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弁護士 岸上大起

「交付の要件を満たしていなかった」と後から言われたら、補助金の交付決定はいつでも取り消せるのか――裁判例紹介:最二小判令和3年6月4日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金の取消しには、二つの種類があります。一つは、交付決定が有効に成立した後に、補助事業者の側で義務違反や事情の変更が生じたことを理由とするものです。補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」といいます。)17条1項の取消しは、これに当たります。もう一つは、交付決定そのものが最初から誤っていた――つまり、そもそも交付の要件を満たしていなかったことを理由とするものです。講学上、前者を撤回、後者を職権取消しと呼び分けます。

この二つは、根拠も、限界も、加算金が付くかどうかも違います。ところが実務で届く文書は、この区別をほとんど意識していません。「申請の時点で要件を満たしていなかったことが判明した」「採択の前提を欠いていた」という指摘から、だから交付決定を取り消す、だから交付済みの全額を返還せよ、だから加算金も納付せよ、という形で一直線につながっています。

本稿で取り上げる最二小判令和3年6月4日(民集75巻7号2963頁、判タ1490号77頁、判時2506・2507合併号14頁)は、この後者――授益的な処分を、原始的な瑕疵を理由として職権で取り消す場合の限界について、昭和43年の判例以降で初めて正面から判断したものです。被災者生活再建支援金の支給決定を、支給要件の認定の誤りを理由として取り消した事案で、最高裁は、取消しを適法としました。結論だけを見れば、行政の側が勝った判決です。

それでも、この判決は事業者の側が読むべきものです。最高裁は「要件を満たしていなかったのだから取り消せる」とは言っていません。取消しによって生ずる不利益と、取消しをしないこと(処分の効果を維持すること)によって生ずる不利益とを比較考量し、「その取消しを正当化するに足りる公益上の必要がある」と認められるときにできる、という枠組みに乗せ、そのうえで、瑕疵がどちらの責めに帰すべき事由によって生じたのか、取消しまでの期間が不当に長期に及んでいないか、といった事情を一つずつ検討しています。しかも、この判決の調査官解説は、注の中で、補助金適正化法に基づく交付決定の職権取消しについても同じ考え方が及ぶことを明言しています。

本稿では、まず公式資料がこの問題をどう扱っているかを確かめ、次に最高裁の判示と調査官解説の考慮要素を原文で押さえ、最後に、補助金適正化法17条1項の取消しとの区別、加算金との関係、そして事業者が主張できることを整理します。どこまでが判決の言葉で、どこからが文献と当職の見解なのかは、分けて示します。

1 公式資料は「原則として取り消します」と書いている

(1)公式の手引きの書き方

はじめに、公の側の文書が、この問題をどう書いているかを確かめます。事業再構築補助金の【補助事業の手引き】(中小企業等事業再構築促進補助金、2.5版、第1回〜第5回補助金交付候補者・補助事業者向け、令和8年3月。https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/documents/hojyo_tebiki01.pdf)15頁は、交付申請の説明の末尾に、次の一文を置いています。

引用(事業再構築補助金【補助事業の手引き】2.5版15頁(注2))

「補助金交付候補者の採択公表後又は交付決定後に、公募要領等の要件に対する違反が判明した場合は、原則として補助金交付候補者の採択及び補助金交付決定を取り消します。」

「原則として……取り消します」。これが、要件該当性の判断が後から覆ったときの扱いとして、公式に示されている説明です。

同じ手引きの36頁は、「6 不正、不当な行為に対する処分」として、次のように書いています。

引用(同手引き36頁)

「実地検査等において、不正、不当な行為が確認された補助事業者は、補助金交付決定の取消や加算金を賦した上、補助金を返還していただくことになります。」

そして、その直後に「(参考)【適正化法第17条(抜粋)】」として四つの事由を並べ、その四つ目に「定められた必要な事項の報告をせず又は虚偽の報告をしたもの」を挙げています。

(2)この書き方は、二つの点で正確でないと言わざるを得ません

第一に、補助金適正化法17条1項の「抜粋」として掲げられた四つ目の事由は、同項に存在しません。17条1項が取消事由としているのは、①補助金等の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基づく各省各庁の長の処分への違反、の三つだけです(後記5(1)に条文を掲げます)。報告をしないこと・虚偽の報告をすることが、結果として②や③に当たる場合はあり得ますが、それは当てはめの問題であって、条文に書かれた取消事由ではありません。公の側が自ら根拠として掲げる条文の「抜粋」に、その条文にない事由が混ざっているのは、事業者の反論の出発点を曇らせるものであり、改めていただくべきものと考えます。

