執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金をめぐる紛争で、行政の側からもっともよく返ってくる答えが「それは処分ではありません」です。処分ではないから審査請求はできない。処分ではないから理由を示す必要もない。処分ではないから取消訴訟も起こせない。――この三つが重なると、事業者の側には何も残らないように見えます。
しかし、処分でないことは、争えないことと同じではありません。行政事件訴訟法4条は、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を当事者訴訟として正面から認めています。処分がないのなら、処分を取り消してもらう訴え(抗告訴訟)は使えない。その代わりに、自分が補助金の交付を受けられる地位にあることを確認してもらう訴えがある、という道筋です。
本稿で取り上げる大阪高判平成30年3月20日(判時2390号3頁)は、この道筋を実際に通したものです。掲載誌の判示事項は、要綱に基づいて交付される補助金の不交付決定は「いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない」とした一方で、交付対象要件を充足すると主張して「これら要綱に基づく補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求める訴えは,補助金交付の要否をめぐる問題を解決するための適切な手段であるから,確認の利益を肯定することができる」と整理しています。処分性を否定した同じ判決が、確認訴訟の入口は開けたのです。
その第一審である大阪地判平成29年1月26日(判時2390号22頁)は、確認の利益を認めた理由を具体的に書いています。要綱は行政の内部手続を定めたものにすぎないから、要件を満たしても当然に給付請求権が生じるわけではない。だから給付訴訟(お金を払えという訴え)を起こしても、紛争の実効的解決は期待できない。他方で、行政は自分で定めた要綱に従って事務を進めなければならず、これに反する事務運営は許されない。そこから、申請者には「要綱に沿った事務運営の対象とされること」についての一定の利益がある、という組み立てです。
もっとも、この事件で確認請求は、入口を通ったうえで本案では棄却されています。確認の利益が認められたことと、勝ったことは別です。また、処分性を否定した部分は、その補助金の根拠法令の仕組み次第で結論が変わり得る性質のもので、「自治体や事務局の補助金はすべて処分ではない」と読むべきものではありません。本稿では、どこまでが判決の言葉で、どこからが当職の整理なのかを分けて示します。そのうえで、要綱や交付規程に基づく補助金――事務局が窓口となる国の補助金や、自治体の補助金――で「処分ではない」と言われたときに、どう組み立てるのかを整理します。
1 「処分ではない」と言われたときに、何が残るのか
(1)抗告訴訟は、処分がなければ使えない
はじめに、条文を確かめます。
引用(行政事件訴訟法3条2項)「この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。」
取消訴訟は、「処分」を取り消してもらう訴えです。したがって、争おうとしている行為が処分でなければ、取消訴訟の入口に立てません。同じことは、処分をすべき旨を命じることを求める義務付けの訴え(同法3条6項)にも当てはまります。
補助金の交付決定の取消しのように、適正化法に根拠を持つ行為であれば、処分であることは問題になりにくい類型です。この点は補助金の交付決定の取消しに処分性はあるのかと補助金と処分性をめぐる対談で扱っています。問題になるのは、交付申請を認めない決定(不交付決定)や、法律ではなく要綱・交付規程に基づいて行われる決定です。
(2)行政事件訴訟法4条の当事者訴訟
処分がなければ何も残らないわけではありません。
引用(行政事件訴訟法4条)「この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。」
後半部分――「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」――が、いわゆる実質的当事者訴訟です。処分の存否を問わず、公法上の法律関係そのものについて、裁判所の判断を求める訴えの形です。
補助金の法律関係をどう理解するかについては、古くから見解が分かれています。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)96頁は、公法契約説を紹介するなかで、交付決定の取消しは公法上の契約の解除、返還命令は公法上の原状回復請求権の行使と解されることになり、「これらについて争いがある場合には、公法上の当事者訴訟の提起により争訟を解決すべきものとされる」と整理しています。処分と見るか契約と見るかで、争い方の入口が変わる、ということです。
