執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金で取得した設備を売る、別の事業に回す、廃棄する。こうした場面で事務局や交付行政庁に「財産処分の承認」を申請すると、承認は出るものの、そこに「残存簿価相当額を納付すること」という条件が付いてきます。そして納付の通知が届きます。事業者の側からは、承認を受けること自体が返還を引き受けることとひとつづきに見えます。
しかし、この二つは、法律の仕組みの上では別のものです。補助金適正化法22条は、補助事業者等が補助事業等により取得した財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないと定めているだけです。承認を受けたら補助金を返せ、という条文はありません。納付義務が生じるのは、承認という行政行為に「納付すること」という条件(附款)が付けられたときです。条件を付けることができるかどうか、どの範囲で付けられるかは、法律の解釈の問題になります。
本稿で取り上げる最三小判令和3年3月2日(民集75巻3号317頁、判タ1487号98頁、判時2495号5頁、金法2182号77頁)は、まさにこの納付条件の根拠を正面から扱った判決です。栃木県内のバイオマス利活用事業で、補助金により整備された堆肥化施設が担保不動産競売で売却され、栃木県が国に対し国庫補助金相当額1億9659万0956円を納付した。その納付に法律上の原因があったかが争われました。最高裁は、22条に基づくものとしてされた承認を、7条3項による交付決定条件に基づくものとして適法と認め(いわゆる違法行為の転換)、納付条件も無効ではないとしました。
ところが、同じ納付について、別の訴訟では逆の判断が確定しています。この一族の住民訴訟である宇都宮地判平成28年3月23日(判自413号35頁)と東京高判平成29年1月26日(判自431号24頁)は、本件承認は22条に基づくものとはいえず、納付条件にも効力を認められないから、納付は「法令に基づく支出原因を欠くものとして違法」であったと述べています。この高裁判決は、上告棄却・上告不受理(最三小決平成29年6月27日)で確定しています。同じ事実関係について、違法という判断と適法という判断の双方が、別々の訴訟で確定しているのです。
本稿では、二つの訴訟の事案と判示を紹介したうえで、承認に付される納付条件の根拠、22条の承認の対象、そして事業者が承認申請の前後で主張できることを整理します。あわせて、現在の補助金の事務局が公表している財産処分の説明が、法律の仕組みとどこでずれているのかを指摘します。
1 「承認を受けたら返す」は、どこから出てくるのか
(1)22条は「承認を受けないで……してはならない」と書いてある
はじめに条文を確かめます。
引用(補助金適正化法22条)「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」
この条文が禁じているのは、承認を受けないで補助目的に反する処分をすることです。裏から言えば、補助目的に適合する処分であれば、承認は要りません。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)301頁は、「補助目的に適合する限り、補助事業者等は自由に使用、譲渡等の処分を行うことができる」としています。公営住宅建設費補助金で建てた公営住宅を住民に賃貸することや、工業団地造成の補助を受けて造成した団地を企業に工業団地用途で譲渡することを、承認の要らない典型例として挙げています。
そして、22条のどこにも、承認を受けたら補助金を返せとは書かれていません。
(2)納付義務が出てくる筋道は、ひとつだけ
では、現実に届く「納付してください」という通知は、何を根拠にしているのか。筋道はひとつです。22条の承認は、禁止を解除する効果を持つ独立の行政行為(講学上の許可)であり、その行政行為に条件を付けることができる。だから、承認に「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」という条件を付けることができる。小滝・前掲302頁は、承認が独立の行政行為であることから、この条件を付すことも可能であるとしています。
ここから、実務上きわめて大きな帰結が出ます。納付義務は、法律が直接課した義務ではなく、交付行政庁が承認に付した条件から生じる義務である、ということです。条件が付かなければ納付義務は生じません。条件の内容が法律上許される範囲を超えていれば、その条件は効力を持ちません。承認を受けた事実から、返還義務が自動的に導かれるのではないのです。