第二に、「要件に対する違反が判明した場合は、原則として……取り消します」という書き方は、本稿で紹介する最高裁判決の枠組みと合っていません。最高裁は、授益的な処分を原始的な瑕疵を理由として職権で取り消す場合について、「原則として取り消す」という形では判断していません。取消しによる不利益と、取消しをしないことによる不利益とを比較考量し、取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められるときにできる、としているのです。そして、その比較の中では、瑕疵が誰の責めに帰すべき事由によって生じたのか、取消しまでにどれだけの時間が経ったのかが、正面から検討されています。

「判明したら原則として取り消す」という運用は、この比較考量をあらかじめ省略してよいという意味には読めません。公式資料の一文を根拠に、個別の事情の検討を省いた取消通知が出されているのであれば、それは判例の示す枠組みに照らして不十分であると言わざるを得ません。

(3)交付規程は、実は区別をしている

もっとも、公の側の文書が、この区別をまったく意識していないわけではありません。事業再構築補助金の交付規程(新市場進出。https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/documents/koufu_kitei.pdf)22条1項は、取消事由を12号に分けて並べていますが、そのうち5号と6号は、次のように「判明した場合」という書き方をしています。

引用(事業再構築補助金交付規程22条1項5号・6号)

「(5)補助事業者が、申請内容の虚偽、本補助金を活用して取り組む事業に対する国(独立行政法人等を含む)が助成するほかの制度(補助金、委託金等)との重複受給等が判明した場合 (6)補助事業者が、大規模賃金引上枠の応募申請時点で、応募申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明していないことが判明した場合」

いずれも、交付決定の後に生じた義務違反ではなく、申請の時点で要件を満たしていなかったことが後から判明した場合です。そして、同条3項は、加算金を命ずる場合から、この5号・6号(及び4号と中止・廃止の承認の場合)を除いています。

引用(同規程22条3項)

「中小機構は、前項の返還を命ずる場合には、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請を承認した場合、並びに第1項第4号、第5号及び第6号に規定する場合を除き、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとする。」

つまり、交付規程それ自体が、申請時の要件該当性を後から覆す型の取消しを、義務違反による取消しとは区別し、加算金を付さないものとして扱っているのです。この区別は、後記5(2)で述べる補助金適正化法19条1項の構造と、きれいに一致します。公式の手引きが「原則として取り消します」と一括りに書いているのは、自分の交付規程が置いている区別よりも粗いと言わざるを得ません。

2 事案――罹災証明書の認定の誤りによる支給決定の取消し

事案は、補助金のものではありません。もっとも、金銭を給付する授益的な処分が、要件該当性の認定の誤りを理由として後から取り消された、という骨格は同じです。細部は短く押さえます。

被災者生活再建支援法に基づく被災者生活再建支援金は、所定の自然災害により住宅が所定の程度以上の被害を受けた「被災世帯」であることだけを支給要件とし、額も法定の定額で定まる給付です。都道府県は、支給に関する事務の全部を被災者生活再建支援法人に委託することができ、財源は都道府県の拠出金と国の補助金です。

東日本大震災当時、仙台市内の一棟の区分所有建物の住民らは、区から、当初は「一部損壊」の罹災証明書を受けましたが、再調査の結果、平成23年8月、「大規模半壊」である旨の罹災証明書を受けました。住民らはこれを添付して支援金の支給を申請し、支援法人は、同年9月から12月までの間に、支給決定をして支援金(37万5000円から150万円)を支給しました。

ところが、その後、一級建築士の調査により、再調査で認めた剥離による構造耐力上の影響はほとんどないことが明らかとなり、区は、平成23年12月に職権で再度調査して「一部損壊」と認定し、翌年2月、住民らに対して改めて「一部損壊」の罹災証明書を交付しました。そして支援法人は、平成25年4月26日付けで、支給要件の認定に誤りがあることを理由として、支給決定を取り消しました。

第一審は取消しを適法としましたが、控訴審は、支給決定の効果を維持することの不利益がその取消しによる不利益を上回ることが明らかであるとはいえず、支給決定を放置することが著しく不当であるとはいえないとして、取消決定は違法であると判断しました。最高裁は、この控訴審の判断を是認することができないとして、これを破棄しました。

