執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 二つの「目的外」
目的外使用とは、次の二つの場面で使われる言葉です。
- 補助金の他用途使用――補助金そのものを、交付決定の内容において具体的に明らかにされた本来の使途以外の用途に使用することをいいます(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』206頁)。交付決定の取消事由の一つです(補助金適正化法17条1項)。
- 財産の目的外使用――補助金で取得した財産を、承認を受けないで、補助金の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供することです(同法22条)。処分制限期間内に限られます。
設備について「目的外使用」と指摘される場面の多くは、後者の問題です。事務局も、財産処分の手続が必要となる行為として「目的外使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等」を挙げています(公式「よくあるご質問」財産処分Q4)。
2 何が「交付の目的に反して」いるのか
最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁の調査官解説は、補助金適正化法22条の承認の対象について、次のように整理しています。
引用(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)「……その対象は、補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなることであると解され、『補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し』とは、補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなる具体例として挙げられているもののように思われる。……補助事業者等において補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は、承認を要するものと解される。」
つまり、問われているのは、財産が補助目的に沿って管理・使用されている状態が保たれているかどうかです。
3 場面ごとの整理(私見)
- 既存事業での使用(併用)――補助事業にも使っている限り、財産は補助目的に沿って管理・使用されており、原則として目的外使用には当たらないと考えております。ただし、補助事業には全く使わず、専ら既存事業だけに使っている場合は、22条違反とされる余地があります。
- 廃棄――条文の5つの行為に「廃棄」は含まれず、目的どおり使用した施設の解体について規制対象に含まれないと判断した裁判例(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁)があります。他方、前記の調査官解説の整理からは、反対の解釈の余地も否定し切れません。
- 譲渡――補助事業ごと引き継ぎ、譲受人が補助目的に沿って使い続ける事業譲渡は、交付の目的に反する譲渡には当たらないと考えております。
- 使用許諾(ライセンス)――補助金で開発したシステム等を、自社で使い続けながら他社に使用を許諾することは、自社で事業を続けている以上、問題ないと考えております。自社では使わずに他社に貸すだけ、という場合は別の評価になり得ます。
なお、事務局は、既存事業への使用について、公式の「よくあるご質問」で次のように説明しており、当職の考えとは立場が異なります。
引用(事業再構築補助金 よくあるご質問「財産処分について」Q24)「補助事業により取得した資産は、原則として専ら補助事業に使用される必要があります。既存事業等、補助事業以外で用いた場合、目的外使用と判断し、残存簿価相当額等を国庫に納付いただく必要がございますのでご注意ください。」
出典:事業再構築補助金「よくあるご質問」財産処分Q24
この説明は、交付規程や交付決定通知書の定めそのものではありません。併用が禁じられているという定めが交付決定通知書や交付規程にない場合、公式の説明や公募要領の記載がそのまま補助条件になるとは考え難いところです。詳しくは、コラム「事業再構築補助金により取得した財産を既存事業と併用することについて」をご覧ください。
目的外使用だと言われやすい場面
「目的外使用に当たる」と言われやすいものとしては、次のような場面があります。もっとも、場面の名前で直ちに当たる・当たらないが決まるものではありません。どの財産について、処分制限期間のどの時点で、何をしたのかによって評価が分かれますので、それぞれの整理は各ページでご確認ください。
- 補助事業以外の受注にも使った(既存事業との併用)――前記のとおり、補助事業にも使っている限り、原則として目的外使用には当たらないと考えております。補助事業には全く使わず、専ら既存事業だけに使っている場合は、22条違反とされる余地があります。事務局の説明との関係は、既存事業との併用(対応ページ)及び併用の全文解説(コラム)で述べています。