本稿の裁判例は、この分かれ目に正面から答えたものではありません。処分ではない(=抗告訴訟は使えない)と判断したうえで、確認訴訟という出口を認めた、という形です。
2 事案――要綱に基づく補助金の不交付
事案は、外国人を対象とする各種学校を設置運営する準学校法人が、府と市のそれぞれの補助金について交付申請をしたところ、いずれも不交付とされたというものです。府は交付要綱を改正して交付対象要件を加え、原告がその一つを充足しないことを理由に不交付とし、市は、府の補助金の交付を受けることが見込まれることを交付対象要件に加える改正をして、原告がこれを充足しないことを理由に不交付としました。
原告は、①不交付の取消しと交付決定の義務付け、②申込みに対する承諾の意思表示、③補助金の交付を受けられる地位にあることの確認、④国家賠償を、順位を付けて求めました。本稿が扱うのは、①の入口(処分性)と③の入口(確認の利益)です。
この事件には、憲法・国際人権法・教育関係法規をめぐる争点が多数含まれていますが、本稿ではそれらを扱いません。補助金の支給をめぐる争い方という、どの補助金にも共通する部分だけを取り出します。
重要なのは、この補助金の仕組みが、今の補助金の多くと同じ形をしているということです。根拠は、地方自治法232条の2と、関係法律が「必要な助成をすることができる」と定める規定にとどまり、具体的な交付の要件・手続は、行政が自ら定めた交付規則と交付要綱に書かれている。――国の補助金でも、事務局が窓口となり、交付規程と公募要領が実際の規律を担っている類型は、構造として近いものがあります。
3 大阪地判平成29年1月26日――要綱に基づく補助金の不交付は処分ではない
(1)原則と例外の立て方
第一審は、まず処分の定義を確認し(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁を参照)、次のように原則と例外を立てました。本稿で、いちばん使い道のある部分です。
引用(大阪地判平成29年1月26日・第3の2(2)ア)「地方公共団体が私人に対して補助金を交付する関係は,地方公共団体が,その優越的地位に基づき公権力を発動して私人の権利自由を制限し又はこれに義務を課するものではなく,本来,資金の給付を求める私人の申込みに対する承諾という性質を有する非権力的な給付行政に属するものであるから,その関係においては,原則として,行政処分は存在しないものというべきである。もっとも,法令等が,一定の政策目的のために,特に一定の者に補助金の交付を受ける権利を与えるとともに,補助金の交付手続により行政庁に当該者の権利の存否を判断させることとした場合や,法令等が補助金の交付手続を定める中で行政庁による不交付決定に対して不服申立手続を設けているような場合などには,例外的に補助金の交付決定に処分性が認められるものと解される。」
ここで示された例外は、二つです。第一に、法令等が特に一定の者に補助金の交付を受ける権利を与え、かつ、交付手続により行政庁にその権利の存否を判断させることとした場合。第二に、法令等が交付手続を定めるなかで、不交付決定に対する不服申立手続を設けている場合。
(2)当てはめ
第一審は、この基準を当てはめ、①地方自治法232条の2には「公益上の必要がある場合」という要件のほか要件・効果の定めがなく、一定の者に交付を受けられる地位を与える趣旨を含むものとは解されない、②関係法律の規定も、助成をすることができると定めるにとどまり、どのような事業にどの程度の補助金を支出するのかという具体的な要件・効果の規定が見当たらない、③交付請求権・申請権を認める規定も、不交付決定に対する不服申立手続の規定もない、④交付規則は法律の委任によらず、条例の形式でもなく、不服申立てについての規定もない、として、交付規則と要綱は「内部の事務手続を定める趣旨を超えて,対象者に当該補助金の交付を受けることのできる法的権利を認める趣旨を含むものとは解されない」と判断しました。
その結果、不交付は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらず、抗告訴訟の対象となる処分に該当しない、とされています。そして、不交付と「表裏ともいうべき関係にある」交付決定についても同様であるとして、義務付けの訴えも不適法とされました。
(3)控訴審が付け加えた部分――取消し・返還・立入検査の規定があっても足りない