本件は、取消決定の取消しを求める本訴と、支援金相当額の不当利得返還を求める反訴とが併合された事件です。つまり、処分の適法性そのものが審判対象になっています。この点が、理由中の判断にとどまる裁判例とは違うところです。

3 最高裁の判示――比較考量と「取消しを正当化するに足りる公益上の必要」

(1)まず、根拠法令の仕組みと趣旨に立ち返る

最高裁は、当てはめに入る前に、支援法がどのような立法政策を採ったものかを押さえます。

引用(最二小判令和3年6月4日・理由4(1))

「上記のような支援法の目的,内容等に照らすと,支援法は,その目的を達成するための手段として,自然災害による被害のうち住宅に生じたものに特に着目し,その被害が大きく,所定の程度以上に達している世帯のみを対象として,その被害を慰謝する見舞金の趣旨で支援金を支給するという立法政策を採用したものと解される。そして,支援法は,その目的を達成するため,支給要件である被災世帯に該当するか否かについての認定を迅速に行うことを求めつつ,公平性を担保するため,その認定を的確に行うことも求めているものと解される。」

ここが出発点です。職権取消しの可否は、抽象的な原則から出てくるのではなく、その給付がどのような仕組みで、何のために設けられているのかから検討されています。補助金の事案でも、公募要領・交付規程・根拠となる予算措置の趣旨に立ち返るところから始めることになります。

(2)瑕疵の原因――どちらの責めに帰すべき事由か

次が、本稿でもっとも使い道のある部分です。最高裁は、瑕疵の内容と程度を認定したうえで、その瑕疵が生じた原因について、わざわざ一段を割いています。

引用(同・理由4(2)ア)

「この誤りについては,罹災証明書の交付が市町村の自治事務(地方自治法2条8項)に属すると解されることや本件の事実経過,当時の多数の被災状況等に照らせば,上告人と本件世帯主らのいずれか一方の責めに帰すべき事由によって生じたものであるということはできない。罹災証明書を用いて支援金の支給に関する事務を迅速かつ効率的に処理する利益という点に着目しても,この利益を上告人のみが享受しているとはいえないし,この点や本件証明書の認定に関する誤りの責任の所在等から,本件証明書の内容が変更されるリスクを上告人が負担すべきということはできない。」

この事案で瑕疵の原因とされたのは、市町村が交付した罹災証明書の認定の誤りでした。最高裁は、それが支援法人と受給者のいずれか一方の責めに帰すべき事由によって生じたものとはいえない、と認定しています。裏から読めば、瑕疵の原因が一方の責めに帰すべきものであるなら、比較考量の結果は変わり得る、ということになります。

(3)取消しによって生ずる不利益

引用(同・理由4(3))

「しかしながら,前記のとおり,本件世帯主らは,支援法上,本件各支援金に係る利益を享受することのできる法的地位をおよそ有しないのである。また,本件世帯主らは,既に利益を得たことに対応して金員の返還を求められているにとどまり,新たな金員の拠出等を求められているわけではない。これらを踏まえると,上記のような結果となることは誠にやむを得ないものといわざるを得ない。」

ここで重みを持っているのは、「法的地位をおよそ有しない」という点と、「既に利益を得たことに対応して金員の返還を求められているにとどまり」という点です。支援金は定額の見舞金であり、受給者は、要件を欠くのであれば初めから何も受けられない立場にありました。この二つの事情が、取消しによる不利益を小さく評価する方向に働いています。

補助金の事案が、この当てはめとそのまま重なるとは限りません。補助金は、事業者が自ら資金を投じ、設備を導入し、人を雇い、事業を組み替えたうえで、その経費の一部の交付を受けるものです。「既に得た利益の返還にとどまる」とはかならずしも言えない場面があります。この違いは、事業者の側が具体的に示すべきところです。

(4)取消しまでの期間

引用(同・理由4(4))

「以上に加え,本件各支給決定を取り消すまでの期間が不当に長期に及んでいるともいい難いことをも併せ考慮すると,前記瑕疵を有する本件各支給決定については,その効果を維持することによって生ずる不利益がこれを取り消すことによって生ずる不利益と比較して重大であり,その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められる。」

