執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金の取消通知と返還命令が届いたとき、まず考えるのは「取消訴訟で争えるか」です。ところが、交付したのが国の省庁ではなく、独立行政法人や、国から事業を受託した事務局である場合、入口のところで思わぬ壁に当たることがあります。「これは行政処分ではないから、取消訴訟の対象にならない」という主張です。
本稿で取り上げる東京地判令和元年10月18日(平成30年(行ウ)第439号・440号・441号、判例秘書L07430400)は、この主張を正面から認め、訴えを却下した判決です。独立行政法人日本学術振興会が交付する科学研究費補助金について、裁判所は、その交付は振興会と申請者との間の贈与契約に基づくものであり、しかも交付を受けた者が補助事業を目的どおりに遂行する負担を負う「負担付贈与契約」であると解しました。そのうえで、交付の取消し及び返還は、この契約によって生じた効果を遡及的に消滅させるものにすぎず、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない、としています。
注意していただきたいのは、この判決が、振興会法17条1項によって補助金適正化法17条1項・18条1項が準用されていることを認めたうえで、なお処分性を否定していることです。「適正化法17条1項に基づく取消しだから処分である」という筋は、この判決では通りませんでした。また、原告が返還を命じられた金額は加算金を含めて5000万円以上でしたが、裁判所は、金額が多額であることも処分性を認める理由にならないとしています。
では、中小企業庁や中小企業基盤整備機構の補助金――事業再構築補助金のような補助金――も同じことになるのか。当職は、同じにはならないと考えております。独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条は、適正化法を条文を選んで準用しているのではなく、「罰則を含む」として丸ごと準用しています。本稿の後半では、この違いがどこに効くのかを条文で確かめます。あわせて、処分性の判断が裁判所によって割れた福岡地裁・福岡高裁の例と、公式Q&Aが「不服があれば10日以内に取下げ」としか案内していない現状についても取り上げます。
そして、仮に負担付贈与契約と位置づけられたとしても、争う道がなくなるわけではありません。この判決自身が、取消し・返還の法的性質を「債務不履行解除及びこれを原因として不当利得返還請求をするもの」と述べています。つまり、民事訴訟で債務不存在確認を求め、あるいは不当利得の成否を争う道が開かれているということです。入口の形が変わるだけで、中身の争いが消えるわけではありません。
1 「これは行政処分ではない」と言われたら、何が問題になるのか
(1)入口の違いが、争い方のすべてを決めます
補助金の取消し・返還が行政処分であれば、争い方は取消訴訟と審査請求です。この場合、処分を知った日から6か月という出訴期間(行政事件訴訟法14条1項)に縛られますが、他方で、取消判決によって処分そのものを消滅させることができます。処分の理由の提示が不十分であれば、それ自体で取消しの理由になり得ます。
これに対して、行政処分ではない――契約の解除にすぎない――ということになると、取消訴訟は不適法として却下されます。争うのであれば、民事訴訟として、返還債務が存在しないことの確認を求めるか、相手方からの返還請求に応訴する形になります。出訴期間の縛りはなくなりますが、処分の手続的瑕疵を理由に取消しを求めるという組み立てはできなくなります。
つまり、処分性の有無は、勝ち負けの前の問題ではなく、どの入口から入るかという問題です。入口を間違えると、中身を審理してもらえないまま訴えが却下されます。補助金の取消しの処分性については補助金の交付決定の取消しに処分性はあるのか及び対談・補助金と処分性でも扱っておりますので、あわせてご覧ください。
(2)国の補助金と、独立行政法人・事務局の補助金
国の各省各庁の長が適正化法に基づいて行う交付決定の取消し・返還命令については、処分として扱うことに争いが少ない状況です。問題は、その外側です。