なお、処分制限そのものが外れる場合も法令に定めがあります。本法施行令14条は、7条2項の条件に基づき補助金等の全部に相当する金額を国に納付した場合(1号)と、交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して各省各庁の長が定める期間を経過した場合(2号)を挙げています(小滝・前掲305頁)。処分制限期間を過ぎていれば、そもそも22条の承認の問題になりません。この点は補助金の処分制限期間は何年かで扱っています。
2 事案――堆肥化施設が競売で売られ、県が約1億9659万円を国に納付した
事案は、国・県・市・事業実施事業者という四段の補助関係です。
宇都宮市は、平成17年度に、事業系生ごみの再資源化システムを構築し、再資源化の確実な普及・定着を図ることを目的に、ある株式会社を事業実施主体として、高速堆肥化施設の整備、設置等を内容とするバイオマス利活用地区計画を策定しました。農林水産大臣から権限の委任を受けた関東農政局長は、平成18年1月18日までに、栃木県に対し、合計2億6113万8000円の交付決定をしました。この交付決定には、法7条3項により、「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」という条件が付されていました。同日までに、県は市に、市は会社に、同額の交付決定をしています。
会社は補助金を主要な財源として堆肥化施設を整備し、平成18年6月、国・県・市が順次承認したうえで、同施設に根抵当権を設定しました。会社は平成20年10月に操業を停止し、平成21年12月に担保不動産競売の申立てがされ、翌年1月に開始決定がされました。平成23年5月13日までに、会社は市長に、市は県知事に、県は関東農政局長に、それぞれ財産処分に係る承認の申請をしました。県の申請書には、冒頭に申請が法22条に基づくものである旨の記載があり、処分区分として「目的外使用(補助事業を中止する場合)」との記載がありました。関東農政局長は、同月17日、処分価格に係る国庫補助金相当額の納付を条件として、これを承認しました。施設は同年9月29日に競売手続で売却され、県は平成24年2月15日、国に1億9659万0956円を納付しました。
最高裁の事件は、県が国に対し、この承認は法令上の根拠を欠き、納付条件も法的効力が認められないから、国は法律上の原因なく利得したとして、不当利得返還請求権に基づき同額の支払を求めたものです。第1審(宇都宮地判平成31年3月7日・民集75巻3号383頁)と第2審(東京高判令和元年12月5日)は、いずれも県の請求を認容していました。
(1)県が22条の承認申請に至った経緯
ここで、住民訴訟の東京高判が認定した経緯を見ておく価値があります。事業者の側にとって、交付行政庁の説明がどのように形成されるかを示す記録になっています。
引用(東京高判平成29年1月26日・第3の3(2)ア)「関東農政局は,県に対し,同年3月4日頃,本件不動産の所有権が移転される前に法22条の財産処分の承認申請を行えば,国庫補助金のうち残存簿価相当分の国庫納付で足りるが,同手続前に本件不動産の所有権が移転してしまった場合は法令違反があったものとして法17条により交付決定を取り消し,法18条により国庫補助金相当額全額について返還命令を出す手続に切り替えることになる旨を説明し,法22条による財産処分の承認申請を行うよう求めた。」
同判決は、さらに次のように認定しています。
引用(東京高判平成29年1月26日・第3の3(3))「関東農政局は,県に対し,再三にわたり,法17条の交付決定の取消しと法18条による補助金返還命令は返還額が多額になり,他の交付金事業にも影響があるなどと説明して,法22条による財産処分の承認申請をするよう迫った」
「承認申請をすれば残存簿価相当分で足りるが、しなければ全額と加算金になる」という説明の構造は、今の補助金の現場でもそのまま使われています。この説明が法律上正しいかどうかが、のちに二つの訴訟で争われることになったのです。
3 最三小判令和3年3月2日――22条の承認を7条3項の条件に基づくものとして適法とした
(1)承認の対象は「目的外使用」である
最高裁は、まず承認の対象を確定しました。担保権設定の承認の際に、その後に担保権が実行されて目的外使用の状態に至ることまで承認していたとはうかがわれないから、交付決定条件により改めて承認を得ることが必要であったとし、本件承認は処分区分を「目的外使用(補助事業を中止する場合)」とする申請に対してされたものであって、施設の目的外使用を対象としてされたものと解されるとしました。
(2)22条が置かれている理由
次が、本稿でもっとも使い道のある説示です。