結論を導く一文に、「取り消すまでの期間」が明示的に組み込まれています。この事案では、支給決定から取消しまでが約1年4か月から約1年7か月でした。

4 調査官解説の四つの考慮要素――そして注8が架ける橋

(1)判断枠組み

本判決の調査官解説(最判解民事篇令和3年度465頁)は、まず枠組みを整理します。

引用(最判解民事篇令和3年度478頁)

「最高裁判例(昭和31年最判,昭和43年最判等)によれば,授益処分の職権取消しは,一般的には,当該処分の取消しによって生ずる不利益と当該処分の効果を維持することによる不利益(公共の利益に関するものを含む。)とを比較考量し,その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められるときにすることができると解される。」

ここでいう昭和31年最判は最二小判昭和31年3月2日・民集10巻3号147頁、昭和43年最判は最一小判昭和43年11月7日・民集22巻12号2421頁です(同解説475頁から476頁まで)。解説は、昭和43年最判の「公共の福祉の要請に照らし著しく不当である」という言い方について、職権取消しが許される範囲を殊更に限定したものではないとしています(同479頁から480頁まで)。そして、本判決の意義を、「事例判断ではあるが,昭和43年最判以降で初めて取消権の制限の法理の適用について正面から判断したもの」と位置づけています(同494頁)。

(2)四つの考慮要素

解説は、比較考量に当たっての考慮要素を四つに整理しています。

引用(同481頁)

「① 行政処分の瑕疵(違法又は不当)の原因(瑕疵の発生につき名宛人の責めに帰すべき事由があるか否か等),内容及び程度 ② 行政処分の効果を維持することにより害される公共の利益の性質,内容及び程度 ③ 行政処分の取消しにより名宛人その他の者が被る不利益の性質,内容及び程度(緩和措置や代替措置の有無,内容及び程度を含む。) ④ 行政処分の取消しの時期」

そして、瑕疵の原因について次のように補足します。

引用(同481頁)

「上記①について補足すると,前記1(1)のとおり,行政処分の職権取消しの目的は,当該行政処分が法令又は行政目的に違反している状態を是正することにあることからして,その状態(瑕疵)が重大なものであればあるほど,取消しを正当化するに足りる公益上の必要が高まることになると考えられる。」

さらに、本判決の読み方として、次のように述べています。

引用(同494頁)

「そして,本判決は,その判示に照らすと,前記1(2)イでみたように,授益処分の職権取消しが許されるか否かを判断するための利益衡量においては,法令又は行政目的に違反している状態を是正するという職権取消しの目的を踏まえ,行政処分の瑕疵の原因,内容及び程度を検討することが重要であることを示唆しているように思われる。」

本件で瑕疵の原因について結論が分かれた部分は、解説がもっとも丁寧に論じているところです。

引用(同489頁から490頁まで)

「上記誤りについては,前記第1の2(3)イ(ア)のとおり罹災証明書の交付が市町村の自治事務に属すること,上記のような事実経過,本件各支給決定がされた当時は東日本大震災による多数の被災者が支援金の支給を申請していたという状況等に照らせば,Y と本件世帯主らのいずれか一方の責めに帰すべき事由によって生じたものということはできないであろう。」

また、取消しの時期については、過去の判例との対比が示されています。

引用(同493頁)

「これまでの最高裁判例においては,行政処分から約3年4か月後にされた職権取消しを違法としたものがある(ただし,瑕疵がある部分のみの取消しであれば適法とされた余地がある。最三小判昭和33年9月9日・民集12巻13号1949頁)一方で,行政処分から約2年10か月後及び約4年6か月後にされた職権取消しを適法としたものがある(昭和31年最判,昭和43年最判)。」

括弧の中の「瑕疵がある部分のみの取消しであれば適法とされた余地がある」という一言は、後記6(4)で触れる一部取消しの問題につながります。

(3)注8――補助金適正化法の交付決定にも及ぶ

そして、補助金の事案を扱う者にとっては、この解説の注8が決定的です。解説は、国が支援法人に対して交付する補助金について、次のように述べています。

引用(同496頁注8)

「この補助金は,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律2条1項1号に掲げる補助金(国が国以外の者に対して交付するもの)に当たるから,同法の適用を受けるものと解される。そうすると,国は,支援法人に対し,行政処分である交付決定(同法6条1項)をした上で補助金を支出することとなるが,この交付決定に原始的瑕疵があった場合には,一般の行政処分と同様に,職権取消しをすることができると解される(青木孝德『補助金等適正化法講義』105頁,小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補版)〕』182~184,257~258頁)。」