今の補助金は、国が直接交付するのではなく、国から補助金を受けた法人が基金や原資をつくり、その法人あるいは委託先の「事務局」が個々の事業者に交付する、という二段構えの仕組みが多く用いられています。適正化法は、この二段目を「間接補助金等」(2条4項1号)と呼び、間接補助事業者等の義務(11条2項)は定めていますが、その交付手続については何も定めていません。本稿の判決も、この点を出発点にしています。
2 事案――科研費の交付決定の一部取消しと返還命令
(1)当事者と処分の内容
原告は、国立大学法人の大学院研究科の元教授です。平成17年度から平成19年度までの科学研究費補助金(基盤研究(A)及び基盤研究(S))の交付決定を受け、補助金を受領していました。
その後、所属していた大学が研究費の不正使用に関する調査報告書を作成し、これを受けて、平成30年3月27日、独立行政法人日本学術振興会の理事長が、各補助金について一部取消決定と返還命令をしました。取消額は2000万円以上、加算金を含めた返還額は5000万円以上です。原告は、同年9月21日、これらの取消しを求めて訴えを提起しました。
(2)原告の主張
原告の主張は、要点を押さえた組み立てでした。すなわち、振興会法17条1項が準用しているのは、適正化法17条1項(補助事業等に関する取消し)であって、同条2項(間接補助事業等に関する取消し)ではない。だから、振興会理事長による取消しは行政庁の行為といえる。しかも、交付から10年以上経ってから、突如として多額の取消しと返還を命ずるものであり、直接国民の権利義務を形成する処分である――というものです。
原告は、本案についても、考慮不尽、比例原則違反、弁明の機会が与えられていないこと、理由の提示が不十分であること、不服申立ての教示がないこと、取消権の消滅時効を主張していました。しかし、裁判所は、これらの点についてはいっさい判断していません。訴え自体が不適法だとされたためです。
3 判決――交付は負担付贈与契約であり、その取消し・返還は処分に当たらない
(1)給付行政における処分性の判断枠組み
裁判所はまず、処分の意義について最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決(民集18巻8号1809頁)を引いたうえで、給付行政についての枠組みを次のように示しました。
引用(東京地判令和元年10月18日・第4の1(1))「補助金の交付のような給付行政に関する行為については,本来的には非権力的な性質のものであるものの,法律が,一定の者に当該給付の受給に関する申請権を与え,行政庁が,申請権を有する者の申請に対し,当該申請者の受給権の存否を判断して応答するという手続を採用していると解される場合には,当該応答に係る行政庁の決定行為は,行政庁がその行為により直接に当該申請者の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものとして,抗告訴訟の対象となる処分に当たるものと解される。」
ここで鍵になるのは「法律が」という言葉です。申請権と応答の仕組みが法律に置かれているかどうかを見る、という枠組みです。
(2)交付手続が「要領」にしか書かれていないこと
そして、科研費については、交付手続の定めが法律にないと認定されました。
引用(東京地判令和元年10月18日・第4の1(2))「このように,科研費(基盤研究等)の交付手続について,法令上の規定はなく,専ら被告が作成した取扱要領により定められていることからすると,法律上,一定の者に当該給付の受給に関する申請権を与え,行政庁が,申請権を有する者の申請に対し,当該申請者の受給権の存否を判断して応答するという手続を採用していると解することは困難といえる。したがって,科研費(基盤研究等)の交付について,行政庁がその行為により直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないことから,抗告訴訟の対象となる処分には当たらず,科研費(基盤研究等)に係る具体的な給付請求権は,交付の申請(申込み)と交付決定(承諾)によって成立する贈与契約を原因として発生するものと解される。」