引用(最三小判令和3年3月2日・理由4(2))「法22条は,補助事業者等が補助事業等により取得した財産について,各省各庁の長の承認を受けないで,補助金等の交付の目的に反して使用し,譲渡し,交換し,貸し付け,又は担保に供してはならない旨を定め,もって財産の処分を制限しているところ,これは,補助事業等により取得された財産が処分され,補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態となっては,当該目的が達成し得なくなるために設けられたものと解され,当該承認は,これを得ることなく上記の事態に至ることを防止することを目的とするものである。」
承認の目的は、「補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態に至ること」を防ぐことにある、という押さえ方です。ここから、ある行為が承認を要する処分なのかどうかは、その行為によって取得財産が交付の目的に沿って使われなくなるかどうかで判断されることになります。処分の形式名ではありません。
(3)納付条件を付けることができる根拠
そのうえで、最高裁は納付条件について次のように述べています。
引用(最三小判令和3年3月2日・理由4(2))「そして,法22条に基づく承認に際しては,補助事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金額を納付する旨の条件を附すことができると解されるのと同様に,法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認に際しても,仮に当該承認を得ていなければ本件交付決定の全部が取り消され得ることなどからすると,被上告人において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附すことができると解される。」
読み落としてはならないのは、「附すことができる」と書かれていることです。「附さなければならない」でも「納付義務が生ずる」でもありません。そして、付けられる金額の上限として「交付された補助金の範囲内」という枠が示されています。最高裁は、納付条件が許される根拠と上限を示したのであって、承認があれば納付義務が生じるとは述べていません。
(4)宇賀裁判官の補足意見――承認は管理義務の免除である
宇賀克也裁判官の補足意見は、承認の性質を端的に言い表しています。
引用(最三小判令和3年3月2日・宇賀克也裁判官の補足意見第1点)「本件承認は,結局のところ,間接補助事業等により取得した財産を補助金等の交付の目的に従って管理する義務を免除することを意図するものと考えられる。」
承認は、管理義務の免除です。禁止の解除であり、許可です。義務を課す処分ではありません。義務を課しているのは、承認に付された条件の方です。
また補足意見は、違法行為の転換について「法律による行政の原理を空洞化させないために,違法行為の転換が認められる場合は厳格に限定する必要がある」と述べ、①転換前後の行政行為が目的を共通にすること、②転換後の法効果が関係人に不利益に働かないこと、③転換前の瑕疵を知った場合に転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合ではないこと、の三要件を示しています。そして法廷意見は違法行為の転換が認められる場合を拡大するものでは全くない、としています。行政側が根拠条文を誤っていても結論は同じだ、という一般論を引き出せる判決ではない、ということです。
4 住民訴訟の二つの判決――同じ納付を「違法」と判断して確定している
(1)宇都宮地判平成28年3月23日・東京高判平成29年1月26日
同じ納付をめぐって、住民訴訟が並行していました。地方自治法242条の2第1項4号に基づき、当時の県知事個人に対して損害賠償を請求するよう求めた事件です。
宇都宮地判平成28年3月23日(判自413号35頁)は、本件承認は法22条に基づいてされているが同条に基づいてすることはできず、また担保権実行の際に同条に基づく承認は必要ないから、本件承認には法令上の根拠がなく、その附款にも効力を認めることはできないとして、納付が違法であり県知事は責任を負うとして請求を認容しました。
控訴審は、違法の判断を維持しつつ、過失を否定して請求を棄却しました。
引用(東京高判平成29年1月26日・第3の3(3))「本件承認は,間接補助事業者等に係る財産の処分である点,担保権実行に係るものである点のいずれの点においても法22条に基づくものと解することはできない。よって,法律上の根拠に基づいて法律関係を形成・消滅させる行政行為に当たらず,本件承認に附款として付された国庫補助金相当額の返還を条件とする部分についてもその効力を認めることができず,したがって,本件承認に基づく国庫補助金相当額の返還についても,法令に基づく支出原因を欠くものとして違法なものであったといわざるを得ない。」
この判決は、上告棄却・上告不受理(最三小決平成29年6月27日)で確定しています。したがって、「22条に基づく承認とその納付条件に基づく納付は、法令に基づく支出原因を欠く違法なものであった」という判断は、確定判決として存在しています。
