納処分の例による徴収(21条)、不服申立て(25条)、罰則(第6章)が要綱にないことでした。事務局型の間接補助金については、罰則(29条1項・30条)は事業者に直接及びます。この点は同じではありません。第四に、同事件の請求は、消費税仕入控除税額相当額という実質的に不当利得の性質をもつ債権についてのものであり、交付決定の取消し・返還命令・加算金の場面ではありません。なお、同判決の上訴審の帰趨は確認できておりませんので、ここで確定した判断として扱うものではありません。
このほか、独立行政法人が法令に基づいて交付する助成金についても、処分性を否定した例があります。東京地判平成27年12月15日判時2302号29頁は、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく助成金について、「法、施行規則、本件告示は、本件助成金の支給手続に関して何らの具体的な定めも置いておらず、本件助成金の受給資格の認定は、専ら被告の定める本件支給要領によって規定された手続にすぎない」として処分性を否定しました(もっとも、同判決は後記7(2)のとおり確認の利益を肯定しています)。科学研究費補助金についての東京地判令和5年4月20日(判例秘書L07830977)も、振興会法17条1項が適正化法5条から7条までを準用の対象から除外していることを理由に、処分性を否定しています。
また、要綱・規則に基づく補助金等について処分性を否定したものとして、大阪地判平成29年1月26日判時2390号22頁及びその控訴審である大阪高判平成30年3月20日判時2390号3頁(判例秘書L07320143)、佐賀地判令和3年9月10日(判例秘書L07651020)、金沢地判令和4年3月29日(判例秘書L07750538)があります。
もっとも、処分性を否定した裁判例の中にも、当方の主張に通じる留保が置かれています。佐賀地判令和3年9月10日は、行政庁が自らの内部規則として定めた規則及び要綱は法令に含まれないとしつつ、「それが法律又は条例等の委任を受けたものでない限り」という留保を付しています。金沢地判令和4年3月29日は、処分性の判断は「当該給付の根拠となる個別の法令等の仕組みに着目して行うべきもの」としています。事務局型の交付規程は、適正化法の条文を移植し、財産処分の制限については同法7条3項の補助条件に由来し、交付要綱の体系に組み込まれ、主務官庁の協議にかかるものです。これらの留保に照らせば、同列には論じられないはずです。
他方、処分性を肯定した下級審もあります。大阪高判昭和54年7月30日行集30巻7号1352頁は、市長が制定した要綱に基づく助成金の支給申請について、行政事件訴訟法3条5項にいう「法令に基づく申請」に当たるとし、次のように判示しました。
引用「しかして、それらの点と前記同対法の要請に基づき実施される同和対策事業の帯有する公益性とに鑑みれば、右応答(支給・不支給の決定)は、もはや単なる給付の申込に対する承諾・不承諾の意思表示に止まらず、一個の公権的行為として、行政処分性をも具有するものと解すべきである。」 (大阪高判昭和54年7月30日行集30巻7号1352頁)
(9)小括
形勢を正確に申し上げます。この論点について処分性を肯定した裁判例は、取り消された福岡地判平成25年2月4日の一件です。これに対し、処分性を否定したものには、福岡高判平成25年9月26日のほか、要綱補助について大阪高判平成18年11月8日・大阪高判平成30年3月20日があり、間接補助金等に当たることを前提にしてなお処分性を否定した東京地判令和8年1月29日があります。文献も、小滝・前掲248〜249頁注(7)が福岡高判と同じ結論です。
それでも、当方は、法律の仕組み全体から見れば、第一審である福岡地判平成25年2月4日の判断の方に分があると考えております。立入検査と刑罰という強制力を伴う手段が末端の事業者に直接届いており、交付規程は適正化法6条1項・2項の審査・応答・標準処理期間を移植しているのに、入口の交付決定とその取消しだけが対等な当事者間の贈与契約であるという理解は、整合しないと考えるからです。そして、控訴審が挙げた四つの理由のうち、「不服申立手続が規定されていない」という理由には、前記(6)第一のとおり論証の循環があります。
いずれにせよ、確かなことは一つです。この問題について、最高裁判所の判断は見当たらず、地方裁判所と高等裁判所とで判断が分かれているということです。「控訴審で取り消されている」という指摘は、その事実を正確に述べたものではありますが、それによって論点が決着したことにはなりません。
6 公開資料から見た事務局・中央会・中小機構の運用について
以下は、公開されている交付規程・公募要領・手引き・政府答弁書に基づく指摘です。確認した限りでの記述であることをお含みください。
(1)事務局が交付主体となる補助金について