申請と交付決定を、申込みと承諾として読み替えたわけです。被告(振興会)側は、訴訟の中で、平成11年度に文部省から業務の一部が移管された際、あえて法律上の根拠に基づく仕組みを採らず、「研究者からの応募に対し、振興会がその研究内容を適当と認めた場合に補助金を交付する、という契約締結自由を前提とする制度」を採用したと説明しています。制度設計の段階で、処分ではない形が選ばれていた、という主張です。
(3)立入検査と不服の申出が準用されていないこと
次に、取消し・返還についての判断です。裁判所は、準用されている条文と、されていない条文を数え上げました。
引用(東京地判令和元年10月18日・第4の2(2))「もっとも,科研費(基盤研究等)の交付の取消し及び返還については,振興会法17条1項が準用する適正化法24条の2(行政手続法の適用除外)によって,行政手続法第3章の不利益処分(行政手続法2条4号参照)に関する規定は適用されない(なお,理由の提示については,振興会法17条1項が準用する適正化法21条の2によって必要とされている。)。また,振興会法17条1項は適正化法23条(立入検査等),同法25条(不服の申出)を準用していないことから,科研費(基盤研究等)の場合は,補助金等の場合とは異なり,法律上,被告が科研費(基盤研究等)に係る予算の執行の適正を期するために必要な立入検査等を実施したり,科研費(基盤研究等)の交付の取消し及び返還を命じられた者がこれらに対する不服の申出をしたりする手続は設けられていない。」
そのうえで、使用の制限(適正化法11条2項、取扱要領13条)から、契約の性質を導きます。
引用(東京地判令和元年10月18日・第4の2(2))「科研費(基盤研究等)に係る贈与契約は,交付を受けた者が,補助事業等を目的どおりに遂行する負担を負うことを伴う負担付贈与契約であると解される。そして,科研費(基盤研究等)の交付の取消し及び返還は,このような契約によって生じた効果を遡及的に消滅させるものといえる。」
(4)結論――債務不履行解除と不当利得返還請求である
引用(東京地判令和元年10月18日・第4の2(3))「以上によると,科研費(基盤研究等)の交付の取消し及び返還は,行政庁がその行為により直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできず,むしろ,科研費(基盤研究等)の交付が負担付贈与契約に基づくものであることを前提に,同契約に係る債務不履行解除及びこれを原因として不当利得返還請求をするものと解するのが相当である。」
そして、原告の主張に対する応答です。
引用(東京地判令和元年10月18日・第4の2(4))「補助金等の交付決定の取消しと科研費(基盤研究等)の交付の取消しには,前提となる交付の性質や取消しに関する手続に違いがあることを踏まえると,適正化法17条1項が準用されていることをもって処分性を認める理由にはならないというべきであるし,上記(1)ないし(3)で説示したところによれば,返還を命じる金額が多額であったとしても処分性が認められるとはいえず,その主張には理由がない。」
適正化法17条1項が準用されていても、それだけでは処分性の根拠にならない。金額の大きさも理由にならない。――この二つを明示した点が、実務上もっとも重い部分です。訴えは全部却下されました(裁判長裁判官鎌野真敬、裁判官網田圭亮、裁判官野村昌也)。
なお、同じ裁判所は、東京地判令和2年7月14日(判例秘書L07531292)でも同旨の判断をしているとされています。当職は、この判決の全文をまだ確認できておりません。また、本件の上訴審については、判例秘書に収録が確認できず、控訴がされたかどうかも確かめられていません。下級審の判決を使うときは上訴審の帰趨まで確かめるのが原則ですので、この点は率直に申し上げておきます。
4 負担付贈与契約とされると、何が変わり、何が残るのか
(1)失うもの
第一に、取消訴訟と審査請求という入口を失います。訴えは却下され、本案の主張には入ってもらえません。
第二に、処分の手続的瑕疵を理由とする取消しという組み立てを失います。この事件の原告は、弁明の機会がないこと、理由の提示が不十分であること(適正化法21条の2)、不服申立ての教示がないこと(行政不服審査法82条1項)を主張していました。これらはいずれも判断されていません。もっとも、補助金の交付に関する処分については行政手続法2章・3章の適用がそもそも除外されています(適正化法24条の2)。この点は補助金の取消しに事前の通知や弁明の機会はあるのかでも扱っています。