控訴審は、第一審の判断を引用したうえで、交付規則や要綱に権力的な規定があるという主張に答える形で、次の判断を加えています。
引用(大阪高判平成30年3月20日・第3の1(2))「大阪府交付規則には,知事は,補助金の交付の目的を達成するために補助金交付決定に必要な条件を付するものとし(6条2項),……上記規則には,知事は,補助金交付決定の内容やこれに付された条件に従って補助事業を遂行すべきこと(11条),条件に適合させる措置をとるべきこと(14条),補助金交付決定を取り消した場合(15条)には既交付の補助金の返還を命ずることとされている(16条)……。しかし,これらの規定は,補助金に係る予算の執行の適正化を図ることを目的とする補助金交付決定の附款であって(大阪府交付規則1条),上記各規定の存在をもって,本件大阪府不交付が,一方的に行う公権力の行使によって補助事業者……の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではない。」
市についても同じ判断がされており、立入検査の規定や、交付決定の全部又は一部を取り消すことができる旨の規定について、「補助金に係る予算の執行や補助金等の交付の適正化を図ることを目的とする事務執行上の手続細則ないし補助金交付決定の附款であって」、これらの規定の存在をもって処分性を認めることはできないとしています。
ここは正確に読む必要があります。交付規程に「取消し」「返還」「立入検査」と書いてあることは、それだけでは処分性の決め手にならない、というのが控訴審の立場です。言い換えれば、処分性の判断は、行政が自分で作った文書に何が書かれているかではなく、法令がその行為にどのような地位を与えているかで決まる、ということです。
(4)この部分の読み方――例外に当たる場合もある
この判決を「要綱の補助金はすべて処分ではない」と読むのは誤りです。 前記(1)の説示は、原則と例外を立てたものであり、例外に当たるかどうかは、その補助金の根拠法令の仕組みを調べて初めて決まります。
具体的には、補助金適正化法の適用がある国の補助金であれば、交付決定の取消し(17条)、返還命令(18条)、加算金・延滞金(19条)、強制徴収(21条)といった仕組みが法律に置かれており、同法24条の2が行政手続法の一部を適用除外としていること自体が、これらを処分として扱う前提に立つものです。この構造は、要綱だけに支えられた補助金とは違います。補助金の納付命令とは何かや加算金・延滞金はどうなるのかも、この前提で書いています。
したがって、実務では「処分ではない」と言われたときに、相手の言い分をそのまま受け取らず、根拠法令にさかのぼって、交付を受ける権利を与える規定があるか、不服申立ての規定があるか、処分としての扱いを前提とする規定があるかを調べることになります。
4 確認の利益――「紛争を解決するための適切な手段である」
ここが、本稿の中心です。
(1)給付訴訟では解決にならない
第一審は、処分性を否定した結果として、具体的な給付請求権は申込み(申請)と承諾(交付決定)による贈与契約を原因として発生するものと解さざるを得ず、承諾がない本件では給付請求権も発生していないことになる、と整理しました。要綱の交付対象要件を満たしても、実体上直ちに承諾義務が発生するとは解されないとも述べています。
そうすると、お金を払えという給付訴訟はどうか。市はまさにそれを主張しました。第一審の答えは、次のとおりです。
引用(大阪地判平成29年1月26日・第3の4(2))「しかし,上記のとおり,本件A市補助金は,A市要綱に基づいて交付されるところ,A市要綱は被告A市における内部の事務手続を定めたものにすぎず,申請者と被告A市との間での権利義務を規律するものとはいえない以上,被告A市による交付決定(申請という申込みに対してされる承諾)がされていない段階において,原告が上記給付訴訟を提起したとしても,これにより紛争の実効的解決を期待することはおよそできないというべきであるから,被告A市の主張を採用することはできない。」
※ 引用中の「A市」等は、判決全文の表記のままです(公刊物では当事者名が匿名化されています。以下の引用も同じです)。
交付決定がない段階では給付請求権がない。だから給付訴訟は実効的な解決にならない。――処分性を否定した理屈が、そのまま給付訴訟も封じることになる、という筋道です。
(2)要綱に拘束されるからこそ、申請者に利益がある
では、何も残らないのか。第一審は、ここで向きを変えます。