ア 不服申立ての教示が、制度として置かれていないこと
従来のものづくり補助金の交付規程・公募要領・補助事業の手引き・よくあるご質問の四文書を通じて、行政不服審査法の審査請求、不服申立て、教示に関する記述は見当たりませんでした。「不服」という語が出てくるのは、交付決定の内容や条件に不服がある場合の申請の取下げを定めた交付規程8条の一箇所のみです。IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)及び小規模事業者持続化補助金の交付規程も同様です。
他方、福岡地判平成25年2月4日は、出訴期間の判断において、事務局が行政事件訴訟法46条1項の教示を行っていないことを、同法14条1項ただし書の「正当な理由」を認める根拠としました(前記3(4))。
事務局は、自らの文書において「交付決定取消し」「返還命令」「加算金の納付命令」という語を用いています。ここで前提を一つ補っておきます。補助金等の交付に関する処分には、行政手続法第2章・第3章の規定が適用されません(適正化法24条の2)。そのため、国の直接補助金についても、聴聞や弁明の機会の付与はなく、理由の提示は適正化法21条の2が挙げる処分、すなわち交付決定の取消し、遂行命令・一時停止命令、是正措置命令に限られます。それでも、国の直接補助金については交付決定の取消しに理由の提示が義務づけられ、行政事件訴訟法46条が教示を求めています。争う経路を示さずに「命令」を発する運用は、これと比べて事業者の防御の機会を欠いていると考えております。
イ 局面ごとに根拠を入れ替えていること
交付規程(制定:令和7年2月25日/最終改訂:令和8年8月5日。全国中小企業団体中央会。URLは前掲)及び関係文書を局面ごとに並べると、次のようになります。
| 局面 | 事務局の文書が援用している根拠 | 出典(頁) |
|---|---|---|
| 適用法令 | 適正化法を筆頭に掲げる | 交付規程1条(1頁) |
| 申請・審査・応答・標準処理期間 | 適正化法6条1項・2項と同じ仕組み | 交付規程7条1項・2項(2頁) |
| 事業者の義務 | 適正化法11条2項 | 公募要領本文44頁 |
| 交付決定の取消し | 適正化法17条など | 補助事業の手引き本文27頁 |
| 刑罰 | 適正化法29条 | 補助事業の手引き本文27頁 |
| 加算金・延滞金の率 | 年利10.95パーセント(適正化法19条1項・2項と同率) | 交付規程19条3項、16条3項(4頁) |
| 立入検査 | 全国中央会・地域事務局に加え中小機構 | 交付規程18条1項・2項(4頁) |
| 財産処分の制限・残存簿価相当額の納付 | 適正化法22条と同じ仕組み | 交付規程20条3項、21条(4〜5頁) |
| 債権譲渡・相殺 | 民法467条、債権譲渡特例法4条2項 | 交付規程12条2項(3頁) |
| 不服申立て・理由の提示 | 記述なし(「不服」は申請の取下げのみ) | 交付規程8条(2頁) |
主な条文を挙げます。まず、交付規程1条は、適正化法を筆頭に掲げています。
引用「補助金(略)の交付については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「適正化法」という。)、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号。以下「施行令」という。)及びその他の法令の定めによるほか、この規程で定めるところによる。」 (同交付規程1条、1頁)
次に、取消事由を定めた規定は、適正化法11条1項の文言をそのまま移植しています。
引用「全国中央会は、次の各号の一に該当する場合には、交付決定の全部若しくは一部を取消しすることができる。(1)補助事業者が、法令、本規程又は法令若しくは本規程に基づく全国中央会の処分若しくは指示に違反した場合」 (同交付規程19条1項1号、4頁)
適正化法11条1項は、補助事業者等が「法令の定並びに補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件その他法令に基く各省各庁の長の処分に従い」補助事業等を行わなければならないと定めています。交付規程の「全国中央会の処分」という語は、この文言を写したものです。語の選択それ自体が処分性を生むわけではありませんが、仕組みの密度を示すものではあると考えております。
加算金の率も、適正化法と同じです。
引用「第1項第1号から第3号まで又は第6号の規定による取消しをした場合において、前項の返還を命ずる場合には、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとする。」 (同交付規程19条3項、4頁)