(2)この二つをどう読むか
最判と住民訴訟の結論は、同じ事実関係について逆を向いています。もっとも、訴訟物は違います。住民訴訟で判断されたのは県知事個人の賠償責任の成否であり、最判で判断されたのは国の受領に法律上の原因があるかです。最判は、承認を7条3項による交付決定条件に基づくものと読み替える道(違法行為の転換)を認めたのであって、22条に基づく承認として適法だと述べたわけではありません。住民訴訟の控訴審は、違法行為の転換の理論により法的根拠のある行政行為とみることは相当ではないとしていたのですから、争点に対する態度が割れています。
下級審と最高裁で、あるいは裁判所の間で判断が割れた論点は、実務では「決着した論点」ではなく「判断が分かれる難問」です。事業者の側からすれば、22条の承認と納付条件について、裁判所の判断が一本道ではなかったという事実そのものが、交渉と主張の足場になります。
(3)住民訴訟の控訴審が記録に残した一節
同判決には、もう一つ引いておきたい一節があります。
引用(東京高判平成29年1月26日・第3の3(3))「県は,市から,Aが補助金の流用や他目的使用をしていないのに補助金返納義務があるのか,市が返納の肩代わりをする理由はないなど,率直で自然な意見が出されても,県や市の立場として,改めて補助金の返納義務があるのかどうかを検討することなく,関東農政局の指示を当然の前提として法22条に基づく財産処分の承認と補助金の返納を進めるばかりであった」
「補助金の流用や他目的使用をしていないのに返納義務があるのか」という問いを、裁判所は「率直で自然な意見」と呼んでいます。そして、それを検討せずに国の指示を当然の前提として進めたことを、評価されても仕方がないと述べています。承認申請の前に根拠を確かめることは、裁判所の目から見ても自然なことなのです。
5 納付条件の根拠はどこにあるのか
ここまでを、交渉の道具の形に組み直します。
① 納付義務の根拠は、法律ではなく承認の条件(附款)である。 最判は「条件を附すことができる」と述べたにとどまります。したがって、納付の通知を受けたときに確かめるのは、第一に、承認書にどのような条件が付されているか、第二に、その条件がどの条文に基づく承認に付されたものか、です。承認書に条件が記載されていないのに納付を求められている場合、求めの根拠がありません。
② 条件の上限は「交付された補助金の範囲内」である。 最判はこの枠を明示しました。加算金(19条1項)は17条・18条による取消しと返還命令の場合の制度ですから、承認に伴う納付の局面には出てきません。「承認を受けずに処分したので加算金も」という説明があれば、それは17条・18条の筋に切り替わったということであり、取消しの要件を争う局面になります。取消しの要件については補助金の交付決定の取消し・返還請求と補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのかにまとめています。
③ 条件の内容(金額の算定方法)は、法定の計算式ではない。 残存簿価相当額か時価(譲渡額)か、按分の分母をどの期間に取るか、どの時点を基準とするかは、条件の内容として交付行政庁が定めるものです。法律が計算式を定めているわけではありません。算定の考え方は補助金の返還額はどう計算するのかで扱っています。
④ 処分制限期間を過ぎていれば、そもそも承認の問題にならない。 施行令14条2号です。期間の起算点と耐用年数の当てはめは、争点になり得ます。
⑤ 交付行政庁は、承認する方向で運用すべき立場にある。 小滝・前掲302頁は、他省庁や他局の所管する施設等への転用が「容易に承認されない傾向にあった」ことを指摘したうえで、地方分権推進委員会の勧告を踏まえ「今後地方公共団体に対しては積極的に承認する姿勢に改めていくべきであろう」としています。承認は、渋々出すものではなく、補助対象資産を有効に活用するために出すものだという考え方が、立案担当者の解説書に書かれているのです。
6 22条の承認の対象は何か――「補助目的に沿って管理しなくなること」
最判の調査官解説(荒谷謙介・最判解民事篇令和3年度〔上〕69頁)は、86頁で、22条における承認の対象について、「補助目的に沿って管理しなくなること」であると解されるとし、条文に並ぶ「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供し」は、補助目的に沿って管理しなくなる具体例として挙げられているもののように思われる、と述べています。そして、承認が管理等の義務を免れる効果を持つことからすると、補助事業者等の意思が介在するか否かは重要ではなく、補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は承認を要すると解されるとしています(同86頁)。