引用(大阪地判平成29年1月26日・第3の4(1))「本件A市補助金の交付のような行為は,契約(贈与契約)という形式で行われるものであるとしても,教育の振興という行政目的を実現するために行われるものであって公益的性格を有していることは明らかであるし,被告A市は,本件A市補助金の交付事業を行うに当たっての基準としてA市要綱を定めている以上,内部の事務手続としてはこれに従って進めなければならず,これに反する事務運営は許されない。そうであるとすると,被告A市による本件A市補助金の交付は,契約として契約自由の原則に服するものの,純然たる私法上の契約とは異なり,被告A市は,被告A市の内部における事務運営が上記の行政目的及びA市要綱の定めに沿ったものとされる点において制限を受けるということができ,これを申請者である原告の側からみると,被告A市において,本件A市補助金の交付対象としてA市要綱に沿った事務運営の対象とされることについて,一定の利益を有しているものと解することができる。」
組み立てを分けて読みます。
第一に、要綱に基づく補助金の交付は、形式は契約であっても、行政目的を実現するために行われるもので、公益的性格を有する。
第二に、行政は、自分が定めた要綱に従って事務を進めなければならず、「これに反する事務運営は許されない」。
第三に、だから、この補助金の交付は「純然たる私法上の契約とは異なり」、行政は内部の事務運営において制限を受ける。
第四に、これを申請者の側から見ると、「要綱に沿った事務運営の対象とされること」について、一定の利益がある。
ここが肝心なところです。 行政の側は、「要綱は内部の基準にすぎない」ことを、処分性を否定する理由として使います。しかし同じ性質が、裏返って、申請者の利益の根拠になっています。内部の基準にすぎないのなら、行政はそれに従わなければならない。従わない事務運営は許されない。それは申請者の利益である。――「内部基準にすぎない」という言葉を、行政の免責の方向にだけ使わせないための足場が、ここにあります。
(3)確認の利益を肯定した正文
そして結論です。
引用(大阪地判平成29年1月26日・第3の4(1))「そして,申請者においては,上記利益を有することを背景に,本件A市補助金の交付を受けられる地位にあること,すなわち本件A市補助金の交付対象要件を充足することの確認訴訟を提起し,本件A市補助金の交付の可否について裁判所の公権的判断を求めることは,補助金交付の要否をめぐる問題を解決するための適切な手段であるということができる一方で,他に必ずしも適切な解決手段があるといい難いことに照らせば,本件A市確認請求について確認の利益を肯定することができる。」
確認の対象は、「補助金の交付を受けられる地位にあること」、すなわち「交付対象要件を充足すること」です。訴訟物の立て方として、そのまま使える形で書かれています。
なお、第一審は、府に対する確認請求についても、府が確認の利益について何ら主張していないとしつつ、「上記と同様に,原告の本件A府確認請求についても,確認の利益を肯定することができる。」と述べています。相手方が争っていない場合でも、裁判所が職権で検討する訴訟要件であることの現れです。
(4)控訴審がこれを維持したこと
控訴審は、第一審の判断を引用する形でこれを維持しました。掲載誌の判示事項は、次のように整理しています。
引用(大阪高判平成30年3月20日・判示事項2)「各種学校を設置する準学校法人である控訴人が前記1の各要綱の交付対象要件を充足すると主張して,これら要綱に基づく補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求める訴えは,補助金交付の要否をめぐる問題を解決するための適切な手段であるから,確認の利益を肯定することができる。」
同じ判決の判示事項1が、不交付決定は「いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない」とするものです。一つの判決のなかに、抗告訴訟の入口を閉じた判断と、確認訴訟の入口を開けた判断が並んでいます。この並びが、本稿でお伝えしたい点です。
5 取消訴訟と確認訴訟を一緒に出しておけるか
実務では、処分性があるかどうかが、訴えを起こす時点では分からないことがあります。そこで、取消訴訟を出しておいて、処分性が否定されたときのために確認訴訟も併せて出しておく、という組み立てを考えます。ところが、取消訴訟に他の請求を追加的に併合する行政事件訴訟法19条は、基本となる取消訴訟が適法であることを前提としています。取消訴訟が不適法なら、併合した請求も却下されてしまうのではないか、という問題です。
第一審は、この点について次のように述べました。