そして、事業者の義務の根拠、取消しの根拠、刑罰の根拠は、いずれも適正化法に置かれています。
引用「補助事業者は、「補助金等適正化法」第11 条第2項に従い、善良な管理者の注意をもって補助事業を行わなければなりません。」 (ものづくり補助金「公募要領(第23次公募)」2026年2月6日、本文44頁。https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/ippan/23th/公募要領_23次締切_20260206.pdf 、2026年10月23日閲覧。半角・空白は原文のまま)
引用見出し「7.不正、不当な行為に対する処分」 「監査等において、次のような不正、不当な行為が確認された事業者は、補助金交付決定の取消しや加算金を賦した上、補助金の返還を行っていただくことがあります。なお、不正があった場合は、補助金等適正化法に基づく罰則が適用されるとともに、当該企業を公表・告発することがありますので、補助事業の目的に沿い、適切に執行してください。」 「【補助金等適正化法第17条など】・補助金の他の用途への流用 ・補助金交付決定の内容又は補助金交付条件に対する違反 ・法令又は全国中央会及び事務局の処分に対する違反 ・定められた必要な事項の報告をせず又は虚偽の報告をしたもの」 「【補助金等適正化法第29条】・偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」 (ものづくり補助金「補助事業の手引き(23次締切)」1.0版・令和8年8月、本文27頁。URLは前掲、2026年10月23日閲覧)
事務局は、事業者を適正化法上の「間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者」として同法29条の適用対象に挙げています。ところが、不服申立てと理由の提示という局面になると、交付規程は私人が自ら定めたものにすぎないとされます。義務・取消し・刑罰・加算金の率・財産処分の制限・立入検査という局面では適正化法が事業者に及ぶ前提で運用し、債権譲渡の局面では民法467条を引き、不服申立てと理由の提示の局面では私人の文書にすぎないとする。同じ法律関係を、局面ごとに異なる性質に扱うものであって、この使い分けは一貫しておらず、改められるべきであると考えております。
ウ 取消しが形式上の不備にも広く及び、加算金が連動すること
引用「補助事業者は、前条第1項の規定に基づき補助金の返還を行う場合は、第27条第1項第九号に規定する事情により交付決定の取消しを受け、返還命令を受けた場合を除き、補助金受領の日から納付の日までの日数に応じ、返還すべき額につき年利10.95パーセント(略)加算金を(略)納付しなければならない。」 (「中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程 通常枠」令和8年(2026年)10月9日制定・同年11月2日施行、29条。https://it-shien.smrj.go.jp/pdf/it2026_kaitei_kitei_tsujyo.pdf 、2026年10月23日閲覧)
同交付規程27条1項1号が掲げる取消事由には、交付決定時に不備を訂正しなかった場合、期限までに正当な理由なく実績報告をしなかった場合、実績報告提出後に不備の訂正を完了しなかった場合、補助金の額の確定の際に事務局へ請求の意思を示さなかった場合が並んでいます。そして、29条が除外するのは9号(事情変更)のみです。すなわち、不備を訂正しなかった、請求の意思を示さなかったという事由でも、年利10.95パーセントの加算金が課される建て付けです。
比べて、適正化法19条1項の加算金は、同法17条1項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に係る返還に限られ、10条(事情変更)による返還には及びません。前掲ものづくり補助金交付規程19条3項が1号から3号まで及び6号に限定しているのは、これに近い形です。
補助金の使途に何ら問題のない、手続上の不備や期限の遅れについてまで、受領の日からの利息相当分と制裁的賦課金の性質を併せもつ年利10.95パーセント(前記5(6)第四)を課す建て付けは、見直されるべきであると考えております。
エ 交付要綱が公開を確認できないこと
事業者に適用される規範は、①中小機構の交付要綱(「中小企業生産性革命推進事業補助金交付要綱」令和2年1月20日規程令1第39号。名称は前掲政府答弁書、制定日・番号は前掲IT導入補助金交付規程1条により確認)、②事務局の交付規程、③公募要領、④補助事業の手引き、という階層をなしています。
