執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 「返事が来ない」を二つに分ける
書面を出したのに、1か月以上返事が来ない、という場面があります。この状態は、条文の上では二つに分かれます。どちらなのかで、使える根拠が変わりますので、先に分けておくことになります。
一つは、こちらが申請又は届出を出していて、それに対する応答がない場合です。交付申請、財産処分の承認申請、事業計画の変更の承認申請、実績報告を出した後の額の確定などです。もう一つは、申請ではなく、こちらから出した照会又は申入れに回答がない場合です。「この指摘は交付規程のどの条項に基づくものか」「どの書類のどの記載を問題にしているのか」を書面で尋ねたような場合が、こちらに当たります。
前者には、処理の遅れそのものを問題にする条文があります。補助金適正化法24条です。
引用(補助金適正化法24条)「補助金等の交付に関する事務その他補助金等に係る予算の執行に関する事務に従事する国又は都道府県の職員は、当該事務を不当に遅延させ、又は補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して干渉してはならない。」
中小機構が交付する助成金については、中小機構法16条がこの法律を準用し、24条中の「国」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と読み替えています。したがって、同条は「独立行政法人中小企業基盤整備機構又は都道府県の職員」について適用されることになります。
ここで一つ、気をつけておきたい点があります。同条が名宛人としているのは、機構(読替え後)又は都道府県の職員です。補助金の事務が民間の団体に委託され、事務局の職員が窓口になっている場合、その職員は機構の職員ではありませんので、同条を事務局の職員に対して正面から向けることはできないと考えております。回答を求める書面は、事務局宛てだけで終わらせず、機構本体にも出しておくのがよいと考えております。
これに対して、後者、すなわちこちらから出した照会に回答がない場合には、回答を義務づけた条文が見当たりません。「何日以内に答えなければならない」という定めも、「今どこまで進んでいるかを教えなければならない」という定めもありません。ここが出発点になります。
2 「いつ答えるのか」を示させる条文は、この場面では使えません
行政手続法には、まさにこの場面のための定めが置かれています。標準処理期間と、審査の進行状況の提示です。
引用(行政手続法6条。標準処理期間)「行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。」
引用(行政手続法9条1項。情報の提供)「行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。」
9条1項が挙げているのは、審査の進行状況と、処分の時期の見通しです。返事が来ないときに知りたいことが、そのまま書かれています。
ところが、補助金等の交付に関する処分については、この二つの定めが及びません。
引用(補助金適正化法24条の2。行政手続法の適用除外)「補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」
行政手続法の第2章は「申請に対する処分」で、5条から11条までです。標準処理期間の6条も、情報の提供の9条も、この章の中に置かれています。したがって、どちらも適用除外の範囲に入ります。期間を定めて公にしておく努力義務も、進行状況と時期の見通しを示す努力義務も、補助金等の交付に関する処分については及ばないことになります。
この適用除外は、中小機構法16条による準用を通じて、中小機構が交付する助成金についても同じように働きます。「標準処理期間を公表していないのはおかしい」「進行状況を説明する義務があるはずだ」という形の申入れは、根拠を欠くことになりますので、避けておくのがよいと考えております。根拠のない指摘を一つ混ぜると、同じ書面の中にある根拠のある指摘まで軽く扱われます。
残るのは、前記1の24条と、交付規程・公募要領に置かれた個別の定め、そして督促です。24条が規律する事務の範囲は、交付申請書の受理・審査に始まり、交付決定、支払事務から額の確定、精算払等に至るおよそ補助金等の交付手続に関するすべての事務を意味すると説明されています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』319頁(株式会社全国会計職員協会、2016))。同条の「不当に」の意義と、実績報告の受理後の目安については、支払期限・交付遅延のページで述べています。
3 督促の仕方――何を、いつまでに、どの形で
回答を義務づける条文がないということは、督促の書面の作り方で差が出るということです。当職が実務でとっている形を、そのまま書いておきます。
- 何について聞いているのかを特定する。前便の日付、書面の題名、受付番号、対象となる書類の名称と提出日を書き、どの条項についての照会なのかを明示します。「先日の件」では、担当者が替わった時点で止まります。
- 回答期限を明示する。日付で書きます。「至急」「速やかに」では、過ぎたかどうかが後から確かめられません。
- 到達の証跡を残す。郵送であれば配達証明を付け、メールであれば送信した日時が残る形にします。到達の日が分からない書面は、督促の回数に数えられません。
- 前便の内容を繰り返さない。前便の日付と、それに対する回答がないという事実、そして新たに切る期限だけを書きます。同じ主張を書き直すと、新しい照会として扱われ、日数が振り出しに戻ることがあります。
- 宛先を機構本体にも出す。前記1のとおり、事務局の職員は補助金適正化法24条の名宛人ではないと考えております。事務局宛ての照会と同じものを、交付主体にも出しておきます。