引用(大阪地判平成29年1月26日・第3の1)「原告は,本件各取消等請求に係る訴訟に行政事件訴訟法19条の追加的併合によりその余の請求に係る訴えを提起しているところ,追加的併合が認められるためには,基本となる取消訴訟が適法であることが必要である。しかしながら,基本となる取消訴訟の適法性の有無が争点として終局判決で判断されるような場合には,併合審理した上,仮に基本となる取消訴訟を不適法却下する際は,併合事件について弁論の併合がされたものとして,実体判断することができると解すべきで,これを不適法却下するのは相当ではない。」
処分性が争われていて、終局判決でその判断がされるような場合には、取消訴訟が却下されても、併合された請求は弁論の併合がされたものとして実体判断ができる。――実際に、この事件では、取消しと義務付けの訴えは却下されながら、承諾請求・確認請求・国家賠償請求は本案で判断されています。
この一段は、見落とされやすいところです。 処分性に自信が持てないときに、取消訴訟だけで出して期間を使い切ってしまうのではなく、取消訴訟と、予備的に確認訴訟を組み合わせておく。その組み合わせが現に機能した例として、この判決は使えます。取消訴訟の側には出訴期間があり、こちらは別に注意が必要です(補助金の処分の出訴期間は何か月か)。
6 この裁判例はどこまで使えるか――射程と限界
正直に書いておかなければならない部分です。
(1)確認の利益が認められたことと、勝ったことは別
この事件で、確認請求は本案で棄却されています。控訴審の主文は控訴棄却であり、「本件各取消等請求に係る部分は不適法であるからいずれも却下し,控訴人のその余の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである」とされています。要綱の改正や交付対象要件の適用について、裁量の逸脱・濫用はないと判断されたためです。
したがって、この裁判例から引けるのは、確認訴訟という入口が開いていることまでです。「この判決が補助金の支給を命じた」という引き方はできません。
(2)処分性の判断は、その補助金の仕組み次第
前記3(4)のとおり、処分性を否定した部分は、原則と例外を立てたうえでの当てはめです。別の補助金について同じ結論になるとは限りません。特に、補助金適正化法の適用がある国の補助金について、この判決を根拠に「処分ではない」と主張されたとすれば、それは当てはめを飛ばした議論です。
(3)上告審は確認していません
上告審の裁判は、当職が確認できる範囲の公刊物・データベースには収録されていません。この点は未確認です。下級審の判決を使うときに、上訴審で覆っていないかを確かめるのは当然のことですので、ここは正直に申し添えます。
(4)確認の対象の立て方には、なお検討の余地があります
第一審が認めた確認の対象は、「交付を受けられる地位にあること」=「交付対象要件を充足すること」です。もっとも、要件を充足しても給付請求権は生じないという前提と、要件充足の確認が紛争を解決するという結論の関係は、理屈として一直線ではありません。第一審は、要綱に沿った事務運営の対象とされることについての「一定の利益」を媒介にして、この距離を埋めています。別の補助金で同じ訴えを立てるときは、その補助金について同じ媒介が成り立つかを検討することになります。この先は、当職の見解を含む部分です。
7 「審査結果の内容についての問い合わせには応じかねます」という運用について
ここからは、制度の運用について正面から述べます。
(1)行政の側の言い分
この事件で、府は、原告の行政手続条例違反の主張に対して、次のように述べています。
引用(大阪高判平成30年3月20日・第2の3(3)イ)「本件大阪府不交付は行政処分ではないから,大阪府行政手続条例は適用されない。」
市も同様に、「本件大阪市不交付は,行政処分ではないから大阪市行政手続条例の適用はない。」と述べています。
原告が主張していたのは、審査基準を具体的に定めて公にすべきこと(条例5条)と、申請を拒否する処分には理由を示すべきこと(条例8条)でした。処分ではないという一言で、審査基準の公表義務も、理由を示す義務も、まとめて外れることになります。
(2)国の補助金の公募要領に書かれていること
同じ構えは、国の補助金の運用にも現れています。小規模事業者持続化補助金<一般型>第15回公募の公募要領(商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金事務局、第12版・2024年2月9日)26頁「7.採択審査」には、次の記載があります。
公募要領のURL https://s23.jizokukahojokin.info/doc/s23_koubo15_12.pdf