- 遊休にした(使っていない)――会計検査院の令和6年度決算検査報告は、処分制限財産の使用状況について、計画新規事業に使用されていないものとして遊休、既存事業等にのみ使用、廃棄・譲渡等を挙げ、これとは別に既存事業等にも使用を挙げています。報告書自身が、既存事業等にのみ使用及び既存事業等にも使用に当たるものについて、使用範囲の考え方に基づく集計であって、交付規程等に定められた目的外使用に当たるとの判断に基づき集計したものではないと注記しています。残りの区分についても同じことがいえると考えております。遊休は使用されていないという区分であり、廃棄・譲渡等は使用とは別の処分の態様による区分ですので、いずれも、補助の目的に反する使用があったとの認定を示すものではないと考えております(補助金の返還を求められるのは、どのような場合か(コラム))。稼働が止まっている設備の扱いは、保管と管理義務(Q&A)で述べています。
- 他社に使わせた(使用許諾)――22条が承認の対象として挙げているのは、交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供であり、貸付けも条文に挙げられています。自社では使わずに他社に貸すだけ、という場合は別の評価になり得ます。前記のとおり、自社で使い続けながら他社に使用を許諾することは、自社で事業を続けている以上、問題ないと考えております。22条の規制対象の整理は、併用の全文解説(コラム)の該当の節で述べています。
- 別の店舗・拠点に移した――取り外して移転先へ持ち出せる財産について、移転先で引き続き同じ補助事業に使用するのであれば、交付の目的に沿った使用が続きますので、22条の承認を要する処分には当たらないと考えております。持ち出せない内装・造作については、撤去して廃棄するのか、そのまま残して引き渡すのかという問題に戻ります。もっとも、特定の地域又は場所で実施することが交付の目的に含まれている補助金では、別に考える必要があります。移転それ自体の手続はお手元の交付規程で確かめることになりますが、届出も協議もしないまま移転や機械装置の持ち出しに進んでよいというものではありません(借りている土地・店舗の設備(Q&A))。
- 取り外して保管した――取り外して手元に置いていることは、交付規程が「処分」として挙げる行為(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等)のいずれにも当たらないと考えております。もっとも、取得財産等管理台帳で現物を管理し、交付の目的に沿って再び運用する計画を立てて交付主体に書面又はメールで報告し、送ったものと送った日が分かる形で残しておくことが要になると考えております(保管と管理義務(Q&A))。ここで引用した文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)24条1項のもので、条数と文言は補助金ごと・公募回ごとに異なります。
- 事業を縮小した・いったんやめた――事業をやめても設備が手元に残っているのであれば、財産の「処分」はまだ起きていないと考えております。もっとも、やめる時期に応じて、あらかじめ承認を受けること(補助事業の実施期間中)又は届出をすること(補助事業の完了後の事業計画期間中)とされています(途中でやめたいとき(Q&A))。
- 取り外して廃棄した・事業ごと引き継いだ――前記のとおりです。詳しくは、廃棄処分(対応ページ)及び事業譲渡(対応ページ)をご覧ください。
次のような場合は、手続が進む前にご相談ください
- 事務局から「目的外使用」と指摘され、返還や残存簿価相当額の納付を求められている
- 補助事業で取得した設備を、既存事業や別の用途にも使いたい
「既存事業にも使っているのは目的外使用だ」と言われている方は、こちらをご覧ください: 既存事業との併用(対応ページ)/併用の全文解説(コラム)
4 「目的外使用だから返納を」と言われたら
「本来は全額返還だが、財産処分の承認申請をすれば残存簿価相当額の返納で済む」という打診は、目的外使用があったことを前提にしています。その前提が成り立たなければ、承認申請も返納も必要ないことになります。応じる前に、指摘の根拠(どの行為が、なぜ交付の目的に反するのか)をご確認ください。
「目的外使用」と指摘され、返還や残存簿価相当額の返納を求められている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、回答や申請書を出される前にご相談ください。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法17条1項、22条
- 最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁、荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁
- 東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』206頁(株式会社全国会計職員協会、2016)
- 事業再構築補助金 よくあるご質問「財産処分について」Q4・Q24(事務局の運用)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
関連ページ
- 既存事業との併用(対応ページ) →
- 既存事業との併用の全文解説(コラム) →
- 廃棄処分(対応ページ) →
- 事業譲渡(対応ページ) →
- 自主返納の求め(対応ページ) →
- 補助事業を続けていることを、どう示すか(コラム) →
- 補助金Q&A 一覧へ →
※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。