この整理は、行政側に有利にも、事業者側に有利にも働きます。意思の介在が要らないという部分は、担保権実行や収用のような場面でも承認が必要になるという方向に働きます。一方、承認の対象が「補助目的に沿って管理しなくなること」だという部分は、逆に強い反論の材料になります。すなわち、取得財産が引き続き補助目的に沿って管理されているのであれば、処分の形式名が何であれ、22条の承認を要する処分ではないということです。
具体的には、次のように問うことになります。その処分の後も、取得設備は事業計画に沿った生産・サービスに使われ続けているか。所有名義が動いただけで、稼働の中身は変わっていないのか。賃貸やリースへの切替えであっても、当該設備は補助事業の用に供され続けているのか。「管理しなくなった」といえるのはどの時点か。
7 事務局の公表資料は、法律の仕組みを正しく伝えているか
ここから、現在の運用に話を移します。事業再構築補助金の事務局は、財産処分について次の説明を公表しています(事業再構築補助金「財産処分について」 https://jigyou-saikouchiku.go.jp/jigyouka/zaisanshobun.html 。以下の引用はいずれも同ページ。令和8年10月23日閲覧)。
引用(事業再構築補助金「財産処分について」)「本補助金により取得した財産を処分制限期間内(※)に処分する場合は事前に事務局の承認を得る必要があります。」
「なお、財産処分を行った場合、該当処分財産の残存簿価相当額又は時価(譲渡額)を基に算出した補助金の全部または一部に相当する金額を納付する必要があります。」
後者が問題です。「財産処分を行った場合……納付する必要があります」と、例外のない形で書かれています。しかし、最判が述べたのは「条件を附すことができる」ということであって、納付義務が当然に発生するということではありません。納付義務の根拠は、個々の承認に付された条件です。条件を付けるかどうか、どの範囲で付けるかは、交付行政庁の判断にかかります。にもかかわらず、納付が法律上当然の帰結であるかのように書くことは、その判断の存在そのものを読者から隠すことになります。事業者が「条件を付けないでほしい」「この金額は過大である」と言う余地があることを、公表資料の側から消してしまっているといわざるを得ません。
もう一つ、承認の要否の範囲についての説明にも問題があります。
引用(事業再構築補助金「よくあるご質問」Q24)「補助事業により取得した資産は、原則として専ら補助事業に使用される必要があります。」
「※「専ら補助事業に使用」とは、新たに取り組む事業として事業計画書に記載されている事業にのみ使用することを指しています。」
「過去から行っている既存の事業や、事業計画書に記載されている事業とは異なる事業に取得財産を用いる場合には、」「「専ら補助事業に使用」しているとはみなすことができないため、財産処分の手続きが必要となります。」
22条が禁じているのは、承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して」する処分です。「事業計画書に記載されている事業にのみ使用する」ことまで要求する条文ではありません。小滝・前掲301頁が述べるとおり、補助目的に適合する限り、補助事業者等は自由に使用、譲渡等の処分を行うことができます。最判が示した承認の目的も、「補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態」を防ぐことでした。交付の目的に沿った使用が続いているのに、計画書の記載と事業の呼び名が一致しないという理由で承認を要する処分とするのは、22条の定める範囲を事務局の説明が狭めていることになります。この点は取得した設備を既存事業に使ったら目的外使用になるのかでも扱っています。
納付期限の説明についても、同ページのQ16は「通知日より30日以内に一括して納付いただく必要があります。」としています。一括払いと30日という条件は、法律が定めたものではありません。これも条件の内容であり、分割や期限の猶予を交渉する余地がない話ではありません。
交付規程や事務局の公表資料は、行政内部の取扱いを示すものであって、それ自体が納付義務の根拠になるものではありません。この区別は交付規程違反は補助条件違反になるのかで扱っています。
8 事業者が承認申請の前後で主張できること
(1)申請の前に確かめること
第一に、その処分は本当に22条の承認を要する処分なのか。処分制限期間は経過していないか(施行令14条2号)。取得財産は補助目的に沿って管理され続けるのか。
第二に、承認の根拠条文は何か。国から直接交付を受けた補助事業者等なのか、間接補助事業者等なのか。最判の事案で根拠条文が問題になったのは、まさにこの区別でした。事務局型の補助金では、交付決定条件の文言を確かめる必要があります。