引用(同公募要領26頁「7.採択審査(1)採択審査方法」)「採択審査は非公開で提出資料により行います。提案内容に関するヒアリングは実施しませんので、不備のないよう十分ご注意ください。」
引用(同公募要領26頁「7.採択審査(2)結果の通知」)「※採択審査結果の内容についての問い合わせには応じかねます。」
審査は非公開で、書面だけで行われ、途中で話を聞く機会はない。結果が出ても、その内容については問い合わせに応じない。――そして、処分ではないという立場に立つ限り、理由を示す義務もなく、審査請求もできないことになります。
(3)この重なりについて
審査は非公開、ヒアリングはなし、結果の内容は問い合わせ不可、理由の提示は不要、不服申立ては不可。これらが重なると、公金の配分を受けられなかった事業者には、何が起きたのかを知る手がかりが残りません。この運用は、行政の判断が外から検証されない領域を作り出すものであり、適切ではないと言わざるを得ません。
事務の負担を理由とすることはできないと考えます。採否の理由を一行示すことと、不正を防ぐために提出資料をすべて検証することを比べれば、どちらが重い作業かは明らかです。審査の公正を理由とすることもできません。公正であることは、公正に見えることによって確かめられるのであって、見えないことによって守られるものではありません。
そして、ここで本稿の裁判例が効いてきます。処分ではないという整理は、行政の側が理由の提示や不服申立てを免れるためだけに働くものではありません。大阪地判平成29年1月26日が述べたとおり、行政は自ら定めた要綱に従って事務を進めなければならず、「これに反する事務運営は許されない」。申請者には、要綱に沿った事務運営の対象とされることについての利益がある。そうであれば、「処分ではないから争えない」ではなく、「処分ではないからこそ、当事者訴訟で争う」ということになります。確認訴訟の手続のなかでは、行政は、要綱の定めにどのように当てはめたのかを、裁判所に対して説明しなければなりません。問い合わせに応じないという運用は、訴訟の場では通りません。
8 では、どう組み立てるのか
ここからは、前記の判決を踏まえた当職の整理です。
(1)まず、根拠法令の仕組みを調べる
出発点は、その補助金が何に支えられているかです。法律に、交付を受ける権利を与える規定があるか。交付の要件・効果が法律に書かれているか。不交付決定や取消しに対する不服申立ての規定があるか。交付決定通知書に不服申立ての教示が付いているか。補助金適正化法の適用があるか(国の補助金で、交付規程が同法に基づくことを明記している類型は多くあります)。
前記3(1)の例外に当たるのであれば、処分として、審査請求や取消訴訟で争うことになります。交付規程違反と補助条件違反の関係は交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで、取消しの裁量は補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのかで扱っています。
(2)処分といえる可能性があるなら、期間を優先する
処分性に疑いがあるときほど、期間の管理が先に来ます。取消訴訟には出訴期間があり、審査請求にも期間があります。処分性がないと後で判断されても、確認訴訟に期間の制約はありません。逆は取り返しがつきません。したがって、まず期間内に取消訴訟(必要なら審査請求)を出し、そのうえで、前記5の判断を踏まえて確認訴訟を併せておく、という順序になります。
(3)確認の対象は「交付を受けられる地位にあること」
確認訴訟を立てるときの訴訟物は、前記4(3)の正文にならい、「交付対象要件を充足すること」=「補助金の交付を受けられる地位にあること」の確認という形が、もっとも素直です。
交付決定の取消しや返還命令の局面であれば、確認の対象は変わります。たとえば、返還債務が存在しないことの確認です。処分性を争点にしたくない、あるいは処分性が認められない見込みが強いという場合に、債務の不存在を確認する訴えを公法上の当事者訴訟として立てる組み立ては、検討に値します。返還請求の時効(補助金の返還請求に時効はあるのか)や、返還額の計算(補助金の返還額はどう計算するのか)とも関わります。
(4)確認の利益を支える事実を集める
確認の利益は、「他に適切な解決手段があるといい難い」ことに支えられています。そこで、次のことを記録で示せるようにしておきます。交付決定(承諾)がされていないこと。交付規程・要綱・公募要領に不服申立ての定めがないこと。問い合わせに対して理由の説明が得られなかったこと。行政側が、処分ではないという立場を取っていること。――相手方が「処分ではない」と書いた文書は、確認訴訟の側では、こちらを助ける資料になります。捨てずに残してください。