第三に、執行停止の仕組みを使えなくなります。
(2)残るもの
他方で、残るものがあります。むしろ、こちらのほうが実務的には大きいと考えております。
第一に、返還債務が存在しないことの確認を求める民事訴訟ができます。この判決自身が、取消し・返還の性質を「債務不履行解除及びこれを原因として不当利得返還請求をするもの」としています。解除が有効かどうか、不当利得が成立するかどうかは、民事の争点として正面から審理されるべきものです。
第二に、出訴期間の縛りがなくなります。取消訴訟であれば、処分を知った日から6か月を過ぎれば原則として争えません(補助金の取消しの出訴期間は何か月か)。契約の解除であれば、この期間制限はありません。通知から時間が経ってしまった事案では、むしろこちらの筋のほうが使える場面があります。
第三に、契約であるからこそ使える主張があります。負担の内容がそもそも契約の内容になっていたのか、解除事由に当たる債務不履行があったのか、軽微な不履行で全部解除ができるのか、解除の範囲は全部でなければならないのか。交付規程や公募要領に書かれていることがそのまま契約上の義務になるのかという問題は、処分の枠組みで論じるときと同じく、契約の枠組みでも問題になります(交付規程違反は補助条件違反に当たるのか)。
第四に、加算金の問題です。年10・95パーセントという加算金(適正化法19条1項)は、適正化法が返還命令に付随して定めたものです。処分ではなく契約の解除だというのであれば、この利率がどの根拠によって当然に発生するのかは、あらためて問われてよい論点です(補助金の加算金・延滞金はどうなるのか)。
ですから、「処分性がない」と言われたときに、争えないと受け止めてしまうのは早いと考えております。入口が変わるだけです。
5 中小機構の補助金は違う――機構法16条は適正化法を丸ごと準用している
(1)準用の形が決定的に違います
ここが、本稿でもっともお伝えしたい点です。
東京地裁の判断は、振興会法17条1項が適正化法のうち一部の条文だけを準用し、立入検査(23条)と不服の申出(25条)を準用していないことを、重要な手掛かりとしました。では、中小企業基盤整備機構はどうか。独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条は、次のように定めています。
引用(独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条1項)「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和三十年法律第百七十九号)の規定(罰則を含む。)は、前条第一項第六号及び第二項第三号の規定により機構が交付する助成金について準用する。」
「の規定(罰則を含む。)は」です。条文を選んでいません。立入検査(23条)も、不服の申出(25条)も、国税滞納処分の例による徴収(21条1項)も、そして罰則(29条から32条まで)も、すべて準用の対象です。15条1項6号の「助成」は、創業を行う者又は経営の革新を行う中小企業者等に対する助成であり、事業再構築補助金はこの枠に位置づけられています。
(2)この違いが効くところ
当職の整理は次のとおりです。
第一に、立入検査の権限(適正化法23条1項)が準用されています。機構の職員が事務所に立ち入り、帳簿書類を検査し、関係者に質問する権限を法律上与えられているということです。これは対等な契約当事者がもつ権限ではありません。検査を受けた段階で何をしておくべきかは取消しの通知が届く前にしておくべきことにまとめています。
第二に、徴収の仕組みです。適正化法21条1項は、返還を命じた補助金等及び加算金・延滞金を「国税滞納処分の例により、徴収することができる」と定めています。これが準用されるということは、返還命令に基づいて、訴訟を経ずに差押えまで進める権限が法律上与えられているということです。贈与契約の解除に基づく不当利得返還請求権であれば、相手方は訴えを起こして勝訴判決を得なければ強制執行はできません。強制徴収の権限が法律上与えられている仕組みを、「対等な当事者の契約」として説明することはできないと考えております。納付命令についての整理は補助金の納付命令とは何かにまとめています。