第三に、納付条件を付けないこと、あるいは金額を限ることを求める理由があるか。補助事業の成果(付加価値額、雇用、売上)がどこまで実現しているか。処分がやむを得ない事情によるものか。処分後も事業が継続するか。承認は管理義務の免除であり、条件は交付行政庁の判断で付されるものですから、申請書に添える説明の内容が結論を動かし得ます。
(2)承認と納付の通知を受けた後に確かめること
承認書に付された条件の文言。条件に書かれた算定方法と、実際に通知された金額が合っているか。残存簿価の計算に用いられた耐用年数と起算点。按分の対象とされた財産の範囲が、処分した財産に対応しているか。承認の根拠条文が、交付関係の段数に合っているか。
住民訴訟の事案で県が負ったのは、まさにこれらを検討しないまま国の指示を前提に進めた結果でした。裁判所が「率直で自然な意見」と呼んだ問いを、申請の前に出しておくことが、のちの争いの形を決めます。
(3)記録に残しておくこと
取得財産の管理台帳、設備の稼働記録、事業化状況報告の控え、処分に至った事情を示す資料、交付行政庁・事務局とのやり取り(照会・回答・面談の記録)。承認申請の前後の経緯は、のちに納付条件の効力や金額を争うときの事実の土台になります。この点は取消し前にすべきことでも述べています。
9 まとめ
補助金適正化法22条は、承認を受けないで補助目的に反する処分をすることを禁じた条文です。承認を受けたら補助金を返せ、という条文ではありません。
最三小判令和3年3月2日は、22条に基づくものとしてされた承認を、7条3項による交付決定条件に基づくものとして適法と認めました。その中で、承認の目的は「補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態に至ることを防止する」ことであると述べ、納付条件については「交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附すことができる」と述べています。附すことができる、です。宇賀裁判官の補足意見は、承認を「補助金等の交付の目的に従って管理する義務を免除することを意図するもの」と言い表しました。
同じ納付について、住民訴訟の東京高判平成29年1月26日は、本件承認は22条に基づくものと解することはできず、附款にも効力を認められないから、納付は「法令に基づく支出原因を欠くものとして違法」であったといわざるを得ないとし、上告棄却・不受理で確定しています。裁判所の判断は一本道ではありませんでした。
そして、現在の事務局の公表資料は、「財産処分を行った場合……納付する必要があります」と書き、「専ら補助事業に使用」を「事業計画書に記載されている事業にのみ使用すること」と説明しています。前者は、納付義務が承認の条件から生じるという仕組みを飛ばしています。後者は、22条が定める「交付の目的に反して」という要件を、計画書の記載との一致という別の基準に置き換えています。いずれも、法律の仕組みを事業者に正しく伝えるものではないといわざるを得ません。
承認を求める前の事業者の方へ
事務局から「財産処分の承認申請をしてください」「残存簿価相当額を納付してください」と言われた段階で、応じるほかないと判断してしまう前に、確かめておく価値のあることがあります。その処分は本当に承認を要するのか。処分制限期間は経過していないか。承認の根拠条文は交付関係の段数に合っているか。納付条件を付けないこと、あるいは金額を限ることを求める理由はないか。交付決定通知書、交付規程・公募要領、承認書、取得財産管理台帳、事務局とのやり取りがあれば、具体的な検討ができます。承認を受けた後でも、条件の効力と金額を争う余地は残ります。早い段階でご相談ください。
士業の先生方へ
顧問先から「補助金で入れた設備を売りたい」「事業を譲りたい」「設備を既存事業にも使いたい」というご相談を受けることもあろうかと思います。承認申請で通す場面と、納付条件そのものを争う場面とでは、準備すべき資料が変わります。補助金適正化法の条文解釈が必要な場面では、当職が法律面を分担してお受けすることができます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談をお受けしております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本稿は一般的な法的情報を整理したものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節、第6節後段、第7節及び第8節は、当職の見解を含みます。具体的な対応には、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。