督促の時期については、行政機関からの回答には相応の日数を要しますので、出してすぐに督促を重ねても手続は進みません。当職としては、1か月を目途に一度督促を入れ、その際に回答期限を日付で明示する扱いをしております。そこからさらに1か月近くかかることも珍しくありませんので、回答が来るまでの見込みは、全体で2か月近くを前提にお考えいただくのがよいと考えております。
回答期限を書くことには、二つの意味があります。一つは、その日までに動くことを求めることです。もう一つは、その日を過ぎたという事実を記録に残すことです。後になって交付の遅延そのものを問題にするとき、期限を切った督促と、それに対して応答がなかった経過は、「不当に遅延させた」という主張の土台になると考えております。期限を切らない督促は、何度出しても、この土台になりません。
求めている回答の形を、こちらで示しておく
照会に対して、「検討中です」「担当部署に確認しております」という返事だけが来ることがあります。これを避けるには、回答の形をこちらで示しておくことになります。「1から4の各項目について、該当するものに印を付ける形でご回答ください」「根拠となる条項を条数で示してください」というように、書き込めば済む形にしておきます。
交付主体の側の説明が、条文の定めより重い義務を述べている場合もあります。公式の説明をどう扱うかは、Q&A「公募要領に書いていない事務局の指示に従う義務はあるのか」で述べています。
次のような場合は、次の書面をお出しになる前にご相談ください
- 照会書を出したが、1か月以上回答がなく、こちらの期限が近づいている
- 照会の宛先が事務局なのか交付主体なのか分からないまま、やり取りが止まっている
- 回答として「検討中」としか書かれていない書面が届いている
関連ページ: 補助金の支払が遅れているとき(支払期限・交付遅延)/行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのか(コラム)
4 照会に期限はありませんが、開示請求には期限があります
照会への回答に期限の定めがない一方で、法人文書の開示請求には、法律が期限を定めています。交付主体が独立行政法人である補助金については、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律による開示請求の対象になり得ます。この道があること自体は、Q&A「理由開示も異議申立ても受け付けない、は本当か」で述べています。ここでは、期限の点だけを付け加えます。
引用(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律10条)「1 前条各項の決定(以下「開示決定等」という。)は、開示請求があった日から三十日以内にしなければならない。ただし、第四条第二項の規定により補正を求めた場合にあっては、当該補正に要した日数は、当該期間に算入しない。 2 前項の規定にかかわらず、独立行政法人等は、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、同項に規定する期間を三十日以内に限り延長することができる。この場合において、独立行政法人等は、開示請求者に対し、遅滞なく、延長後の期間及び延長の理由を書面により通知しなければならない。」
照会は、いつまでに答えるという定めがありません。開示請求は、原則として30日以内に開示決定等をしなければならないとされ、延長する場合にも、延長後の期間と延長の理由を書面で通知しなければならないとされています。回答が止まっているときに、聞きたいことを「文書の特定」という形に組み替えて出し直すことで、期限の定めがある手続に乗せ替える余地があると考えております。
もっとも、開示されるのは文書であって、こちらの質問に対する答えそのものではありません。不開示とされ得る事由もありますので、何がどこまで出るかは、請求してみなければ分かりません。交付主体が民間の団体である補助金は、同法の対象ではありません。どの補助金について、誰に対して請求できるのかは、交付規程と交付主体を確かめたうえでご判断ください。
5 相手方から弁護士名で書面が来たとき――連絡先が代わります
照会に対して、担当者ではなく、弁護士から回答が来ることがあります。この場合、以後の連絡先は、その弁護士になります。弁護士職務基本規程52条は、事件の相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたことを知った場合について、その相手方本人への直接の連絡を制限していますので、こちらに代理人が付いているときは、以後、担当者ではなく、相手方の代理人である弁護士に対して書面を出すことになります。
窓口が替わることで、それまでのやり取りが止まったように見えることがあります。もっとも、手続自体が止まったわけではありません。前便の日付、回答を求めている事項、切った期限を、改めて代理人宛てに1枚で整理して出し直すことになります。こちらの照会の経過を、代理人が引き継いでいるとは限りません。
なお、相手方に弁護士が付いたこと自体から、何かを読み取ることはできません。推測を立てるのではなく、連絡先を切り替えて、求めている回答を出し直すことになります。
6 回答を待っている間も、期間は進みます
このページで一つだけ申し上げておきたいのは、この点です。回答を待っていたことは、こちらの期限を過ぎてよい理由にならないのが原則です。照会の回答待ちの管理と、期限の管理は、別に立てておいてください。
- 処分を取消訴訟で争う期限。行政事件訴訟法14条1項は、取消訴訟は処分があったことを知った日から6か月を経過したときは提起することができないと定めています。同項にはただし書があり、正当な理由があるときはこの限りでないとされていますが、ただし書に頼る前提で待つことは避けていただきたいと考えております。期間の数え方とただし書の意味は、Q&A「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」で述べています。
- 審査請求の期間。宛先と期間は、Q&A「取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で述べています。