補助金適正化法に基づく交付決定も、原始的な瑕疵があれば一般の行政処分と同様に職権取消しができる。逆に言えば、一般の行政処分と同様に、取消権の制限を受ける。本判決の枠組みが補助金の交付決定に及ぶことは、調査官解説が自ら示しているのです。

5 補助金適正化法の条文構造――17条1項の取消しとは別のものである

(1)17条1項は、後発的な事由についての規定です

条文を確かめます。

引用(補助金適正化法17条1項)

「各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。」

同条3項は、「前二項の規定は、補助事業等について交付すべき補助金等の額の確定があつた後においても適用があるものとする。」と定めています。

小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)は、この17条1項が後発的な事由についての規定であることを、明示しています。

引用(小滝・前掲185頁注8。引用中の「瑕疵」の字は、手元のテキストで判別の難しい箇所を補っています。)

「第一七条は、相手方の法令違反等の義務違反を取消事由とするものであるが、あくまで後発的事情を理由として、瑕疵なく成立した交付決定を撤回(取消し)しうるものとする規定であり、原始的瑕疵を理由として取り消しうるとする規定ではないからである。」

そして、原始的な瑕疵のある交付決定の取消しについて、補助金適正化法は明示の規定を置いていない、とされています(同183頁)。つまり、「要件を満たしていなかった」ことを理由とする取消しは、17条1項を根拠とするものではなく、法律に明文の根拠を持たない職権取消しなのです。だからこそ、判例の示す取消権の制限がそのまま効いてきます。

さらに、小滝・前掲184頁は、交付行政庁の審査の不備が絡む場合について、踏み込んだ見解を示しています。

引用(小滝・前掲184頁)

「交付申請者に重大な過失がない以上、相手方の信頼を保護すべきであるから、事業遂行後、額の確定等の段階で交付行政庁の錯誤を理由として、交付決定を遡及して取り消すことは許されないものと解すべきであろう。」

交付申請の内容に誤りがあり、しかも交付行政庁も十分な審査をせずに交付決定をした、という場面についての記述です。同書は、交付行政庁の審査の不備は6条違反となり、場合によっては予算執行職員等の責任に関する法律上の責任を問われることがある、とも述べています(同184頁)。

(2)加算金は、17条1項の取消しに限られます

引用(補助金適正化法19条1項)

「補助事業者等は、第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたときは、政令で定めるところにより、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、当該補助金等の額(その一部を納付した場合におけるその後の期間については、既納額を控除した額)につき年十・九五パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならない。」

「第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し」とされています。小滝・前掲268頁は、この文言から、17条2項(間接補助事業者等の義務違反)による取消し、10条(事情変更)による取消し、及び瑕疵ある交付決定の取消しによる場合には、加算金納付の義務を負わないことになると説明しています。その理由は、同260頁に述べられており、義務違反による取消しが負担付贈与契約の債務不履行解除に相当するものと解されるのに対し、瑕疵ある交付決定の取消しは不当利得返還義務を生じさせるにとどまるため、当然に利息に相当する加算金が付されることにはならない、というものです。

ここは実益の大きいところです。「要件を満たしていなかった」ことを理由とする取消しであれば、年10.95パーセントの加算金は、そもそも法律上の根拠を欠きます。前記1(3)で見たとおり、交付規程22条3項が5号・6号の場合を加算金から除いているのは、この構造に沿ったものです。

なお、小滝・前掲266頁は、取消権の期間について、取消権を行使し得る時から五年で消滅時効となると解すべきであるとする杉村章三郎『財政法(新版)』326頁の指摘を引いています。取消権の期間制限そのものは、補助金の交付決定の取消権に期間の制限はあるのかで扱っています。

(3)17条1項の取消しとの区別が持つ意味

以上を整理すると、次のようになります。

義務違反による取消し(17条1項)であれば、取消事由は三つの類型に限られ、取消権の行使には補助目的達成の可否を全過程を通じて総合的に判定することが求められ、返還命令には加算金が付きます。この枠組みは、補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのかで扱っています。

原始的な瑕疵による職権取消しであれば、根拠は明文にはなく、本判決の示す比較考量の枠組みに乗ります。瑕疵の原因が誰の責めに帰すべきものか、取消しまでの期間、取消しによる不利益の内容が、正面から問われます。そして、加算金は付きません。