(5)国家賠償を併せることの意味
この事件では、国家賠償請求も併合されています。確認訴訟は、補助金そのものを取り戻す手段としては間接的です。他方、不交付や取消しが違法であることを前提に、補助金相当額や遅延による損害を請求する国家賠償は、金銭の回復に直結します。処分性が否定される類型では、確認訴訟と国家賠償を組み合わせる形が、実際の解決に近づく場合があります。
(6)記録に残しておくこと
交付申請の内容と提出日。交付規程・公募要領のその時点の版(版が改定されることは公募要領自身が明記しています)。事務局とのやり取り(照会・回答・電話の記録)。不交付や取消しの通知書の全文と、理由として書かれた文言。要綱・交付規程のどの条項に当てはめたとされているか。――処分性があるにせよないにせよ、争点になるのはこの資料です。通知が届く前にしておくべきことは取消しの通知が届く前にしておくべきことに、取消しと返還請求の全体像は補助金の交付決定の取消し・返還請求にまとめています。
9 まとめ
行政事件訴訟法4条は、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を当事者訴訟として認めています。処分がないことは、争えないことと同じではありません。
大阪地判平成29年1月26日は、要綱に基づく自治体の補助金について、交付関係は「非権力的な給付行政」であり「原則として,行政処分は存在しない」としつつ、法令等が交付を受ける権利を与えた場合や、不交付決定に対する不服申立手続を設けている場合などには「例外的に補助金の交付決定に処分性が認められる」としました。そして、その補助金については例外に当たらないとして、不交付の処分性を否定しました。控訴審も、交付規程に取消し・返還・立入検査の規定があることをもって処分性を認めることはできないとしています。
同じ第一審が、他方で、確認の利益を認めました。要綱は内部の事務手続にすぎないが、だからこそ行政はこれに従わなければならず、「これに反する事務運営は許されない」。申請者には、要綱に沿った事務運営の対象とされることについての一定の利益がある。そこから、「補助金の交付を受けられる地位にあること,すなわち……交付対象要件を充足することの確認訴訟を提起し,……裁判所の公権的判断を求めることは,補助金交付の要否をめぐる問題を解決するための適切な手段である」としたのです。控訴審もこれを維持しました。
あわせて、第一審は、処分性が争点として終局判決で判断されるような場合には、取消訴訟を不適法却下するときも、併合された請求は弁論の併合がされたものとして実体判断ができると述べています。処分性に確信が持てない段階で、取消訴訟と確認訴訟を組み合わせて出しておく組み立てを、現に機能した形で示した判断です。
いずれも、確認の利益という入口についての判断であり、本案では請求が棄却されています。処分性の判断も、その補助金の仕組み次第で変わり得ます。上告審の裁判は確認できていません。それでも、「処分ではない」という答えが返ってきたときに、次に何を考えるのかを示した裁判例として読むことができます。
審査は非公開、結果の内容については問い合わせに応じない、処分ではないから理由の提示も不服申立てもない。この重なりは、適切ではないと言わざるを得ません。そして、この重なりを破る手がかりが、行政事件訴訟法4条にあります。
ご相談をお考えの事業者の方へ
「それは処分ではありませんので、不服の申立てはできません」と言われた段階で、終わりだと判断してしまう前に、確かめていただきたいことがあります。その補助金の根拠法令に、交付を受ける権利や不服申立ての定めがあるか。通知書に不服申立ての教示が付いているか。付いていないとして、確認訴訟や国家賠償という形で争う余地はないか。処分といえる場合には出訴期間がありますので、判断を後に延ばすほど選べる手段が減ります。交付決定通知書、交付規程・公募要領、届いている通知書類、事務局とのやり取りがあれば、具体的な検討ができます。早い段階でご相談ください。
士業の先生方へ
顧問先から「不採択の理由を教えてもらえない」「交付決定を取り消すと言われたが、不服申立てはできないと説明された」というご相談を受けることがあろうかと存じます。処分として争うのか、当事者訴訟として争うのかは、その補助金の根拠法令の仕組みを調べて決めることになります。手続の選択と期間の管理の部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第6節(4)、第7節及び第8節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。