このうち、②から④は公開されています。しかし、①交付要綱の本文は、中小機構・中小企業庁・各事務局のサイトで公開を確認できませんでした。取消しと返還の仕組みの上位にある規範が公開されていないため、事業者は、自らを縛る規範の全体を確認することができません。これは、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づく開示請求によって取得すべき対象になります。公開されるべきものであると考えております。
(2)中小機構が自ら交付する補助金についても、申し上げるべきことがあります
以下は、交付主体が中小機構となる類型についての指摘です。当サイトの整理では、この類型の交付決定及びその取消しには処分性があります(事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、理由付記の不備という瑕疵がある可能性が高いこと)。処分であることを前提とすべき類型について、次のような記載が置かれているのです。
ア 理由の開示と異議を、あらかじめ受け付けないとしていること
引用「なお、採択結果についての理由開示及び異議申し立ては一切受け付けておりません。」 (「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)」1.3版・令和8年9月、独立行政法人中小企業基盤整備機構、本文38頁。https://shinjigyou-monodukuri.smrj.go.jp/assets/documents/shinmono_application_guidelines_01.pdf 、2026年10月23日閲覧。同旨の記載が前掲ものづくり補助金「公募要領(第23次公募)」冒頭「重要事項」にもあります)
もっとも、採択(選定)は交付の申請の前の段階の手続であり、前記5(3)の最高裁判所判例解説が交付内定について「交付の申請……の前に行われる事実上の手続にすぎず、これを授益処分とみる余地はない」としているのと同じ位置にあります。その段階についての記載であることは、公正に申し上げておきます。他方、交付決定の取消し・返還の段階について理由の提示を約した記述は、確認した限り、前記の各文書のいずれにも見当たりませんでした。
イ 適用法令の列挙に適正化法が挙がっていないこと
前掲「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)」本文2頁の「(各種法令の適用)」欄は、独立行政法人中小企業基盤整備機構法等を挙げながら、適正化法を挙げていません。それにもかかわらず、同公募要領本文3頁は、刑罰については適正化法を援用しています。機構法16条により適正化法が罰則を含めて準用される類型であるのに、適用法令の欄から同法を落とすという扱いは、一貫しないものと考えております。
ウ 条文の引用が現行法と合っていないこと
前記の手引き本文27頁及び前掲新公募要領本文3頁は、適正化法29条の刑を「5年以下の懲役」としていますが、現行条文は「五年以下の拘禁刑」です。また、同公募要領本文3頁は「交付決定の取消を受けた者」が29条により処罰される可能性があると記載していますが、同条の構成要件は「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた」ことです。交付決定の取消しを受けたことが同条の構成要件に当たるわけではありません。事業者に刑罰の可能性を告げる記載としては、正確さを欠くものと考えております。
エ 事業ごとに「委託」と「補助」の表示が異なること
前掲「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)」本文36頁のスキーム図には、「基金設置法人(中小機構)」から「補助金事務局」へ向けて「委託」と記載されています。他方、前記1(2)の政府答弁書は、令和六年度補正予算において措置した中小企業生産性革命推進事業について「事務局業務の委託」は行っていないと明言し、令和3年5月の中小企業庁の資料も「補助・定額」と図示しています。別の事業についての資料ですので、同一事業の性格づけの不一致とまでは申しませんが、事務局の法的地位という基本的な点について、事業ごとに整理が異なる状態になっています。事務局が補助事業者であるのか受託者であるのかは、事業者が誰を相手にどの経路で争うかを決める出発点ですので、統一された説明が置かれるべきであると考えております。
オ 交付要綱が公開を確認できないこと
前記(1)エと同じことが、この類型にも当てはまります。
7 事業者がこの裁判例から主張できること
ここからは、一般化して申し上げます。
(1)取消訴訟で処分性を正面から主張する