第三に、罰則です。適正化法29条以下は、偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けた者等に対する刑罰を定めています。これが「罰則を含む」として準用されているということは、機構の交付する助成金が、刑罰によって担保された公的な資金の流れとして法律上位置づけられているということです。
したがって、東京地裁の説示を、そのまま中小機構の補助金に持ち込むことはできません。準用の範囲が違い、与えられた権限が違うからです。もし事務局や機構から「本件は行政処分ではないので取消訴訟の対象にならない」と言われることがあれば、機構法16条の文言を示して、どの条文が準用されていないのかを特定して述べていただきたいと考えております。
6 処分性は裁判所によって割れている――福岡地裁と福岡高裁
この論点は、裁判官の間でも判断が分かれています。
福岡地判平成25年2月4日(判例秘書L06850741)は、国の補助金により造成された基金を活用する一般社団法人から業務を受託した事業者が行った補助金の不交付決定について、処分性を認めました。適正化法は国と補助事業者等の関係のみを規律するものではなく、補助事業者等と間接補助事業者等との法律関係も公法上の法律関係である。これは、補助事業者等が純然たる私人であっても変わらない――という判断です。
ところが、その控訴審である福岡高判平成25年9月26日(判例秘書)は、これを覆して訴えを却下しました。
引用(福岡高判平成25年9月26日・第3の1(3))「被控訴人の補助金交付決定により具体的な給付請求権が発生するという仕組みは,申込み(補助金申請)と承諾(補助金支給決定)により成立する公法上あるいは私法上の贈与契約を原因として発生するものであり,原判決の指摘する交付決定の取消しの規定(本件交付規定11条)は贈与契約の解除であると解され,これをもって,行政庁の優越的地位に基づく行為であり,処分性があるということはできない。」
申込みと承諾、そして解除という読み方は、本稿の東京地裁判決とほぼ同じです。この二つの事件については裁判例紹介:福岡地判・福岡高判(間接補助金の処分性)で詳しく扱っています。
ここで申し上げたいのは、行政事件の第一審は合議体で審理されるということです。三人の裁判官が検討して処分性ありと判断し、高裁の三人が処分性なしと判断した。それは「地裁が間違えた」という話ではなく、判断が分かれる難しい論点であることの証です。先に結論が決まっている論点のように扱われるべきではありません。取消しの要件の側についても、判断の分かれた例を裁判例紹介:名古屋地判・名古屋高判(交付決定の取消し)で取り上げております。
7 公式Q&Aの「不服があれば10日以内に取下げ」という案内について
(1)公式Q&Aに書かれていること
中小企業基盤整備機構が実施する中小企業省力化投資補助金の公式の「よくあるご質問」(2026年9月17日更新、11頁「辞退・取り下げ」1、https://shoryokuka.smrj.go.jp/assets/pdf/faq.pdf )には、次のように書かれています。
引用(中小企業省力化投資補助金 よくあるご質問 11頁)「交付決定後に申請を取り下げることは可能ですか。」
「一度交付決定となった申請は、原則、取り下げることはできません。ただし、交付の決定の内容又はこれに付された条件に対して不服があり、補助金の交付の申請を取り下げようとするときは、当該通知を受けた日から10日以内に中小機構に書面をもって申し出ることができます。」
事業再構築補助金の「補助事業の手引き」(第1回から第5回までの補助金交付候補者・補助事業者向け、2・5版、17頁、交付規程10条の説明)にも、同じ趣旨の記載があります。
(2)これが案内として足りているか
交付決定の内容や条件に不服がある事業者に対して、公式に示されている道が、10日以内の取下げだけだとすれば、それは案内として足りていないと言わざるを得ません。
理由を二つ申し上げます。
第一に、取下げは不服の申立てではありません。交付申請そのものを引っ込めるということですから、補助金を受けることを諦めるという選択です。条件の一部に不服があるだけの事業者に対して、「全部やめるか、黙って受け入れるか」の二択を示しているのが現在の案内です。両者の間には、条件の内容を争うという道があるはずであり、それがどこにも書かれていません。