届いた文書が、どちらの型の取消しなのか。これを最初に確かめることが、反論の出発点になります。「交付規程に違反した」という言い方で原始的な瑕疵の話をされていることもありますので、根拠条項の番号だけでなく、指摘されている事実が交付決定の前のものか後のものかで切り分けるのが確実です。交付規程違反がそのまま補助条件違反に当たるかという問題は、交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。

6 では、事業者は何を主張できるのか

ここからは、前記の判決・解説・文献を踏まえた当職の整理です。

(1)瑕疵の原因は、どちらの責めに帰すべきものか

本判決と解説がもっとも重視した要素です。要件該当性の判断が覆った原因が、事業者の側の虚偽や重大な過失にあるのか、それとも審査の側の判断の変更にあるのか。ここを具体的な事実で示すことになります。

申請書に記載した事実関係そのものは正確であったか。要件の当てはめについて、公募要領・交付規程・公式のQ&A・事務局の回答に従ったのか。交付申請の段階で、事務局から修正の指示を受け、そのとおりに直して交付決定を得たのか。採択後・交付決定後に、公の側の解釈や運用が変わっていないか。

本判決が、罹災証明書の誤りについて「いずれか一方の責めに帰すべき事由によって生じたものであるということはできない」とし、その事務処理の利益を支援法人のみが享受しているとはいえないとしたのは、認定を罹災証明書に依拠して行う取扱いが確立していたという状況を踏まえたものです。補助金についても、審査の仕組みが実際にどう動いていたのかが、ここで効いてきます。

(2)取消しをしないことによる公益上の不利益は、具体的に示されているか

本判決は、支給決定の効果を維持した場合の不利益として、極めて多数の世帯の間で公平性が確保されないこと、国民から徴収された税金その他の貴重な財源を害すること、そして被害認定が過度に慎重になり支給の迅速性が害されるおそれがあることを挙げました。いずれも、根拠法令の仕組みから具体的に導かれた不利益です。

したがって、取消通知が「補助金の適正な執行のため」「制度の信頼を確保するため」という一般的な言葉だけで公益上の必要性を語っているのであれば、その具体化を求めることになります。当該補助事業について、取消しをしなければどのような公益がどの程度害されるのか。すでに額の確定を受け、事業が稼働し、付加価値額や賃上げの目標を達成している事業について、交付を維持することが、どの公益をどう害するのか。

(3)取消しまでの期間

本判決は、取消しまでの期間を結論を導く要素として明示し、解説は過去の判例との対比を示しています(同493頁)。交付決定、額の確定、支払、実績報告、事業化状況報告、実地検査――どの時点で公の側が当該事実を把握し得たのか、そこから取消しまでに何年が経過したのかを、時系列で整理しておく価値があります。

処分制限期間の終盤に至って、申請時の要件該当性を覆す取消しがされる場合には、この要素は特に重みを持ちます。処分制限期間そのものの考え方は、処分制限期間は何年かで扱っています。

(4)加算金は付かない。範囲は全部でなくてよい

前記5(2)のとおり、原始的な瑕疵による取消しに基づく返還命令には、補助金適正化法19条1項の加算金は付きません。加算金を付した納付命令が届いている場合には、取消しの性質と根拠条項を確かめることになります。加算金・延滞金の扱いは、補助金の加算金・延滞金はどうなるのかで扱っています。

範囲についても同じです。17条1項は「全部又は一部」と定め、返還命令の対象は「当該取消しに係る部分」に限られます(18条1項)。交付規程22条1項も「全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる」としています。そして、調査官解説493頁が引く最三小判昭和33年9月9日は、「瑕疵がある部分のみの取消しであれば適法とされた余地がある」と評されています。複数の経費区分・複数の設備からなる補助事業で、そのうちの一部についてのみ要件該当性が問題とされているのであれば、全部取消しが当然ということにはなりません。返還額の計算の仕組みは、補助金の返還額はどう計算するのかにまとめています。