前記5の筋道、すなわち、①処分性の判断枠組みは控訴審自身が述べるとおりであること、②機構法16条により適正化法が罰則を含めて準用されていること、③適正化法が間接補助事業者を義務(3条2項・11条2項)・立入検査(23条1項)・罰則(29条1項・30条)において直接規律していること、④交付規程が適正化法6条1項・2項の審査・応答・標準処理期間を移植しており、交付するか否か・額・取り消すか否かを事務局が一方的に決めていて、対等な当事者間の契約にみられる合意の要素がないこと、⑤交付規程が適正化法11条1項の文言をそのまま移植して運用されていること、を組み立てます。
他方で、適正化法5条・6条・17条・18条・21条・25条は、事務局と事業者との間の関係を直接定めたものではありません。ここを「当然の前提」として埋めるほかないことは、第一審判決の弱点でもあります。相手方はここを突いてきますので、交付規程・交付要綱・政府答弁書を使って、制度の仕組みとして組み上げる必要があります。
第一審判決の理由を引用する際には、その判決が控訴審において取り消されたことを明示したうえで、理由の部分を引くという作法を守るべきです。これを欠くと、相手方から「控訴審で取り消されている」と指摘されるだけで、主張の信用が損なわれます。
(2)予備的に、民事上の請求を併合しておく
処分性で却下されて終わることを避けるため、訴えの変更で後から足すのではなく、最初の訴状で、主位的請求(交付決定取消処分の取消し)と予備的請求(返還債務の不存在確認)の双方を立てることを検討すべきです。併合の根拠は行政事件訴訟法13条6号・16条1項です。訴額の扱いは、主位的請求に返還命令の取消しを含めるかどうかで変わりますので、印紙額は事案ごとに確認することになります。
予備的請求については、どの性質決定に転んでも却下されない構えにしておく必要があります。この構えには、文献の裏づけがあります。
引用「したがって,処分性に疑義のある行政庁の行為(特に取消訴訟等の教示がされなかったもの)や,被告から処分性を欠く旨の主張がされた行為については,取消訴訟等による救済にこだわるのではなく,並行して民事訴訟又は当事者訴訟(公法上の法律関係の確認の訴え等)を提起することも選択肢として考えておく必要があろう。実際にも,処分性がないとして取消訴訟は却下される一方で,併合提起された公法上の法律関係の確認の訴えにつき,確認の利益が認められ本案判断に至る例は少なくない。」 (西川編著・前掲24頁参照)
引用「要綱等に基づく補助金につき不交付決定がされた場合,どのような形でその不交付決定の違法性を争うことができるかについては議論があるが,私見としては,補助金の交付を受けられる地位にあることの確認など,確認の訴えを利用するのが適切であると考えている」 (同書27頁注38参照)
実際に、処分性を否定しつつ確認の利益を肯定した裁判例があります。独立行政法人が交付する助成金について、東京地判平成27年12月15日判時2302号29頁は、受給資格の不認定決定の処分性を否定したうえで、「原告は、被告から、本件各不認定決定を受けて、本件各申請に係る本件助成金の受給資格を否定されたことにより、原告の法律上の地位に危険又は不安が生じており、原告がこれを除去するためには、原告が本件各申請に係る本件助成金の受給資格の認定がされるべき事業主であることを確認することが有効かつ適切な手段であるということができる」として、確認の利益を認めました。要綱補助についても、大阪地判平成29年1月26日判時2390号22頁が確認の利益を肯定し、その控訴審である大阪高判平成30年3月20日判時2390号3頁がこれを維持しています(詳しくは補助金の交付決定や取消しが「処分ではない」と言われたら、裁判で争う方法はないのか)。
なお、返還債務の不存在確認を求める場合の確認の利益は、期限を付した返還を命じられ、期限の経過後は年利10.95パーセントの延滞金を請求される地位にあることに求められます。
(3)出訴期間に注意する
ここが実務上、とりわけ危ないところです。取消訴訟には、処分があったことを知った日から6か月という出訴期間があります(行政事件訴訟法14条1項)。「これは処分ではない」と言われて民事で争っているうちに6か月が過ぎると、後から処分性を主張しても、出訴期間で切られることになります。 最初から二階建てで構える実務上の理由は、ここにあります。
教示がされていない場合の救済の余地については、福岡地判平成25年2月4日が、行政事件訴訟法46条1項の教示を欠いたことを同法14条1項ただし書の「正当な理由」と認めています(前記3(4))。ただし、この理屈は、処分性が肯定されて初めて意味を持つものである点に注意が必要です。出訴期間については、交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのかもご覧ください。
(4)被告適格は、処分性が認められれば問題になりません