- 返還を命じられている場合の納期日。納期日を過ぎると加算金・延滞金の問題になります。Q&A「加算金・延滞金」をご覧ください。
- 返還請求の時効。Q&A「返還請求に時効はあるのか」で述べています。
回答が来ないまま、こちらの期限が近づくことがあります。そのときは、回答を待つことと、期限の側の手続をとることとを、並べて進めることになります。照会の回答が得られていないことは、争い方の中で主張すればよいことで、期限を過ぎる理由にはなりません。
7 お手元で動くときの順番
- 出した書面の控えを並べ、題名・出した日・到達した日・宛先を1枚にまとめる。到達の日が分からないものは、そこに印を付けておきます。
- それぞれが「申請・届出」なのか「照会・申入れ」なのかを分ける(前記1)。前者であれば、処理の遅れそのものを問題にする根拠があります。
- 1か月を目途に、回答期限を日付で明示した督促を出す。宛先は、事務局だけでなく交付主体にも出しておきます(前記3)。
- 聞きたいことのうち、文書の特定という形にできるものを選び、開示請求に組み替えられないかを検討する(前記4)。
- こちらの期限を一覧にして、回答待ちとは別に管理する(前記6)。期限が近づいたら、回答を待たずに手続をとることになります。
- 相手方から弁護士名で書面が来たら、以後の宛先をその弁護士に切り替え、これまでの経過を1枚で整理して出し直す(前記5)。
返事が来ないという状態は、放っておくと、何もしていない期間として残ります。期限を切った督促を記録として積んでおくことが、後から交付の遅延を問題にするときにも、処分を争うときにも効いてきます。
照会や申入れを出したまま回答が得られていない事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、次の書面をお出しになる前にご相談ください。お出しになった書面の控えと出した日、到達の記録、交付主体から届いた書面、交付決定通知書と交付規程があれば、具体的な検討ができます。回答を待っている間も取消訴訟の出訴期間は進みますので(行政事件訴訟法14条1項)、期限が近づいている場合はお早めにご連絡ください。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法24条(不当干渉等の防止。「補助金等の交付に関する事務その他補助金等に係る予算の執行に関する事務に従事する国又は都道府県の職員は、当該事務を不当に遅延させ、又は補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して干渉してはならない。」。名宛人は国(中小機構の助成金については中小機構法16条により「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と読み替えられます)又は都道府県の職員です)
- 補助金適正化法24条の2(行政手続法の適用除外。「補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」)
- 行政手続法6条(標準処理期間。「行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。」)、同法9条1項(情報の提供。「行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。」)。いずれも同法第二章「申請に対する処分」(5条―11条)に置かれた規定であり、補助金適正化法24条の2による適用除外の範囲に入ります
- 中小企業基盤整備機構法16条(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律の準用。同法の規定を罰則を含めて準用し、24条中の「国」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と読み替えるもの)
- 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律10条1項(「前条各項の決定(以下「開示決定等」という。)は、開示請求があった日から三十日以内にしなければならない。ただし、第四条第二項の規定により補正を求めた場合にあっては、当該補正に要した日数は、当該期間に算入しない。」)、同条2項(事務処理上の困難その他正当な理由があるときは30日以内に限り延長することができ、その場合は延長後の期間及び延長の理由を書面により通知しなければならないとするもの)、同法4条1項(開示請求は、開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名、法人文書の名称その他の開示請求に係る法人文書を特定するに足りる事項を記載した書面を提出してしなければならないとするもの)
- 行政事件訴訟法14条1項(出訴期間。取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したときは提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』319頁(株式会社全国会計職員協会、2016)。補助金適正化法24条が規律する事務の範囲について、交付申請書の受理・審査に始まり、交付決定、概算払等の支払事務から額の確定、精算払等に至るおよそ補助金等の交付手続に関するすべての事務を意味するとするもの。「不当に」の意義(同書320頁)と、額の確定についての協議会の取決め(同書234頁)は、/subsidy/delay で引いています
- 弁護士職務基本規程52条(事件の相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたことを知った場合における、その相手方本人への直接の連絡についての規律)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。