第二に、交付決定の取消しと返還命令の段階について、不服の申立てに関する案内がありません。機構の交付する助成金については、機構法16条により適正化法が罰則を含めて丸ごと準用されており、21条1項により国税滞納処分の例による徴収まで可能とされています。これだけの権限が法律上与えられている仕組みであるならば、その行使を受けた側がどこに不服を述べればよいのかは、交付の手引きやQ&Aの中で正面から案内されるべきものです。10日以内の取下げの説明だけが置かれ、不服申立ての方法に触れられていないという状態は、制度の設計として均衡を欠いていると言わざるを得ません。
(3)事業者の側でできること
制度の案内がこうした状態である以上、事業者の側で期間を管理するほかありません。取消通知・返還命令が届いたら、まず通知書に教示の記載があるかどうかを確かめ、処分として争う筋と、民事で債務の不存在を争う筋の双方を想定して、期間を計算しておくことになります。処分として争う筋を残すのであれば、6か月の出訴期間(行政事件訴訟法14条1項)が動き始めていると考えて動く必要があります。
交付決定の取消し・返還請求の全体像は補助金の交付決定の取消し・返還請求に、交付が契約の形で行われている補助金の返還請求については契約型の補助金の返還請求にまとめています。
8 まとめ
東京地判令和元年10月18日は、独立行政法人日本学術振興会が交付する科学研究費補助金について、その交付は振興会と申請者との間の負担付贈与契約に基づくものであり、交付の取消し及び返還は、この契約によって生じた効果を遡及的に消滅させるもの、すなわち債務不履行解除とこれを原因とする不当利得返還請求であるとして、抗告訴訟の対象となる処分に当たらないと判断し、訴えを却下しました。適正化法17条1項が準用されていることも、返還額が5000万円以上であることも、処分性を認める理由にならないとされています。
この判断を支えたのは、交付手続が法律ではなく振興会の取扱要領にしか定められていないこと、そして振興会法17条1項が適正化法の条文を選んで準用し、立入検査(23条)と不服の申出(25条)を準用していないことでした。
同じ論理を、中小企業基盤整備機構が交付する補助金に持ち込むことはできないと考えております。機構法16条は、適正化法の規定を「罰則を含む」として丸ごと準用しており、立入検査の権限も、国税滞納処分の例による徴収(21条1項)も、罰則も、法律上の仕組みとして備わっています。準用の形が違えば、結論も違い得ます。
そして、処分性の有無は、裁判所の間でも分かれています。福岡地判平成25年2月4日は処分性を認め、福岡高判平成25年9月26日はこれを否定しました。判断が分かれる難問であることを前提に、どちらの入口も想定して準備するのが、実務としては正しい身構えだと考えております。
仮に負担付贈与契約と位置づけられたとしても、争えなくなるわけではありません。解除が有効か、不当利得が成立するか、加算金の根拠は何か。民事の争点として正面から争うことができます。
ご相談をお考えの事業者の方へ
取消通知や返還命令が届いたとき、通知書に不服申立ての方法が書かれていないことがあります。書かれていないことは、争えないことを意味しません。他方で、処分として争う筋を残すのであれば、出訴期間が動いています。交付決定通知書、交付規程・公募要領、届いている通知書類、事務局や機構とのやり取りがあれば、どの入口から入るべきかを具体的に検討できます。期間の問題がありますので、早い段階でご相談ください。
士業の先生方へ
顧問先に取消通知が届いたとき、「これは行政処分ではないので審査請求はできない」という説明を受けることがあろうかと存じます。その説明が当たっているかどうかは、その補助金の根拠法に適正化法の準用規定があるか、どの条文が準用されているかを確かめないと決められません。この入口の見極めの部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第4節、第5節及び第7節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。