処分性が認められれば、事務局が民間の団体であることは、取消訴訟の障害になりません。国又は公共団体に属しない行政庁を被告とすべき場合があることは、行政事件訴訟法11条2項から明らかであり、福岡地判平成25年2月4日もこれを明言しています(前記3(3))。もっとも、「法律による権限の授与がない」という相手方の主張は、被告適格ではなく処分性の問題として立ちはだかります。なお、控訴審は、被告適格について判断していません(前記4(4)第三)。
(5)通知を受けた段階ですべきこと
取消しや返還の通知を受けた段階では、通知書の主語、引用されている根拠条項、教示の有無、返還の期限と加算金・延滞金の記載を確認することになります。関連する論点は、交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか、交付規程に違反したと言われたら――交付規程を守ることは「補助条件」なのか、補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのかで扱っております。
8 まとめ
従来のものづくり補助金のように、国から中小機構を経由し、中央会等の事務局から事業者に交付される補助金の交付決定の取消し・返還請求について、取消訴訟で争えるかどうかは、決着のついた問題ではありません。
福岡地判平成25年2月4日は、裁判長裁判官及び裁判官2名の合議体で、適正化法が間接補助事業者を直接規律していること等を理由に、間接補助金の不交付決定に処分性があると判断しました。その控訴審である福岡高判平成25年9月26日は、附帯控訴に基づき原判決を取り消し、訴えを却下しました。そして、この点について最高裁判所が判断を示したものは見当たりません。地方裁判所と高等裁判所とで判断が分かれたというにとどまります。
控訴審が挙げた理由のうち、「交付規程に不服申立手続が規定されていない」という点には、論証の循環があると考えております。国が直接交付する補助金については、民間の事業者にも行政不服審査法2条の審査請求の道があり、同法82条1項の教示義務もあります。それが事務局型で途絶えるのは、事務局を私人と見ることの結果であって、原因ではありません。また、「贈与契約だから処分ではない」という論法も、国の交付決定ですら実質は負担付贈与契約でありながら、法が行政処分という行為形式で構成したからこそ処分として扱われている、という区別を取り違えているものと考えております。近年の最高裁判所は、具体的な支給要件の定めも不服申立ての定めも法律に置かれていない給付について、制度の仕組み全体から処分性を肯定してきました。控訴審の10年後には、法律が適正化法を準用する助成金の不交付決定について、最高裁判所が行政処分であることを前提に本案の審理をしています。
もとより、当方に不利な文献も、処分性を否定した裁判例もあります。処分性を肯定した裁判例は、取り消された地方裁判所の判決一件です。適正化法には、事務局と事業者との間の交付・取消しの手続を定めた規定がありません。この問題が難しいことは、裁判官の判断が分かれていること自体が示しています。そうであるからこそ、「控訴審で取り消されている」という一言で終わらせるべきではないのです。
そして、事務局及び中小機構の現在の運用については、申し上げるべきことがあります。義務・取消し・刑罰・加算金の率・財産処分の制限・立入検査という局面では適正化法が及ぶ前提で運用し、債権譲渡の局面では民法を引き、不服申立てと理由の提示という局面では交付規程は私人が定めたものにすぎないとする。同じ法律関係を局面ごとに異なる性質に扱うこの使い分けは、一貫しておらず、改められるべきであると考えております。取消しと返還の仕組みの上位にある交付要綱が公開を確認できないという状態も、同様です。
当方は、同種の論点について訴訟を追行中です。判断が示されましたら、一般化できる範囲で本記事を補訂いたします。
交付決定の取消しや補助金の返還、加算金の支払を求められてお困りの事業者の方は、通知書と交付規程をお手元にご用意のうえ、ご相談ください。通知を受けた日から6か月という出訴期間との関係がありますので、早めにご検討ください。取消訴訟で処分性を主張するか、民事上の債務不存在確認で争うか、その双方を併合するかは、通知書の主語と根拠条項、教示の有無を確認したうえで判断すべき事柄です。
顧問先・支援先から「事務局から返還を求められた」というご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士・認定支援機関の先生方には、士業の先生方との連携のページをご用意しております。この論点は、事業者ご自身で読み解くことが難しいところです。先生方が日頃の支援の中で把握されている事業の実態と、法律構成の組立てとを分担して進めるのが、実際のところ早道であると考えております。
※ 本稿は、執筆時点の法令・文献・裁判例に基づく一般的な整理であり、私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。