(5)手続と記録

補助金の交付決定の取消しには、行政手続法の弁明の機会の付与等の規定は適用されません(補助金適正化法24条の2)。もっとも、適用されないことは、理由を問わなくてよいことを意味しません。取消しの根拠が17条1項なのか原始的な瑕疵による職権取消しなのか、瑕疵の内容と原因をどう認定しているのか、取消しをしないことによる公益上の不利益を何と見ているのかを、文書で明らかにしてもらうことが出発点になります。事前の通知・弁明については、取消しの前に通知や弁明の機会はあるのかで扱っています。

そして、以上の主張はいずれも事実の裏づけを必要とします。交付申請書とその修正の経過、事務局との照会・回答のやり取り、交付決定通知書、額の確定通知書、実績報告書、事業化状況報告の控え、実地検査の際のやり取り。本判決で瑕疵の原因と期間が丁寧に認定されたのは、その経過が記録として残っていたからです。取消しを示唆された段階でこれらを整えておくことについては、取消しの通知が届く前にしておくべきことにまとめています。

7 まとめ

補助金適正化法17条1項は、補助事業者等が義務に違反したときの取消しを定めた規定です。小滝・前掲185頁注8が述べるとおり、同条は後発的な事情を理由として瑕疵なく成立した交付決定を撤回するための規定であり、原始的な瑕疵を理由として取り消しうるとする規定ではありません。「交付の要件を満たしていなかった」ことを理由とする取消しは、法律に明文の根拠を持たない職権取消しであり、判例の示す取消権の制限を受けます。

最二小判令和3年6月4日は、支給要件の認定に誤りがある支援金の支給決定について、取消しを適法としました。もっとも、その理由づけは「要件を欠いていたのだから取り消せる」というものではありません。根拠法令の仕組みと趣旨に立ち返り、瑕疵の内容と程度、瑕疵の原因がいずれか一方の責めに帰すべき事由によるものか、取消しをしないことによって害される公益の内容、取消しによって受給者が被る不利益、そして取消しまでの期間を検討したうえで、「その取消しを正当化するに足りる公益上の必要がある」と認められる、としたものです。調査官解説は、この利益衡量の考慮要素を四つに整理し(同481頁)、そして注8(同496頁)で、補助金適正化法に基づく交付決定の原始的瑕疵についても同じ考え方が及ぶことを明言しています。

これに対し、事業再構築補助金の【補助事業の手引き】2.5版15頁は、「公募要領等の要件に対する違反が判明した場合は、原則として補助金交付候補者の採択及び補助金交付決定を取り消します。」と書いています。同36頁が掲げる「【適正化法第17条(抜粋)】」には、同条に存在しない事由が混ざっています。他方で、同じ補助金の交付規程22条3項は、申請時の要件該当性が後から覆る型(同条1項5号・6号)を加算金の対象から除いており、区別それ自体は置かれています。公式の手引きの書き方は、自らの交付規程が置いている区別よりも粗く、最高裁の枠組みに照らしても足りないと言わざるを得ません。

「要件を満たしていなかったと言われたら、もう争えない」というものではありません。問うべきことは、少なくとも五つです。それは17条1項の取消しなのか、原始的な瑕疵による職権取消しなのか。瑕疵の原因は、どちらの責めに帰すべきものか。取消しをしないことによって害される公益上の不利益は、具体的に示されているか。把握から取消しまでに、どれだけの時間が経っているか。そして、加算金が付く性質の取消しなのか、取消しの範囲は全部でなければならないのか。

ご相談をお考えの事業者の方へ

「交付の要件を満たしていなかった」という理由で取消しを示唆された段階、あるいは取消通知・納付命令が届いた段階で、「指摘された事実のとおりだから仕方がない」と判断してしまう前に、確かめていただきたいことがあります。取消しの根拠は何条なのか、瑕疵の原因がどちらにあると認定されているのか、加算金が付く性質の取消しなのか、範囲が違反の程度に見合っているのか。交付申請書とその修正の経過、交付決定通知書、額の確定通知書、交付規程・公募要領、事務局とのやり取り、届いている通知書類があれば、具体的な検討ができます。取消通知には不服申立ての期間がありますので、早い段階でご相談ください。出訴期間については取消しを争える期間もご覧ください。

士業の先生方へ

顧問先から「申請の時点で要件を満たしていなかったと言われた」「採択の前提を欠いていたとして取消しを予告された」というご相談を受けることがあろうかと存じます。この型の取消しは、補助事業の遂行中の義務違反による取消しとは、根拠も限界も加算金の有無も異なります。補助金適正化法と行政法の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第1節(2)及び第6節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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